2013.09.05
みなさま ごきげんよう.修士2年の早川克美です.
厳しい残暑がつづいていますが,ふと空を見上げるとその高さに,名残の夏を惜しむ気持ちとなる...そんな今日このごろ,いかがお過ごしですか?
さて,第4回めとなる山内研OBの方へのインタビュー,
立命館大学経営学部 准教授 八重樫 文(やえがし かざる)さんにご登場いただきます.
八重樫さんと私は,大学が同じ武蔵野美術大学.なんと大学では私が先輩にあたり(笑),そしてもちろん山内研では,私の修士研究で大変おせわになっている大先輩という不思議な御縁.
繊細で骨太,そして何よりしなやかな思考をされる八重樫先輩,あらためてインタビューするのは初めてのことで,どんなお話が伺えるのでしょうか?
ケンブリッジでの学会に渡英する直前の先輩に直撃しました.
◯現在のご所属と,そこでの活動について教えて下さい
立命館大学経営学部で、
デザインマネジメントに関する研究・教育を行っています。
最近の研究としては、
「デザイン・ドリブン・イノベーション(Design-Driven Innovation)」
をテーマに掲げています。
これまでのイノベーション研究分野では、
テクノロジー・プッシュ(Technology-Push)と
マーケット・プル(Market-Pull)という2つの戦略に
焦点が当てられてきましたが、僕はさらにそこで、
デザインがイノベーションを主導する
「デザイン・ドリブン・イノベーション(Design-Driven Innovation)」
という戦略に注目し、研究を進めています。
詳細はこちら。
http://www.amazon.co.jp/dp/4496048795
◯研究を発展させていく上での企みといいますか,戦略をお持ちのように感じます.
研究テーマやフィールドは移り変わっていますが、
僕の根本にあるのは、
「デザインの知見を、まだあまりデザインの考え方が
浸透していない分野に持ち込んでその有用性を示すこと」
というミッションです。
さまざまな分野における研究対象や事象を、
「デザイン」という観点から照射し捉え直していきたいと思っています。
◯教育についてはどのようなお考えで携わられていらっしゃいますか?
教育に関しては、自分が人から「教わる」のが好きでないので、
教えない授業づくりを進めています。
もちろんそれは、学生たちに何の学びも提供しない職務放棄ではありません。
「教えられること」だけが「学ぶこと」ではなく、
学びにはもっといろいろなかたちがあると思い、
いろいろな学びがある大学・授業にしていきたいと思っています。
◯なぜ研究者になろうと思われたのでしょうか?
何かひとつの固定した概念範囲に収まりたくないヘソまがりなので、
○○になりたい、と思ったことはありません。
「研究者」についても同様です。
ただ、辞書を繰ってふむふむ納得している側ではなく、
辞書を新しく書き換える側にいたいなと思っています。
◯キャリアを築く上で大変だったことはありますか?
八重樫さんにはこの質問は必要ないかと思われますが
むしろ,それだからこそ,お聞きしてみたいと思いました.
先にもこたえたように、自分が人から「教わる」のが好きでないので、
何かを習得し、辿り着くのにいつもとても時間がかかります。
たぶん一般には無駄と言われるたくさんのことに悩んでいます。
でもそこをズルしてごまかせないので、しようがないと割り切っています。
そんな無駄な悩みの蓄積がキャリアをつくっていくんじゃないでしょうか。
◯研究者としてのこだわりがあれば教えて下さい
研究者としての信条,ここは譲れない...など
ご自身のモットーをお聞かせいただけたらと思います.
「すでにあること・これまであったこと」の認識・解釈ではなく、
「これからあるべきこと」の探求をしていきたいと思っています。
このコンセプトで、今年度から、
立命館大学デザイン科学研究センターをつくりました。
http://design-science.jp/
◯こだわりの仕事道具などがあればご紹介ください.
こだわりの仕事道具はありません。
常に身軽でありたいと思っています。
筆を選ばずその辺にある適当なもので、何でもつくってしまうのが
かっこいいなと。
◯大学院での研究テーマについておしえてください.
研究の動機や苦労したことなどをお聞かせ願えればと思います.
「情報教育におけるデザイン概念の有用性に関する研究」
http://kazaru.jp/theme/mthesis/mthesis_yaegashi.pdf
当時、教科「情報」が高校で必修化されたところで、
Webサイトをつくる、取材して映像や紙媒体にまとめる、など
そこではデザイン活動に合致・類似するねらいが多く示されました。
しかし、デザイン教育やデザインの知見はほとんど
検討されていなかったので、デザインの知見から情報教育への示唆の
可能性を探りました。
具体的には、当時発刊されていた情報の教科書の記述内容を分析し、
そこにデザインの知見がどう活かされるのかの検討を行いました。
研究の動機は明確にあったのですが、
それをどのような方法で明らかにするのかに苦労しました。
◯大学院時代,山内研究室で得られたものは何だったのでしょう?
社会人院生としてどのように山内研メンバーとして過ごされたのか.
山内研で得られたことがその後,どのように役立っているのか?
これは明確におこたえできます。
「修士論文」という成果物です。
もちろん、その執筆・研究プロセスにおける、
ゼミでの活動、先輩・後輩とのつながり、他の研究者とのネットワークなど
現在に活きていることはいっぱいありますが、それは付帯的なもので、
「論文」という成果が得られなければ、それらはすべて今につながっていない
と思っています。
だから僕は、「修士論文を書き上げる」ということだけを
最優先かつ唯一のミッションとして、山内研メンバーとして過ごしました。
◯最後に研究する上でのアドバイスを後輩にお願いします.
これは私を含め(笑)現役山内研院生にむけてお話いただけたらと思います.
何でもよいのですが、自分の掲げるミッションを大事にしてもらいたいと思います。
研究内容にも研究生活にも、そのミッションをしっかり浸透させてください。
*************************************************************************************************************
私は八重樫さんの辞書には「苦労」という言葉は存在しない,そう思っていました.
「何かを習得し、辿り着くのにいつもとても時間がかかります。
たぶん一般には無駄と言われるたくさんのことに悩んでいます。」
あぁ,外には決して見せないところで多くの時間をかけていらっしゃることを知り,八重樫さんの生きる美学にふれられた気がいたします.
そして最後の言葉,「自分の掲げるミッションを大事に...」は,今の私自身に厳しくも温かく響くものでありました.
八重樫さん,お忙しい中,インタビューに応じてくださり,ありがとうございました.
修士2年のこの時期に,尊敬する先輩のお話が伺えた幸運に感謝いたします.
残暑はしばらく続きますが,みなさまにはくれぐれもご自愛くださいませ.
実りの秋はもうすぐそこです.
拙文におつきあいいただきありがとうございました.
【早川 克美】