BLOG & NEWS

2022.12.14

自分の研究に影響を与えた書籍の紹介 (M1田中冴)

みなさまこんにちは。M1の田中です。

2022年度後期のブログテーマは「自分の研究に影響を与えた書籍の紹介」となりました。
これから山内研メンバーが持ち回りで執筆していきます。お楽しみに!

自分の研究に影響を与えた書籍ということで、複数候補が思い浮かび非常に悩んだのですが、人間の思考の道具としてのコンピュータへの興味に最初に私を駆り立てた本ということで、学部時代に出会ったこちらの一冊を選びました。

思想としてのパソコン(1997) 西垣通
(この本は山内研がある福武ホール内の学環コモンズの本棚にも置かれているのですが、そちらは西垣通先生ご本人のサイン入りでした。入学早々見つけてぶち上がりました)


この本は、西垣先生がパーソナル・コンピュータの歴史におけるキーマンとして取り上げた、ヴァネバー・ブッシュ/アラン・チューリング/J・C・R・リックライダー/ダグラス・エンゲルバート/テッド・ネルソン/テリー・ウィノグラード/フィリップ・ケオーの7人の言説から「パソコンという思想」の成り立ちを追いかけていくというもので、西垣先生による序章と、7人のキーマンの主要な論文の日訳で構成されています。なのでこの本のメインは日訳された7本の論文になるのですが、学部時代の私が大きく影響を受けたのは、その論文の前に掲載されている序章部分でした。

序章前半では、7本の論文を時系列で概観しパソコンの歴史をコンパクトに解説してくれています。
パソコンが主流になる前の1970年ごろまでは、コンピュータといえばもっぱら”メインフレーム”と呼ばれる汎用大型コンピュータでした。それは恐ろしく高価で、部屋いっぱいを占めるほど大きくて、動かすのに人が何人もいるような大層なものでした。そのため、メインフレームを所持できるのは大企業や軍隊といったエリートのみでした。これが、戦時中は弾道計算なんかに使われたということです。
パソコンは、このメインフレームに対抗して、1960年〜80年代のアメリカで誕生しました。「エリートたちが使ってるアレを俺たちも使うぞ!」という感じでしょうか。中央管理や権威を嫌い、反戦を訴えるカウンターカルチャーとしての側面が強かったため、その基底には「一般市民のための安くて使いやすいコンピュータ」という思想がありました。
こういった歴史を追いかけていくと、コンピュータという機械自体の可能性を問い続けるメインフレーム・コンピュータと、コンピュータをヒトの道具としていっそう洗練させていこうとするパーソナル・コンピュータという2つの大きな流れが見えてきます。本で紹介される7人のキーマンは、まさにこれらの流れが混交する時代(1940~1990)を生き、「パソコンという思想」の基盤をつくっていった人物たちと言えるでしょう。

序章後半では、これらの歴史を踏まえ、パソコンを”思想”として見つめ直していきます。この本、そして序章のタイトルがともに「”思想”としてのパソコン」である理由とも言えるパートだと思います。パソコンに何かを期待する人たちの思想を形作っているのはどんなものかについて、機械製作により自分の中の獣性を克服しようと努力する西洋の宗教的情熱や、統御支配できる領域を拡大していこうとするアメリカのフロンティア精神などを引用しつつ論考されています。序章の最後では、パソコンという思想はまだ未完のものであり、その中枢はこれから我々がつくっていくものであると締めくくられます。


それまでは、ただ”技術”として見つめていたコンピュータを、”思想”として見つめるきっかけをくれたという意味で、私にとっては大事な一冊です。この本を起点にして、特にネルソンやウィノグラードの思想に興味を持ち出し、人間の道具としてのパーソナルなコンピュータとその思想に次第に嵌まり込んでいくこととなりました。学部時代は計算技術そのものに関心を寄せていた時期もありましたが、こういった本や思想と出会い、「人間はコンピュータをどう使えばいいのか、人間はコンピュータに何を期待するのか、人間とコンピュータはどう異なるのか」といったことばかり考えるようになり、気づいたら人間のことばかり考えていました。人間とコンピュータはどう異なるのかを考えれば考えるほどそのコントラストが強くなり、人間のやっていることの複雑さや面白さが気になり始めたんです。その結果、今は大学院で人間の学習を扱う研究室にいます。

最後に、本書序章内の、私が大好きな一節を引用して終わりにしようと思います。
「電脳批判派は機械を自然に対立するものとして位置付けるが、それは正鵠を得ているだろうか。とくに問題となるのは「ヒト(人間)」と「コンピュータ」との関係である。ヒトがコンピュータに期待することは本質的に何なのか。ヒトとコンピュータとは異質な存在なのか。もし相違点があるとすれば、それは何なのか。そういう、ヒトとコンピュータの関係の深層にメスを入れないかぎり、情報化社会の未来図を描くことはできない。情報化社会をデザインするとは、ある意味では、ヒトとコンピュータのあらゆる関係をデザインしていくことだからだ。」

【田中冴】

2022.10.24

2022夏 合宿研究会 学者レビュー振り返り(バフチン班)

こんにちは、D3の井坪とM1の仲沢です。
前回の田中さんの記事であったように、これから数回にかけて各学者レビューの内容と、担当者の感想をご紹介していきたいと思います。


私たちがレビューしたのはロシアの学者、ミハイル・バフチンです。
バフチンはドストエフスキー小説を扱った文学研究者としての側面が有名かもしれませんが、それ以外にも美学・記号学・哲学・・・と、「対話」の原理を大きな背景として、学際的な知を形成していました。

バフチンは、自分と一体化・融合することのない別の人間を「他者」とし、自分と他者の「差異」を大切にしたとされています。バフチンが考える「対話(ダイアローグ)」は、他者との相互作用という出来事であり、単に話を交える行為以上の出来事そのもの、世界そのものでした。そして、その動的な関係の中で生じている意味や価値を重視していたのです。
興味深いのは、ともすればお互いに分かり合うために譲歩しあうプロセスと見なされかねない対話について、バフチンは「理解行為においては闘争が生じるのであり、その結果、相互が変化し豊穣化する」と述べている点です。能動的な同意・不同意には意味があるとしつつも、相互の溶解や混合が起こった時点で、ダイアローグはモノローグになってしまうと解釈していたのでした。
ダイアローグがモノローグにならないためには、バフチンが注目していた対話における聴き手の「能動性」の考え方が参考になりそうです。バフチンは、受動的な理解は、理解されている言葉を複製するのみで豊かにはしないということを述べており、実際に世界で起こっている能動的な理解は両者のあいだに新たな意味が見出されるものだと考えていました。相異なる他者との相互作用のなかにおける同意・共鳴と不同意・不協和は、バフチンにとっては同等に価値あるものだったのでしょう。相手との差異を操作的に統合しないような能動的理解とは、具体的にどのような実践になるのか、バフチンの理論を能動的に理解しながら考えてみたいです。


以下、レビュー担当者からの感想です。

「バフチンの考え方は、近年、外国語教育といった分野にも応用されており、一般的・普遍的な言語はなく、言葉は他者のコンテクストの中から獲得して自己のものとしなければならないといった形で解釈をされています。その背景にあるのは、バフチンが言う"他者"の異質性かと思います。人間は各個人違う背景や文脈を背負っており、異質なものであるけれども、そこでインタラクションを諦めるのではなく、異質だからこそ言葉を紡ぎ、対話をすることが重要だと解釈しました。」(井坪)

「バフチンは、ドストエフスキーの小説やラブレーの小説を対象として分析することをとおしてこの世界の相互作用を探究しました。
ドストエフスキー小説における〈ポリフォニー〉は、複数の対等な意識が融合しないまま組み合わさって動的な統一体を為すものだと説明されます。また、ラブレー小説における〈笑い〉や〈カーニヴァル〉は、両極的な価値や立場が統合されておりその二極の交替のプロセスそのものを祝うものだと解釈できます。このように一言で説明してしまうと、バフチンの分析対象やそこから生成された概念はかなり特殊なものに思えてしまうかもしれません。しかし、バフチンはこのような特殊例も我々の生活も同じ対話原理が貫いていると考えていました。すると、私たちにできることは、シングルケースの研究から気づきを得るように、特殊事例を切り離して考えず、バフチンが生んだ概念を元にして具体的な実践や生活をデザインしていくことだと思います。
個人的な関心と紐付けると、バフチンが分析対象とした対話事例が小説という芸術作品であったことは見落とせない点だと考えています(バフチン自身もそこに言及しています)。もしかすると、実践の中で〈ポリフォニー〉や〈カーニヴァルの笑い〉が実現する際には、芸術的な表出が必要になるのかもしれません。ワークショップにおけるグラフィックレコーディングの絵の要素やSTEAM教育のArtの要素の意義は、まだ明らかになっていない部分が多く残されていますが、非記号的な芸術的表出によってこそ成し得ることを探究していきたい思いです。その探究の過程で、バフチンの思想からはおおいに刺激を受けました。」(仲沢)


以上、バフチン班からのレポートでした!


【参考文献】
桑野 隆(2020)バフチン : カーニヴァル・対話・笑い 増補版.平凡社
立本秀洋(2019)「 ミハイル・バフチン: 外国語学習と了解者」英語表現研究, 36, 49-63.

2022.10.17

【お知らせ】大学院冬季入試文人コース説明会

10月29日(土)13時より、山内研究室が所属する大学院学際情報学府文化人間情報学コースの入試説明会がZoomで開催されます。
山内も参加してミニトークとQ&Aセッション※1に参加しますので、受験をお考えの方はぜひご参加ください。

https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/event/221029culturalexam

今回の冬季入試では研究室説明会は開催予定がありません。
研究室の雰囲気が知りたい方には、大学院生との個別面談を調整しますので、ウェブサイトに記載したコンタクト用アドレスからご連絡をお願いします。※2

※1 受験の公平性を確保するため、研究計画に関するコメントはできません。
ゼミの運営や研究プロジェクトについて質問を受けます。
大学院生・スタッフとの相談
※2 研究室の雰囲気や研究の内容について聞いてください。
大学院生・スタッフは審査に関わりませんので、研究計画について意見を求めてもかまいません。

2022.10.05

2022夏 合宿研究会 活動報告(学者レビュー会)

皆さまこんにちは、M1の田中です。
前の2つの記事に引き続き、今回も夏の合宿研究会のレポート記事です。
この記事では、合宿研究会のメインの活動である学者レビュー会について紹介いたします。

山内研には、学習や教育以外に関するバックグラウンドを持つメンバーも多く、各自の研究テーマも多種多様です。
そんな多様な山内研メンバーの研究を根底でつないでいる、教育・学習の研究分野の古典を学ぶのが、学者レビュー会の目的です。
普段の自分の研究に関わるレビューではあまり触れられないような古典の思想家について、夏休みの期間を使って各自調査し、合宿当日に発表を行います。

例年、デューイ、ピアジェ、ヴィゴツキーの固定の3名の学者に、M1の希望を中心とした+αの学者を加えてレビューが行われます。
今年の+α学者は、バフチン、ブルーナーでした。
各学者を2、3名の学生で担当してレビューを行いました。

合宿一日目では、各チームが夏休み期間に準備した、各学者に関する発表を聞き合います。
合宿二日目では、一日目に聞いた各学者の発表をもとに、学者マッピングを作成していきます。
学者マッピングとは、担当学者や、それに影響を受けた他の学者、思想などの関係性について、オンラインのホワイトボード上で視覚的にマップを作っていく作業です。
学者レビュー会最後の時間には、作成した学者マッピング上で各自の研究がどこに位置づくかを考え、自分の研究と古典の思想家たちとの関係を意識することを目指しました。

これから、各学者担当チームの執筆する、各学者レビューの内容や感想の記事も随時上がっていく予定です。お楽しみに!

2022.10.01

2022夏 合宿研究会 活動報告(キャリアに関する学習セッション)

加藤さんからのバトンをつないで、今年度の夏の合宿研究会での活動について紹介します。M1の仲沢実桜です。
合宿研究会のメインプログラムは、教育・学びの領域の哲学的ルーツとなる学者たちについてレビューすることを通して、自分たちの研究をより厚みのあるものにする「学者レビュー」ですが、夜の時間には、「キャリアに関する学習セッション」として皆で焚き火を囲みながら話を交えることもしました。



普段のゼミ活動では、それぞれの研究内容について議論していて、研究をしているその人の歩んできたキャリアについて話をする機会はなかなか無いので、貴重な時間になりました。
多くの学生が考えるだろうテーマ「修士課程で研究をした後に、就職するか博士課程に進学するか」の判断について、各々の選択を振り返って話を交えました。


当然、それぞれの選択結果やそこにいたるまでの過程はさまざまです。
● 事情や制約を鑑みて就職の判断をする
● 深く考えずに勢いで博士課程に進学する
● 自分自身が研究者に適性があるか内省し、自分の強みをつくる
……etc


話を聞いていく中で印象的だったのは、
「(人との)ご縁」の影響やそれに対する感謝を口にする人が多かったことです。
他領域の研究者との交流のなかで、相手の領域では当たり前になっていた研究助成金の申請について教えてもらったエピソードや、
山内研という環境で研究について議論できることや力を貸してくれる人がいることのありがたさが語られていました。


私も、自分がしてきた研究に関する行為・選択が、自分ひとりでしたことではなく、環境の影響や他者との関わりのなかで導いたものであることを振り返って実感しました。


この、研究という営みについての外部との相互作用の観点は、学習観が、個人的な教授パラダイムが支配的だった時代から変遷して、学習環境デザインの考え方や学習パラダイムが浸透してきたのと通じるように思います。

研究は「ひとりでやっていることではない」のだ、と、まじりあった「勇気と責任」を身に染みて感じる機会となりました。


仲沢実桜

2022.09.20

3年ぶり!合宿研究会で山中湖に行ってきました(9/4-9/5@PICA山中湖)

こんにちは!徐々に涼しい風が吹くようになり、あんなに嫌だった暑い夏が少し恋しくなっている修士1年の加藤です。あっという間に9月も下旬ですが、今年の夏の山内研合宿研究会についてご紹介できればと思います。山内研ではコロナの影響により、2020年から合宿研究会は大学内の日帰り形式で行っていました。そして2022年夏、久しぶりの泊りがけの研究会が開催されました。富士山を望む山中湖のコテージにて、先生と先輩方と朝から夜まで学びを深めることができました。今年の夏合宿については、これから数回に分けてブログに投稿していこうと思います。どうぞお楽しみに!

2022.06.19

研究に役立つウェブサイトやツール(D3 井坪葉奈子)

こんにちは、D3の井坪です。
日本の大学生が、英語の会話により積極的に参加するための学習環境について研究を進めております。
今回のテーマが「研究に役立つウェブサイトやツール」ということで、私からは英語を使って研究する際に使えるウェブサイトやツールをご紹介できればと思います。

①otter.ai
私の研究では、英語の会話を録音し、書き起こしたものを分析するのですが、文字起こしというのはなかなか骨が折れる作業なのではないかと思います。業者さんにお願いするという手もあるかもしれませんが、自分で文字に起こす際にはどのような工夫ができるのか、修士研究時に色々と試行錯誤しました。
Google docsの音声入力をオンにして、聞いたものをそのまま自分で話して書き起こしてみたり、文字起こし用の再生ソフトを使ってみたり・・・。
そんな中、比較的しっくり来たのがotter.aiという、AIを利用した自動文字起こしツールです。
英語のオーディオファイル・ビデオファイルをインポートすると、可能な場合は話者も判別して文字起こしをしてくれます。
もちろん、全てを完璧に起こしてくれるわけではありませんが、自分で起こす際にベースになる文字データがあるとないとでは全然違うように感じます。

②Grammarly
英語の文章を書く際に、ミススペリングや、冠詞の付け方といった基礎的な文法をチェックしてくれるツールです。
PCにダウンロードすると、ウェブブラウザでメールを書いたり、Wordで文章を書いている時にも、その場で確認してくれます。
自分で一から書いていると気付きにくいけれど、赤で下線を引かれると、「あ、もしかしてこう書くべきだったかな」とより良い言い方について考えることができますし、サジェストされた修正案と自分の書き方を見比べて検討することで、英語学習につながる部分もあるのではないかなと思います。
文法やスペリングのチェックだけでなく、読者にどのように聞こえるか?という文章の印象(丁寧さなど)も教えてくれるので、英文メールを書く際などには参考にしてみてください。

③DeepL
翻訳ソフトのDeepLはご存じの方も多いのではないでしょうか。
翻訳ソフトを使うと、単なる直訳になってしまい、意味が分からない・・・となってしまうこともあると思うのですが、こちらは比較的わかりやすく、細かいニュアンスを拾って訳してくれるように感じます。

自分の母語ではない言語で研究をする際、認知的な負荷がかかるのはもちろんですが、心理的なハードル・苦手意識でチャレンジを躊躇ってしまう人もいるかと思います。
こういったツールを活用することで、少しでも抵抗を減らせるといいですよね!
自分1人で完璧に英語を使いこなせるのが理想だな~と考える人も多いかと思いますが、ツールや他人など、外からの助けを使いこなすことも、大切な力なのかなと感じました。

【D3 井坪葉奈子】

2022.06.13

研究に役立つウェブサイトやツール:研究者を知る(D6 平野智紀)

D6の平野です。アート鑑賞の方法論である「対話型鑑賞」のファシリテーションについて、博士論文審査の準備をしています。

学際情報学府には社会人大学院生のための長期履修制度があり、従来の年限の2倍まで(修士は4年、博士は6年)学生として在籍することができますが、私もD6になり、いよいよ背水の陣となっております。。

さて、今回のブログテーマは「研究に役立つウェブサイトやツール」ということで、「研究者を知る」をテーマに2つをご紹介したいと思います。

◆researchmap
1つ目はresearchmapです。researchmapは、国立情報学研究所が2009年から提供している研究者総覧データベースです。研究者自身が登録・更新するので、人によって内容に違いはありますが、研究者の論文や研究発表だけでなく、担当した授業や社会貢献活動なども登録されています(いちおう私の本務先は企業内研究所のため、私のresearchmapもあります)。

研究計画を立てるためのレビューを行っているときに陥りがちなこととして、先行研究をキーワードで検索し、バラバラと論文を読んでいくため、研究領域やそれを構成する主要な研究者といった全体像が見えにくいことが挙げられます。そんな中でresearchmapは、まず国内限定ではありますが、「人」という視点から研究領域を俯瞰できるシステムと言えます。

たとえば、昨今のキーワードのひとつとして「ラーニングアナリティクス」があります。ラーニングアナリティクス研究で有名な緒方広明先生のresearchmapを検索すると膨大な業績がありますが、そうした研究にたどり着く前に、モバイルラーニングやユビキタスラーニングの研究を行われてきたことがわかります。

このように、ある論文が検索にヒットしたとして、どんな研究をしてきた研究者がそれを主張しているのかを把握することができるなど、研究者がたどってきた研究履歴をたどることで、研究領域への理解の立体感が増すと言えるでしょう。

◆Twitter
2つ目はTwitterです。ご存知のとおりTwitterは世界有数のSNSですが、研究者の先生が普段どんなことを考えているか、どんな情報をウォッチしているか、知ることができるのはSNSの大きなメリットです。ある種、生きた人間としての研究者に出会うことができる場と言えるかもしれません。(いちおう私のTwitterもあります)

たとえば現・日本教育工学会会長の堀田龍也先生のTwitterには、文部科学省の会議や登壇されるイベントの情報をたびたび流してくださるので、堀田先生をフォローしていれば、初等中等教育において国や自治体レベルでどんなことに取り組まれているのか、動向を把握することができると言っても過言ではありません。また、シェアされる写真では出張先で食べたおいしいものが掲載されることも多く、大変いいなと思っております…!

それ以外にも、Twitterには海外の研究者も登録している場合があり、あの論文で読んだ研究者が、日々のよしなしごとを発信している!みたいなツイートに出会うこともあります。このように「研究者」という視点から研究を眺めることができるようになると、研究コミュニティへの参加に一歩を踏み出した状態と言えるかもしれないなと思います。

[平野智紀]

2022.06.03

研究に役立つウェブサイトやツール2022ver.(M1 仲沢 実桜)

こんにちは。修士1年の仲沢 実桜です。
私は、自身の仕事でもあるグラフィックレコーディング・グラフィックファシリテーションに対する問題意識から研究テーマを設定していて、対話などの場における、リアルタイムのビジュアライゼーション(可視化)の効果について探究しています。

さて、
今回の「研究に役立つウェブサイトやツール」というテーマと同様のテーマが、じつは本ブログで過去に何度か設定されてきました。よって、菊池さんにならって私も「2022ver」という表現を採用します。

同様のテーマの過去の記事が気になる人は、これらのリンク先から記事を辿って読んでみてください。

▶︎ 2007ver 9月あたりから辿る
▶︎ 2012ver 8月あたりから辿る

ここまでの記事を拝読しての所感としては、テーマの「研究に役立つ」という言葉をどう解釈して書くかという点(「研究にどう役立つのか」)も執筆者それぞれで、どこに目を付けるかも多様であるのがおもしろいと感じました。

私は、

【1】「研究の入り口に立つ時/立ち返るのに役立つ」という観点

【2】「研究の世界に馴染むのに役立つ」という観点

という2つの観点から、役に立つWebサイトを紹介したいと思います。

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【1】「研究の入り口に立つ時/立ち返るのに役立つ」webサイト紹介
東京大学附属図書館Literacy

 その中の特に次のページ
 > データベースの活用法

 > レポート・論文作成支援

 > 文献管理ツール

ひとつ目に紹介する「東京大学附属図書館Literacy」は、「学術情報リテラシー」に関する情報をまとめたサイトで、学習や研究をすすめていくために役立つ情報が入手できるというものです。
「学術情報リテラシー」と言われてもピンと来ない人もぜひ、ページの見出しの言葉を見てみてください。「文献データベースを使う前にキーワードの幅を広げたい!」など、見出しから情報を見つけやすいように工夫されています。扱うテーマも「論文の構造」から「文献管理ツールの比較」「査読について」まで、研究という営み全体について体系的に概説されています。また、東大附属図書室が作成したサイトなだけあって、概説それぞれに関して参考図書が紹介されている点も特徴的です。

私も最近、このLiteracyの文献管理についての説明を参考にして、文献管理ツールを使い始めて、研究を効率化してくれていること実感しています。時間は有限である中で研究を進めるとなると、できるところで効率化を図ることは重要です。このことについては、少し前の加藤さんの記事でも言及されており、「Zotero」というツールが紹介されていましたね。

Literacyのデータベースの活用法というテーマに関連させて参照したいのは、山内先生が2007年7月に自身の領域に関連する「文献検索に役立つもの」を紹介していた こちらのエッセイ記事です。しかしツールを紹介するに終わらず、その続編のエッセイ記事では、ツールを使いこなすための思考の準備段階の観点を提示しています。

山内先生の「データベースがあれば目的の文献が探せるかというと、そう簡単ではない」という指摘はもっともで、ツール単体ではなく使い方まで含めて学ぶ必要があると私も思います。

今回のブログテーマ「役立つwebサイト・ツール」についても、各人がそのツールを「どのように使いこなしているか」を想像しながら読んでみるといいかもしれません。

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【2】「研究の世界に馴染むのに役立つ」webサイト紹介
:研究者のWebサイトや、学会のWebサイト

 ※検索ツールがあると、より楽しい

続いては、研究者のWebサイトや学会のWebサイトのを見ることの勧めです。

これによって、研究の世界と気軽に親しむことができてよいと感じています。
スマートフォンが身近になった私たちの生活では、私のように、気になることがあるとすぐ「ググる」(webブラウザで検索することの意)習慣がある人も多いのではないでしょうか。ときどきは全世界を対象にするのではなく、学術的世界に寄って情報を探索してみませんか。そうすることで、研究者の考え方や研究室の文化などのメタ的情報に親しむことができると考えています。

例えば、
「創造性」に関するキーワードについて知りたい時は、日本創造学会のwebサイトで「創造性キーワード集」というまとめがあります。そのページの執筆者や出典引用元もきちんと記されているので信頼性が高いですし、なにより研究者が自身の領域のキーワードを端的に説明してくれることがありがたいです。すでに知っているキーワードでも、「このように説明するのか!」という説明の仕方についての気づきが得られることもあります。

他にも、
研究者のwebサイトとして、授業でもお世話になっている藤本徹先生のwebサイト「Ludix Lab @ UTokyo」を紹介します。この山内研究室webサイトと同様に、藤本先生のサイトにもブログがあり、ゼミ活動の報告やゲーム学習に関連する理論の概説などの濃密な情報が発信されています。
このサイトは、サイト内の検索機能があるために探索がやりやすく、例えば、自分が今プレイしているゲームタイトルを入れて検索すれば、そのゲームについてゲーム学習の理論を参照しながら論じられているものが見つかることもあり、楽しいです。(私は、「リング・フィット・アドベンチャー」で検索したことがあります。)

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まとめに代えて

上で紹介した山内先生の過去のエッセイでも述べられていたように、ツールはツール単体では成立せず、そのツールを使う人があって初めて「役に立つ」という現象が起こり得るものです。

今回のブログテーマは、「研究に役立つウェブサイトやツール」ですが、ブログの文章を読むことで学べるのは、リストアップされたツール名のような顕在的情報だけではないはずです。私は、本ブログの記事や、本記事で紹介したようなwebサイトで情報を獲得することで、研究者らしい考え方や文化、姿勢などの潜在的な情報についても学ぶことができると考えます。このような学習の対象になる潜在的な情報のことを、「隠れた情報」とも呼んでみたくなりました。(教育学の用語「隠れたカリキュラム(hidden curriculum)」をオマージュして私が考えた言葉です。)

[仲沢 実桜]


P.S.=====
藤本徹先生、お誕生おめでとうございました!👏🥳

2022.05.23

研究に役立つウェブサイトやツール(M1田中冴)

皆様はじめまして。この春入学したM1の田中冴と申します。
いつも読む側だったこの山内研ブログを、自分が書くことになるとは…としみじみしつつ書いています。

まずは自己紹介を兼ねまして、これまで何をしていた人かを簡単に紹介します。
私の生まれは福岡で、大学学部時代は九州工業大学というところで機械工学をやってました。この大学にはグループワーク向けにデザインされたMILAiSという教室がありまして、私はここの学生スタッフをずっとやっていました。そこのスタッフ研修で学習環境デザインに関する文献のゼミをやったり、それをもとにワークショップを企画したりする中で、私は徐々に山内先生の研究室に興味を持つようになりました。そこで学部4年時に学際情報学府の院試にチャレンジしましたが、あえなく不合格。今考えてもあまりに向こう見ずだったと思うんですが、当時併願も就活もまったくしていなかった私は、来年度行く宛が完全になくなりました。2021年2月ごろのことです。
その後、MILAiSでお世話になっていた先生の元同輩というご縁で、聖心女子大学の先生が私を研究生として1年受け入れてくださることになりました。私は上京し、この先生のもとで1年修行しつつ、学際情報学府にまたチャレンジしました。そして、学部時の夏季冬季院試を全て合計して実に4回目(!)のチャレンジでやっと合格をいただき、2022年4月に入学するに至りました。

入学してから早1ヶ月ですが、各自の研究テーマに限らずにいろんな興味や思いについての話に付き合ってくださる同期の方々や、面白くて頼もしい先輩方に出会うことができ、忙しくも楽しく過ごしています。
私の研究テーマですが、皆様にツッコミをビシバシいれていただきつつ、絶賛問い直し中です。恐れを捨ててざっくり書きますと、人の考えの枠組みを変えるというところを、ハイパーテキスト的な文書システムによって支援できないか、といった感じです。はやくこのブログに書けるくらいにまとめられるよう頑張ってまいります。

では、ここから「研究に役立つウェブサイトやツール」の紹介に入っていこうと思います。

①研究を進める場所
学環コモンズ
1つ目は、研究を進める場所についての話題です。2021年はせっかく東京に来たのに自宅での作業ばかりだったので、2022年はなるべく外に出てみようと思っています。最近は、本郷キャンパス内の学環コモンズという場所でよく作業をしています。学環コモンズは、情報学環・学際情報学府の全メンバーが利用できるスペースで、個人作業をしている人もいれば、グループで会議をしている人もいたり、その辺でちょっと世間話をしている人もいたりと、いろんな使い方が混ざり合っている場所です。学際情報学府の方々はとりわけ研究テーマが多彩ですが、そういう垣根も超えて「何読んでるんですか?」と話しかけてくださる方がいたりと、越境がテーマのひとつである学際情報学府の特徴がよく滲み出ている場所だなとも感じます。
場所場所によって、いる人も違えば文化も違ったりするので、気分や作業内容によっては、学環コモンズに限らずに場所を変えたりもします。研究をする場所を気にしてみたり、いつもとはちょっと違う場所に体ごと移してみるというのは、結構気分転換にもなって良いかもしれません。

②作業時間記録アプリ
toggl track
2つ目は、作業時間記録アプリです。学際情報学府に入ってから、思っていたより授業が忙しく、なにかと時間に追われて、気づいたら一週間経ってる、ということがよくあるので、何に時間がかかっているのかを残していくために使い始めました。時間記録系のアプリはたくさんあるので、特にこのアプリがおすすめということでもないですが、私がやりたいことが無料で十分にできるので、toggl trackというアプリを使っています。基本的な使い方は、今からやることのタイトルを書いて、タイマーのスタートを押す。作業が終わったらストップを押す。これだけです。
私は事前に計画をたててその通りにこなしていくというのが本当に苦手なので、あくまでやったことを記録するだけをやる、と心に決めてtoggl trackを使っています。作業時間の履歴を残していくことで、パソコンに向かって作業してる時間は1日平均これくらいなんだなとか、この本を1章分精読すると2時間くらいかかるなとか、前回はこの発表の準備にこれだけ時間がかかったから次もこれくらい見ておこうとか、そういう見通しは立てやすくなったように感じます。

【田中冴】

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