2012.03.06

【エッセイ】マルチタスク環境と学習

2月末にミレニアル世代(1980年から90年代生まれで2000年代に社会参画する世代)の認知スタイルの未来に関する、アメリカの識者の予測についてのレポートが公開されました。

ほとんどの識者が、2020年には多種多様なインターネットデバイスによって同時に多数のことを行う「マルチタスク」が当たり前になる未来を予測していますが、そのことが肯定的な未来をもたらすのか、否定的な未来をもたらすかについては意見が分かれています。

肯定派はマルチタスクによってより幅広く深く学べるようになると考え、否定派は情報に振り回されて終わるだろうと予測しています。

マルチタスクが学習に与える影響に関する研究は今までにも行われてきました。脳機能的にマルチタスクを苦にせず行う能力を持つ人たちは2%程度しかいません。残りの人たちは、シングルタスクを切り替えることによってマルチタスク的な行動を行っていると考えられます。
人間の注意資源や作業記憶には限界がありますので、負荷の高いマルチタスクを行うと個別の課題遂行が妨げられます。

例えば、宿題をやっているときにFacebookで友達と会話すると、成績が下がるという研究があります。この研究では宿題とFacebookでの会話を別の時間にすると成績が下がらないことも明らかになっていますので、Facebookに問題があるのではなく、高度な思考とコミュニケーション行為という認知的負荷の高いマルチタスクを行うことによって、個別の課題遂行がうまくいかなくなったと考えられます。

これだけ見るとマルチタスクはやめた方がよいように見えますが、事態はそう単純でもありません。同時に行う課題によっては相互作用が正の方向に働く可能性があるからです。
Facebookの事例で言えば、Facebookでイベントを作ったりコメントをつける活動は高い成績、ゲームやチャットは低い成績と関係することが明らかになっています。

Facebookで宿題と全く関係のない活動をすればマルチタスクは負荷として働きますが、関連する質問をしたり議論をする活動であれば、学習を加速する方向に働きます。オンラインで一種の協調学習が起これば、学習に対してはポジティブに働きます。

これからマルチタスクをすることが当たり前の時代が来るのであれば、新しい世代にマルチタスクに関する学習方略を教えることも選択肢に入ってきます。例えば、次のようなものです。

・集中しても乗り越えられるかどうかわからない高度な課題に対しては、マルチタスクはしない。
・マルチタスクをする場合には、学習課題に関係しない負荷の高いタスクを避ける。
・別のチャンネルを学習課題の遂行に有効に活用する。(質問をして帰ってくるまでの間を仮説の検討に使うなど)

情報爆発によって、情報量に対する個人の時間は慢性的に不足しています。このような状況では、個別課題のパフォーマンスが0.7に落ちても同時に行うことによって1.4のアウトプットを確保したい時もあるでしょう。ミレニアル世代がそういう時代に生きていくことを考えると、自分の限界を知りつつ、マルチタスクと上手につきあうことを学ぶことが必要になってきているのではないでしょうか。

山内 祐平

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