2012.05.11
みなさま、こんにちは。【今年の研究計画】シリーズ、今回はD2の安斎勇樹がお送りします。
安斎の研究目的は、一言で言えば「ワークショップにおいて"創発的コラボレーション"を促すためのプログラムデザインの原則を提案すること」です。
近年、「新しい学びと創造のスタイル」として、ワークショップが注目されています。ワークショップとは、「恊働で何かを創りだすことで学ぶ活動」のことであり、授業や研修とは違うインフォーマルな場で行われるものです。ワークショップ実践が行われる領域は多岐にわたりますが、大学生の「創造性」の育成の手段としても注目を集めており、グループでアイデアを考えたり、アート作品をつくったりするタイプのワークショップが多く実践されてきています。
創造性については、これまで数多くの研究がなされてきました。かつては、創造性は「個人」が発揮するものだと考えられてきましたが、近年では「コラボレーション」の重要性への認識が高まり、創造性を育成する上でもコラボレーション体験が重視され始めています。たとえば心理学者のキース・ソーヤーは、創造性を育成するためには学習者同士が即興的にアイデアを連鎖させながら新しいアイデアを生み出すような、いわば「創発的コラボレーション」の体験が必要であることを指摘しています。
自由で創造的なスタイルであるワークショップは、こうした「創発的コラボレーション」の体験の場として有効であると考えられます。しかしながら、その方法論に関する実証的な研究はいまだ少なく、具体的に「どのようにワークショップのプログラムをデザインすれば、創発的コラボレーションが起こせるのか」については明らかになっていません。
そこで、本研究の目的は、創発的コラボレーションを促すためのワークショップのプログラムデザインの原則を提案することです。修士研究では、ワークショップのプログラムデザインの中でもメインアクティビティの「課題の設定」に焦点を当てて研究を行いました。具体的には、創発の源泉としての「矛盾」の効果に着目し、ワークショップの課題設定に矛盾のある条件を設定することが、創発的コラボレーションを促すことを実践と質的分析によって明らかにしました。
ところが、ワークショップのプログラムデザインはメインアクティビティの課題設定だけでなく、各アクティビティをどのように構成するか、という点も重要です。そこで、博士研究では、「活動の構成」に焦点を当て、創発的コラボレーションを促すためのデザイン原則を提案できればと考えています。現在はプレ実践を重ねている段階ですが、今年度中に論文としてまとめられればと思います。
【安斎 勇樹】
2012.05.05
みなさま、はじめまして。
本年度から山内研究室にて学ばせていただきます、修士課程1年の吉川遼(よしかわ・りょう)と申します。どうぞよろしくお願いします。
梶浦さん、吉川久美子さんと続いてきた【M1の研究計画】の最終回は吉川遼が担当させていただきます。
■研究テーマ
インフォーマルラーニングにおける背景情報の伝達による学習体験補助
■研究の背景
僕のそもそもの関心は「事物の背景情報を提示することによってどのように学習が変容するか」という点にあるのですが、この点に関心を持ったのは卒業研究がきっかけでした。
卒業研究では「科学館展示物の背景情報をどのように鑑賞者に対して提示するか?」という課題に対するアプローチとして、展示物の工夫やかつて使用されていた時の様子などを動画や写真を用いてタブレット端末上で提示するアプリケーションの開発を行っていました。その際にどのような背景情報があるのか、学芸員の方にインタビューをしたのですが、その時に学芸員の方にお話していただいた展示物の工夫・こだわりを知ることで、ただ展示物を見るだけでは見過ごしてしまい、気づかずに終わってしまうような細部にわたる工夫やこだわり、想いを知ることで自身の感覚として展示物に対する理解の幅が広がっていくのを実感しました。
この実体験から、事物の背景・経緯を知ることによって学習がどのように変わっていくのだろうか?と興味が湧きました。
■背景情報
先程から出てきている「背景情報」という単語ですが、従来様々な文脈で利用されてきており、その定義は非常に曖昧です。
例えば梶波ら(2010)は歴史博物館における展示物の背景情報の性質を、経時性(経年劣化の状態)と共時性(同年代の発掘物同士の関連情報)の2つに分類しています。またデジタルミュージアム関連の研究では西脇ら(1996)が「実際の博物館の展示案内や詳細な説明文」、斉藤ら(2001)は「閲覧コンテンツの地域・分野・年代のカテゴリに関する情報」とそれぞれ背景情報の定義について述べています。
しかしながら、僕が考えている背景情報はどちらかといえば先に挙げた梶波らの定義にやや近く、「あるモノが過去にどのような形態であったか」「どのようにしてそのものが変化していったのか」「なぜそのものが変化していったのか」といった、そのモノ固有の歴史、変容にまつわる情報を背景情報として学習に利用したいと考えています。
また、この背景情報はそのモノ固有の情報なので、ただ端末上でコンテンツを見て終わり、ではなく、そのモノ・コトとセットで見た方がより深い理解が得られるのではと考えられます。従来の座学中心のフォーマルラーニングでは背景情報の利活用ができないと考え、インフォーマルラーニングでの活用法を模索するに至りました。
■背景情報と愛着感情
さて、ではこの背景情報をどのように利用すれば学習が深まるのか、と考えたときに、アプローチの1つとして「背景情報によって【愛着】という情意的反応を促し、それによって学習を深める」といったことが考えられます。つまり、あるモノやコトについて深く知ることによって愛着という感情が生起され、自身の中でそのモノ・コトが特別な存在となるのであれば、その愛着という感情を生み出すための手段として背景情報を利用できないか?ということです。
寺内ら(2005)によれば、モノに対する愛着は自己の形成において精神的な欲求を満たすための感情的な行動とされており、また、愛着対象となるモノを持つことによりヒトの根元的な欲求が満たされると後藤ら(2011)は指摘しています。
また後藤らは愛着感情が生起するための5つの因子として「成長・前進のパートナー」「尊重したい存在」「唯一の特別な存在」「機能性維持との分離」「調和的な関係」を挙げているのですが、このうち「唯一の特別な存在」だと感じ、愛着を抱かせるための要素として背景情報が利用できないかと考えています。
また、学習と愛着感情との関連性について、中学校の技術授業を対象とした森山ら(2007)の研究においては、「愛着」はものづくりに対する興味・関心・意欲と表裏一体の関係にある極めて重要な情意的反応と考えることができる、と述べられているように、愛着は学習においても重要な要素であると考える事ができます。
■今後のアプローチ
ではどのようにして背景情報を提示するのか?ということなのですが、計画としては小学生の地域学習の際にタブレット端末を使ってその地域の史跡や名所の背景情報が閲覧できるアプリケーションの開発を考えています。しかしまだまだ研究計画は荒削りかつ非常にあやふやです。
今後は背景情報と非常に関連性の高い"Context Awareness"についても先行研究のレビューをしつつ、研究の方向性を固めていきたいと思っています。
1年後、ここで皆さんによい研究計画をお知らせできるよう邁進していきますので、今後ともよろしくお願いします。
【吉川遼】
2012.05.01
5月になり、緑が映える季節になりました。大学3年生、4年生のみなさんの中には進路について迷われている方も多いのではないでしょうか。大学を卒業してすぐ就職するよりも、もう少し学んでから生き方を考えたいという人たちも増えてきているように感じます。
一昔前と違い、社会は大きく変化する時代を迎えています。今繁栄している企業に就職したとしても、20年後どうなっているかは誰にもわかりません。
私は、このような変化の時代を生き抜いていく鍵は、自ら学ぶ力、そして、人の学びを支える力だと考えています。
人はよりよく生きるために学び、学ぶことによってそのあり方を変えることができます。変化する時代を先取りし、自らが変われたら、そして、そう望む人々の力になることができたら、たとえ会社や大学に所属していても、心の独立を手にすることができるでしょう。
山内研究室では、人が自らを変えるプロセスとしての学習を支援する方法として、ワークショップやソーシャルラーニング、ラーニングコモンズやデジタル教材などについて研究を進めています。
このブログの研究室メンバーの記事を読んで関心をもたれた方は、ぜひ一度研究室にお越し下さい。毎週木曜日午後1時から3時の時間帯に研究室訪問を受け入れています。(ご連絡はこちらからどうぞ)
また、6月9日(土)に所属する大学院学際情報学府の入試説明会があります。学環・学府めぐりには研究室としてポスター展示を行いますので、受験をお考えの方はぜひお越し下さい。
【山内 祐平】
2012.04.27
皆様、はじめまして。
4月から山内研究室で学ばせていただいております、修士1年の吉川久美子と申します。
先週から修士1年生による研究計画紹介がはじまりました。今週は吉川が担当させていただきます。これから取り組んでいく研究について、現時点での考えを以下にご紹介させていただきたいと思います。
■研究テーマ
中学生を対象とした造形ワークショップに関する研究
■なぜこのテーマなのか?
私は、これまで子どもを対象とした造形ワークショップに携わってきました。その中で、以下の3つについて主に関心を持ちました。
①多様な人たちとの交流の中で、自分の内的世界を表現して楽しむ中学生の姿
②作品を制作するという行為は、小学生、中学生とでは、その行為の意味合いが違うのではないか
③幼稚園、小学生にくらべて、中学生向けのワークショップは少ないのではないか
こうした関心を背景に、本研究のテーマを設定するに至りました。
■ 造形ワークショップとは
高橋(2012)によると、造形ワークショップとは「造形の楽しさをあらゆる人たちが享受できる営み」であり、「参加者が主体となって造形のプロセスや結果を楽しむことが最大の目的」であるとし、「知識や技術の習得や資格の取得などを目的とするものではなく、指導したり評価したりする教師とよぶべき存在は不要である」としています。
ここで指摘される「造形の楽しさ」とは、ものづくりの楽しさだけでなく、「個人が個人として尊重」され、「個人が個人として表現」し、そうした「表現することが当たり前のものとして肯定される」楽しさも含まれています。
■発達段階の応じた想像的な創造の存在
ヴィゴツキー(邦訳 2009)は、発達段階に応じた想像的な創造の存在を指摘しています。本研究で対象としている中学生の年齢期のこどもたちは、子どもとしての生体のバランスが破られ、成人としての生体のバランスが見いだせていない年齢であるとし、「アンチテーゼ」「矛盾」「両極性」の3つの特徴があると述べています。
想像力はこうした時期に思考力と結びつき、歩調をあわせてすすんでいきはじめます。想像が主観的なものから客観的なものへ変わりはじめる中で、この過渡期的、危機的といえる年齢期のこどもたちの想像には、双方の特色が現れます。そして幼少期に見られた描画行為から文学的創造へ移行していくと指摘します。
この時期内面的性格を表現するには、「ことば」を使うことが適しているとヴィゴツキーは述べています。また、彼らの創造的な想像は、いくつかの創造の分野が含まれているものであるとし、「子どもジャーナル」「壁新聞」「演劇」などの活動を提案しています。
上記のような造形ワークショップ、中学生の発達段階とその創造的な想像の特徴に対する指摘を踏まえながら、今後はさらに先行研究のレビューを行い、活動内容などの検討をしていきたいと思います。そして個人の経験における内的な必要性により作品を制作し、その作品を通じて自分の設定したテーマに対して、視野を広げることの出来る、中学生を対象とした造形ワークショップについて研究を進めていければと思います。
まだまだ未熟な研究計画です。これからひとつひとつ着実に、しっかりと課題に取り組みかたちにしていきたいと思います。
2012.04.20
みなさまはじめまして!梶浦美咲と申します。
大学院合格後はM0というかたちで山内研には関わらせて頂いておりましたが、先日ようやく入学式を終え、無事M1に進学することができました。進学できた安堵から胸をなで下ろしたのも束の間、また新たな研究に着手し始めるということで、思わず武者震いしてしまいます。
さて、毎年恒例の研究計画紹介。私も紹介させて頂くのですが、現在再考を迫られており、正直先行き不透明、暗中模索状態です。なので、ひとまずここでは大学院入試のために提出した研究計画の内容と現在考えているテーマに対する他のアプローチ方法について紹介しようと思います。
***
✿研究テーマ✿
メタ認知を促す学習計画の支援
✿研究の背景✿
❀学習計画の重要性❀
大学生は中学・高校に比べ、サークル、アルバイトなどの課外活動はもちろん授業の選択にも自由が与えられ、今まで以上に自律的な学習が求められます。その自律的な学習にかかせないのが学習計画。先行研究においても学習計画を適切に設定して効率よく実行することが試験の成績に影響を与えることが明らかにされており(都築・神谷 1989)、学習計画の重要性が指摘されています。実際、野上(2007)によると、学校教育の現場で、定期試験の前に教育指導の一環として学習計画を立てさせるところも多いそうです。
しかし、学習計画を立てたとしても、その目標は実現可能であるとは限りません。私はあるときチューターとして、とある下級生の学習相談に乗った際、試験に向けて学習計画を立案するようアドバイスしました。彼は私の助言に従い学習計画を立てたようですが、その通りに勉強を進められず学習計画を放棄してしまいました。
野上ら(2005)は、3割強の大学生が学習計画を立てず、その大多数がメタ認知的制御能力が低いと報告しています。そのような学習者は、具体的な目標を設定できず、実現性の低い学習計画を立案してしまい、計画通りの学習が行えないことも明らかにしました。
❀メタ認知とは❀
メタ認知とは、自分自身の認知的活動に対する認知のことであり(三輪 2003)、学習計画を立て、学習行動をモニタリングし、調整や修正をする機能を担っています(上淵 2008)。
また、三宮(2008)によればメタ認知的活動は、学習活動の事前段階(課題の困難度を評価し、目標設定、計画立案、方略選択を行う)、遂行段階(課題の困難度を再評価、課題遂行や方略の点検、課題達成の予想と実際のズレを感知し、目標修正、計画修正、方略変更を行う)、事後段階(課題達成度を評価、成功や失敗の原因分析をし、次回に向けて目標再設定、再計画、方略再選択を行う)の三段階に渡って行われるといいます。
そこで、学習計画を立てても遂行できない学習者が、実現性のある学習計画を立案・実行できるように支援するためには、メタ認知を育成する必要があり、そのためには学習活動の全段階におけるメタ認知的活動を促すことが有効であると考えました。
また、学習支援システムの利用は個人学習を支える強みを持ち、教師や友人がいなくても学習者の支援を行うことができる(Winne and Stockley 1998)ため、本研究では学習計画の立案・実行の支援を、システムを利用することによって行おうと研究計画提出当時は考えていました(アプローチ①)。
✿テーマに対する他のアプローチ方法✿
...が、現在は「学習計画」というテーマに対して学習支援システムを活用するだけではなく、メタ認知という概念を取り入れつつ、もう少し他のアプローチ方法も検討してみようと考えています。
たとえば
アプローチ②:人的支援
学校教育の現場において、教師が生徒に学習計画を指導する方法も考えられます。
アプローチ③:学習支援システム+人的支援
学習管理システム(LMS、CMS)やeラーニングコース、学習支援アプリを用いるかつ、教師やメンターが生徒に対面やシステム上で支援を行う方法も考えられます。
アプローチ④:学習計画支援システム+学習者コミュニティ(SNS、ソーシャルラーニング)
ウェブ上でSNSを通じて他者とやりとりすることで学習意欲を高め、学習計画を立案・実行させる方法もあります。
このアプローチ④に関しては、特に近年教育工学分野において学習にSNSを取り入れるなどソーシャルラーニングに注目が集まっています。その中で丁度、2012年3月28日、「Studynote」というSNSが開始され、私も現在このサービスに注目しています。Studynoteは、自分の学習記録をグラフとして可視化し、友だちと共有できるサービスです。学習予定を設定し、リマインドメールやアラートメールを受け取ることもできます。自身の記録を確認して達成感を得るだけでなく、友達の記録に「いいね!」やコメントを投稿できます。同じ教材で学習しているユーザーや、 同じ資格の取得を目標とするユーザーによるグループ機能も用意されています。また、同じ目標を持つ仲間同士で励まし合うことができるため、学習意欲が向上します。興味のある方は是非使ってみると良いかと思います。
***
...以上、現在の研究計画でしたが、まずは先行研究をより多くレビューして、研究テーマを練り上げていこうと思っています。そしてこれから2年間で自分に納得のいく有意義な研究できたらと思っています。よろしくお願いします!
【梶浦美咲】
2012.04.18
デジタル教材に関する授業や講演の際によく見せる、教室におけるテクノロジーの進化をまとめたウェブページがあります。
The Evolution of Classroom Technology
画像(リンク切れ)
教室で使われてきた様々な技術が、17世紀に登場した教科書の原型であるホーンブックから、2010年のiPadまで歴史順に並べられています。眺めているだけでも面白いので、ぜひご覧になってみてください。
このページを見ると、現在まで続く大きな変化が19世紀末から20世紀初めにかけて起こっていることがわかります。それは、黒板と鉛筆の登場です。
黒板が学校に普及したのは1890年代でした。鉛筆は1900年代に世界中で使われるようになっていきます。特に鉛筆はノートとともに学習に必要な技術として今でも不可欠なものになっていますが、当時は最先端の技術でした。
どれぐらい最先端だったかは、鉛筆とノートの前に使われていたものを見るとわかります。
画像(リンク切れ)
これは石板です。蠟石を使った石筆で黒板のように書いては消していました。書き方や計算の練習に使われていたようです。
想像してみて下さい。石筆と石板を使っていたあなたが、鉛筆とノートを手に入れたらどう感じるでしょうか。ノートが続く限り、記憶を書き留めることができます。鉛筆と消しゴムを使えば、石板ではとても表現できないような精密な図も描けます。形態は似ていますが、もはや次元の違うハイテクノロジーだといってよいでしょう。
実際、鉛筆には当時の最先端技術が集約されていました。ペトロスキーの「鉛筆と人間」には、細い炭素軸を木に埋め込んで折れないようにするために、当時の技術が総動員されたことが記されています。
鉛筆の普及から100年たち、学校には皮肉なことに石板に似た形のタブレットデバイスが導入されようとしています。この技術が、当時と同じように画期的なハイテクノロジーとして受け入れられるかは、ネットワークの強さを学習に結びつけられるかにかかっていると思います。
スタンドアロンの記憶装置として考えれば、いまだに紙と鉛筆は強力な道具です。安い上に電気がなくても動き、決して壊れません。保存性も優れています。
デジタル機器のみが持つネットワークの強さを活かすことができれば、タブレットは教室に開いた窓として、学校の外の人たちを学習に巻き込む強力な道具になるでしょう。鉛筆とノートが石板にはない利用形態を生み出したように、タブレットが新しい学習の文化を担えるかどうかは、今後10年程度で見えてくるのではないかと考えています。
【山内 祐平】
2012.04.12
みなさまこんにちは。M2の山田小百合です。
今日東大は入学式ということで、入学されたみなさま、ご入学おめでとうございます!
新しく入ったM1の3人が入学式に出席しているのを見て羨ましいなと思いつつ(昨年は中止になってしまったので)、今年の研究計画についてご紹介します!笑
と、その前に。ちなみに1年前の研究計画はこれです(お恥ずかしいですが)
→ http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2011/05/post_309.html
あれから1年経ち、多くの文献レビュー、様々なワークショップ実践の見学、自分自身の実践を通し、少しずつテーマが絞られてきている感覚を感じていました。
前から「ゆるふわ」な言葉でもやもやと表現していたことを、もう少ししっかりした言葉で表現したく、この1年は必死で目の前のことに食らいついていました。
苦戦をしましたが、たくさんの方々にも支えていただいたおかげで、少しずつ兆しが見えてきた気がしています。
とはいえまだまだ課題は山積みですが、早速ご紹介いたします!
■研究テーマ
『自閉症児の共同学習におけるコミュニケーション発達を支援するワークショップに関する研究』
■障害のある子どもの発達と「インクルーシブ教育」
1994年のサラマンカ宣言以降、世界では障害のある子どもの多くは普通学級または普通学校に所属されていることが前提で、個々のニーズに答えながら、教育環境を整えようという「インクルーシブ教育」が提唱されています。
日本での障害のある子どもの学びは「特別支援教育」で注目されており、個々のニーズや障害の程度に合わせた環境を整えるようになってきています。決してインクルーシブ教育と相反するわけではありません。しかし、海外の動向と明らかに違うことがあるとすれば、「特別支援学級」の数が、世界では減少傾向の中、日本は増加傾向にあります。これは一種のねじれ現象ではないかと私は感じています。
私たちが他者と関わり合うことで「学ぶ」ことはたくさんあると思いますが、それは障害のあるなしに関係なく共通することです。しかしこのねじれ現状は、自閉症児を含む障害のある子どもが、障害のない子どもと関わる機会そのものや、対人関係の発達に関わる学習の機会の減少に繋がっています。
ヴィゴツキー(邦訳 2006)では、「1人ではできないことも集団の中ではできることや、指導者が予測できない発達が、健常児との交わりを通して生じることもあり、社会的教育が重要」と述べられているように、障害のない子どもとの関わりは、障害のある子どもの学びに大きく影響すると考えられます。
■自閉症児の社会性の発達
障害のある子どもといえども様々ですが、今回は「自閉症スペクトラム障害」に注目して研究を進めて行く予定です。
自閉症という障害は広汎的なものなので、簡単な言葉で言い表せるものではありませんが、大きく3つの特徴があると言われています。
(1) 他人との関係を作ることが苦手(社会性・社会的相互交渉の障害)
(2) 他人とのコミュニケーションが苦手(コミュニケーションの障害)
(3) 先を見通す・周囲の変化に柔軟に対応することが苦手(想像力の障害)
こうしてみるとわかるように、他者との関わりにまつわることが苦手なことがわかります。
そういった「社会性の発達」のなかでも、今回は自閉症児の「集団参加」や「コミュニケーション」に注目をしようと考えています。
■自閉症児の他者との関わりと遊びの関係性
障害児と健常児の間に肯定的な相互作用が生じるプログラムの重要性は多くの研究者が主張するところです。その中で、自閉症児の社会的相互作用において、情動の共有の重要性が言われています。
情動共有を行なうために「遊び」が注目されていますが、自閉症児の情動共有ができる遊びの研究は「対大人」とのやりとりのなかで観察されているものが多いです。私はこれを、「同年齢(近い)他者」との関わる際にもっと生かせるのでは?と考えています。
■研究の目的
こうしてみると、自閉症児の「遊び(情動的交流遊びなど)」に関する研究は多々ありますが、ほぼ対大人(先生・療育者など)で実施されており、同年齢の子どもとの遊びを検証したものは少ないです。とはいえ、年齢の近い健常児と上手に遊べないことが多いということも課題としてあげられます。そのために自閉症児のための環境設計としてワークショップという手法が有効であると考えています。
そこで本研究では、「情動共有遊び」を、障害のない子どもとのワークショップに組み込むプログラムを提案し、自閉症児の集団参加やコミュニケーションの変容を検証することを目的としています。
つまり、
情動共有が可能な遊びがワークショップに組み込まれている場合、障害のない子どもとの集団への参加が促されたり、自閉症児のコミュニケーションが活発になる!
ということを言いたいと、現状では考えています。
■研究の方法
研究の方法として、自閉症児5名を対象とさせていただき、情動共有遊びが可能なワークショップに、健常児と参加をしてもらいます。
その中で、自閉症児の集団参加やコミュニケーションの様子をケース記述しながら、検証することを考えています。
▼
こうしてみても課題は山積みですが、この研究を元に、今年度NPO法人を設立し、障害のある子どももないこどもも楽しめる学びの場づくりをライフワークにしていく予定です。
ここで出た知見を現場に届けていけるよう、面白い論文にしたいと思っています。残り1年、起業と研究両方、気合をいれてがんばります!
【山田小百合】
2012.04.06
みなさま、ごきげんよう。修士2年の早川克美です。
昨夜、山内研では本郷キャンパスで恒例のお花見の宴がありました。
例年より少し遅い開花の桜は、寒さに耐えながらめいっぱいふくらませた蕾を一気に開き、その様は実に晴れやかで生命力にあふれ、私たちに活力を与えてくれたようです。
さて本題です。
年度のはじめに際し、自分が現時点で考えている研究計画をご紹介いたします。
【研究テーマ】
「大学生の学習実態と学習空間に関する研究」
【研究の背景】
今日、『学士力』なる概念が中央教育審議会より提起され(2007年9月)、大学生の学習成果を、包括的に捉えていくことが焦眉の課題となっています。学習成果の理解においては、 学習以外の大学生活の過ごし方が、授業での知識・技能の獲得に効いている(溝上、2007)、 学生側が大学での学習にどのようにエンゲージしているのかを考慮することが重要(岡田他、2011)と指摘されています。また、山内(2011)は、学習メディアの多様化、教授法の変化、学習スタイルの変化によって、近年ラーニングコモンズと呼ばれる新しいかたちの学習空間が提供されつつあり(山内他、2010)、学習の文脈をつくるためにも自主的な学習コミュニティへの支援が重要になってくると主張しています。
一方で、キャンパス内における学習空間に対する研究では、カリキュラムで拘束されない自由なコミュニケーションが、学習意欲、人間形成にとって重要である(上原他、1985)としてインフォーマルな学習空間の必要性にふれています。
先行研究からは、学士力の強化を背景に学習実態が調査分析され、学習をとりまく状況の変化に対し新たな空間が提案されつつあり、学習空間に関する研究も多々あることがわかってきました。しかし、 井上(2005)が指摘するように、既存のスペースが学生の生活行為や要望に適切に対応できていない可能性があり、学習空間と学生の学習実態は必ずしも整合性が図られているとはいえません。学生が実際にいつ、どこで、どのように空間を利用して学習の機会を得ているのかについて、空間と結びつけた学びの実態を調査した研究は行われていません。
【研究の目的】
「インフォーマルな学習を含めた大学生の学習実態」と「学習空間の利用実態」について調査を行い、その関係にパターンを見出すことで、大学が対処するべき 学習環境デザインの基礎となる空間原理を導きだすことを目的としています。
【研究の仮説】
今日の様々な共同体で行われる学習の75%以上は、インフォーマルな学習が占めている(Conner,2009)と指摘されることからも、授業時間外での活動も含め、学生の学びの実態を捉えていくことが重要であると考えます。
インフォーマルな学習の実態を調査し、明文化することにより、大学生の学習実態と学習空間の関係にパターンを見出すメタ認知によって、学生本人や教職員が意識していない場面で「学習」が発生しているというケースをピックアップし、そして、「学習が発生している空間」で何故「学習」が起こっているのか?どのような空間が学習を支援しうるのか?について考察を試みたいと考えています。
【研究の方法】
調査は数校の大学において、学生に対し、質問紙調査の後、特徴的なパターンを持った対象者に対し、写真日記とそれに基づくインタビュー調査を行う予定としています。
【今後に向けての課題】
●調査の対象となる大学を選定する根拠。
●質問紙の項目設定、調査のスケジュール。
●パターンを発見する根拠となる原理・指標をもつこと。
課題が山積みですが、ひたすら学んで一つ一つの課題をクリアさせていきます。
2012年度もどうぞよろしくお願いいたします。
【早川 克美】
2012.04.03
3月24日(土)にBEATSeminar 「ソーシャルラーニングとこれからの人財育成」が開催され、NPO法人産学連携推進機構 理事長でいらっしゃる妹尾 堅一郎先生からイノベーション人財育成について大変興味深いお話を伺いました。セミナーレポートが完成次第このページでお知らせします。(当日のTweetのまとめはこちらからご覧いただけます。)
特に大学において、企業が求めるイノベーション人財をどう育てるのかという問題が顕在化していますが、最近気になっているのが、その象徴としてのスティーブ・ジョブスの位置づけです。偉大な仕事をしたことは間違いありませんが、彼のような人だけがイノベーション人財なのかどうかは慎重に検討する必要があるのではないかと考えています。
先日Forbes誌でこの問題に関係する興味深い調査記事を読みました。
The Five Personalities of Innovators: Which One Are You?(イノベータの5つの個性:あなたはどのタイプですか?)
この記事では、ヨーロッパ企業の1245人の経営層に対する調査から、企業においてイノベーションの雰囲気を醸成する5つの個性を明らかにしています。
1) 他者を揺り動かす人 (22%)
強いリーダーシップを持ち、他者を説得して動機づけることによってプロジェクトを前に進めていくタイプ。やや傲慢でチームワークは苦手。
2) ともかくやってみる人 (16%)
アイデアを思いついたらともかく実行してみるタイプ。失敗を恐れず必ず乗り越えるという強い意志を持っている。イノベーションには不可欠だがCEOには少ない。
3) なんでもできる人気者 (24%)
小学校に時々いる「なんでもできてかつ人間的にも魅力がある優等生」タイプ。産業の種類や会社の規模にかかわらずCEOに多い。
4) 秩序を好みコントロールする人 (15%)
リスクを避け、整然と着実にプロジェクトを進めるためにまわりを制御するタイプ。営業など現実的な目標に向かう際に力を発揮する。
5) あたりさわりのない居候 (23%)
いてもいなくてもあまり影響がないと思われている地味なタイプ。中庸を好み手続きを重視することによって組織に受け入れられるかどうかのリトマス試験紙役になる。会計部門に多い。
イノベーション人財といえば、1)や2)のタイプが思い浮かべられるのではないでしょうか。ジョブスのイメージもほぼこれに重なります。しかし、組織がイノベイティブなアイデアを形として世に送り出すためには多様な人々の力を結集する必要があります。一見イノベーションと関係なさそうに見える人たちも、重要な役割を果たしているのです。特に4)や5)の人たちがイノベーションを殺さず、アイデアの価値を理解してバックアップすることがとても大切です。
アップルという組織を見てみても、現CEOのクックをはじめ、多様な個性に支えられて成功しています。ひとりひとりの可能性を活かしながら、新しいことを生み出すことを文化として共有すること、それがイノベーション人財育成の前提条件なのかもしれません。
【山内 祐平】
2012.04.02
みなさんこんにちは。M2の末 橘花です。一昨日桜の開花宣言がありましたね。今年は例年より遅かったようですが、昨日から4月も始まりいよいよ新年度のスタートで、身が締まります。今年度もYlabをどうぞよろしくお願い致します。
では、【研究計画】シリーズ第3回目の担当として、早速今年の研究計画をご紹介させていただきます。
【研究テーマ】
中等教育におけるオーラル・ヒストリー・プロジェクトの実践と評価
【背景】
現在歴史教育において、一つの絶対的な歴史ではなく、解釈としての歴史を学ぶことが大事であるというように歴史の概念が変化しています(今野2005)。例えば歴史認識問題は、一つの事象に対して複数の解釈をもつことが原因であるということからも概念変化はご理解いただけるのではないでしょうか。
また、歴史教育で身につけるべき力としてHistorical Thinking という力がありますが、これは歴史の概念理解と複雑なプロセスを扱う能力 (Lemisko 2010)とされ、その下位概念としていくつかのスキルに分かれています。その中に「歴史的な見方をとる力(Historical Perspective)」があげられます。これは、過去に生きた人の考え、感情、モチベーションを理解し、再構築する力(Seixas & Peck 2004)であり、そのスキルを使って、現代の文脈に合わせて多様な視点を持つことができる(Seixas 2002)ようになると言われています。
【研究の着眼点】
そこで、今回Historical Perspectiveを獲得する方法として「オーラル・ヒストリー」に着目します。オーラル・ヒストリーとは、「歴史的再構成を目的」(江頭2007)としたインタビュー活動のことです。第一人者のポール・トンプソン(2002)は「人々の声を聞き、彼等の経験と記憶を記録して、歴史と変動する社会と文化を解釈」する行為と定義しています。
【目的】
本研究では、オーラル・ヒストリーに着目し、高校教育においてHistorical Perspectiveの獲得を支援する授業をデザインし、評価をすると共に、この力がより向上する過程を分析することを目的とします。
【方法】
方法としては、2012年4月から11月にかけ週一回、高校の総合的な学習の時間を用いてオーラル・ヒストリーの授業実践を行います。半年の授業になりますが、オーラル・ヒストリー・インタビューの、アポイント、質問項目の作成、もちろんインタビューそのものや最後のプレゼンテーションまで全てを生徒に企画してもらい、実践しながら学んでもらいます。生徒に対しては質問紙や発話データからHistorical Perspectiveの指標を用いて分析します。
【今後に向けて】
4月後半から母校での授業実践が始まります。こんなに早くから修士論文に直結する実践が始まることに不安は多いですが、まずは実践が上手くいくように一つ一つの授業実践を丁寧にこなしながら、より深い洞察ができるように分析にも力を入れたいと思います。データとしても結果を出し、生徒や担当してくださる先生にも満足のいく授業ができればと思います。一年間どうぞよろしくお願い致します。
【末 橘花】