2012.04.12
みなさまこんにちは。M2の山田小百合です。
今日東大は入学式ということで、入学されたみなさま、ご入学おめでとうございます!
新しく入ったM1の3人が入学式に出席しているのを見て羨ましいなと思いつつ(昨年は中止になってしまったので)、今年の研究計画についてご紹介します!笑
と、その前に。ちなみに1年前の研究計画はこれです(お恥ずかしいですが)
→ http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/05/post_309.html
あれから1年経ち、多くの文献レビュー、様々なワークショップ実践の見学、自分自身の実践を通し、少しずつテーマが絞られてきている感覚を感じていました。
前から「ゆるふわ」な言葉でもやもやと表現していたことを、もう少ししっかりした言葉で表現したく、この1年は必死で目の前のことに食らいついていました。
苦戦をしましたが、たくさんの方々にも支えていただいたおかげで、少しずつ兆しが見えてきた気がしています。
とはいえまだまだ課題は山積みですが、早速ご紹介いたします!
■研究テーマ
『自閉症児の共同学習におけるコミュニケーション発達を支援するワークショップに関する研究』
■障害のある子どもの発達と「インクルーシブ教育」
1994年のサラマンカ宣言以降、世界では障害のある子どもの多くは普通学級または普通学校に所属されていることが前提で、個々のニーズに答えながら、教育環境を整えようという「インクルーシブ教育」が提唱されています。
日本での障害のある子どもの学びは「特別支援教育」で注目されており、個々のニーズや障害の程度に合わせた環境を整えるようになってきています。決してインクルーシブ教育と相反するわけではありません。しかし、海外の動向と明らかに違うことがあるとすれば、「特別支援学級」の数が、世界では減少傾向の中、日本は増加傾向にあります。これは一種のねじれ現象ではないかと私は感じています。
私たちが他者と関わり合うことで「学ぶ」ことはたくさんあると思いますが、それは障害のあるなしに関係なく共通することです。しかしこのねじれ現状は、自閉症児を含む障害のある子どもが、障害のない子どもと関わる機会そのものや、対人関係の発達に関わる学習の機会の減少に繋がっています。
ヴィゴツキー(邦訳 2006)では、「1人ではできないことも集団の中ではできることや、指導者が予測できない発達が、健常児との交わりを通して生じることもあり、社会的教育が重要」と述べられているように、障害のない子どもとの関わりは、障害のある子どもの学びに大きく影響すると考えられます。
■自閉症児の社会性の発達
障害のある子どもといえども様々ですが、今回は「自閉症スペクトラム障害」に注目して研究を進めて行く予定です。
自閉症という障害は広汎的なものなので、簡単な言葉で言い表せるものではありませんが、大きく3つの特徴があると言われています。
(1) 他人との関係を作ることが苦手(社会性・社会的相互交渉の障害)
(2) 他人とのコミュニケーションが苦手(コミュニケーションの障害)
(3) 先を見通す・周囲の変化に柔軟に対応することが苦手(想像力の障害)
こうしてみるとわかるように、他者との関わりにまつわることが苦手なことがわかります。
そういった「社会性の発達」のなかでも、今回は自閉症児の「集団参加」や「コミュニケーション」に注目をしようと考えています。
■自閉症児の他者との関わりと遊びの関係性
障害児と健常児の間に肯定的な相互作用が生じるプログラムの重要性は多くの研究者が主張するところです。その中で、自閉症児の社会的相互作用において、情動の共有の重要性が言われています。
情動共有を行なうために「遊び」が注目されていますが、自閉症児の情動共有ができる遊びの研究は「対大人」とのやりとりのなかで観察されているものが多いです。私はこれを、「同年齢(近い)他者」との関わる際にもっと生かせるのでは?と考えています。
■研究の目的
こうしてみると、自閉症児の「遊び(情動的交流遊びなど)」に関する研究は多々ありますが、ほぼ対大人(先生・療育者など)で実施されており、同年齢の子どもとの遊びを検証したものは少ないです。とはいえ、年齢の近い健常児と上手に遊べないことが多いということも課題としてあげられます。そのために自閉症児のための環境設計としてワークショップという手法が有効であると考えています。
そこで本研究では、「情動共有遊び」を、障害のない子どもとのワークショップに組み込むプログラムを提案し、自閉症児の集団参加やコミュニケーションの変容を検証することを目的としています。
つまり、
情動共有が可能な遊びがワークショップに組み込まれている場合、障害のない子どもとの集団への参加が促されたり、自閉症児のコミュニケーションが活発になる!
ということを言いたいと、現状では考えています。
■研究の方法
研究の方法として、自閉症児5名を対象とさせていただき、情動共有遊びが可能なワークショップに、健常児と参加をしてもらいます。
その中で、自閉症児の集団参加やコミュニケーションの様子をケース記述しながら、検証することを考えています。
▼
こうしてみても課題は山積みですが、この研究を元に、今年度NPO法人を設立し、障害のある子どももないこどもも楽しめる学びの場づくりをライフワークにしていく予定です。
ここで出た知見を現場に届けていけるよう、面白い論文にしたいと思っています。残り1年、起業と研究両方、気合をいれてがんばります!
【山田小百合】
2012.04.06
みなさま、ごきげんよう。修士2年の早川克美です。
昨夜、山内研では本郷キャンパスで恒例のお花見の宴がありました。
例年より少し遅い開花の桜は、寒さに耐えながらめいっぱいふくらませた蕾を一気に開き、その様は実に晴れやかで生命力にあふれ、私たちに活力を与えてくれたようです。
さて本題です。
年度のはじめに際し、自分が現時点で考えている研究計画をご紹介いたします。
【研究テーマ】
「大学生の学習実態と学習空間に関する研究」
【研究の背景】
今日、『学士力』なる概念が中央教育審議会より提起され(2007年9月)、大学生の学習成果を、包括的に捉えていくことが焦眉の課題となっています。学習成果の理解においては、 学習以外の大学生活の過ごし方が、授業での知識・技能の獲得に効いている(溝上、2007)、 学生側が大学での学習にどのようにエンゲージしているのかを考慮することが重要(岡田他、2011)と指摘されています。また、山内(2011)は、学習メディアの多様化、教授法の変化、学習スタイルの変化によって、近年ラーニングコモンズと呼ばれる新しいかたちの学習空間が提供されつつあり(山内他、2010)、学習の文脈をつくるためにも自主的な学習コミュニティへの支援が重要になってくると主張しています。
一方で、キャンパス内における学習空間に対する研究では、カリキュラムで拘束されない自由なコミュニケーションが、学習意欲、人間形成にとって重要である(上原他、1985)としてインフォーマルな学習空間の必要性にふれています。
先行研究からは、学士力の強化を背景に学習実態が調査分析され、学習をとりまく状況の変化に対し新たな空間が提案されつつあり、学習空間に関する研究も多々あることがわかってきました。しかし、 井上(2005)が指摘するように、既存のスペースが学生の生活行為や要望に適切に対応できていない可能性があり、学習空間と学生の学習実態は必ずしも整合性が図られているとはいえません。学生が実際にいつ、どこで、どのように空間を利用して学習の機会を得ているのかについて、空間と結びつけた学びの実態を調査した研究は行われていません。
【研究の目的】
「インフォーマルな学習を含めた大学生の学習実態」と「学習空間の利用実態」について調査を行い、その関係にパターンを見出すことで、大学が対処するべき 学習環境デザインの基礎となる空間原理を導きだすことを目的としています。
【研究の仮説】
今日の様々な共同体で行われる学習の75%以上は、インフォーマルな学習が占めている(Conner,2009)と指摘されることからも、授業時間外での活動も含め、学生の学びの実態を捉えていくことが重要であると考えます。
インフォーマルな学習の実態を調査し、明文化することにより、大学生の学習実態と学習空間の関係にパターンを見出すメタ認知によって、学生本人や教職員が意識していない場面で「学習」が発生しているというケースをピックアップし、そして、「学習が発生している空間」で何故「学習」が起こっているのか?どのような空間が学習を支援しうるのか?について考察を試みたいと考えています。
【研究の方法】
調査は数校の大学において、学生に対し、質問紙調査の後、特徴的なパターンを持った対象者に対し、写真日記とそれに基づくインタビュー調査を行う予定としています。
【今後に向けての課題】
●調査の対象となる大学を選定する根拠。
●質問紙の項目設定、調査のスケジュール。
●パターンを発見する根拠となる原理・指標をもつこと。
課題が山積みですが、ひたすら学んで一つ一つの課題をクリアさせていきます。
2012年度もどうぞよろしくお願いいたします。
【早川 克美】
2012.04.03
3月24日(土)にBEATSeminar 「ソーシャルラーニングとこれからの人財育成」が開催され、NPO法人産学連携推進機構 理事長でいらっしゃる妹尾 堅一郎先生からイノベーション人財育成について大変興味深いお話を伺いました。セミナーレポートが完成次第このページでお知らせします。(当日のTweetのまとめはこちらからご覧いただけます。)
特に大学において、企業が求めるイノベーション人財をどう育てるのかという問題が顕在化していますが、最近気になっているのが、その象徴としてのスティーブ・ジョブスの位置づけです。偉大な仕事をしたことは間違いありませんが、彼のような人だけがイノベーション人財なのかどうかは慎重に検討する必要があるのではないかと考えています。
先日Forbes誌でこの問題に関係する興味深い調査記事を読みました。
The Five Personalities of Innovators: Which One Are You?(イノベータの5つの個性:あなたはどのタイプですか?)
この記事では、ヨーロッパ企業の1245人の経営層に対する調査から、企業においてイノベーションの雰囲気を醸成する5つの個性を明らかにしています。
1) 他者を揺り動かす人 (22%)
強いリーダーシップを持ち、他者を説得して動機づけることによってプロジェクトを前に進めていくタイプ。やや傲慢でチームワークは苦手。
2) ともかくやってみる人 (16%)
アイデアを思いついたらともかく実行してみるタイプ。失敗を恐れず必ず乗り越えるという強い意志を持っている。イノベーションには不可欠だがCEOには少ない。
3) なんでもできる人気者 (24%)
小学校に時々いる「なんでもできてかつ人間的にも魅力がある優等生」タイプ。産業の種類や会社の規模にかかわらずCEOに多い。
4) 秩序を好みコントロールする人 (15%)
リスクを避け、整然と着実にプロジェクトを進めるためにまわりを制御するタイプ。営業など現実的な目標に向かう際に力を発揮する。
5) あたりさわりのない居候 (23%)
いてもいなくてもあまり影響がないと思われている地味なタイプ。中庸を好み手続きを重視することによって組織に受け入れられるかどうかのリトマス試験紙役になる。会計部門に多い。
イノベーション人財といえば、1)や2)のタイプが思い浮かべられるのではないでしょうか。ジョブスのイメージもほぼこれに重なります。しかし、組織がイノベイティブなアイデアを形として世に送り出すためには多様な人々の力を結集する必要があります。一見イノベーションと関係なさそうに見える人たちも、重要な役割を果たしているのです。特に4)や5)の人たちがイノベーションを殺さず、アイデアの価値を理解してバックアップすることがとても大切です。
アップルという組織を見てみても、現CEOのクックをはじめ、多様な個性に支えられて成功しています。ひとりひとりの可能性を活かしながら、新しいことを生み出すことを文化として共有すること、それがイノベーション人財育成の前提条件なのかもしれません。
【山内 祐平】
2012.04.02
みなさんこんにちは。M2の末 橘花です。一昨日桜の開花宣言がありましたね。今年は例年より遅かったようですが、昨日から4月も始まりいよいよ新年度のスタートで、身が締まります。今年度もYlabをどうぞよろしくお願い致します。
では、【研究計画】シリーズ第3回目の担当として、早速今年の研究計画をご紹介させていただきます。
【研究テーマ】
中等教育におけるオーラル・ヒストリー・プロジェクトの実践と評価
【背景】
現在歴史教育において、一つの絶対的な歴史ではなく、解釈としての歴史を学ぶことが大事であるというように歴史の概念が変化しています(今野2005)。例えば歴史認識問題は、一つの事象に対して複数の解釈をもつことが原因であるということからも概念変化はご理解いただけるのではないでしょうか。
また、歴史教育で身につけるべき力としてHistorical Thinking という力がありますが、これは歴史の概念理解と複雑なプロセスを扱う能力 (Lemisko 2010)とされ、その下位概念としていくつかのスキルに分かれています。その中に「歴史的な見方をとる力(Historical Perspective)」があげられます。これは、過去に生きた人の考え、感情、モチベーションを理解し、再構築する力(Seixas & Peck 2004)であり、そのスキルを使って、現代の文脈に合わせて多様な視点を持つことができる(Seixas 2002)ようになると言われています。
【研究の着眼点】
そこで、今回Historical Perspectiveを獲得する方法として「オーラル・ヒストリー」に着目します。オーラル・ヒストリーとは、「歴史的再構成を目的」(江頭2007)としたインタビュー活動のことです。第一人者のポール・トンプソン(2002)は「人々の声を聞き、彼等の経験と記憶を記録して、歴史と変動する社会と文化を解釈」する行為と定義しています。
【目的】
本研究では、オーラル・ヒストリーに着目し、高校教育においてHistorical Perspectiveの獲得を支援する授業をデザインし、評価をすると共に、この力がより向上する過程を分析することを目的とします。
【方法】
方法としては、2012年4月から11月にかけ週一回、高校の総合的な学習の時間を用いてオーラル・ヒストリーの授業実践を行います。半年の授業になりますが、オーラル・ヒストリー・インタビューの、アポイント、質問項目の作成、もちろんインタビューそのものや最後のプレゼンテーションまで全てを生徒に企画してもらい、実践しながら学んでもらいます。生徒に対しては質問紙や発話データからHistorical Perspectiveの指標を用いて分析します。
【今後に向けて】
4月後半から母校での授業実践が始まります。こんなに早くから修士論文に直結する実践が始まることに不安は多いですが、まずは実践が上手くいくように一つ一つの授業実践を丁寧にこなしながら、より深い洞察ができるように分析にも力を入れたいと思います。データとしても結果を出し、生徒や担当してくださる先生にも満足のいく授業ができればと思います。一年間どうぞよろしくお願い致します。
【末 橘花】
2012.03.27
先日、スタンフォード大学の研究チームが、算数が苦手だと感じている子どもたちの脳の働きについて明らかにした研究を出版しました。
この研究によると、算数に強い苦手意識を持つ子どもは、恐怖を感じる脳の部位が活性化し、そのために問題解決に寄与する部位の働きが抑制されているようです。恐怖でパニックになって合理的行動がとれなくなるのと似たような現象だといえるでしょう。
感情は人間にとって原初的機能であり影響も大きいのですが、学習では認知的側面に注目があたりがちで、見逃されることが多いのです。苦手意識が恐怖感のバリエーションであるとすれば、それを取り除く処遇をしなければ、理解を増進させることは難しいでしょう。
逆に言えば、学習環境を構成するときに、学習者が負の感情を持たないようにすることが重要です。できるだけ楽しく学べるようにすることが基本ですが、うまくいかない場合にもしかるのではなく、援助しながら困難を乗り越える楽しみにつなげることがポイントになるでしょう。
【山内 祐平】
2012.03.24
皆様こんにちは。今週のブログを担当させていただきます。いよいよ修士2年目に入りますので、研究の大体の方向・構成を決める時期になりました。早速ですが、研究について少しご説明いたします。
タイトル
PBLにおけるチームパフォーマンスを向上させる座席のレイアウトに関する研究
アブストラクト
近年、大学教育においてPBL(プロジェクト学習)が注目されている。本研究はPBLの核となる「製作」セッションに着目し、製作を行う同チームの各役割を担当するメンバーがよりよく各自の役割を果たし、優れたチームパフォーマンスを達成するために、チーム内の座席のレイアウトについて研究を行う。具体的には、PBLの「製作」セッションを実験を通して行い、他条件をコントロールした上で、異なったパターンの座席のレイアウトを試すことを通して、各パターンでのチームパフォーマンスを評価しながらPBLを支援できる座席のレイアウトに関して提案をすることを目的としている。
【背景】
近年、PBL(project based learning)は大学教育で色々と注目されています。PBLに関する具体的な操作方法やそれが順調に進めるための教員おいび学生が注意すべき点についても、文献と実践の両方で盛んに研究されてきました。しかし、PBLは比較的に新しい教学形式として、その核となる「製作」セッションまでに注目し、「製作」セッションで起こった「学び」を向上させるような研究はまだまだ少ないです。本研究は、PBLの「製作」セッションにおけるチームパフォーマンスを向上させるために、物的環境のデザインにフォーカスすると設定している
【研究の着眼点】
このような背景を踏まえ、本研究ではPBLの「製作」セッションにおけるチームパフォーマンスを向上させるための家具のレイアウトに着目しています。
【目的】
PBLの「製作」セッションにおけるチームパフォーマンスを向上させるような家具のレイアウトを提案することを目的としています。
【研究の方法】
PBLの「製作」セッションを実験を通して行い、他条件をコントロールした上で、異なったパターンの座席のレイアウトを試すことを通して、各パターンでのチームパフォーマンスを評価しながらPBLを支援できる座席のレイアウトに関して提案をする。
【今後に向けて】
4月に予備実験を行う予定です。それまでに予備実験の詳細をデザインし、様々な準備をしておく予定です。予備実験の結果を踏まえて、さらに研究のコンテンツを修正し、本実験に向けて、蓄積すべきデータ、情報と知識をきちんとマスターします。
今年もよろしくお願いいたします。
M1 呉重恩
2012.03.15
皆様こんにちは。今週はM1の河田承子が担当させていただきます。
早いもので入学から1年が経とうとしています。私にとってこの1年は怒濤の年でした。課題に追われる毎日に、自分は乗り越えられるのだろうかと不安に思う事が度々ありましたが、諦めなかったお陰で精神的にも肉体的にも大きく成長できたのではないかと思います。
研究についても大きな変化がありました。入学当初は育児情報に対する親のメディア・リテラシーを高める研究がしたいと考えていましたが、研究を進めるうちに、親の育児情報活用の現状を明らかにすることに興味が移り、これを研究のテーマとすることにいたしました。
では、どのような研究をしていくのかをご説明させていただきます。
【研究テーマ】
親のメディアの育児情報活用に関する研究
【背景】
育児情報は、かつては近親者や近隣の人々を通じてパーソナルに入手されるものであった。しかし、1969年に育児情報誌「ベビーエイジ」が創刊されて以降、1980年代頃からは育児雑誌が主な情報提供源となり、さらに2000年頃からはネットが情報の入手先として大きな役割を果たすようになってきました(外山ほか 2010)。中でも、早期教育がメディアで頻繁に取り上げられており、それらの情報を集めて子育てに活用する親は増加している。このような、メディアのメッセージが親の行動に影響を与えることは明らかになっている一方、親が育児情報をどのように子育てに活用しているのかに関する研究は行われていないのが現状です。
【研究の着眼点】
このような背景を踏まえ、本研究では親の育児情報の活用に注目します。これまでに行われている研究では、親の育児情報源について調査したものはあります。しかし、収集した情報を子育てにどのように活用しているのかまでは明らかにされていません。
【目的】
メディアの早期教育情報を、どのような親がどのように活用しているのかを明らかにする。
【研究の方法】
量的調査を行い、情報源・情報活用・心理的要因・社会的要因について調査します。そして、親が情報活用を「継続したのか」「継続しなかったのか」の二つのケースに分け、どういうタイプの親が「継続しているのか」「継続していないのか」要因を分析したいと考えています。
【今後に向けて】
研究方法などの課題は山ほどありますが、親に育児情報の上手な使い方を提案できるよう、1つ1つ丁寧に向き合って研究を進めていきたいと思います。
今年もよろしくお願いいたします。
M1 河田承子
2012.03.13
みなさま、ごきげんよう。修士1年の早川克美です。
今回のテーマは【今年を振り返る】。
実はこのテーマ、憂鬱です。うーむ。むしろ振り返りたくない。
しかし、それでブログを閉じるわけにはまいりません!
憂鬱の理由を明らかにし、1年を総括することで、前に進めるというものです。
苦々しい思いで、社会人大学院生の修士課程初年度をふりかえりたいと思います。
*************************************************************************************************************
この1年は、大学院という研究の共同体に存在する「暗黙知」との闘いであったといえます。ご存知の通り、「暗黙知」とはハンガリーの哲学者マイケル・ポランニーが提唱した概念で、主観的で言語化することができない知識、言語化して説明可能な知識(形式知)に対し、言語化できない、または、たとえ言語化しても肝要なことを伝えようがない知識のことです。「暗黙知」の例としては「自転車の乗り方」があります。つまり、自転車を乗りこなすことはできるけれど、その乗り方について、どのように操作するのか、明示的に言葉で語ることはできない、というものです。個人がもつ知識には、言葉で表現できる部分と、言葉で表現できない部分とがあり、前者よりも後者のほうが多くを占めています。ポランニーはこの後者を「暗黙知」とよびました。
研究を進めていく上での作法と言いましょうか、その思考法は、学部から学んできた他の方には体得した「暗黙知」でした。ゼミナールでみなさんから様々なコメントをいただいても、言葉は確かに聞き取れるのに、意味として自分の中にストンと入ってこない。そう、まさに私は「自転車に乗れない人」であり、転びまくる日々を重ねてしまいました。
誤解があってはいけないので、ここではっきりさせておかなければいけないのは、山内研究室のゼミナールにおいては、研究における「暗黙知」を形式知化して、共同体全体で共有していくことによって、より創造的な知を育むしかけがたくさん用意されています。先輩のファシリテーターによる研究の方法論についてのサポートや、春・夏に開催される合宿での学習プログラムなど、他にも日常の様々な場面で充実しています。このブログもそのひとつですね。
話を戻しますと、この恵まれた環境とシステムの骨格に感動し、なるほど!と理解できるのに、自分のこととなると「?」マーク満載となる始末。山内先生をはじめ、みなさんの貴重な時間を使わせていただいているのに、なかなか理解できない自分が悔しく、申し訳なく、仕事でも泣いたことがなかったのに、何度も涙が出てしまう情けない時間が流れていきました。
原因を探していくと、実にシンプル。
私は研究への思考法を今までの人生で経験したことがなかったのです。遙か昔の美術大学のデザイン科では、卒業に際しては作品制作のみで、みなさんが乗り越えた論文執筆という関門をスルーしてきたわけです。デザイナーとしての多くの時間は、別の暗黙知を自分に授けてくれましたが、創造性のブラックボックスを容認されているデザインの世界では、根拠を曖昧にしたままでも問題解決は実現できるわけで、研究の思考法とはおよそかけ離れていた思考が染みついてしまっていたのでした。ただ、デザインの思考プロセスと研究の組み立てには相通ずる部分も多々あり、その同異を明確にできなかったことも原因を深刻化させてしまったと思います。
しかし、しかしです。
大学院に進学し、研究の道に進みたいと望んだのは、まさにこの根拠、原理を追究したかったからに他ならず、自分の既定の枠を乗り越えない限り、先には進めないのです。
こうして、いつまでも自転車に乗れないという状況は、さらなる悪循環を生み出します。わからない、ということがわかっても、それをうまく質問に転化させていくことが出来なくどんどん硬直化していきます。硬直化した頭は、倫理的思考を持ち得ず、コミュニケーション能力も低下し、相談ベタになっていく始末。やりたいこと、知りたいことが山ほどあるのに、同じところをぐるぐるしている非生産的な状況を半年近く続けてしまいました。
...と、ここまで書いて...はたと。
振り返るほどに息苦しい独白が続いており、読みづらいかと思われます。
もうしばらくの間おつきあいください。
そして、1年が経とうとする今、頭と身体を動かし続けることでしか、この苦境を乗り越えられないのだということをやっと実感を持って理解しつつあるところです。
おいおい、1年かけてそんな基本的な事を言っているのかい?と自分で突っ込みたくなりますが、正直に「基本のき」がわかってきたところなのです。
一つ一つの可能性を丁寧に検証し、つぶしていくことで見えてくるもの。やっと、そのプロセスの重要性に気づいた、その入口に立てたように感じています。ひどい1年でしたが、ここを通る必要があったのでしょう。
とはいうものの、まだまだ大きな補助輪がないと自転車を走らせることができません。そう、自覚しています。なんてバカなんだろう、と我が事ながら笑いがこみあげてきます。でもきっと、もう泣かないで(笑)進めることができるようにも感じています。
*************************************************************************************************************
懺悔のような記事となってしまいました。
どれだけわからなかったのかを記録しておくことも意味があると考え、このような内容となりました。お見苦しい点、ご容赦くださいませ。
内省ばかりしていますが、一方で、ワクワクする気持ちは少しも失われていないことを最後に記したいと思います。自分が明らかにしていきたいこと、そしてそれが社会の役に立つことにつながっていくこと。残された人生の時間はそう多くはけいけれど、それにかけるだけの喜びがあると信じています。
この1年、辛抱強くご指導、支えてくださった山内先生、ファシリテーターの八重樫さん、佐藤朝美さん、助教の方々、研究室の先輩方、そして同期のみんな、ありがとうございました。
次の1年は、懺悔ではなく、みなさんと様々なことを共有し、自らも発信・実践し、その成果をここで述べられるようになりたいと思います。
拙文におつきあいいただきありがとうございました。
春はもうすぐです。
しばらくは振り返らないで歩んでまりたいと思います。
みなさまにおかれましても、良き春が訪れますことを。。
【早川 克美】
2012.03.11
こんにちは、卒業間近の修士2年、土居由布子です。
山内研究室は総勢13名で香川県直島にゼミ合宿に行って参りました。
さて、【今年を振り返る】シリーズ第3回目ですが、私にとってこの修士2年目は「playfulな紙すきの時間」と言えます。
1年生の頃は、やりたいことや疑問が白いモヤのようになっていて、形にすることができませんでした。2年生の6月になって、NHKクリエイティブライブラリーの利用者(投稿者)の方をインタビュー調査することになり、そこから少しずつ紙すきのように、私なりに一生懸命に、そしてできるだけ楽しみながら形にしていったという感じです。
自身の研究で一番楽しかったことは、やはり15名の方のインタビュー調査でした。
NHKクリエイティブライブラリーでの制作体験を通してどういった学びが起きているのかを調査するのが私のミッションでした。インタビューからは予想以上に「気づき」や「学び」を見つけることができ、更には、NHKクリエイティブライブラリーを自身のリハビリに活用されたり、入院中の子どものための訪問教育に活用されていたり、宇宙の勉強会に活用されていたりといった事例、ドラマを聞かせて頂くことができました。またNHKクリエイティブライブラリーで映像制作を体験したことがきっかけで、コマ撮り映画に挑戦するようになった少年や百人一首の句をイメージした作品を何十作品も作るようになった少女が語ってくれたことは、私に元気をくれました。
修士論文の執筆は確かに大変でしたが、大まかな章立てから始まり、どこに何を書くのかが見えてくると、パズルのような感覚で嬉しく感じました。自信はなかったけれど、それでもアンケート、インタビューで協力して頂いた方々の声や、この1年ファシリテーターとして支え続けてくれた佐藤さん、山内先生はじめ、山内研究室の皆さんのおかげで、楽しく最後まで執筆することができました。
4月からは社会人になり、研究の世界から少し離れてしまいますが、研究の課程にいなくても、今いる環境のもとで、「見出すこと」「学ぶこと」を大切にしていきたいと思います。
大学を卒業し、1年の留学を経て、東大に入り、山内研究室という素敵な環境、人に恵まれてきました。そういった環境に感謝しながらも、どこにいてもやはり「自分次第」なんだということをつくづく感じました。
この紙すきは、修論だけでは終りません。今後も、紙すきのごとく、「今」を楽しみながら、学び続けて行きたいと思います。
皆様この2年間本当に有難うございました。
【修士2年 土居 由布子】
2012.03.06
2月末にミレニアル世代(1980年から90年代生まれで2000年代に社会参画する世代)の認知スタイルの未来に関する、アメリカの識者の予測についてのレポートが公開されました。
ほとんどの識者が、2020年には多種多様なインターネットデバイスによって同時に多数のことを行う「マルチタスク」が当たり前になる未来を予測していますが、そのことが肯定的な未来をもたらすのか、否定的な未来をもたらすかについては意見が分かれています。
肯定派はマルチタスクによってより幅広く深く学べるようになると考え、否定派は情報に振り回されて終わるだろうと予測しています。
マルチタスクが学習に与える影響に関する研究は今までにも行われてきました。脳機能的にマルチタスクを苦にせず行う能力を持つ人たちは2%程度しかいません。残りの人たちは、シングルタスクを切り替えることによってマルチタスク的な行動を行っていると考えられます。
人間の注意資源や作業記憶には限界がありますので、負荷の高いマルチタスクを行うと個別の課題遂行が妨げられます。
例えば、宿題をやっているときにFacebookで友達と会話すると、成績が下がるという研究があります。この研究では宿題とFacebookでの会話を別の時間にすると成績が下がらないことも明らかになっていますので、Facebookに問題があるのではなく、高度な思考とコミュニケーション行為という認知的負荷の高いマルチタスクを行うことによって、個別の課題遂行がうまくいかなくなったと考えられます。
これだけ見るとマルチタスクはやめた方がよいように見えますが、事態はそう単純でもありません。同時に行う課題によっては相互作用が正の方向に働く可能性があるからです。
Facebookの事例で言えば、Facebookでイベントを作ったりコメントをつける活動は高い成績、ゲームやチャットは低い成績と関係することが明らかになっています。
Facebookで宿題と全く関係のない活動をすればマルチタスクは負荷として働きますが、関連する質問をしたり議論をする活動であれば、学習を加速する方向に働きます。オンラインで一種の協調学習が起これば、学習に対してはポジティブに働きます。
これからマルチタスクをすることが当たり前の時代が来るのであれば、新しい世代にマルチタスクに関する学習方略を教えることも選択肢に入ってきます。例えば、次のようなものです。
・集中しても乗り越えられるかどうかわからない高度な課題に対しては、マルチタスクはしない。
・マルチタスクをする場合には、学習課題に関係しない負荷の高いタスクを避ける。
・別のチャンネルを学習課題の遂行に有効に活用する。(質問をして帰ってくるまでの間を仮説の検討に使うなど)
情報爆発によって、情報量に対する個人の時間は慢性的に不足しています。このような状況では、個別課題のパフォーマンスが0.7に落ちても同時に行うことによって1.4のアウトプットを確保したい時もあるでしょう。ミレニアル世代がそういう時代に生きていくことを考えると、自分の限界を知りつつ、マルチタスクと上手につきあうことを学ぶことが必要になってきているのではないでしょうか。
【山内 祐平】