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2007.02.22

【Book Review】『コア・コンピタンス経営』

 
G.ハメル&C.K,プラハラド著・一條和生訳『コア・コンピタンス経営』日本経済新聞社,1995。

原著はG. Hamel & C. K, Prahalad.,”Competing For The Future”(1994)です。
著者は両者とも経営学(国際経営・企業戦略)の研究者です。
内容は経営戦略論です。文量は380頁程度。訳は読み易いです。

本書は経営戦略論では、資源論(競争優位の源泉を組織資源により議論する学派)に位置づけることができます。
学術的な有用度は、経営戦略論ならば“重要”、更に資源論が論点ならば“避けては通れない”です。

本書は企業が“持続的に競争優位を獲得する”ための考え方を示しています。
題名にあるコア・コンピタンスとは、“顧客価値を提供する自社の中核能力”のことです。
このコア・コンピタンスを未来市場において増強することが、持続的競争優位につながるということが論点です。

私情では原題の”Competing For The Future”が大変気に入っています。本書の内容はまさにこの原題に尽きるからです。
「コア・コンピタンス経営」というと、さもそういった経営プロセスがあるような誤解を受けます。
しかし本書で示されていることは、未来市場で勝つことを構想し、どのように組織資源を増強するかという考え方です。

目先の(今重要に思える)活動を場当たり的に連鎖させるのではなく、10年後の未来市場を構想し戦略を構築する、という考え方には、
私達が組織運営を考える場合の“判っているようで解っていない”、重要な指摘があると思います。

[M0 山田寛邦]

2007.02.19

【Book Review】「グループウェアのデザイン」

石井裕著(1994)『グループウェアのデザイン』共立出版

 本書はグループウェアとは何かやグループウェアの設計や具体例について書かれています。

 グループウェアとは「共通の仕事や目的を持って働くユーザーグループを支援し、共同作業環境へのインターフェースを提供するコンピュータベースのシステム」です。グループウェアの対象とするグループとは、一般的に全社的な規模のそれではなく、比較的小規模なタスクフォース的なグループをさしています。。
 グループウェアを従来のシステムと区別する重要な要件としてウィノグラードは、人々の協調構造に基づいて設計されたシステムであることをあげています。すなわち、グループウェア実現に用いるコンピュータシステムの構造ではなく、グループワークそのものの構造に設計の焦点があるということです。
 グループウェアは構造的アプローチと非構造アプローチがあります。
 構造アプローチは、ヒューマンコミュニケーション構造のモデル化です。これらは非同期型のグループウェアで有効になるでしょう。しかし、構造アプローチは例外処理に弱いという欠点があります。
つまり、支援システムに構造を持ち込むことはツールをあるタスクに特化することであり、ユーザーにその構造を制約としてかすことなのです。
 非構造アプローチは、構造アプローチの逆となるものです。映像を生かしたマルチメディアグループウェアなどがあげられます。

 私は学部時代、コンピュータサイエンスを専攻していました。その影響で協調システム等を設計しようとした場合、システムの構造をどうするかのみ考えがちになります。この本はそういった人にもどのようにシステムを考えていけばよいか示唆を与えてくれます。

2007.02.08

【Book Review】「発想する会社!」

トム・ケリー&ジョナサン・リットマン 鈴木主税・秀岡尚子訳(2002)
『発想する会社!-世界最高のデザイン・ファーム・IDEOに学ぶイノベーションの技法』
早川書房

だいぶ前にコピーライターで劇作家の知人の方に紹介していただいた本。

「こんな風にものづくりができたら楽しいだろうなあ」という話が、たくさんのカラフルな写真とエピソードとともに描かれており、とても刺激的な本です。

IDEOは、古くはマッキントッシュの初期のマウスをデザインしたほか、歯磨きのチューブ、ラップトップコンピュータ、医療機器、マウンテンバイク用のウォーターボトル、子ども用歯ブラシ、玩具、鉄道車両など、「機能的で遊び心に満ちた」デザインで名をとどろかせている会社です。クライアントも、アップル、パーム、プラダ、ペプシ、ピクサー、P&Gなど。最近では「なぜIDEOではクリエイティブなデザインが生まれるのか」と、この会社そのものが注目を集めるようになっており、今では“働き方そのもの”をコンサルティングするようなことまでやっているそうです。

難しい理屈ではなく、実例が豊富なのがこの本の良いところです。写真も装丁もきれいで、眺めているだけで楽しい。「コミュニティ・オブ・プラクティス」や「企業内人材育成入門」のようなちょっと硬めの本を読む前に、こういう柔らかい本にざっと目を通しておくと、理解がぐっと深まるのではないでしょうか。

IDEOのメンバーはみんなイタズラ好きで、この本に収められたエピソードひとつひとつから、会社の生き生きとした雰囲気が伝わってきます。多くの日本の企業に勤める人にとって、このような働き方は斬新を通り越して、ほとんど革命的なのではないでしょうか。

もちろん「プロダクト・デザイン」という職種だからこそできることもあるのだと思いますが、ここに描かれている、自分が選んだ仕事・プロジェクトとの向き合い方、その構えのようなものは、どんな仕事をしている人にも(もちろん研究者にも)、適用できるものであるはずです。[平野智紀]

2007.02.01

【Book Review】「素人のように考え、玄人として実行する」

金出武雄(2004)『素人のように考え、玄人として実行する』PHP研究所

「なにか困ったときに、ふと手にとってみると、その答えが書いてある」という体験をさせてくれる本はいくつかありますが、今回紹介する本は、そんな本の1つです。

この本はロボット工学の研究者である著者が、「問題解決の方法」について書いたものです。内容は、著者自身の経験から、考え方のコツや、そのときのメンタル的な部分まで幅広く書かれています。

「考え方」について書かれた本というのは、いくつかあると思いますが、この本の主要なメッセージというのは、シンプルでありつつ、強力です。それはタイトルにまさに集約されているのですが、ポイントは、

・発想は、単純、素直、自由、簡単に(素人のように)
・実行は、知識と習熟した技で(玄人として)

ということです。本の中で紹介されている方法や、考え方は、基本的にこのアイデアが元となっています。

例えば、その中の一つに「キス(KISS)アプローチ」というものがあります。KISSとは、"Keep it simple, stupid"の頭文字です。意味は、「こら、簡単にやれ!バカモノ」ということらしいのですが、もっとストレートにいえば、「ごちゃごちゃ言わずにやれ」ということのようです。

これは、なにかをやり遂げる前に「できないこと」をいろいろ想像して前に進まない学生に対して言うそうです。つまり、やる前に思い悩んでいてもなにも進まないが、それをやってみることで「何が難しいか」がわかることもある。つまり、簡単に一歩目を踏み出すことで、困難な点が明らかになってくるということを示しています。

「素人発想、玄人実行が大切だ!」とわざわざ書いていたり、なるほどと思うのは、人は得てして、その反対の「玄人発想、素人実行」になりがちだからだと思います。

自分自身を振り返ってみても、まさにそうなっている部分というのが多々あります。学部3年のときに買ったこの本を、なぜかいまごろ手を伸ばして読み直しているのも、こうした反省からかもしれません。

「素人のように考え、玄人として実行する」

当たり前のようでいて、難しいこの言葉ですが、自分の考え方、問題解決の仕方がうまくいっているのかを振り返るときに、ひとつのよい指標となるのではないでしょうか。みなさんにおすすめというよりも、自分自身にたいしてのメッセージが強い気もしますが、この本は研究活動をしていく上で、基本になる一冊のように思います。

[舘野泰一]

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