2013.10.13

【突撃!博士課程座談会】池尻良平 伏木田稚子 安斎勇樹(後編)

こんにちは、D3の伏木田です。
秋が深まってきたと喜んでいたら、夏日に逆戻りの日々ですね。
前回より、安斎勇樹&伏木田稚子(博士課程3年)から「番外編」として、池尻良平さん(東京大学大学院 情報学環 特任助教)との座談会形式でお送りしていますが、今回はその後編になります。

山内研究室OBである池尻さんは「歴史を現代に応用する学習方法の開発」を博士研究テーマに掲げ、特任助教としてさまざまなプロジェクトに取り組みながら、現在博士論文を執筆中です。実は同世代(1985年生まれ)である3人で、大学院生活を振り返りながら研究についてあれこれと語らいました!


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‐やりたいことは朝のうちに

伏木田:助教として研究するのと、博士課程の院生として研究するのと、何か違いはありますか?

池尻:仕事のくる量が違うのは大きいですね。博士課程まではコントロールできていたんだけど、助教になるとガンガン仕事がくるようになったので、コントロールが難しくなってきまして。

安斎:突然くるってこと?

池尻:そう。今日のお昼は余裕があると思って大学に来ても、いっぱいメールがきたり、相談が入ったり、急な仕事が増えるから、確実にこの時間は研究する、っていう時間をつくっておかないといけないですね。仕事が終わった後、例えば夜9:00くらいにカフェに行って、さぁ研究やろうって思ってもしんどい。なので、より朝型になりました。

伏木田:朝は早いんですか?

池尻:早い。大体いつも6:00くらいには起きてます。一応、勤務時間が10:00だから、それまで博論書いたり、自分の研究に関係する本を読んだりとかをやっているけど、1日没頭するのはできなくなってね。博士課程のときに何をやっておけばいいか、っていうことにも関係するけど、Dの頃にがーっと先行研究のレビューをやっていたんですが、今あれを働きながらやるのはしんどいなって思います。

伏木田:すでにできてないです、わたし...。

安斎:同じく(苦笑)。

池尻:だから、海外論文100本レビューとかは、早くやっておいた方がいいよ。

伏木田:池尻さん、いつ頃やってました?

池尻:D2の冬とかじゃない?

安斎:終わっちゃったよ、もう...。

伏木田:時間が戻らない(笑)。


‐仕事と研究を安定して続けていく秘訣

伏木田:モチベーションを保つとか、精神的に安定した状態を保つとか、そういうところでは博士課程の頃も今も変わらないですか?

池尻:うん。僕ね、ストレスあんまり感じないタイプなんだけど、ストレスを感じることは感じます。で、実はうまいこと、ストレスをコントロールする方法があってですね...。

安斎:ほう。

池尻:これをやったら、助教時代もストレスを感じない。博士課程もそれをやっていたから、ストレスを感じなかったっていうのがあって、何かというとですね...。

伏木田:悪徳商法みたい(笑)。

安斎:聞きたい、聞きたい(笑)。

池尻:例えば、刺身7点盛りがあって、僕はホタテが食べたいとします。それで、ホタテを食べたら、僕のストレスはマイナス20%になるわけです。でも、もしアジを食べたら、ストレスがたまる。だから、いかにホタテを食べられる環境にするかが大事なんですよ。

安斎:なるほど。

池尻:例えば、いろんなタスクがあるときは、1ヶ月先のタスクまで全部整理しておいて、今日は本を読みたいなと思ったら本を読みます。今日は博論書きたいなと思ったら書く。淡々と仕事をしたいと思ったらそうする。そうすれば、ほとんどストレスがたまらないんですよ。むしろ、毎回好きなことをやっているから、自己効力感が上がりっぱなしになる。ちゃんと前からタスクを処理しておけば、本を読みたいときに読めるわけだから、ストレスはなくなるはずで、そういう生活をキープするようにしてます。

伏木田:安斎くん、異論は?

安斎:今回は異論ないよ。逆にすごいなって思って。また戦った方がよい?(笑)

伏木田:ふふふ。じゃあ、安斎くんは仕事ともろもろがかぶったときはどうしてるの?

安斎:それが出来ないのが今の悩みです。池尻先生、どうしたらいいですか?

池尻:それは、案件が多いっていうのと、納期が短すぎるんじゃない?

安斎:その通りです。仕事のキャパを、自分のモーターが回転できる最大値に設定しているのはよくないんだよなぁ。コイルは切れないけど、自分で回している感覚がなくなって、ゆとりがなくなる。

池尻:それはよくない、心がすたれていくよ。

安斎:たいていの仕事はおもしろそうだと思ってしまって、つい受けてしまう。

池尻:自分ができると思ってる80%くらいで止めても、100%になるから。7割くらいにしとかんと、自分の研究が枯れちゃうから。それは意識してます。

伏木田:「どや」って言ってる、顔が(笑)。

安斎:どや顔のコメントは基本カットしようか(笑)。で、伏木田さんは?今もピアノ、やってるんでしょ?

伏木田:それがちょっと、今はお休みモードです。でも、去年からヨガをはじめました。背中や肩がごりごりに凝っていて、そのせいで仕事がちゃんとできなくなるのはいやだなぁと思って。

池尻:そんなに凝ってるの?

安斎:肩は凝るでしょ。池尻さん、凝らないんですか?

池尻:凝らない。

安斎:仕事してないんじゃないですか?(笑)

※ ちゃんと仕事はしています。by池尻


‐研究日をつくる?つくらない?

伏木田:最近、自分がフルに使える時間が週に1日か2日になっちゃって、その状況が好きじゃないんです。今日はこれをやりたいなと思っても、やった方がいいこととやりたいことが一致しないので、むしろ、「やった方がいいことをやれば楽しい」って思えるように、気持ちの向け方を変えてみました。

池尻:あぁー。

伏木田: 1日にいくつものタスクを並行でやるのは嫌だから、はじめにやった方がいいことをざっと書き出して、この期間はAの仕事、次の期間はBの仕事というふうに、期間を分けてそれぞれの仕事に割り当ててます。だから、やりたいことが後になるんです。というよりは、仕事と研究が同じ濃度で入ってるんです、スケジュールの中に。

池尻:でもさ、研究日に研究したくないテンションってない?

伏木田:ないです。むしろ、何もしないんです、そういう日は。

池尻:研究日なのに?じゃあ、研究日はどうするの?

伏木田:研究日、ないですもん、わたし。だから、仕事、仕事、何もしない日、仕事、みたいにスケジュールを組んでいて、論文を書くって決めたら、その間に集中して書いて、というふうにしてます。

安斎:俺もそうだわ。

池尻:つくって、研究日!

安斎:D3の告白...「研究日がありません」(笑)

伏木田:例えば、インタビュー調査に行こうと決めたら、2ヶ月前くらいからその準備ができるように予定を組んでおいて、必要最低限の時間を確保しながら別の仕事を詰めるとか、休む日を決めておく。

池尻:それ、大丈夫?(笑) 35歳で新しい研究案、出る?

伏木田:だから、いろいろな研究案を広く持った人と一緒にやらせてほしいなと思っていて。

安斎:一貫はしてるな(笑)。

池尻:なるほどね。

伏木田:うまくいえないんですけど、仕事に向かうのと同じ意気込みで研究に入っていくんです、わたし。

池尻:ほんとう?俺、それは違うわ。

安斎:俺は違わないかも。To doに並列して仕事も研究も並ぶ。どっちも楽しいですけど。

池尻:まじか...。例えばさ、博論が終わって何も制約なかったら、新しい本を1冊書きたいなってある?

伏木田:博論は書きたいけど、本は特に...。今はわからないです。

安斎:僕は書きたいですよ。すぐ論文には出来ないけれど、いま仕事に忙殺されている中で、頭の中でもやもやと言語化できない違和感と仮説が少しずつ生まれてきている。それが博士研究の次の「種」になる気がしているので、それを言葉にする作業に時間を使いたいですね。

伏木田:わたし、修論の頃に戻りたいです。無理にマルチタスクでやらなくてよくて、修論だけやってた頃が、すごく幸せだった。マルチタスクはちょっと...。

池尻:世の中にシングルタスクはほとんどないよ。

安斎:修論のときは、僕ですら外部の仕事は全て断ってたもんね。


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‐自分にとってのいい研究とは

安斎:最後に、いい研究とは何かっていう話をしましょうか。

池尻:先にどうぞ。

伏木田:はい、わたしにとってのいい研究は、人の役に立つ研究、社会的還元性のある研究です。ひとりよがりじゃない研究...?(笑)

池尻:それ、俺のこと?(笑)

伏木田:いえいえ(笑)。ただ、誰かが役に立ててくれるような研究がしたいんです。

安斎:僕も基本的には現場の役に立ちたいと思っているけど、「すぐに役立つノウハウ」を提供したいわけでもないんです。研究者が実践者の思考を停止させてしまっては意味がない。新しい視点を提供しながらも、それまでの考えを揺さぶり、議論と試行錯誤を誘発するような「噛みごたえ」のある深みを持った研究がしたいですね。実践者同士、あるいは実践者と研究者のコミュニケーションメディアになる研究が、いい研究なのかもしれません。ただし、現世の人とね(笑)。

伏木田:誰かが自分の研究を深堀りできたらすごいなって思います。池尻さんは?

池尻さん:いい研究とは何かは、俺ねM1の頃に主張したんやけど、パラダイムシフトを起こす研究がいい研究だと思っているんです。

伏木田:・・・。

池尻:「パラダイム」を、「シフト」...。

安斎:それはわかりますって。伏木田さんはね、「...というと?」っていう顔をしたんですよ(笑)。

池尻:そっか(笑)。いや、俺はね、レイヴの『日常生活の認知』を読んだとき、みんながずっとこうだと考えていたことを批判して、きれいにガラッと変えているのに感動したんですよ。ブレイクダウンする考察でもなく、現世の横のつながりばかりを意識したY=0の研究でもなく、理論に向かって斜めに上がっていくような、喧嘩を売るような研究がいい研究だなと。だから、デューイやレイヴに喧嘩を売るような研究がいい研究だなと思ってて。

安斎・伏木田:・・・。

池尻:今、2人が半笑いと苦笑いをしてますけど...。でも、デューイやレイヴがやり残したこともあるはずだし、それを超えていきたいなっていうか、ライバル意識というか。

伏木田:わかった!池尻さん、すごいガッツありますよね。

池尻・安斎:ガッツ...(笑)。

池尻:その言葉聞いたんウルフルズ以来やわ(笑)。

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安斎:池尻さんは研究ポリシーみたいなものってありますか?

池尻:1つのテーマをずっと掘っていくことです。ふらふらしない。伏木田さんは?

伏木田:ていねいに研究しようと思ってて。しっかりした技法をもって、人と人がコミュニケーションをする場面を研究できるのであれば、それをていねいにやりたい。安斎くんは?

安斎:僕は池尻さんでいう「歴史」みたいに、特にコンテンツにはこだわりはないですね。比較的なんでも楽しめる。今は「ワークショップ」という方法を主軸にしているけれど、それもいずれ変わると思う。

池尻:そうなの?

安斎:最近気がついたのは、僕は「目からうろこが剥がれる瞬間」が好きなんだなと。うろこって、ある程度一つのことに深く打ち込まないと、形成されないじゃないですか。ある程度の深く掘り下げていったあとに、何らかの機会に揺さぶられて、それまでに気がつかなかった外側の世界が新たに拡張される瞬間が好き。いまワークショップという学習形態が好きな理由も同じです。そして、次はワークショップの外側に行きたい。

池尻:3人とも違うね。これから博論を書いてるとわかるかもしれないけど、掘ったと思った穴から領域がどんどん広がっていくんですよ。どろどろしたところを掘っていく快感はすごいよ。だから、これからもっと楽しくなっていくと思うよ。

‐お・ま・け

池尻:このインタビュー、半分くらい記事にしてほしくない...。

伏木田:なんでですか?

池尻:君らの質問がえぐ過ぎる。(※ここには載せられないような質問もされました...笑。by池尻)

安斎・伏木田:あはははは(笑)。


[伏木田 稚子]

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