2023.10.01

2023年度 夏の合宿研究会レポート

こんにちは!M1の平嶋・松谷です。
10月に入ってもまだ暑い日々が続いていますが、かすかに新涼を感じる季節にもなって参りました。さて今回の記事では、2023年夏に開催した山内研合宿研究会の内容をご紹介したいと思います。今回の研究会は2泊3日で、のどかな農場と雄大な自然が広がる北海道大空町東藻琴町(網走市から車で30分程)にて開催されました。この開放的な雰囲気の中で、教育・学習に関する先人の知や現在の発展的な事例を学んできました。

ここからは、本研究会の特徴的なセッションについて紹介させて頂きます。


◉学者レビュー
山内研に所属するメンバーは共通して教育・学習をテーマに研究を行っておりますが、その背景は多様で、中には教育学以外の分野から研究室に加わった方も少なくありません。
このセッションでは、教育・学習の研究領域の重要な古典を提供した学者達のレビューを通して、教育学に対する理解増進と各自の研究の深めることを目的としています。レビューする学者は、ピアジェ、ヴィゴツキー、デューイの固定された3名に加え、M1が希望する学者を加えて決定されます。今年度の学者には、フレイレとパパートが選ばれました。

このセッションは主に2つのパートに分けられます。
まず1つ目は、各学者に関する発表になります。ゼミ生は希望する学者ごとのグループに分かれ、夏休みの期間を使って各自調査し、合宿当日に発表を行います。自身の研究との関連性の深さや、逆に自身との関連性の薄さから芽生える関心など、様々な観点からレビュー対象となる学者を選びました。各学者のバックグラウンドや提唱した理論、そして後の世代の教育実践・研究に与えた影響など多様な側面から研究者を掘り下げることで、彼らへの理解度を深めました。

2つ目のパートは、学者マッピングの作成です。学者マッピングでは、担当学者とその学者が影響を受けた、もしくは与えた他の学者・思想などの関係性を、オンラインボードでマップを作成しました。後半には、研究の学者マッピング上における自分自身の位置付けを考える作業も行いました。
マッピングを通して古典の思想家同士の関係を意識すると共に、新たに触れた学者・思想と自身の研究との関連性も吟味することができました。

◉懇親会
2日目夜の時間には、懇親会としてポストに就かれている先輩方からお話を伺いました。先輩方からは、研究者としてのアイデンティティ・成長過程及びこれからの展望などをお話頂き、その内容を元に私たちも自身のこれからの研究生活やキャリアについて考える機会となりました。

特にお話を聞いた中で印象的だったのは、教育に関わる既存の学問領域と自身の関心のあるテーマを融合させた、新たな学問領域の発展を切り開く気概とビジョンを持たれていることです。そして研究をする中ではヘイターの存在や各種ストレスなど乗り越えるべき事象が多くあるが、乗り越える上では研究室内の仲間や家族の存在などの身近な人々の存在が重要である、ということでした。

このお話を受けて私達も、自身の強みや関心のある研究領域とその周縁にある学問領域との関連性を絶えず捉えながら、自分達の研究の価値や意義を深めていくこと。そしてこれから研究に取り組む上で直面する苦労は、研究室から広がる人間関係や身近な人々との関わりによって乗り越えていくことの重要性を実感しました。


◉大空高校におけるプログラム
そして今回の研究会では、北海道大空高等学校に伺いました。この大空高校には山内先生と兼ねてより親交のある大辻雄介先生が校長職を務められており、今回は大辻先生のご厚意で大空高校の見学及び生徒の皆様との交流をさせて頂きました。

大空高校が掲げるコンセプトは「世界と地域をつなぐ大空で、路を切り開く飛行機人になる」です。この「飛行機人」というフレーズでは、空港のある大空町で自ら空に飛び上がる力を育むという、生徒が自らの学びの方法や生き方の方向性を探究する自発性に焦点が当てられています。
またこの自発性について、「飛行機人」のコンセプトは更に派生し、
・“うみだし”びと:地域の特性と最先端の理論を駆使しながら、第一次産業の可能性を最大限に活かし、ものづくりにおける新たな概念と仕組みを生み出す。
・“つなぎ” びと:地域内外の人、組織とのネットワークを生かし、人や組織をつなぎ、居場所と出番を作り、チームに新たな価値を生み出す。
・“ふみだし” びと:直感を信じて、現状に意を唱え、踏み出す。情熱を武器に周囲を巻き込み、協力しながら事をなす。
・“あみだし” びと:あるべき姿に共鳴し、客観的にも考えられ、企てる。グローバルな視点を生かして自他の足元を豊かにする計画や活動などを作り出す。
と学校を取り巻くアクターや環境との関係性を重要視した上での、生徒達の主体性・社会性・協働性・探究力等の資質能力の育成も目指されています。

この大空高校では主に2つの貴重な機会を頂きました。

まず1つ目は大空高校校舎の見学です。
各教室にはデジタルホワイトボードが完備されると共に、生徒の皆さんにも一人一台のタブレットが渡されていました。今回は数学と英語の授業の一部を見せて頂きましたが、その中でも生徒の皆さんがこれらのICTを用いて積極的に自学自習している様子が垣間見えました。

また大空高校には、地元の特産品である農産物や木花が栽培されている実習用温室、ジビエの加工場などもあります。これらの設備で、生徒によって育てられた花や農産物、畜産加工物は毎年地域で販売されており、私達もその特産品の1つである「オホーツクトマト」を試食させて頂きました。通常のトマトよりも甘味と味の深みが強く、美味しく頂くことができました!

このように地域の産業や地域住民と結びつける構内設備から、改めてこの大空高校が生徒の皆さんと地域社会を繋ぐことで、探究学習など学校外部も巻き込むようなこれからの活動の土壌を作ろうとしていることが伺えました。

2つ目は、大空高校の生徒の皆さんとの交流会です。
ゼミ生は、大学のイメージ説明・大学生活の説明・勉強方法の相談・その他の質問への対応、の4グループに分かれ、それぞれの観点から生徒の皆さんに大学生活に対する意識を高めてもらうことを目指しました。
交流会前にはゼミ生企画のアイスブレイクアクティビティも行われ、互いに打ち解け合った雰囲気の中で交流が行われました。

今回交流させて頂いた生徒の皆さんは大空高校の寄宿舎に入寮している方が多く、道内だけでなく東北・関東などの他県出身者にも多くいらっしゃいました。話を聞く中では、大空高校による規則や学習過程の自由度の高さが全国各地から生徒の皆さんを惹きつけていることが伺えました。
印象的だったのは自由な大空高校の環境の中で、自身の興味・関心や将来のビジョンを深めようとする生徒さんが多かった点です。大空高校の方針では、勉強でも課外活動でも、目標設定やその実現に至るまでの過程を学校側が押し付けるのではなく生徒の皆さん自身で考えることが尊重されています。よって高校1年生時点で海外に目を向けて独自に第二言語の勉強を開始するなど、自己設定した夢に向かって自身で計画を立てようとする生徒さんも複数いらっしゃいました。

また、今回の交流会は、ゼミ生にとっても学びの場となりました。生徒の皆さんとの交流の中で大空高校の学びを実感するだけでなく、教育・学習を研究するゼミ生にとって、インタビューや発話分析のような質的調査から教育効果や学習者の意欲などを調査するという点でも貴重な機会となりました。

今回の交流会は私たちにとっても発展的な教育が与える影響を質的に探る興味深い経験となるとともに、生徒さん自身の夢やビジョンを聞き出してその実現に向けての道のりを共に考え、楽しく有意義な時間となりました!

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