2012.04.12

【M2の研究計画】自閉症児の共同学習におけるコミュニケーション発達を支援するワークショップに関する研究

みなさまこんにちは。M2の山田小百合です。
今日東大は入学式ということで、入学されたみなさま、ご入学おめでとうございます!
新しく入ったM1の3人が入学式に出席しているのを見て羨ましいなと思いつつ(昨年は中止になってしまったので)、今年の研究計画についてご紹介します!笑

と、その前に。ちなみに1年前の研究計画はこれです(お恥ずかしいですが)
→ http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/05/post_309.html

あれから1年経ち、多くの文献レビュー、様々なワークショップ実践の見学、自分自身の実践を通し、少しずつテーマが絞られてきている感覚を感じていました。
前から「ゆるふわ」な言葉でもやもやと表現していたことを、もう少ししっかりした言葉で表現したく、この1年は必死で目の前のことに食らいついていました。
苦戦をしましたが、たくさんの方々にも支えていただいたおかげで、少しずつ兆しが見えてきた気がしています。
とはいえまだまだ課題は山積みですが、早速ご紹介いたします!


■研究テーマ

『自閉症児の共同学習におけるコミュニケーション発達を支援するワークショップに関する研究』


■障害のある子どもの発達と「インクルーシブ教育」
1994年のサラマンカ宣言以降、世界では障害のある子どもの多くは普通学級または普通学校に所属されていることが前提で、個々のニーズに答えながら、教育環境を整えようという「インクルーシブ教育」が提唱されています。

日本での障害のある子どもの学びは「特別支援教育」で注目されており、個々のニーズや障害の程度に合わせた環境を整えるようになってきています。決してインクルーシブ教育と相反するわけではありません。しかし、海外の動向と明らかに違うことがあるとすれば、「特別支援学級」の数が、世界では減少傾向の中、日本は増加傾向にあります。これは一種のねじれ現象ではないかと私は感じています。

私たちが他者と関わり合うことで「学ぶ」ことはたくさんあると思いますが、それは障害のあるなしに関係なく共通することです。しかしこのねじれ現状は、自閉症児を含む障害のある子どもが、障害のない子どもと関わる機会そのものや、対人関係の発達に関わる学習の機会の減少に繋がっています。

ヴィゴツキー(邦訳 2006)では、「1人ではできないことも集団の中ではできることや、指導者が予測できない発達が、健常児との交わりを通して生じることもあり、社会的教育が重要」と述べられているように、障害のない子どもとの関わりは、障害のある子どもの学びに大きく影響すると考えられます。


■自閉症児の社会性の発達
障害のある子どもといえども様々ですが、今回は「自閉症スペクトラム障害」に注目して研究を進めて行く予定です。
自閉症という障害は広汎的なものなので、簡単な言葉で言い表せるものではありませんが、大きく3つの特徴があると言われています。

(1) 他人との関係を作ることが苦手(社会性・社会的相互交渉の障害)
(2) 他人とのコミュニケーションが苦手(コミュニケーションの障害)
(3) 先を見通す・周囲の変化に柔軟に対応することが苦手(想像力の障害)

こうしてみるとわかるように、他者との関わりにまつわることが苦手なことがわかります。
そういった「社会性の発達」のなかでも、今回は自閉症児の「集団参加」や「コミュニケーション」に注目をしようと考えています。


■自閉症児の他者との関わりと遊びの関係性
障害児と健常児の間に肯定的な相互作用が生じるプログラムの重要性は多くの研究者が主張するところです。その中で、自閉症児の社会的相互作用において、情動の共有の重要性が言われています。

情動共有を行なうために「遊び」が注目されていますが、自閉症児の情動共有ができる遊びの研究は「対大人」とのやりとりのなかで観察されているものが多いです。私はこれを、「同年齢(近い)他者」との関わる際にもっと生かせるのでは?と考えています。


■研究の目的
こうしてみると、自閉症児の「遊び(情動的交流遊びなど)」に関する研究は多々ありますが、ほぼ対大人(先生・療育者など)で実施されており、同年齢の子どもとの遊びを検証したものは少ないです。とはいえ、年齢の近い健常児と上手に遊べないことが多いということも課題としてあげられます。そのために自閉症児のための環境設計としてワークショップという手法が有効であると考えています。

そこで本研究では、「情動共有遊び」を、障害のない子どもとのワークショップに組み込むプログラムを提案し、自閉症児の集団参加やコミュニケーションの変容を検証することを目的としています。

つまり、

情動共有が可能な遊びがワークショップに組み込まれている場合、障害のない子どもとの集団への参加が促されたり、自閉症児のコミュニケーションが活発になる!

ということを言いたいと、現状では考えています。


■研究の方法
研究の方法として、自閉症児5名を対象とさせていただき、情動共有遊びが可能なワークショップに、健常児と参加をしてもらいます。
その中で、自閉症児の集団参加やコミュニケーションの様子をケース記述しながら、検証することを考えています。


こうしてみても課題は山積みですが、この研究を元に、今年度NPO法人を設立し、障害のある子どももないこどもも楽しめる学びの場づくりをライフワークにしていく予定です。
ここで出た知見を現場に届けていけるよう、面白い論文にしたいと思っています。残り1年、起業と研究両方、気合をいれてがんばります!


山田小百合

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