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2023.10.19

【突撃!隣のファシリテーター①:杉山さん】

山内研のブログをご覧の皆さん、こんにちは。修士1年の入澤です。
山内研の学びを支える仕組みの一つにファシリテーター制度があります。
ファシリテーターとは修士と博士の学生にそれぞれ一人つく研究の伴走者です。
このブログシリーズでは、それぞれの院生が普段研究を進める上で相談に乗ってもらっているファシリテーターについて紹介していきます。
山内研にどんな人がいるのか?ファシリテーター制度を通じて山内研の院生がどんなことを学んでいるのかなど、知っていただけると嬉しいです!

さて、入澤のファシリテーターは杉山昴平さんです。
杉山さんは2015年度に修士課程に入学し、2022年3月に博士の学位を取得。現在は東京大学情報学環の特任研究員として山内研に関わっています。
杉山さんの研究テーマは一言でいうと「興味を触発する生涯学習環境」です。
杉山さんは修論・博論では「大人の趣味研究」としてアマチュアオーケストラの楽団コミュニティや写真家ネットワークにおける興味の深まりについてインタビューによる質的研究を行っています。また、そのような「大人の趣味研究」は最近の杉山さんの研究では1980年代のNHK教育テレビの『趣味・技能講座』の分析という形で研究のあり方をメディアの分析に移しながら継続中のようです。
また、「大人の趣味研究」とは別に「子ども・若者の居場所研究」も展開されており、NPO法人カタリバが運営する文京区青少年プラザ(b-lab)において中高生の興味が顕在化するような場のデザインやスタッフの関わりについて研究されています。そして、これらはデザイン研究という学習環境を実際に構築する形態の研究になっています。
上のように整理してみると、修論・博論のインタビュー調査を中心とした「大人の趣味研究」から、研究対象、研究方法など自分の研究者としての枠を広げようとされていることがよくわかりますね!

そんな杉山さんと、私は月に一度程度の頻度で研究相談の機会を設けてもらっています。
毎回の研究相談は「そういう視点で考えるのか!」という学びの連続ですが、特に自分にとって重要な学びになったのは、入学間もない4月頃の研究相談でした。その時にもらったアドバイスは「教育哲学的な理論に操作的定義を与えた時に生まれる論理的な飛躍を、学習科学の理論でどう埋めて小さくできるか考えた方が良い」というものでした。私は入学当初、社会正義教育という分野の哲学的な理論を現場で実践するような研究をしたいと思っていました。そのような研究をする場合、どうしても哲学を実証研究に落とし込む時に、哲学に何かしら操作的な定義を与えて哲学と実証研究を橋渡しする必要があります。ただ、無理に操作的定義を与えることでその哲学・思想の持つ豊な含意が減じてしまうことがよく起こります。杉山さんからは「それを避けるためには、社会正義教育のその哲学を学習科学の言葉で言い換えるという作業を丁寧にやったらいいよ」とアドバイスをもらいました。

この時、自分の中で離れていた社会正義教育と学習科学がグッと近づき、少し重なったように感じています。山内研には学習科学・教育工学×〇〇という学際領域の研究をやる人がたくさんおり、私もその一人です。ただ、私は4月入学当初は学習科学・教育工学×社会正義教育の学際研究を志していたものの、その二つがまだ自分の中で離れて別々に存在していたように思います。ファシリテーター杉山さんのアドバイスによって離れていた二つの領域が近づき、自分の中での学際領域の研究像が少し明確になったのでした。研究上の個々のアドバイスに加えて、このような研究という営み自体がグッとクリアーになるような学びも得られるのがファシリテーターとのコミュニケーションの醍醐味だと思います!

さて、ブログの最後にもう一つ杉山さんの発言で印象に残っているものを紹介したいと思います。
「研究が自分にとって、文化的で最低限度の生活だから。」これは、杉山さんに今年の夏合宿で研究者としてのこれまでを振り返るというテーマでプレゼンテーションをしていただいた時に、杉山さんが研究者を目指した理由の一つとして挙げられていたものです。言葉数が多いタイプでない杉山さんの言葉だからこそ、内に秘めた研究への愛や情熱を強く感じさせられました。

今回のブログは以上です。
次回も引き続き【突撃!隣のファシリテーター】をお楽しみください〜!

2023.10.13

秋学期のブログシリーズ予告編:山内研のファシリテーター制度って?

こんにちは!山内研M1の入澤です。
次回のブログから新しいブログのシリーズとして「突撃!隣のファシリテーター」を始めます。
山内研のメンバーが自分の研究を日々サポートしてくれているファシリテーターを紹介するという内容です。

山内研独自の制度であるファシリテーターをテーマに据えるブログのシリーズを始めるにあたって、今回のブログでは「そもそも山内研のファシリテーターとは何か?」について説明させていただきます。

ファシリテーターとは山内研の修士・博士課程の学生それぞれに1名つく研究のサポート役のことを指します。ファシリテーターという言葉通り、ファシリテーターはそれぞれの学生の研究を促進するために安全基地になりつつ背中を押すようなアドバイスをしてくれます。また、ファシリテーターの役割を担うのは博士課程の先輩や助教の方、また山内研のOB・OGの方など様々です。

山内研ではだいたい1ヶ月から1.5ヶ月に一度ぐらいの頻度で研究進捗発表の機会が回ってきますが、多くの人が自分の次の研究発表までの間にファシリテーターとの研究相談の機会を設けてアドバイスをもらっています。自分一人で研究を進めていると「これでいいのだろうか?」と悩んでしまって思考が堂々巡りしてしまうことってありますよね。ファシリテーターと相談することで、自分の研究の方向性を定めて研究を進めることができます。

このファシリテーター制度は2010年から続く制度のようで、山内研で育まれた大切な文化の一つです。私自身、この制度の力を強く実感しており、よく他の研究室の学生に自慢しています笑。さて、次回のブログからファシリテーターのサポートを受ける学生の側から自分のファシリテーターを紹介するというブログシリーズを始めます。そのファシリテーターの研究内容や人柄に加えてファシリテーターから得た学びを伝えることで、山内研のファシリテーター制度の魅力が伝わるといいなと思っています。

2023.10.12

【お知らせ】大学院冬季入試研究室説明会

11月3日(金・祝)14時より、山内研究室が所属する大学院学際情報学府文化人間情報学コースの入試説明会がハイブリッド形式で開催されます。

https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/event/231012event

そちらに伴い、研究室説明会を以下の日程で開催します。
(Zoomによるオンライン開催)

11月2日(木)16時30分から17時30分まで

16時30分〜16時45分:研究室の概要説明と質疑応答 ※1
16時45分〜17時00分:大学院生・スタッフの自己紹介
17時00分〜17時30分:大学院生・スタッフとの個別相談 ※2

※1 受験の公平性を確保するため、研究計画に関するコメントはできません。
ゼミの運営や研究プロジェクトについて質問を受けます。

※2 研究室の雰囲気や研究の内容について聞いてください。
大学院生・スタッフは審査に関わりませんので、研究計画について意見を求めてもかまいません。

参加を希望される方は、こちらからお申し込みください。

2023.10.01

2023年度 夏の合宿研究会レポート

こんにちは!M1の平嶋・松谷です。
10月に入ってもまだ暑い日々が続いていますが、かすかに新涼を感じる季節にもなって参りました。さて今回の記事では、2023年夏に開催した山内研合宿研究会の内容をご紹介したいと思います。今回の研究会は2泊3日で、のどかな農場と雄大な自然が広がる北海道大空町東藻琴町(網走市から車で30分程)にて開催されました。この開放的な雰囲気の中で、教育・学習に関する先人の知や現在の発展的な事例を学んできました。

ここからは、本研究会の特徴的なセッションについて紹介させて頂きます。


◉学者レビュー
山内研に所属するメンバーは共通して教育・学習をテーマに研究を行っておりますが、その背景は多様で、中には教育学以外の分野から研究室に加わった方も少なくありません。
このセッションでは、教育・学習の研究領域の重要な古典を提供した学者達のレビューを通して、教育学に対する理解増進と各自の研究の深めることを目的としています。レビューする学者は、ピアジェ、ヴィゴツキー、デューイの固定された3名に加え、M1が希望する学者を加えて決定されます。今年度の学者には、フレイレとパパートが選ばれました。

このセッションは主に2つのパートに分けられます。
まず1つ目は、各学者に関する発表になります。ゼミ生は希望する学者ごとのグループに分かれ、夏休みの期間を使って各自調査し、合宿当日に発表を行います。自身の研究との関連性の深さや、逆に自身との関連性の薄さから芽生える関心など、様々な観点からレビュー対象となる学者を選びました。各学者のバックグラウンドや提唱した理論、そして後の世代の教育実践・研究に与えた影響など多様な側面から研究者を掘り下げることで、彼らへの理解度を深めました。

2つ目のパートは、学者マッピングの作成です。学者マッピングでは、担当学者とその学者が影響を受けた、もしくは与えた他の学者・思想などの関係性を、オンラインボードでマップを作成しました。後半には、研究の学者マッピング上における自分自身の位置付けを考える作業も行いました。
マッピングを通して古典の思想家同士の関係を意識すると共に、新たに触れた学者・思想と自身の研究との関連性も吟味することができました。

◉懇親会
2日目夜の時間には、懇親会としてポストに就かれている先輩方からお話を伺いました。先輩方からは、研究者としてのアイデンティティ・成長過程及びこれからの展望などをお話頂き、その内容を元に私たちも自身のこれからの研究生活やキャリアについて考える機会となりました。

特にお話を聞いた中で印象的だったのは、教育に関わる既存の学問領域と自身の関心のあるテーマを融合させた、新たな学問領域の発展を切り開く気概とビジョンを持たれていることです。そして研究をする中ではヘイターの存在や各種ストレスなど乗り越えるべき事象が多くあるが、乗り越える上では研究室内の仲間や家族の存在などの身近な人々の存在が重要である、ということでした。

このお話を受けて私達も、自身の強みや関心のある研究領域とその周縁にある学問領域との関連性を絶えず捉えながら、自分達の研究の価値や意義を深めていくこと。そしてこれから研究に取り組む上で直面する苦労は、研究室から広がる人間関係や身近な人々との関わりによって乗り越えていくことの重要性を実感しました。


◉大空高校におけるプログラム
そして今回の研究会では、北海道大空高等学校に伺いました。この大空高校には山内先生と兼ねてより親交のある大辻雄介先生が校長職を務められており、今回は大辻先生のご厚意で大空高校の見学及び生徒の皆様との交流をさせて頂きました。

大空高校が掲げるコンセプトは「世界と地域をつなぐ大空で、路を切り開く飛行機人になる」です。この「飛行機人」というフレーズでは、空港のある大空町で自ら空に飛び上がる力を育むという、生徒が自らの学びの方法や生き方の方向性を探究する自発性に焦点が当てられています。
またこの自発性について、「飛行機人」のコンセプトは更に派生し、
・“うみだし”びと:地域の特性と最先端の理論を駆使しながら、第一次産業の可能性を最大限に活かし、ものづくりにおける新たな概念と仕組みを生み出す。
・“つなぎ” びと:地域内外の人、組織とのネットワークを生かし、人や組織をつなぎ、居場所と出番を作り、チームに新たな価値を生み出す。
・“ふみだし” びと:直感を信じて、現状に意を唱え、踏み出す。情熱を武器に周囲を巻き込み、協力しながら事をなす。
・“あみだし” びと:あるべき姿に共鳴し、客観的にも考えられ、企てる。グローバルな視点を生かして自他の足元を豊かにする計画や活動などを作り出す。
と学校を取り巻くアクターや環境との関係性を重要視した上での、生徒達の主体性・社会性・協働性・探究力等の資質能力の育成も目指されています。

この大空高校では主に2つの貴重な機会を頂きました。

まず1つ目は大空高校校舎の見学です。
各教室にはデジタルホワイトボードが完備されると共に、生徒の皆さんにも一人一台のタブレットが渡されていました。今回は数学と英語の授業の一部を見せて頂きましたが、その中でも生徒の皆さんがこれらのICTを用いて積極的に自学自習している様子が垣間見えました。

また大空高校には、地元の特産品である農産物や木花が栽培されている実習用温室、ジビエの加工場などもあります。これらの設備で、生徒によって育てられた花や農産物、畜産加工物は毎年地域で販売されており、私達もその特産品の1つである「オホーツクトマト」を試食させて頂きました。通常のトマトよりも甘味と味の深みが強く、美味しく頂くことができました!

このように地域の産業や地域住民と結びつける構内設備から、改めてこの大空高校が生徒の皆さんと地域社会を繋ぐことで、探究学習など学校外部も巻き込むようなこれからの活動の土壌を作ろうとしていることが伺えました。

2つ目は、大空高校の生徒の皆さんとの交流会です。
ゼミ生は、大学のイメージ説明・大学生活の説明・勉強方法の相談・その他の質問への対応、の4グループに分かれ、それぞれの観点から生徒の皆さんに大学生活に対する意識を高めてもらうことを目指しました。
交流会前にはゼミ生企画のアイスブレイクアクティビティも行われ、互いに打ち解け合った雰囲気の中で交流が行われました。

今回交流させて頂いた生徒の皆さんは大空高校の寄宿舎に入寮している方が多く、道内だけでなく東北・関東などの他県出身者にも多くいらっしゃいました。話を聞く中では、大空高校による規則や学習過程の自由度の高さが全国各地から生徒の皆さんを惹きつけていることが伺えました。
印象的だったのは自由な大空高校の環境の中で、自身の興味・関心や将来のビジョンを深めようとする生徒さんが多かった点です。大空高校の方針では、勉強でも課外活動でも、目標設定やその実現に至るまでの過程を学校側が押し付けるのではなく生徒の皆さん自身で考えることが尊重されています。よって高校1年生時点で海外に目を向けて独自に第二言語の勉強を開始するなど、自己設定した夢に向かって自身で計画を立てようとする生徒さんも複数いらっしゃいました。

また、今回の交流会は、ゼミ生にとっても学びの場となりました。生徒の皆さんとの交流の中で大空高校の学びを実感するだけでなく、教育・学習を研究するゼミ生にとって、インタビューや発話分析のような質的調査から教育効果や学習者の意欲などを調査するという点でも貴重な機会となりました。

今回の交流会は私たちにとっても発展的な教育が与える影響を質的に探る興味深い経験となるとともに、生徒さん自身の夢やビジョンを聞き出してその実現に向けての道のりを共に考え、楽しく有意義な時間となりました!

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