2013.07.27

【山内研の必読書籍】「人はいかに学ぶかー日常的認知の世界」

山内研の必読書籍シリーズ、安斎からは「人はいかに学ぶかー日常的認知の世界」(稲垣佳世子・波多野誼余夫 1989年)をご紹介します。

一般的に「学習」というと、いわゆる学校の勉強のような、試験や賞罰などの外的な圧力によって、強制的に管理されながら行うものを想起するかもしれません。本書の主題は、こうした「人間は怠け者であり、学習とは苦しいものである」という伝統的な学習観を否定することであり、人間を「教え手に頼らなくても能動的に環境に働きかけ、みずから学ぶことが出来る有能な存在」として捉えなおすことです。

思えば、私たちは遊びや仕事などの日常的な生活場面において、誰かに教わることなく新たな知識や技能を身につけることができます。一人暮らしを始めたら料理が出来るようになった、卒業論文を書くために統計分析のスキルを身につけた、といった場面を想像するとわかりやすいかもしれません。生活上の現実的必要にかかわる知識や技能は、教え手から教授をされなくても、学び手自身の強い動機付けによってたいていの場合学ぶことが出来てしまうのです。

さらに私たちは、ときに現実的な必要性をも越えて何かを学ぶことがあります。それは、「これはなぜだろう?」「もっと知りたい」といった、知的好奇心に駆動されて学ぶときです。著者らによれば、人間には自分をとりまく世界について整合的に理解したいという基本的な欲求が備わっていると言います。環境内に規則性を見出そうとしたり、新しく得た情報を既有知識に照らして解釈したり、解釈から引き出された予測を確かめたり、ときに予測が外れて当惑したりすることによって、自分なりに納得のいく世界のモデルをつくっていくのです。

本書では、人間を能動的で有能だと捉える新しい学習観に立ちながら、日常生活における人間の主体的な学習についてさまざまな実証研究や事例を通して考察しています。また、それらが他者や文化に支えられながら成立する社会的な過程であることを描き出し、新たな教育実践のあり方について提言を行っています。

特筆すべきは、本書が出版されたのが1989年であるということです。以前にこのブログでも紹介されたアメリカの名著"How people learn"(Bransford et al. 1999)の10年も前に、同じ志向性を持った著作が発刊されていたということは驚くべきことです。学習を専門とする方だけでなく、日々の学びの過程を見つめ直したい全ての方におすすめできる一冊です。

[安斎 勇樹]

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