2012.05.05

【M1の研究計画】
インフォーマルラーニングにおける背景情報の伝達による学習体験補助

みなさま、はじめまして。
本年度から山内研究室にて学ばせていただきます、修士課程1年の吉川遼(よしかわ・りょう)と申します。どうぞよろしくお願いします。

梶浦さん、吉川久美子さんと続いてきた【M1の研究計画】の最終回は吉川遼が担当させていただきます。

■研究テーマ
インフォーマルラーニングにおける背景情報の伝達による学習体験補助


■研究の背景
僕のそもそもの関心は「事物の背景情報を提示することによってどのように学習が変容するか」という点にあるのですが、この点に関心を持ったのは卒業研究がきっかけでした。

卒業研究では「科学館展示物の背景情報をどのように鑑賞者に対して提示するか?」という課題に対するアプローチとして、展示物の工夫やかつて使用されていた時の様子などを動画や写真を用いてタブレット端末上で提示するアプリケーションの開発を行っていました。その際にどのような背景情報があるのか、学芸員の方にインタビューをしたのですが、その時に学芸員の方にお話していただいた展示物の工夫・こだわりを知ることで、ただ展示物を見るだけでは見過ごしてしまい、気づかずに終わってしまうような細部にわたる工夫やこだわり、想いを知ることで自身の感覚として展示物に対する理解の幅が広がっていくのを実感しました。

この実体験から、事物の背景・経緯を知ることによって学習がどのように変わっていくのだろうか?と興味が湧きました。


■背景情報
先程から出てきている「背景情報」という単語ですが、従来様々な文脈で利用されてきており、その定義は非常に曖昧です。

例えば梶波ら(2010)は歴史博物館における展示物の背景情報の性質を、経時性(経年劣化の状態)と共時性(同年代の発掘物同士の関連情報)の2つに分類しています。またデジタルミュージアム関連の研究では西脇ら(1996)が「実際の博物館の展示案内や詳細な説明文」、斉藤ら(2001)は「閲覧コンテンツの地域・分野・年代のカテゴリに関する情報」とそれぞれ背景情報の定義について述べています。

しかしながら、僕が考えている背景情報はどちらかといえば先に挙げた梶波らの定義にやや近く、「あるモノが過去にどのような形態であったか」「どのようにしてそのものが変化していったのか」「なぜそのものが変化していったのか」といった、そのモノ固有の歴史、変容にまつわる情報を背景情報として学習に利用したいと考えています。

また、この背景情報はそのモノ固有の情報なので、ただ端末上でコンテンツを見て終わり、ではなく、そのモノ・コトとセットで見た方がより深い理解が得られるのではと考えられます。従来の座学中心のフォーマルラーニングでは背景情報の利活用ができないと考え、インフォーマルラーニングでの活用法を模索するに至りました。


■背景情報と愛着感情
さて、ではこの背景情報をどのように利用すれば学習が深まるのか、と考えたときに、アプローチの1つとして「背景情報によって【愛着】という情意的反応を促し、それによって学習を深める」といったことが考えられます。つまり、あるモノやコトについて深く知ることによって愛着という感情が生起され、自身の中でそのモノ・コトが特別な存在となるのであれば、その愛着という感情を生み出すための手段として背景情報を利用できないか?ということです。

寺内ら(2005)によれば、モノに対する愛着は自己の形成において精神的な欲求を満たすための感情的な行動とされており、また、愛着対象となるモノを持つことによりヒトの根元的な欲求が満たされると後藤ら(2011)は指摘しています。

また後藤らは愛着感情が生起するための5つの因子として「成長・前進のパートナー」「尊重したい存在」「唯一の特別な存在」「機能性維持との分離」「調和的な関係」を挙げているのですが、このうち「唯一の特別な存在」だと感じ、愛着を抱かせるための要素として背景情報が利用できないかと考えています。

また、学習と愛着感情との関連性について、中学校の技術授業を対象とした森山ら(2007)の研究においては、「愛着」はものづくりに対する興味・関心・意欲と表裏一体の関係にある極めて重要な情意的反応と考えることができる、と述べられているように、愛着は学習においても重要な要素であると考える事ができます。


■今後のアプローチ
ではどのようにして背景情報を提示するのか?ということなのですが、計画としては小学生の地域学習の際にタブレット端末を使ってその地域の史跡や名所の背景情報が閲覧できるアプリケーションの開発を考えています。しかしまだまだ研究計画は荒削りかつ非常にあやふやです。

今後は背景情報と非常に関連性の高い"Context Awareness"についても先行研究のレビューをしつつ、研究の方向性を固めていきたいと思っています。

1年後、ここで皆さんによい研究計画をお知らせできるよう邁進していきますので、今後ともよろしくお願いします。

吉川遼

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