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2020.10.31

【徒弟的学習】文献とディスカッション内容の紹介(M1 倉持裕太)

M1の倉持です。今回は、大学院生が、ゼミで扱っている英語文献とディスカッション内容を紹介するシリーズということで、私からは、春学期に扱った、International Handbook of the Learning Sciencesの第5章:徒弟的学習について紹介します。

徒弟的学習とは、LaveとWengerが1991年に出版した本である『状況に埋め込まれた学習:正当な周辺参加』にもあるような、実践共同体の中で、上級者から徐々に与えられた慣行を習得し、やがて共同体のメンバーとなっていくそのプロセス中にある学習のことです。
授業や何かしらの決まった講座を受けて得られる学習というよりかは、共同体の中に属し、その場で様々な人と相互作用しながら状況的に学習されていく点に着目をしています。
これまでは、上記にもあるように「実践共同体」をフィールドに研究が行われることが多かったのですが、そこでの研究成果を学校教育に持ち込み、学習者に様々な支援を行うことができるのではいか?という視点から、文献では徒弟的学習の学校への応用について、認知的徒弟制のモデル※1を参考にしながら、学ぶ知識、支援の方法、学習課題の順序付け、社会的文脈の構築などの観点から議論が繰り広げられています。

※1 「認知的徒弟制」とは、徒弟制の中にある学びを以下の4つの段階としてモデル化したもの
・徒弟が親方の作業を見て学ぶモデリング(modeling)
・親方が手取り足取り教えるコーチング(coaching)
・徒弟にできることを確認して自立させるスキャフォルディング(scaffolding)
・親方が手を退いていくフェーディング(fading)

今回のディスカッションテーマは「自然科学・社会科学・芸術領域における認知的徒弟制の事例を考えよ。」ということで、3つのグループに別れて、それぞれのグループのメンバーが様々な事例を持ち寄り、議論を行いました。
自然科学チームでは、大学の研究室などの場所を想定しながら、先輩-後輩間で徒弟的な学習が生じているではないかという議論が行われていました。ただ、自然科学らしい認知的徒弟制という点でオリジナリティを出すのが難しいよね、といった話もありました。
社会科学チームでは、教育実習にて、上記の認知的フレームワークをベースとした学習が行われているのではないかといった議論が行われていました。
芸術領域チームでは、美術領域では、モデリングが十分に行われないまま実践させることや、ダンスなどの領域では、ひたすらモデリングを行うことなどがあるなど、部分的に徒弟的に学習が行われているが、認知的徒弟制の4つの段階で熟達していくかは判断しにくいよね、といった議論が行われました。

このような事例を改めて考えてみると、私達が生きる様々なコミュニティの中にはあらゆる箇所で部分的に徒弟的な学習が行われており、そういった、状況的で、ある意味自然発生的な学習が繰り返されるうちに、いつか教える立場になっている、なんてこともあるんじゃないかと思います。
そうして教える立場になったときに、これまで自分が受けてきた指導の方法を鵜呑みにして行うのではなく、今回議論した認知的徒弟制のモデルという考え方を意識して実践してみると、よりよい教授ができるかもしれないです。

参考:
東京大学大学院情報学環 ベネッセ先端教育技術講座 BEAT, Beating 第16号「5分でわかる学習理論講座」第5回:実践を通した学習のなかで知識を獲得する〜「認知的徒弟制」:
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/archives/beat/beating/016.html

2020.10.28

【お知らせ】「学習環境のイノベーション」発刊記念ブックイベント

「学習環境のイノベーション」発刊記念ブックイベントを開催することになりました。
デザインマネジメントが専門の立命館大学八重樫教授との対談です。
よろしければご参加ください。

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コロナ禍のうちに始まった2020年度は、のちに「オンライン授業元年」と呼ばれるかもしれません。
対面授業の「再現」を目指す現場の悩みの向こうに、「新しい学びのかたち」は現れるのか…。
学習環境という人の学びをささえる仕組みをデザインする方法について、先駆的に研究・実践してきた東京大学山内教授と、「デザインマネジメント」を研究する立命館大学八重樫教授が、山内教授の新刊『学習環境のイノベーション』第III部を題材に語り合います。
特に「問題解決的デザイン」と「問題創出的デザイン」の2つのダブルループモデルに関する議論、必聴です。
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『学習環境のイノベーション』発刊記念 いま「学習環境のデザイン」を考える
──オンライン授業を超える「新しい学びのかたち」とは?
パネリスト:
山内祐平氏(東京大学教授)×八重樫文氏(立命館大学教授)
開催日:
2020年11月18日(水)19:30- zoom 開場 19:20-

http://ptix.at/sL2a1Q

2020.10.23

【ラーニングプログレッションズ】文献とディスカッション内容の紹介(D4 平野)

D4の平野です。大学院生が、ゼミで扱っている英語文献とディスカッション内容を紹介するシリーズです。私からは、International Handbook of the Learning Sciencesの41章:ラーニングプログレッションズについて紹介します。

ラーニングプログレッションズとは、適切な教授が行われた場合に実現する、個々の学習テーマについての比較的長期にわたる概念変化や思考発達をモデル化したもの山口・出口2011, p.338)です。幼稚園児から大学生までのあらゆる学齢におけるスタンダードやカリキュラム、教授と評価のデザインのための仮説モデルであり、とくに数学と科学における学年を超えた学びのつながりを示すことを提案しています。

文献では、ラーニングプログレッションズの研究方法として、①インタビューや筆記テスト等の横断的アセスメントを行い、各段階の学習者の理解を精緻化する研究、②長期的なデザイン研究により学習者の理解の進展を追う研究、があるとされています。ディスカッションのテーマは、これら2つの視点から、大貫(2016)で述べられている「物質の変換」に関するプログレッションの研究の具体例を考えることでした。

↑「物質の変換」に関するプログレッション(大貫2016, p.43)

①横断的アセスメントチームは、水の状態変化(氷→水→水蒸気)について、身近な素材に関する実験を行った上で、学習者にインタビューすることで、概念の理解度を調査するアイデアを出してくれました。②縦断的デザイン研究チームは、状態変化は理解できているが化学変化が理解できていないレベルの学習者について、どのような教授を行えば適切な方向に理解を導けるかを、デザイン研究として行っていく案を考えてくれました。

私は社会人大学院生で、文献報告として本章を選んだのは、本務先で学力テスト等の大規模アセスメントの実務に携わる経験を長くしてきたことが挙げられます。その中で「AはできているがBはできていない」「両方できていない」「そもそもAとBの基準では判断できない」といった生徒の解答に数多く出会ってきました。

ディスカッションのまとめとして出てきたのは、ラーニングプログレッションズとは、ある意味で、学習科学によるカリキュラムへの挑戦だ、という意見です。科学・数学の何をどういう順番で教えるか、実際の子どもの理解の仕方をみて、研究をベースに、教え方やプログレッション自体も組み替えていくのが、ラーニングプログレッションズ研究です。

GIGAスクール構想により、コンピューターベースドテスティングの推進や、教育ビッグデータの活用がにわかに現実味をもって語られるようになってきていますが、ラーニングプログレッションズは、教育にエビデンスベースを導入するひとつの提案と言えるでしょう。

平野智紀/内田洋行教育総合研究所

2020.10.13

【お知らせ】10/29(木)研究室説明会開催

大学院学際情報学府の冬季入試が1月から2月にかけて行われますが、それに先立ち研究室の説明会を10/29(木)にオンライン開催いたします。

▶︎山内研究室説明会
10月29日(木)12時から13時まで

12時〜12時10分:研究室の概要説明 (山内祐平)
12時10分〜12時20分:大学院生・スタッフの自己紹介
12時20分〜12時30分:質疑応答(山内祐平)※1
12時30分から13時:大学院生・スタッフとの個別相談 ※2
(ひとりあたり30分程度)

※1 受験の公平性を確保するため、研究計画に関するコメントはできません。
ゼミの運営や研究プロジェクトについて質問を受けます。
大学院生・スタッフとの相談
※2 研究室の雰囲気や研究の内容について聞いてください。
大学院生・スタッフは審査に関わりませんので、研究計画について意見を求めてもかまいません。

参加を希望される方は、研究テーマ(相談する大学院生・スタッフを選ぶ際の参考にします)を書いていただいた上で、iiiylabcontact[atmark]gmail.comにメールしてください。
折り返しZoomのアドレスをお知らせします。

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