BLOG & NEWS

2016.06.03

【今年度の研究計画】 数学苦手者のための学習支援システムの開発

みなさま、はじめまして。
修士課程1年の花嶋陽(はなしま よう)と申します。よろしくお願いいたします。
今までサッカーばかりをやってきたので、研究活動はまだまだ未知の領域ですが、頑張っていきたいと思います。

さて、今回のブログテーマ 「今年度の研究」 ということなので、現状の所を簡単にご紹介させていただきたいと思います。
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・ 題目
数学苦手者のための学習支援システムの開発

・ 概要
現状の学校教育における数学教育の課題として、一方向・一斉授業という授業形態による「ついていけない生徒」への不十分な支援が挙げられる。さらに、一見「ついていけている」ようであっても、市川ら研究グループの調査によると、数学の基礎用語・概念の欠如や非効率的な計算手続の固着などの問題点が指摘されており、公式を当てはめるだけといった表面的な理解しかできていない生徒が多数存在する可能性を示唆している。
このような現状に対し、より双方向的な、教え合い、学び合いといった協調学習の形態を授業に取り入れることは一つの解決策であろう。一方で、学校での授業時間が限られていることを考えれば、自宅での学習や授業外での個別学習の質の向上について考えることは重要であろうし、人的・地理的制約を受けないITツールによってその支援をすることは価値があるものと思われる。また、学校現場における課題の一つとして教師の多忙が挙げられる。数学において「つまづいている」生徒に対して、時間を割きたくても中々そうできない
という課題に対して、教師と生徒を効率的につなぐようなシステムの考案も視野に入れている。
数学苦手者を対象とするという文脈の中で、動機付け要素・認知的要素・システム的要素の研究知見を組み合わせ、効果的な学習支援システムの開発に臨みたい。
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私は、教科学習が学生達からあまり好かれていないという現状に「悲しみ」を持っている人間です。初等中等教育で行われる教科学習も、実は学問の基礎としてとても神秘的な奥深さを持っており、学び方によってはその面白さに、感動することもきっとできると思います。
そのような想いも込めて、研究活動に励みたいと思います。

【花嶋陽】

2016.05.25

【今年度の研究計画】幼児向け教育・知育アプリケーションのデザインに関する研究

みなさま、はじめまして。
この4月から、修士課程1年生として本研究室でお世話になっております、江﨑 文武(えざき あやたけ)と申します。よろしくお願いいたします。

今回のブログのテーマは「今年度の研究計画」ということで、簡単ではありますが、現段階でのものをご紹介します。


●題目

幼児向け教育・知育アプリケーションのデザインに関する研究

●概要

ベネッセ教育総合研究所(2013)が、0歳6か月~6歳までの乳幼児をもつ母親を対象に行った「乳幼児をもつ親子のメディア活用についての調査」では、「母親がスマートフォンを使用している2歳児の2割超が、「ほとんど毎日」スマートフォンに接している」という結果が出ている。また、保護者は、子どもに学習アプリ・ソフトを使わせることに対して、「知識が豊かになる(81.5%)」「歌や踊りを楽しめる(77.1%)」「作る、描くなどの表現力を育む(68.7%)」などの可能性を感じている」と、新しいメディアに期待を寄せている結果も出ており、これからますます、幼児はタブレットPCやスマートフォンに触れていくことになると予想されている。アプリケーションをデザインする場合、大人向けにはすでに多くのデザインガイドラインが存在してるが、子どもを対象にする場合、その発達段階によって、形状、色彩、空間の認識能力が大きく異なるため、大人向けのデザインとは全く違った方法でデザインを進める必要があるが、子ども向けのアプリケーションデザインは、まだまだ未知の部分が多いのが現状である。そこで、幼児向け教育・知育アプリケーションのデザイン(ユーザーエクスペリエンス、ユーザーインターフェース、グラフィック、サウンド...)について、子どもの発達段階に合わせたアプリケーションのデザインはどうあるべきなのかということを、ピアジェの認知発達理論などをベースに検討し、発達段階別にそのデザインの方法論を明らかにすることで、幼児向け教育・知育アプリケーションの様々な可能性を拓きたいと考える。



私は、学部では作曲を専攻し、映画音楽やアニメーション音楽を制作していたほか、音楽以外の分野では、各種グラフィックデザイン(ポスター、名刺、パッケージなどの紙モノ)やアプリケーションのインターフェースデザインを手がけていました。また、世界中の大学生と共に高校生向けにサマーキャンプを開くプロジェクトに設立当初から関わっており、その中で各教材のデザインや、サマーキャンプのテーマ音楽の作曲などを行うにつれて、次第に、教育とそれにまつわる各種クリエイティブの関係性に興味が湧いてきました。

これまでは、ただひたすらモノを作り続けて何かを好きなように表現するという土壌で生活してきましたので、先行研究をレビューし、リサーチクエスチョンを探し...という研究生活に慣れるまではまだまだ時間がかかりそうですが、日々努力してまいります。これから、どうぞよろしくお願いいたします。

【江﨑 文武】

2016.05.22

【今年度の研究計画】プログラミングの概念理解を促すTinkeringを支援するシステムの開発

みなさま、こんにちは.
修士2年の原田悠我です.

今回のブログのテーマは1年ぶりに【今年度の研究計画】です.
朝に書いたものを夕方には変更している状況ですが,
今考えている計画を紹介したいと思います.
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■ テーマ
プログラミングにおける概念の理解を促すTinkering(ティンカリング)を支援するシステムの開発
■ 背景
 コンピューターやインターネットといった情報技術の発展は,社会を変化させ仕事や私生活に大きな影響を与えている.このような変化に対応するため,21世紀型スキルと呼ばれる新しい能力の重要性が指摘されている(Griffin et al., 2012) .その中には問題解決といった,すべての人がある程度は訓練なしに持っている「ソフト」スキルが含まれている.「ソフト」スキルと訓練なしには知り得ない「ハード」スキル(例 連立方程式を解く)の両方をいかに育成し評価していくかが今後の課題となっている.
 こうした問題解決のスキルとしてComputational Thinking(計算論的思考 以下CT)が注目されている.CTは2006年にWingよってすべての人にとって必要な技術として主張されたものである(Wing 2006).CTの範囲や本質について議論がなされ(NRC 2010,NRC 2011),CTは抽象化とパターンの一般化などの要素から構成されていると広く認められている(Grover and Pea 2013).
 このようなCTを育成するためにプログラミングの重要性が指摘されている.確かに,CTではプログラミングができる以上のことを目指している(Wing 2006).しかしWolzやResnickが主張しているように表現する形式としてプログラミングを学ぶことはCTにとって重要である(NRC 2010).つまり,プログラミング教育はコンピューターサイエンスの専門家育成のためだけでなく,CTを育成するためにすべての人への教育として注目されていると言える.
■ プログラミング教育
 しかし,プログラミングを教えることは容易ではない.なぜならば,プログラミングには高度な認知能力が求められるからである.1980年代初頭より研究が進められ,熟達者と初学者の違いについて様々なことが明らかになってきた(Sonnetag 2006).また教育方法も検討され,プログラムを生成するためには,新しい機能を教えるだけでなく,それらの機能の使い方や組み合わせ方,特に一般的なプログラムのデザインの問題の根本にあるものを教えなくてはならないことが明らかになっている(Soloway and Spohrer 1989, Robins et al.. 2003) しかし,プログラミング教育研究の多くがシンタックスや言語の特徴に注力しがちであるという問題がある(Pears et al. 2007).
■ End-User向けプログラミング環境
 このように高度な認知能力が求められるプログラミングを教えるために言語やプログラミング環境が検討されてきた.そのなかでEnd-User向けのプログラミング環境が注目されている.End-User向けプログラミング環境とは熟達したプログラマーでなくても特定の目的のために開発ができる環境である(Ko et al. 2011).例えばResnickらは13歳の女の子がScratchを利用しながらアニメーションを作っている様子を報告している(Resnick et al. 2009).またAliceを利用した研究ではアニメーションやゲームを作りながらJavaについて学ぶことで,成績・自己効力感・継続率が高まるという報告がある(Daly 2013).すなわち,学習者はゲームやアニメーションの作成を通じて探求することでプログラミングを楽しみながら学んでいるのである.
■ Tinkering
 このような学習者自身の探究活動はTinkering(いじくり回す)と呼ばれている.Tinkeringは試行錯誤・just-in-timeのプランニングなどを含んだ遊び心に満ちた活動であり,構造化プログラミングと対比される.構造化プログラミングとはルール駆動でトップダウンの計画に頼るもので明確に計画を立ててからプログラムを書き始めるやり方なのに対し,Tinkeringはボトムアップに素材とのnegotiationや再編集を好むやり方である(Papert 1980, Turkle and Papert 1992 ,Turkle 1995).BearlandらはTinkeringは初学者および熟達者の両者においてプログラミングおよびプログラムを学ぶ真正なプロセスであり実践と主張している (Bearland et al. 2013)
 しかしながら,何も支援を与えず学習者任せにTinkeringさせても,学習者は上手く学ぶことが出来ないという問題が指摘されている(Mayer 2004).例えば,Kurland and Pea は学習者任せに50時間のプログラミングの授業を実施したが,再帰のプログラムを理解することができなかったと報告している(Kurland and Pea 1985).また,プランニングのスキル(Pea and Kurland 1984) や論理的思考(Dalbery and Linn 1985)についても実証的な研究は少なくさらなる研究が必要である
 このことは,Tinkeringによるプログラミングが学習を引き起こさないというわけではない.Littlefieldらは,訓練を行った状況 ・プログラミングの熟達 ・転移を測定する方法の定義が必要であると主張している(Littlefield et al.. 1989).同様にPalumboは教授方法や訓練の時間・強度などが影響をあたえるとしている(Palumbo 1990).このようにプログラミングの概念理解を促すためには学習者任せのTinkeringではなく適切な学習環境をデザインする必要がある.
■ 目的
そこで本研究ではTinkeringに着目した支援方法の検討を行なう.

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開発するシステムのアイディアはまだ定まっておらず,現在は調査のためにプログラミングのワークショップを初心者の高校生や大学生を対象に実施しています.一方で,プログラミング教育の流れ(特に日本の研究や実践)についてはもまだまだレビューできていない状況です.

研究や実践についてレビューしつつ,実際に学習者がプログラミングをどのように学んでいるかということを軸足に,現状の問題点を見極め支援システムの開発を行いたいと思います.

今年度もよろしくお願いいたします.

原田 悠我

2016.05.12

【お知らせ】文人コース入試説明会

6月5日(日)に大学院学際情報学府の入試説明会が開催されますが、この日の午前中に、山内研究室が所属する文人コースの入試説明会も開催されることになりました。
ふるってご参加下さい。事前登録、参加費はいずれも不要です。

ごあいさつ

情報学環?
学際情報学府??
文化・人間情報学コース???
なんだかおもしろそうだけれど、なんだかよくわからない。
試験科目が別みたいだけれど、他のコースと中身はどうちがうのか。
自分はこれこれこういう研究がしたいんだけれど、はたしてそれを受け容れてくれるのか知りたい。
私たちは、こういう声を毎年数多く耳にしてきました。
お待たせしました!
文化・人間情報学コース(略して文人コース)では、学府全体の入試説明会とは別に、今年から文人コースとしての説明会を開催します。
学府全体の入試説明会は6月5日(日)午後ですが、同日午前に同じ会場で開催。
文人コースの有志のスタッフが次のような話をします。
・自分の研究室ではどんな研究ができるのか。
・自分の研究室にどんな学生がいてどのような研究をしているのか。
・どんな学生に来てほしいと思っているのか。
そのあと、個別のスタッフとみなさんが直接質疑応答、懇談する場を設けます。
文人コースは「人間・環境」「歴史・文化」「メディア・コミュニケーション」をカバーエリアとし、人文社会系、アート・デザイン系、
そして一部理工系も入り交じった、まるいで淡水と海水が出会う汽水域のようなところ。
とても学環・学府らしいところだと言われてきました。
入試説明会は6月5日(日)。ぜひ朝からお越し下さい。

文化・人間情報学コース スタッフ一同

Date:
2016年6月5日(日)10:30-12:00

Venue:
本郷キャンパス福武ホール地下2階福武ラーニング・シアター

Program:
10:30-10:40 文人コースとはどんなところか
10:40-11:30 参加教員全員のミニトーク
11:30-12:00 参加スタッフとの質疑応答、懇談

全体説明会とのちがい
全体説明会はまさに全体の説明をします。その中で文人コースの概要は説明しますが詳細まではできません。
また夕方からの研究室紹介では、各スタッフの専門や研究室でやっていることはポスター展示され、質疑応答できますが、どのような学生
に来てほしいか、どういうテーマだと受け容れられるか(もちろん合格したらの話ですが)といったことがらは十分に話し合う時間があり
ません。
そのためにコースとしての説明会を開催することになったわけです。

Faculty Staff(あいうえお順):
・影浦 峡
・工藤和俊
・佐倉 統
・鶴田 啓
・水越 伸
・武藤香織
・山内祐平
・吉見俊哉
・ほか

(以上)

2016.05.09

【今年度の研究計画】不登校の児童生徒における家庭学習の実態調査

みなさま、こんにちは。M2の長野香織です。
GWは久しぶりに岡山の実家に帰り、中学校に行って先生とお話したり、友達と飲みに行ったり、フリースクールを訪問させていただいたり...バタバタしながらも、充実した時間を過ごしました。楽しい時間は本当にあっという間ですね...少しさみしい気もしますが、しっかりとリフレッシュできたので、またぼちぼち研究の方を頑張っていこうかな〜と思います。

さて、今回のブログのテーマは「今年度の研究計画」です。まだ固まっていないところもありますが、4月にあった研究構想発表会で発表したものを紹介させていただきます。

■テーマ
不登校の児童生徒における家庭学習の実態調査

■背景
1. 社会的背景
 不登校の児童生徒の増加が社会的な問題となっている。文部科学省の平成26年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によると、平成26年度の不登校の児童生徒数は、小学生が25,866名、中学生が97,036名、高校生が53,154名となっており、その数は全体で176,056名に上ると報告されている。また不登校状態になったきっかけとしては、小学生から高校生まで「不安などの情緒的混乱」や「無気力」といった心理的な要因に関するものが約6割を占めている。 
 それでは、不登校の児童生徒の支援を考える際に、心理的な支援のみに着目していて良いのだろうか。文部科学省の「不登校に関する実態調査」(平成18年度不登校生徒追跡調査報告書)では、「学校以外の場所なら勉強を続けたいと思っていましたか?」という質問に対し、学習の継続意思を持っていた不登校の児童生徒はは回答者の約半数(42.9%)という結果であった。さらに、勉強を続けやすい方法としては「通信手段を用いて助言をもらいながら家庭で勉強する」の項目が31.1%、「家庭訪問」が16.6%となっており、自宅で学習できる機会を持つことを望んでいる児童生徒が少なからず存在するということが明らかになっている。また現在不登校の児童生徒の学習権を保障するために、国会でも新たな法案が検討されており、社会全体として不登校の児童生徒の多様な学びを保障しようとする動きが活発しているのである。

2. 先行研究
 では、実際に不登校の児童生徒の学習環境としてはどのような場所が考えられるであろうか。不登校と一言で言ってもそれぞれの生活の仕方によって学習環境は異なる。以下では、それぞれの環境での学習支援について、学校内と学校外に分けて研究動向を概観する。

2.1 学校内での支援
 不登校の段階には様々な段階があるが、別室登校ができる生徒に対する学習支援方法としては、教室にいる時と同じように授業が受けられるようなシステム開発の研究がなされている。これらのシステムによって、教室に入ることができなくても周りの生徒と同じように授業が受けられる機会を持てる一方で、広田(2012)でも指摘されているように、学校内のネットワークの問題やセキュリティの問題、さらには別室の生徒をサポートする人材の不足などが課題として挙げられている。別室登校の児童生徒については、学校には来られる状態であり、授業や進路指導など学校の教育サービスを受けられる状態にはある。しかし、不登校の児童生徒の中には学校に来られない生徒もおり、学校内だけでは対応しきれないのが現状である。

2.2 学校外での支援
 まず挙げられるのが適応指導教室やフリースクールなどの施設である。それらの場所には統一されたカリキュラムはなく、施設によって支援方法や支援目標が大きく異なっている。それゆえ、学校の代わりとして学習支援を中心にしている施設もあれば、あくまでもソーシャルスキルの育成を目標とし、心理的な支援を中心にしている施設もある。また、保護者や児童生徒による施設の捉え方やニーズについてもそれぞれ異なっていることが明らかになっている。これらの施設の良さとして、人と接することができるという点や学校にいる時と同じように(またはそれ以上に)社会的な体験をすることができるという点がある。しかし、学習・進学支援がどれだけ充実しているかということについては施設に依存しており、特に進学を意識する生徒はその施設の方針に合わせて学習方法を変えていかなければならないところが難点である。
 また、適応指導教室やフリースクールの他にも民間の塾や学習教室なども学習環境としては重要である。それらの場所ではカウンセラーなどの専門のスタッフが勤務しているとは限らないため直接心理的な介入はせず、学習支援を主な目的としているところに特徴がある。さらに集団の施設に比べて敷居が低く、個人に寄り添った学習支援をすることができるため、個々のつまずきに対応しやすいといえる。

■問題の所在と目的
 これまで学校内、学校外の学習環境についての先行研究を概観してきた。しかしながら、不登校の児童生徒はこれらの場所で過ごす以上に多くの時間を家庭で過ごしている。さらに、上述したように不登校の児童生徒は学習を継続しやすい場所として「家庭」を挙げており、今後不登校の児童生徒の学習環境を考えるときに非常に重要な場所となる。しかしながら不登校の児童生徒の家庭学習の実態を明らかにした研究はない。そこで本研究では、不登校の児童生徒が家庭学習として、何を用いて何を学んでいるのかを明らかにすることを目的として調査を行う。この研究で得られた結果から、今後の家庭学習の支援につなげていくことができると考えている。

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以上、現時点での研究計画を紹介しました。現在はこの研究計画に沿って調査方法を検討しているところです。どれだけ学習支援と言っても、人の心にも関わってくる研究なので倫理的な問題も含め、慎重に検討していく必要があると考えています。

私の研究生活も残り1年となりました。限られた時間をできるだけ有意義に過ごせるよう日々努力して参ります。どうぞ今年度もよろしくお願いします。
【長野香織】

2016.04.28

【今年度の研究計画】アマチュア音楽活動における関心の深まり方の類型化

M2の杉山です.私の今年度の研究計画をご紹介します.研究の意義を説明する難しさに直面する日々です.世の中では,新規性,新規性,などと言うこともありますが,むしろ新しいもの中から「価値のあること」を見つけ出すことの方が重要で困難な作業です.目下,計画を修正中なので,以下のまま修士論文にはならないと思いますが,ご紹介します.

■テーマ
アマチュア音楽活動における関心の深まり方の類型化

■背景
 人が自己実現をするやり方は仕事の中だけにあるのではない.ある人の生涯に意味を与えるものの一つに,余暇活動がある.余暇活動には「気晴らし」と「真剣な余暇」があると言われ,アマチュアでありながらも長期間関与を続け,その領域においてキャリアを積んでいく真剣な余暇において,人は自己実現・自己表現を果たすという(Stebbins 1992) .こうした余暇活動の可能性は,文化政策や生涯学習,高齢者福祉などの領域で注目を集めており,人々が充実した生を送る一つのあり方として,余暇活動を支援・振興していくという動きが見られる.
 こうした政策領域における一つの大きな問題が,参加 particitpaiton と関与 engagement のあいだの隔たりである.これまでの政策領域では,「全く活動をしていない人」がいかに参加できるようになるか,という問題に焦点を当て,施設の整備やアウトリーチプログラムの実施などによって,活動への「アクセス」を拡大してきた.しかし,それによって「参加」の機会が増えることと,継続的な「関与」が発生することは別の問題として存在している.文化消費の事例ではあるが,イギリスの文化振興政策では「1度でも参加する人」の数を増加させることができたが,「定期的に参加する人」は全体の1割程度のまま,変わらなかったという.
 それゆえ,人々がある活動に熱中し,関与し続けることはなぜなのか,そうした関与を生み出すきっかけが存在し,支援は可能な対象なのか,という問題は,解かれるべき意義のある問いである.本研究では,年齢を問わず多くの人々が参加・関与しているアマチュア音楽活動を余暇活動の事例として,この問いに取り組む.

■先行研究
 アマチュア音楽活動への参加・関与の問題を主に扱っている領域は,音楽教育(生涯音楽学習)である.先行研究では,アマチュア音楽活動へ参加する成人は,中・上流階級の大学を卒業した専門職従事者が多いとされている.さらに,個々人にとっての参加の理由は,「新しい友人に出会う」というような社会的動機づけから,「音楽を愛しているから」というような音楽的動機づけ,「自己表現のため」という個人的動機づけに分かれるという(Coffman 2002).
 このように先行研究は,参加の理由のパターンについては明らかにしているものの,どのような属性をもつ人がそのような理由づけをするのか・どのようにしてそのような理由づけが生まれてくるのかについて検討していない.その点が明らかになれば,なぜ関与が生まれるのかについて有効な知見になるだろう.
 そこで参考になるのが,教育心理学における「関心の発達(深まり)」に関する研究である.教育の分野では,理科などの科目において,生徒がただその領域的な思考をするだけでなく.その領域に関心をもち,主体的に実践に取り組んでほしいという観点のもと,関心の分類と発展のモデル化を行っている(Hidi and Renninger 2006).それによれば,関心は単純に活動を続けていくだけで深まるのではなく,その領域での熟達やそのほかの経験が関連しあいながら,深まっていくものである.
 それゆえ,関心の発達に関する一般手的なモデルは存在しても,学習者が実際に何を経験するのかは,当該領域によって異なる.そこで「アマチュア音楽活動に関与していく中でいかに関心が変遷してきたのか・またそれはどのようなきっかけによるものだったのか」を本研究の問いとして設定する.

■方法
アマチュア音楽活動を5~10年続けている成人に対し,自らの音楽活動に関して回顧的インタビューを行う.それによって,活動に関与していく中でいかに関心が変遷してきたのか・またそれはどのようなきっかけによるものだったのかを探索的に明らかにし,類型化を試みる.

【杉山昂平】

2016.04.19

【お知らせ】大学院入試説明会

山内研究室が所属する大学院学際情報学府の入試説明会が6月5日に開催されます。
受験をお考えの方は、ぜひご参加ください。
研究室ブース展示には、山内と大学院生も参加する予定です。
 
日時:2016年6月5日(日)13:00 - 17:00
   Sunday, June 5, 2016, 13:00-17:00
場所:東京大学本郷キャンパス・情報学環福武ホール地下2階ラーニングシアター
   (http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access/)
   B2 floor, Fukutake Hall, Hongo Campus
申込:不要、入場無料
主催:東京大学大学院情報学環 

東京大学大学院学際情報学府は、情報・メディア・コミュニケーションに関する高度で総合的な教育を行う新しいタイプの大学院です。研究組織である情報学環と密接に連携しながら、文理の垣根を越えて情報学のフロンティアを切り拓く先端的研究者・表現者の育成を行っています。
 
本説明会ではその全体像を教員、事務職員、現役院生が一緒になって説明します。アクチュアルな問題意識を持ち、未来を切り開きたいと考えている大学生の皆さん、実務経験を見つめ直し、深く学んでみたいという社会人の方々を始め、多くの方々に是非ご参加いただければと思います。ご来場をお待ちしています。
 
プログラム:
12:30 開場
 
13:00-13:30 学際情報学府・情報学環 全体説明
(佐倉統学環・学府長、中尾彰宏専攻長)
学環・学府全体の教育研究方針を、学府長、専攻長から説明します。
 
13:30-14:35 学環・学府 各コース紹介
(各コース長)
今回の説明会の対象となる、社会情報学、文化・人間情報学、先端表現情報学、総合分析情報学の4コースの研究教育内容を紹介します。
どんな人に来てもらいたいかなど、それぞれのコースから説明します。
 
14:35-14:50 休憩
 
14:50-15:15 大学院生のプロフィール&就職・進学情報
(学務係ほか)
どんな学科や大学から学生が集まり、いかに学び、どこへ就職し、進学しているか。データを使って説明します。
 
15:15-15:45 2017(平成29)年度入試説明
(教員、学務係)
入試手続きを説明します(原則は募集要項・入学試験案内(http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/admissions)をよく読んでください)。
 
15:45-16:00 休憩
 
16:00-17:00 各研究室のブース展示と研究紹介
(教職員、現役大学院学生)
各研究室に分かれての展示説明。教員、スタッフや院生と直接ディスカッションできる時間です。
 
お問い合せ先:東京大学大学院情報学環・学際情報学府 学務係
(TEL) 03-5841-8769
(URL) http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/

2016.04.12

【今年度の研究計画】学校外のテクノロジークラブにおけるエスノグラフィ

春一番も吹き、本格的に春がやってきましたね。
みなさま季節の変わり目、いかがお過ごしでしょうか。
M2の青木です。

さて、新年度はじめは、毎回「今年度の研究計画」というテーマでブログをお送りしております。
昨年は、参与観察を中心に研究生活を送っていましたが、今年度はいよいよ修論執筆です。
悔いのないよう、日々を丁寧に送っていければと思っています。

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■テーマ
学校外のテクノロジークラブにおけるエスノグラフィ

■背景
●求められる学習の変化
現代はあらゆる情報がデジタル化された高度情報化社会・知識基盤社会とよばれる。このような社会変化から、教育・経済・職場などの多様な文脈でデジタルメディア実践への注目が集まっているMills 2010)。このような時代を生きていく現代の子どもたちに求められるデジタルメディア実践に関する学習については、情報技術に関する流暢さ(Being Fluent with Information Technology)(NRC1999)など様々な定義が行われてきた。また近年では、これらを包括・発展させた、21世紀に求められる学習として、21世紀型スキルや、デジタルメディアリテラシーなどが提唱されている。これらの定義から、これから求められるデジタルメディア実践での学習は、技術を理解し身に付けるのみならず、その技術を活用し、他者と協力しながら新しい表現・創造活動を生み出し、主体的に学び続ける姿勢であるといえよう。

●学校外のデジタルメディア実践への着目
では、上述したような21世紀に求められるデジタルメディア実践での学習は、どのようにして学ばれるのか。
現在日本では、プログラミングに関する教育の場としては、公教育と公教育以外の場があるが、高等学校では履修率が約2割であり(文科省 平成28年)、1.1で述べたような技術の活用や新しい表現・創造活動、主体的に学びつづける姿勢に関する学習が行われているとは言いがたい。
また、山内(2003)は、学校での学習はデジタル社会における技術・表現形式の変化の速さに追いつけない可能性が高く、さらに学校知として現実の社会とそぐわない形で教授される可能性があることを指摘している。その上で、デジタル社会のリテラシーは、表現と受容を循環しながら学ばれ、さらに継続的に活動するためには社会的実践に参加していく必要があるとしている。つまり、学校内だけではなく学校外でもデジタル社会のリテラシーの学習をしていく必要がある。

実際に、学校や学校外を往来しながらデジタルメディア実践に関して学習している青年の様子の研究も行われている。Barron(2006)は、青年たちが自分自身の関心に従って、学校や学校外、家庭を行き来しながら、学習機会を受容したり創造したりしながら技術的流暢さを獲得していく様子が明らかにした。この研究に対して、Collins(2006)は、イリイチ(1970)のOpportunity Webとの関連を指摘し、Barron(2006)で示されるように自身の関心を追い求めて学習するような、主体的な自己主導型の学習者は、21世紀の経済社会において勝者であろうと述べている。このように、現代の子どもたちに求められる学習を考える上では、学校のみならず、学校外も視野に入れ、子どもたちの周りに広がる学習のエコロジーを考慮していく必要があるといえよう。

では、学校外のデジタルメディア実践としてはどのような研究が行われているのか。たとえば、オンライン学習(SNSやゲーム)(e.g.Greenhow2009)や、ワークショップやプロジェクト単位のもの(山内2003)などがある。本研究では、近年、学習効果が実証されてきた「テクノロジークラブ」を対象とする。

●テクノロジークラブに関する先行研究
近年アメリカでは、テクノロジークラブの実践と研究が広がっており、効果も認められてきている。テクノロジークラブを対象とした先行研究では、状況的学習論をベースにしたエコロジーの観点からエスノグラフィを行い、テクノロジーを活用した関心主導型の学習(Barron et al., 2014)やデジタルリテラシー(Vickery2014)、アイデンティティ(e.g. Levinson et al.,2014)が獲得されることが明らかになっている。このように、学校外のクラブ施設では、メンターとの関わりや試行錯誤をしながら友人と自由に活動することによって、デジタルリテラシーや青年の関心やキャリアの促進が行われている(Ito et al., 2013)。

しかし、先行研究ではアメリカのテクノロジークラブが対象になっているが、アメリカにおけるテクノロジークラブは貧困や格差縮小を目指し、行政・企業・大学らが協力して実施している公共施設である。さらに、学校との連携を行ってプログラムが展開されているものもある。つまり、学校の延長としての放課後プログラムの特性がつよい。一方で、日本ではテクノロジークラブ自体は2013年ごろから増え始めたものの、民間の団体や企業が運営しており、小規模であり、アメリカと同じような運営をすることはできない。日本では生徒の社会化やメディア制作を通した社会活動などを目指すアメリカの実践と異なり、プログラミングに関する教育の提供、子どもの教育や子育てを目的としたNPO・組織、もしくは企業のCSR活動や大学の公開講座等の地域・社会貢献の一貫としての活動が行われている(総務省 平成27年)。日本でのこのような実践の歴史は浅く、規模や教育内容もばらばらであり、手探りで行われているといっても過言ではないだろう。
では、どのような学習環境であれば、より中高生は積極的に参加し、学習していくのだろうか。

■目的
本研究では、日本におけるインフォーマル学習環境のテクノロジークラブにおいて、どのような学習がどのようにして生起しているかを参与観察とインタビューから明らかにし、どのような学習環境をデザインすればよいかの知見を導出することを目的とする。

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まだ、推敲中なのですが、おおまかにはこのような方向性で研究を行う予定です。

今年度もどうぞよろしくお願いいたします。

【青木翔子】

2016.04.03

【本年度を振り返って】博論執筆の物語

Ylab2015年度最後のブログ、D3佐藤が担当します。

1年前、私は博士課程に再入学しました。
自身の博士論文のテーマである「物語」的に振り返ってみると、語り手の私に「学生」という属性が再び加わったことと、博論という物語の話者に再びなったということでしょうか・・・。

「妻」であれば夫や親戚、「母」であれば子どもやママ友や学校の先生、「教員」であれば学生や同僚・・・語りというものは、想定される聞き手により、自ずと語る物語が規定され部分があります。日々の忙しさに紛れ、望まれる物語を淡々と語っていくことにすっかり慣れてしまった私にとって、再び「学生」として無から物語を生み出す作業はとても苦しく、私の人生の物語においてはありがたくも辛い一年でした。


今振り返ると、大きく2つの心の持ちようが欠如していたのかな、、、と反省しています。

1.思考すること
博士論文という壮大な物語を書くことは、初めてかつ未知なわけで、何が望まれ、想定されるのか分かりませんでした。
今となっては、望まれ想定される内容は無く作りあげること、無から語るために思考をめぐらさなくちゃいけない、そのために思考のモードを変えることが必要だったのだと思います。
後輩の博士論文を、ただ面白い!とか主張が格好いい!とかではなく、どのように博論という物語の世界を「無の状態」から作っていったのか、過去のゼミでの様子を思い起こし、物語を紡ぐ過程とリンクさせながら読ませて頂くことが大きな助けとなりました。何よりも先日の春合宿での博士号取得3名のセッションもとても参考になりました。

2.覚悟を決めること
私のテーマは、幼児がメディアを使用するもので賛否両論のある領域です。
過去一年在籍した就職先で、保育現場あがりの先生の思い(とても素敵な思想)が染み付いて、博士課程に再入学した頃、実は子どもの育ちに自身の研究が必要ないかもと考えるようになっていましたし、もはや自分のやっていることが嫌いでした。つまり、物語(ナラティブ)研究では体験の意味を作り上げることがとても重要なのに、自分はそれが出来ていないという大きな矛盾を抱えてました。
もちろん指導教官にはお見通しで、研究での主張に対し揺るぎない信念を作り上げ、たとえそれが大きな反論を産んでも刺し違える覚悟をしなくちゃいけないという心の持ち方、「覚悟」することを教えて頂きました。

博論という物語を覚悟した上で紡いでいくことで、大げさかもしれませんが、見るのが嫌でしょうがなかった自分の主張が、今では本当に重要で大切で、多くの人に広めていきたいものになりました。一次審査を経て、ようやく自分の研究の必要性が見えてきた気がします。


ここからは私的な物語ですが・・・
「母」としての語りに対し、全て反抗的に返してくる息子が、「学生」という立場でもがき苦しみ、愚痴る私の語りには、とても優しく返してくれたのが何よりも嬉しかったりしました。怪我の功名?苦あれば楽あり?とにかく明るい一節が生まれたのでした。

あと1年の学生生活。現職の大役や家庭との両立が益々困難になりそうな予感がありますが、博論執筆という物語が途中で終わらぬよう、最終章まで書き上げていきたいと思います。

佐藤朝美

2016.04.02

[Looking back on half a Year] My first semester in Japan

There is much more to learn, not just coursework or research upon decision of leaving my country for another. After having been in the corporate industry for 3 years, I dove back into the world of education, studying about education. This decision had been thought of as spunky by others, braving a foreign country whose first language is not English, alone with minimal assurance of completion or funding. But it is that uncertainty and thrill which pushes me to endure. I have yet to regret such decision and my grit of doing so gave me much more experience than staying in a corporate setup back home for a decade.

Cultural Immersion

I had been to Japan twice on short visits; I have also known people who have done the same at least 5 times. However, living here tickles completely different feelings- the simple act of walking around, seeing the leaves fall and bloom, listening to bicycles and children playing in the park before class... these are small things that are essentially the big things. Similarly, these are also the activities neglected by short-term visitors as understandably, being short on time would necessitate haste in traveling from one destination to another. Living in Tokyo provided me with these kinds of experiences, perhaps often found as negligible because of sheer accessibility. Fortunately, I had been given the opportunity to live in a graciously lovely area of West Tokyo, stripped from the noise and lights should I desire placid time.

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Photo: Momiji from Inokashira Park on the way to school for class

Coursework, Research, アルバイト

Coursework is difficult, as is research. Juggling my time to accommodate both, along with extra hours for part-time work is challenging but well worth the effort. During my first semester, I took a lot of classes with 4 required, 2 electives, and some ad-hoc Japanese language classes thrice a week, Ylab's zeminars every Thursday, and extra time for part-time for the lab. Sensei himself said that I needed more than 24 hours a day to manage, and it was very funny because pushing myself to that extent really made me appreciate all the extra time I could. I have learned a lot, but know that I still fall short on my research pursuits, having to review more than twice than I already have.
At a certain point when I had been too busy, I lost my zairyu, among other important items such as my commuter pass and student ID. It was a day before I was to open a new account imperative for my study in Todai. I had never lost anything of importance before, and I found it really amusing in fact. I knew I lost it just somewhere on campus, hence I was complacent that it would come back at some point. Just the timing was very surprising, and I believed it to be some sort of omen. A similar case happened recently twice with 2 passes offered to me for spring break along Chuo line. Due to some circumstances, both had not been endowed and instead I had opted to try out a different route along Inokashira. Interesting things have happened since and always led me to believe that you are always where you are supposed to be. Through rejections, mistakes, and undesired conditions, I now see life in a different light consisting of acceptance and better arrangements.

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Photo: 500 Yen change from reissuing my commuter pass the week I lost my cards

I am lucky to have met great people both in my program, the lab, the dorm, among many other networks who have helped me overcome the challenges I have faced so far. I never believed in luck as a sole purveyor of opportunities, the hard work puts you where good luck can find you. I will continue to work hard and listen to kismet's guide to where she wills me to be.
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It has been 6 months since I landed in Tokyo (September 22nd) on a one-way flight, and I would do it all again.

【Lian Sabella Castillo】

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