2013.08.26

【突撃OB・OGインタビュー】平野智紀さん(内田洋行教育総合研究所)

こんにちは、M2の吉川久美子です。
先週からはじまりました山内研ブログ初企画、【突撃OB・OGインタビュー】。
第2回目を担当させていただきます。


第2回目となる今回は、平野智紀さん(2007年度修了)にインタビューさせていただきました。学生時代は「ミュージアムにおけるリテラシー概念の意義と領域越境に関する研究」というテーマで研究に取り組まれ、現在は、内田洋行教育総合研究所で働きながら、経営学習研究所の理事や京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センターの嘱託研究員をされています。お仕事をされながら、大学院生時代からの関心事である美術館の学びに関わり続けることは、なかなか簡単なことではないと思い、今回お話をお伺いさせていただきました。


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Q.現在のお仕事内容について教えてください。

 内田洋行教育総合研究所というところで働いています。官公庁や自治体からの受託研究を請け負ったり、教育環境を支援し、評価し報告書にまとめたりする仕事をしている企業内研究所です。今は、教育関係の大規模な調査に関する仕事をしていて、お客さんからの要望をお聞きしてそれをどうやって業務として実装していくかという調整などを行っています。入社して3年目までは調査に関する集計システムの開発をしていました。システム開発は大学院時代にしていなかったので、会社に入ってから一から勉強しましたが、僕のコアはシステム開発ではないと思い、今は調査の中身に関わる仕事をするようになりました。


Q.現在の研究活動について教えてください。

 研究活動をしているという認識はなくて、普通の人が余暇にサーフィンやゴルフをしているような感覚で、仕事以外の時間をどういう風に使うかと考えた時に、大学院の時から関心のある、美術館に関わることをしたいと思ったんです。そこで京都造形芸術大学にたどり着き、対話型鑑賞に出会いました。もちろんアメリア・アレナスとか、書かれたものとしては知っていたけど、実際に触れてこれはすごいと思って。そこからまれ美(シェアハウスやイベントスペースで、対話型鑑賞など新しいアートの楽しみ方を提案する研究会)の活動を始めました。ナビゲーター(作品と鑑賞者をつなぐ声かけなどを行う役割)をしてみたいという気持ちがあって、それだったら練習がてらシェアハウス「まれびとハウス」を使ってくださいと言われて。それなら「まれびとハウス」を美術館にしてしまうというイメージで、まれびと美術館、「まれ美」とその時のイベントを名付けたのが始まりです。
 京都造形芸術大学は、博物館研究でお世話になっていた方に紹介をしてもらったのがきっかけで、去年から研究員の嘱託という形で、会社の仕事として派遣してもらえるようになりました。これまでのプライベートが仕事にもつながってきたのかなという感じ。授業への参与観察をしつつレポートを執筆するので、京都に一番行っていた時期は、週1回行っていた時もありました。
 MALLの理事になったきっかけは、大学院生のときから代表理事の中原先生のイベントのお手伝いをしていて、関わりがあったということもありますし、僕が就職をしてから「まれ美」をはじめ、いろんなかたちでイベントをするようになって、その時に、自分たちが何者なのかを表すものがないということがネックになったことがあったんです。たとえば、毎回のイベントのお金を持ち越せないとか、領収書の発行者名をどうするかとか。それで、外向けに活動する時に受け皿になる箱が欲しいなと思って、そういう団体をたちあげようかと話していた時に、中原先生に声をかけてもらったんですね。MALLの理事は8人いて、それぞれラボを持って自分たちのイベントをしています。実務家と研究者をつなぐ組織なので、会社勤めの人も理事にいます。


Q働きながら美術館の学びに関わり続ける、モチベーションは何ですか?

 改めて聞かれると・・・なんだろう。でも単純に面白いと思っている事をしています。「まれ美」で、作品を鑑賞していろんな人がいろんなことをいうのは面白い。僕が選んできたその作品についてどんな話が出てくるのか毎回違って、その人となりがなんとなくわかる気がするし、鑑賞するということ自体が単純に楽しいと思っています。ちょっと偉そうかもしれないけど、僕のスタイル、僕にしかできないイベントではないかとも思っているかも。スタイルというのは、対話型鑑賞自体の進め方もそうだし、鑑賞イベントをまれ美というかたちでパッケージングすることもそう。美術館のギャラリートークをするのとは違うことをしたい、学校の教室で対話型鑑賞するというのとも違うことをしたいと思っています。


Q大学院での生活は、どのように現在のお仕事や研究活動に活きていらっしゃいますか?

 仕事の中身というよりは、人とのつながりが大学院で出来たのかなと思う。会社で中原研究室やMALLのイベントをやらせてもらったりすることが結構あったのだけど、これって内田洋行から中原先生にお願いしてもなかなか実現しないことだと思います。仕事で国の受託研究とか自治体と関わることがある中で、教育の情報化に関わりの深い会社でもあるから、教育工学とのつながりも近い。大学院で知り合った人たちが、そのまま仕事のつながりにもいきているっていうことがあるのかなと思います。


Q研究する上でのアドバイスをお願いします!

 1つの研究で出来ることは意外と小さいということ。壮大な関心を持って大学院に入って、いろいろと打ちのめされて今があるかもしれないですが、研究では個別具体的な事象しか扱えません。でもそういった個別具体的なものを壮大な問題関心から見てどう捉えられるかを考える。ちょっと前に、中原先生が博論の話でU字の旅だと言っていました。高みの世界から個別具体的な世界に降りてきて、もう一度、高みの世界に位置づけると。RQを立てるために、自分のこだわりをひたすらリストアップしてみるといいと思います。僕なら美術館はこういう場所だというリストを挙げていって、どこまで削ったら嫌になるかということをしてみる。ここを削ったら嫌だと思うところが、コアなところなのではないかと思います。研究でできるのは1つの変数を変えることしかできないので。何かを削ったり別の何かをぶつけたりした時に嫌だと思ったら、そこに何かがあるということだと思います。


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 平野さんとは個人的に美術に関する学びに関心を持っているという点で、日頃からお世話になっていましたが、今回のインタビューで改めてこれまでの活動やこだわりについてお話を伺える機会を持つことができました。その中で、「単純に面白いと思っている事を続けている」、「どこまで削ったら嫌になるかを考えてみる」とお話されていたのが印象に残っています。自分が好きなこと、面白いと思うことがあってこそ、研究や活動が続けられるのではないかと感じました。しかし、大事にしていきたいと思うのですが、意外と自分が思っていたよりも好きなことの正体が漠然としていて、個別具体的に見えずに悩むこともあります。そんな時に「これが無くなってしまったら嫌だ」と感じる気持ちが、実は自分のこだわりを一番よく教えてくれるのではないかと思いました。
 お忙しいところ、お仕事帰りにインタビューに応じてくださり、本当にありがとうございました!


【吉川久美子】

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