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2018.10.26

【私の研究テーマ】興味を深める趣味縁生態系の解明

博士課程2年の杉山昂平です.これまで「興味を深める趣味縁生態系の解明」というタイトルのもと,どんな人間関係が趣味が面白くするのか?ということを研究しています.修士過程ではアマチュアオーケストラ団員の方々にインタビューし,楽団という「つよいつながり」の影響を分析してきました(→こちらで論文が読めます).そして現在は,SNSを活用するアマチュア写真家の方々にインタビューしながら,「ゆるやかなつながり」がいかに写真活動を面白くしているのかを分析しています.まだ詳細はご報告できませんが,そろそろ分析結果をまとめていきたいと思っています.

 

趣味は「興味に駆動された学習」

そもそもなぜ山内研で趣味を研究するのでしょうか.教育工学や学習環境デザインという分野に,一見すると「趣味」は関係がなさそうに思えるもしれません.ところが最近の教育・学習の分野では,趣味を対象にする研究者が私に限らず増えてきているのです.なぜでしょうか.キーワードは「興味に駆動された学習」です.

 趣味は「シリアスレジャー」と呼ばれることもあるように,真剣かつ大変専門的な知識・スキルを活用した遊びです.例えばアマチュア写真家の方々は,一眼レフカメラやレンズに関する技術的知識をもち,実際に美しい写真を撮影するスキルを持ち合わせています.たとえプロではないとしても,写真を趣味にしていない人からすれば大変高度なものです.いきなり「5年写真をやっているアマチュア写真家の人と同じレベルの写真を撮れ」と言われても,たぶん無理でしょう.どんな被写体に目をつけて,構図に気を配って撮影するのか.撮影したあと,Photoshopなどを使いどのように色味を調整するのか.とてもじゃないですが,「誰にでもできる」とは言えません(→Instagramのハッシュタグ #reco_ig に投稿された写真を見てみてください).そこには専門性があるのです.

 そして,趣味人が専門的な知識・スキルを持っているということは,彼らはどこかでそれを「学習」したはずです.おそらく趣味をやりながら.医者や弁護士になる場合は,まず大学で勉強し資格を取ってから,実際の医療活動や弁護活動を始めます.趣味ではその必要はありません.やりたくなったら,まず活動すれば良いのです.そして,やりながら学ぶ.アマチュア写真家の方々も,趣味として写真を撮りながら自主的にカメラの操作方法を本で勉強したり,これまでの写真の歴史を調べたりしています.

 重要なのは,「趣味人はいやいや学んでいるわけではない」ということです.むしろ,好きなこと,面白いことに導かれて自主的に学んでいる.このことを「興味に駆動された学習」と言います.学習者が「面白いから自分でどんどん学んでいく」という姿は,学校の先生からすれば見たくてたまらない光景でしょう.それが趣味では自然と起こっているのです.

 どうしたら自主的に学んでいくような「面白さ」は実現できるのだろう?どうやったら「興味」はサポートできるのだろう?こうした疑問が「趣味」をモデルにすることで解決できるかもしれません.だからこそ,趣味は教育・学習の研究者にとって興味深い対象なのです(→科学教育の分野でアマチュア科学者を研究されている木村優里さんの研究もぜひご覧ください.日本科学教育学会2018年度奨励賞を受賞された論文です).

 私が研究で「趣味縁」に着目しているのは,まさに趣味を通した人間関係こそが,趣味を面白くする重要なファクターだと仮説しているからです.昔から「同好の士」という言葉があるように,趣味を同じくする人々はサークルをつくったり,SNS上でフォローしたり,様々なつながりをつくってきました(→『美と礼節の絆』という本には,俳諧などを事例に江戸時代までの日本の趣味縁の歴史が豊かに描かれています).お互いの作品を見せ合ったり,新しい情報を交換したり,趣味縁を通して趣味が面白くなっていくことはかなりありそうです.では,どんなときに,どんな風にして趣味縁は機能するのか?これが「興味を深める趣味縁生態系の解明」というタイトルで,私が研究していることです.

 

最近は学部生に授業させてもらう機会も増えましたが,「自分にとって面白いものに打ち込んでいる時こそ人間の知性は最も発揮される」とよく話しています.趣味はそんな存在じゃないでしょうか.

 

杉山昂平

2018.10.07

【研究計画】中高生を対象としたメタ認知能力向上のための学習プログラム開発(M1 松尾奈奈)

こんにちは。かなりご無沙汰してしまいました。。
M1の松尾です。早いもので、山内研に入ってから約半年が経とうとしています。

私の研究テーマは「メタ認知を活かした学習支援」です。メタ認知とは「認知を認知すること」であり、例えば初対面の人と話すときに緊張のあまり早口になってしまう人が「緊張している」と感じるのは認知ですが、「今、緊張によりいつもより早口で喋っているな」と感じるのはメタ認知です。このメタ認知が上手に働くようになると、客観的に物事を捉えられるようになり、特に学習では「分かること・分からないこと」が分かるようになるので、メタ認知能力が高い子どもは学習成績も良いとされています。ですが、学習の中でメタ認知を働かせることはなかなか難しいため、メタ認知研究の中では学習活動を「計画」・「遂行」・「修正」の3段階に分け、それらの中でメタ認知をモニタリングし、上手にコントロールするための支援が様々にされています。

日本では、数学や理科など問題解決型の教科教育の中でのメタ認知研究が多いですが、私は教科学習のようなフォーマルな学習よりもインフォーマルな学びでのメタ認知に興味があるため、今後はProgram Based Learning(PBL)などでのメタ認知の育成に着目し、そのためのプログラム開発を行っていけたらと思っています。

メタ認知は非常に汎用性のある、人間にとって大事な認知ですが、そもそも非常に曖昧な概念であり、その育成や測定方法などは確立していません。実は私は、昨年度まで別の大学院にて教育心理学の分野内でメタ認知研究をしており、今回は2度目の修士課程となります。メタ認知のような発展途上なテーマについて実践的に研究していくには、学際的な分野が適しているのではないかと思い今に至ります。秋も深まり、そろそろResearch Question(RQ)を立てる時期も迫りつつあるので、今後も頑張っていきたいと思います。

【松尾奈奈】

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