2013.09.05
みなさま ごきげんよう.修士2年の早川克美です.
厳しい残暑がつづいていますが,ふと空を見上げるとその高さに,名残の夏を惜しむ気持ちとなる...そんな今日このごろ,いかがお過ごしですか?
さて,第4回めとなる山内研OBの方へのインタビュー,
立命館大学経営学部 准教授 八重樫 文(やえがし かざる)さんにご登場いただきます.
八重樫さんと私は,大学が同じ武蔵野美術大学.なんと大学では私が先輩にあたり(笑),そしてもちろん山内研では,私の修士研究で大変おせわになっている大先輩という不思議な御縁.
繊細で骨太,そして何よりしなやかな思考をされる八重樫先輩,あらためてインタビューするのは初めてのことで,どんなお話が伺えるのでしょうか?
ケンブリッジでの学会に渡英する直前の先輩に直撃しました.
◯現在のご所属と,そこでの活動について教えて下さい
立命館大学経営学部で、
デザインマネジメントに関する研究・教育を行っています。
最近の研究としては、
「デザイン・ドリブン・イノベーション(Design-Driven Innovation)」
をテーマに掲げています。
これまでのイノベーション研究分野では、
テクノロジー・プッシュ(Technology-Push)と
マーケット・プル(Market-Pull)という2つの戦略に
焦点が当てられてきましたが、僕はさらにそこで、
デザインがイノベーションを主導する
「デザイン・ドリブン・イノベーション(Design-Driven Innovation)」
という戦略に注目し、研究を進めています。
詳細はこちら。
http://www.amazon.co.jp/dp/4496048795
◯研究を発展させていく上での企みといいますか,戦略をお持ちのように感じます.
研究テーマやフィールドは移り変わっていますが、
僕の根本にあるのは、
「デザインの知見を、まだあまりデザインの考え方が
浸透していない分野に持ち込んでその有用性を示すこと」
というミッションです。
さまざまな分野における研究対象や事象を、
「デザイン」という観点から照射し捉え直していきたいと思っています。
◯教育についてはどのようなお考えで携わられていらっしゃいますか?
教育に関しては、自分が人から「教わる」のが好きでないので、
教えない授業づくりを進めています。
もちろんそれは、学生たちに何の学びも提供しない職務放棄ではありません。
「教えられること」だけが「学ぶこと」ではなく、
学びにはもっといろいろなかたちがあると思い、
いろいろな学びがある大学・授業にしていきたいと思っています。
◯なぜ研究者になろうと思われたのでしょうか?
何かひとつの固定した概念範囲に収まりたくないヘソまがりなので、
○○になりたい、と思ったことはありません。
「研究者」についても同様です。
ただ、辞書を繰ってふむふむ納得している側ではなく、
辞書を新しく書き換える側にいたいなと思っています。
◯キャリアを築く上で大変だったことはありますか?
八重樫さんにはこの質問は必要ないかと思われますが
むしろ,それだからこそ,お聞きしてみたいと思いました.
先にもこたえたように、自分が人から「教わる」のが好きでないので、
何かを習得し、辿り着くのにいつもとても時間がかかります。
たぶん一般には無駄と言われるたくさんのことに悩んでいます。
でもそこをズルしてごまかせないので、しようがないと割り切っています。
そんな無駄な悩みの蓄積がキャリアをつくっていくんじゃないでしょうか。
◯研究者としてのこだわりがあれば教えて下さい
研究者としての信条,ここは譲れない...など
ご自身のモットーをお聞かせいただけたらと思います.
「すでにあること・これまであったこと」の認識・解釈ではなく、
「これからあるべきこと」の探求をしていきたいと思っています。
このコンセプトで、今年度から、
立命館大学デザイン科学研究センターをつくりました。
http://design-science.jp/
◯こだわりの仕事道具などがあればご紹介ください.
こだわりの仕事道具はありません。
常に身軽でありたいと思っています。
筆を選ばずその辺にある適当なもので、何でもつくってしまうのが
かっこいいなと。
◯大学院での研究テーマについておしえてください.
研究の動機や苦労したことなどをお聞かせ願えればと思います.
「情報教育におけるデザイン概念の有用性に関する研究」
http://kazaru.jp/theme/mthesis/mthesis_yaegashi.pdf
当時、教科「情報」が高校で必修化されたところで、
Webサイトをつくる、取材して映像や紙媒体にまとめる、など
そこではデザイン活動に合致・類似するねらいが多く示されました。
しかし、デザイン教育やデザインの知見はほとんど
検討されていなかったので、デザインの知見から情報教育への示唆の
可能性を探りました。
具体的には、当時発刊されていた情報の教科書の記述内容を分析し、
そこにデザインの知見がどう活かされるのかの検討を行いました。
研究の動機は明確にあったのですが、
それをどのような方法で明らかにするのかに苦労しました。
◯大学院時代,山内研究室で得られたものは何だったのでしょう?
社会人院生としてどのように山内研メンバーとして過ごされたのか.
山内研で得られたことがその後,どのように役立っているのか?
これは明確におこたえできます。
「修士論文」という成果物です。
もちろん、その執筆・研究プロセスにおける、
ゼミでの活動、先輩・後輩とのつながり、他の研究者とのネットワークなど
現在に活きていることはいっぱいありますが、それは付帯的なもので、
「論文」という成果が得られなければ、それらはすべて今につながっていない
と思っています。
だから僕は、「修士論文を書き上げる」ということだけを
最優先かつ唯一のミッションとして、山内研メンバーとして過ごしました。
◯最後に研究する上でのアドバイスを後輩にお願いします.
これは私を含め(笑)現役山内研院生にむけてお話いただけたらと思います.
何でもよいのですが、自分の掲げるミッションを大事にしてもらいたいと思います。
研究内容にも研究生活にも、そのミッションをしっかり浸透させてください。
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私は八重樫さんの辞書には「苦労」という言葉は存在しない,そう思っていました.
「何かを習得し、辿り着くのにいつもとても時間がかかります。
たぶん一般には無駄と言われるたくさんのことに悩んでいます。」
あぁ,外には決して見せないところで多くの時間をかけていらっしゃることを知り,八重樫さんの生きる美学にふれられた気がいたします.
そして最後の言葉,「自分の掲げるミッションを大事に...」は,今の私自身に厳しくも温かく響くものでありました.
八重樫さん,お忙しい中,インタビューに応じてくださり,ありがとうございました.
修士2年のこの時期に,尊敬する先輩のお話が伺えた幸運に感謝いたします.
残暑はしばらく続きますが,みなさまにはくれぐれもご自愛くださいませ.
実りの秋はもうすぐそこです.
拙文におつきあいいただきありがとうございました.
【早川 克美】
2013.08.29
こんにちは,M2の吉川遼です.
山内研のOB・OGインタビュー,第3回目は中杉啓秋(なかすぎ・ひろあき)さんにお話を伺います.
中杉さんは山内研究室の第一期生で、在学中はヘッドマウントディスプレイを活用した歴史学習システム"Past Viewer"を開発され,新しい学習体験を生み出しました.IT mediaによる当時の取材記事はこちらです.
また現在は働く傍ら,情報学環教育部の「情報産業論」の講師も務めていらっしゃいます.
現在,僕自身もヘッドマウントディスプレイを使った新しい音楽学習体験を生み出そうと研究を進めている中で,研究室の先輩でもある中杉さんの研究を参考にさせて頂いていた部分も多く,Past Viewerの制作に至った経緯などを知ることができたらと思い,今回中杉さんにインタビューさせて頂きました.
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●自分の動機と教育とのかけ算
―Past Viewerの研究に至った経緯は
もともとはドキュメンタリーや映像制作をやりたいと思っていました.山内研究室は学習とか教育を研究しているところなので,それらを繋げる接点はどこか,というのを考えていたらPast Viewerという形になりました.
研究するからには今までにあるようなテレビ番組を作りたい訳ではなくて,何か新しいメディアの仕組みやコンテンツ,メディア体験といってもいいと思いますが,そういったものを作りたいと考えていました.思いつきレベルかもしれませんが,過去を見ることができたら面白いなと思い「歴史メガネ」を作ろうと思ったのがきっかけです.
研究テーマが決まれば,あとはやるだけなのですが,ここに行き着くまでに山内先生とずっとグダグダと話し合い...,テーマ決めには苦労しました.
もちろん入学時に研究テーマを持っていて,研究計画書も提出するわけですが,そのままそれをやっていいと言われる人はほとんどいません.恐らく色々な先生からの意見でかなり揺れるし,変わると思いますが,僕の場合は自分のやりたいこと,もともと映像を作って人の心を動かしたい,という動機と教育のかけ算をしたところ,これでいけるかな,と思えました.当時キーワードとなっていた「マルチメディア学習」を中心に国内外様々な先行研究を調べ,マルチメディア教材の実物を見に行ったり...,と泥臭いリサーチ作業を経て研究テーマを決めました.
やはり動機が重要というか,結局自分がやりたいことじゃないとなかなか前進しないですよね.僕の場合一期生だったので先輩はいませんでしたが,周りを見るとテーマ決めで一年以上先生にダメ出しされて,ぼろぼろになっている後輩もいたので,やはり自分の動機を見つけて,かけ算をすることで新しい組合せを見つけていくことが重要なのかな,と思います.
●新しいメディア体験を生み出す
―開発する際に苦労した点は
HMDを借り,地道に実験をしていました.当時はiPadのようなタブレット端末もなかったので,ノートPCとHMDを繋いでみて,情報を現実空間に重ね合わせてみるとどんな風に見えるのかな,という素朴な探求心で一歩前進して一歩後退しながら開発を進めていました.例えばパワーポイントで黒い背景に文字だけ配置したスライドをHMDで見ると文字だけ浮かび上がって見えてくるのですが,「面白いなこの感覚」と思っていました.
―その後,かなり幅広い層の方に向けて実験をされていましたが,その際の体験者の変化についてどう感じましたか
たまたま東大は場所が近く,色々な資料が残っていることもあり,写真などを新聞社やNHKに行って貸してもらい,それをHMDを使って重ね合わせてみると,浮かび上がって見えてくるように感じました.古地図を見る感覚と同じで,建物のように時間が経っても変わらないものに当時の輪郭を重ね合わせると,浮かび上がって見えてきて,あたかもそこにタイムスリップしたかのようなメディア体験が得られる.その場にいるからこそ感じられるという,五感を使ったメディア体験はテレビを見ている時との感覚とも違う,新しいものだと感じ,それを検証しようと考えました.
やはり制作をする上でも参考になる先行研究のレビューが結構重要で,当時海外のメディアアーティストで広島の原爆ドームにプロジェクションマッピングをする人がいました.その方はすごく大きなプロジェクタを使って原爆ドームに被災者の声を影絵と共に投影していました.その場で,体験者の声を聴くという,エモーショナルな体験ができる...,自分がやりたいことはそれに近いのかなと思い,そういったアーティストの作品も参考にしながら研究を進めていました.
●食わず嫌いにならずに経験を拡げていく
意外と重要なのが,自分とは全然関係のない領域です.興味が無いものでも,やってみると意外と面白い出会いがあったりします.
どうしても大学院に入ると「専門,専門」になりがちだと思いますが,食わず嫌いにならずに興味のないものでも食べてみると意外と美味しい,ということもあります.それはその人の経験を拡げる可能性があるので,色んなものを食べてみたらいいのではないかと思います.
山内先生も今までWeb-based learningからワークショップまで,様々な研究をされていますし,「○○の専門家です」と閉じない方がきっといいのではないでしょうか.
―専門に閉じない,という話もありましたが,今所属している院生にアドバイスがあればお願いします
どうしても大学院の場合,限られた学会や研究室の中など,どうしても住む世界が狭くなりがちになるので,自分が考えている研究テーマを色んな人にアドバイスを求めてみた方が拡がるのではないかと思います.どこでその拡がりが生まれるか,なんていうことは分からないので,色々な人に自分の考えているテーマや動機を話し,コメントやアドバイスをもらったりするといいと思います.
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中杉さんのお話を伺う中で,専門に閉じず,様々な領域の様々な人に触れる,という話が印象的でした.
普段大学で過ごしていると,知らず知らずのうちに視野が狭まっていることもありますが,普段から幅広い分野に触れて研究を進めていくことで,自然とよい方向へと向かっていくことができるのかな,と感じました.
中杉さん,インタビューにお応え頂きありがとうございました.
【吉川遼】
2013.08.26
こんにちは、M2の吉川久美子です。
先週からはじまりました山内研ブログ初企画、【突撃OB・OGインタビュー】。
第2回目を担当させていただきます。
第2回目となる今回は、平野智紀さん(2007年度修了)にインタビューさせていただきました。学生時代は「ミュージアムにおけるリテラシー概念の意義と領域越境に関する研究」というテーマで研究に取り組まれ、現在は、内田洋行教育総合研究所で働きながら、経営学習研究所の理事や京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センターの嘱託研究員をされています。お仕事をされながら、大学院生時代からの関心事である美術館の学びに関わり続けることは、なかなか簡単なことではないと思い、今回お話をお伺いさせていただきました。
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Q.現在のお仕事内容について教えてください。
内田洋行教育総合研究所というところで働いています。官公庁や自治体からの受託研究を請け負ったり、教育環境を支援し、評価し報告書にまとめたりする仕事をしている企業内研究所です。今は、教育関係の大規模な調査に関する仕事をしていて、お客さんからの要望をお聞きしてそれをどうやって業務として実装していくかという調整などを行っています。入社して3年目までは調査に関する集計システムの開発をしていました。システム開発は大学院時代にしていなかったので、会社に入ってから一から勉強しましたが、僕のコアはシステム開発ではないと思い、今は調査の中身に関わる仕事をするようになりました。
Q.現在の研究活動について教えてください。
研究活動をしているという認識はなくて、普通の人が余暇にサーフィンやゴルフをしているような感覚で、仕事以外の時間をどういう風に使うかと考えた時に、大学院の時から関心のある、美術館に関わることをしたいと思ったんです。そこで京都造形芸術大学にたどり着き、対話型鑑賞に出会いました。もちろんアメリア・アレナスとか、書かれたものとしては知っていたけど、実際に触れてこれはすごいと思って。そこからまれ美(シェアハウスやイベントスペースで、対話型鑑賞など新しいアートの楽しみ方を提案する研究会)の活動を始めました。ナビゲーター(作品と鑑賞者をつなぐ声かけなどを行う役割)をしてみたいという気持ちがあって、それだったら練習がてらシェアハウス「まれびとハウス」を使ってくださいと言われて。それなら「まれびとハウス」を美術館にしてしまうというイメージで、まれびと美術館、「まれ美」とその時のイベントを名付けたのが始まりです。
京都造形芸術大学は、博物館研究でお世話になっていた方に紹介をしてもらったのがきっかけで、去年から研究員の嘱託という形で、会社の仕事として派遣してもらえるようになりました。これまでのプライベートが仕事にもつながってきたのかなという感じ。授業への参与観察をしつつレポートを執筆するので、京都に一番行っていた時期は、週1回行っていた時もありました。
MALLの理事になったきっかけは、大学院生のときから代表理事の中原先生のイベントのお手伝いをしていて、関わりがあったということもありますし、僕が就職をしてから「まれ美」をはじめ、いろんなかたちでイベントをするようになって、その時に、自分たちが何者なのかを表すものがないということがネックになったことがあったんです。たとえば、毎回のイベントのお金を持ち越せないとか、領収書の発行者名をどうするかとか。それで、外向けに活動する時に受け皿になる箱が欲しいなと思って、そういう団体をたちあげようかと話していた時に、中原先生に声をかけてもらったんですね。MALLの理事は8人いて、それぞれラボを持って自分たちのイベントをしています。実務家と研究者をつなぐ組織なので、会社勤めの人も理事にいます。
Q働きながら美術館の学びに関わり続ける、モチベーションは何ですか?
改めて聞かれると・・・なんだろう。でも単純に面白いと思っている事をしています。「まれ美」で、作品を鑑賞していろんな人がいろんなことをいうのは面白い。僕が選んできたその作品についてどんな話が出てくるのか毎回違って、その人となりがなんとなくわかる気がするし、鑑賞するということ自体が単純に楽しいと思っています。ちょっと偉そうかもしれないけど、僕のスタイル、僕にしかできないイベントではないかとも思っているかも。スタイルというのは、対話型鑑賞自体の進め方もそうだし、鑑賞イベントをまれ美というかたちでパッケージングすることもそう。美術館のギャラリートークをするのとは違うことをしたい、学校の教室で対話型鑑賞するというのとも違うことをしたいと思っています。
Q大学院での生活は、どのように現在のお仕事や研究活動に活きていらっしゃいますか?
仕事の中身というよりは、人とのつながりが大学院で出来たのかなと思う。会社で中原研究室やMALLのイベントをやらせてもらったりすることが結構あったのだけど、これって内田洋行から中原先生にお願いしてもなかなか実現しないことだと思います。仕事で国の受託研究とか自治体と関わることがある中で、教育の情報化に関わりの深い会社でもあるから、教育工学とのつながりも近い。大学院で知り合った人たちが、そのまま仕事のつながりにもいきているっていうことがあるのかなと思います。
Q研究する上でのアドバイスをお願いします!
1つの研究で出来ることは意外と小さいということ。壮大な関心を持って大学院に入って、いろいろと打ちのめされて今があるかもしれないですが、研究では個別具体的な事象しか扱えません。でもそういった個別具体的なものを壮大な問題関心から見てどう捉えられるかを考える。ちょっと前に、中原先生が博論の話でU字の旅だと言っていました。高みの世界から個別具体的な世界に降りてきて、もう一度、高みの世界に位置づけると。RQを立てるために、自分のこだわりをひたすらリストアップしてみるといいと思います。僕なら美術館はこういう場所だというリストを挙げていって、どこまで削ったら嫌になるかということをしてみる。ここを削ったら嫌だと思うところが、コアなところなのではないかと思います。研究でできるのは1つの変数を変えることしかできないので。何かを削ったり別の何かをぶつけたりした時に嫌だと思ったら、そこに何かがあるということだと思います。
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平野さんとは個人的に美術に関する学びに関心を持っているという点で、日頃からお世話になっていましたが、今回のインタビューで改めてこれまでの活動やこだわりについてお話を伺える機会を持つことができました。その中で、「単純に面白いと思っている事を続けている」、「どこまで削ったら嫌になるかを考えてみる」とお話されていたのが印象に残っています。自分が好きなこと、面白いと思うことがあってこそ、研究や活動が続けられるのではないかと感じました。しかし、大事にしていきたいと思うのですが、意外と自分が思っていたよりも好きなことの正体が漠然としていて、個別具体的に見えずに悩むこともあります。そんな時に「これが無くなってしまったら嫌だ」と感じる気持ちが、実は自分のこだわりを一番よく教えてくれるのではないかと思いました。
お忙しいところ、お仕事帰りにインタビューに応じてくださり、本当にありがとうございました!
2013.08.15
こんにちは、M2の梶浦美咲です。
今週から山内研ブログ史上初企画、【突撃OB・OGインタビュー】がスタートします!
研究室メンバーが実際にインタビューをし、山内研究室出身者の方々の現在にせまってみようと思います。
OB・OGさん方は現在何をされているのでしょうか?
早速、第1回目は2005年4月~2009年3月まで山内研究室に在籍されていた佐藤朝美さん(Web: http://e-sato.net/tomo/)へインタビューをしましたので、ご紹介したいと思います!
佐藤朝美さんは、2009年5月~東京大学大学院情報学環の助教、特任助教と歴任し、現在は東海学院大学子ども発達学科の専任講師をされています。学生時代の研究テーマは「幼児の物語行為を支援する学習システムの開発」であり、元々お勤めされていたIT企業で培った技術力で幼児向け学習システムを開発されていたそうです。
以前、山内研究室に在籍されていた頃に佐藤朝美さんが執筆されたブログ記事も参考にしつつ、インタビューしてみました。
===
Q. 現在、東海学院大学で子ども発達学科の専任講師をされているようですが、具体的にどのようなことをされているのですか?
就任してまだ3ヶ月ですが、現在ここでは「教育方法論」「子ども学フィールドワークI,II」「子ども学実践演習I,II」「子ども学研究法」「子ども発達演習」「子ども文化演習」「子育て支援演習」「子ども発達演習」といった授業を担当しています。
「子ども発達演習」では、実際に東海学院大学の図書館にある「えほんの森」で学生が子ども相手に読み聞かせをするようなことをやっています。授業で絵本や読み聞かせについて学んだ後に、実際に読み聞かせを実践する授業なんです。
「子ども学実践演習II」では、地域の人たちに公開している「あそびの森」というお部屋で、学生たちが考えた活動を子ども相手に実践しています。近所の人たちや子連れの人たちが沢山集まります。まるでワークショップのような感じなんですよ。
もちろん、理論的なことも学ぶのですが、この学科では実践的に学べることがウリの1つなので、授業では活動のデザインや読み聞かせを行ったり、幼稚園や児童館等のフィールドへ出かけたりして、子どもや家族と沢山関わることを大切にしています。実践した後にはしっかりリフレクションもします。小学校教諭や幼稚園教諭、保育士を目指している学生とともに、子どものことについて考えていく現在の仕事は本当に楽しく、就職できて良かったと思っています。
Q. なぜこの道を選んだのでしょうか?
昔から研究者になりたいと思っていたわけではなく、自分のやりたいことをつきつめていった結果、大学の教員になったような気がします。やりたいことをしていたらこの道が拓けてきたんです。
私は大学を卒業してすぐコンピュータの会社でSEになり、その後、メディアアーティストになりたい(笑)と思い、武蔵野美術大学に入りました。「幼児を取り巻くメディア環境」について考え始めたのは、SEをやっていたことと、子どもを産んでいたことがきっかけです。子ども向けのメディアにはどのようなものがあるのか、またモノ作りをしたい、と思ったんです。
武蔵野美術大学では、子ども向けのデジタルコンテンツを作る機会がありました。開発したデジタルコンテンツを子どもたちが楽しんでくれて、その子どもたちの中で何が起こっているのか、教育的効果が知りたくなり、山内研究室に入りました。そして、それをつきつめていく上で研究者という立場へと進んでいきました。まだまだ研究者と呼ばれるには早い感じですが、今ではこの道に進めたことをとてもありがたいと思っています。
Q. 大学院では「幼児の物語行為を支援する学習システムの開発」というテーマで研究をされていたようですが、それが現在のお仕事にどのように活きてきているのですか?
幼児の発達について研究してきたので、現在教えている授業では、それが生きてきていると思います。物語行為という研究テーマがダイレクトにきいてはいませんが、修士での研究は、研究の作法を学べた良い機会だったと思います。山内研究室での研究活動が今の自分を支えています。
私は社会人から大学院へ入学したので、当初研究の方法論が分かりませんでした。しかし、一通り修士論文としてまとめたことで、ようやく研究とは何かが理解でき、博士課程の次の研究にもつながりました。
学習環境が整っている研究室で、研究計画の立て方や先行研究の集め方、テーマの絞り方、実験方法、評価方法など研究の流れをとてもよく学ぶことができました。プロジェクトで携わっている研究もこれまでの研究経験がとても役立っています。なんといっても、これらの研究論文のおかげで就職できたわけです!
Q. キャリアを築く上で大変だったことはありますか?
キャリアといわれると恥ずかしいですが...(笑)。家庭を持っている、ということで周囲の人に協力を要請してしまった点です。
家庭をもちながら研究をする上で周囲の人に迷惑をかけてきました。息子はもちろん、母にも手伝ってもらいました。夫も結婚当初は私が大学で働くことになるなんて考えたこともなかったと思いますが文句を言わずに協力してくれています。周囲を巻き込んでしまっている点で申し訳ないです。が、その分泣き言を言わずに頑張らねばと思います。
私は以前、SEとして働いていましたが、システム納品前などは徹夜勤務などもあり、子育てとの両立を諦め退職しました。大学教員はフレキシブルで働きやすくはあるのですが、それでも周囲の協力を得ながら何とかこなしてます。日々、働けることに感謝しています。
Q. 研究者を目指す上で工夫されたことはありますか?
博士課程に進学するか山内先生に相談した際に、山内先生が私の研究テーマに対し、幼児や子どもを対象としたものは、流行が来たり脚光を浴びたりしないだろうが、絶対に必要なジャンルだと言ってくださって、それはとてもありがたい事でしたし、大事なことだと思いました。
面白い!と言われるものでなくても、自分が大切だと考え、さらに社会的ニーズがあれば、みんなが手を出さないことに手を出し、研究していこうと思います。
今は研究として扱いにくいだろう「家族」に踏み込もうとしています。親子や母子や家族というテーマに社会的ニーズがあるはずですが、教育工学的なアプローチはあまり行われていないため、チャレンジしたいと思っています。文科省の方針をはじめ、国内外のWebを見たり、ベネッセ等の企業の取り組みをチェックしたり、ママ友との情報交換から社会的ニーズを考えます。最近では幼児教育の大学の先生のFBや絵本作家さんのTwitter等の情報からも沢山刺激をもらってます。また、学会や研究会、シンポジウムやセミナーでお会いする方々、さらには現職場で出会った先生方も含め、出会いを大切にすることが次の素敵な機会(チャンス)につながっていくと考えています。
Q. 最後に、研究する上でアドバイスがあればお願いします!
山内研究室にいて、学生はみんな最初からやりたいことを持って入ってきてはいるのですが、色々とアドバイスを受けると、段々と自分が何をやりたかったのか分からなくなっていってしまう姿をよく見かけました。そのような人たちに対して、他の人たちからのアドバイスはアドバイスとして受け取っておき、こだわりたい部分は捨てずに死守して欲しいと思います。
また、テーマが拡がりすぎて、うまく研究にできない人もよくみます。できることは限られるので、そぎ落として譲れない部分をしっかり見つけて、それを研究にすると良いと思います。
そうやって試行錯誤しながらも山内研究室ではみなさん面白い研究をしてますよね!?今年はどんな修論が生まれるのでしょうか?岐阜の山の中にいても、みなさんの様子がSNSを通じて垣間見れるこの時代ってありがたいです!私自身も山内研の後輩たちから刺激をもらって切磋琢磨していきたいです。
===
インタビューをして、佐藤さんの「やりたいことをしていたらこの道が拓けてきた」というお話がとても印象に残りました。やりたいことがあったとしても、その夢を実現するのはとても難しいことだと思います。日々の努力と行動力、そして夢を手助けしてくれるような人との出会いが大切だと思いました。
また、今後私自身も自分の譲れない部分をしっかり見定めて、それを研究成果として形にして修了していけたら、と思いました。
インタビューに協力して下さった佐藤朝美さん、ありがとうございました!!
【梶浦美咲】
2013.08.09
天気予報に表示され続ける、30度オーバーの日々、、、
夏との戦いは厳しいですね。
山内研M1一同でございます。
さて、私達山内研究室のメンバーは、
8月6日、7日
伊豆長岡に夏合宿に行ってきました!!
そこで、今回の記事では、"山内研夏合宿密着レポート"と題しまして、
山内研の夏合宿についてレポートさせて頂きたいと思います!!
偉人について学ぶ!わくわく学習プログラム
夏合宿のメインイベントといればこちら!「学習プログラム」です!!
学習プログラムでは、毎回、偉大な学者についてとりあげ、レビューなどを行っています。
今回の合宿では、M1は古典としてピアジェ、デューイ、ヴィゴツキーを、
それぞれ、発達段階説、経験学習の理論、最近接発達領域を中心にレビューしました。
M2と博士課程のみなさんは、これらの学者の理論に影響を受けた学者として、波多野誼余夫、松下良平、佐伯胖をレビューし、その後ディスカッションも行いました!!
うーーん。実に真剣ですね!
発表後は、
発表した学者から2名の学者を選び、その2人と自分の研究との関連性をまとめるワークを行いました。
デューイを選んだ人が多いですね!
著名な教育学者をより深く立体的に捉えられる機会となりました!
夜は花火もしました!
研究人生グラフー研究人生からまなぶー
合宿2日目は山内先生と助教の方々から
それぞれ作成して頂いた研究人生グラフの発表がありました!
研究者になろうと思ったきっかけや
研究がうまくいく為にやっている意外な工夫などについてお話していただきました。
ちなみに、先生と助教の方々が考える研究者に向いている人の要素は
・メタ的にものごとを捉える視点
・知的好奇心
・人と違うことがきにならないこと
・普通の人がやめるタイミングでやめずに地道に続けられること
・自分のこだわりを形にできる力
‥ということでした(´▽`)ノ
明日から活かしていきたいことや、今後のためになるお話に院生一同大満足です!
_____________________________
院生の学習プログラムに、先生、助教の方々のお話で
夏合宿も無事終了!と見せかけて
夏合宿はもう少し続きます!!
そう!!折角伊豆まできたのだから、観光しなくては!ですよね!
ということで、
宿をチェックアウトした後は"伊豆の国パノラマパーク"に行ってきました!
▼山頂の葛城神社にはおみくじがあったので、おみくじをひいてみました!
良い笑顔です!
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??????
?????????
なるほど!
"学問"に"困難"があるようです。。。
"伊豆の国パノラマパーク"には、
学問の敵、眠気と戦うためのアイテムが用意されていました!
お楽しみ頂けたでしょうか?
以上、山内研究室の夏合宿密着レポートでした!!
【山内研M1一同】
2013.08.03
山内研の必読書籍シリーズ、最終回は伏木田より『日常生活の認知行動』をご紹介します。
この本は、Jean Laveが1988年に書いた『Cognition in practice』 の翻訳書です。
まえがきには、わたしの大好きなこんな一節があります。
「教育の分析は、(中略)他のどんな形のものであろうと、世界との関連を考えずに行うことはできない。というのは、教育とはいうまでもなく、人間が世界に出る準備をするものだからである。」
Laveは、教育が日常の活動に及ぼす影響に着目し、認知理論をもって説明することを長きにわたって吟味しています。
実証的な調査研究を行った上で、生活世界での文化、認知、活動の概念を変えるよう、いくつもの提言をしています。
その根底には、リベリアのヴァイ族やゴラ族の仕立て屋の徒弟が、日常生活において数学をどのように学び、どのように使っているか、ということについての文化人類的な研究があります。
特定の状況での認知活動を、実証的かつ理論的に特徴づけることに静かな情熱をかたむけ、そうした人間の活動が社会的状況の中にあるという特徴をつぶさに描こうとしたLaveの精緻な試みのすべてが、この本には詰まっていると思います。
わたしがもっとも惹きつけられたのは、日常の買い物についての考察です。
Laveは、毎日の活動サイクルの中で、人間が自分の行為を合理化する意思決定のひとつとして買い物をとらえています。
その上で、例えば、200g500円と400g600円はどちらが安いかといった計算には多様な方略があり、それは変化することを明らかにしています。
買い物での計算において何か困難にぶつかったとき、それを克服する努力の過程で1つの選択が引き出され、そうした問題解決の経験がその後のエピソードにつながっていくという見方をしています。
「学校の教室の先生と生徒は「日常活動」に携わっており、それは仕事帰りにスーパーで食料品の買い物をする人や、実験室の科学者と同じである」という言葉に込められたLaveの想いを、しっかりと受け止めながら熟読したいおすすめの1冊です。
参考文献
Lave, J. (1988) Cognition in practice. NY: Cambridge University Press.
(武藤隆, 山下清美, 中野茂, 中村美代子(訳) (1995) 日常生活の認知行動-ひとは日常
生活でどう計算し、実践するか. 新曜社, 東京)
【伏木田 稚子】
2013.07.27
山内研の必読書籍シリーズ、安斎からは「人はいかに学ぶかー日常的認知の世界」(稲垣佳世子・波多野誼余夫 1989年)をご紹介します。
一般的に「学習」というと、いわゆる学校の勉強のような、試験や賞罰などの外的な圧力によって、強制的に管理されながら行うものを想起するかもしれません。本書の主題は、こうした「人間は怠け者であり、学習とは苦しいものである」という伝統的な学習観を否定することであり、人間を「教え手に頼らなくても能動的に環境に働きかけ、みずから学ぶことが出来る有能な存在」として捉えなおすことです。
思えば、私たちは遊びや仕事などの日常的な生活場面において、誰かに教わることなく新たな知識や技能を身につけることができます。一人暮らしを始めたら料理が出来るようになった、卒業論文を書くために統計分析のスキルを身につけた、といった場面を想像するとわかりやすいかもしれません。生活上の現実的必要にかかわる知識や技能は、教え手から教授をされなくても、学び手自身の強い動機付けによってたいていの場合学ぶことが出来てしまうのです。
さらに私たちは、ときに現実的な必要性をも越えて何かを学ぶことがあります。それは、「これはなぜだろう?」「もっと知りたい」といった、知的好奇心に駆動されて学ぶときです。著者らによれば、人間には自分をとりまく世界について整合的に理解したいという基本的な欲求が備わっていると言います。環境内に規則性を見出そうとしたり、新しく得た情報を既有知識に照らして解釈したり、解釈から引き出された予測を確かめたり、ときに予測が外れて当惑したりすることによって、自分なりに納得のいく世界のモデルをつくっていくのです。
本書では、人間を能動的で有能だと捉える新しい学習観に立ちながら、日常生活における人間の主体的な学習についてさまざまな実証研究や事例を通して考察しています。また、それらが他者や文化に支えられながら成立する社会的な過程であることを描き出し、新たな教育実践のあり方について提言を行っています。
特筆すべきは、本書が出版されたのが1989年であるということです。以前にこのブログでも紹介されたアメリカの名著"How people learn"(Bransford et al. 1999)の10年も前に、同じ志向性を持った著作が発刊されていたということは驚くべきことです。学習を専門とする方だけでなく、日々の学びの過程を見つめ直したい全ての方におすすめできる一冊です。
[安斎 勇樹]
2013.07.21
みなさま、こんばんは。
山内研の必読書籍シリーズも第7回目となりました。
今回は、M1中村絵里が担当いたします。
ご紹介するのは、「脱学校の社会」(イヴァン・イリッチ著, 東 洋・小澤 周三訳, 東京創元社, 1977)です。
本書は、Ivan Illich : The Deschooling Society. (Harper & Row, 1970. 1971)の1971年版の全訳版です。
まず、著者イリイチ*(1926-2002)のプロフィールをご紹介します。
* Illichは、日本語でイリイチともイリッチとも表記されています。
1926年 ウィーン生まれ。グレゴリアン大学で神学と哲学を修める。ザルツブルグ大学で歴史学の博士号を取得。
1951年 渡米。 ニューヨークでカトリックの助任司祭となり、1956~60年、プエルト・リコのカトリック大学の副学長を勤めた後、メキシコのクエルナパーカに国際文化資料センターを設立し、同センターでラテンアメリカに関する研究セミナーを主催。
本書では、イリイチがニューヨークやプエルト・リコに在住した自身の経験を通じて「学校に就学させることによって、すべての人に等しい教育を与えることは実現できないだろう」と考えるに至り、当時の学校制度の批判を行い、新しい教育制度のネットワークの必要性を訴えています。
タイトルにある「脱学校」という文字を見ると、あらゆる学校を否定し、学習制度を否定するのかと思われるかもしれませんが、イリイチが批判したのは、次の三つの前提に基づいた「学校」です。
一、子どもは学校に所属する
二、子どもは学校で学習する
三、子どもは学校でのみ教えられることができる
そして、イリイチは、この前提に基づいた「学校」の外での学習の重要さを指摘しつつ、「われわれが知っていることの大部分は、われわれが学校の外で学習したものである。生徒は教師がいなくても、否、しばしば教師がいるときでさえも、大部分の学習を独力で行うのである。」「誰もが、学校の外で、いかに生きるべきかを学習する。われわれは、教師の介入なしに、話すこと、考えること、愛すること、感じること、遊ぶこと、呪うこと、政治にかかわること、および働くことを学習するのである。」と述べています。
脱学校化された社会における新しい教育制度の下の「学校」は、次のような場になるとしています。
●学生に学ぶための時間や意思をもたせようとして彼らを懐柔したり強制したりする教師を雇う代わりに、学生たちの学習への自主性をあてにすることができる
●あらゆる教育の内容を教師を通して学生の頭の中に注入する代わりに、学習者をとりまく世界との新しい結びつきを彼らに与えることができる
さらに、新しい教育制度を提案するにあたり、すぐれた教育制度の三つの目的を示します。
一、 誰でも学習をしようと思えば、それが若いときであろうと、年老いたときであろうと、人生のいついかなる時においてもそのために必要な手段や教材を利用できるようにしてやること
二、 自分の知っていることを他の人と分かち合いたいと思うどんな人に対しても、その知識を彼から学びたいと思う他の人々を見つけ出せるようにしてやること
三、 公衆に問題提起しようと思うすべての人々に対して、そのための機会を与えてやること
本書を通じてイリイチは、特定の年齢層を対象とした特定の制度に基づく「学校」に入る機会を得られない貧困層や社会から排除された人々に対して、新しい教育制度のネットワークをもって、学習のための新たな選択とチャンスが与えられるようになることを希望しています。
出版から40年以上がたった今、私たちの社会はイリイチが望んだような教育制度を享受できているでしょうか。
「学校」と「人間の学び」について、考察を深めることのできる一冊です。
【中村絵里】
2013.07.05
皆さんこんにちは。山内研必読書紹介シリーズ第5回はM1青木が担当させて頂きます。
私が紹介するのは
デジタル社会のリテラシー「学びのコミュニティ」をデザインする(山内祐平, 岩波書店, 2003)
です。
90年代後半に起こったIT革命以来、世の中は急速に情報化しており、その中で生活する私達にとってあふれる情報といかに向き合っていくかということは、重要な課題になってきます。
そこで、そのような情報を正確に読み取って発信していく能力、すなわちデジタル社会における「リテラシー」をいかに学んでいくかということに対する視座がこの本に記されています。
この本では、まず、デジタル社会に必要なリテラシーを情報リテラシー、メディアリテラシー、技術リテラシーの3つのカテゴリに分類しています。それぞれにおいて、歴史的背景および主張する社会に必要不可欠なリテラシーを説明し、どのようなリテラシーが望まれているのかを整理した後、教育分野、メディア分野における研究からこれらの能力の形成を問い直し、最後には実践例も紹介しています。
構成は以下のようになっています。
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はじめに
第1部 混迷する教育とリテラシー
第1章 あふれる情報に対処するための「リテラシー」:情報リテラシーの系譜
第2章 メディアを読み解くための「リテラシー」:メディアリテラシーの系譜
第3章 情報技術と付き合うための「リテラシー」:技術リテラシーの系譜
第4章 混迷するリテラシーの相互関係
第2部 デジタル社会のリテラシーを問い直す
第5章 教育研究から問い直す
第6章 メディア研究から問い直す
第7章 デジタル社会のリテラシーとは
第3部 「学びのコミュニティ」をデザインする
第8章 学校教育における実践
第9章 ワークショップで学ぶ
第10章 学びが埋め込まれたコミュニティ
あとがき
参考文献
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この本が出版されてから10年近く経過した現在の社会では、ソーシャルメディアが発達しており新たなメディアリテラシーの必要性が問われてはおりますが、その基盤となる考え方を学ぶためにも、本書は意義ある一冊だと思います。
また、個人的な感想ではありますが、中盤から後半にかけての教育やメディアに関する歴史的な研究は私が今後進めていく研究において必要な知見をもたらしてくれると感じています。
デジタルメディアが多様化、重層化してきている現在であるからこそ、本書を読んで今一度そのリテラシーのありかたを考えてみてはいかがでしょうか。
p.s. 学際情報学府の入試の出願が近づいてきています。今年も山内研に数名の方が見学に来てくださいました。いろいろ対策すべき事があると思いますが、着実に取り組んでいただければと思います。応援しています。
【青木智寛】
2013.06.30
みなさまごきげんよう。M2の早川克美です.
山内研の必読書籍シリーズ。
4回目は「学びの空間が大学を変える」(山内祐平[編著]ボイックス,2010)をご紹介させていただきます。
日本の大学は今,大きな変革期を迎えています.一方で,この100年、大学の学習空間にはほとんど変化がありませんでした。インターネットの普及による情報革命,社会から高度な専門性を持つ自律的人材の育成が要請されている現在、大学の学習空間はどうあるべきなのでしょうか。この本は,現在求められている新たな学び=能動的学習を支援する新しい形の教室「ラーニングスタジオ」、図書館を、情報を活用した学びの場に変える「ラーニングコモンズ」、対話によって大学を社会に開く「コミュニケーションスペース」の動向を通じて、学習空間から今後の大学像を考えていこうとするものです。
本書の構成は以下の通りです.
【目次】
第1部 教室の変革ーラーニングスタジオ
Part.1 ケーススタディ:駒場アクティブラーニングスタジオ(東京大学)
Part.2 能動的な学びを促進するスタジオ型教室
第2部 図書館の変革ーラーニングコモンズ
Part.3 ケーススタディ:マイライフ・マイライブラリー(東京女子大学)
Part.4 自律と協同の学びを支える図書館
第3部 交流の場の変革ーコミュニケーションスペース
Part.5 ケーススタディ:公立はこだて未来大学
Part.6 開かれた大学を実現するコミュニケーションスペース
本書には先進的な学習空間の事例が多数掲載されており,大変魅力的です.
それゆえに,著者は「成功事例を形だけ真似て空間が機能しないケースは,枚挙にいとまがない」と警鐘を鳴らしています.そして「大学はひとつひとつ置かれている状況が違う.重視すべき学びを抜き出し,それを支援するためにどのような学習環境が必要なのかについて,経営陣,教員,職員,学生がよく話し合い,ビジョンを決める必要がある」とアドバイスしています.
「学びの空間が大学を変える」とは,その大学の学びのビジョンを空間という物理的環境によって可視化し,そこで起こる活動を丁寧に育み,ビジョンを成長させていくことだと,本書を読んで感じます.
【早川 克美】