2016.04.12

【今年度の研究計画】学校外のテクノロジークラブにおけるエスノグラフィ

春一番も吹き、本格的に春がやってきましたね。
みなさま季節の変わり目、いかがお過ごしでしょうか。
M2の青木です。

さて、新年度はじめは、毎回「今年度の研究計画」というテーマでブログをお送りしております。
昨年は、参与観察を中心に研究生活を送っていましたが、今年度はいよいよ修論執筆です。
悔いのないよう、日々を丁寧に送っていければと思っています。

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■テーマ
学校外のテクノロジークラブにおけるエスノグラフィ

■背景
●求められる学習の変化
現代はあらゆる情報がデジタル化された高度情報化社会・知識基盤社会とよばれる。このような社会変化から、教育・経済・職場などの多様な文脈でデジタルメディア実践への注目が集まっているMills 2010)。このような時代を生きていく現代の子どもたちに求められるデジタルメディア実践に関する学習については、情報技術に関する流暢さ(Being Fluent with Information Technology)(NRC1999)など様々な定義が行われてきた。また近年では、これらを包括・発展させた、21世紀に求められる学習として、21世紀型スキルや、デジタルメディアリテラシーなどが提唱されている。これらの定義から、これから求められるデジタルメディア実践での学習は、技術を理解し身に付けるのみならず、その技術を活用し、他者と協力しながら新しい表現・創造活動を生み出し、主体的に学び続ける姿勢であるといえよう。

●学校外のデジタルメディア実践への着目
では、上述したような21世紀に求められるデジタルメディア実践での学習は、どのようにして学ばれるのか。
現在日本では、プログラミングに関する教育の場としては、公教育と公教育以外の場があるが、高等学校では履修率が約2割であり(文科省 平成28年)、1.1で述べたような技術の活用や新しい表現・創造活動、主体的に学びつづける姿勢に関する学習が行われているとは言いがたい。
また、山内(2003)は、学校での学習はデジタル社会における技術・表現形式の変化の速さに追いつけない可能性が高く、さらに学校知として現実の社会とそぐわない形で教授される可能性があることを指摘している。その上で、デジタル社会のリテラシーは、表現と受容を循環しながら学ばれ、さらに継続的に活動するためには社会的実践に参加していく必要があるとしている。つまり、学校内だけではなく学校外でもデジタル社会のリテラシーの学習をしていく必要がある。

実際に、学校や学校外を往来しながらデジタルメディア実践に関して学習している青年の様子の研究も行われている。Barron(2006)は、青年たちが自分自身の関心に従って、学校や学校外、家庭を行き来しながら、学習機会を受容したり創造したりしながら技術的流暢さを獲得していく様子が明らかにした。この研究に対して、Collins(2006)は、イリイチ(1970)のOpportunity Webとの関連を指摘し、Barron(2006)で示されるように自身の関心を追い求めて学習するような、主体的な自己主導型の学習者は、21世紀の経済社会において勝者であろうと述べている。このように、現代の子どもたちに求められる学習を考える上では、学校のみならず、学校外も視野に入れ、子どもたちの周りに広がる学習のエコロジーを考慮していく必要があるといえよう。

では、学校外のデジタルメディア実践としてはどのような研究が行われているのか。たとえば、オンライン学習(SNSやゲーム)(e.g.Greenhow2009)や、ワークショップやプロジェクト単位のもの(山内2003)などがある。本研究では、近年、学習効果が実証されてきた「テクノロジークラブ」を対象とする。

●テクノロジークラブに関する先行研究
近年アメリカでは、テクノロジークラブの実践と研究が広がっており、効果も認められてきている。テクノロジークラブを対象とした先行研究では、状況的学習論をベースにしたエコロジーの観点からエスノグラフィを行い、テクノロジーを活用した関心主導型の学習(Barron et al., 2014)やデジタルリテラシー(Vickery2014)、アイデンティティ(e.g. Levinson et al.,2014)が獲得されることが明らかになっている。このように、学校外のクラブ施設では、メンターとの関わりや試行錯誤をしながら友人と自由に活動することによって、デジタルリテラシーや青年の関心やキャリアの促進が行われている(Ito et al., 2013)。

しかし、先行研究ではアメリカのテクノロジークラブが対象になっているが、アメリカにおけるテクノロジークラブは貧困や格差縮小を目指し、行政・企業・大学らが協力して実施している公共施設である。さらに、学校との連携を行ってプログラムが展開されているものもある。つまり、学校の延長としての放課後プログラムの特性がつよい。一方で、日本ではテクノロジークラブ自体は2013年ごろから増え始めたものの、民間の団体や企業が運営しており、小規模であり、アメリカと同じような運営をすることはできない。日本では生徒の社会化やメディア制作を通した社会活動などを目指すアメリカの実践と異なり、プログラミングに関する教育の提供、子どもの教育や子育てを目的としたNPO・組織、もしくは企業のCSR活動や大学の公開講座等の地域・社会貢献の一貫としての活動が行われている(総務省 平成27年)。日本でのこのような実践の歴史は浅く、規模や教育内容もばらばらであり、手探りで行われているといっても過言ではないだろう。
では、どのような学習環境であれば、より中高生は積極的に参加し、学習していくのだろうか。

■目的
本研究では、日本におけるインフォーマル学習環境のテクノロジークラブにおいて、どのような学習がどのようにして生起しているかを参与観察とインタビューから明らかにし、どのような学習環境をデザインすればよいかの知見を導出することを目的とする。

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まだ、推敲中なのですが、おおまかにはこのような方向性で研究を行う予定です。

今年度もどうぞよろしくお願いいたします。

【青木翔子】

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