2012.05.26
こんにちは、【研究計画】シリーズ、最終回はD3の池尻 良平がお送りします。
早いもので、山内研に入ってはや5年が経ち、そろそろ博士論文を視野に入れる時期になってきました。今年度は博士論文を書くことを目標にしようと思っていますので、今回はその構想を書いてみたいと思います。
僕が山内研に入ってきて研究していることは、高校生が歴史的類推を現代の問題解決に応用できる学習方法のデザインです。
歴史的類推は、実は社会の色んなところに溢れています。例えば、統制実験のできない外交政策を決める際は、政治家は過去の政策例をもとに予測していることがアメリカの研究で明らかになっています。そもそも歴史という概念が生まれたギリシア時代では、歴史は同じような社会的問題に直面した際に参照できるような知として扱われており、歴史は社会で応用できるポテンシャルを秘めた、特殊な情報形態なのです。
ところが、実際の歴史教育では暗記教育が多いのが現状です。それを問題視し、ここ20年は歴史家の熟達した思考(歴史的思考力と呼ばれています)を生徒に教えようという動きが活発になり、当時の歴史的背景に共感できるようになったり、自分達で史料を使いながら歴史の因果関係を作ってみたり、史料と史実を照らし合わせてより妥当な解釈を行うことが目標になっています。
これ自体はとても良い傾向なのですが、歴史家を育てることが目標なのかという疑問の声も出始め、もっと歴史を実用的な過去と捉えることも大事なんじゃないかという意見も多く出てくるようになりました。
ところが、歴史的類推を現代の問題解決に応用できる学習方法っていうのは、実はまだ確立されていないんです。最近は、デジタル・アーカイブを利用した学習方法が開発されたり、コンセプトマップ式の教材が開発されたり、史料を引用できるブログ型のツールが開発されたり、歴史のシミュレーション・ゲームが開発されたりと、教科書を読むだけじゃない色々な学習方法が生まれてきました。ところが、このような上に書いた歴史家の持つ歴史的思考力を育成する学習方法であって、これだと現代に応用はできないのです。(ちなみに、この歴史的思考力のバリエーションとそれと対応する学習方法は現在論文としてまとめているところです)
そこで、僕の研究の登場というわけです。まずはじっくり歴史が現代に与える影響をじっくり細かく調べていったのですが、その結果、歴史が現代に与える影響は大きく以下の2つに分かれることがわかりました。
(1)問題の原因構造の分析に役立つ
(2)多様な解決策の生成に役立つ
修士の研究では(1)を目標に、高校生が産業革命の労働問題を下敷きにして現代の労働問題をマクロに捉えることができるゲームをデザインしました。(実際の教材はコチラに載せています。自由にDLできるので、ぜひご利用下さい)
博士の研究では、(2)を目標に、経済を活性化させた様々な歴史上の人物の政策を高校生が利用しつつ、現代の日本の経済を活性化させる政策を多様に作れるゲームをデザインしました。(詳しくはコチラよりどうぞ)
それぞれの目標に特化したゲームを、どのように統合するのか。また、教材を作る際のポイントは何か。歴史と現代が繋がるテーマは何か。高校でもこのような目標が掲げられつつあるけども、カリキュラムにどう組み込むか。歴史だけじゃなく、現代の知識もどう連動して生徒に教えていくか。
博論の結論ではこのような疑問を解消しながら、高校生が歴史的類推を現代の問題解決に応用できる学習方法を提案しようと考えています。
[池尻 良平]