2012.09.09
みなさま、ごきげんよう。修士2年の早川克美です.
空も高く感じられるようになり,すっかり秋めいてまいりましたね.
例年であれば...食欲の秋・芸術の秋・ファッションの秋を満喫したいところですが,修士2年の私達にとっては,残り僅かと迫った修士論文執筆へのプレッシャーと闘う「ひたすら研究の秋!」でございます.
余談ですが,多方面の方々にご協力やアドバイスをいただくことの時期,スケジュール通りに動ける自らの環境を整えることが必須ですから,何より大切なのは健康管理ということになります.例年,秋にはインフルエンザの予防接種を受けたり(笑),日常の健康管理に気を配ることが大真面目に研究室で話し合われていたりします.
私自身,見た目に反比例して虚弱体質なので,この夏休みは小学生のような早寝早起きを心がけました.
さて,この時期の私たちは,研究に向けての学びに一定の目処をつけて,研究方法を選択し,様々な現場に赴いて積極的に人々と関わる実証・実践的な学び〜研究の段階に移っています.今回のブログテーマ「研究に役立つウェブサイト」シリーズは,こうしたプロセスの中で,興味を持った対象や研究領域を調べるためのメンバーそれぞれのレコメンドです.
いつにもまして前置きが長くなりましたので,「研究に役立つウェブサイト」ご紹介させていただきます.
私の研究対象は,「ラーニング・コモンズにおける大学生の学習実態」を調査研究することです.空間と人間との相互作用について,「学習」という目的活動に着目して実態調査をもとに考察しようとしています.
先行研究は,教育工学・建築学・認知科学・環境心理学・図書館情報学・社会学......と多岐にわたっているので,以下の様々なウェブサイトを並行して検索活用しています.
1.スタートは「日本の論文を探すArticle CiNii 」
http://ci.nii.ac.jp/
ご存知,文字通り国内の論文を検索する学術情報ナビゲーターです.検索ワードをあれこれ悩み操りつつ,徐々にターゲットを絞り込んでいっています.
2.認知科学会・学会誌「認知科学」
http://www.jcss.gr.jp/kikanshi.html
ここでは「認知科学」各号の目次と研究論文を公開しています。
電子アーカイブはJ-Stage https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jcss/-char/ja/ で公開されており,1994年の創刊号から2011年刊行号まですべて見ることができます.
3.海外論文の検索「SciVerse」
http://www.hub.sciverse.com/action/home
こちらは同期の呉さんも紹介されていましたが,http://www.sciencedirect.com/ もここに含まれています.登録することで,自分のライブラリに検索した結果を保存,システムからレコメンドが得られ,まだまだ使いこなせていませんが,他の研究者の興味の動向なども知ることができたり多様な機能が用意されています.
ここではラーニング・コモンズの「activities」「education」「behavior」に関する「investigating」「research/researching」をキーワードに検索しています.
留学生の呉さんは,PBL(プロジェクト学習)を支えるような座席レイアウトの研究をされていて,海外論文については強力なアドバイスをいただいていて感謝です.
その他のweb上での情報収集は,毎朝,我らの山内先生がTwitterでつぶやかれる「先生の目で収集された情報・News」が大変ありがたく,それをきっかけにしばしネットサーフィンをしては視野を広げたり,知識を深めたりしています.
山内先生のTwitterアカウントはこちら.
まだまだたくさんあるようにも思えるのですが,論文検索以外は,統合的なサイトというよりその都度有用だと思われた情報をEvernoteにタグ付クリップ保存していることが多いです.
外出時にはiPhoneからSNSやSafariを通して気になった情報はInstapaperに一時保存→帰宅後まとめて確認,Evernoteへという流れでウェブ上の情報収集を整理したりしています.
最後に,やはり重要とおもわれる情報は「紙に出力」するのが一番かと思われ,マーカーを引いたり,書き込みをしたりするのは,まだまだ実物の「紙媒体」になっています.「紙媒体」を使い込む(読み込む)行為の方が,自分に取り入れた実感を得られるようにも感じています.一方で,その分類・整理はやはり電子媒体に軍配が上がるわけで,こちらは現在の研究テーマとは直接的ではありませんが,継続的な興味ある対象として見つめていきたいと考えています.
来週は長崎大学で日本教育工学会の全国大会が開催されます.研究者の先達の方々の発表にふれ,お話の機会を持てることが大変楽しみです.
どうぞよろしくお願いいたします.
では,いつになく散漫な内容となってしまいましたが,この辺で.
長文&拙文におつきあいいただきありがとうございました。
【早川 克美】
2012.09.04
8月26日の深夜にTBSの文化系トークラジオ Life に参加させていただきました。
パーソナリティの鈴木謙介さんをはじめ、出演者やスタッフのみなさまに暖かく迎えていただき、朝まで楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
深夜ラジオに慣れておらず、言いたいことが十分伝わったかどうか不安もありますので、番組をきっかけに考えたことをまとめておきたいと思います。
この日は「"楽しくやろう"というけれど...」というテーマでした。仕事や勉強などで「楽しもうよ」といわれることが増えたけど、楽しめない人はどうしたらよいのか、また、楽しむことを強制するのはどうなのか、といった設定だったと思います。
このテーマを考える際には、「楽しむ」という日本語が多義的であることに注意が必要です。辞書には (1) 充実感を持って心が高揚している状態 (2) 物質的に恵まれて楽である状態が記載されています。例えばやりがいを感じる仕事に集中している状況は前者であり、気の置けない仲間と飲んでいる状況は後者だと思われます。
番組中でも紹介しましたが、(1)の「楽しさ」については、M.チクセントミハイが研究しています。
フロー体験入門―楽しみと創造の心理学
チクセントミハイはスポーツや仕事などで、時間を忘れるほど集中して楽しんでいる状況を「フロー体験」と名付け、その条件を探りました。その結果、内発的に動機付けられている状況(お金などの報酬ではなくその活動自体に魅力を感じている)で、自分が持っているスキルと課題の制約がつりあっているときにフロー状態が起きることを明らかにしています。このような状態をHardFun(苦しいけれど楽しいーくるたのしい)と呼ぶこともあります。
このように、仕事や勉強に自分なりの楽しさを見つけ、その結果パフォーマンスがあがることに対しては番組中でも大きな異論はなかったように思います。またゲーミフィケーションのような手法は、課題を明確化し、スキルとつりあわせるためには有効でしょう。
問題になるのは、(2)の楽しさを報酬とし、外発的動機付けとして利用しようとする場合です。例えば、企業が仕事を押し付けようとしている場合に、飲み会などで共同体意識を醸成し「みんなのためだから」という理由でつらい仕事を楽しめといわれるといった話がでました。楽しさを悪用することに問題があることは明らかですが、私自身はもう少し根が深い問題なのではないかと考えています。仕事を押し付けようという「悪意」が明らかであればまだ抵抗しやすいのですが、もとが「善意」なので事態が複雑になっているのではないかと思うのです。
番組中で佐藤淑子さんの「日本の子どもと自尊心―自己主張をどう育むか (中公新書)」を紹介しましたが、この本の中には、アメリカ人の達成動機と親和動機が負の相関関係にあるのに対し、日本人は正の相関を持つという研究が紹介されています。つまり、日本人は人間関係に配慮し「先生やお母さんのため」に勉強する傾向があるということです。仕事についても同様に「みんなのために仕事をする」ことが「仕事そのものの達成」より優先してしまうことがおきがちです。
他者のために役に立ちたいという欲求は自然なものであり、そのこと自体に問題があるわけではありません。「あの人のようになりたい、だからあの人のために何かしたい」というロールモデルからの動機は、外発的動機付けと内発的動機付けを橋渡しする役割を果たしています。しかし、それが文化的規範となり、欲していない人に対して抑圧的に機能しているとしたら問題です。
ただ、この規範がもともと善意に発していることを知っているからこそ、多くの人はそれを裏切ったら文化的コードを守らなかった罰として「いじめ」にあうかもしれないことを恐れているのではないでしょうか。だから本当は(2)の意味でも楽しくないのに無理につきあっているのではないでしょうか。
さて、もう一つの問題は、本当は楽しみたいと思っているのに楽しめないという問題です。自分で楽しいことを見つけて変わっていける人たちをまぶしく眺め、でも自分はそうはなれないと悩んでいる人もいるのではないかと思います。
この問題に対しては、前述の佐藤さんの本にもとりあげられている日本人のセルフエスティーム(自尊心)の低さが関係していると考えています。国際比較調査によって、日本人は欧米や中国・韓国に比べ、自分を肯定し有能であると考える子どもが少ないことが明らかになっています。ただし、潜在意識レベルの自尊心を測定すると高い人もいることから、小学生の間に「謙遜の美徳」が内面化した結果、楽しむことを自ら抑圧するようになっている可能性があります。
これらの問題に対してどのような処方箋がありうるのかについては、番組で十分にお話しすることができませんでした。ここでは以下の5点をあげておきたいと思います。
1)「楽しもう」と言わない
「楽しもう」という人に悪気はないのかもしれませんが、押し付けられていると感じた瞬間楽しめなくなる人もいます。「楽しむ」かどうかはその人の自由であり、操作できることではありません。結果として楽しんでもらえるよう努力するのはよいと思いますが、楽しんだかどうかはその人の言葉や表情から判断する方がお互いに幸せになれると思います。
2)多様性を認める組織文化
何を楽しいと感じるのかは人によって差があります。自分なりの楽しさを見つけることを許容することを組織文化の基本にすると構成員の居心地がよくなります。構成員が自発的に楽しいと感じていることを伸ばせるよう管理職が配慮すると組織が活性化します。
3)内気な人を大事にする
楽しむことは義務ではありません。また、楽しいことを表現しなければならないという決まり事もありません。内気な人は往々にして楽しんでいないように見えますが、その繊細な心の動きによって大きな仕事をなしとげることもあります。反応がないように見えたとしても、「のりがわるい」と責めることはやめましょう。
4)成長マインドセット
楽しめない人の中には「自分は変われない」と思いこんでいる場合もあります。C.デュエックという研究者はこのような考え方を固定マインドセットと名付けましたが、今は楽しめなくてもいつか楽しめるように「自分は変われる」(成長マインドセット)と考えるようにすると何かきっかけが見えてくるかもしれません。
5)楽しさに対する批判的思考
楽しさは感情を表す言葉であるため、論理的に考えることはしばしば嫌われます。(楽しいんだからいいじゃないか!)しかし、どう楽しむか、その楽しみ方でよいのかについて深く考えることは、より多くの人と楽しみを共有するために役に立ちます。
チクセントミハイはフロー状況にあることと、その活動が社会的に妥当であることは必ずしも一致しないと述べています。人は残虐な行為に楽しさを覚える場合もあります。その時は楽しくてもあとで一生を台無しにすることもあるでしょう。一歩引いて自分の楽しさを見つめる視点も大事だと思います。
【山内 祐平】
2012.09.01
みなさまこんにちは。
【研究に役立つウェブサイト】シリーズ第3回は、M2の末 橘花がお送りします。
私は普段、論文検索サイトのciniiや世界の教育系論文の検索サイトであるERICなどを使用しています。これらは、誰もが通る道だと思うので、私の研究に特化したものをご紹介しようと思ったのですが、私の研究分野である歴史教育では例えば歴史教育で身につけるべき力とそれをのばすための教材を紹介したThe Historical thinking Projectがあります。しかし、オーラル・ヒストリー関連は、そもそも教育研究自体が少ないので、今回は様々なオーラル・ヒストリー・プロジェクトのwebサイトをご紹介したいと思います。
オーラル・ヒストリーは、文化人類学、社会学、歴史学、政治学など様々な分野から発達しているため、目的や手法は多種多様です。生きた声を収集するオーラル・ヒストリーは、命には限りがあるため、使用用途や分析方法はさて置き、とにかく証言が消えてしまう前に、記録に残そうというスタンスをとっているものが多いようです。そのため今後整理が必要になるであろうとも言われているのですが、今回はとりわけ有名なプロジェクトをご紹介したいと思います。
【専門としてのオーラル・ヒストリー】
▼日本オーラル・ヒストリー学会
まずは学会です。これはプロジェクトではありませんが、日本で唯一のオーラル・ヒストリーの学会です。学会誌は2年以上前のものはフリーで読むことができます。オーラル・ヒストリーがどのようなものか、またどのように分析されているのかを知るのに役立つと思います。
【災害の記憶を記録する】
戦争や地震など、様々な感情や体験を歴史として刻むためにオーラル・ヒストリー・プロジェクトが行われています。
▼NHK戦争証言アーカイブス
こちらのサイトはご存知の方も多いかと思います。
これは、戦争を体験した人々の証言を収集し放映したNHKの「戦争証言プロジェクト」の中で収集した証言を、未放送の部分も含めて、インターネットを通じて誰もがいつでも視聴できるようにしたものです。このサイトでは、証言であるインタビュー以外にも、実際に放映された番組、戦時中のニュース映画、戦時録音資料を見ることができます。
▼311まるごとアーカイブス
昨年3月11日に発生した「東日本大震災の経験や教訓を人類共通の資産として千年先の後世に伝承し、安全な社会を構築することが現世代の責任」であると掲げ、被災地の失われた「過去」の記憶をデジタルで再生し、被災した「現在」と復興に向けた「未来」の映像や資料をデジタルで記録しまるごとアーカイブすることを目的として、「東日本大震災・災害復興まるごとデジタルアーカイブス」(プロジェクト略称:311まるごとアーカイブス)が立ち上がりました。このプロジェクトには、本専攻である学際情報学環の吉見俊哉先生も携わっていらっしゃいます。
【専門分野のオーラル・ヒストリー】
各学会や業界でオーラル・ヒストリーを行う場合もあります。
▼日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ
美術の分野に携わってきた方々にインタヴューを行い、口述史料として収集・保存している団体で、2006年に美術史の研究者や学芸員によって設立されました。
【組織のオーラル・ヒストリー】
企業、官僚、大学など様々な組織で、暗黙知の継承や、公的な記録として残すことを目的として、オーラル・ヒストリー・プロジェクトが行われています。
▼Stanford Oral History Programs
米国スタンフォード大学文書館が所蔵するオーラルヒストリーのコレクションをオンラインで公開したものです。この、大学の歴史をオーラルヒストリーとして残す取組み"Stanford Oral History Project"は、1978年に、同館とStanford Historical Societyによって始まりました。大学の経営陣や教員、職員や卒業生に対する400以上のインタビューや会話が存在するそうです。
【番外編】
アメリカ人の小学生コール・カワナくんによるオーラル・ヒストリー講義(動画)
コールくんは、広島の原爆者である大叔父アーサー・イチロウ・ムラカミ氏へインタビューをし、その体験談を記録しました。また彼は、他の生徒たちのために、オーラルヒストリーインタビューの記録の仕方をを9分間のDVDにまとめました。
オーラル・ヒストリー推しの私としては...なんだか先を越された感じがしますね(笑)
このように様々なオーラル・ヒストリー・プロジェクトがあります。
上記にあげたものだけでなく、自身の家族史や会社や大学など組織の歴史、自分自身の専門分野の歴史など、文字に残らないけれど、残すべきものとして重要なものも多々あると思います。そんなときにオーラル・ヒストリーを使ってみるのもいいかもしれません。
【末 橘花】
2012.08.28
皆様
ブログの更新、大変遅れていましまして、本当に申し訳ございませんでした。
今回は研究に役立ちそうなウェイブサイトの紹介ですので、私自身が普段よく参考したり、論文をダウンロードしたりするところを紹介させていただきたいと思います。
いまはpblを支えるような座席レイアウトの研究をしておりますので、pblという学習の仕組み、環境心理学との2つの面から関係資料を搜索しています。また、あくまでも学習現場と深く関連している研究ですので、「家具」というものに関する実態調査なども必要ではないかと考えています。
一番頻繁に使っているのはhttp://www.sciencedirect.com/というサイトで、理工学系の論文がほとんどだといっても、社会科学や心理学のものもたくさん入っています。そこで学習空間と学習者の効率・心理・行動の関係を捉える文献をいろいろとゲットしてきましたので、かなり使用率が高いです。さらに、一回論文をダウンすれば、システムは同じ類の文献、そして関係しそうな資料などをも自動的に薦めてくれるので、リソースが広まっていけると言えます。
pbl(プロジェクト学習)を支援するのは目的ですので、pblの実践をもいろいろと調べなければならないです。当初pblに興味があると伝えたら、山内先生からスタンフォード大学のdschoolの事例を教えていただき、その後http://dschool.stanford.edu/とのホームページをもよく使い、そこで'pblの実践例を参考しながらpblの仕組み、教学方法、課題の特性、活動のルーチンについて理解を深めています。
座席レイアウトの研究はいままでほとんど建築学会に限って研究されています。それらの研究も実際観察レポートという形に留まっているので、座席レイアウトと人間の行動、心理の関係性を深く考察する資料はなかなか見つからないです。理論研究はそれほどないといいながら、教育現場の実践はむしろ盛んにされているといっても良いです。MITやDenison University、the University of Birmingham、University of Minnesota等の大学では、学校家具のデザインと座席のレイアウトに努力を入れることを通して新しい「学び」を生み出す事例が多いですので、これらの大学のホームページに載っている紹介文章やブログをチェックするのも研究に有効的だと思います。
座席のレイアウトを研究のキーワードとして設定していますが、座席とは家具自体から切り離されないものですので、家具そのものに対する調査も必要です。家具業の発展は凄まじいスピードで出来ているので、ここ50年の大学の教学用家具を見れば、形状と使用材料そして配置方まで大きな変化が見られています。大学のホームページだけをみれば、家具の情報はとても限られているので、生産側としてのメーカーさんのホームページや国際家具展覧会などをも定期的にチェックしています。上記で書いてある大学のホームページは学習空間を紹介するとき、度々使用家具の提供先の情報をも出していますので、それを経て、www.allsteeloffice.com/やwww.steelcase.comなどの会社を知り、学校家具とオフィス家具の最新な情報を手に入れています。
恐らくもっと参考になるサイトもあるかもしれませんが、いままでは上記のものを使って、いろいろ良い資料をもらいましたので、これからも愛用しながら研究を進めていきたいと思います。
2012.08.21
IT企業を中心に、創造性を意識したオフィス空間が増えてきています。
グーグルのオフィスに見る、創造性を育む職場環境
http://japan.zdnet.com/cio/sp/35020491/
私は福武ホールや駒場アクティブラーニングスタジオなどの学習空間を設計してきましたが、創造的なオフィス空間についても相談されることがあります。最近高等教育では育成すべき高次思考能力のバリエーションとして創造性も取り扱いますので、話をしていて確かに共通点もあるように感じます。
GoogleやMicrosoftの日本オフィスも訪問させていただきましたが、様々な工夫があり、特に記事の写真に出ているような遊び心のあるスペースは学習空間にもとりいれられないかと思っています。感情は学習に大きな影響を与えますので、居場所として安心でき、かつ様々な挑戦を許容することが空間的に表現されていることは大事なことです。
ただし、創造性を育むことを考える場合には、このような「見た目でわかりやすい」ところだけ真似しない方がよいように思います。創造的活動は、Sawyerが指摘しているように集団活動の中で生まれ、かつ、その集団はWengerのいう実践共同体である場合が多いからです。あるトピックについて自発的に形成された研究会的なグループが、会議スペースなどの資源を使えるようになっているかどうか、雑談の中からそのようなグループが構成されるように、たまり場的なスペースをもうけているかも重要なポイントです。
創造的活動が展開される際には、空間だけでなく、組織や文化の問題も大きく関わってきます。企業の中で創造的活動を評価しビジネスにつなぐ仕組みを持っていないと長続きしません。学習環境と同様、空間だけではなく、環境全体としてデザインする視点が必要なように思います。
【山内 祐平】
2012.08.16
みなさま毎日暑い日が続きますが、いかがおすごしでしょうか?
M2の河田承子です。合宿も無事に終わり、8月もあっと言う間に半分が終わってしまいました。近づいてくる秋に焦りを感じる今日この頃です。
さて、今週からは新たに「研究に役立つウェブサイト」シリーズをお送りしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
私は現在「母親が子育てで育児情報をどのように使っているのか」を明らかにする研究を行っています。現在までにたくさんのお母様達にインタビューをする中で、色々なサイトを使って子育てに役立てていることがわかりました。かなり母親目線になってしまいますが、今回はその中から少しご紹介したいと思います。
まず、子育てに関する口コミサイトでとても有名なサイトといえば、「ベネッセウィメンズパーク」【http://women.benesse.ne.jp/】ではないでしょうか。2008年の調査によると、会員数133.8万人、月間総ページビュー数1億2,302万PV、発言数が1日あたり約1.2万人ということからも、多くの母親に利用されていることが分かります。育児をする上で欠かせない、生活圏内の地域情報が得られることが特徴です。その一方、同じ口コミサイトでも子どもの教育に関する情報交換が豊富なサイトが「Inter-edu.」【http://www.inter-edu.com/】です。なんと幼稚園受験〜大学受験まで幅広い情報交換が行われています。このような口コミサイトでは、面と向かって人に聞きづらい質問を投げかけている場合があり、母親にとって大事な場なのだと改めて感じることがありました。
それ以外にもご紹介したいサイトはたくさんあるのですが、中でもお薦めなのが「絵本ナビ」【http://www.ehonnavi.net/】。絵本が全ページ試し読みができるサイトで、働かれていたり、お子さんが小さくて本屋でゆっくり選ぶ時間がない母親にも人気のサイトのようです。
このように、現在インターネットには子育てに関するサイトがたくさんあり、それらを見て行く中で、母親が抱える不安や要望などが分かり、参考になる事があります。
昔は両親や近所の人から教えてもらっていた子育ての情報ですが、核家族化が進み地域コミュニティが減少していく中で、インターネットから得る機会が多くなりました。しかしながら、情報量が多い反面、情報の真偽に関する判断は個人レベルに任されています。情報の活用が上手な母親もいれば苦手な母親もいるでしょう。そういった方達への支援を含めて、いま行っている研究をより良いものとしていけるよう頑張りたいと思います。
M2 河田承子
2012.08.15
先日、合衆国教育省が、オンライン大学の教員養成が急増しており、学位授与数で最大規模の教育大学を抜いたという報告書を出しました。
USA Today: Online education degrees skyrocket
2011年度にもっとも多く教育に関する学位(学士・修士・博士)を出した大学はフェニックス大学で、5,976になっています。フェニックス大はオンライン営利大学の草分けとして世界的に有名です。
これに対してアメリカで最大規模の古典的な教育大学であるアリゾナ州立大学が出した学位数は、2,075であり、フェニックス大の半分弱です。ただし、学士(教育学)はアリゾナ州立大学が979でトップになっており、オンライン大学が修士号以上に照準を合わせていることがわかります。
アメリカと日本の教員養成は社会的背景が異なっており、このデータの読み取りには注意が必要です。
まず、アメリカでは教員と他の職業とのキャリア転換がおきやすいことがあげられます。給与水準が低いため、よりよい待遇を求めて教員をやめて民間企業に転出するケースがある一方で、最近のように不況になると、逆に民間企業から教員になりたいという人材が流入します。また、より高い学位を持つと給与や待遇が向上するようになっているため、修士号や博士号をとった方が有利になっています。連邦政府もより専門性をもった教員を育てるために大学に補助金を出しています。
つまり、オンラインで学位をとることが教職の確保や待遇の改善に直結するため、教員養成に関してはオンライン大学が他の領域よりも有利な位置にあるわけです。
最近は営利大学だけでなく、伝統的教育大学もオンラインコースを設ける例が増えています。また、教育省はオンライン上に教員コミュニティを作るプロジェクト「Connected Educators 」を開始しており、教員の専門性を向上させるためのオンライン学習環境は今後大きな潮流になりそうです。
【山内 祐平】
2012.08.12
山内研との出会いを書き綴る【山内研との出会い】シリーズ、最終回はD3の池尻良平がお送りします!
...と思ったのですが、実はこのテーマ、僕がM1の頃に書いている以下のブログと被っちゃうんですよね(笑)改めて見るとこっぱずかしい内容なのですが良かったら見て下さい。
【山内研と私】歴史教育、3つの違和感、覚悟(池尻)
http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2008/07/post_104.html
「じゃあ、これで...」というわけにもいかないので(笑)、今回は山内研と出会った頃にやりたかった3つのことが達成できているかを振り返る特別回にしようと思います。
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(1)「歴史って現代に役立つんだ!」ということを高校生に教えたい
これは山内研だからこそできると思ったことです。実際、当時の山内研のゼミは月1回ペースで発表があったのですが、それに向けて海外の最新の歴史学習の研究を調べたり、そこから自分の追い求める歴史学習のモデルが作ることができて「めっちゃ研究面白い!」と思っていました。それと、学際情報学府は既存の学部ではカバーしていないことを重視する大学院なので自分のやりたいことがのびのびとできるようになったのもとても良かったです。おかげさまで今は歴史を現代に応用させるゲーム教材を2つデザインし、実際に色々な高校生に使ってもらいながら「歴史って役に立つんだ!」と思ってもらう実践を行っています。
(2)山内先生の「技」を習得する
僕が山内先生に初めて会った時は「他の教授とは違う考え方や技を持っている...」という直感がありました。そこで、何が違うのかも含めて山内先生の考え方や技を習得したいという想いもあって山内研に入りました。研究についての考え方はもちろん、学校での振る舞いや教育に携わる色んな人達への話し方、コンサルタントのやり方など本当に多様な技を習得する機会があり、僕自身とても勉強になっています。全然まだまだ習得途中ですが、大学院に入ってから幅広い活動ができるようになったのは山内研に入ったからこそだよなあと思っています。
(3)歴史教育を変える!
最初のゼミ発表のレジュメでこれをでかでかと書いたことで、ポートフォリオを開く度にこの言葉が見えてよく話題にされるのですが(笑)、これは当時も今も大真面目にやりたいと思っていることです。ただ、修士の頃に実践をさせてもらった高校を始め、幾つかの高校で自分の作った歴史の授業を行ってはいるのですが、高校は小中学校や大学と比べて研究や実践の展開をしていくのが大変ということもあって「歴史教育を変える」レベルには達していません。
ただ、先生方が集まる学会や研究会に顔を出して高校の歴史教育の空気感を理解したり、授業だけでない形で高校生をサポートする色々なアプローチを勉強している中で、どうやったら歴史教育が変わりうるのかがうっすら見えてきたのも確かです。高校で研究をしたり、新しい教材を普及させるということはなかなか困難なのですが、今はそれを考えることが楽しかったりします。これも修士の頃に、山内先生が「高校で研究するスタンスは崩さないようにした方が良い」というアドバイスをしてくださって、ずーーーっと取り組み続けたからこそだからだと思います。
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ということで、出会った頃にやりたかったことは現在半分くらいできているでしょうか。ただ、どれも山内研に入らないとできなかったことだろうなぁと思うので、学部の頃に山内研を選んで本当に良かったと思っています。いつまでも初志貫徹の精神で、これからも頑張っていきます!
[池尻 良平]
2012.08.09
8月7日から9日まで、函館で研究室の夏合宿を行いました。
例年夏合宿では、古典とされている教育研究者(デューイ、ピアジェ、ヴィゴツキーなど)をレビューすることが学習の中心なのですが、今年は新しい挑戦として、スタッフが抱えている現在進行形の「課題」に対して、担当した研究者であればどう解決するかを考えるという試みを行いました。
私が出した課題は、「オンライン学習における離脱」です。アメリカで大学中退率の上昇が問題になっているように、対面の学習であっても学習が続かずドロップアウトするということは起きますが、オンライン学習はさらに持続が難しく、Levi,Y(2007) によれば、25%〜40%が離脱するとされています。
この課題に対して、大学院生の伏木田さんと山田さんと私のチームで、担当したパウロ・フレイレとアラン・ケイの考え方から、どういう解決方法があるかを考えました。
議論の中で明らかになってきたのが、フレイレもケイも、「学習における問題の意味」を可視化する学習環境を構成しているということです。
フレイレは識字教育において、貧しい人々が文字を持つことによって世界を変革するための実践を展開しました。その際に、できるだけ身近な単語を文字で表す学習プログラムを構成し、世界との関わりがどう変わるのかを端的にフィードバックし、文字を学ぶ意味を理解してもらっていました。
ケイは、子ども向けのプログラミング環境であるSqueakの開発において、プログラミングによって想像の世界をシミュレーションすることによって、試行錯誤の楽しさから問題を解決してみたいと思わせる環境を構築しました。
問題の種類は違いますが、「これは私にとって解決してみたいと思える問題だ」ということを納得できるような可視化が行われているという点は共通しています。
オンライン学習はともすれば無味乾燥になり、学習の意味を見失いがちです。学習の離脱を防ぐためには、「問題の意味はあなたが考えてください」というスタンスではなく、「あなたにとって解決する価値がある問題なのだ」ということを可視化して納得してもらうことが出発点として重要になりそうです。
もちろんこれは一種の思考実験ですので、今後実践で試してみる必要はあります。ただ、他のチームも面白い知見がたくさん出てきており、こういう古典を現代に適用する読み方も面白いものだと実感しました。
【山内 祐平】
2012.08.04
こんにちは、博士課程2年生の伏木田です。5月からはじまりました【山内研との出会い】シリーズも第10回目。毎晩、オリンピックの試合にくぎ付けになりながら、何を書こうかなと考えていました。
わたしが山内研を知ったのは、大学4年生の6月だったと思います。きっかけは、尊敬する友人が山内研に在籍されていたこと。大学3年生の終わり頃から、自分がのびのびと学ぶことができる大学院を探していたわたしは、"たまたま"その友人の名前をどこかのHPで見つけ、たどってみたら"たまたま"山内研にたどり着きました。その瞬間、頭の中で光が"ぱんっ"と弾けたように感じたのを覚えています。
■ 起 ■
少し話はさかのぼりますが、大学に入る前、わたしは音楽療法士になりたいと思っていました。けれども、音楽大学に入る道ではなく、いろいろなことを広く学べる総合大学を選んだときに、その夢はお蔵入りしました。
趣味として音楽を続ける代わりに、とりこになったのは、「人のこころ」に関わる学問全般でした。幸運なことに、大学1年生から卒業するまでの間、興味のある授業を自由にとることができる環境にいたので、ほんとうにいろいろな学問に触れました。その中で、認知心理学、教育心理学、社会心理学にはじまり、認知行動科学、神経科学、精神保健学にいたるまで、「人のこころ」に関わる学問に魅了され続けました。
■ 承 ■
人が好きで、人とかかわり続けられる仕事がしたいと思っていたので、心理カウンセラーや臨床心理士という職業に強く惹かれていました。その一方で、専門性を極める前に、どこに行ってもつぶしが効く力を身につけおきたいという気持ちがありました。また、大学に入ってすぐの頃から、「大学院に行くんだ!」となぜか強く思っていたわたしは、大学院で何か新しいことを始めたいと思ったときに、どんな領域でも役に立つ基礎力がどうしてもほしかったのです。
そこで、いろいろな先輩に相談をして、大学3年生のときに(認知)心理学の専攻に進みました。そこでは、どうすれば未知の現象を研究によって明らかにできるのかという基礎的な手続きを、過酷な実験演習の中で学ぶことができました。今思えば、そこでの経験が、「研究は楽しい」という気持ちを芽吹かせてくれたように思います。
■ 転 ■
そして大学3年生の終わり頃、こう思いました。「ここでの研究や勉強はとても楽しい。でも、やっぱり、人とかかわっているという実感を、研究の中で感じたい。誰かの役に立ちたいとい気持ちが形になるところで、研究がしたい」と。
そこで、もう1度、いろいろな学科・研究科を片っ端から探しはじめました。そして、どこに行けば自分の望みが叶うのか、頭を悩ましているときにみつけたのが、友人の名前と山内研の存在でした。情報学環の教育部にも在籍していましたが、なぜか、山内先生を知らずに過ごしていたわたしにとって、学際情報学府で教育学にかかわれるというのは、ほんとうに衝撃でした。
そこで何ができるのか、そこでわたしは何ができるのか、不安もたくさんありました。けれども、「入ったところで頑張ればいいじゃない」という母の言葉に、背中を押してもらいました。教育実習と卒業研究で頭がいっぱいの中、自分がそれまでやってきたことと、これからやってみたいことの橋渡しを考えながら、研究計画書を書いたことを覚えています。
そして、今、山内研での生活は4年目を迎えています。
■ 結 ■
大きな夢をしっかりと描いて入ったわけではなかったので、入ってからは、戸惑うこととがたくさんありました。自分が向いていないと思うことも、数えきれないほどありました。いつも目の前にあることだけを見つめているので、もう少し先を見越していたら、違う道を歩んでいたかもしれません。それでも今こうして、たくさんの人に助けていただく中で、人と人とがかかわりながら学ぶ環境を研究できていることに、しあわせを感じています。
大学院での日々も、残りの日数を数えはじめるようになりました。ここを出たら何ができるのか、ここでの経験はどこに還していけるのか、頭を悩ます日々が始まりそうです。
【伏木田 稚子】