2016.04.28
M2の杉山です.私の今年度の研究計画をご紹介します.研究の意義を説明する難しさに直面する日々です.世の中では,新規性,新規性,などと言うこともありますが,むしろ新しいもの中から「価値のあること」を見つけ出すことの方が重要で困難な作業です.目下,計画を修正中なので,以下のまま修士論文にはならないと思いますが,ご紹介します.
■テーマ
アマチュア音楽活動における関心の深まり方の類型化
■背景
人が自己実現をするやり方は仕事の中だけにあるのではない.ある人の生涯に意味を与えるものの一つに,余暇活動がある.余暇活動には「気晴らし」と「真剣な余暇」があると言われ,アマチュアでありながらも長期間関与を続け,その領域においてキャリアを積んでいく真剣な余暇において,人は自己実現・自己表現を果たすという(Stebbins 1992) .こうした余暇活動の可能性は,文化政策や生涯学習,高齢者福祉などの領域で注目を集めており,人々が充実した生を送る一つのあり方として,余暇活動を支援・振興していくという動きが見られる.
こうした政策領域における一つの大きな問題が,参加 particitpaiton と関与 engagement のあいだの隔たりである.これまでの政策領域では,「全く活動をしていない人」がいかに参加できるようになるか,という問題に焦点を当て,施設の整備やアウトリーチプログラムの実施などによって,活動への「アクセス」を拡大してきた.しかし,それによって「参加」の機会が増えることと,継続的な「関与」が発生することは別の問題として存在している.文化消費の事例ではあるが,イギリスの文化振興政策では「1度でも参加する人」の数を増加させることができたが,「定期的に参加する人」は全体の1割程度のまま,変わらなかったという.
それゆえ,人々がある活動に熱中し,関与し続けることはなぜなのか,そうした関与を生み出すきっかけが存在し,支援は可能な対象なのか,という問題は,解かれるべき意義のある問いである.本研究では,年齢を問わず多くの人々が参加・関与しているアマチュア音楽活動を余暇活動の事例として,この問いに取り組む.
■先行研究
アマチュア音楽活動への参加・関与の問題を主に扱っている領域は,音楽教育(生涯音楽学習)である.先行研究では,アマチュア音楽活動へ参加する成人は,中・上流階級の大学を卒業した専門職従事者が多いとされている.さらに,個々人にとっての参加の理由は,「新しい友人に出会う」というような社会的動機づけから,「音楽を愛しているから」というような音楽的動機づけ,「自己表現のため」という個人的動機づけに分かれるという(Coffman 2002).
このように先行研究は,参加の理由のパターンについては明らかにしているものの,どのような属性をもつ人がそのような理由づけをするのか・どのようにしてそのような理由づけが生まれてくるのかについて検討していない.その点が明らかになれば,なぜ関与が生まれるのかについて有効な知見になるだろう.
そこで参考になるのが,教育心理学における「関心の発達(深まり)」に関する研究である.教育の分野では,理科などの科目において,生徒がただその領域的な思考をするだけでなく.その領域に関心をもち,主体的に実践に取り組んでほしいという観点のもと,関心の分類と発展のモデル化を行っている(Hidi and Renninger 2006).それによれば,関心は単純に活動を続けていくだけで深まるのではなく,その領域での熟達やそのほかの経験が関連しあいながら,深まっていくものである.
それゆえ,関心の発達に関する一般手的なモデルは存在しても,学習者が実際に何を経験するのかは,当該領域によって異なる.そこで「アマチュア音楽活動に関与していく中でいかに関心が変遷してきたのか・またそれはどのようなきっかけによるものだったのか」を本研究の問いとして設定する.
■方法
アマチュア音楽活動を5~10年続けている成人に対し,自らの音楽活動に関して回顧的インタビューを行う.それによって,活動に関与していく中でいかに関心が変遷してきたのか・またそれはどのようなきっかけによるものだったのかを探索的に明らかにし,類型化を試みる.
【杉山昂平】