2020.10.23

【ラーニングプログレッションズ】文献とディスカッション内容の紹介(D4 平野)

D4の平野です。大学院生が、ゼミで扱っている英語文献とディスカッション内容を紹介するシリーズです。私からは、International Handbook of the Learning Sciencesの41章:ラーニングプログレッションズについて紹介します。

ラーニングプログレッションズとは、適切な教授が行われた場合に実現する、個々の学習テーマについての比較的長期にわたる概念変化や思考発達をモデル化したもの山口・出口2011, p.338)です。幼稚園児から大学生までのあらゆる学齢におけるスタンダードやカリキュラム、教授と評価のデザインのための仮説モデルであり、とくに数学と科学における学年を超えた学びのつながりを示すことを提案しています。

文献では、ラーニングプログレッションズの研究方法として、①インタビューや筆記テスト等の横断的アセスメントを行い、各段階の学習者の理解を精緻化する研究、②長期的なデザイン研究により学習者の理解の進展を追う研究、があるとされています。ディスカッションのテーマは、これら2つの視点から、大貫(2016)で述べられている「物質の変換」に関するプログレッションの研究の具体例を考えることでした。

↑「物質の変換」に関するプログレッション(大貫2016, p.43)

①横断的アセスメントチームは、水の状態変化(氷→水→水蒸気)について、身近な素材に関する実験を行った上で、学習者にインタビューすることで、概念の理解度を調査するアイデアを出してくれました。②縦断的デザイン研究チームは、状態変化は理解できているが化学変化が理解できていないレベルの学習者について、どのような教授を行えば適切な方向に理解を導けるかを、デザイン研究として行っていく案を考えてくれました。

私は社会人大学院生で、文献報告として本章を選んだのは、本務先で学力テスト等の大規模アセスメントの実務に携わる経験を長くしてきたことが挙げられます。その中で「AはできているがBはできていない」「両方できていない」「そもそもAとBの基準では判断できない」といった生徒の解答に数多く出会ってきました。

ディスカッションのまとめとして出てきたのは、ラーニングプログレッションズとは、ある意味で、学習科学によるカリキュラムへの挑戦だ、という意見です。科学・数学の何をどういう順番で教えるか、実際の子どもの理解の仕方をみて、研究をベースに、教え方やプログレッション自体も組み替えていくのが、ラーニングプログレッションズ研究です。

GIGAスクール構想により、コンピューターベースドテスティングの推進や、教育ビッグデータの活用がにわかに現実味をもって語られるようになってきていますが、ラーニングプログレッションズは、教育にエビデンスベースを導入するひとつの提案と言えるでしょう。

平野智紀/内田洋行教育総合研究所

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