2025.07.07

山内ゼミにはどんな人が集まっているか

はじめまして。山内研究室M1の松田紀子です。

今回は「山内ゼミにはどんな人が集まっているか」について書きたいと思います。ひとことで言うなら、「プロテウス」的な人が集まっています。

毎回ではありませんが、ゼミでは山内先生が事前に出してくださる文献講読課題について、皆でディスカッションする時間が設けられています。先日、その文献講読課題の中に、「プロティアンキャリア」という言葉が出てきました。1976年にアメリカの心理学者、ダグラス・ホールによって提唱された言葉で、「組織的な報酬よりも個人的な価値観に突き動かされ、その人自身、家族、そして『人生の目的』に貢献する自己決定型のキャリア」と定義づけられています(Hall, 2004, p. 2)。英語のproteanには「変幻自在な」「多才な」といった意味がありますが、語源は姿を変幻自在に変えることができるギリシャ神話の海神プロテウス(Proteus)に由来しているそうです(Oxford University Press, n.d.)。

現代社会では、どのような職業に就いていても、時代の変化に応じて柔軟かつ継続的に学び、自らスキルを磨いて主体的にキャリアを築いていく「プロティアンキャリア」が求められていると感じます。山内先生の寛容さと多様性を尊重されるお人柄を反映して、山内ゼミにはさまざまなバックグラウンドをもつ学生が集まっています。社会人の割合も高く、キャリアの多様性や各々の自律性を大切にする風土が醸成されていると感じます。

私自身も社会人学生なのですが、教育実践者でもありますので、このゼミでの様々な学びは、私にとって特別な時間となっています。残念ながら遠距離通学のため、体力的に辛い時もありますが、ここでの出会いに感謝しながら、「プロテウス」的な人を目指していきたいと思っています。 

Hall, D. T. (2004). The protean career: A quarter-century journey. Journal of vocational behavior, 65(1), 1-13.
Oxford University Press. (n.d.). Protean. In Oxford Learner's Dictionaries. Retrieved July 7, 2025, from https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/protean?q=protean

2025.07.07

文献整理に役立つツール(M1 飯島)

皆様はじめまして、山内研M1の飯島洋輔です。

今年の春より山内研究室に加わりまして、「学校教育で学んだ内容を学校以外の文脈でも使用できるようになることを補助するシリアスゲームの開発」というテーマで研究をしています。

今回は「研究小ネタ」として、文献整理に役立つツールをいくつかご紹介します。

山内研究室ではM1の間は基本的には文献レビューに注力します。山内研究室では、比較的自由に自身の研究テーマを探求できる一方で、その分野の先行研究を網羅的に把握することが求められます。先行研究レビューを丁寧に行うことで、適切な研究手法の選定や、自らの研究の新規性・独創性を示すことが可能になるため、これは研究計画を立てる上で不可欠なステップです。

私自身、学部生の頃は文献整理をしっかりしていなかったのですが、研究室の先輩方がきれいに文献を整理しているのを見てその考えを改めました。今回ご紹介するのは、大学院に入学してから私自身が耳にしたり、実際に試したりしたツールです。あくまで個人の使用感に基づいた紹介ですので、ご自身の研究スタイルに合うツールを見つけるための一助としてご覧ください。


1. Google スプレッドシート (Google Sheets)

Google WorkspaceやGoogle for Educationを導入している大学に所属している方にとって、最も手軽なツールでしょう。論文のタイトル、著者、発表年といった基本的な情報に加え、タグやメモを書き込むことで、簡易的なデータベースとして活用できます。最大の利点は、他の研究室メンバーや指導教員との共有が非常に簡単な点です。共同研究や研究相談の際に、同じリストを見ながら議論を進めることができます。

2. RefWorks

文献データベースで知られるProQuest社が提供する、高機能な文献管理ツールです。学生の場合は大学図書館を通して無料で利用できる場合があります。PDFファイルをアップロードして管理できるほか、フォルダやタグでの整理も直感的に行えます。特筆すべきは、参考文献リストの自動生成機能です。APAをはじめ主要な引用スタイルに対応しており、論文執筆の手間を大幅に削減してくれます。

3. Paperpile

このリストの中では唯一の有料ツールですが、研究室内外で利用を推奨されることが多い、非常に評判の高いツールです。私自身はまだ試せていませんが、Google Scholarや各種データベースからワンクリックで文献情報を取り込める機能や、Google Docs上でシームレスに引用・参考文献リストを作成できる連携機能など、その利便性は研究の効率を格段に上げてくれると評判です。

4. Notion

近年、情報整理の定番ツールとなりつつあるNotionも、文献管理に非常に有効です。その魅力は、何と言ってもカスタマイズ性の高さにあります。データベース機能を使えば、スプレッドシートのように一覧表を作成し、タグ付けやステータス管理(例:未読、精読中、読了)が可能です。また、各文献ページに詳細なメモを残せるのも大きな利点です。Markdown記法はもちろん、Mermaid記法で図を挿入したり、関連する論文ページへリンクを張ったりと、思考を整理しながら知識を体系化できます。

5. Obsidian

ローカル環境で動作する、Notionと似た使用感のメモ・知識管理ツールです。Notionとの大きな違いは、オフラインで快適に利用できることと、「グラフビュー」機能でノート間の繋がりを視覚的に表示できる点です。各論文のノートを作成し、引用・被引用関係をリンクで繋いでいくことで、研究分野の全体像や論文同士の関連性を直感的に把握できます。研究領域を俯瞰的に理解したい場合に特に力を発揮します。ただし、複数人での共有機能は有料プランでの提供となります。

6. FigJam

これは文献管理ツールではありませんが、Figma社が提供するオンラインホワイトボードツール「FigJam」も、使い方次第で強力な味方になります。特に、複数の研究潮流がある分野で、論文間の関係性をマインドマップのように可視化したい場合に便利です。論文を付箋のように貼り付け、引用関係を線で結び、時系列に並べることで、どのような研究が行われてきたのかを可視化できます。ただし、手作業がメインになるため時間と労力がかかる点、そしてあくまでホワイトボードツールであるため、より詳細なメモも残すために他の文献管理ツールとの併用が推奨される点には注意が必要です。


今回紹介した以外にも、便利なツールはたくさんあります。研究室の先輩方が紹介している他のツールなども参考に、ぜひご自身に合ったものを見つけてみてください。

この情報が、皆さんの研究生活の一助となれば幸いです。

2025.07.04

研究におけるAI利用について(D1 入澤)

こんにちは。D1の入澤です。
修士論文をなんとか無事に書き上げ、博士課程に進学することができました。一つ研究をやり終えたことで、また一歩研究者として成長できたように感じています。より良い研究ができるように、博士課程でも頑張っていきたいと思います。

さて、自分が修士課程に所属している間にもAIがメキメキと進化を遂げ、より一層社会の中に浸透しているのを感じます。少し前になりますが、DeNA会長の南場さんの企業におけるAI活用についての以下の記事がX上などでも頻繁に流れていました。
https://fullswing.dena.com/archives/100153/

研究の世界でもAI利用が当たり前になりつつある
研究の世界でもAI利用が当たり前になりつつあることを感じます。
以下の記事にある通り、OpenAI社はキャンペーンとして北米の大学生へのChat GPTplusの無償提供を行っているようです。
https://newscape-lab.com/news/20250406/
また、GoogleのGeminiも最近大学生向け無料キャンペーンを行っていました。
大学生レベルからAIを使うことがより一層当然になっていく流れは不可逆なものでしょう。

AIを使うことが当然となっていく研究の世界でAIを使わずにいること自体が、自分の生産性を低いままにしてしまうリスクになると最近よく感じます。私自身もAIを活用して論文をより短時間で読めるように工夫しています。以下の記事は参考になります。
https://compass.readable.jp/2024/04/17/post-26/

とはいえ、AIを研究に「どう使うか」については、まだまだ模索が必要だと感じています。便利なのは間違いない。でも、「楽をするため」ではなく、「より深く考えるため」にどう使えるかを考えることが重要なのではないでしょうか。

AIは研究のどこで使えるのか?
まず、研究のプロセスを大まかに分けてみると、以下のようなステップがあります。
・問いを立てる
・先行研究を調べる
・調査設計をする
・データを集める
・分析する
・論文としてまとめる

この中でAIが使える場面を見てみると、意外と多くあります。
・文献調査: ChatGPTやElicitを使って関連文献の概要を把握したり、レビューの構造を整理したりできます。
・分析: RやPythonのコードのサンプルを生成させたり、エラーの原因を見つけたりといった「壁打ち」として非常に有用です。
・文章作成: 英語で論文を書く際には、自然で読みやすい言い回しを提案してくれるAIツールが役立ちます。
また、データ整理や表の作成、パワポ資料のたたき台など、ちょっとした作業の時短にもかなり助けられています。

それでもAIに「全部任せる」のは危ない
一方で、リスクももちろんあります。AIは万能ではありません。
・間違った情報をそれっぽく言う問題(ハルシネーション)
 → あくまで「参考意見」くらいに捉えるのが大事。うのみにしない。
・考えを代行してしまう問題
 → 自分で悩んで考え抜くプロセスを、AIにショートカットさせすぎると、研究者としての「思考の筋肉」が落ちてしまう。
・倫理やオリジナリティの問題
 → AIをどこまで使ったかが不透明になると、論文の独自性や倫理性が問われます。
AIの特性を理解し、その上で我々は活用する必要があります。

AIは「道具」であり、「共創の相手」
個人的には、AIはただのツールというより、アイデアを広げたり反論をくれたりする“壁打ちの相手”のような存在だと感じています。ある意味、共同研究者と対話しているような感覚になることすらあります。もちろん、最終的に責任を持って考え、判断するのは人間。だからこそ、「問いを研ぎ澄ますためにAIを使う」という姿勢が大切なのだと思います。

パラダイムシフトの只中にいる
今、私たちは間違いなく、研究のやり方そのものが変わるパラダイムシフトの真っ只中にいます。タイプライターからワープロになったとき、電卓からExcelになったときと同じように、AIによって研究のリズムや思考のスタイルが変わっていく。
でも、それは「機械に研究を任せる」という話ではありません。むしろ、「人間が人間らしい問いを立て続けるために、AIの力を借りる」──そんな未来の研究スタイルを、今私たちは形づくり始めているのかもしれません。
博士課程という「問いと格闘する時間」の中で、AIとどう付き合っていくか。この問いそのものが、今の自分にとっての重要な研究テーマでもあります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ちなみに、後半はAIに文章の叩き台を作成してもらっているのですが、気づきましたか?

入澤

2025.06.01

M1の時間の過ごし方 —— 授業・研究・健康管理のバランスを意識して(M2 李佳誠)

こんにちは。山内研究室M2の李佳誠です。
今回は、「大学院生活M1の時間の使い方」について、自分の体験をもとに綴ってみたいと思います。

大学院に進学すると、学部時代とは異なり、時間の使い方に対してより強い自己管理能力が求められます。研究や授業に加え、就職活動やアルバイト、健康管理といった課題もあり、限られた時間をどう使うかによって、日々の充実度や学びの深さが大きく左右されると感じています。

授業と研究は日ごとに分けて取り組む

M1では、主に大学の授業の履修と文献レビューを中心とした研究活動に時間を使っています。私の場合、授業と研究の効率を高めるために、「授業を受ける日」と「研究に集中する日」とを明確に分けて過ごすようにしています。

授業日には、2限から4限まで隙間なく授業を詰め込み、移動や空き時間のロスを最小限に抑えるよう心がけています。そして、授業の後は無理に研究を詰め込まず、身体を休める時間やリフレッシュの時間として活用します。たとえば、ジムに行って筋トレをするなど、体力の維持・向上のための活動を取り入れています。

健康管理は意外と見落とされがちですが、大学院生にとっては極めて重要な課題だと実感しています。心身の状態が安定していなければ、研究のパフォーマンスにも影響が出ますし、長期的に持続可能な学習・生活リズムを築くうえでも、体調管理は欠かせません。

授業はM1のうちに取り切るのがオススメ

私は、授業の単位はM1のうちにすべて取得することを意識して履修計画を立てました。というのも、M2になると、研究が本格化するだけでなく、就職活動や進学準備などの課外タスクが一気に増えることが予想されるからです。

M1の段階で授業を集中して履修しておくことで、M2では研究やキャリアに集中でき、スケジュールにも精神的にも余裕を持つことができます。私自身、先輩方のアドバイスを参考にしながら、早い段階でこの方針を決め、実践してきました。

研究日は朝から夕方まで、文献レビューを軸に

授業がない「研究日」には、朝9時から夕方6時ごろまでを研究にあてています。特にM1の段階では、文献レビューが研究活動の中心となります。私の場合、研究日は以下の4つの段階に分けて作業を進めています。
1. 文献の方向性決定
2. 文献探索
3. 文献読解
4. 文献整理

最初のステップである「文献の方向性決定」では、自分の関心だけでなく、これまでの研究発表でいただいたコメントや、ファシリテーターからのフィードバックを参考にして、一日のテーマや観点を設定します。この段階がしっかりしていないと、文献探索に無駄が出てしまうので、地味ですが非常に重要なプロセスです。

次に文献探索では、大学の図書館や学術データベースを活用して、キーワードを頼りに関連資料を収集します。その後の読解フェーズでは、抽象的な概念や理論的背景を理解するために、時間をかけてじっくり読み込みます。

文献整理の失敗から学んだこと

文献整理については、私自身、最初はあまり意識せずに進めていました。その結果、読んだことを忘れて同じ文献を何度も読んでしまったり、どの観点で読んだかを記録しておらず、必要な文献をすぐに見つけられなかったりといった問題に直面しました。

この経験を通して、現在では、文献ごとに要約・キーワード・評価・引用箇所などを整理したノートやデータベースを作成し、レビューの効率と質を高める工夫をしています。文献整理は、研究の「地図」をつくるような作業です。時間はかかりますが、長期的に見ると極めて重要なステップだと実感しています。

最後に:時間の使い方を通して、自分を知る

大学院での時間の使い方は、単に「忙しさをどう乗り切るか」だけでなく、自分の価値観や研究観と向き合う営みでもあると感じています。「何に時間をかけるか」「どの時間帯に集中できるか」「余白をどう使うか」などを考えることで、自然と自分のスタイルが見えてきます。

M1の一年は、自分自身のリズムをつくるための大事な準備期間です。これから大学院に進学する方、あるいは研究生活に悩んでいる方にとって、少しでも参考になれば幸いです。

2025.05.10

文武「両道」で乗り越える研究生活 ー 社会人大学院生の時間の使い方(M2 山﨑)

こんにちは、山内研M2の山﨑聡一郎です。
入学してから早くも1年が経ちましたが、今回は「大学院生活での時間の使い方」をテーマに、社会人大学院生として複数の仕事と研究を両立している私の日常をご紹介したいと思います。

劇団四季との両立失敗?談
私が東大院は大学院2つ目だという話はこれまでの記事で繰り返し述べてきましたが、実は前の大学院に所属していた頃も、劇団四季での出演と両立しながら大学院生をしていました。当時は研究というものへの習熟度が低かったこともあり、修了に3年を要してしまいました。稽古と公演のスケジュールに追われながら、限られた時間で研究を進めていくのは思っていたよりも大変だったのです。でも、そんな失敗経験があったからこそ、今は幾分うまく時間を使えているのではないかと感じています。
前の大学院では合唱サークルにも入っていて、大学生の延長のような気分でした。今は会社を経営していることもあってサークルには入っておらず、ゼミと授業に集中しています。ただ、その会社で合唱団運営をやっているので、結局やっていることは変わらない気もします。

アウトプットからインプットへ
前の大学院を修了してからは、講演をしたり本を書いたりというアウトプットをすることが続いていました。その中でこども家庭庁ができるなど子供を取り巻く環境が変わり、いじめ問題についても改めてインプットをしながら、新しい解決策を提示していきたいという思いが募りました。
正直なところ、10冊以上の書籍を執筆したことでアウトプットをし尽くしてしまった感覚もありました。子どもを取り巻く状況に最新の知見を提供して貢献し続けるには、自分自身がもっとインプットをしつつ新たな知見を生み出さなければならないと感じたのです。そんな思いから、もう一度大学院に行くことを決意しました。

5年間で変わった研究環境
前回の大学院生活から5年間で大きく変わったなと思うのは、AIの発達です。論文を生成AIに要約してもらったり、まだ発見できていない先行研究を収集してもらったり。その分従来よりも世界中の、それこそ日本語と英語以外の言語で書かれた文献も調査する必要性が高まっているので、楽になったかというと微妙ではありますが、研究の充実度は確実に高まっています。
ただ、整理すべき文献の絶対量は飛躍的に増加しているので、情報処理能力や整理力は従来より必要になったと感じます。

もう一つの大きな変化は、オンライン授業が相当に増えてきたことです。もちろん対面でしか履修できない授業も少なくはありませんが、対面が前提だった頃に比べれば大きな変化です。出張していても、遠方に旅行していても授業が受けられるのは社会人大学院生としては画期的です。

普段の私のスケジュール
普段のスケジュールは、朝10~12時までを授業がある日は仕事に、仕事がメインの日は研究を進めています。日中は授業・ゼミが中心で、授業・ゼミがない日は仕事で演劇・演奏会の稽古が入ったり、運営している学習塾の授業が入ったりで夜まで過ごします。
会社経営者は労働者ではないので、毎日トータルでは10時間くらい働きます。そう言うとブラック感がありますが、途中で30分くらいの昼寝も欠かさず、自由度は高いです。仕事の日も2時間は研究時間を確保しており、これを週7日続けています。完全にオフの日は月に2日あるかないか。休日なしで大丈夫かと言われることもありますが、仕事も研究も私にとっては趣味的な側面があるので、それぞれがそれぞれの息抜きになっています。
通学日は週2日程度ですが、予定がない日は大学に行くとモチベーションが高まって研究が捗るのでキャンパスに行きます。東京大学の雰囲気は研究のモチベーション向上にとても良いですね。

ただ、余暇の時間と筋トレの時間は別腹です。日中の1~2時間くらいはジムに行って筋トレ。舞台に立つ仕事なのでボディメイクは仕事の内です。ボイストレーニングや次回出演に向けた自主練習もやります。日付が変わったらゲームしたり、晩酌したりといった余暇の時間を死守しています。起床は10時、就寝は深夜3時という生活なので、一般的な社会人とはズレがあるものの、何気に7時間睡眠は確保しています。

改めて考える「文武両道」
まだ就職していないフルタイムの大学院生は、私が仕事をしている時間もみっちり授業と研究に使えます。修士課程は履修すべき授業が多いので正直その方が余裕が持てて良いと思います。ただ、私は飽きっぽい性格なので、フルタイム大学院生ができた頃もなかなかそういう訳にはいきませんでした。今の生活の方が性に合っていると思います。一つのことに集中することが得意な人も、複数のことを同時進行で進めたい人もいると思うので、ここは個々人の適性だと思います。

ただ、いずれにしても大学院は自らの学びたいことがあって来る場所だというのは改めて思います。研究が好きなら社会人でも両立は何とかなる。仕事も大変だし研究も大変だけど、「好き」で乗り越える。山内研の場合はフィードバックが的確で作業課題がいつも明瞭なので、「やるべきこと」で悩むことは自分の場合はありません。

社会人大学院生をはじめて改めて思い起こすのは、「文武両道」の重要性を繰り返し説かれた高校時代のことです。先生や先輩から、「部活だけをやってて部活が強いのは当たり前だ。俺たちは部活も勉強もできるから評価されるのであって、片方しかできないのは駄目だ。」「文武両道とは文武両立とは違う。両立はうまく折り合いをつけて両方を良い感じにする妥協的な考え方だ。両道は、両方を極めること。」と言われてきました。このような考え方は誰にでも当てはまるわけでは無いと思いますが、私自身にとっては都合の良い考え方だなと思います。
仕事と研究の両方を極めて、両方で成果を出す。何なら、それぞれで相乗効果を発揮することを目指して、引き続き仕事と研究の両方に取り組んでいきたいと思います。

社会人として大学院に進学することを検討している方へ。確かに時間のやりくりは大変です。でも、研究への情熱があれば、きっと道は開けます。山内研には、さまざまな背景を持つ仲間がいます。そして、一人ひとりの状況に寄り添ってくれる研究指導体制があります。「もう一度学びたい」という思いがあるなら、ぜひ一歩を踏み出してみてください。きっと充実した研究生活が待っていると思います。

そうだ、5月22日には研究室入試説明会も開催します。ぜひ大学院生活に対する疑問や不安があれば、気軽に相談してくださいね!
【お知らせ】大学院夏期入試研究室説明会

2025.04.22

【研究テーマ紹介】山内研に来たらどういう研究ができる??(M2 松谷)

皆さんこんにちは,山内研M2の松谷です.
新学期が始まりました,新しい生活が始まり慌ただしく日々が過ぎていきますね.
今回は,来年度の入試説明会もそろそろ行われ出す時期ということで,山内研究室ではどんな研究ができるのかを紹介しようと思います.
山内研については過去の先輩方が色々とまとめてくださっています.全体像を知りたいという方にはこちらのまとめ記事を参照いただければと思います.
【5月11日入試説明会に行く前に!】山内研の魅力とは!? - Ylab 東京大学 山内研究室

今回は,具体的にどんなテーマでの研究がされてきたのかに焦点を絞ってご紹介します!
「学び」をテーマに集まっている,と言っても学校の中に限りません.読書,音楽,仕事,余暇,ICT,演劇…などなど,学びの場や方法は多様です.
そこで今回は,2016年以降に先輩たちが取り組んできた修士論文のテーマをもとに,どんな学びを扱ってきたのかざっくりと4つのカテゴリに分類して紹介してみます!
*大まかに分類したため,他の切り口でもっと違う分け方もあるかもしれません.気になる方はぜひ研究室に足を運んでみてください.

■ 学習支援・教材開発・教育デザイン
学びを促すシステムや授業,教材のデザイン・開発を通じて,学びの可能性を広げる研究テーマ

・プログラミング学習におけるTinkeringの支援〜建設的試行錯誤を促すシステムの開発〜
・文字式におけるプロセプト的思考の獲得を支援するゲーム教材の開発と評価~数学苦手者を対象として~
・科学に対する個人的レリバンスを向上させるための教材開発と評価
・探究学習の課題設定を支援する授業の開発と評価
・アカデミックライティングの構造的統合化を支援するシステムの開発と評価
・大学生の研究室選択を支援するシステムの開発と評価
・タブレット端末向けアプリケーションを用いた幼児の模倣と音づくりの支援

■ 学びの経験・学習過程の質的理解
実際の学びの現場に入り込み,そこにある感情や動機,他者との関係を描き出すような研究テーマ
・テクノロジークラブにおける学習とIT技術者の関わりのエスノグラフィー
・アマチュア・オーケストラ団員たちの興味の深まり――余暇における追求と学習環境
・成人を対象とした読書活動におけるフロー体験に関する研究
・読書経験の共有を通した興味探索の支援に関する研究
・グラフィックファシリテーションが対話に及ぼす効果に関する記述的研究
・デザイン系産学連携プロジェクトにおける学生の経験と学習成果に関する研究
・応用演劇におけるファシリテーションの熟達化に関する研究―プログラム実施時の思考に着目して―

■ 教育実践プログラム・ワークショップの評価
実際に実践された教育プログラムやワークショップの設計やその効果を評価する研究テーマ
・中学生を対象とした正課外活動における社会情動的スキルの向上に関する評価ーUWC ISAK Japanのサマースクールを対象としてー
・鑑賞と表現を架橋する音楽ワークショップの評価研究
・異文化間感受性を高める学習プログラムのデザイン −生徒の傍観者的態度に着目した事前学習の検討−
・証言的対話に基づいたアライの教育プログラムの開発
・価値創造教育がアントレプレナー的態度に与える影響

■ 社会的・心理的プロセスの理解
人が何かに向かう時の内面(モチベーション,レジリエンス,感受性など)や他者との関係性を探る研究テーマ
・大学進学を果たした不登校経験者の学習活動に関する探索的研究
・自己評価と他者評価の調整過程に関する探索的研究
・若年労働者のレジリエンスの発揮に寄与する他者からの働きかけに関する研究
・EFLでの会話を促進する事前学習に関する研究
・教室外活動と日本語学習意欲に関する考察ー台湾における日本語学習者に着目してー
・ICTを用いた英語個別学習指導に関するデザイン研究:学習意欲に着目して


■ 最後に・・・
今回は,過去の先輩方の修士論文のテーマをまとめてみました.分類するのが難しい程,それぞれのテーマは多様で,切り口も方法も異なります.学際的に学びを取り扱うことができることを少しでも感じてもらえたら幸いです.他のブログ記事や,これから投稿される記事でも研究室の様子を覗くことができると思います.

補足:今回はテーマから分類しましたが,研究室では「学習を加速する人工物」,「学習を支える共同体」,「創発的な学習活動」,「学習を誘発する空間」という切り口で各研究テーマをまとめてポスターにしています.今年度の更新バージョンは入試説明会で掲載される予定です.ぜひ気になった方は足を運んでみてくださいね!

【参考】
2024 - 東京大学大学院 情報学環・学際情報学府
こちらに学際情報学府の過去の論文テーマは公開されています.公開情報から今回の記事をまとめました.

2025.04.08

2024年度 春の合同研究会 レポート

皆さま、こんにちは。M2の李佳誠です。

研究計画書の修正作業に追われ、少し報告が遅れてしまいましたが、今回は静岡県静岡市で実施された春の合同研究会についてご報告いたします。

これまでのブログでもご紹介しているとおり、山内研究室では毎年、夏と春に研究会を実施しています。夏の研修では学習科学の古典理論に焦点を当てたプログラムが中心となっているのに対し、春の研修では、修士課程修了予定の先輩方から、研究の進め方やキャリア形成に関する経験を共有していただくことが主な目的となっています。

【1日目】

今回は、同期の山﨑さんのご紹介により、静岡県立大学の国保先生のゼミを訪問する機会をいただきました。
国保先生は経営学をご専門とされており、ゼミでは「産学連携」を主要なテーマとして研究されています。

静岡県立大学にて、国保ゼミと山内ゼミによる合同ゼミを開催し、経営学と教育工学の両視点から、産学連携の事例や課題について活発な意見交換を行いました。

まず、国保ゼミの皆さまからは、経営学や組織マネジメントの視点から、学部3・4年生が取り組んだ静岡県内の企業・団体との産学連携プロジェクトについてご紹介いただきました。また、ゼミ運営の工夫や、進路選択、研究手法に関するお話なども伺うことができ、大変刺激を受けました。

続いて、山内ゼミの先輩方からは、教育工学の立場から、山内研究室がこれまで連携してきたGoogle、SCSK株式会社、マイナビとの産学連携の事例をご紹介いただきました。産学連携上での注意点や、研究者にとってのメリットなど、具体的な経験をもとに貴重な示唆をいただきました。

【2日目】

研究会2日目の前半では、修士課程を修了される先輩方の研究成果をもとに、学習環境研究における多様な研究手法(質的分析・量的分析など)に関する講演とディスカッションが行われました。さまざまな方法論への理解を深めるとともに、自身の研究への視野も広がりました。

また、先輩方がアカデミックキャリアについてどのように考えているのか、今後の進路や人生設計についても共有してくださり、学者としての役割や使命、研究を続けることの意義について改めて考える機会となりました。

合同ゼミや講演に快くご協力いただいた訪問先の皆さまのおかげで、非常に充実した2日間を過ごすことができました。普段ではなかなか得がたい貴重な経験を通して、自分自身を見つめ直す良いきっかけにもなりました。

改めまして、訪問先の皆さまに心より感謝申し上げます。


2025.02.12

はじめての博論構造構想日記 (D1 田中冴)

みなさまこんにちは、D1の田中です。

気づけば年度末ということで、今回は自分のD1の一年を振り返ってブログを書いてみます。

はじめての博士課程の一年目は、振り返ると、いろんなはじめての経験があったように思います。
はじめての論文投稿、はじめての査読対応、はじめてのファシリテーター(する方)…
どれも現在進行形で難しいものばかりですが、この一年特に難しく悶絶していたのは、「博論構造の計画を立てる」ことだったかと思います。なので、今回はこれについて少し書いてみようと思います。
※博論構造には、研究室や研究分野によって違いがあるため、ここで書くのはあくまで私の直面している博論構造の話であることを最初に断っておきます。

私が「博論構造」と書いているもののイメージをしていただくには、中原淳先生のこちらのブログ中の構造図を見ていただくのが良いように思います。
博士論文とは「構造を書くこと」である!? | 立教大学 経営学部 中原淳研究室 - 大人の学びを科学する | NAKAHARA-LAB.net

私がこのD1の一年で対峙していたのは、この構造図で言うところの1・2章→3・4章への分岐のロジックを立てるところです。つまり、「博論全体の大きなRQを解くためには、この2つの研究が必要である」という構造の設計図を立てるところです。

私の場合、構造図で言う研究①(3章)はもう既に実施した修論の内容で、研究②(4章)は来年度実施する研究になります。つまり、研究①という博論の中身の片足は大方決まった状態で、博論全体の構造と、研究②の計画を考えるということを、Dに入ってからのこの一年でやっていたということです。

この構造図をつくるのに四苦八苦した一年でした。はじめての査読対応の経験と合わせて、自分は論文の構造の何たるかなど、何も腹に落ちていないままに修論を書いたんだなと、そう思い知りながらの一年でした。

上記で紹介した中原先生のブログより引用:
ところで、博士論文を書いたことのある人ならおわかりだと思いますが、博士論文でもっとも難しいのは、「文章を書くこと」ではありません、、、たぶん。いや、それも難しいのよ。自分も、その執筆プロセスでは、何度か「悶絶憤死」しかけました。でもね、経験上、それ以上に難しいことがあります。博士論文でもっとも難しいのは「構造を書くこと」なのです。つまり、自分がこれまで行ってきた複数の研究を総括し、「ひとつの論文」としてまとめること、これがもっとも難しい。

例えば、この構造図や、IMRADなど、論文の構造を示すフォーマットや説明は世にたくさん落ちていますが、少なくとも私は、それらを受け取るだけで腹に落として使いこなすというのは難しかったです。自分としてはフォーマットに従って設計図を書いたつもりで、自信満々で人に持っていってコメントをもらってみると、大抵自分はフォーマットに従えてすらなかったことがわかり、確信がぶっ壊れるということが何度もありました。
フォーマットには書かれていない、とんでもない前提で勘違いをしていたとか、そういうのばかりです。根気強くずれているところを探すのに付き合ってくださる、周りの方々に感謝です。

この勘違い具合をどう伝えればいいかなと思って、最近具体例を考えているんですが、一個思いついたやつを書いておきます。

私が誰かに、「信号の色の『赤』は『止まれ』だ」という横断歩道の信号のルールを教えてもらったとします。私は自信満々に「OK!」と言って、信号が青のときに横断歩道を渡り始めます。渡ってる途中で信号が赤になったら、信号が『赤』なので私は横断歩道のど真ん中で完全停止して『止まれ』を実行します。そうすると、直行軸を走る車にはねられる、ということを、たぶん私はやりがちなんだと思います。
側からみるととんでもない勘違いですが、私はルールを適用したつもり満々なのが困ったもんです。

その後に、その既存のルールがなぜそうなっているのかを、周りの人に協力していただきながら、いろんな方向から噛み砕いていきます。「自分の進行方向の信号が赤になったら、直行軸方向の信号は青になって、車or何かしらが通るんだ。だから、進行方向の信号が赤のときに横断歩道にいたり、渡ったりしたら、車or何かしらと干渉するんだ」という具合です。ここまで私が自分で説明できるようになって、やっと既存のルールが腹に落ちて、自分で使えるようになる気がします。

コメントをくださる周りの方々からすれば、私は「そんなところで勘違いする?」「前にも言ったでしょ」みたいなことばかりなのでは、と想像します。
博論を書く上でやりうる勘違いをコンプリートしに行っているのか?と自分でも思います。
コメントをくださる方々には、辛抱強く付き合ってくださることに最大限感謝しつつ、
自分には、まあ、博論書くのはじめてだし、いろいろな勘違いが常ですけど、ここからできるようになっていきたいね…、と若干後ろ向きに元気づけながら、まだまだ続けていこうと思います。

2024.12.20

研究と社会実装を考える(M1山﨑聡一郎)

M1の山﨑聡一郎です。
今春のブログで触れたとおり、私は2つの大学で学び、社会人を経て3つ目の大学として東京大学に入りました。様々な研究環境を経験する中で、研究と向き合う哲学のようなものにもいくつか触れてきました。
それぞれが意義深いものだなと感じる一方、それらには一見すると矛盾のようなものも含まれているように感じ、自分の中で今ひとつ折り合いをつけられずにいました。

東京大学に入学して半年、様々な学生や先生、そして学びに触れる中で、自分の中で「なるほど」と思えるフレームワークに出会えたので、今更と感じる人もいるかも知れませんが、この記事でご紹介したいと思います。



異なる研究文化との出会いと葛藤


いくつかの大学に身を置く中で、私が直面した最も大きな課題のひとつは、異なる研究文化との出会いでした。
最初の大学では、研究に対する考え方が非常に実践的でした。例えば、入学直後の授業では「社会が抱える問題を見つけ、それを解決するための知識や技術を逆算して習得する」という哲学が強調されていました。この経験は、研究の意義を常に現実と結びつける重要性を教えてくれました。私の最初の研究が法教育副教材「こども六法」と法教育教材「こども六法すごろく」の開発に向かったのは、すぐに社会実装できるプロダクトを形にすることを何よりも重視していたからに他なりません。当時の私は、研究は社会実装による社会還元を前提とするものだと考えていたのです。

しかし、次の大学院で出会った研究文化は、まったく異なるものでした。そこでは、「研究の意義は先行研究に付加する知見の積み重ねそのものであり、社会実装は必ずしも研究者の責任ではない」という考え方が主流でした。最初はこの哲学に戸惑いましたが、徐々に先行研究を深く掘り下げ、その中から新たな課題を見つけることの重要性を実感しました。これにより、研究の多面性を理解し始めましたが、一方で異なる哲学を持つ環境に身を置くことで、内心で矛盾を感じる場面も多くありました。



学問の意義に関する考察


昨今の社会では学問、ひいては大学の意義について議論が活発化しています。大学は企業に就職してから役に立つ人材を育成するべきだ、のような主張を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。国家予算の使途を検討するに当たっても「選択と集中」というキーワードがしきりに取り上げられ、まるで役に立つ研究と役に立たない研究とが予めわかっているかのようです。いや、そういった議論をする人たちにとっては、例えば「ロケットを打ち上げる宇宙工学は役に立つが、宇宙の謎を解き明かす天文学は役に立たない」のように、社会実装との距離を鑑みてその意義を判定しようとしているのかも知れません。しかし言うまでもなく、この二つは切り離せないものです。

宇宙工学の進歩は天文学の知見なしには成し得ません。ロケットが向かう宇宙空間の特性を理解するには、天文学的な研究が必要不可欠です。人間の発達段階や精神・心理の性質を理解しなければ子どもの年齢・学齢に応じた適切なカリキュラムを設計することはできませんし、画像生成を支援する技術としてのGPUが仮想通貨のマイニングやAIの運用で注目を浴びているように、特定の研究成果や技術が予期しなかった発見や時代の潮流によって、当初の想定とは全く異なる形態や程度の脚光を浴びることもあります。このように、役に立つ学問とそうでない学問の境界線を引くことは、極めて難しいのです。



研究の分類と自己分析


東京大学で学ぶ中で、研究には3つの型があるという提言を知りました。それは、ボーア型(基礎研究)、パスツール型(基礎と応用の融合)、エジソン型(応用研究)です。この提言は、ドナルド・ストークスが提唱したQuadrantモデル(『Pasteur’s Quadrant: Basic Science and Technological Innovation』1997年Brookings Inst. Pr.)に基づいており、研究の性質と目的を基準に分類されています。

振り返ってみると、私の学部時代の研究はエジソン型に近く、実用的な社会実装を目指すものでした。実際に、現在世に出ている私の著書は、学部時代の研究の延長にあるものが殆どです。一方、前の大学院ではボーア型の基礎研究に近い性質の研究をしていたと感じています。その研究では、いじめに直面した生徒の援助要請行動の促進要因と阻害要因、ザックリといえば「子どもはいじめに直面したとき、どういう経験を重ねていればSOSが出しやすくなるのか」ということを調査したのですが、「だから先生はこういう取組をしましょう」のような提言までが研究で完結していたわけではありません。

現在の東京大学での研究は、まだ模索中ではありますが、エジソン型か、場合によってはパスツール型に向かうのかなと感じています。この分類それ自体が研究を後押ししてくれている訳ではないかも知れませんが、自分の研究スタイルを客観的に捉え、今まで感じていたモヤモヤを整理することができました。



東京大学での学びと多様性


翻って学際情報学府での学びを思い返すと、多様な研究背景を持つ学生や研究者との交流を通じて、自分の研究を多角的に見つめ直す貴重な機会を得たと感じています。以前は、自分と同じテーマを追う仲間がいないことに孤独を感じていましたが、今では、異なるテーマに取り組む人々が多くいるからこそ刺激を受け、学びを得ています。
東京大学という環境は、自分の研究を深めるだけでなく、学際的な視点を得て新たな可能性を見つける場でもあります。この環境を最大限に活用し、多様な視点を取り入れながら、研究が社会にどのような影響を与えるかを模索し続けたいと考えています。


Donald E. Stokes “Pasteur’s Quadrant: Basic Science and Technological Innovation” (1997, Brookings Inst. Pr.)
高田仁『「パスツール型」研究者と大学発ベンチャーの関係性に関する考察』研究 技術 計画, 2020, 35巻, 3号, pp305-315

2024.12.12

大学院生活における自己調整学習について -M1段階-(M1李佳誠)

皆さん、こんにちは。山内研究室M1の李佳誠です。気づけば、M1として過ごす時間も残りわずかとなりました。本日は、M1段階において大学院生活を送る上で、どのように自分の自己調整学習を促進するかについて、自分の視点からお話ししたいと思います。

自己調整学習とは、学習者が自分自身の学習目標を達成するために、認知・感情・行動を体系的かつ自発的に方向づけ、維持していく過程のことです(Zimmerman&Schunk, 2011)。簡単に言えば、先生や親から求められて勉強するのではなく、自分で目標を設定し、計画を立てて学習に取り組むことを指します。大学院生活では、学部時代と比べて、自己調整学習の能力がより一層求められると感じています。たとえば、学部時代に比べて授業の数が少なくなり、自由な時間が増えることが挙げられます。この自由な時間をどう活用するかが非常に重要です。遊びに流されることなく、自律的に自分の修士研究に取り組む必要があります。しかしながら、すべての人がこの自由な時間を効率的かつ自律的に活用できるとは限らず、自己調整学習がうまく機能しないケースも少なくありません。その結果、修士課程を順調に修了できない場合も見られます。以下、M1段階において、どのように自己調整学習を促進するかについての経験を皆さんと共有したいと思います。

1. ファシリテーターとの学習計画作り
まず、ファシリテーターとともに学習計画を立てることの重要性についてお話しします。山内研究室にはファシリテーター制度があり、博士課程の先輩がM1の勉強や研究活動をサポートしてくださいます。私の場合、ゼミ発表の後にファシリテーターと話し合い、次の1か月間の学習計画を相談しています。この際、非常に細かい計画を作るわけではなく、1か月の中で取り組むべき主な内容や方向性を確認します。ファシリテーターは具体的なアドバイスをくださるだけでなく、必要に応じて計画を修正してくださり、大変心強い存在です。さらに、ゼミ発表の1週間前には、1か月間の成果をファシリテーターと確認し、最後の1週間で何を重点的に学ぶべきかを決定します。これにより、自分が何をやるべきかが明確になり、目標に向けた安心感やモチベーションが高まるのを感じています。

2. 学習場所の選択
そして、自分に相応しい学習の場所で勉強することです。教室の広さや照明などの環境的および地理的要因は、学習成果を高める重要な要素として特定されています(Yar & Shaheedzooy, 2023)。このような物理的な要因のみならず、雰囲気という感覚的要因も存在していると考えています。例えば、自分の場合では、家では「休憩」の雰囲気が強く、家で休むことが多いです。一方、学校では「勉強」の雰囲気が強く、ここで勉強すれば、より効率的に勉強できると感じています。したがって、勉強する前に、場所の属性をきちんと考え、自分にとって一番「勉強」の雰囲気が強い場所を選んだ方が良いと考えています。

3. メリハリをつけた学習
最後に、学習にメリハリをつけることです。M1段階では、毎月1回ゼミで研究発表が求められます。発表の準備には、1か月間の研究成果をまとめ、資料を作成する必要があります。最初の2~3週間を無計画に過ごし、最後の1週間で集中して資料を作成する方法をとる人もいますが、私はこの方法をお勧めしません。なぜなら、短期間で焦って資料を作成すると質が低くなり、発表時に十分なフィードバックを得られないからです。また、M1段階では、単に勉強するだけでなく、「熟考」する時間も必要です。たとえば、学んだ内容が自分の研究目的にどう関連するのか、新規性のある課題は何かを深く考えることが求められます。慌ただしく作成した資料では、この「熟考」が不十分となり、結果的に貴重な機会を浪費してしまうこともあります。

そのため、メリハリをつけて計画的に取り組むことが大切だと考えます。私の場合のスケジュールは次のようになります。
1. 最初の1週間:研究の方向性を明確にし、文献リストを作成する。
2. 2~3週間目:文献を読みながら、発表資料を徐々に作成する。
3. 4週間目:ファシリテーターと相談しながら、資料を修正する。

このようなスケジュールで取り組むことで、焦ることなく、質の高い発表資料を作成することができます。

以上、ファシリテーターとの計画作り、学習場所の選択、そしてメリハリをつけた学習についてお話ししました。これらの取り組みは、自己調整学習を実践する上で非常に有効だと感じています。皆さんが充実したM1生活を送れるよう、心から祈っております。


ZIMMERMAN, B. J. and SCHUNK, D. H. (2011) Self-Regulated Learning and Performance:
An Introduction and an. Overview. In ZIMMERMAN, B. J. and SCHUNK, D. H. (Eds.). Handbook of Self-Regulation of Learning and Performance. Routledge, New York(塚野州一訳(2014) 自己調整学習:序論と概観.塚野州一,伊藤崇逹監訳 自己 調整学習ハンドブック.北大路書房,京都,pp.1-10).

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