2013.11.06

【参考になった研究の方法論】表現の自覚性を獲得するために

こんにちは.M2の吉川遼です.
参考になった研究の方法論,第2回をお送りします.

研究の方法論,ということで今回は実験デザインで参考にさせていただいている論文である,
石黒千晶, 岡田猛 (2013) 初心者の写真創作における"表現の自覚性"獲得過程の検討:他者作品模倣による影響に着目して. 認知科学, 20(1), 90-111.
をご紹介させていただきます.

こちらは,芸術分野における創作初心者が,どのようにして表現の自覚性--内的イメージとその実現方法の一致を意図すること--を獲得していくのか,その過程に関する実証的な研究です.
具体的には,2名の写真創作初心者を創作のみを繰り返すケース(内省),創作と著名な写真家の撮影技法の模倣を繰り返すケース(内省+模倣)に分け,数ヶ月間の創作活動を通し,各人の表現内容や"表現の自覚性"獲得などにどう影響を及ぼすのかを追い,ケーススタディとしてその分析の結果をまとめています.

模倣行為が創造に及ぼす効果について今まで研究を重ねている東京大学大学院教育学研究科・情報学環の岡田猛先生や研究室の石橋健太郎さんらの論文にも掲載されていますが,この石黒さんの研究における実験デザインは

プレ(創作+インタビュー)

模倣①(写真家A鑑賞+模倣(3日間)+インタビュー)

ポスト①(創作(7日間)+インタビュー)

模倣②(写真家B鑑賞+模倣(3日間)+インタビュー)

ポスト②(創作(7日間)+インタビュー+比較)

模倣③(写真家C鑑賞+模倣(3日間)+インタビュー)

ポスト③(創作(7日間)+インタビュー)

のような形でケーススタディをおこなっています.
僕がこのデザインで優れていると思ったのは,ある単一の熟達者のみを模倣する(引っ張られる)ことのないよう,複数の熟達者を模倣させていること,またその模倣をさせるにあたり模倣期間と創作期間を十分に配置している点です.

この研究の結果から,内省+模倣ケースの参加者は,

1. 模倣対象から得た特徴を後の創作で利用していた
2. 模倣対象から見いだした特徴の中には参加者の創作に影響を及ぼすものと及ぼさないものや,影響が見られるのに時間がかかるものがあった

ことが示されました.

音楽表現において,熟達者の楽曲解釈や身体動作の模倣を学習支援に用いたいと考えている僕の研究にとって,この研究の実験デザインは非常に参考になっています.

また実験デザインのみならずその後の分析方法などについても非常に綿密に設計されており,1つ上の先輩である石黒さんが修士の2年間でこれほどの研究をされていた,ということに驚きを覚えつつも,かくありたいという刺激も受けます.

本来主体的能動的な楽曲の解釈・演奏表現が求められる音楽分野において,このように複数の熟達者の表現を取捨選択する行為は,ある種能動性の表れともいえると考えられます.

今後,研究を進めていく上ではこの石黒さんの研究も参考にさせていただきながらも,どうすれば複数の熟達者演奏の差異を視聴覚的に体感し,それを学習に活かすことができるコンテンツ・実験計画を立てていけるかを思案しつつ,広げた風呂敷をしっかりとまとめていきたいと思っています.

吉川遼

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