2012.05.31

【山内研との出会い】教育部からの出会い

皆様お久しぶりです。M2の河田承子です。今週より新シリーズ、「山内研との出会い」をお送りさせていただきます。よろしくお願いいたします!

私が山内先生のことを知ったのは大学3年の時でした。ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、東京大学大学院には情報学環教育部という機関があります。この機関に所属する学生は教育部研究生と呼ばれ、東大の学生や他大学の学生、社会人など様々な方が入学されています。当時私は他大学に所属していたのですが、面白そうな所だなと思い大学3年の1月に受験をしました。運良く合格することができ、大学4年から教育部の授業に参加するようになったのですが、最初から衝撃の連続でした。授業に行くと、皆がMacを開き活発に意見交換をしています。大学院に入学してからはこの光景は当たり前になりましたが、当時PCを授業に持ち込む生徒なんて珍しい大学にいた私にとっては、「場違いな所に来てしまったな」と思いながら過ごしていました。

そんなスタートでしたが、慣れてくると色々な方がいるこの環境はとても刺激的でした。特に、研究生と学府の修士を掛け持ちされている方から伺った、学府の授業の内容や研究活動のお話は非常に魅力的で、ここで学びたいと考えるようになりました。
当時の私は、大学で異文化間コミュニケーションについて学んでいたのですが、副専攻で学んでいた幼児教育に傾倒しており、大学院では子どもや親の教育に関する研究をしたいと考えていました。大学院で何を研究したいのかを考えるうちに、学部時代にベビーシッターをしたり、幼稚園でアルバイトをした経験から、「育児情報と親」に着目して研究をしていきたいと思うようになりましたが、同じ大学の院に進学するか他大学を受験するかで迷っていました。そんな時に、学情報学府での研究生活の話を聞き、トライしてみようと思ったのが受験の動機です。

山内研を志望することはその段階で決めていました。というのも、教育部を受験する時に山内先生の著書『「未来の学び」をデザインする』を読んだり、教育部の先輩から山内研のお話を伺うなかで、私がやりたい研究はこの研究室でしか出来ないな、と思ったからです。同じ頃に大学で永野和男先生の授業を取っており、ここで研究とは何か、教育工学とは何かを学んだことも大きく影響したと思います。ただ、研究室訪問をせず、先輩方がどのような研究をされているのか知らずに受験してしまったので、しておけばよかったかなと少し後悔しました。

このような、色々なご縁が重なり、現在は「母親と育児情報活用に関する研究」をさせていただいております。入学してからの半年はとても大変でしたが、毎日充実した研究生活を送っております。残りの修士生活を悔いのないよう、これからも日々精進して参りたいと思います。

M2 河田承子

2012.05.28

【論文募集】情報化社会におけるインフォーマルラーニング

▼編集委員として以下の特集号の仕事をさせていただいております。
〆切は2013年2月6日です。投稿をお待ちしております。

日本教育工学会論文誌 特集号 論文募集
「特集:情報化社会におけるインフォーマルラーニング」のご案内(第一報)

 情報化の進展により,学校教育以外の学習機会が増えています.eラーニングによる在宅学習やユビキタス機器を用いた体験学習を始め,ワークショップ,サイエンスコミュニケーション,博物館,企業における人材育成などの領域において,情報通信技術を活用した生涯学習の基盤が整いつつあります.また,初等中等教育における総合的学習の時間や大学のプロジェクト学習などにおいて,学校外学習と連動する試みが行われるようになってきました.シリアスゲームやソーシャルラーニングなど新しい方法も導入されています.本特集号では,拡大しつつあるインフォーマルラーニングやノンフォーマルエデュケーションの実践について,今後の学習環境の充実に寄与する論文を募集します.

1.対象分野
(1) eラーニングによる在宅学習
(2) ユビキタス機器を用いた体験学習
(3) ワークショップ・サイエンスコミュニケーション
(4) 博物館における学習
(5) 企業における人材育成
(6) シリアスゲーム・ゲーミフィケーション
(7) ソーシャルラーニング
(8) 学校外と協働する初等中等教育での取り組み(総合的学習やキャリア教育など)
(9) 学校外と協働する高等教育での取り組み(プロジェクト学習やサービスラーニングなど)
(10) その他インフォーマルラーニングに関する実践研究など

2.募集論文の種類
 通常の論文誌と同様に,「論文」「システム開発論文」「教育実践研究論文」「資料」「寄書」を募集します.それぞれの論文種別については,投稿規定をご覧ください.論文の査読は,通常の論文誌の場合と同じです.ただし,査読は2 回限りとし,編集委員会が示した掲載の条件を修正原稿で満たさない場合は採録になりません.「ショートレター」として既に掲載されている内容を発展させて「論文」として投稿することも可能ですが,単に分量を増やして詳細に説明しただけでは発展させたことになりませんので,ご注意ください.なお,     
本特集号へ投稿された論文が特集号編集委員会にて対象分野外と判断された場合には,一般論文として扱うことになりますので,あらかじめご了承ください.
 なお,特集号編集委員会では,本特集号のテーマの特徴から,インフォーマルラーニングやノンフォーマルエデュケーションに関する実践を「教育実践研究論文」,あるいは「資料」の条件を満たすようにまとめ,積極的に投稿していただくことを期待しています.

3.論文投稿締め切り日(2013年11月発行予定)
 投稿原稿を02月06日までに電子投稿をお願いします.ただし,02月13日までは,論文を改訂することができます.締め切りの延長は行わない方針です.
投稿原稿提出締め切り(電子投稿):2013年02月06日(水)
最終原稿提出締め切り(電子投稿):2013年02月13日(水)

4.論文投稿の仕方
 原稿は,「原稿執筆の手引」(http://www.jset.gr.jp/thesis/index.html)に従って執筆し,学会ホームページの会員専用Web サイトから電子投稿してください.郵送による投稿は受け付けないことになりました.

5.問合せ先
日本教育工学会事務局
Tel/Fax:03-5740-9505
電子メール:tokushu2013 [atmark] jset.gr.jp

6.特集号編集委員会
検討中

2012.05.26

【D3の研究計画】歴史的類推を現代の問題解決に応用する力を育成する学習方法の提案

こんにちは、【研究計画】シリーズ、最終回はD3の池尻 良平がお送りします。

早いもので、山内研に入ってはや5年が経ち、そろそろ博士論文を視野に入れる時期になってきました。今年度は博士論文を書くことを目標にしようと思っていますので、今回はその構想を書いてみたいと思います。

僕が山内研に入ってきて研究していることは、高校生が歴史的類推を現代の問題解決に応用できる学習方法のデザインです。

歴史的類推は、実は社会の色んなところに溢れています。例えば、統制実験のできない外交政策を決める際は、政治家は過去の政策例をもとに予測していることがアメリカの研究で明らかになっています。そもそも歴史という概念が生まれたギリシア時代では、歴史は同じような社会的問題に直面した際に参照できるような知として扱われており、歴史は社会で応用できるポテンシャルを秘めた、特殊な情報形態なのです。

ところが、実際の歴史教育では暗記教育が多いのが現状です。それを問題視し、ここ20年は歴史家の熟達した思考(歴史的思考力と呼ばれています)を生徒に教えようという動きが活発になり、当時の歴史的背景に共感できるようになったり、自分達で史料を使いながら歴史の因果関係を作ってみたり、史料と史実を照らし合わせてより妥当な解釈を行うことが目標になっています。

これ自体はとても良い傾向なのですが、歴史家を育てることが目標なのかという疑問の声も出始め、もっと歴史を実用的な過去と捉えることも大事なんじゃないかという意見も多く出てくるようになりました。

ところが、歴史的類推を現代の問題解決に応用できる学習方法っていうのは、実はまだ確立されていないんです。最近は、デジタル・アーカイブを利用した学習方法が開発されたり、コンセプトマップ式の教材が開発されたり、史料を引用できるブログ型のツールが開発されたり、歴史のシミュレーション・ゲームが開発されたりと、教科書を読むだけじゃない色々な学習方法が生まれてきました。ところが、このような上に書いた歴史家の持つ歴史的思考力を育成する学習方法であって、これだと現代に応用はできないのです。(ちなみに、この歴史的思考力のバリエーションとそれと対応する学習方法は現在論文としてまとめているところです)

そこで、僕の研究の登場というわけです。まずはじっくり歴史が現代に与える影響をじっくり細かく調べていったのですが、その結果、歴史が現代に与える影響は大きく以下の2つに分かれることがわかりました。
(1)問題の原因構造の分析に役立つ
(2)多様な解決策の生成に役立つ

修士の研究では(1)を目標に、高校生が産業革命の労働問題を下敷きにして現代の労働問題をマクロに捉えることができるゲームをデザインしました。(実際の教材はコチラに載せています。自由にDLできるので、ぜひご利用下さい)

博士の研究では、(2)を目標に、経済を活性化させた様々な歴史上の人物の政策を高校生が利用しつつ、現代の日本の経済を活性化させる政策を多様に作れるゲームをデザインしました。(詳しくはコチラよりどうぞ)

それぞれの目標に特化したゲームを、どのように統合するのか。また、教材を作る際のポイントは何か。歴史と現代が繋がるテーマは何か。高校でもこのような目標が掲げられつつあるけども、カリキュラムにどう組み込むか。歴史だけじゃなく、現代の知識もどう連動して生徒に教えていくか。

博論の結論ではこのような疑問を解消しながら、高校生が歴史的類推を現代の問題解決に応用できる学習方法を提案しようと考えています。


[池尻 良平]

2012.05.18

【D2の研究計画】汎用的技能に着目した学部ゼミナールに関する研究


みなさま、こんにちは。
あっという間に、新緑のきれいな5月も半ばに差しかかりましたね。
【今年の研究計画】シリーズ、今回はD2の伏木田稚子がお送りいたします。

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これまでの研究
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 私はこれまで、学部ゼミナールでの学生の学習経験に焦点を当てて、研究を行ってきました。具体的には、学部2、3、4年生を対象に、専門教育の授業科目として成立しているゼミナールについて質問紙調査を実施しました。その結果、(a)発表・議論や教員による指導は、学生の学習意欲や共同体意識の醸成に影響を与えていること、(b)学習意欲や共同体意識は、学生の汎用的技能(問題解決力や対人関係力など)の成長実感に影響を与えていることなどが明らかになっています。

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これからの研究
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背景
 ゼミナールの実践は多くの場合、教員個人の「技」に還元して論じられます。現場対応の出たとこ勝負といったブリコラージュの面が強く、方法があるのかどうかも分からない(船曳 2005)という声もしばしば聞かれます。その一方で、誰が担当するかでゼミナールの教育効果(e.g 汎用的技能の成長)には大きな差が生じるという指摘もされています。
 ある授業の有効性を検討しようとする場合、学生が得た経験の内容や質だけでなく、教員の指導や教授のあり方に焦点を当てることも重要です。教員の授業過程を評価することには、教員自身が授業過程を評価することに加えて、学習者側の反応を調べることも含まれます。

目的
 そこで今年度の研究では、学部2・3・4年生を対象に開かれている専門教育としてのゼミナールについて、①教員による授業構成の実態を明らかにすること、②その上で、授業構成と学生の学びの関係について実証的に検討することを目的とします。

方法
 多様化しているゼミナールの実態を広く捉えるために、質問紙調査を方法として採用します。東京都内に本部がある大学の、人文科学・社会科学・総合科学系学部に所属している教員(専任講師以上)と、その教員が担当しているゼミナールの受講学生(2・3・4年生)を質問紙調査の対象とします。
 教員用調査票は、「学生の特性把握」、「教育目標・学習目標の設定」、「学習活動(前期・後期)の設定」、「発表・課題に関する指導」などに関する質問項目を中心に作成しました。学生用調査票は、「学習意欲」、「共同体意識」、「汎用的技能の成長実感」、「充実度」に関する質問項目を中心に作成しました。両調査票を用いた質問紙調査は、2012年1月~3月に実施し、回答データの収集を完了しています。

今後の方針
 今後は、回答データをもとに分析を行う予定です。最終的には、①授業構成の理論モデルを提案すること、②授業構成が汎用的技能の成長実感に与える影響を検討することを目標にしています。


[伏木田稚子]

2012.05.11

【D2の研究計画】創発的コラボレーションを促すワークショップデザイン

みなさま、こんにちは。【今年の研究計画】シリーズ、今回はD2の安斎勇樹がお送りします。

安斎の研究目的は、一言で言えば「ワークショップにおいて"創発的コラボレーション"を促すためのプログラムデザインの原則を提案すること」です。

近年、「新しい学びと創造のスタイル」として、ワークショップが注目されています。ワークショップとは、「恊働で何かを創りだすことで学ぶ活動」のことであり、授業や研修とは違うインフォーマルな場で行われるものです。ワークショップ実践が行われる領域は多岐にわたりますが、大学生の「創造性」の育成の手段としても注目を集めており、グループでアイデアを考えたり、アート作品をつくったりするタイプのワークショップが多く実践されてきています。

創造性については、これまで数多くの研究がなされてきました。かつては、創造性は「個人」が発揮するものだと考えられてきましたが、近年では「コラボレーション」の重要性への認識が高まり、創造性を育成する上でもコラボレーション体験が重視され始めています。たとえば心理学者のキース・ソーヤーは、創造性を育成するためには学習者同士が即興的にアイデアを連鎖させながら新しいアイデアを生み出すような、いわば「創発的コラボレーション」の体験が必要であることを指摘しています。

自由で創造的なスタイルであるワークショップは、こうした「創発的コラボレーション」の体験の場として有効であると考えられます。しかしながら、その方法論に関する実証的な研究はいまだ少なく、具体的に「どのようにワークショップのプログラムをデザインすれば、創発的コラボレーションが起こせるのか」については明らかになっていません。

そこで、本研究の目的は、創発的コラボレーションを促すためのワークショップのプログラムデザインの原則を提案することです。修士研究では、ワークショップのプログラムデザインの中でもメインアクティビティの「課題の設定」に焦点を当てて研究を行いました。具体的には、創発の源泉としての「矛盾」の効果に着目し、ワークショップの課題設定に矛盾のある条件を設定することが、創発的コラボレーションを促すことを実践と質的分析によって明らかにしました。

ところが、ワークショップのプログラムデザインはメインアクティビティの課題設定だけでなく、各アクティビティをどのように構成するか、という点も重要です。そこで、博士研究では、「活動の構成」に焦点を当て、創発的コラボレーションを促すためのデザイン原則を提案できればと考えています。現在はプレ実践を重ねている段階ですが、今年度中に論文としてまとめられればと思います。

安斎 勇樹

2012.05.05

【M1の研究計画】
インフォーマルラーニングにおける背景情報の伝達による学習体験補助

みなさま、はじめまして。
本年度から山内研究室にて学ばせていただきます、修士課程1年の吉川遼(よしかわ・りょう)と申します。どうぞよろしくお願いします。

梶浦さん、吉川久美子さんと続いてきた【M1の研究計画】の最終回は吉川遼が担当させていただきます。

■研究テーマ
インフォーマルラーニングにおける背景情報の伝達による学習体験補助


■研究の背景
僕のそもそもの関心は「事物の背景情報を提示することによってどのように学習が変容するか」という点にあるのですが、この点に関心を持ったのは卒業研究がきっかけでした。

卒業研究では「科学館展示物の背景情報をどのように鑑賞者に対して提示するか?」という課題に対するアプローチとして、展示物の工夫やかつて使用されていた時の様子などを動画や写真を用いてタブレット端末上で提示するアプリケーションの開発を行っていました。その際にどのような背景情報があるのか、学芸員の方にインタビューをしたのですが、その時に学芸員の方にお話していただいた展示物の工夫・こだわりを知ることで、ただ展示物を見るだけでは見過ごしてしまい、気づかずに終わってしまうような細部にわたる工夫やこだわり、想いを知ることで自身の感覚として展示物に対する理解の幅が広がっていくのを実感しました。

この実体験から、事物の背景・経緯を知ることによって学習がどのように変わっていくのだろうか?と興味が湧きました。


■背景情報
先程から出てきている「背景情報」という単語ですが、従来様々な文脈で利用されてきており、その定義は非常に曖昧です。

例えば梶波ら(2010)は歴史博物館における展示物の背景情報の性質を、経時性(経年劣化の状態)と共時性(同年代の発掘物同士の関連情報)の2つに分類しています。またデジタルミュージアム関連の研究では西脇ら(1996)が「実際の博物館の展示案内や詳細な説明文」、斉藤ら(2001)は「閲覧コンテンツの地域・分野・年代のカテゴリに関する情報」とそれぞれ背景情報の定義について述べています。

しかしながら、僕が考えている背景情報はどちらかといえば先に挙げた梶波らの定義にやや近く、「あるモノが過去にどのような形態であったか」「どのようにしてそのものが変化していったのか」「なぜそのものが変化していったのか」といった、そのモノ固有の歴史、変容にまつわる情報を背景情報として学習に利用したいと考えています。

また、この背景情報はそのモノ固有の情報なので、ただ端末上でコンテンツを見て終わり、ではなく、そのモノ・コトとセットで見た方がより深い理解が得られるのではと考えられます。従来の座学中心のフォーマルラーニングでは背景情報の利活用ができないと考え、インフォーマルラーニングでの活用法を模索するに至りました。


■背景情報と愛着感情
さて、ではこの背景情報をどのように利用すれば学習が深まるのか、と考えたときに、アプローチの1つとして「背景情報によって【愛着】という情意的反応を促し、それによって学習を深める」といったことが考えられます。つまり、あるモノやコトについて深く知ることによって愛着という感情が生起され、自身の中でそのモノ・コトが特別な存在となるのであれば、その愛着という感情を生み出すための手段として背景情報を利用できないか?ということです。

寺内ら(2005)によれば、モノに対する愛着は自己の形成において精神的な欲求を満たすための感情的な行動とされており、また、愛着対象となるモノを持つことによりヒトの根元的な欲求が満たされると後藤ら(2011)は指摘しています。

また後藤らは愛着感情が生起するための5つの因子として「成長・前進のパートナー」「尊重したい存在」「唯一の特別な存在」「機能性維持との分離」「調和的な関係」を挙げているのですが、このうち「唯一の特別な存在」だと感じ、愛着を抱かせるための要素として背景情報が利用できないかと考えています。

また、学習と愛着感情との関連性について、中学校の技術授業を対象とした森山ら(2007)の研究においては、「愛着」はものづくりに対する興味・関心・意欲と表裏一体の関係にある極めて重要な情意的反応と考えることができる、と述べられているように、愛着は学習においても重要な要素であると考える事ができます。


■今後のアプローチ
ではどのようにして背景情報を提示するのか?ということなのですが、計画としては小学生の地域学習の際にタブレット端末を使ってその地域の史跡や名所の背景情報が閲覧できるアプリケーションの開発を考えています。しかしまだまだ研究計画は荒削りかつ非常にあやふやです。

今後は背景情報と非常に関連性の高い"Context Awareness"についても先行研究のレビューをしつつ、研究の方向性を固めていきたいと思っています。

1年後、ここで皆さんによい研究計画をお知らせできるよう邁進していきますので、今後ともよろしくお願いします。

吉川遼

2012.05.01

【おさそい】山内研究室で学んでみませんか

5月になり、緑が映える季節になりました。大学3年生、4年生のみなさんの中には進路について迷われている方も多いのではないでしょうか。大学を卒業してすぐ就職するよりも、もう少し学んでから生き方を考えたいという人たちも増えてきているように感じます。
一昔前と違い、社会は大きく変化する時代を迎えています。今繁栄している企業に就職したとしても、20年後どうなっているかは誰にもわかりません。
私は、このような変化の時代を生き抜いていく鍵は、自ら学ぶ力、そして、人の学びを支える力だと考えています。
人はよりよく生きるために学び、学ぶことによってそのあり方を変えることができます。変化する時代を先取りし、自らが変われたら、そして、そう望む人々の力になることができたら、たとえ会社や大学に所属していても、心の独立を手にすることができるでしょう。
山内研究室では、人が自らを変えるプロセスとしての学習を支援する方法として、ワークショップやソーシャルラーニング、ラーニングコモンズやデジタル教材などについて研究を進めています。
このブログの研究室メンバーの記事を読んで関心をもたれた方は、ぜひ一度研究室にお越し下さい。毎週木曜日午後1時から3時の時間帯に研究室訪問を受け入れています。(ご連絡はこちらからどうぞ)
また、6月9日(土)に所属する大学院学際情報学府の入試説明会があります。学環・学府めぐりには研究室としてポスター展示を行いますので、受験をお考えの方はぜひお越し下さい。

山内 祐平

2012.04.27

【M1の研究計画】中学生を対象とした造形ワークショップに関する研究

皆様、はじめまして。
4月から山内研究室で学ばせていただいております、修士1年の吉川久美子と申します。

先週から修士1年生による研究計画紹介がはじまりました。今週は吉川が担当させていただきます。これから取り組んでいく研究について、現時点での考えを以下にご紹介させていただきたいと思います。

■研究テーマ
中学生を対象とした造形ワークショップに関する研究

■なぜこのテーマなのか?
私は、これまで子どもを対象とした造形ワークショップに携わってきました。その中で、以下の3つについて主に関心を持ちました。

①多様な人たちとの交流の中で、自分の内的世界を表現して楽しむ中学生の姿
②作品を制作するという行為は、小学生、中学生とでは、その行為の意味合いが違うのではないか
③幼稚園、小学生にくらべて、中学生向けのワークショップは少ないのではないか

こうした関心を背景に、本研究のテーマを設定するに至りました。

■ 造形ワークショップとは
高橋(2012)によると、造形ワークショップとは「造形の楽しさをあらゆる人たちが享受できる営み」であり、「参加者が主体となって造形のプロセスや結果を楽しむことが最大の目的」であるとし、「知識や技術の習得や資格の取得などを目的とするものではなく、指導したり評価したりする教師とよぶべき存在は不要である」としています。

ここで指摘される「造形の楽しさ」とは、ものづくりの楽しさだけでなく、「個人が個人として尊重」され、「個人が個人として表現」し、そうした「表現することが当たり前のものとして肯定される」楽しさも含まれています。


■発達段階の応じた想像的な創造の存在
ヴィゴツキー(邦訳 2009)は、発達段階に応じた想像的な創造の存在を指摘しています。本研究で対象としている中学生の年齢期のこどもたちは、子どもとしての生体のバランスが破られ、成人としての生体のバランスが見いだせていない年齢であるとし、「アンチテーゼ」「矛盾」「両極性」の3つの特徴があると述べています。

想像力はこうした時期に思考力と結びつき、歩調をあわせてすすんでいきはじめます。想像が主観的なものから客観的なものへ変わりはじめる中で、この過渡期的、危機的といえる年齢期のこどもたちの想像には、双方の特色が現れます。そして幼少期に見られた描画行為から文学的創造へ移行していくと指摘します。

この時期内面的性格を表現するには、「ことば」を使うことが適しているとヴィゴツキーは述べています。また、彼らの創造的な想像は、いくつかの創造の分野が含まれているものであるとし、「子どもジャーナル」「壁新聞」「演劇」などの活動を提案しています。

上記のような造形ワークショップ、中学生の発達段階とその創造的な想像の特徴に対する指摘を踏まえながら、今後はさらに先行研究のレビューを行い、活動内容などの検討をしていきたいと思います。そして個人の経験における内的な必要性により作品を制作し、その作品を通じて自分の設定したテーマに対して、視野を広げることの出来る、中学生を対象とした造形ワークショップについて研究を進めていければと思います。

まだまだ未熟な研究計画です。これからひとつひとつ着実に、しっかりと課題に取り組みかたちにしていきたいと思います。

【吉川久美子】

2012.04.20

【M1の研究計画】メタ認知を促す学習計画の支援

みなさまはじめまして!梶浦美咲と申します。
大学院合格後はM0というかたちで山内研には関わらせて頂いておりましたが、先日ようやく入学式を終え、無事M1に進学することができました。進学できた安堵から胸をなで下ろしたのも束の間、また新たな研究に着手し始めるということで、思わず武者震いしてしまいます。

さて、毎年恒例の研究計画紹介。私も紹介させて頂くのですが、現在再考を迫られており、正直先行き不透明、暗中模索状態です。なので、ひとまずここでは大学院入試のために提出した研究計画の内容と現在考えているテーマに対する他のアプローチ方法について紹介しようと思います。

***

✿研究テーマ✿

メタ認知を促す学習計画の支援


✿研究の背景✿

❀学習計画の重要性❀

大学生は中学・高校に比べ、サークル、アルバイトなどの課外活動はもちろん授業の選択にも自由が与えられ、今まで以上に自律的な学習が求められます。その自律的な学習にかかせないのが学習計画。先行研究においても学習計画を適切に設定して効率よく実行することが試験の成績に影響を与えることが明らかにされており(都築・神谷 1989)、学習計画の重要性が指摘されています。実際、野上(2007)によると、学校教育の現場で、定期試験の前に教育指導の一環として学習計画を立てさせるところも多いそうです。

しかし、学習計画を立てたとしても、その目標は実現可能であるとは限りません。私はあるときチューターとして、とある下級生の学習相談に乗った際、試験に向けて学習計画を立案するようアドバイスしました。彼は私の助言に従い学習計画を立てたようですが、その通りに勉強を進められず学習計画を放棄してしまいました。

野上ら(2005)は、3割強の大学生が学習計画を立てず、その大多数がメタ認知的制御能力が低いと報告しています。そのような学習者は、具体的な目標を設定できず、実現性の低い学習計画を立案してしまい、計画通りの学習が行えないことも明らかにしました。

❀メタ認知とは❀

メタ認知とは、自分自身の認知的活動に対する認知のことであり(三輪 2003)、学習計画を立て、学習行動をモニタリングし、調整や修正をする機能を担っています(上淵 2008)。

また、三宮(2008)によればメタ認知的活動は、学習活動の事前段階(課題の困難度を評価し、目標設定、計画立案、方略選択を行う)、遂行段階(課題の困難度を再評価、課題遂行や方略の点検、課題達成の予想と実際のズレを感知し、目標修正、計画修正、方略変更を行う)、事後段階(課題達成度を評価、成功や失敗の原因分析をし、次回に向けて目標再設定、再計画、方略再選択を行う)の三段階に渡って行われるといいます。

そこで、学習計画を立てても遂行できない学習者が、実現性のある学習計画を立案・実行できるように支援するためには、メタ認知を育成する必要があり、そのためには学習活動の全段階におけるメタ認知的活動を促すことが有効であると考えました。

また、学習支援システムの利用は個人学習を支える強みを持ち、教師や友人がいなくても学習者の支援を行うことができる(Winne and Stockley 1998)ため、本研究では学習計画の立案・実行の支援を、システムを利用することによって行おうと研究計画提出当時は考えていました(アプローチ①)。

✿テーマに対する他のアプローチ方法✿

...が、現在は「学習計画」というテーマに対して学習支援システムを活用するだけではなく、メタ認知という概念を取り入れつつ、もう少し他のアプローチ方法も検討してみようと考えています。

たとえば
アプローチ②:人的支援
学校教育の現場において、教師が生徒に学習計画を指導する方法も考えられます。

アプローチ③:学習支援システム+人的支援
学習管理システム(LMS、CMS)やeラーニングコース、学習支援アプリを用いるかつ、教師やメンターが生徒に対面やシステム上で支援を行う方法も考えられます。

アプローチ④:学習計画支援システム+学習者コミュニティ(SNS、ソーシャルラーニング)
ウェブ上でSNSを通じて他者とやりとりすることで学習意欲を高め、学習計画を立案・実行させる方法もあります。


このアプローチ④に関しては、特に近年教育工学分野において学習にSNSを取り入れるなどソーシャルラーニングに注目が集まっています。その中で丁度、2012年3月28日、「Studynote」というSNSが開始され、私も現在このサービスに注目しています。Studynoteは、自分の学習記録をグラフとして可視化し、友だちと共有できるサービスです。学習予定を設定し、リマインドメールやアラートメールを受け取ることもできます。自身の記録を確認して達成感を得るだけでなく、友達の記録に「いいね!」やコメントを投稿できます。同じ教材で学習しているユーザーや、 同じ資格の取得を目標とするユーザーによるグループ機能も用意されています。また、同じ目標を持つ仲間同士で励まし合うことができるため、学習意欲が向上します。興味のある方は是非使ってみると良いかと思います。

***

...以上、現在の研究計画でしたが、まずは先行研究をより多くレビューして、研究テーマを練り上げていこうと思っています。そしてこれから2年間で自分に納得のいく有意義な研究できたらと思っています。よろしくお願いします!

梶浦美咲

2012.04.18

【エッセイ】ハイテクとしての鉛筆とノート

デジタル教材に関する授業や講演の際によく見せる、教室におけるテクノロジーの進化をまとめたウェブページがあります。

The Evolution of Classroom Technology
画像(リンク切れ)

教室で使われてきた様々な技術が、17世紀に登場した教科書の原型であるホーンブックから、2010年のiPadまで歴史順に並べられています。眺めているだけでも面白いので、ぜひご覧になってみてください。

このページを見ると、現在まで続く大きな変化が19世紀末から20世紀初めにかけて起こっていることがわかります。それは、黒板と鉛筆の登場です。
黒板が学校に普及したのは1890年代でした。鉛筆は1900年代に世界中で使われるようになっていきます。特に鉛筆はノートとともに学習に必要な技術として今でも不可欠なものになっていますが、当時は最先端の技術でした。

どれぐらい最先端だったかは、鉛筆とノートの前に使われていたものを見るとわかります。

画像(リンク切れ)

これは石板です。蠟石を使った石筆で黒板のように書いては消していました。書き方や計算の練習に使われていたようです。

想像してみて下さい。石筆と石板を使っていたあなたが、鉛筆とノートを手に入れたらどう感じるでしょうか。ノートが続く限り、記憶を書き留めることができます。鉛筆と消しゴムを使えば、石板ではとても表現できないような精密な図も描けます。形態は似ていますが、もはや次元の違うハイテクノロジーだといってよいでしょう。

実際、鉛筆には当時の最先端技術が集約されていました。ペトロスキーの「鉛筆と人間」には、細い炭素軸を木に埋め込んで折れないようにするために、当時の技術が総動員されたことが記されています。

鉛筆の普及から100年たち、学校には皮肉なことに石板に似た形のタブレットデバイスが導入されようとしています。この技術が、当時と同じように画期的なハイテクノロジーとして受け入れられるかは、ネットワークの強さを学習に結びつけられるかにかかっていると思います。
スタンドアロンの記憶装置として考えれば、いまだに紙と鉛筆は強力な道具です。安い上に電気がなくても動き、決して壊れません。保存性も優れています。
デジタル機器のみが持つネットワークの強さを活かすことができれば、タブレットは教室に開いた窓として、学校の外の人たちを学習に巻き込む強力な道具になるでしょう。鉛筆とノートが石板にはない利用形態を生み出したように、タブレットが新しい学習の文化を担えるかどうかは、今後10年程度で見えてくるのではないかと考えています。

山内 祐平

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