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2026.07.29

自分の実践を研究対象にするということ(D1菊池ゆみこ)

こんにちは、博士課程1年(D1)の菊池ゆみこです。
2023年春に山内研の修士課程を修了し、今春から博士課程で再び研究を始めた社会人院生です。

今年度は社会人院生に関する記事をM2の松田さん(『大学教員が、もう一度『学生』になるということ』)M1の上林山さん(『社会人大学院生という選択』)が書いてくださっていますが、
今回は自分の実践を研究対象にしようと考えている方、そして社会人として大学院進学を考えている方に向けて、これまでの経験や今感じていることを書いてみたいと思います。

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私は、小劇場の俳優としてキャリアをスタートさせ、その後、演劇ワークショップのファシリテーターとして実践を重ねてきました。
私の実践は「応用演劇」や「演劇教育」と言われます。演技の技術を高めることや劇場での本格的な上演を目的とするのではなく、参加者(多くの場合は児童生徒です)が何らかの役を担い、身体や声、空間を使って表現する過程で学びが起きるようにデザインされた、ワークショップ形式の学習です。
実践を続ける中で、「現場で生まれる課題を理論的に明らかにすることが実践の助けになるのではないか」と考えるようになり、社会人院生として修士課程に進学しました。具体的には、演劇ワークショップのファシリテーションの熟達に関する研究を行っています。

実践の問いを、研究の問いにする難しさ

修士課程で最初に苦労したのは、自分が現場で問題だと感じていることと、学術的な研究によって明らかにできることが、必ずしも同じではないという点でした。
ゼミ発表時に指摘されたのは「リサーチクエスチョンが大きすぎる」こと。実践者としては、現場で起きている問題をどうにか解決したい、との思いから、つい大きなリサーチクエスチョンを立ててしまいがちです。

しかし、一つの研究で何かを明らかにするためには、リサーチクエスチョンを絞り込む必要があります。
そのためにまず行ったのは、自分の実践が学術的にはどのような分野に位置づけられるのかのリサーチです。次に、その分野ではこれまで何が明らかにされ、何がまだ課題として残されているのかを先行研究から探っていきました。

私の場合は、まず自分の実践・かつ研究対象が「応用演劇」「演劇教育」というタームで説明できるのだとわかってから、少しずつ研究を進めやすくなりました。
「応用演劇」「演劇教育」というタームが見つかったことで先行研究が見つけやすくなったからです。
さらに自分と似た関心を持って研究している人がいることも分かります。実践の場では自分だけが気にしているように思えた問題に取り組んでいる先人や仲間が国内外にいる!これは個人的にとても心強いものでした。

また、先行研究の限界や課題を意識して読むことで、「研究上の課題」と「自分自身の問題意識」を少しずつ切り離して考えられるようになった感覚がありました。

研究を終えて実践に戻った時に起きたこと

修士課程を修了した後、私は再び演劇ワークショップ実践の仕事を中心にして過ごしましたが、強く感じたのは自分の実践を捉える視点の変化です。

ワークショップのファシリテーションには「蟻の目」と「鳥の目」の両方が必要だと言われていますが、さらにそのもう一つ外側の視点が得られた感覚がありました。
例えば「他の領域での考え方や実践を自分たちの実践に取り入れられるのではないだろうか」「自分たちの実践は社会の中でどう位置づけられるのか」「自分たちの実践はこれから先、どのようなビジョンを持つことが求められるのか」といった視点です。

修了後に現場に戻った後しばらくは、外から自分の実践を見る視点と、内側から実践を見る視点とが混乱してぐらぐらする感覚があり、自分の中で”ピント調節”をしなくてはいけないくらいでした。

ふたたび研究へ
私が自身の実践を研究対象とする中で得た一番大きなものは、実践を別の角度から捉えるための知識や視点でした。
そしてそれらは修士研究を終えた後も実践の中に残り、ふたたび研究へと向かう新たな問いにつながっていきました。

現在は博士課程として山内研で再びの研究生活。まだまだ五里霧中……ではありますが、実践と研究を行き来しながら見つけた新たな問いと向き合い、少しずつ前に進んでいきたいと思います。

2026.07.16

大学教員が、もう一度『学生』になるということ(M2 松田紀子)

 皆さんにとって、人生のテーマは何でしょうか。このブログをご覧くださっている方には共感していただけるかもしれませんが、私にとってのテーマは「学び」です。ただし、ここでいう学びとは、単に知識を身につけるstudyingだけを意味しません。もちろん、知識を得るために勉強することも大切ですが、経験や人との出会いを通して、自分自身の考え方やものの見方を少しずつ変えていくlearningの方を、私は大切にしたいと思っています。私は、年齢や立場を問わず、素晴らしい方々と関わる機会に恵まれているという点で、とても幸運な人生を送っていると思います。そうした方々の言葉や行動から学ぶことは多く、それが私にとって大きな喜びとなっているのです。
 2025年度から、専門分野を越えて学び直す機会をいただき、東京大学大学院学際情報学府で学んでいます。自分の知らないことを学ぶのは刺激的で、何より楽しいものです。同時に、これまで当たり前だと思っていた考え方を問い直すことも少なくありません。先生方、とりわけ山内先生が、専門や立場の異なる多様な学生の問いを広く受け止めてくださる姿勢に、懐の深さを感じる日々です。同期の皆さんやクラスメートにも、さまざまな場面で助けてもらっています。さらに、研究を支えてくださるファシリテーター、そして先輩方からも有益な助言をいただきながら、充実した学生生活を送っています。
 一方で、ご想像のとおり、体力的にはなかなか大変です。片道数百キロに及ぶ遠距離通学に加え、普段は大学教員として課題を出す立場でありながら、自分自身も締め切りに追われています。課題を提出する側の気持ちを身をもって実感し、最近では、自分が教えている学生たちにも少し優しくなった……ような気もします。体力的な負担には、教員としての仕事との両立も大きく関係しています。使える時間が限られている以上、すべてを完璧にこなすことはできません。最近は、自分にできる範囲で、一つひとつの学びを楽しもうと思えるようになってきました。大学院の修了や、研究課題には、もちろん目標や区切りがあります。しかし、学びそのものには、最終的なゴールはありません。ゴールがないからこそ、これまで知らなかった新しい景色に出会う楽しみは尽きません。
 ニュートンは晩年、自分を海辺で遊ぶ少年にたとえ、ときおり滑らかな小石や美しい貝殻を見つけて喜んでいるにすぎず、その前には、まだ発見されていない「真理の大海」が広がっていると語ったと伝えられています(Brewster, 1855/2009, Chapter XXVII)。以前よりも、その言葉の意味を実感できるようになりました。分からないことがあるということは、まだ知らない世界が自分の前に広がっているということでもあります。問いを抱えながら考えたり、学んだこと同士のつながりを探したりすることも、学びの楽しさなのだと思います。経験を重ねた今だからこそ、思いがけないつながりや発見を、じっくりと味わえるようになった気がします。 
 もう一度学生になることは、社会人としての立場を手放すことではなく、自分を捉え直す機会でもあると思います。私は教員であるため、学生の立場から授業や課題を経験することで、教えることと学ぶことは、互いに行き来しながら深まっていくものだということも改めて実感しています。そして、今回の学び直しを通して改めて感じたのは、学びは一人で完結するものではないということです。先生方や同期、先輩方をはじめ、さまざまな方々との関わりが、自分の考え方を深め、視野を広げてくれています。これからも、そうした方々との関わりを大切にしながら、好奇心を失わず、自分なりの歩幅で学びの旅を続けていきたいと思います。

※ニュートンの言葉は、Brewster(1855/2009, Chapter XXVII)に収録されている記述を、本稿の文脈に合わせて日本語で要約しています。

Brewster, D. (2009, September). Chapter XXVII [Normalized transcription]. The Newton Project. https://www.newtonproject.ox.ac.uk/view/texts/normalized/OTHE00088 (Original work published 1855)

2026.07.09

研究に必要な知力・体力・筋力・・・?(D1 山﨑聡一郎)

こんにちは、山内研D1の山﨑聡一郎です。
今回は「研究と運動の関係」をテーマに、最近感じていることを書いてみたいと思います。

研究というのは、つくづく自分との闘いだと感じています。仮説を立てては壊し、データや文献と向き合っては行き詰まる。その過程で不安になったり、気持ちが沈んだりすることも少なくありません。私自身、定期的にそういう波がやってきます。ただ最近になって、その原因の一端は「運動不足」にあるのではないかと思うようになりました。


気分が落ち込む時の法則?
私は研究のかたわら俳優業もしており、身体そのものが仕事道具であり商品でもあります。そのため日頃からボディメイクを目的に筋トレを続けているのですが、研究や俳優業以外の仕事が立て込んでくると、なかなかジムに行く時間を確保できなくなってしまいます。

厄介なのは、気分が落ち込んでいるときほど、自分でも気づかないうちに筋トレの頻度が落ちていることです。そんな状態である日時間ができて筋トレをすると、嘘のように元気になる瞬間があります。「今日は行きたくないな」と重い腰を上げてジムに向かい、トレーニングを終えて帰る頃には、行く前とはまるで別人のようにすっきりしている。この現象を何度も経験するうちに、これは単なる気分転換以上の何かなのではないかと感じるようになりました。


運動嫌いだったはずなのに
実をいうと、私は小中高生時代、根っからの運動嫌いでした。体育の成績も芳しくなく、球技も持久走も苦手意識のかたまりだったように思います。そのため今でも、筋トレに向かう前は気持ちの上ではどこか憂鬱で、決して「筋トレが好き」というわけではありません。行く前どころか、筋トレ中も割と「なんでこんな苦しいことやってんだろうな」と思いながらバーベルを担いでいます。

それにもかかわらず、実際に身体を動かした後の心身の軽さは本物です。運動が好きか嫌いかという気持ちの上での評価と、運動が実際にもたらす疲労回復の効果との間には、案外大きなギャップがあるようです。この「思っていたより効く」という感覚のずれこそが、今回この記事を書いてみようと思ったきっかけでした。


「気のせい」ではなかった ー 運動とメンタルヘルスの科学
そこで少し調べてみると、この実感を裏付ける研究成果が国内外に存在することが分かりました。

まず国内の研究では、公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所が2006年から続けている「コアスタディー」が参考になります。同研究所が行った調査(甲斐ら, 2011)によれば、運動を全くしない人々と比較して、週2時間以上の運動習慣を持つ人々は、1年後に抑うつになるリスクがおよそ半分だったといいます。

さらに2024年には、英国の医学雑誌『BMJ』に、オーストラリア・クイーンズランド大学のマイケル・ノエテル氏らによる系統的レビュー・ネットワークメタ分析が発表されました。うつ病治療に関する218件のランダム化比較試験、14,170人分の参加者データを統合したこの研究では、ウォーキングやジョギング、ヨガ、ダンス、太極拳・気功、そして筋力トレーニングなど、運動の種類を問わずうつ症状の改善に効果が見られています。とりわけ筋力トレーニングは若い世代で効果が高い傾向にあることが示されました。専門家からは、運動全体の効果量は心理療法や抗うつ薬に匹敵する、あるいはそれ以上との指摘もなされています(Noetel et al., 2024)。

つまり、私が感じていた「行く前は億劫なのに、終えると元気になる」という感覚は、案外裏付けのある現象だったということです。
そういえば、学際情報学府では山内研の内外を問わず、筋トレに励んでいる方を何人も見かけます。趣味がダンスや登山といった、身体を動かすことである方も決して少なくない印象です。研究に打ち込む人ほど、身体を動かすことの効能を経験的に知っているのかもしれません。


おわりに
研究は長期戦です。だからこそ、頭だけでなく身体のコンディションを整えることも、研究を続けていくうえで欠かせない技術の一つなのだと、最近になってようやく実感するようになりました。私のように運動嫌いであっても、無理のない範囲で筋トレを続けていくことが必要なのかもしれません。

無理のない範囲で、というのが結構ミソでして、5年前くらいにバーベルデッドリフトで腰を痛めてトレーニングベルトを使うようになり、昨年あたりからバーベルスクワットで膝が痛むようになってしまったので最近はブルガリアンスクワットにハマっています。筋肉は裏切らないけど関節はすぐ裏切る、とインターネットの叡智が語っていました。

これから山内研や学際情報学府を目指す方の中にも、研究の波に不安を感じることがある方がいらっしゃるかもしれません。そんなときは、ほんの少しでいいので身体を動かしてみてください。案外、気持ちのほうが後からついてくるものです。研究も運動も無理なく長く続けていくことを大切に、これからも心身ともに健康な研究生活を送っていきたいと思います。


参考文献
Noetel M, Sanders T, Gallardo-Gómez D, Taylor P, del Pozo Cruz B, van den Hoek D, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847.
https://doi.org/10.1136/bmj-2023-075847
公益財団法人 明治安田厚生事業団 体力医学研究所「運動とメンタルヘルス」
https://www.my-zaidan.or.jp/tai-ken/information/mental/(2026年7月閲覧)
糖尿病ネットワーク「運動でメンタルヘルスを改善 すべての運動にうつ病を軽減する効果が ウォーキング・ヨガ・ダンス・筋トレを調査」
https://dm-net.co.jp/calendar/2024/038146.php(2026年7月閲覧)
Science Media Centre. Expert reaction to systematic review and network meta-analysis on the effect of exercise on depression.
https://www.sciencemediacentre.org/expert-reaction-to-systematic-review-and-network-meta-analysis-on-the-effect-of-exercise-on-depression/(2026年7月閲覧)

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