2013.08.29
こんにちは,M2の吉川遼です.
山内研のOB・OGインタビュー,第3回目は中杉啓秋(なかすぎ・ひろあき)さんにお話を伺います.
中杉さんは山内研究室の第一期生で、在学中はヘッドマウントディスプレイを活用した歴史学習システム"Past Viewer"を開発され,新しい学習体験を生み出しました.IT mediaによる当時の取材記事はこちらです.
また現在は働く傍ら,情報学環教育部の「情報産業論」の講師も務めていらっしゃいます.
現在,僕自身もヘッドマウントディスプレイを使った新しい音楽学習体験を生み出そうと研究を進めている中で,研究室の先輩でもある中杉さんの研究を参考にさせて頂いていた部分も多く,Past Viewerの制作に至った経緯などを知ることができたらと思い,今回中杉さんにインタビューさせて頂きました.
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●自分の動機と教育とのかけ算
―Past Viewerの研究に至った経緯は
もともとはドキュメンタリーや映像制作をやりたいと思っていました.山内研究室は学習とか教育を研究しているところなので,それらを繋げる接点はどこか,というのを考えていたらPast Viewerという形になりました.
研究するからには今までにあるようなテレビ番組を作りたい訳ではなくて,何か新しいメディアの仕組みやコンテンツ,メディア体験といってもいいと思いますが,そういったものを作りたいと考えていました.思いつきレベルかもしれませんが,過去を見ることができたら面白いなと思い「歴史メガネ」を作ろうと思ったのがきっかけです.
研究テーマが決まれば,あとはやるだけなのですが,ここに行き着くまでに山内先生とずっとグダグダと話し合い...,テーマ決めには苦労しました.
もちろん入学時に研究テーマを持っていて,研究計画書も提出するわけですが,そのままそれをやっていいと言われる人はほとんどいません.恐らく色々な先生からの意見でかなり揺れるし,変わると思いますが,僕の場合は自分のやりたいこと,もともと映像を作って人の心を動かしたい,という動機と教育のかけ算をしたところ,これでいけるかな,と思えました.当時キーワードとなっていた「マルチメディア学習」を中心に国内外様々な先行研究を調べ,マルチメディア教材の実物を見に行ったり...,と泥臭いリサーチ作業を経て研究テーマを決めました.
やはり動機が重要というか,結局自分がやりたいことじゃないとなかなか前進しないですよね.僕の場合一期生だったので先輩はいませんでしたが,周りを見るとテーマ決めで一年以上先生にダメ出しされて,ぼろぼろになっている後輩もいたので,やはり自分の動機を見つけて,かけ算をすることで新しい組合せを見つけていくことが重要なのかな,と思います.
●新しいメディア体験を生み出す
―開発する際に苦労した点は
HMDを借り,地道に実験をしていました.当時はiPadのようなタブレット端末もなかったので,ノートPCとHMDを繋いでみて,情報を現実空間に重ね合わせてみるとどんな風に見えるのかな,という素朴な探求心で一歩前進して一歩後退しながら開発を進めていました.例えばパワーポイントで黒い背景に文字だけ配置したスライドをHMDで見ると文字だけ浮かび上がって見えてくるのですが,「面白いなこの感覚」と思っていました.
―その後,かなり幅広い層の方に向けて実験をされていましたが,その際の体験者の変化についてどう感じましたか
たまたま東大は場所が近く,色々な資料が残っていることもあり,写真などを新聞社やNHKに行って貸してもらい,それをHMDを使って重ね合わせてみると,浮かび上がって見えてくるように感じました.古地図を見る感覚と同じで,建物のように時間が経っても変わらないものに当時の輪郭を重ね合わせると,浮かび上がって見えてきて,あたかもそこにタイムスリップしたかのようなメディア体験が得られる.その場にいるからこそ感じられるという,五感を使ったメディア体験はテレビを見ている時との感覚とも違う,新しいものだと感じ,それを検証しようと考えました.
やはり制作をする上でも参考になる先行研究のレビューが結構重要で,当時海外のメディアアーティストで広島の原爆ドームにプロジェクションマッピングをする人がいました.その方はすごく大きなプロジェクタを使って原爆ドームに被災者の声を影絵と共に投影していました.その場で,体験者の声を聴くという,エモーショナルな体験ができる...,自分がやりたいことはそれに近いのかなと思い,そういったアーティストの作品も参考にしながら研究を進めていました.
●食わず嫌いにならずに経験を拡げていく
意外と重要なのが,自分とは全然関係のない領域です.興味が無いものでも,やってみると意外と面白い出会いがあったりします.
どうしても大学院に入ると「専門,専門」になりがちだと思いますが,食わず嫌いにならずに興味のないものでも食べてみると意外と美味しい,ということもあります.それはその人の経験を拡げる可能性があるので,色んなものを食べてみたらいいのではないかと思います.
山内先生も今までWeb-based learningからワークショップまで,様々な研究をされていますし,「○○の専門家です」と閉じない方がきっといいのではないでしょうか.
―専門に閉じない,という話もありましたが,今所属している院生にアドバイスがあればお願いします
どうしても大学院の場合,限られた学会や研究室の中など,どうしても住む世界が狭くなりがちになるので,自分が考えている研究テーマを色んな人にアドバイスを求めてみた方が拡がるのではないかと思います.どこでその拡がりが生まれるか,なんていうことは分からないので,色々な人に自分の考えているテーマや動機を話し,コメントやアドバイスをもらったりするといいと思います.
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中杉さんのお話を伺う中で,専門に閉じず,様々な領域の様々な人に触れる,という話が印象的でした.
普段大学で過ごしていると,知らず知らずのうちに視野が狭まっていることもありますが,普段から幅広い分野に触れて研究を進めていくことで,自然とよい方向へと向かっていくことができるのかな,と感じました.
中杉さん,インタビューにお応え頂きありがとうございました.
【吉川遼】