2025.04.22

【研究テーマ紹介】山内研に来たらどういう研究ができる??(M2 松谷)

皆さんこんにちは,山内研M2の松谷です.
新学期が始まりました,新しい生活が始まり慌ただしく日々が過ぎていきますね.
今回は,来年度の入試説明会もそろそろ行われ出す時期ということで,山内研究室ではどんな研究ができるのかを紹介しようと思います.
山内研については過去の先輩方が色々とまとめてくださっています.全体像を知りたいという方にはこちらのまとめ記事を参照いただければと思います.
【5月11日入試説明会に行く前に!】山内研の魅力とは!? - Ylab 東京大学 山内研究室

今回は,具体的にどんなテーマでの研究がされてきたのかに焦点を絞ってご紹介します!
「学び」をテーマに集まっている,と言っても学校の中に限りません.読書,音楽,仕事,余暇,ICT,演劇…などなど,学びの場や方法は多様です.
そこで今回は,2016年以降に先輩たちが取り組んできた修士論文のテーマをもとに,どんな学びを扱ってきたのかざっくりと4つのカテゴリに分類して紹介してみます!
*大まかに分類したため,他の切り口でもっと違う分け方もあるかもしれません.気になる方はぜひ研究室に足を運んでみてください.

■ 学習支援・教材開発・教育デザイン
学びを促すシステムや授業,教材のデザイン・開発を通じて,学びの可能性を広げる研究テーマ

・プログラミング学習におけるTinkeringの支援〜建設的試行錯誤を促すシステムの開発〜
・文字式におけるプロセプト的思考の獲得を支援するゲーム教材の開発と評価~数学苦手者を対象として~
・科学に対する個人的レリバンスを向上させるための教材開発と評価
・探究学習の課題設定を支援する授業の開発と評価
・アカデミックライティングの構造的統合化を支援するシステムの開発と評価
・大学生の研究室選択を支援するシステムの開発と評価
・タブレット端末向けアプリケーションを用いた幼児の模倣と音づくりの支援

■ 学びの経験・学習過程の質的理解
実際の学びの現場に入り込み,そこにある感情や動機,他者との関係を描き出すような研究テーマ
・テクノロジークラブにおける学習とIT技術者の関わりのエスノグラフィー
・アマチュア・オーケストラ団員たちの興味の深まり――余暇における追求と学習環境
・成人を対象とした読書活動におけるフロー体験に関する研究
・読書経験の共有を通した興味探索の支援に関する研究
・グラフィックファシリテーションが対話に及ぼす効果に関する記述的研究
・デザイン系産学連携プロジェクトにおける学生の経験と学習成果に関する研究
・応用演劇におけるファシリテーションの熟達化に関する研究―プログラム実施時の思考に着目して―

■ 教育実践プログラム・ワークショップの評価
実際に実践された教育プログラムやワークショップの設計やその効果を評価する研究テーマ
・中学生を対象とした正課外活動における社会情動的スキルの向上に関する評価ーUWC ISAK Japanのサマースクールを対象としてー
・鑑賞と表現を架橋する音楽ワークショップの評価研究
・異文化間感受性を高める学習プログラムのデザイン −生徒の傍観者的態度に着目した事前学習の検討−
・証言的対話に基づいたアライの教育プログラムの開発
・価値創造教育がアントレプレナー的態度に与える影響

■ 社会的・心理的プロセスの理解
人が何かに向かう時の内面(モチベーション,レジリエンス,感受性など)や他者との関係性を探る研究テーマ
・大学進学を果たした不登校経験者の学習活動に関する探索的研究
・自己評価と他者評価の調整過程に関する探索的研究
・若年労働者のレジリエンスの発揮に寄与する他者からの働きかけに関する研究
・EFLでの会話を促進する事前学習に関する研究
・教室外活動と日本語学習意欲に関する考察ー台湾における日本語学習者に着目してー
・ICTを用いた英語個別学習指導に関するデザイン研究:学習意欲に着目して


■ 最後に・・・
今回は,過去の先輩方の修士論文のテーマをまとめてみました.分類するのが難しい程,それぞれのテーマは多様で,切り口も方法も異なります.学際的に学びを取り扱うことができることを少しでも感じてもらえたら幸いです.他のブログ記事や,これから投稿される記事でも研究室の様子を覗くことができると思います.

補足:今回はテーマから分類しましたが,研究室では「学習を加速する人工物」,「学習を支える共同体」,「創発的な学習活動」,「学習を誘発する空間」という切り口で各研究テーマをまとめてポスターにしています.今年度の更新バージョンは入試説明会で掲載される予定です.ぜひ気になった方は足を運んでみてくださいね!

【参考】
2024 - 東京大学大学院 情報学環・学際情報学府
こちらに学際情報学府の過去の論文テーマは公開されています.公開情報から今回の記事をまとめました.

2025.04.08

2024年度 春の合同研究会 レポート

皆さま、こんにちは。M2の李佳誠です。

研究計画書の修正作業に追われ、少し報告が遅れてしまいましたが、今回は静岡県静岡市で実施された春の合同研究会についてご報告いたします。

これまでのブログでもご紹介しているとおり、山内研究室では毎年、夏と春に研究会を実施しています。夏の研修では学習科学の古典理論に焦点を当てたプログラムが中心となっているのに対し、春の研修では、修士課程修了予定の先輩方から、研究の進め方やキャリア形成に関する経験を共有していただくことが主な目的となっています。

【1日目】

今回は、同期の山﨑さんのご紹介により、静岡県立大学の国保先生のゼミを訪問する機会をいただきました。
国保先生は経営学をご専門とされており、ゼミでは「産学連携」を主要なテーマとして研究されています。

静岡県立大学にて、国保ゼミと山内ゼミによる合同ゼミを開催し、経営学と教育工学の両視点から、産学連携の事例や課題について活発な意見交換を行いました。

まず、国保ゼミの皆さまからは、経営学や組織マネジメントの視点から、学部3・4年生が取り組んだ静岡県内の企業・団体との産学連携プロジェクトについてご紹介いただきました。また、ゼミ運営の工夫や、進路選択、研究手法に関するお話なども伺うことができ、大変刺激を受けました。

続いて、山内ゼミの先輩方からは、教育工学の立場から、山内研究室がこれまで連携してきたGoogle、SCSK株式会社、マイナビとの産学連携の事例をご紹介いただきました。産学連携上での注意点や、研究者にとってのメリットなど、具体的な経験をもとに貴重な示唆をいただきました。

【2日目】

研究会2日目の前半では、修士課程を修了される先輩方の研究成果をもとに、学習環境研究における多様な研究手法(質的分析・量的分析など)に関する講演とディスカッションが行われました。さまざまな方法論への理解を深めるとともに、自身の研究への視野も広がりました。

また、先輩方がアカデミックキャリアについてどのように考えているのか、今後の進路や人生設計についても共有してくださり、学者としての役割や使命、研究を続けることの意義について改めて考える機会となりました。

合同ゼミや講演に快くご協力いただいた訪問先の皆さまのおかげで、非常に充実した2日間を過ごすことができました。普段ではなかなか得がたい貴重な経験を通して、自分自身を見つめ直す良いきっかけにもなりました。

改めまして、訪問先の皆さまに心より感謝申し上げます。


2025.02.12

はじめての博論構造構想日記 (D1 田中冴)

みなさまこんにちは、D1の田中です。

気づけば年度末ということで、今回は自分のD1の一年を振り返ってブログを書いてみます。

はじめての博士課程の一年目は、振り返ると、いろんなはじめての経験があったように思います。
はじめての論文投稿、はじめての査読対応、はじめてのファシリテーター(する方)…
どれも現在進行形で難しいものばかりですが、この一年特に難しく悶絶していたのは、「博論構造の計画を立てる」ことだったかと思います。なので、今回はこれについて少し書いてみようと思います。
※博論構造には、研究室や研究分野によって違いがあるため、ここで書くのはあくまで私の直面している博論構造の話であることを最初に断っておきます。

私が「博論構造」と書いているもののイメージをしていただくには、中原淳先生のこちらのブログ中の構造図を見ていただくのが良いように思います。
博士論文とは「構造を書くこと」である!? | 立教大学 経営学部 中原淳研究室 - 大人の学びを科学する | NAKAHARA-LAB.net

私がこのD1の一年で対峙していたのは、この構造図で言うところの1・2章→3・4章への分岐のロジックを立てるところです。つまり、「博論全体の大きなRQを解くためには、この2つの研究が必要である」という構造の設計図を立てるところです。

私の場合、構造図で言う研究①(3章)はもう既に実施した修論の内容で、研究②(4章)は来年度実施する研究になります。つまり、研究①という博論の中身の片足は大方決まった状態で、博論全体の構造と、研究②の計画を考えるということを、Dに入ってからのこの一年でやっていたということです。

この構造図をつくるのに四苦八苦した一年でした。はじめての査読対応の経験と合わせて、自分は論文の構造の何たるかなど、何も腹に落ちていないままに修論を書いたんだなと、そう思い知りながらの一年でした。

上記で紹介した中原先生のブログより引用:
ところで、博士論文を書いたことのある人ならおわかりだと思いますが、博士論文でもっとも難しいのは、「文章を書くこと」ではありません、、、たぶん。いや、それも難しいのよ。自分も、その執筆プロセスでは、何度か「悶絶憤死」しかけました。でもね、経験上、それ以上に難しいことがあります。博士論文でもっとも難しいのは「構造を書くこと」なのです。つまり、自分がこれまで行ってきた複数の研究を総括し、「ひとつの論文」としてまとめること、これがもっとも難しい。

例えば、この構造図や、IMRADなど、論文の構造を示すフォーマットや説明は世にたくさん落ちていますが、少なくとも私は、それらを受け取るだけで腹に落として使いこなすというのは難しかったです。自分としてはフォーマットに従って設計図を書いたつもりで、自信満々で人に持っていってコメントをもらってみると、大抵自分はフォーマットに従えてすらなかったことがわかり、確信がぶっ壊れるということが何度もありました。
フォーマットには書かれていない、とんでもない前提で勘違いをしていたとか、そういうのばかりです。根気強くずれているところを探すのに付き合ってくださる、周りの方々に感謝です。

この勘違い具合をどう伝えればいいかなと思って、最近具体例を考えているんですが、一個思いついたやつを書いておきます。

私が誰かに、「信号の色の『赤』は『止まれ』だ」という横断歩道の信号のルールを教えてもらったとします。私は自信満々に「OK!」と言って、信号が青のときに横断歩道を渡り始めます。渡ってる途中で信号が赤になったら、信号が『赤』なので私は横断歩道のど真ん中で完全停止して『止まれ』を実行します。そうすると、直行軸を走る車にはねられる、ということを、たぶん私はやりがちなんだと思います。
側からみるととんでもない勘違いですが、私はルールを適用したつもり満々なのが困ったもんです。

その後に、その既存のルールがなぜそうなっているのかを、周りの人に協力していただきながら、いろんな方向から噛み砕いていきます。「自分の進行方向の信号が赤になったら、直行軸方向の信号は青になって、車or何かしらが通るんだ。だから、進行方向の信号が赤のときに横断歩道にいたり、渡ったりしたら、車or何かしらと干渉するんだ」という具合です。ここまで私が自分で説明できるようになって、やっと既存のルールが腹に落ちて、自分で使えるようになる気がします。

コメントをくださる周りの方々からすれば、私は「そんなところで勘違いする?」「前にも言ったでしょ」みたいなことばかりなのでは、と想像します。
博論を書く上でやりうる勘違いをコンプリートしに行っているのか?と自分でも思います。
コメントをくださる方々には、辛抱強く付き合ってくださることに最大限感謝しつつ、
自分には、まあ、博論書くのはじめてだし、いろいろな勘違いが常ですけど、ここからできるようになっていきたいね…、と若干後ろ向きに元気づけながら、まだまだ続けていこうと思います。

2024.12.20

研究と社会実装を考える(M1山﨑聡一郎)

M1の山﨑聡一郎です。
今春のブログで触れたとおり、私は2つの大学で学び、社会人を経て3つ目の大学として東京大学に入りました。様々な研究環境を経験する中で、研究と向き合う哲学のようなものにもいくつか触れてきました。
それぞれが意義深いものだなと感じる一方、それらには一見すると矛盾のようなものも含まれているように感じ、自分の中で今ひとつ折り合いをつけられずにいました。

東京大学に入学して半年、様々な学生や先生、そして学びに触れる中で、自分の中で「なるほど」と思えるフレームワークに出会えたので、今更と感じる人もいるかも知れませんが、この記事でご紹介したいと思います。



異なる研究文化との出会いと葛藤


いくつかの大学に身を置く中で、私が直面した最も大きな課題のひとつは、異なる研究文化との出会いでした。
最初の大学では、研究に対する考え方が非常に実践的でした。例えば、入学直後の授業では「社会が抱える問題を見つけ、それを解決するための知識や技術を逆算して習得する」という哲学が強調されていました。この経験は、研究の意義を常に現実と結びつける重要性を教えてくれました。私の最初の研究が法教育副教材「こども六法」と法教育教材「こども六法すごろく」の開発に向かったのは、すぐに社会実装できるプロダクトを形にすることを何よりも重視していたからに他なりません。当時の私は、研究は社会実装による社会還元を前提とするものだと考えていたのです。

しかし、次の大学院で出会った研究文化は、まったく異なるものでした。そこでは、「研究の意義は先行研究に付加する知見の積み重ねそのものであり、社会実装は必ずしも研究者の責任ではない」という考え方が主流でした。最初はこの哲学に戸惑いましたが、徐々に先行研究を深く掘り下げ、その中から新たな課題を見つけることの重要性を実感しました。これにより、研究の多面性を理解し始めましたが、一方で異なる哲学を持つ環境に身を置くことで、内心で矛盾を感じる場面も多くありました。



学問の意義に関する考察


昨今の社会では学問、ひいては大学の意義について議論が活発化しています。大学は企業に就職してから役に立つ人材を育成するべきだ、のような主張を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。国家予算の使途を検討するに当たっても「選択と集中」というキーワードがしきりに取り上げられ、まるで役に立つ研究と役に立たない研究とが予めわかっているかのようです。いや、そういった議論をする人たちにとっては、例えば「ロケットを打ち上げる宇宙工学は役に立つが、宇宙の謎を解き明かす天文学は役に立たない」のように、社会実装との距離を鑑みてその意義を判定しようとしているのかも知れません。しかし言うまでもなく、この二つは切り離せないものです。

宇宙工学の進歩は天文学の知見なしには成し得ません。ロケットが向かう宇宙空間の特性を理解するには、天文学的な研究が必要不可欠です。人間の発達段階や精神・心理の性質を理解しなければ子どもの年齢・学齢に応じた適切なカリキュラムを設計することはできませんし、画像生成を支援する技術としてのGPUが仮想通貨のマイニングやAIの運用で注目を浴びているように、特定の研究成果や技術が予期しなかった発見や時代の潮流によって、当初の想定とは全く異なる形態や程度の脚光を浴びることもあります。このように、役に立つ学問とそうでない学問の境界線を引くことは、極めて難しいのです。



研究の分類と自己分析


東京大学で学ぶ中で、研究には3つの型があるという提言を知りました。それは、ボーア型(基礎研究)、パスツール型(基礎と応用の融合)、エジソン型(応用研究)です。この提言は、ドナルド・ストークスが提唱したQuadrantモデル(『Pasteur’s Quadrant: Basic Science and Technological Innovation』1997年Brookings Inst. Pr.)に基づいており、研究の性質と目的を基準に分類されています。

振り返ってみると、私の学部時代の研究はエジソン型に近く、実用的な社会実装を目指すものでした。実際に、現在世に出ている私の著書は、学部時代の研究の延長にあるものが殆どです。一方、前の大学院ではボーア型の基礎研究に近い性質の研究をしていたと感じています。その研究では、いじめに直面した生徒の援助要請行動の促進要因と阻害要因、ザックリといえば「子どもはいじめに直面したとき、どういう経験を重ねていればSOSが出しやすくなるのか」ということを調査したのですが、「だから先生はこういう取組をしましょう」のような提言までが研究で完結していたわけではありません。

現在の東京大学での研究は、まだ模索中ではありますが、エジソン型か、場合によってはパスツール型に向かうのかなと感じています。この分類それ自体が研究を後押ししてくれている訳ではないかも知れませんが、自分の研究スタイルを客観的に捉え、今まで感じていたモヤモヤを整理することができました。



東京大学での学びと多様性


翻って学際情報学府での学びを思い返すと、多様な研究背景を持つ学生や研究者との交流を通じて、自分の研究を多角的に見つめ直す貴重な機会を得たと感じています。以前は、自分と同じテーマを追う仲間がいないことに孤独を感じていましたが、今では、異なるテーマに取り組む人々が多くいるからこそ刺激を受け、学びを得ています。
東京大学という環境は、自分の研究を深めるだけでなく、学際的な視点を得て新たな可能性を見つける場でもあります。この環境を最大限に活用し、多様な視点を取り入れながら、研究が社会にどのような影響を与えるかを模索し続けたいと考えています。


Donald E. Stokes “Pasteur’s Quadrant: Basic Science and Technological Innovation” (1997, Brookings Inst. Pr.)
高田仁『「パスツール型」研究者と大学発ベンチャーの関係性に関する考察』研究 技術 計画, 2020, 35巻, 3号, pp305-315

2024.12.12

大学院生活における自己調整学習について -M1段階-(M1李佳誠)

皆さん、こんにちは。山内研究室M1の李佳誠です。気づけば、M1として過ごす時間も残りわずかとなりました。本日は、M1段階において大学院生活を送る上で、どのように自分の自己調整学習を促進するかについて、自分の視点からお話ししたいと思います。

自己調整学習とは、学習者が自分自身の学習目標を達成するために、認知・感情・行動を体系的かつ自発的に方向づけ、維持していく過程のことです(Zimmerman&Schunk, 2011)。簡単に言えば、先生や親から求められて勉強するのではなく、自分で目標を設定し、計画を立てて学習に取り組むことを指します。大学院生活では、学部時代と比べて、自己調整学習の能力がより一層求められると感じています。たとえば、学部時代に比べて授業の数が少なくなり、自由な時間が増えることが挙げられます。この自由な時間をどう活用するかが非常に重要です。遊びに流されることなく、自律的に自分の修士研究に取り組む必要があります。しかしながら、すべての人がこの自由な時間を効率的かつ自律的に活用できるとは限らず、自己調整学習がうまく機能しないケースも少なくありません。その結果、修士課程を順調に修了できない場合も見られます。以下、M1段階において、どのように自己調整学習を促進するかについての経験を皆さんと共有したいと思います。

1. ファシリテーターとの学習計画作り
まず、ファシリテーターとともに学習計画を立てることの重要性についてお話しします。山内研究室にはファシリテーター制度があり、博士課程の先輩がM1の勉強や研究活動をサポートしてくださいます。私の場合、ゼミ発表の後にファシリテーターと話し合い、次の1か月間の学習計画を相談しています。この際、非常に細かい計画を作るわけではなく、1か月の中で取り組むべき主な内容や方向性を確認します。ファシリテーターは具体的なアドバイスをくださるだけでなく、必要に応じて計画を修正してくださり、大変心強い存在です。さらに、ゼミ発表の1週間前には、1か月間の成果をファシリテーターと確認し、最後の1週間で何を重点的に学ぶべきかを決定します。これにより、自分が何をやるべきかが明確になり、目標に向けた安心感やモチベーションが高まるのを感じています。

2. 学習場所の選択
そして、自分に相応しい学習の場所で勉強することです。教室の広さや照明などの環境的および地理的要因は、学習成果を高める重要な要素として特定されています(Yar & Shaheedzooy, 2023)。このような物理的な要因のみならず、雰囲気という感覚的要因も存在していると考えています。例えば、自分の場合では、家では「休憩」の雰囲気が強く、家で休むことが多いです。一方、学校では「勉強」の雰囲気が強く、ここで勉強すれば、より効率的に勉強できると感じています。したがって、勉強する前に、場所の属性をきちんと考え、自分にとって一番「勉強」の雰囲気が強い場所を選んだ方が良いと考えています。

3. メリハリをつけた学習
最後に、学習にメリハリをつけることです。M1段階では、毎月1回ゼミで研究発表が求められます。発表の準備には、1か月間の研究成果をまとめ、資料を作成する必要があります。最初の2~3週間を無計画に過ごし、最後の1週間で集中して資料を作成する方法をとる人もいますが、私はこの方法をお勧めしません。なぜなら、短期間で焦って資料を作成すると質が低くなり、発表時に十分なフィードバックを得られないからです。また、M1段階では、単に勉強するだけでなく、「熟考」する時間も必要です。たとえば、学んだ内容が自分の研究目的にどう関連するのか、新規性のある課題は何かを深く考えることが求められます。慌ただしく作成した資料では、この「熟考」が不十分となり、結果的に貴重な機会を浪費してしまうこともあります。

そのため、メリハリをつけて計画的に取り組むことが大切だと考えます。私の場合のスケジュールは次のようになります。
1. 最初の1週間:研究の方向性を明確にし、文献リストを作成する。
2. 2~3週間目:文献を読みながら、発表資料を徐々に作成する。
3. 4週間目:ファシリテーターと相談しながら、資料を修正する。

このようなスケジュールで取り組むことで、焦ることなく、質の高い発表資料を作成することができます。

以上、ファシリテーターとの計画作り、学習場所の選択、そしてメリハリをつけた学習についてお話ししました。これらの取り組みは、自己調整学習を実践する上で非常に有効だと感じています。皆さんが充実したM1生活を送れるよう、心から祈っております。


ZIMMERMAN, B. J. and SCHUNK, D. H. (2011) Self-Regulated Learning and Performance:
An Introduction and an. Overview. In ZIMMERMAN, B. J. and SCHUNK, D. H. (Eds.). Handbook of Self-Regulation of Learning and Performance. Routledge, New York(塚野州一訳(2014) 自己調整学習:序論と概観.塚野州一,伊藤崇逹監訳 自己 調整学習ハンドブック.北大路書房,京都,pp.1-10).

2024.11.07

大学院は大変?私の研究生活を支えている3つ(D3 岩澤)

先日、ある学部生の後輩から「大学院で研究したいけど、孤独で大変そう。やっていけるか心配です」と相談を受けました。
 
大学院に進学を決めた当時の私は、そうした不安を特に意識していませんでしたが、大学院での学びも5年目を迎えた今の私は、「まあ、そうだね」と思わず共感する部分もあります。
 
世間では、「大学院はずっと学生気分のまま好きなことだけ学べていいね」と思われがちですが、実際には、院生の4割が研究の過程でメンタルヘルスの問題を抱えているというデータもあるらしいです(Evans et al., 2018)。一般の人に比べて高い割合で「大変」な側面を抱えている可能性があります。自分の経験や周りを見ても、大変な時期を経験している人は少なくありません。
 
それでも私は、「楽しいよ、本当に興味を持っていることをテーマにできたら。あとは、自分なりの研究スタイルで乗り越えていくしかないかな」と答えました。
 
この記事では、私が乗り越えるために工夫していることを少しご紹介したいと思います。
 
 
1. 自分の特性を知る

大学院には本当に多様なタイプの人がいます。

ロジックとセンスでどんどん研究を進める人、24時間論文をニヤニヤしながら読み続けていそうな人、現場の実践と観察の視点が抜群におもしろい人、ずっと喋って思考を深めるのが得意な人、天才的な文章で論を展開する人…。
   
私の場合は、論文を読むのも好きですし、現場での実践も楽しんでいます。一方で、うまく論を組み立てられない時や、執筆をしなければならないフェーズでは、しんどくなってしまいます(うまくやってる得意な人と比べて、「もう無理」と思ったことは何度もあります)。
  
なので、得意な現場での活動(私の場合は学校での授業など)は、どんな時期でも必ず持つようにしていました。執筆に追われていても、そうした「得意」の瞬間を作っておくと、気持ちが切り替わり、モチベーションを保つことができるかなと思います。
  
 
2. 自分を甘やかす「オフ」を作る
 
研究がどうしてもうまくいかないときや、何度も壁にぶつかると、「オンとオフの切り替え」を意識して過ごすようにしています。私にとっての「オフ」は、まったく研究のことを考えない時間です。
 
例えば、私は海に入るのが好きで、海の中で数分間、文字も言葉もない世界に沈むと、不思議とリフレッシュできます。これはサウナで「整う」感覚に似ているかもしれません。戻ってくると思考がクリアになって、また新たな気持ちで「研究、やるかあ」と机に向かえるようになります。
 
たくさん寝る。美味しいものを食べる。映画を見る。なんでもいいと思います。
ギリギリになる前にリセットしておくことが大事かなと思っています。
  
 
3. 人と話す・人の研究に関わる

大学院生活では、孤独になりがちだと言われますが、山内研は比較的話すのが好きな人が多いと思います。「研究のディスカッションしよう」と誰かを誘えば、すぐに乗ってきてくれます。応援しあったり、相談できると、乗り越えられる課題もたくさんなるなと感じています。

また、自分の研究が行き詰まるときに、他の人の研究を手伝ったり、相談に乗ったりすることも、良い刺激になります。山内研にはファシリテーター制度があり、私も修士課程の後輩のファシリテーターをやっていて思うのですが、他の人の研究を見ていると、なぜか「自分も頑張ろう」という気持ちが湧いてきます。
 
実際、チュータリングプログラムで高校生を支援する活動に参加した大学院生の82%がウェルネスやメンタルヘルスに改善が見られたという研究もあるそうです (Hermanstyne et al., 2022)。
 

もし大学院進学に不安を感じている方がいたら、「これはぜひ追求したいな」と思える研究テーマを見つけ、今の環境でストレスを乗り越えるための自分なりのスタイルを探してみるといいかもしれません。いろんな先輩の、大学院の過ごし方を聞いてみるのも、参考になると思います。

D3 岩澤直美


(この記事は、研究で感じるストレスを乗り越える個人的な工夫を紹介したもので、メンタルヘルスの治療法を示すものではありません。深刻な症状を感じている方は、医療機関を受診されてください。)

Evans, T.M, Bira, L., Gastelum, J.B., Weiss, L.T., & Vanderford, N.L. (2018). Evidence for a mental health crisis in graduate education. Nature Biotechnology. 36(3). 283-285.

Hermanstyne, T.O., Johnson, L., Wylie, K.M., Skeath, J.B. (2022) Helping others enhances graduate student wellness and mental health. Nat Biotechnol 40, 618–619.

2024.10.16

ワークショップの会場について

皆様、こんにちは。M2の入澤です。
秋学期も始まり、いよいよ修論提出まで3ヶ月を切りました。修論研究もラストスパート!と思ってやり抜きたいと思います。

さて、今回は山内研周辺の人ならば関わる方が多いワークショップについて。特に、ワークショップの会場について書きたいと思います。なぜ、このテーマでブログを執筆するかと言うと、修論研究の一環として夏休みの間にワークショップを行っており、良い会場があることのありがたみを痛感したからです・・・!

私の研究では以下のリンク先にあるようなワークショップを実施しました。夏休みの間に9回、合計40名以上の大学生を対象に行っています。

ダイバーシティワークショップ:多様性の交差路での「代話」①
ダイバーシティワークショップ:多様性の交差路での「代話」②


参加者募集、ワークショップのプログラムの開発、毎回の資料の印刷などの準備、実施・データの収集、参加者への謝金の対応などなど・・・本当に大変だったのですが、とても価値ある実践を参加者に届けることができたのではないかと手前味噌ですが思っております。また、開発したワークショップは事前事後で測定指標で有意差がちゃんと出ており、効果を示すことができたこともありがたい経験でした。

さて、そんなワークショップですが、参加者に脳に汗をかくような経験をしてもらうことが大切です。そして、その経験を作るためにはワークショップの会場で非日常を演出することが肝要です。また、ワークショップの会場には、多様な活動を可能にする空間としての柔軟性も求められます。例えば、私の実践の場合だと、ビデオレターを作成したり、3グループに別れて別々に動画を見たりと様々なメディアを活用する活動を行う予定で、それができる会場の柔軟性が必要でした。

ですが、そんな都合の良い会場は中々ありません〜!あったとしても利用料が高額で研究で使うには厳しい・・ということも多いです。ただ、私は運良くこちらの会場を使わせていただきました。

東京大学情報学環オープンスタジオ

▼オープンスタジオのホームページの概要情報は以下です
「東京大学情報学環オープンスタジオ」は,中山隼雄氏のご寄附によって2017年4月に竣工いたしました。東京大学における<工房・広場>をイメージした拠点として,ワークショップや展覧会など,社会に開かれた創発的な研究教育活動に資する場を提供しています。
 当スタジオでは,中山隼雄氏および中山隼雄科学技術文化財団からご寄附をいただき,「人間と遊び」をキーワードにした「中山未来ファクトリー」プロジェクトに取り組んでいます。

こちらのスタジオにはプロジェクターが投影できる場所が3箇所もあり、活動を行いやすい勾玉型のテーブルやホワイトボードになっている壁などが設置され、本当にワークショップが行いやすい空間になっています。

正直、自分のワークショップの活動はかなり複雑な動きが必要だったため、会場の都合で何かを妥協しないといけなくなると嫌だな・・・と思っておりました。ただ、上記のような設備に助けられ、無事に納得のいくワークショップを行うことができました!

今回の経験から、実践者として使い勝手の良い会場の候補をいくつか持っていることって大切だなと痛感しました。自分なりに他にもないか探してみたいと思います。

2024.10.12

【社会人向け】社会人大学院生の過ごし方(D6中野生子)

皆さん、こんにちは。D6の中野です。
社会人博士課程院生の生活も6年目(修士から山内研にお世話になっているので通算8年目 恐)になりました。週5フルタイムで働きながら、長期履修制度(社会人学生の場合は、3年分の学費をMAX6年で支払う制度を使うことができます)を使って博士課程の院生をしています。昼間はがっつり働いて、夜と週末は研究者として社会情動的スキルの研究をすすめています。仕事は、外資系IT企業で、2019年末より文部科学省が推し進めるGIGAスクール構想の実現に向けて、教育現場にテクノロジーを広める活動をしています!

私の研究についてもちらっとご紹介。
テーマ:社会情動的スキル
研究内容:学習者の個人特性が異なることで育成される社会情動的スキルに違いが生じるのか、個人特性が異なる学習者間の相互作用によって社会情動的スキルが育成される協働活動にはどのような特徴があるのか、社会情動的スキルの学習環境の在り様を考察する。

今は、博士論文の柱の一つになる、2本目の論文を学会投稿し、そして落ちて、再投稿し、、、のようなフェーズで四苦八苦しているのですが(山内研究室のゼミでは、査読対応過程も共有し、みんなで議論していくので、私の不採録の経験も後輩たちの糧になっている、、、はずです笑)、そんな私の社会人と研究者の両立生活をご紹介できればと思います。

基本的には、週5で働き、平日夜や週末に研究しているのですが、ときには土日に仕事のイベント対応が入ったり、国内海外の出張が入ったりするので、「いかに素早く仕事モードから研究モードに切り替えられるか」が仕事と両立させるポイントになってます。仕事で使う脳みそと、研究で使う脳みそが違うなと感じており、修士の時はその切り替えに最低1時間はかかったりして、まとまった研究時間を確保するのが大変でした。最近はその切り替えにも慣れ、うまく時間を使えるようになったなと感じています。エネルギー有り余ってる人間ではないので、週末ずっと研究しているわけではなく、仕事も研究もしないプライベートの時間もがっつり確保しています。

直近の査読対応と仕事をどんな風に両立させたかというと、スケジュール的にはこんな感じでした。研究スケジュールは上段に下線文字で、下段は仕事の状況や両立の感想等を記載しています。


2024年4月初旬:投稿
  GIGAスクール構想第二期が発表され、蜂の巣をつついたような状態の忙しさになる。チームも、3月から毎月1人のペースで人が増えて、バタバタ。
2024年5月中旬:1回目の査読結果返答(4週間以内に再投稿する必要あり)
  査読対応時期が韓国出張と重なり、夜な夜なホテルで論文執筆(せっかくの韓国なのに…)
2024年6月初旬:再投稿
  しばし平穏が訪れる
2024年7月中旬:2回目の査読結果返答(4週間以内に再投稿する必要あり)
 査読対応時期がオーストラリア出張と重なり、深夜にファシリテーターとオンライン相談しながら、夜な夜なホテルで論文執筆(せっかくのオーストラリアなのに…)
2024年8月中旬:再投稿
  姪っ子が産まれて、可愛すぎてうかれる
2024年9月中旬:査読結果
  不採録通知をいただき、奈落の底に突き落とされる(この半年の苦労が…)

書いてみたら、結構ハードな期間を切り取ってしまった感はありますが、山内研には社会人大学院生も多く、様々な分野で活躍するメンバー、社会人から学部あがりの学生まで年齢もさまざまで、こういったメンバーと一緒に教育について語れることが、大学院に所属している1番の価値だなと感じています。

研究室に興味のある方はぜひ、東京大学大学院学際情報学府山内研究室の冬季入試説明会(10月31日16時30分〜)にご参加ください!
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2024/10/post-45.html


【中野生子(Seiko NAKANO)】

2024.06.24

2023年度 春の合宿研究会 レポート

皆様こんにちは、D1の田中です。

春先バタバタして投稿が遅れてしまいましたが、今回は2024年3月に愛知県長久手市〜瀬戸市方面にて実施した春の合宿研究会についてご紹介しようと思います。

これまでのブログでもご紹介のとおり、山内研では夏と春に合宿研究会を実施しています。
夏季は学習科学の古典理論を中心としたプログラムであるのに対し、春季は学習環境研究の多様な方法論やキャリアのあり方について扱うプログラムとなっています。

【1日目】

研究会1日目は愛知淑徳大学 長久手キャンパスにて、山内研のOBOGであり愛知淑徳大学ご勤務の佐藤朝美先生吉川遼先生をお尋ねし、お二人のこれまでの研究スタイルやキャリアについてご講演いただきました。
学際研究であるがゆえの、自分の研究を大流の中に位置付けることの難しさや悩みを共有しつつ、自分達が研究をする上でのスタンスについて、いつもより大きな視点から振り返る機会になりました。

講演後は、愛知淑徳大学 人間情報学部の新施設(VR・メタバース機器、シミュレータルームなど)を見学させていただきました。

【2日目】

研究会2日目前半は、学習環境研究における多様な研究方法や分析方法(質的分析、量的分析など)に焦点を当てた講演とディスカッションを行い、様々な研究法への理解を深めました。

その後、愛知県瀬戸市の瀬戸SOLAN小学校に移動し、「個人探求」の時間を見学させていただきました。
木のあたたかみを感じる広々とした校舎内(3Dで探検できます!)で、子どもたちは思い思いのスペースで自分の進めている個人探求の進捗を発表していました。
山内研メンバーと佐藤先生、吉川先生はそれぞれ自由行動で、子どもたちの発表を聞いたり、議論に混ざったりしました。
当日の様子は瀬戸SOLAN小学校の探求レポートからもご覧いただけます。

放課後には、SOLAN小学校の先生方や保護者の方々とのディスカッションに山内研メンバーも参加させていただき、今後の個人探求について、見学した内容を踏まえての議論を行いました。


講演や見学に快く応じてくださった訪問先の方々のおかげで、大変充実した2日間となりました。
1日目は学際研究に携わる研究者の先輩である先生方に、2日目は探求に取り組む子どもたちと、子どもたちを支える先生方や保護者の方々と、実際にお会いしてお話をするという、普段得難い経験をさせていただく中で、自分を省みる良い機会となりました。
訪問先の皆様、大変お世話になりました!

2024.06.10

【社会人必見】修士二つ目に向けて山内研に飛び込んでみて(M1山﨑聡一郎)

はじめまして、山内研M1の山﨑聡一郎です。
私は「法教育がいじめ被害者の援助要請を誘発する可能性」というテーマで研究活動を行っています。

実は大学学部を卒業した後、別大学の社会学研究科で2019年に修士号を取得し、その後在野研究者として研究活動を行いながら、「こども六法(弘文堂)」等の児童書を執筆していました。
前の大学院を修了したタイミングで就職するわけではなく、自分の会社を立ち上げて経営しているという意味では、私が「社会人」と呼べるのかというのは議論がありそうですが、今回は私と同様の「社会人」として学際情報学府の受験を志している方や、「既に修士号を持っている」けれども山内研に参加しようかと考えている方に向けて参考になったらいいなと思い、この記事を書きました。

【修士二つ目ってどうなの?】
実は私自身、大学学部を卒業する2015年度に学際情報学府を受験し、不合格となっています。当時から「法教育を通じたいじめ問題解決」というテーマで研究活動を行っていたのですが、当時はまだまだ学術研究とは何たるかを深くは理解しておらず、実践上の関心だけが強かったように感じます。一方でこのタイミングで別大学院の修士課程に進学する縁があり、そこで学術研究というものを改めて叩き込まれた、という形でした。

その後、大学院を修了した後は、学校教育を対象とした研究をしたいと考えていたことから、とにかくフィールドとなる学校を開拓していこうと考え、一旦大学院という組織を離れて執筆活動や講演活動を通じ、学校との繋がりを増やしていきました。一方で、在野研究者として学会の分科会等で定期的に発表していたものの、誰かに研究を急かされるわけでもなく、また大学組織が一括契約しているような膨大なデータベースが活用できるわけでもなく、研究の進行は困難を極めていきました。そんな中で2022年頃から、再び大学院に所属して研究活動に打ち込み、博士号を取得したいと考えるようになりました。

最終的に私が山内研を志望するようになったのは、もちろん当初から学際情報学府で学ぶということに2015年当時から関心があったということもあるのですが、何といっても自分が志している研究テーマに近い領域で研究している仲間たちと研究ができること、更に、自分に近い背景や境遇を持つ人たちが多く山内研に所属していた実績があることが決め手でした。

先に博士号取得を目指していると書いたものの、私は修士1年として入学しました。東京大学大学院学際情報学府は原則として修士博士一貫教育とされており、博士課程から編入するのは不可能ではないものの、高いハードルがあります。私自身、そこまで研究能力に自信があったわけではないので、このことを説明会で聞いたときに修士課程で入ろうと思ったのでした。
ただ、既に修士号を持っているのに改めて修士課程に入ることには正直迷いもありました。ダブルマスターという呼称は聞かなくはないものの、日本では一般的でないどころか、かなり珍しいでしょう。一方で、このブログを遡っていくと、既に修士号を持ちながら山内研に修士課程から入ったという方もいらっしゃいました。この存在は私自身大変励みになりましたし、博士を目指して長期目線で、じっくりと腰を据えて研究していこうと決意するきっかけになりました。

【山内研と私】カリキュラム,情報化,つながり(りん)
自分の研究に影響を与えた書籍の紹介(M1入澤充)

実際に入学してみると、改めて社会人として修士課程の授業を受けて課題をこなしていくのは楽ではありませんが、刺激に満ちた楽しい日々です。授業内容そのものも刺激的ですし、自身が大学生をやっていた頃とは大きく様変わりした授業の態様は、学びが一層開かれてきているという時代の進歩を感じることができ、ワクワクします。

また、山内研の研究指導は既にブログにあるファシリテーター制度を始め、研究発表の進め方も輪読の進め方も非常に丁寧で、自分がやるべき作業課題が常に明瞭です。修士研究は大変だ、という点には違いありませんが、モチベーションや進捗を強力にバックアップする体制は盤石で、同時に今なお改善を志し続けているという点も含めて、さすが学習環境デザインの研究室だと常々感じる研究生活です。

【Ylabブログを読み倒せ!】
学際情報学府に合格をいただいた後、実際に入学を迷っていたときに相談に乗ってくださったのは、在野時代に書籍を執筆した出版社の、担当編集者の方でした。この方、大学学部&サークルの先輩だったのですが、実は山内研の卒業生でもありました。世間は狭すぎる・・・

その先輩から社会人大学院生として山内研で修士号を取得したまた別の先輩をご紹介頂き、その先輩にも沢山の相談に乗っていただきました。
もちろん、完全に自身の境遇と同一と言うことはないので、不安が完全に消え去ったかというとそうではありませんでしたが、「取りあえず進学してみよう!」と思い切るには十分でした。そして、結果的には進学を決めたという決断は、正解だったなと感じています。

入学後、更に山内研に所属している先輩方、そしてかつて所属していた卒業生の方々のことを調べたり聞いたりしてみると、そのバラエティ豊かさには驚かされます。
私はミュージカル俳優としても活動していますが、先輩の中にも芸術家・自由業の方が複数いらっしゃることを、入学後に知ることになりました。恐らく、どのような境遇で山内研を目指している方であっても、きっと一人は自身の境遇と似ている人が山内研にはいるのでは無いかと思います。

学際情報学府は学部を持たない大学院なので、「学部時代と環境が変わってしまう」ことへの懸念がある方もいらっしゃるでしょう。だからこそ、自分が研究室になじめるか、そこで充実した研究生活を送る未来が想像できるかは大切だと思います。

入試の公平性を期すという観点から、山内先生と直接お話をする機会はどうしても限られてきますが、研究室の雰囲気はもちろん、自身と似た境遇で山内研での研究生活を乗り越えた先輩がいるかを、現役のゼミ生から聞いてみたり、ブログを遡って調べてみたりするのは、「山内研でしっかり研究するぞ! 自分でもできるぞ!」という自信とモチベーションを得る上では非常に有意義ではないかと思います。ぜひ、Ylabブログを読み倒してみてほしいと思いますし、入試説明会などでゼミ生と話す機会があれば、その際には自身の状況や懸念などをどしどしぶつけてみてくださいね!

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