2024.06.24

2023年度 春の合宿研究会 レポート

皆様こんにちは、D1の田中です。

春先バタバタして投稿が遅れてしまいましたが、今回は2024年3月に愛知県長久手市〜瀬戸市方面にて実施した春の合宿研究会についてご紹介しようと思います。

これまでのブログでもご紹介のとおり、山内研では夏と春に合宿研究会を実施しています。
夏季は学習科学の古典理論を中心としたプログラムであるのに対し、春季は学習環境研究の多様な方法論やキャリアのあり方について扱うプログラムとなっています。

【1日目】

研究会1日目は愛知淑徳大学 長久手キャンパスにて、山内研のOBOGであり愛知淑徳大学ご勤務の佐藤朝美先生吉川遼先生をお尋ねし、お二人のこれまでの研究スタイルやキャリアについてご講演いただきました。
学際研究であるがゆえの、自分の研究を大流の中に位置付けることの難しさや悩みを共有しつつ、自分達が研究をする上でのスタンスについて、いつもより大きな視点から振り返る機会になりました。

講演後は、愛知淑徳大学 人間情報学部の新施設(VR・メタバース機器、シミュレータルームなど)を見学させていただきました。

【2日目】

研究会2日目前半は、学習環境研究における多様な研究方法や分析方法(質的分析、量的分析など)に焦点を当てた講演とディスカッションを行い、様々な研究法への理解を深めました。

その後、愛知県瀬戸市の瀬戸SOLAN小学校に移動し、「個人探求」の時間を見学させていただきました。
木のあたたかみを感じる広々とした校舎内(3Dで探検できます!)で、子どもたちは思い思いのスペースで自分の進めている個人探求の進捗を発表していました。
山内研メンバーと佐藤先生、吉川先生はそれぞれ自由行動で、子どもたちの発表を聞いたり、議論に混ざったりしました。
当日の様子は瀬戸SOLAN小学校の探求レポートからもご覧いただけます。

放課後には、SOLAN小学校の先生方や保護者の方々とのディスカッションに山内研メンバーも参加させていただき、今後の個人探求について、見学した内容を踏まえての議論を行いました。


講演や見学に快く応じてくださった訪問先の方々のおかげで、大変充実した2日間となりました。
1日目は学際研究に携わる研究者の先輩である先生方に、2日目は探求に取り組む子どもたちと、子どもたちを支える先生方や保護者の方々と、実際にお会いしてお話をするという、普段得難い経験をさせていただく中で、自分を省みる良い機会となりました。
訪問先の皆様、大変お世話になりました!

2024.06.10

【社会人必見】修士二つ目に向けて山内研に飛び込んでみて

はじめまして、山内研M1の山﨑聡一郎です。
私は「法教育がいじめ被害者の援助要請を誘発する可能性」というテーマで研究活動を行っています。

実は大学学部を卒業した後、別大学の社会学研究科で2019年に修士号を取得し、その後在野研究者として研究活動を行いながら、「こども六法(弘文堂)」等の児童書を執筆していました。
前の大学院を修了したタイミングで就職するわけではなく、自分の会社を立ち上げて経営しているという意味では、私が「社会人」と呼べるのかというのは議論がありそうですが、今回は私と同様の「社会人」として学際情報学府の受験を志している方や、「既に修士号を持っている」けれども山内研に参加しようかと考えている方に向けて参考になったらいいなと思い、この記事を書きました。

【修士二つ目ってどうなの?】
実は私自身、大学学部を卒業する2015年度に学際情報学府を受験し、不合格となっています。当時から「法教育を通じたいじめ問題解決」というテーマで研究活動を行っていたのですが、当時はまだまだ学術研究とは何たるかを深くは理解しておらず、実践上の関心だけが強かったように感じます。一方でこのタイミングで別大学院の修士課程に進学する縁があり、そこで学術研究というものを改めて叩き込まれた、という形でした。

その後、大学院を修了した後は、学校教育を対象とした研究をしたいと考えていたことから、とにかくフィールドとなる学校を開拓していこうと考え、一旦大学院という組織を離れて執筆活動や講演活動を通じ、学校との繋がりを増やしていきました。一方で、在野研究者として学会の分科会等で定期的に発表していたものの、誰かに研究を急かされるわけでもなく、また大学組織が一括契約しているような膨大なデータベースが活用できるわけでもなく、研究の進行は困難を極めていきました。そんな中で2022年頃から、再び大学院に所属して研究活動に打ち込み、博士号を取得したいと考えるようになりました。

最終的に私が山内研を志望するようになったのは、もちろん当初から学際情報学府で学ぶということに2015年当時から関心があったということもあるのですが、何といっても自分が志している研究テーマに近い領域で研究している仲間たちと研究ができること、更に、自分に近い背景や境遇を持つ人たちが多く山内研に所属していた実績があることが決め手でした。

先に博士号取得を目指していると書いたものの、私は修士1年として入学しました。東京大学大学院学際情報学府は原則として修士博士一貫教育とされており、博士課程から編入するのは不可能ではないものの、高いハードルがあります。私自身、そこまで研究能力に自信があったわけではないので、このことを説明会で聞いたときに修士課程で入ろうと思ったのでした。
ただ、既に修士号を持っているのに改めて修士課程に入ることには正直迷いもありました。ダブルマスターという呼称は聞かなくはないものの、日本では一般的でないどころか、かなり珍しいでしょう。一方で、このブログを遡っていくと、既に修士号を持ちながら山内研に修士課程から入ったという方もいらっしゃいました。この存在は私自身大変励みになりましたし、博士を目指して長期目線で、じっくりと腰を据えて研究していこうと決意するきっかけになりました。

【山内研と私】カリキュラム,情報化,つながり(りん)
自分の研究に影響を与えた書籍の紹介(M1入澤充)

実際に入学してみると、改めて社会人として修士課程の授業を受けて課題をこなしていくのは楽ではありませんが、刺激に満ちた楽しい日々です。授業内容そのものも刺激的ですし、自身が大学生をやっていた頃とは大きく様変わりした授業の態様は、学びが一層開かれてきているという時代の進歩を感じることができ、ワクワクします。

また、山内研の研究指導は既にブログにあるファシリテーター制度を始め、研究発表の進め方も輪読の進め方も非常に丁寧で、自分がやるべき作業課題が常に明瞭です。修士研究は大変だ、という点には違いありませんが、モチベーションや進捗を強力にバックアップする体制は盤石で、同時に今なお改善を志し続けているという点も含めて、さすが学習環境デザインの研究室だと常々感じる研究生活です。

【Ylabブログを読み倒せ!】
学際情報学府に合格をいただいた後、実際に入学を迷っていたときに相談に乗ってくださったのは、在野時代に書籍を執筆した出版社の、担当編集者の方でした。この方、大学学部&サークルの先輩だったのですが、実は山内研の卒業生でもありました。世間は狭すぎる・・・

その先輩から社会人大学院生として山内研で修士号を取得したまた別の先輩をご紹介頂き、その先輩にも沢山の相談に乗っていただきました。
もちろん、完全に自身の境遇と同一と言うことはないので、不安が完全に消え去ったかというとそうではありませんでしたが、「取りあえず進学してみよう!」と思い切るには十分でした。そして、結果的には進学を決めたという決断は、正解だったなと感じています。

入学後、更に山内研に所属している先輩方、そしてかつて所属していた卒業生の方々のことを調べたり聞いたりしてみると、そのバラエティ豊かさには驚かされます。
私はミュージカル俳優としても活動していますが、先輩の中にも芸術家・自由業の方が複数いらっしゃることを、入学後に知ることになりました。恐らく、どのような境遇で山内研を目指している方であっても、きっと一人は自身の境遇と似ている人が山内研にはいるのでは無いかと思います。

学際情報学府は学部を持たない大学院なので、「学部時代と環境が変わってしまう」ことへの懸念がある方もいらっしゃるでしょう。だからこそ、自分が研究室になじめるか、そこで充実した研究生活を送る未来が想像できるかは大切だと思います。

入試の公平性を期すという観点から、山内先生と直接お話をする機会はどうしても限られてきますが、研究室の雰囲気はもちろん、自身と似た境遇で山内研での研究生活を乗り越えた先輩がいるかを、現役のゼミ生から聞いてみたり、ブログを遡って調べてみたりするのは、「山内研でしっかり研究するぞ! 自分でもできるぞ!」という自信とモチベーションを得る上では非常に有意義ではないかと思います。ぜひ、Ylabブログを読み倒してみてほしいと思いますし、入試説明会などでゼミ生と話す機会があれば、その際には自身の状況や懸念などをどしどしぶつけてみてくださいね!

2024.06.04

『外国人留学生として山内研で勉強するのはどのような感じですか?!』

初めまして、山内研究室のM1李佳誠(リ カセイ)です!
今回は、7年ぶりに山内研究室に合格した外国人留学生の視点から、山内研究室のM0制度やファシリテーター制度、日常の大学院生活などについて話したいと思います!


「7年ぶりの外国人留学生」
今年、私は外国人留学生として山内研究室に入りました。以前にも数名の外国人留学生の先輩方がここで勉強していたことがありました。山内先生は外国人留学生を指導する経験が豊富であり、山内研究室で勉強することは非常に心強いと感じています。 外国人留学生が山内研究室に入るためには、二つの方法があります。
一つ目は、日本語で授業を受ける「文化・人間情報学コース」の一般入試です。この方法で出願する場合には、「英語の標準試験の成績」、「10ページ以上の研究成果」、「研究計画書」、「日本語の標準試験の成績(外国人のみ)」といった書類を提出する必要があります。これらの書類はどれも非常に重要ですが、優先順位をつけるとすれば、「10ページ以上の研究成果」≧「研究計画書」>「英語の標準試験の成績」≧「日本語の標準試験の成績(外国人のみ)」という順になります。
二つ目は、英語で授業を受ける「ITASIA(アジア情報社会コース)」の一般入試です。この方法の出願については、ホームページをご参照ください。


「早めに大学院生活を体験する」
私は夏入試で山内研究室に入りました。合格後、大学院に入学するまでに半年間の猶予がありました。山内研究室では、この半年間を活用し、合格者がM0として研究室の各活動に参加することができます。例えば、毎週のゼミ、春の合宿研究会、飲み会などです。この制度のおかげで、大学院生活にスムーズに慣れることができ、研究室の先輩たちとも深いつながりを築くことができます。他の研究室の留学生に聞いてみると、この「M0制度」がないため、山内研究室のことを羨ましく思っていると言われました(笑)。

山内研特有の「M0制度」については、以下のページをご参照ください。
【山内研の活動】M0生活


「一人で戦うのではない!」
外国人留学生として、日本語能力の問題から研究室の先輩や先生とトラブルが生じることや、授業についていけないことを心配していました。しかし、山内研に入った後は、そのような心配はすべてなくなりました。なぜなら、研究室の先輩や同期が積極的にサポートしてくれるからです。
例えば、ゼミでの研究発表に初めて参加したとき、研究をどのように始めればいいのか、何を勉強すれば良いのか、発表内容が良いか悪いかなどの疑問を抱えていました。これらの疑問を考えれば考えるほど、学業によるストレスを感じ、モチベーションが下がっていました。しかし、このとき、研究室の先輩や同期が悩みを聞いてくれ、丁寧にアドバイスをくれました。また、ファシリテーターが研究発表の前に一緒に発表内容を確認してくれ、研究の方向性や問題点などを指摘してくれました。このようにして、無事に発表を行うことができました。

山内研特有の「ファシリテーター制度」については、以下のページをご参照ください。
【山内研の日々】ファシリテーター制度とは?
【山内研の秘密】研究ファシリテーター制度
【夏休みの過ごし方】ファシリテータとの積極的な研究相談


今回は外国人留学生の視点から、山内研究室での実体験をお話ししました。これからの大学院生活が楽しみです!

2024.04.21

【5月11日入試説明会に行く前に!】山内研の魅力とは!?

山内研M2の入澤です。
今回は数年ぶりの対面開催となる東京大学大学院学際情報学府の夏季入試説明会が5月11日に迫っているということで、山内研の魅力をお伝えする記事を執筆いたしました!
学府の入試説明会では15:30から行われる「各研究室のブース展示と研究紹介」に山内先生と山内研の院生も参加します。ぜひ今回の記事を予習に役立ててください〜!

さて、山内研の魅力は過去に様々な人がブログ記事にしてきました。
そこで今回は過去ブログをまとめる「まとめ記事」としてお伝えしますね。

■ 山内研ってどんな研究室
まずはざっくりと概要を知れる過去のブログ記事を紹介していきたいと思います。特に最初に紹介する以下の記事は「学習」と「学際」という二つのキーワードで山内研を説明していて、読んでいて私も「なるほど!」と思いました。
【教えて!山内研究室】研究室のモットーって?

以下の記事は山内研で得られるサポートについて簡単にまとめています。実際のところ研究室のメンバーも学習環境デザイン、教育工学、学習科学などの分野を学部で研究した人は少数で、ほとんどが大学院で学び始めています。それでも研究を追求できる仕組みが山内研にはあります。
【教えて!山内研究室】どんなサポートを受けられるの?

実際に、修士課程で入学してどのような生活になるのかなぁと気になっている人も多いと思います。以下の記事は入学後の生活について紹介しています。山内研は社会人学生の割合も高い研究室ですが、そんな社会人学生へのインタビュー記事もあるので、学生だけでなく受験を検討している社会人の皆さんもぜひ読んでみてくださいね。なお、過去のブログ記事には他にもたくさん山内研の日常をまとめたものがあったのですが、その中から選んでみました。もっと気になる方はぜひ過去のブログ記事を調べてみてください!
【山内研院生の過ごし方】Part1
【山内研院生の過ごし方】Part2
【教えて!山内研究室】山内研に入るには
※上のブログはM1の間の研究の進め方についてまとめています。タイトルと内容が少しあっていないので注意!

あと、山内研は院生が研究で自由に使える研究室があるのですが、そこで時間を過ごせることも魅力です。
【私の学び場】山内研究室2

■ 山内研のゼミ活動
さて、実際の山内研の活動を見ていきましょう。
山内研では毎週木曜日の13:00~16:00でゼミを行っています。
ゼミの概要・様子については以下の記事に詳しいのでご覧ください。凝縮された学びの時間を毎週楽しんでいます!
【教えて!山内研究室】山内研のゼミってどんなの?

山内研のゼミは研究発表と文献発表によって構成されます。
研究発表については、2012年の秋学期のブログシリーズで【研究発表のこだわり】について研究室のメンバーが執筆しています。そこからいくつか研究発表のイメージを掴みやすい記事を以下に紹介します!
山内研では学期中3~4回発表の機会がありますが、それに向けてそれぞれが懸命に準備し、研究を進めていることがわかりますね。
【研究発表のこだわり】自分のための研究発表
【研究発表のこだわり】建設的なコメントをもらうために

文献発表については、以下のブログ記事をご確認ください。様々なバックグラウンドの学生が集う山内研ですが、文献発表とグループ討論の時間で全員の共通基盤を築いています。
【山内研の日々】文献発表とグループ討論とは?
【文献内容とグループディスカッション紹介】

■ 山内研の学びを支える仕組み①:研究ファシリテーター制度
続いては、山内研のメンバーの学びを支える仕組みについてです。まずは研究ファシリテーター制度について。それぞれのメンバーに研究室OBOG・助教・博士課程の院生のどなたかがファシリテーターについてくれる制度です。自分の研究を追求するパートナーがいてくれる・・・私も日々この制度の恩恵に与っています!詳しくは以下のブログをご覧ください。
秋学期のブログシリーズ予告編:山内研のファシリテーター制度って?
【山内研の日々】ファシリテーター制度とは?
【山内研の秘密】研究ファシリテーター制度
【山内研の活動】ファシリテーター制度
【夏休みの過ごし方】ファシリテータとの積極的な研究相談

■ 山内研の学びを支える仕組み②:合宿
山内研では夏と春の年間二回の合宿を行っています。普段と違う場所で研究室のメンバーと凝縮した学びの時間を共有する貴重な機会となっています。以下の記事でその概要を知ることができます。まずは【教えて!山内研究室】合宿で何をするの?という記事をご覧ください。過去のブログ記事には夏合宿や春合宿の詳細なレポートもあるので、そちらも合わせてご確認いただくと雰囲気が掴めると思います!
【教えて!山内研究室】合宿で何をするの?
【山内研の秘密】ゼミ合宿
【山内研の活動】合宿
【山内研夏合宿密着レポート】
【夏の特別編】山内研夏合宿レポート
【2016年、山内研ではこんなことがあったよ】夏合宿in島根雲南市
【山内研の日々】夏合宿の思い出
ylab春合宿
2022夏 合宿研究会 活動報告(学者レビュー会)
2022夏 合宿研究会 活動報告(キャリアに関する学習セッション)

■ 山内研の学びを支える仕組み③:M0
山内研では合格後、秋学期からゼミに参加できるM0という制度もあります。入学前にゼミの雰囲気・リズムを掴み人間関係を構築できるという嬉しい制度です。私も入学前にM0として参加することでM1の4月からの研究をスムーズに始めることができました。
【山内研の活動】M0生活

■ 自分なんかが受験していいのかな?って思う人に向けて・・・
学部の時は全然違う分野だった、社会人として働いているから忙しい、語学に不安がある・・・人によって悩みはそれぞれだと思います。そんな人に向けた過去のブログ記事を紹介します。
【教えて!山内研】山内研に入るには(M2林)
【教えて!山内研】山内研に入るには(M1中野)
【教えて!山内研】山内研に入るための勉強は?(M2根本)

■ 最後に・・・
大学院進学は人生の重大なターニングポイントですよね。でも入ってからの情報はあまりなく、進路について悩むのは当然だと思います。私も受験前は結構悩みました。特に私の場合は自分の研究テーマが「アライ(マイノリティに連帯するマジョリティ)の学び」なので、自分の研究テーマに合致した研究室がなくて困った経験があります。そんな私ですが、山内研の「学際的に学習を扱う」というあり方に救われたなぁとよく思っています。周りの研究室のメンバーもそれぞれ学際領域の様々な研究を展開しており、分野は違いますが「学習」という軸で繋がった仲間と出会えたように思っています。学びを支える仕組みも充実しており、思う存分研究できるのが山内研の魅力です。ぜひ気になった方は説明会にお越しください!
【5月11日開催!】学際情報学府 夏季入試説明会

2024.03.01

【突撃!隣のファシリテーター④:山本良太さん】

D2の岩澤直美です。

山内研究室では、博士課程でもファシリテーターの方にたくさんお世話になります。私も、研究発表の前後はもちろん、学会発表や投稿論文、そして博士論文の全体像や進路についても、相談したり頼ったりしながら研究に励んでいます。<ファシリテーター制度とは?

私は昔から「迷惑じゃないかな」と心配してしまい、あまり人に頼ることが上手ではありませんでした。そんな私が、素直な研究の状態や気持ちを共有しながら先輩たちに頼れるようになったのは、ファシリテーター制度と山内研のコミュニティのおかげだと思っています。

今回は、私のファシリテーターである山本良太さんにインタビューをしてみました。

岩澤:山本さん、よろしくお願いします。改めてですが、山本さんの出身と研究内容、山内研に来てくださった背景について、少し教えてください。

山本さん(以下 敬称略):関西大学総合情報学研究科の出身で、博士課程では「新しいコミュニティの創出を通じた学習」について興味を持ち、活動理論に基づく海外での社会貢献活動の分析を行っていました。山内研究室の研究プロジェクトで、反転授業プラットフォームを使った学習促進の研究(論文)に携わる機会を得たタイミングで、ある意味の「修行」だと思って上京しました。今は、大阪教育大学で特任准教授をしています。


 
Q1. ファシリテーターってなんですか?

岩澤:山内研究室の共同研究に複数関わりながら、多くの修士や博士学生のファシリテーターを担当されてきたと思います。山本さんはこの「ファシリテーター」の役割や立ち位置をどのように捉えていますか?

山本:ファシリテーターって、スポーツ観戦でいう「ファン」のような立場で応援することかなって思います。素直に「面白い」とか「うーん」と微妙な反応を示したりとか。でも、結局プレイヤーは自分で練習してプレイをして、前に進んでいく必要があるのですが、ファンの意見も参考にする。さらに、山内研という一種のファンコミュニティの中でみんなでサポートしあっているものかなと思っています。

岩澤:なるほど!確かに、そうですね。ファシリテーターとは1対1でご相談をさせていただく機会は多いですが、それが全てではなく、ゼミのコミュニティの中でお互いをサポートしあう文化を感じます。

山本:みんな研究分野や内容は違うし、自分の経験の範囲内でしか応援できないので、他のサポーターの力も借りているコミュニティの「ピース」の一つとして、自分を位置付けています。


 
Q2. ファシリテーターとして意識してきたことについて

岩澤:山本さんがファシリテーターとして、特に意識していたことはありますか?

山本:RQの設定や質的分析などを進める際、学生が自分の研究におけるレンズの使い方やデータの解釈方法を見つけられるよう支援してきました。「なんでそういう解釈をしたん?」などと問いかけながら、別の解釈の可能性を提示してみたり。悩みながらも独自の視点で研究を進められるようにサポートすることを心がけています。

岩澤:独自の解釈や視点を見つけるのって難しいなと感じます。私のような初心者にとっては、提供された解釈例に固執してしまうこともあると思うんです。山本さんのアイデアに引っ張られすぎないようにするために、意識してる伝え方はありますか?

山本:「この解釈は一例に過ぎない」ということを明確に伝えるために、ある意味その事例のアイデアに"無責任"であることも示すようにしています。「知らんけど」「ほんまにそうなん」と投げかけて、改めて考え直してもらったり。

岩澤:確かに、言ってますね(笑)。私もそんなサポートを受けながら、自分の研究に対する理解が深まったと感じます。ありがとうございます。

山本:新しいアイデアや解釈の種は、対話の中で生まれるものだと思うんです。その対話の中で出た一つの事例を「道具」として、本人なりの新しいものを創っていけるといいなと思ってます。あとは、自分の研究者としての経験を踏まえた感想はかなり正直にはっきりいうようにしています。「めっちゃおもろいやん」と褒めたりとか。

岩澤:確かに。たまに、山本さんに方向性をお伝えした時に褒めてもらうと「あ、研究こっちの方向で間違ってないんだ」と、すごく安心します!「それは、まあ微妙やな」と言われたこともたくさんありますが。

山本:それはほんまに、フェーズや内容に限らず、率直な意見として伝えるようにしてます。研究の軸足やポイントって正解はないけど、これから研究をするという段階では、自分1人で判断するのって難しいから。その研究の価値を一緒に創っていけたらと思ってます。自分もそうされたら嬉しいしね。

岩澤:嬉しいです〜(切実)
 


Q3. どうやって頼ったらいいですか?

岩澤:山内研の環境は、本当に恵まれていると改めて感じさせられます。最近は、私もファシリテーターや、先輩、同期や後輩にもたくさん頼るようになりましたが、それは「自分では乗り越えられない!」という壁にたくさんぶつかるようになったからだと思います。でも、これまでの私のように、どれくらい頼っていいかわからないって思う人も少なくないと思うんです。

山本:もう大人だし、研究者として成長する過程としても、自分から積極的にサポートを求めることも大事だと思います。それに、そもそも大学院にいるような人って、「議論を嫌いなわけがない」と思うんです。研究に関する相談って、その探究の方向性を「一緒に議論する場」だから、それを楽しまない人って山内研にはいないんじゃないかな。

岩澤:確かに!ゼミ前後でなんとなく相談しあってる時間も楽しいですし。でも研究が進まずネガティブになると「議論になるようなリソースを揃えなきゃ相談できない」ってハードル上がってしまうこともあって…。

山本:リソースってなんでもいいと思うんです。たくさんレビューしてきたならそれでもいいし、実践現場があるなら、その時の感じたこととやりたいことを扱ってもいいし。そこから次の探究課題を見つける議論の素材って、みんな十分持ってるんだと自分は思ってます。「ファン」としてのファシリテーターなので、どんな内容や状態でも、対話の中で相手の視点や感情を知れるのって嬉しいですよね。

岩澤:ゼミ中の指摘ばかりに目を向けると自己肯定感が下がりますが、私もゼミコミュニティーを「ファン」として捉えられると、少し乗り越えられる気がします!

山本:大学院で学んでいると、自信がボキボキ折られるじゃないですか。でも、人によって得意なところって違っていて。文章が上手い人もいれば、実践が得意な人もいる、面白い観点で分析をできる人もいるーーその人の「武器」を一緒に見つけていけるのは、ファシリテーターとしても楽しいことかなって思います。

岩澤:本当に「すごい人」に囲まれて落ち込むことばかりですが、私も自分なりの武器を見つけていきたいと思います。

 
 
Q4. コミュニティと学習のおもしろさを教えてください

岩澤:ファシリテーターとしての楽しさをたくさん教えていただきました。最後に、山本さんにとっての「学習」のおもしろさを教えてください。

山本:一見、みんな同じような行為をしているように見えるけど、その実態が実は多様なことにおもしろさを見出しています。同じ組織や集団内に、多様な経験を持っている人が集まった時の「掛け算のパフォーマンス」として発揮できる環境作りに関心を持っています。フィールドワークで見えてくる答えが、自分の現場を作る時の参考になっているように思いますし、論文を通じてそれが他の人の参考にもなってくるといいなと思います。自分の研究は、自分が一番面白いと思いながらやってると思います。

岩澤:それぞれの現場で、文化や歴史もある中で、効果的な介入方法を提案するのは難しいですよね。山本さんは今も新しい現場を作っていくこともあると思いますが、周りに頼ることもありますか?

山本:他の教員や、研究者仲間に相談することはたくさんあります。自分から積極的にサポートを求めながら前に進んでいく必要があるという意味では、院生と同じだと思いますし、それを可能にしてくれるのがコミュニティの魅力だと思います。

岩澤:ありがとうございました。改めて、山内研のファシリテーター制度の足場掛けが重要な役割を果たしていることと、山本さんや周りの人に引き続き頼らせていただけるのだという自信を持てました。引き続き、よろしくお願いいたします。


山内研のsupportiveなコミュニティにもう少し甘えながら、私自身も、その中でできることを返していきたいと思いました。がんばります!

ーー
D2 岩澤直美

2024.02.20

【突撃!隣のファシリテーター③:増田悠紀子さん】

皆さまこんにちは、M1の松谷です。
本記事では前回までのブログシリーズに続き、これまでの1年を共に伴走してくださったファシリテーター、増田悠紀子さんを紹介します。修士課程1年を終えようとしている今、山内研究室に入ってから定期的に相談にのっていただきながら過ごした日々を振り返りつつ書いてみようと思います。


増田悠紀子さんは山内研の現在博士課程3年生に所属しています。増田さんは「デザイン系産学連携プロジェクトの学習環境に関する研究」をテーマにされています。産学連携というと、研究成果や技術を持つ大学などの教育機関と企業が連携し、新たな製品などの開発を行うといった取り組みですが、その中でも、増田さんは武蔵野美術大学でのデザイン系産学連携を対象に研究をされています。
デザイン産学連携は「企業とデザイン系大学によって、製品化やさまざまなデザイン開発の可能性を探求することを目的として取り組まれる産学連携」(菅野、2010)で、学生が主になって制作活動を行う実践的教育機会とされています(増田、2023)。増田さんは、デザイン産学連携プロジェクトにおける参加学生の経験と彼らのクリエイティブ・コンピテンシー(OC)などの能力の獲得に関する研究をされています。

増田悠紀子、伏木田稚子、池田めぐみ、山内祐平:デザイン産学連携プロジェクトにおける学生の経験とクリエイティブ・コンピテンシーの獲得実感に関する研究─グループ、教員、連携先との関わりに着目して、デザイン学研究、69(3)、31–40、2023
増田悠紀子、伏木田稚子、山内祐平:デザイン産学連携プロジェクトでのタイプ別の経験と能力獲得実感との関係、日本デザイン学会研究発表大会概要集、70: 358、2023


まだまだ全ての研究を把握しきることはできていませんが、増田さんのこれまでの研究は、産学連携プロジェクトの実践調査で得たデータをもとに、クリエイティブ・コンピテンシーなどの能力獲得とそれに影響する因子を明らかにするという内容なのではないかと認識しています。


私は高校生がイノベーションワークショップ(グループでアイデア生成をするような)に参加した前後での心理的な変化や、効果に関して、修士研究で行おうとしています。増田さんの産学連携とは、対象や手法は異なるものの、プログラムの内容や目指すものは共通しているところがあるかと思います。共通するところがあるからこそ、産学連携とは異なる点はどこなのかなどといったように、対象とするプログラムならではの特徴を意識するきっかけとなったように感じています。

増田さんからも、研究相談をする際や発表後のフィードバックをいただく際に、そうした視点でのコメントを頂いています。自分が関わってきたプログラムを中心に考えてしまうと、他のプログラムとの差異や、あるいは実は共通しているという点が見えにくくなってしまいます。特に私は対象とするイノベーションワークショップに高校時代から関わっていたために、かなりバイアスが掛かってしまっているのではないかということに、山内研に入ってから気づくことができたように思います。近い領域だからこそ得られる違った視点もあるのだなと感じました。

また、増田さんとの定期的な研究相談では、近い分野でどのような実践や研究がなされているかといったお話を伺う機会もあり、研究としてどのように行っていくのかということを知ることにもつながっているように思います。1人で進めていたら迷って前に進めない場面においても、自身のこれまでの経験を踏まえて、研究を前に進めるための方針や、やるべきことに対するアドバイスを頂けることは、とても力になります。

まだまだ修士の研究では迷うことばかりで、どのような方針で進めていけばいいのか立ち止まってしまうことも多いですが、ファシリテーターとの相談から少しでも多くのことを学んで行きたいと思います。まだまだ山内研には様々なバックグラウンドを持ったファシリテーターがいますので、以降のブログもお楽しみにしてください!

Reference
菅野洋介:中小企業によるデザイン系大学との連携 : 新潟県長岡地域を事例として , デザイン学研究 , 56(6), 93–10 2, 2010
増田悠紀子, 伏木田稚子, 山内祐平:デザイン産学連携プロジェクトでのタイプ別の経験と能力獲得実感との関係,日本デザイン学会研究発表大会概要集,70: 358,2023

2024.02.04

【突撃!隣のファシリテーター②:池田めぐみさん】

皆さまこんにちは、M2の田中です。
本記事では前回までのブログシリーズに続き、田中の修士課程2年間を共に伴走してくださったファシリテーター、池田めぐみさんについて紹介します。
修士課程の大半を終えた今(修論審査の結果はまだ出ていませんが…)、修士課程の間定期的に相談にのっていただいた日々を振り返りつつ書いてみようと思います。

池田めぐみさんは山内研OGで、現在は東京大学 社会科学研究所に所属されています。
現在の池田さんの研究は、主に働く人のレジリエンスや学びに関するものです。
「レジリエンス」とは、「環境の変化に適応し、ネガティブな仕事状況に対処する個人の能力(NOE et al. 1990)」とのことで、このレジリエンスが及ぼす効果や要因を研究されています。
池田さんが山内研にいらっしゃった際は、修論では大学生のクラブ・サークル活動、博論では大学生の正課外プロジェクトを対象に、それぞれの活動における学生の取り組みがキャリアレジリエンスの獲得実感に与える影響について検討するという研究をされていました。
- 池田めぐみ, 伏木田稚子, & 山内祐平. (2018). 大学生のクラブ・サークル活動への取り組みがキャリアレジリエンスに与える影響. 日本教育工学会論文誌, 42(1), 1-14.
- 池田めぐみ, 伏木田稚子, & 山内祐平. (2019). 大学生の準正課活動への取り組みがキャリアレジリエンスに与える影響 他者からの支援や学生の関与を手掛かりに. 日本教育工学会論文誌, 43(1), 1-11.
博士号取得後から現在にかけては、レジリエンスを引き続き主な対象としつつ、対象は職場における若年労働者の能力向上を扱う研究などを行われているようです。
- 池田めぐみ, 池尻良平, 鈴木智之, 城戸楓, 土屋裕介, 今井良, & 山内祐平. (2020). 若年労働者のジョブ・クラフティングと職場における能力向上. 日本教育工学会論文誌, 44(2), 203-212.
- 池田めぐみ, 田中聡, 池尻良平, 城戸楓, 鈴木智之, 土屋裕介, ... & 山内祐平. (2022). チャレンジストレッサーとヒンドランスストレッサーが 若年労働者の業務能力向上と情緒的消耗感に与える影響: レジリエンスの媒介効果に着目して. 経営行動科学, 33(3), 143-156.

田中が概観する限り、池田さんのこれまでの研究は、調査で得たデータをもとに、着目する能力の獲得・向上に影響する因子を明らかにするというスタイルのものが多いかと思われます。
対して田中が修士課程で行った研究は、大学生のライティングを支援するシステム開発研究です。
なので、池田さんと私は、広い意味での人間の学習を扱うという基底は共通しているとはいえ、研究の対象も手法も、結構違うタイプと言えるのではないかなと思います。
山内研のファシリテーターと院生の組み合わせのバリエーションはいろいろあると思いますが、研究内容的に近しい人同士になるケースもあれば、こういうケースもあります。

今振り返ると、私の場合はこの組み合わせが大変ありがたかったと感じています。
池田さんは分野が遠いからこそ、研究の中身や詳細に入り込みすぎずに、「どういう研究として仕上げるのか」というメタい視点からいつもコメントをしてくださいました。
というのも、私がレビューや開発をしていると、今していることに入り込みがちな性分であったので、池田さんとの相談の度に、「そういえば私、2年で修士論文としてまとめないといけないんでした」「そういえば私、開発研究をやりたいんでした」みたいな気づきをたくさんいただきました。
私のやりたいことは尊重しつつも、研究として成り立たなさそうだったり、無謀だったりするようなことを私が言い出したときはちゃんと諭してくださる池田さんがファシリテーターだったおかげで、修士課程は安心感を持って精一杯研究に打ち込めたと思います。

また、池田さんとの定期的な研究相談のおかげで、「分野は違うけど一番自分の研究の話を聞いてもらっているこの人に、面白さや意義が伝わるよう研究を説明できないといけない」という力が、常に自分にやんわりと作用していたように思います。
もちろん、他の山内研メンバーも基本的に研究分野はまちまちなので、山内研にいる以上、常にそういう力場の中に身を置くことになる運命なのですが、
他のゼミメンバー以上に継続して自分の研究の話を聞いてくださるファシリテーターがいてくださることで、「まずは一番研究の話を聞いてくれているこの人に伝えられなきゃ」と、説明の努力を絶やさないよういられたように思います。

一人で入り込んで悩む時間も大事にしたいと思う私ですが、こういう期間はのばそうと思えばいくらでものばせてしまうので、2週間〜1ヶ月おきくらいにファシリテーターとの相談やゼミ発表という強制自己開示イベントが発生する山内研の制度は、研究初心者の自分が〆切までに修士論文を書く上でありがたいものだったなと思います。
他の山内研メンバーのファシリテーターや関わり方については、以降のブログシリーズでも明らかになると思います。お楽しみに!

NOE, R.A. and NOE, A.W. and BACHHUBER, J.A. (1990) An investigation of the correlates of career motivation. Journal of Vocational Behavior, 37(3):340–356

2023.10.19

【突撃!隣のファシリテーター①:杉山さん】

山内研のブログをご覧の皆さん、こんにちは。修士1年の入澤です。
山内研の学びを支える仕組みの一つにファシリテーター制度があります。
ファシリテーターとは修士と博士の学生にそれぞれ一人つく研究の伴走者です。
このブログシリーズでは、それぞれの院生が普段研究を進める上で相談に乗ってもらっているファシリテーターについて紹介していきます。
山内研にどんな人がいるのか?ファシリテーター制度を通じて山内研の院生がどんなことを学んでいるのかなど、知っていただけると嬉しいです!

さて、入澤のファシリテーターは杉山昴平さんです。
杉山さんは2015年度に修士課程に入学し、2022年3月に博士の学位を取得。現在は東京大学情報学環の特任研究員として山内研に関わっています。
杉山さんの研究テーマは一言でいうと「興味を触発する生涯学習環境」です。
杉山さんは修論・博論では「大人の趣味研究」としてアマチュアオーケストラの楽団コミュニティや写真家ネットワークにおける興味の深まりについてインタビューによる質的研究を行っています。また、そのような「大人の趣味研究」は最近の杉山さんの研究では1980年代のNHK教育テレビの『趣味・技能講座』の分析という形で研究のあり方をメディアの分析に移しながら継続中のようです。
また、「大人の趣味研究」とは別に「子ども・若者の居場所研究」も展開されており、NPO法人カタリバが運営する文京区青少年プラザ(b-lab)において中高生の興味が顕在化するような場のデザインやスタッフの関わりについて研究されています。そして、これらはデザイン研究という学習環境を実際に構築する形態の研究になっています。
上のように整理してみると、修論・博論のインタビュー調査を中心とした「大人の趣味研究」から、研究対象、研究方法など自分の研究者としての枠を広げようとされていることがよくわかりますね!

そんな杉山さんと、私は月に一度程度の頻度で研究相談の機会を設けてもらっています。
毎回の研究相談は「そういう視点で考えるのか!」という学びの連続ですが、特に自分にとって重要な学びになったのは、入学間もない4月頃の研究相談でした。その時にもらったアドバイスは「教育哲学的な理論に操作的定義を与えた時に生まれる論理的な飛躍を、学習科学の理論でどう埋めて小さくできるか考えた方が良い」というものでした。私は入学当初、社会正義教育という分野の哲学的な理論を現場で実践するような研究をしたいと思っていました。そのような研究をする場合、どうしても哲学を実証研究に落とし込む時に、哲学に何かしら操作的な定義を与えて哲学と実証研究を橋渡しする必要があります。ただ、無理に操作的定義を与えることでその哲学・思想の持つ豊な含意が減じてしまうことがよく起こります。杉山さんからは「それを避けるためには、社会正義教育のその哲学を学習科学の言葉で言い換えるという作業を丁寧にやったらいいよ」とアドバイスをもらいました。

この時、自分の中で離れていた社会正義教育と学習科学がグッと近づき、少し重なったように感じています。山内研には学習科学・教育工学×〇〇という学際領域の研究をやる人がたくさんおり、私もその一人です。ただ、私は4月入学当初は学習科学・教育工学×社会正義教育の学際研究を志していたものの、その二つがまだ自分の中で離れて別々に存在していたように思います。ファシリテーター杉山さんのアドバイスによって離れていた二つの領域が近づき、自分の中での学際領域の研究像が少し明確になったのでした。研究上の個々のアドバイスに加えて、このような研究という営み自体がグッとクリアーになるような学びも得られるのがファシリテーターとのコミュニケーションの醍醐味だと思います!

さて、ブログの最後にもう一つ杉山さんの発言で印象に残っているものを紹介したいと思います。
「研究が自分にとって、文化的で最低限度の生活だから。」これは、杉山さんに今年の夏合宿で研究者としてのこれまでを振り返るというテーマでプレゼンテーションをしていただいた時に、杉山さんが研究者を目指した理由の一つとして挙げられていたものです。言葉数が多いタイプでない杉山さんの言葉だからこそ、内に秘めた研究への愛や情熱を強く感じさせられました。

今回のブログは以上です。
次回も引き続き【突撃!隣のファシリテーター】をお楽しみください〜!

2023.10.13

秋学期のブログシリーズ予告編:山内研のファシリテーター制度って?

こんにちは!山内研M1の入澤です。
次回のブログから新しいブログのシリーズとして「突撃!隣のファシリテーター」を始めます。
山内研のメンバーが自分の研究を日々サポートしてくれているファシリテーターを紹介するという内容です。

山内研独自の制度であるファシリテーターをテーマに据えるブログのシリーズを始めるにあたって、今回のブログでは「そもそも山内研のファシリテーターとは何か?」について説明させていただきます。

ファシリテーターとは山内研の修士・博士課程の学生それぞれに1名つく研究のサポート役のことを指します。ファシリテーターという言葉通り、ファシリテーターはそれぞれの学生の研究を促進するために安全基地になりつつ背中を押すようなアドバイスをしてくれます。また、ファシリテーターの役割を担うのは博士課程の先輩や助教の方、また山内研のOB・OGの方など様々です。

山内研ではだいたい1ヶ月から1.5ヶ月に一度ぐらいの頻度で研究進捗発表の機会が回ってきますが、多くの人が自分の次の研究発表までの間にファシリテーターとの研究相談の機会を設けてアドバイスをもらっています。自分一人で研究を進めていると「これでいいのだろうか?」と悩んでしまって思考が堂々巡りしてしまうことってありますよね。ファシリテーターと相談することで、自分の研究の方向性を定めて研究を進めることができます。

このファシリテーター制度は2010年から続く制度のようで、山内研で育まれた大切な文化の一つです。私自身、この制度の力を強く実感しており、よく他の研究室の学生に自慢しています笑。さて、次回のブログからファシリテーターのサポートを受ける学生の側から自分のファシリテーターを紹介するというブログシリーズを始めます。そのファシリテーターの研究内容や人柄に加えてファシリテーターから得た学びを伝えることで、山内研のファシリテーター制度の魅力が伝わるといいなと思っています。

2023.10.01

2023年度 夏の合宿研究会レポート

こんにちは!M1の平嶋・松谷です。
10月に入ってもまだ暑い日々が続いていますが、かすかに新涼を感じる季節にもなって参りました。さて今回の記事では、2023年夏に開催した山内研合宿研究会の内容をご紹介したいと思います。今回の研究会は2泊3日で、のどかな農場と雄大な自然が広がる北海道大空町東藻琴町(網走市から車で30分程)にて開催されました。この開放的な雰囲気の中で、教育・学習に関する先人の知や現在の発展的な事例を学んできました。

ここからは、本研究会の特徴的なセッションについて紹介させて頂きます。


◉学者レビュー
山内研に所属するメンバーは共通して教育・学習をテーマに研究を行っておりますが、その背景は多様で、中には教育学以外の分野から研究室に加わった方も少なくありません。
このセッションでは、教育・学習の研究領域の重要な古典を提供した学者達のレビューを通して、教育学に対する理解増進と各自の研究の深めることを目的としています。レビューする学者は、ピアジェ、ヴィゴツキー、デューイの固定された3名に加え、M1が希望する学者を加えて決定されます。今年度の学者には、フレイレとパパートが選ばれました。

このセッションは主に2つのパートに分けられます。
まず1つ目は、各学者に関する発表になります。ゼミ生は希望する学者ごとのグループに分かれ、夏休みの期間を使って各自調査し、合宿当日に発表を行います。自身の研究との関連性の深さや、逆に自身との関連性の薄さから芽生える関心など、様々な観点からレビュー対象となる学者を選びました。各学者のバックグラウンドや提唱した理論、そして後の世代の教育実践・研究に与えた影響など多様な側面から研究者を掘り下げることで、彼らへの理解度を深めました。

2つ目のパートは、学者マッピングの作成です。学者マッピングでは、担当学者とその学者が影響を受けた、もしくは与えた他の学者・思想などの関係性を、オンラインボードでマップを作成しました。後半には、研究の学者マッピング上における自分自身の位置付けを考える作業も行いました。
マッピングを通して古典の思想家同士の関係を意識すると共に、新たに触れた学者・思想と自身の研究との関連性も吟味することができました。

◉懇親会
2日目夜の時間には、懇親会としてポストに就かれている先輩方からお話を伺いました。先輩方からは、研究者としてのアイデンティティ・成長過程及びこれからの展望などをお話頂き、その内容を元に私たちも自身のこれからの研究生活やキャリアについて考える機会となりました。

特にお話を聞いた中で印象的だったのは、教育に関わる既存の学問領域と自身の関心のあるテーマを融合させた、新たな学問領域の発展を切り開く気概とビジョンを持たれていることです。そして研究をする中ではヘイターの存在や各種ストレスなど乗り越えるべき事象が多くあるが、乗り越える上では研究室内の仲間や家族の存在などの身近な人々の存在が重要である、ということでした。

このお話を受けて私達も、自身の強みや関心のある研究領域とその周縁にある学問領域との関連性を絶えず捉えながら、自分達の研究の価値や意義を深めていくこと。そしてこれから研究に取り組む上で直面する苦労は、研究室から広がる人間関係や身近な人々との関わりによって乗り越えていくことの重要性を実感しました。


◉大空高校におけるプログラム
そして今回の研究会では、北海道大空高等学校に伺いました。この大空高校には山内先生と兼ねてより親交のある大辻雄介先生が校長職を務められており、今回は大辻先生のご厚意で大空高校の見学及び生徒の皆様との交流をさせて頂きました。

大空高校が掲げるコンセプトは「世界と地域をつなぐ大空で、路を切り開く飛行機人になる」です。この「飛行機人」というフレーズでは、空港のある大空町で自ら空に飛び上がる力を育むという、生徒が自らの学びの方法や生き方の方向性を探究する自発性に焦点が当てられています。
またこの自発性について、「飛行機人」のコンセプトは更に派生し、
・“うみだし”びと:地域の特性と最先端の理論を駆使しながら、第一次産業の可能性を最大限に活かし、ものづくりにおける新たな概念と仕組みを生み出す。
・“つなぎ” びと:地域内外の人、組織とのネットワークを生かし、人や組織をつなぎ、居場所と出番を作り、チームに新たな価値を生み出す。
・“ふみだし” びと:直感を信じて、現状に意を唱え、踏み出す。情熱を武器に周囲を巻き込み、協力しながら事をなす。
・“あみだし” びと:あるべき姿に共鳴し、客観的にも考えられ、企てる。グローバルな視点を生かして自他の足元を豊かにする計画や活動などを作り出す。
と学校を取り巻くアクターや環境との関係性を重要視した上での、生徒達の主体性・社会性・協働性・探究力等の資質能力の育成も目指されています。

この大空高校では主に2つの貴重な機会を頂きました。

まず1つ目は大空高校校舎の見学です。
各教室にはデジタルホワイトボードが完備されると共に、生徒の皆さんにも一人一台のタブレットが渡されていました。今回は数学と英語の授業の一部を見せて頂きましたが、その中でも生徒の皆さんがこれらのICTを用いて積極的に自学自習している様子が垣間見えました。

また大空高校には、地元の特産品である農産物や木花が栽培されている実習用温室、ジビエの加工場などもあります。これらの設備で、生徒によって育てられた花や農産物、畜産加工物は毎年地域で販売されており、私達もその特産品の1つである「オホーツクトマト」を試食させて頂きました。通常のトマトよりも甘味と味の深みが強く、美味しく頂くことができました!

このように地域の産業や地域住民と結びつける構内設備から、改めてこの大空高校が生徒の皆さんと地域社会を繋ぐことで、探究学習など学校外部も巻き込むようなこれからの活動の土壌を作ろうとしていることが伺えました。

2つ目は、大空高校の生徒の皆さんとの交流会です。
ゼミ生は、大学のイメージ説明・大学生活の説明・勉強方法の相談・その他の質問への対応、の4グループに分かれ、それぞれの観点から生徒の皆さんに大学生活に対する意識を高めてもらうことを目指しました。
交流会前にはゼミ生企画のアイスブレイクアクティビティも行われ、互いに打ち解け合った雰囲気の中で交流が行われました。

今回交流させて頂いた生徒の皆さんは大空高校の寄宿舎に入寮している方が多く、道内だけでなく東北・関東などの他県出身者にも多くいらっしゃいました。話を聞く中では、大空高校による規則や学習過程の自由度の高さが全国各地から生徒の皆さんを惹きつけていることが伺えました。
印象的だったのは自由な大空高校の環境の中で、自身の興味・関心や将来のビジョンを深めようとする生徒さんが多かった点です。大空高校の方針では、勉強でも課外活動でも、目標設定やその実現に至るまでの過程を学校側が押し付けるのではなく生徒の皆さん自身で考えることが尊重されています。よって高校1年生時点で海外に目を向けて独自に第二言語の勉強を開始するなど、自己設定した夢に向かって自身で計画を立てようとする生徒さんも複数いらっしゃいました。

また、今回の交流会は、ゼミ生にとっても学びの場となりました。生徒の皆さんとの交流の中で大空高校の学びを実感するだけでなく、教育・学習を研究するゼミ生にとって、インタビューや発話分析のような質的調査から教育効果や学習者の意欲などを調査するという点でも貴重な機会となりました。

今回の交流会は私たちにとっても発展的な教育が与える影響を質的に探る興味深い経験となるとともに、生徒さん自身の夢やビジョンを聞き出してその実現に向けての道のりを共に考え、楽しく有意義な時間となりました!

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