2013.08.03

【山内研の必読書籍】「日常生活の認知行動」


山内研の必読書籍シリーズ、最終回は伏木田より『日常生活の認知行動』をご紹介します。
この本は、Jean Laveが1988年に書いた『Cognition in practice』 の翻訳書です。
まえがきには、わたしの大好きなこんな一節があります。

「教育の分析は、(中略)他のどんな形のものであろうと、世界との関連を考えずに行うことはできない。というのは、教育とはいうまでもなく、人間が世界に出る準備をするものだからである。」

Laveは、教育が日常の活動に及ぼす影響に着目し、認知理論をもって説明することを長きにわたって吟味しています。
実証的な調査研究を行った上で、生活世界での文化、認知、活動の概念を変えるよう、いくつもの提言をしています。
その根底には、リベリアのヴァイ族やゴラ族の仕立て屋の徒弟が、日常生活において数学をどのように学び、どのように使っているか、ということについての文化人類的な研究があります。
特定の状況での認知活動を、実証的かつ理論的に特徴づけることに静かな情熱をかたむけ、そうした人間の活動が社会的状況の中にあるという特徴をつぶさに描こうとしたLaveの精緻な試みのすべてが、この本には詰まっていると思います。

わたしがもっとも惹きつけられたのは、日常の買い物についての考察です。
Laveは、毎日の活動サイクルの中で、人間が自分の行為を合理化する意思決定のひとつとして買い物をとらえています。
その上で、例えば、200g500円と400g600円はどちらが安いかといった計算には多様な方略があり、それは変化することを明らかにしています。
買い物での計算において何か困難にぶつかったとき、それを克服する努力の過程で1つの選択が引き出され、そうした問題解決の経験がその後のエピソードにつながっていくという見方をしています。

「学校の教室の先生と生徒は「日常活動」に携わっており、それは仕事帰りにスーパーで食料品の買い物をする人や、実験室の科学者と同じである」という言葉に込められたLaveの想いを、しっかりと受け止めながら熟読したいおすすめの1冊です。


参考文献
日常生活の認知行動.jpg
Lave, J. (1988) Cognition in practice. NY: Cambridge University Press.
 (武藤隆, 山下清美, 中野茂, 中村美代子(訳) (1995) 日常生活の認知行動-ひとは日常
  生活でどう計算し、実践するか. 新曜社, 東京)


伏木田 稚子

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