2013.12.01

【参考になった研究の方法論】"仮説検証型"の研究と、"明らかにする"研究

みなさんこんにちは。早いものでもう師走。
本郷キャンパスでは銀杏がとってもきれいです。


【参考になった研究の方法論】第5回目は私、修士1年の池田めぐみがお送り致します。前回の青木君と同様、研究内容が完全に決まっていない私には研究法の候補も2つ存在します。そこで今回は、その2つの研究方法について紹介したいと思います。


1.安斎勇樹, 森玲奈, 山内祐平(2011)創発的コラボレーションを促すワークショップデザイン(教育実践研究論文). 日本教育工学会論文誌, 35(2):135-145

この研究は、研究室の先輩であり私のファシリテーター(山内研におけるメンターのようなシステムです)である安斎さんの研究で、創発的コラボレーションを促すプログラムをデザインし実践を行った、仮説検証型の準実験研究です。


論文に記載されている安斎さんの研究目的は‥
「ワークショップにおいて創発的コラボレーションを促すためのプログラムデザインの指針を示すことを目指す」こと
具体的には「先行研究を参考にしながらデザイン原則を仮説として設定し,ワークショップ実践とと分析を通してその効果の検討を行う.そしてその結果から,創発的コラボレーションを促すために有効なプログラムのデザイン原則を提案すること」だそうです。

この論文においてとられている研究の方法は以下の通りです。
①デザイン原則の仮説立て
②プログラム概要の決定
③ワークショップにおける制作課題の条件設定
④計8回にわたる実践(うち、実験群、統制群4回ずつ)
⑤ワークショップ中のビデオカメラ、ICレコーダーのデータから、発話データのコーディングを行う
⑥コーディングカテゴリのうち5つを取り出し、分析を行い、コラボレーション展開図を作成
⑦先行研究を元に作った定義にあわせて、創発的コラボレーションがおきていたか、コラボレーション展開図上で判定


安斎さんは実践を計8回101人対象に行い、発話内容をを丁寧に分析しています。
仮説を立て、実践するとなると、ついつい仮説を立てることにばかり熱中してしまいそうになりますが、このデザインによりこの効果が生じたということを論じるためには、実践に参加した人の数や分析も重要になることがうかがえます。


2.我妻優美, 中原淳(2011)大学生の学習観変容に影響を及ぼす協調学習経験 : 映像作品制作を目的とした大学授業における事例研究. 日本教育工学会論文誌, 35(Suppl.):57-60

こちらは、お隣の中原先生の研究室の修了生、我妻さんの研究で、学習者の学習観の変容に影響を与える協調学習経験の特長を明らかにする研究です。我妻さんは大学2年生向けの4月〜7月(計7回)の授業を対象に、観察調査と事前事後の質問紙調査から学習観が変化した学生の特定と、それに影響を与えた協調学習経験を明らかにするということを行っています。


論文に記載されている我妻さんの研究目的は‥
「高等教育における協調学習を取り入れた授業において,学習者の学習観の変容に影響を与える協調学習経験の特長をあきらかにすること」であり、
「大学で協調学習を取り入れた授業の単一事例を対象とした調査を行い,学習観が変容した学習者を同定し,その学習者に特徴的な協調学習経験を明らかに」しています。

この論文においてとられている研究の方法は以下の通りです。
①先行研究を参考にしながら質問紙の作成
②授業期間前における比喩生成課題を用いた質問紙調査
③授業中における参与観察
ビデオカメラ、ICレコーダーでの授業の記録とフィールドノーツの作成
④授業期間後における比喩生成課題を用いた質問紙調査
⑤比喩生成課題の回答をを分析し、学習観がが変容した学習者を同定
⑥学習観の変容が見られた学生の協調学習経験の特長を明らかにするために、変容がが見られた学習者と、見られなかった学習者の経験を比較しながら、フィールドノーツを質的分析


我妻さんは、学習観が変化した学生を質問紙から同定し、その学習者に特徴的な協調学習経験は何であったかをフィールドノーツから分析しています。
調査することを漁業にとらえるならば、調べる手段は網であり、あきらかにしたいことは獲物だと言えます。何を獲物とするかによって網をきちんと使い分けること、獲物を捕まえるために網をしっかり考えて用意することが重要であることがうかがえます。

ーーーーーーーーーー
ある目的に対し、効果をを生むであろうインフォーマルラーニングのデザインの仮説を立て、実践するのか、あるいは、既存の活動において、未だわかっていないことを明らかにするのか迷える所です。
自分がこだわりたいポイントを整理しながら、先行研究をレビューしながら、自分のやりたいことにあったスタイルを、早い所決めなきゃですね。Macが冷たい季節になってきましたが、面白い研究ができるよう、頑張っていきたいと思います。

池田めぐみ

2013.11.22

【参考になった研究の方法論】学習支援システム開発型研究について

 みなさんこんにちは。山内研修士1年の青木智寛です。
 早いもので今年も残すところあと1ヶ月...
 修士課程も1/4を過ぎて自分はどれだけ成長したのだろうかと自問自答する毎日です。

 さて、第4回となった今回のブログテーマ「参考になった研究法」ですが、研究内容が完全に決まっていない修士1年である自分にとっては、「参考になった研究法」というよりも、「参考にしていきたい研究法」というテーマのほうがふさわしいかもしれません。さらに言えば、研究の各段階における手法、たとえば開発方法や分析手法などではなく、まずは「研究プロセス」として大きく捉えて紹介してみたいと思います。

 僕は、最終的に学習を促進させる人工物として、システム開発をおこなう研究を進めていきたいと考えているので、基本的な研究のプロセスとしては
支援原理の設定→学習支援システム開発→実践→評価→考察
といった流れで進めていきたいと考えています。(と、いうよりも進めている最中です)そこで今回、システム開発を行い、実践し、評価した論文として、
「八重樫文,望月俊男,加藤浩,西森年寿,永盛祐介,藤田忍(2007) デザイン境域の特徴を取り入れたプロジェクト学習支援機能の設計,日本教育工学会論文誌,31(Suppl.), 193-196」
をご紹介させていただこうと思います。この論文ではプロジェクト型学習におけるグループウェアの機能について検討し、実際にシステム開発を行い、実践し、その結果分析までおこなっています。

 論の構成は、上で挙げた大まかな研究のプロセスにほぼ沿った形で展開しています。
<1章>
問題解決型学習・プロジェクト型学習における現状の問題点を整理し、分散型環境におけるグループ学習活動が円滑に進んでいないことを述べています。
<2章>
その問題を解決するために取り入れた特徴的な支援原理、"デザイン教育"における"工房・スタジオ的学習環境"の特徴が説明されています。
<3章>
2章の原理を実際にどのような形でシステムに実装したかが述べられ、携帯電話のどの画面にどのような内容が表示されるか、またデータ管理の仕組みなどが表も用いて、詳しく述べられています。
<4章>
授業実践の様子と評価方法が述べられ、実践を行った授業の期間や形態と、質問紙による評価の尺度や、有効回答数などが説明されています。
<5章>結果と考察として、質問紙で調査した項目を統計処理した結果が示され(5件法、マンホイットニーのU検定)、その理由についても述べています。
<6章>
まとめと今後の課題として、考察で説明しきれなかった部分を中心に今後の指針を示して、締めくくられています。

 実際に研究を進めていくに従って、やるべき課題は時期と進捗状況によって異なってきますが、大まかな指針としては以上で示したような研究の流れに沿って進めていきたいと考えています。ただ、ボトムアップ型に進めることだけが全てではないことも念頭に入れて、スタックしてしまった時は先生・先輩方との相談の結果も受け入れながら検討していきたいと考えています。

青木智寛

2013.11.14

【参考になった研究の方法論】質問紙法について

みなさまごきげんよう、修士2年の早川克美です。
11月も半ばとなり、なかなか追い詰められた心境の今日このごろです。苦笑。

私の研究は「ラーニングコモンズにおける大学生の学習実態についての探索的研究」というものです。リサーチクエスチョン(RQ)は「ラーニングコモンズでどのように学習が起こっているのか」。学習とは行動によって引き起こされる変化であるとして、大学生のラーニングコモンズ内での学習でどのような変化が得られたかを調査によってあきらかにすることを目的としています。大学生の学習成果とラーニングコモンズの関係について、大学生の主観的な自己報告から考察するために、調査方法は、質問紙法を用いることとしました。

今回のブログのテーマ【参考になった研究の方法論】質問紙をこの研究で初めて作成することになった私が参考にした書籍をご紹介します。
鎌原 雅彦著(1998)心理学マニュアル 質問紙法,北大路書房

この本は3部構成となっており、第1部では質問紙の作成と実施の方法や基礎知識の解説、第2部は具体的な課題を提示した実習、第3部では質問紙法の研究例が収められています。

RQ〜構成概念〜下位概念と、私は質問紙の骨格をつくるまで、非常に苦労しました。また、そこから質問項目を作成する段階になると、つい、余計な質問を入れてしまい、RQに立ち戻っては削除し、組み直す...という作業を繰り返す始末でした。
この本に書かれていた「初学者が考えるほど容易なものではない」状況を味わいながら、何とか完成させることができました。

これから質問紙調査に取り組む方には、そのスタートラインとして一読されることをおすすめします。

その他にも、小塩 真司著(2007) 質問紙調査の手順 (心理学基礎演習), ナカニシヤ出版
も参考にしました。

私はこれからデータと向き合い、RQを明らかにする段階へと向かいます。
勤務先の大学で教材開発を担当しており、教科書を一冊書き上げたところ、やっと修士研究に専念できるようになりました。山内先生、研究室のみなさんに支えられてここまで来られたことに感謝し、ご恩に報いるためにも誠実な論文を書きたいと決意を新たにしております。

急に冬が到来したかのような寒い日がつづきますが
みなさまにはくれぐれもご自愛くださいませ。

早川 克美

2013.11.06

【参考になった研究の方法論】表現の自覚性を獲得するために

こんにちは.M2の吉川遼です.
参考になった研究の方法論,第2回をお送りします.

研究の方法論,ということで今回は実験デザインで参考にさせていただいている論文である,
石黒千晶, 岡田猛 (2013) 初心者の写真創作における"表現の自覚性"獲得過程の検討:他者作品模倣による影響に着目して. 認知科学, 20(1), 90-111.
をご紹介させていただきます.

こちらは,芸術分野における創作初心者が,どのようにして表現の自覚性--内的イメージとその実現方法の一致を意図すること--を獲得していくのか,その過程に関する実証的な研究です.
具体的には,2名の写真創作初心者を創作のみを繰り返すケース(内省),創作と著名な写真家の撮影技法の模倣を繰り返すケース(内省+模倣)に分け,数ヶ月間の創作活動を通し,各人の表現内容や"表現の自覚性"獲得などにどう影響を及ぼすのかを追い,ケーススタディとしてその分析の結果をまとめています.

模倣行為が創造に及ぼす効果について今まで研究を重ねている東京大学大学院教育学研究科・情報学環の岡田猛先生や研究室の石橋健太郎さんらの論文にも掲載されていますが,この石黒さんの研究における実験デザインは

プレ(創作+インタビュー)

模倣①(写真家A鑑賞+模倣(3日間)+インタビュー)

ポスト①(創作(7日間)+インタビュー)

模倣②(写真家B鑑賞+模倣(3日間)+インタビュー)

ポスト②(創作(7日間)+インタビュー+比較)

模倣③(写真家C鑑賞+模倣(3日間)+インタビュー)

ポスト③(創作(7日間)+インタビュー)

のような形でケーススタディをおこなっています.
僕がこのデザインで優れていると思ったのは,ある単一の熟達者のみを模倣する(引っ張られる)ことのないよう,複数の熟達者を模倣させていること,またその模倣をさせるにあたり模倣期間と創作期間を十分に配置している点です.

この研究の結果から,内省+模倣ケースの参加者は,

1. 模倣対象から得た特徴を後の創作で利用していた
2. 模倣対象から見いだした特徴の中には参加者の創作に影響を及ぼすものと及ぼさないものや,影響が見られるのに時間がかかるものがあった

ことが示されました.

音楽表現において,熟達者の楽曲解釈や身体動作の模倣を学習支援に用いたいと考えている僕の研究にとって,この研究の実験デザインは非常に参考になっています.

また実験デザインのみならずその後の分析方法などについても非常に綿密に設計されており,1つ上の先輩である石黒さんが修士の2年間でこれほどの研究をされていた,ということに驚きを覚えつつも,かくありたいという刺激も受けます.

本来主体的能動的な楽曲の解釈・演奏表現が求められる音楽分野において,このように複数の熟達者の表現を取捨選択する行為は,ある種能動性の表れともいえると考えられます.

今後,研究を進めていく上ではこの石黒さんの研究も参考にさせていただきながらも,どうすれば複数の熟達者演奏の差異を視聴覚的に体感し,それを学習に活かすことができるコンテンツ・実験計画を立てていけるかを思案しつつ,広げた風呂敷をしっかりとまとめていきたいと思っています.

吉川遼

2013.10.19

【参考になった研究の方法論】SPSSを使用した統計分析

こんにちは!M2の梶浦美咲です。
もう10月も後半にさしかかり、修論が佳境に入ってきている今日この頃、私は開発したシステムの評価実験を丁度昨日行ったところです。

そしてブログの方は今週から新たなテーマ【参考になった研究の方法論】に切り替わります。
研究方法に関する書籍や、研究方法を参考にしている(したい)論文などをご紹介していきます♪

===

まず第1回目は研究方法に関する書籍ということで、IBM SPSS Statisticsを使った統計分析をする際に参考になりそうな本をご紹介しようと思います!

SPSSによるやさしい統計学」(岸学 2012年)です。

実験や調査をしてデータに関係性があるか、差があるかの統計分析をする際に役立つツールがSPSSです。
フリーソフトであるRでも統計分析は可能ですが、SPSSの方が直感的に分かりやすく慣れればとても使いやすいツールだと思います。
しかし慣れないとどのように操作したら良いのか、なかなか分かり辛いと思うのでこのような本を読みながら分析すると良いのではないでしょうか。
私も初めてSPSSに触ったとき、どのようにしたら良いのか分かりませんでした...(笑)

この「SPSSによるやさしい統計学」では多変量解析(共分散構造分析、因子分析、重回帰分析など)を除いた一通りの分析方法が紹介されています。
実際に架空のサンプルデータを使って、データの統計分析の手順である「尺度の確定」⇒「記述統計」⇒「変数の変換」⇒「推測統計」の流れに沿ってSPSSの操作が学べます。ところどころ実際のSPSSの操作画面が出てくるので分かりやすいです。
また、分析する上で出てきた統計学の用語についての解説も説明されているので統計学の勉強にもなります。
ちゃんと各用語を説明する数式まで紹介されています。

一応統計分析の手順を紹介しておきます。

①尺度の確定...各変数を名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比尺度に分類する。
②記述統計...データの様子をわかりやすく表現する。度数分布を描く、代表値(平均値、中央値など)を求める、散布度(標準偏差、四分位偏差など)を求めるなどの方法がある。
③変数の変換...必要に応じてデータを変換する。データをもとに対象者をグループ分けする、異なる平均値や標準偏差になっている得点同士を比較する、度数分布の中での位置をとらえやすくするなど。
④推測統計...「関係があるか」「差があるか」の分析をして、標本から母集団の様子を明らかにし、研究を通じて知りたかった仮説や目的に答える。

以上のような手順で分析をしていきます。

また、調査や実験に使用する質問紙を作成する際に考えるべき評定法の程度量表現用語の尺度(すごく、非常に、すこし、あまり、ぜんぜん等)が与える印象に関することも説明されています。個人的には大学生、中学生、小学生など被験者に応じて各用語が与える印象がどのように違うのか、ということまで説明されていて勉強になりましたし、質問紙を作成する際に役立つと思いました。

分析方法の章では、自分のデータに適合する分析方法の選び方もしっかり説明されています。
データ分析は基本的に「関係があるか」の分析と「差があるか」の分析に分類できます。

関係があるかの分析」は、対象者が2つ以上の変数で表される特性をどの程度持っているかを示す分析、
差があるかの分析」は、独立変数(要因)と従属変数があり、独立変数(要因)の値によって従属変数の値がどのように変動するかを示す分析

です。取得したデータの構造に応じて分析方法を選ぶ方法まで紹介されているため、とても役立ちそうです。

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その他、統計を基礎から学ぶのにおすすめなのが早稲田大学人間科学学術院・向後千春研究室が開発したWeb教材、
「ハンバーガー統計学( http://kogolab.chillout.jp/elearn/hamburger/ )」
「アイスクリーム統計学( http://kogolab.chillout.jp/elearn/icecream/index.html )」です。
ハンバーガーショップ、アイスクリーム屋さんにいる、という架空のストーリーに沿って統計学の学習が進んでいきます。
前者ではt検定、分散分析etc.、後者では回帰分析、因子分析etc.が面白く学べます。
書籍版もあるのですが、Excelを使用して学習が進んでいくので、こちらのWebバージョンが使いやすいかと思いました。

また、学部時代に初めて統計学を授業で学んだ際に使用していたのが「ゼロから学ぶ統計解析」(小寺平治 2002年)という本で、
こちらは数式を用いて統計学の専門用語が説明されていて、数式からしっかり統計学を学ぶ場合におすすめできます。
事例に基づいて各分析手法について説明がなされていたため分かりやすかったです。

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私は丁度昨日18日金曜日、開発した講義の聴き方支援システムの評価実験を行ったので、これから実験で得たデータを使って分析を行います。
私の実験は、他者の講義メモ書き込み状況を通知するシステムを使用した実験群・他者の講義メモ書き込み状況を通知しないシステムを使用した統制群の二群で行いました。一要因二水準の被験者間実験でした。
サンプルサイズが10:9でしたのでデータが正規分布に従った際に使用するパラメトリック検定(t検定)は使用せず、正規分布に従う必要のない、ノンパラメトリック検定(マン・ホイットニーのU検定)を使用して両群における有意差検定を行おうと考えています。
どんな結果が出るのかどきどきですが、しっかりデータと向き合いなんとか修論として成果を出したいと思っています!

梶浦美咲

2013.10.13

【突撃!博士課程座談会】池尻良平 伏木田稚子 安斎勇樹(後編)

こんにちは、D3の伏木田です。
秋が深まってきたと喜んでいたら、夏日に逆戻りの日々ですね。
前回より、安斎勇樹&伏木田稚子(博士課程3年)から「番外編」として、池尻良平さん(東京大学大学院 情報学環 特任助教)との座談会形式でお送りしていますが、今回はその後編になります。

山内研究室OBである池尻さんは「歴史を現代に応用する学習方法の開発」を博士研究テーマに掲げ、特任助教としてさまざまなプロジェクトに取り組みながら、現在博士論文を執筆中です。実は同世代(1985年生まれ)である3人で、大学院生活を振り返りながら研究についてあれこれと語らいました!


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‐やりたいことは朝のうちに

伏木田:助教として研究するのと、博士課程の院生として研究するのと、何か違いはありますか?

池尻:仕事のくる量が違うのは大きいですね。博士課程まではコントロールできていたんだけど、助教になるとガンガン仕事がくるようになったので、コントロールが難しくなってきまして。

安斎:突然くるってこと?

池尻:そう。今日のお昼は余裕があると思って大学に来ても、いっぱいメールがきたり、相談が入ったり、急な仕事が増えるから、確実にこの時間は研究する、っていう時間をつくっておかないといけないですね。仕事が終わった後、例えば夜9:00くらいにカフェに行って、さぁ研究やろうって思ってもしんどい。なので、より朝型になりました。

伏木田:朝は早いんですか?

池尻:早い。大体いつも6:00くらいには起きてます。一応、勤務時間が10:00だから、それまで博論書いたり、自分の研究に関係する本を読んだりとかをやっているけど、1日没頭するのはできなくなってね。博士課程のときに何をやっておけばいいか、っていうことにも関係するけど、Dの頃にがーっと先行研究のレビューをやっていたんですが、今あれを働きながらやるのはしんどいなって思います。

伏木田:すでにできてないです、わたし...。

安斎:同じく(苦笑)。

池尻:だから、海外論文100本レビューとかは、早くやっておいた方がいいよ。

伏木田:池尻さん、いつ頃やってました?

池尻:D2の冬とかじゃない?

安斎:終わっちゃったよ、もう...。

伏木田:時間が戻らない(笑)。


‐仕事と研究を安定して続けていく秘訣

伏木田:モチベーションを保つとか、精神的に安定した状態を保つとか、そういうところでは博士課程の頃も今も変わらないですか?

池尻:うん。僕ね、ストレスあんまり感じないタイプなんだけど、ストレスを感じることは感じます。で、実はうまいこと、ストレスをコントロールする方法があってですね...。

安斎:ほう。

池尻:これをやったら、助教時代もストレスを感じない。博士課程もそれをやっていたから、ストレスを感じなかったっていうのがあって、何かというとですね...。

伏木田:悪徳商法みたい(笑)。

安斎:聞きたい、聞きたい(笑)。

池尻:例えば、刺身7点盛りがあって、僕はホタテが食べたいとします。それで、ホタテを食べたら、僕のストレスはマイナス20%になるわけです。でも、もしアジを食べたら、ストレスがたまる。だから、いかにホタテを食べられる環境にするかが大事なんですよ。

安斎:なるほど。

池尻:例えば、いろんなタスクがあるときは、1ヶ月先のタスクまで全部整理しておいて、今日は本を読みたいなと思ったら本を読みます。今日は博論書きたいなと思ったら書く。淡々と仕事をしたいと思ったらそうする。そうすれば、ほとんどストレスがたまらないんですよ。むしろ、毎回好きなことをやっているから、自己効力感が上がりっぱなしになる。ちゃんと前からタスクを処理しておけば、本を読みたいときに読めるわけだから、ストレスはなくなるはずで、そういう生活をキープするようにしてます。

伏木田:安斎くん、異論は?

安斎:今回は異論ないよ。逆にすごいなって思って。また戦った方がよい?(笑)

伏木田:ふふふ。じゃあ、安斎くんは仕事ともろもろがかぶったときはどうしてるの?

安斎:それが出来ないのが今の悩みです。池尻先生、どうしたらいいですか?

池尻:それは、案件が多いっていうのと、納期が短すぎるんじゃない?

安斎:その通りです。仕事のキャパを、自分のモーターが回転できる最大値に設定しているのはよくないんだよなぁ。コイルは切れないけど、自分で回している感覚がなくなって、ゆとりがなくなる。

池尻:それはよくない、心がすたれていくよ。

安斎:たいていの仕事はおもしろそうだと思ってしまって、つい受けてしまう。

池尻:自分ができると思ってる80%くらいで止めても、100%になるから。7割くらいにしとかんと、自分の研究が枯れちゃうから。それは意識してます。

伏木田:「どや」って言ってる、顔が(笑)。

安斎:どや顔のコメントは基本カットしようか(笑)。で、伏木田さんは?今もピアノ、やってるんでしょ?

伏木田:それがちょっと、今はお休みモードです。でも、去年からヨガをはじめました。背中や肩がごりごりに凝っていて、そのせいで仕事がちゃんとできなくなるのはいやだなぁと思って。

池尻:そんなに凝ってるの?

安斎:肩は凝るでしょ。池尻さん、凝らないんですか?

池尻:凝らない。

安斎:仕事してないんじゃないですか?(笑)

※ ちゃんと仕事はしています。by池尻


‐研究日をつくる?つくらない?

伏木田:最近、自分がフルに使える時間が週に1日か2日になっちゃって、その状況が好きじゃないんです。今日はこれをやりたいなと思っても、やった方がいいこととやりたいことが一致しないので、むしろ、「やった方がいいことをやれば楽しい」って思えるように、気持ちの向け方を変えてみました。

池尻:あぁー。

伏木田: 1日にいくつものタスクを並行でやるのは嫌だから、はじめにやった方がいいことをざっと書き出して、この期間はAの仕事、次の期間はBの仕事というふうに、期間を分けてそれぞれの仕事に割り当ててます。だから、やりたいことが後になるんです。というよりは、仕事と研究が同じ濃度で入ってるんです、スケジュールの中に。

池尻:でもさ、研究日に研究したくないテンションってない?

伏木田:ないです。むしろ、何もしないんです、そういう日は。

池尻:研究日なのに?じゃあ、研究日はどうするの?

伏木田:研究日、ないですもん、わたし。だから、仕事、仕事、何もしない日、仕事、みたいにスケジュールを組んでいて、論文を書くって決めたら、その間に集中して書いて、というふうにしてます。

安斎:俺もそうだわ。

池尻:つくって、研究日!

安斎:D3の告白...「研究日がありません」(笑)

伏木田:例えば、インタビュー調査に行こうと決めたら、2ヶ月前くらいからその準備ができるように予定を組んでおいて、必要最低限の時間を確保しながら別の仕事を詰めるとか、休む日を決めておく。

池尻:それ、大丈夫?(笑) 35歳で新しい研究案、出る?

伏木田:だから、いろいろな研究案を広く持った人と一緒にやらせてほしいなと思っていて。

安斎:一貫はしてるな(笑)。

池尻:なるほどね。

伏木田:うまくいえないんですけど、仕事に向かうのと同じ意気込みで研究に入っていくんです、わたし。

池尻:ほんとう?俺、それは違うわ。

安斎:俺は違わないかも。To doに並列して仕事も研究も並ぶ。どっちも楽しいですけど。

池尻:まじか...。例えばさ、博論が終わって何も制約なかったら、新しい本を1冊書きたいなってある?

伏木田:博論は書きたいけど、本は特に...。今はわからないです。

安斎:僕は書きたいですよ。すぐ論文には出来ないけれど、いま仕事に忙殺されている中で、頭の中でもやもやと言語化できない違和感と仮説が少しずつ生まれてきている。それが博士研究の次の「種」になる気がしているので、それを言葉にする作業に時間を使いたいですね。

伏木田:わたし、修論の頃に戻りたいです。無理にマルチタスクでやらなくてよくて、修論だけやってた頃が、すごく幸せだった。マルチタスクはちょっと...。

池尻:世の中にシングルタスクはほとんどないよ。

安斎:修論のときは、僕ですら外部の仕事は全て断ってたもんね。


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‐自分にとってのいい研究とは

安斎:最後に、いい研究とは何かっていう話をしましょうか。

池尻:先にどうぞ。

伏木田:はい、わたしにとってのいい研究は、人の役に立つ研究、社会的還元性のある研究です。ひとりよがりじゃない研究...?(笑)

池尻:それ、俺のこと?(笑)

伏木田:いえいえ(笑)。ただ、誰かが役に立ててくれるような研究がしたいんです。

安斎:僕も基本的には現場の役に立ちたいと思っているけど、「すぐに役立つノウハウ」を提供したいわけでもないんです。研究者が実践者の思考を停止させてしまっては意味がない。新しい視点を提供しながらも、それまでの考えを揺さぶり、議論と試行錯誤を誘発するような「噛みごたえ」のある深みを持った研究がしたいですね。実践者同士、あるいは実践者と研究者のコミュニケーションメディアになる研究が、いい研究なのかもしれません。ただし、現世の人とね(笑)。

伏木田:誰かが自分の研究を深堀りできたらすごいなって思います。池尻さんは?

池尻さん:いい研究とは何かは、俺ねM1の頃に主張したんやけど、パラダイムシフトを起こす研究がいい研究だと思っているんです。

伏木田:・・・。

池尻:「パラダイム」を、「シフト」...。

安斎:それはわかりますって。伏木田さんはね、「...というと?」っていう顔をしたんですよ(笑)。

池尻:そっか(笑)。いや、俺はね、レイヴの『日常生活の認知』を読んだとき、みんながずっとこうだと考えていたことを批判して、きれいにガラッと変えているのに感動したんですよ。ブレイクダウンする考察でもなく、現世の横のつながりばかりを意識したY=0の研究でもなく、理論に向かって斜めに上がっていくような、喧嘩を売るような研究がいい研究だなと。だから、デューイやレイヴに喧嘩を売るような研究がいい研究だなと思ってて。

安斎・伏木田:・・・。

池尻:今、2人が半笑いと苦笑いをしてますけど...。でも、デューイやレイヴがやり残したこともあるはずだし、それを超えていきたいなっていうか、ライバル意識というか。

伏木田:わかった!池尻さん、すごいガッツありますよね。

池尻・安斎:ガッツ...(笑)。

池尻:その言葉聞いたんウルフルズ以来やわ(笑)。

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安斎:池尻さんは研究ポリシーみたいなものってありますか?

池尻:1つのテーマをずっと掘っていくことです。ふらふらしない。伏木田さんは?

伏木田:ていねいに研究しようと思ってて。しっかりした技法をもって、人と人がコミュニケーションをする場面を研究できるのであれば、それをていねいにやりたい。安斎くんは?

安斎:僕は池尻さんでいう「歴史」みたいに、特にコンテンツにはこだわりはないですね。比較的なんでも楽しめる。今は「ワークショップ」という方法を主軸にしているけれど、それもいずれ変わると思う。

池尻:そうなの?

安斎:最近気がついたのは、僕は「目からうろこが剥がれる瞬間」が好きなんだなと。うろこって、ある程度一つのことに深く打ち込まないと、形成されないじゃないですか。ある程度の深く掘り下げていったあとに、何らかの機会に揺さぶられて、それまでに気がつかなかった外側の世界が新たに拡張される瞬間が好き。いまワークショップという学習形態が好きな理由も同じです。そして、次はワークショップの外側に行きたい。

池尻:3人とも違うね。これから博論を書いてるとわかるかもしれないけど、掘ったと思った穴から領域がどんどん広がっていくんですよ。どろどろしたところを掘っていく快感はすごいよ。だから、これからもっと楽しくなっていくと思うよ。

‐お・ま・け

池尻:このインタビュー、半分くらい記事にしてほしくない...。

伏木田:なんでですか?

池尻:君らの質問がえぐ過ぎる。(※ここには載せられないような質問もされました...笑。by池尻)

安斎・伏木田:あはははは(笑)。


[伏木田 稚子]

2013.10.06

【突撃!博士課程座談会】池尻良平 伏木田稚子 安斎勇樹(前編)

こんにちは、D3の安斎です。これまで山内研究室のOB・OGの皆さんに対するインタビューシリーズをお届けしてきましたが、最後の2回は安斎勇樹&伏木田稚子(博士課程3年)から「番外編」として、池尻良平さん(東京大学大学院 情報学環 特任助教)との座談会形式でお送りします。

山内研究室OBである池尻さんは「歴史を現代に応用する学習方法の開発」を博士研究テーマに掲げ、特任助教としてさまざまなプロジェクトに取り組みながら、現在博士論文を執筆中です。実は同世代(1985年生まれ)である3人で、大学院生活を振り返りながら研究についてあれこれと語らいました!

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-博士課程に進学を決めた理由

安斎:そういえば、二人はそもそもなんで博士課程に進学したんですか?

池尻:僕はね、もともと小さい頃から「人類を良くしたい」と思ってたんですよ。

伏木田:...(笑)

安斎:伏木田さん、さっそく苦笑い。

池尻:でも、中学生くらいの時に「僕一人では人類は良くできない」と気がついて。だから自分が良い「教師」になって、人類を良くできる後進を育てようと思ったんです。修士課程に進学したのも、最初は自分が教師として使うための教材を開発するためだったんですよ。

安斎:自分もまだ先に進んでないのに、もう後進のことを考えてたんですか(笑)。

池尻:そう(笑)。それでずっと教師を目指してたんだけど、大学院で研究しているうちに、人のために頑張るというより、研究そのものが面白くなってきて。結局「教師になって後身に人類を良くしてもらうのを期待するか」あるいは「研究者になって自分で人類を良くするのか」を天秤にかけた結果、色んな手応えを感じて、後者を信じてみようと思ったんですよね。最初は、親から「まだ学生やるの?」って反対されましたよ。

安斎:周囲からは反対される場合が多いかもしれないですよね。伏木田さんは?

伏木田:私は、大学に入学したときから修士課程までは行くつもりでした。でも修士課程を卒業したら就職してみたいなとも思ってたんですよね。ちゃんとスーツ着て、丸の内で働きたくて(笑)。

池尻:イメージ全然違う(笑)

伏木田:でも、就職してもいつかは博士過程に進学したくなるだろうなとは思っていたんです。そこで親に相談したら、「あなたは就職したあとで受験する馬力はないから、いつか進学したいと思っているのならわたしたちが助けられるうちに早く行きなさい」と奨めてくれたので、甘えさせてもらいました。安斎くんは?

安斎:僕は、修士1年の夏くらいには進学を決めてたかな。大学生の頃から起業をしていたんだけど、その時に「お金を稼ぐこと」と「面白いことを探求すること」の両立がいかに難しいかということを実感したんです。特にまだ実力や専門性がないうちは、つい日銭を稼ぐことに絡めとられてしまう。山内先生や中原先生のような実践的な研究者像にも影響されたし、「面白いことを持続的に探求できる環境」として、博士課程や大学教員は良い選択肢ではないかと思って進学しました。専門性がないまま独立してしまっても、小さくまとまるだろうなと思ったんですよね。人それぞれ、進学の理由が違いますね。


-博士課程の過ごし方

伏木田:博士課程を振り返ってみて、やっててよかったことって何かありますか?

池尻:自己分析をきちんとして、自分が苦手なことにも積極的に取り組んだことは良かったです。山内研究室っていろんな人がいるじゃないですか。実践が得意な人もいれば、システム開発ができる人もいるし、統計に詳しい人もいる。その中で自分の強みは文献レビューを大量にして、自分の実証研究を理論レベルに上げていくところだと思っていて、修士課程の頃は自分の強みをとにかく活かして頑張っていました。けど、博士課程に上がってからは、自分が苦手なことも20%くらいは頑張ってみようと思って色々挑戦してみたんです。ワークショップもやってみたし、統計も勉強したし、ブログも書いてみたり、苦手な英語で国際会議で発表したり、企業の案件も受けたり、研究会の運営もしてみた。苦手なことを得意にするのは無理なんだけど、あえてそういうことにも少しずつ取り組むことで、人のつながりや研究の幅が拡がったと思いますね。

安斎:博士課程から、というのがポイントなのかもしれませんね。修士課程からあれこれ手を広げすぎると専門性が身につかないしね。ところで、池尻さんは博士課程の満足度に点数をつけるとしたら、何点くらい?

池尻:100点!

安斎:1000点満点ですか。

池尻:低すぎるやろ(笑)。100点満点で、うーん、やっぱり90点かな。-10点は、システム開発がやりたかったのに、プログラミングをちゃんと勉強できなかったこと。それは唯一の心残りです。総じて博士課程はすごく楽しく過ごせたし、やりたいことはほぼ全てやったと思います。

伏木田:へ~。私は50点くらいかも...。本当は、もっとゆっくりのんびりしたかった(笑)。もともとあれこれ詰め込んでやるのが得意じゃないのに、今は締め切りに追われてるから...。私は池尻さんの逆で、実践とかも非常勤以外ではしていないし、自分から何かに挑戦するというより、いただいた仕事をちゃんと受け止めて、取り組みたい。あと今不安なのは、これから一人でやっていけるかどうか。もうちょっと社会調査とか勉強しておけばよかったなーというのがあるので、50点です。安斎くんは何点?

安斎:...65点くらいかなぁ。いや、基本的にめちゃくちゃ楽しいですよ。書いた論文や書籍にも満足してるし、最近では企業からも多く仕事を頂けるようになって、やりがいもある。けど、なんだろう、やっぱり大変ですよね。博士2年くらいから仕事が増えすぎてしまって、だんだん論文をじっくり読んだり、集中して研究できる時間が少なくなってきていて、博士課程のうちからこれじゃダメだって思うよね。あと、海外にもちゃんと行きたいですね。


-なぜ大学教員になるのか

伏木田:あ、私もう一つ博士課程に進学した理由があった。一つのところで長く、じっくり、働きたくて。

池尻:僕は真逆だわ。研究者って深い研究アイデアが枯れたら終わりだなと思っているところがあって、できるだけ「研究者」でいたいけど、早ければ10年で終わりだと思っているから。

安斎:映画『風立ちぬ』的な研究者像ですね。もうあと残り5年くらいですね(笑)。

池尻:でも、自分の納得いく研究ができなくなったら、研究者じゃなくて、もともとやりたかった高校教師になるのも良いと思ってますよ。

安斎:そうなんだ!いまはなぜ大学教員として研究するんですか?

池尻:研究の時間を確保できるかどうかだと思う。今は研究に没頭したいから。教師をやりながらはさすがに時間的に難しいし、独立してフリーの研究者になるには生計が成り立たない。バランスを考えたら、大学教員が一番良いんじゃないかな。

安斎:それは僕も思います。僕らは大学教員の仕事である「教育」もフィールドにできるから、生計を立てながら研究がしやすい領域ですよね。

伏木田:私がいいなと思ってるのは、なんか「学者」って響きが好きで。

安斎:え、響き?(笑)

池尻:それ、わかるわ。わかる。わかる。

安斎:めっちゃ共感してる...。

伏木田:それに、ちゃんと頑張って博士研究をして、助教としても研究を続けて、もしいつか大学の教員になれたら、何かテーマを持ってる方々と一緒に新しい研究がやり続けられるかなって。それまでにちゃんと技術を磨いておけばね。

池尻:自分のテーマじゃなくていいの?

伏木田:たぶん私はゼロからアイデアを出すのはあんまり得意じゃないから、そういうことが出来る人と一緒に組んで研究している方が、多分楽しく、気持ちよくできるかなって。

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-面白いアイデアを見つけ、その面白さを伝える工夫をする

池尻:研究者は、本当に自分が好きなことが出来るから良いよね。会社だったら自分のやりたいことを社内で説得できなかったらやれないじゃないですか。研究者は自分の才能一本で勝負が出来るところが、面白い。

安斎:それについては異論がありますね。

伏木田:ふふ(笑)。

安斎:修士研究までは確かに好き勝手に出来るかもしれないけど、大学教員としてやっていくとしたら、大学に就職しなきゃいけないですよね。大学の研究費は年々減らされてるわけですから、資金調達のことも考えれば、それなりに社会に価値を感じてもらえる研究をしていかないといけないじゃないですか。

池尻:え~。いやいやいや、社会って誰?それは現代を生きている人のことでしょ?

安斎:そうですよ。もちろん現場のニーズに迎合する必要はないんだけど、自分の好きなことをやりながらも、現場の人に対してもその面白さをちゃんと伝えられて、資金を調達できるスキルがあったほうが、好きなことが出来るじゃないですか。

池尻:いや、違うね。

伏木田:...ねえ、いっつもお酒飲みながらこんな話してるの?(笑)

安斎:そうだよ、毎回(笑)。

池尻:お酒飲んだらもっとひどいで(笑)。

伏木田:すごーい!(笑)

池尻:...話を戻すけど、そういうアピールをやらなきゃいけないのは、本質的にそもそも選んでる研究テーマがみんなの心に響いてないんですよ。みんなが直観的に「これはすごい」と思える、深くて意味のある研究テーマが設定できていれば、お金はあとからついてくると思う。例えばカントは、本質的にみんなが興味を持つテーマを設定していたから、何百年も参照され続けてますよね。そのくらいを目指して研究テーマを作れば、お金や人はついてくるんじゃないかな。本質的に面白い研究だったら、「営業」にはそんなに力を入れなくても良いと思う。

安斎:それはわかりますよ。僕も周囲の人を惹きつける研究テーマは必要だと思う。つまらない研究をテクニックで演出したって意味がないですよね。けど、池尻さんは今から300年後とかを見据えてるじゃないですか。確かに自分の研究で300年後に価値が残せたら良いなとはもちろん思うけど、僕らはそもそも応用領域の研究者で、現場に関連する研究を求められていますよね。現実的には、現場のステークホルダーを巻き込みながら、実践のリアリティを積極的に理解して、自分の研究の価値をアピールしながら研究テーマを育てていかないと、短・中期的には良い研究ができないんじゃないですか。

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池尻:いや、それはさぁ、ステークホルダーって言い方は非常に現世的な考え方で...。

安斎:「現世」って(笑)。

伏木田:おもしろい、このやり取り(笑)。

池尻:僕は現世のステークホルダーよりも、研究者コミュニティとして、100年前の研究者たちから、100年後の研究者たちにつないでいく研究がしたいんですよ。先人を超えて、次世代に手を伸ばしたいんですよ。

安斎:確かに、そういうカードゲームを作ってましたもんね。僕は、現世の人たちと創発的コラボレーションがしたいのかもしれない(笑)。

伏木田:でも、私は学振に落ちたときに、2つとも大事だと思いましたよ。本質的に面白い研究をしていることと、それがきちんと届く書き方のコツを知っていること。論文を書くときも、科研費をとるときも、常にその2つは走り続けていくことだと思います。池尻さんだって、なんだかんだそういうテクニックも使ってますよね??

池尻:...使ってるね(笑)。でもね、やっぱり、今の自分の研究テーマが実現したら、子どものころに思い描いた「人類を良くする」ことにつながると本気で思ってるんです。たとえ現時点でそれが評価されなくたって、今は気にしない。それで悩んでいても人類は良くならないし、お金が無くたって研究すればいいんだから。もしやっていくうちにみんなに認められて、お金がついてきたらそれはそれで良いんじゃない、っていうくらいの気持ちで研究していますね。

(後編に続く)


[安斎 勇樹]

2013.09.27

【突撃OB・OGインタビュー】 柴田アドリアーナさん

みなさま、こんにちは。
M1の中村絵里です。

先週末の連休は、山内研の現役ほぼフルメンバーとOB・OGの諸先輩方が一堂に会する年に一度のビッグイベントがありました。日本教育工学会(JSET)の全国大会です。第29回目の今年は、秋田で開催されました。
秋田の会場では、これまでお名前を伺うだけだった山内研のOB・OGの方々や、本インタビューシリーズで登場した先輩方にもお会いすることができ、まるで、物語の登場人物に現実世界でも出会えたような感動を覚えました。
JSET全国大会では、他大学の著名な先生方の発表を間近で聞くことができたり、また、他大学の研究領域の近い先生および院生と知り合える機会があったりと、大変刺激的で、充実した3日間でした。

さて、今回インタビューさせて頂いた山内研のOGをご紹介します。

柴田アドリアーナさん(2012年3月修士課程修了)です。
柴田さんは、日系ブラジル人(御祖父が日本人)で、2009年~2012年までの約3年間日本に留学され、「在日ブラジル人児童を対象としたデジタル日本語教材の開発」について、研究なさいました。
柴田さんは、昨年ブラジルに帰国されましたので、実際のインタビューではSkypeTMのビデオ通話を利用してお話を伺いました。日本は夜、ブラジルは朝、半日の時差を超え、地球の裏側との会話を楽しみました!

*********

Q1:まず、日本に留学しようと思った理由を教えてください。

日本には、留学前にも訪れたことがありました。
初めて日本に行ったのは、1999年。ブラジル現地の日本語学校に在籍する生徒を対象としたJICAの研修で、1ヵ月間横浜に滞在し、日本の中学校に体験入学しました。
2度目の訪日は、2008年。日本の外務省による招へいプログラム「21世紀日伯指導者交流計画」Invitation Program for young leaders between Japan-Brazil - Pop Culture (1)に参加しました。2008年は、「日本人ブラジル移住100周年」で、当時グラフィックデザイナーの仕事をしていた私は、100周年の記念切手のデザインをしました。このときの記念切手のデザインの仕事がきっかけとなり、日本語学校の先生からこのプログラムの紹介を受け、参加することになりました。

日本滞在中、日本の音楽、アニメ、料理などのPOPカルチャーを体験しました。また、プログラムの一環で、在日ブラジル人の住人が多い群馬県大泉町を視察し、日本の公立中学校とブラジル人学校の生徒と交流しました。その時、日本に住んでいるブラジル人の子ども達向けの教材に興味を持ちました。当時、グラフィックデザインの仕事に加えて、ブラジル現地の日本語学校で初級日本語を教えていたこともあり、日本語および日本語の指導教材には関心があり、「もっと楽しく、効果的に日本語を教えることができないか」と考え始めました。

ブラジルに戻ってから、日本語学校の先生に相談をしたところ、それなら、日本の大学院に留学して、在日ブラジル人のための日本語教材を開発する研究をしてみたらどうかと勧められました。幸い、二つの大学院に合格内定。一つは九州にある大学院で、主にデザインを学ぶコースでした。もう一方が、東京大学大学院学際情報学府でした。山内研究室では、教育や学習環境について多面的に学べるとわかり、東京大学大学院に進学することを決めました。


Q2:留学中、苦労したことはありますか。

履修した授業は、ほとんどが日本語による講義でした。日常生活の日本語には苦労しませんでしたが、日本語で授業を受けるのはやはり難しかったですね。特に専門用語や学術用語には、初めのころは随分戸惑いました。山内研のゼミでは、教育用語や心理学の用語なども出てきますし。日本語に不安があったので、レポートなどでは山内研の先輩や同期に、日本語の誤りを直して頂き、たくさん助けてもらいました。山内先生をはじめ、ファシリテーター、研究室のメンバーにはいつも懇切丁寧にサポートして頂き本当に感謝しています。
I really appreciate the support I received from professor Yamauchi, my colleagues and Facilitators during all the process. They were all very kind and patient!


Q3:現在の仕事について教えてください。

帰国後の初めの1年は、逆カルチャーショックを受けてしまい、混乱しました。ブラジルに帰国したのが正しい選択だったのかと何度も自問しました。

今は、主に二つのことに取り組んでいます。
一つは、留学前と同じグラフィックデザインの仕事です。在ブラジル日本大使館・領事館やJICAからデザインの仕事を受けたりしています。昨年の6月にリオ・デジャネイロで「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」が開催された時には、JICAブースのポスターを制作しました。郵便局の仕事も受けています。2008年の日本人ブラジル移住100周年に加えて、2012年には、華人ブラジル移住200周年の記念切手、Rio+20の時には「風力発電」をテーマにした記念切手もデザインしました。

もう一つは、公務員試験を受けるための勉強です。ブラジルの中央銀行が運営する組織で、遠隔教育プロジェクトを導入した大学も設置されています。私は、Management and Procedural Analysisの分野を受験しますが、試験科目の中には、一般科目に加えて専門科目があり、組織学習(Organizational Learning and Education)、コミュニケーション理論、ビジネスマネジメント、行政法、民法などが含まれます。実はこの公務員試験に「組織学習」の科目が導入されたのは初めてのことで、その科目に関心が高かったので受験することにしました。組織学習には、教育理論、指導デザイン、知識マネジメントのテーマがあります。今は、山内研の合宿で学んださまざまな理論の復習をしています。ピアジェ、デューイ、ヴィゴツキーなど、、、合宿が懐かしいです。

今後ブラジルでは、遠隔教育に人材が必要になってくるので、人の学び、組織の学びについてさらに知識を深め、この分野で仕事をしていきたいと願っています。合格したら、こちらの企業内大学(Corporate University)で働きたいです。教育分野で仕事ができますし、おそらくデジタル教材関連の仕事にも携われるからです。山内研で学んだことと関連の深い分野ですので、留学時代の学びが今につながっていると感じます。


Q4:日本での留学生活をふりかえって、印象に残っていることは何ですか。

山内研の毎週のゼミと研究室における学習環境です。山内先生のご指導のもと、専門性を持った助教、先輩方と一緒にゼミで討議できたこと、山内先生が創り上げるゼミと研究室の組織構造、それらは特に印象に残っています。

そして、日本の社会構造。留学中の2011年3月に東日本大震災が起こりました。あれほどの大災害があったときでも、落ち着いていられました。シェアドハウスの友人と一緒にいて、励まし合えたからという理由もあったとは思いますが、それ以上に日本の社会が安定していることが心の平穏を保つことができた要因でした。もしブラジルで同じように大きな地震などがあったら、きっと不安が大きかっただろうと思います。自分自身も、そしてブラジル社会全体も。


Q5:最後に、山内研究室の後輩に向けて一言メッセージをお願いします。

豊かな情報があり、助けてくれる人がたくさんいる。研究をするのには素晴らしい環境だと思います。たくさんのアドバイスが先輩や同期からもらえるので、それらを大切にしてください。
Focus! You are surrounded by tons of information and people who are extremely capable to guide you through the process. So, take your time to absorb this information and reflect upon your project.


*********
柴田さん、この度は、突然のインタビューご依頼にも関わらず、快くお引き受けくださりありがとうございました。
昨年6月に、リオ・デジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」の際は、私は仕事として日本の外務省の展示ブースの企画・制作に携わっていたのですが、Rio+20と関わる仕事を柴田さんもされていたとわかり不思議なご縁を感じました。
また、柴田さんが山内研における学びを活かして、今も関心分野を深めるべく次のステージに向けて努力しておられると伺い、人間の学びは、生涯続いていくものだと改めて感じました。柴田さんからアドバイス頂いたとおり、山内研の豊かな学習環境に感謝しながら、一つ一つのゼミや先輩・同期の仲間との関係を大切にして、これからも研究に邁進したいと思います。

※インタビューは日本語で行いましたが、部分的に英語で補足して頂いたところは、そのまま柴田さんの英語を入れています。

【中村絵里】
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(1) 外務省 平成19年度招へいプログラム「21世紀日伯指導者交流計画」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/latinamerica/kouryu/seinen/brazil07_gh.html

2013.09.24

【突撃OB・OGインタビュー】荒木淳子さん

皆様こんにちは、修士1年の池田めぐみです。
朝晩は肌寒く、もうすっかり秋らしくなってきましたね。

インタビュー第6回目となる今日は、産業能率大学、情報マネジメント学部で准教授をなさっている荒木淳子さんにお話を伺わせていただきました。


在学時は「企業で働く個人のキャリア発達を促す学習環境に関する研究ー職場、実践共同体、越境ー」 というテーマで研究をなさっていた荒木さん。


企業と高校で舞台は違えど、自分と同じ"キャリア"というものに興味をもっていらっしゃる荒木さんに是非ともお話を聞かせて頂き、たくさんのことを学ばせて頂きたいと思い、今回は荒木さんにインタビューさせて頂きました。

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○現在のお仕事内容について教えて下さい。

産業能率大学、情報マネジメント学部で准教授をしています。授業は、1、2年生が中心で、1年生の基礎ゼミ(レポートや読み書き中心の授業)、2年生のキャリアの授業をもっています。2、3、4年生対象のゼミも持っており、2〜3年生には、自分が関心のある職業の人にインタビューし発表してもらっています。3年次では2年次よりも視野を広く持ち、「働く」ことについて考えられるよう、調査を自分達で設計し実施してもらっています。保育士の早期離職はなぜおきるかの調査などが行われていました。

○現在の研究活動について教えて下さい。
主に2つ行っています。1つめは、社会人の組織や仕事に関わらない学びについての研究です。博士論文では、社外での学びや職場での学びがその人の仕事にどう関わるかについて調査していましたが、最近では仕事に関わらなくても、社外に出たい、学びたいという人(例えばsoclaのような活動)が増えています。なので、そういった人たちがなぜ熱心にそのような活動に関わっているのか、社会人の学習はこれまで仕事やキャリアとの関わりで分析されてきましたが、生涯や人生の中で見たときの学ぶ余地について見ていきたいと思っています。
もう1つは、大学生と社会人の交流実践の研究を行っています。社会人と大学生が自分の仕事や、将来やりたいことについて語り合うワークショップ型の実践です。大学生のみでなく、参加した社会人にとっても学びになるものにするにはどうすべきかを考えています。

○なぜ、研究者という道を選んだのですか?
大学卒業後、一度院に行き、その後、シンクタンクに進みました。研究者になろうと思っていたわけではなく、会社で役立つようなことを勉強したいと思い山内研に入り研究していた所、面白さがましていき、博士課程に進みました。そうしたら、東京大学での助教の話もあったので「やってみよう」と思いこの道に至りました。

○研究者というキャリアの中で難しいと感じることはどんなことですか?
エンジンがまわらないときに、どうやってやり続けるかというのが難しいところだと思います。佐藤さんのインタビューも拝見したんですが、研究者は好きなことがあると自然にエンジンがまわる。でも、その一方で、自分から動かなければはじまらない仕事であり、エンジンがまわらない時が大変だと思うんです。大学に就職すると、授業がありお給料がもらえる。だから贅沢な悩みだとも思うんですが、とくに追い込まれることがない中で、ペースを保ち研究して
いくのは大変だなと思います。


○ペースを保つ為に工夫されていることはなんですか?
あまり保てているかわからないんですが‥山内先生に言われたのは「周りとの関わり。ソーシャルネットワークを作りなさい」ということです。人から誘って頂いたり、人に動かしてもらうこともあり、そういうのが本当に有り難いなと思っています。視野を広くもって、そういった関わりを大切にしていきたいです。



○そういった関わりはどうやってできていくものなのですか?
それがよくわからなくって‥(笑)論文を読んで連絡を下さったりだとか‥さっきと矛盾するようですが、自分もやり続けていくことだと思います。自分もやり続けるためには、人との関わりが大事なんですけど、人と関わる為には自分もやりつづけることが大事というか‥そういう感じがします。

○山内研で学んだことで、現在のお仕事や研究に活きているな思うことはありますか?
手を動かして、自分も社会とかかわっていこうという姿勢だと思います。以前は物事を批判的に見るというか、自分が傍観者してある対象を見るといった感じが強かったのですが、山内研は自分で何かを作っていこうというのが強くって。最初はそれにとまどったのですが、最近では特に、この姿勢が素敵だなと思うようになりました。

○研究する上でのアドバイスをお願いします。
よく山内先生が「自分の好きなことをやりなさい」とおっしゃっていて、それが本当に1番大事だなと自分でも思っています。ぶれないというか!
それと自分の好きなものを突き詰めていくべきなんですけど、それを色んな研究者や色んなものとの関わりの中でつくっていく作業がすごく大事だと思っています。最初にすごくやりたいことがぽつんとあったとしても、それがそのまま研究になるわけじゃない。ぽつんとあった大切なものを大事にしながら色んな文献にあたったり、色んな人と話をしてそれをぶつけて鍛えていくっていうんですか、繋げていくていうのかな‥そうやっていくのが大事だなって思います。

○研究者に向いてる素質や要素は何だと思いますか?
頭の善し悪しとかではなく、"鈍いこと"だと思います。
研究において、続けていくことががとても大事だと思っていて、続けていく為に必要なことが、山内先生ならば「自分のこだわりを形にできる力」藤本さんならば「普通の人がやめるタイミングでやめずに地道に続けられること」(※1)のように表現されているのだと思います。
私の場合は、自分に正直に、鈍くなることが大切だと思います。社会にはこれをしなくては就職できないなどのような制約が意外に多い。でも研究は自分からかかわり発信していくもの。なので、時には雑音になるその制約を無視し、やり続けられる"鈍さ"が大切だと思います。


(※1:Ylab blog 【山内研夏合宿密着レポート】参照)

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インタビューをさせて頂いて、色々な研究者や色々なものとの関わりの中で自分の好きなものを突き詰めていくというお話がとても印象に残りました。

自分の好きなことをやることが大切ですが、自分ひとりでは、考え方が狭くなってしまったり、息詰ってしまうことも多々あります。

周りの皆様との関わりあいや、幅広く文献にあたっていくことを大切にし、自分の中にあるやりたいことを、ぶつけて鍛えて繋げていかねば。

インタビューに協力して下さった荒木さん、本当にありがとうございました!!


池田めぐみ

2013.09.13

【突撃OB・OGインタビュー】椎木 衛さん(株式会社ベネッセホールディングス)

皆さまこんにちは、山内研M1の青木智寛です。
残暑が厳しいものの、夕方になるとだんだんと涼しくなり、秋の訪れを感じる最近ですね。
読書の秋・スポーツの秋・食欲の秋...だけでなく研究の秋にもしていきたいと思っている今日このごろです。

さて、今回、山内研ブログ特別企画【突撃OB・OGインタビュー】ということで、第5回目の記事は、
株式会社ベネッセホールディングスの 椎木衛 さんのインタビューの模様をお伝えしたいと思います。

椎木さんが勤めていらっしゃるベネッセでは、僕がこれから研究のテーマにしていきたいと思っている、ICTを利用した学びに関連する事業もされているということで、今回突撃インタビューをさせていただきました。

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◯現在のご所属と、お仕事の内容について聞かせて下さい。

現在、株式会社ベネッセホールディングスのグローバルソーシャルイノベーション部に所属しており、新規事業の開発をしています。

ベネッセというと、昔から進研ゼミや進研模試といった事業で有名ですが、ベルリッツ(※1)やベネッセスタイルケア(※2)などの、通信教育や模試以外の事業も進められており、このような、5年後、10年後にベネッセを支えるような新規事業の開発をすることに従事しています。
今やっていることは、具体的に大きく分けて2つあります。
1つ目は電気自動車の研究開発と普及活動です(※3)。ベネッセが電気自動車?と思われる方も多いと思いますが、子どもたちの未来の地球環境、生活環境を総合的に捉えたときの、学習環境にとどまらない未来の子どもたちの生活に必要なものとしての電気自動車の普及を考えています。
2つ目は新興国におけるソーシャルメディアの活用についての研究開発と普及活動です。こちらも教育に限らず、人々の生活全体としてのソーシャルメディアの可能性について活動に取り組んでいます。


◯山内研に所属するに至った経緯を聞かせていただけますか?

山内研に所属していたのは2003年から2005年の修士の2年間なのですが、その当時はマーケティング部に所属していました。
ちょうどその頃は、インターネットをビジネスに応用させるということが盛んになっていました。ベネッセでも、通信教育の形態が紙媒体中心から、ネットワークやマルチメディア教材とMIXしたものに変化していたところです。そこで、自分もそのような状況での教育のあり方について学ばなければ、と思いながらも、会社内や書籍だけで学ぶことになんとなく限界を感じていました。もっと体系的に知識を吸収し、同じ領域を学ぶ仲間と切磋琢磨することで知識を深めたいと思っていたところ、情報学環の山内研に出会いました。自分は社会人であるということもあり、山内研で学ぶことができるかどうか非常に不安でしたが、山内先生とご相談させていただいたことも励みになって、入試にも合格し、山内研での2年間を過ごすことになりました。


◯社会人をされながら修士生として学生生活を送られたということですが、苦労したことはありましたか?

学校まで移動して授業を受けなければならないことが、物理的、時間的につらかったですね。特に当時は多摩センターで働いていたこともあり、木曜日のゼミ(※4)のために1時間以上かけて東大の本郷まで移動することが大変でした。他の授業も同様に、移動して受けなければならなかったのですが、そんな状況を救ってくれたのがiii-online(※5)でした。当時、場所を選ばず、いつでもどこでも大学の授業を受けられ、単位認定されるというシステムは画期的で非常に救われたのですが、実際にそのような新しい学びを体験したことが、その後のベネッセでの自分の仕事で生かされたことも大きな収穫でした。

また、つらい時期という意味では、修士2年の冬が一番つらかったですね。私の業界の特性上、11月から1月にかけてはかなり忙しい時期なのですが、ちょうどその時期は修士論文を書いて提出しなければならない時期でした。当時の社会人として同期だった八重樫さん(※6)とともに休日や年末年始に一日中学校にこもって進捗を図る、バーチャル合宿を開催するなどして、なんとか修士論文を書き上げました。研究室では今まで提出に間に合わなかった論文はないという「伝説」を聞いていたので、自分が不名誉第1号にならないように必死で書き上げました(笑)


◯山内研や学府の学生にアドバイスやメッセージがあればお願いします。

学環・学府は一つの学問を究めるだけでなく、例えば教育と工学といったような複数の領域の学問を究めたい人にとって、非常に適した学びの場になることは間違いないと思います。
是非、そのような環境で、自分にとって良いと思える研究・研究者に出会ってもらえたらと思います。
私は特に、水越敏行先生の「発見学習の研究」に出会えたことが印象に残っています。当時の自分の教育観に刺激を与えたと言う点で、水越先生の研究は非常に印象に残っていて、今の自分の活動やビジネスにも生かされています。
例えば、先日立命館大学にて集中講義の講師をさせていただきましたが、そこでのカリキュラムや授業内容を設計する際、今では当たり前になってきていますが、一方的に話すのではなく、学生たち自身に問題を発見させて解決策を考えていくといった、学びがどんどん広がっていくような授業になるように心がけました。

また、山内研を通じて山内研に関わる様々な方々と出会って刺激を受けてもらえたらと思います。
私自身、学府で出会った仲間や、お世話になった先生方と過ごした濃密な2年間が、非常に良い経験となって今の自分に生かされています。今振り返っても、自分が選んだ道は正解だったなと思えるので、是非そのような学生生活を送って下さい。


(※1:ベルリッツ・ジャパン株式会社 http://www.berlitz.co.jp/)
(※2:株式会社ベネッセスタイルケア http://www.benesse-style-care.co.jp/)
(※3:電気自動車普及協議会 APEV https://www.apev.jp/)
(※4:山内研で毎週木曜日15:00~18:00に行われる研究進捗発表のためのゼミ)
(※5:2002年4月に開始された学際情報学府の授業をインターネット上で受講できるeラーニングサイト
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/course.php?id=41)
(※6:第4回インタビューにもご登場いただいた、立命館大学准教授の八重樫文先生)

_______________________

今回、インタビューをさせていただいて、椎木さんの社会人としての修士生活がどれだけ充実していたか、また、それがその後の椎木さんご自身の人生に生きているかが非常に伝わってきました。
僕自身も、まだまだ修士としての学生生活が続きますが、「時間」と「出会い」を大切にして、自分の興味に対して感受性を高めながら過ごして行きたいと思いました。

椎木さん、お忙しい中インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。

青木 智寛

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