2013.10.06

【突撃!博士課程座談会】池尻良平 伏木田稚子 安斎勇樹(前編)

こんにちは、D3の安斎です。これまで山内研究室のOB・OGの皆さんに対するインタビューシリーズをお届けしてきましたが、最後の2回は安斎勇樹&伏木田稚子(博士課程3年)から「番外編」として、池尻良平さん(東京大学大学院 情報学環 特任助教)との座談会形式でお送りします。

山内研究室OBである池尻さんは「歴史を現代に応用する学習方法の開発」を博士研究テーマに掲げ、特任助教としてさまざまなプロジェクトに取り組みながら、現在博士論文を執筆中です。実は同世代(1985年生まれ)である3人で、大学院生活を振り返りながら研究についてあれこれと語らいました!

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-博士課程に進学を決めた理由

安斎:そういえば、二人はそもそもなんで博士課程に進学したんですか?

池尻:僕はね、もともと小さい頃から「人類を良くしたい」と思ってたんですよ。

伏木田:...(笑)

安斎:伏木田さん、さっそく苦笑い。

池尻:でも、中学生くらいの時に「僕一人では人類は良くできない」と気がついて。だから自分が良い「教師」になって、人類を良くできる後進を育てようと思ったんです。修士課程に進学したのも、最初は自分が教師として使うための教材を開発するためだったんですよ。

安斎:自分もまだ先に進んでないのに、もう後進のことを考えてたんですか(笑)。

池尻:そう(笑)。それでずっと教師を目指してたんだけど、大学院で研究しているうちに、人のために頑張るというより、研究そのものが面白くなってきて。結局「教師になって後身に人類を良くしてもらうのを期待するか」あるいは「研究者になって自分で人類を良くするのか」を天秤にかけた結果、色んな手応えを感じて、後者を信じてみようと思ったんですよね。最初は、親から「まだ学生やるの?」って反対されましたよ。

安斎:周囲からは反対される場合が多いかもしれないですよね。伏木田さんは?

伏木田:私は、大学に入学したときから修士課程までは行くつもりでした。でも修士課程を卒業したら就職してみたいなとも思ってたんですよね。ちゃんとスーツ着て、丸の内で働きたくて(笑)。

池尻:イメージ全然違う(笑)

伏木田:でも、就職してもいつかは博士過程に進学したくなるだろうなとは思っていたんです。そこで親に相談したら、「あなたは就職したあとで受験する馬力はないから、いつか進学したいと思っているのならわたしたちが助けられるうちに早く行きなさい」と奨めてくれたので、甘えさせてもらいました。安斎くんは?

安斎:僕は、修士1年の夏くらいには進学を決めてたかな。大学生の頃から起業をしていたんだけど、その時に「お金を稼ぐこと」と「面白いことを探求すること」の両立がいかに難しいかということを実感したんです。特にまだ実力や専門性がないうちは、つい日銭を稼ぐことに絡めとられてしまう。山内先生や中原先生のような実践的な研究者像にも影響されたし、「面白いことを持続的に探求できる環境」として、博士課程や大学教員は良い選択肢ではないかと思って進学しました。専門性がないまま独立してしまっても、小さくまとまるだろうなと思ったんですよね。人それぞれ、進学の理由が違いますね。


-博士課程の過ごし方

伏木田:博士課程を振り返ってみて、やっててよかったことって何かありますか?

池尻:自己分析をきちんとして、自分が苦手なことにも積極的に取り組んだことは良かったです。山内研究室っていろんな人がいるじゃないですか。実践が得意な人もいれば、システム開発ができる人もいるし、統計に詳しい人もいる。その中で自分の強みは文献レビューを大量にして、自分の実証研究を理論レベルに上げていくところだと思っていて、修士課程の頃は自分の強みをとにかく活かして頑張っていました。けど、博士課程に上がってからは、自分が苦手なことも20%くらいは頑張ってみようと思って色々挑戦してみたんです。ワークショップもやってみたし、統計も勉強したし、ブログも書いてみたり、苦手な英語で国際会議で発表したり、企業の案件も受けたり、研究会の運営もしてみた。苦手なことを得意にするのは無理なんだけど、あえてそういうことにも少しずつ取り組むことで、人のつながりや研究の幅が拡がったと思いますね。

安斎:博士課程から、というのがポイントなのかもしれませんね。修士課程からあれこれ手を広げすぎると専門性が身につかないしね。ところで、池尻さんは博士課程の満足度に点数をつけるとしたら、何点くらい?

池尻:100点!

安斎:1000点満点ですか。

池尻:低すぎるやろ(笑)。100点満点で、うーん、やっぱり90点かな。-10点は、システム開発がやりたかったのに、プログラミングをちゃんと勉強できなかったこと。それは唯一の心残りです。総じて博士課程はすごく楽しく過ごせたし、やりたいことはほぼ全てやったと思います。

伏木田:へ~。私は50点くらいかも...。本当は、もっとゆっくりのんびりしたかった(笑)。もともとあれこれ詰め込んでやるのが得意じゃないのに、今は締め切りに追われてるから...。私は池尻さんの逆で、実践とかも非常勤以外ではしていないし、自分から何かに挑戦するというより、いただいた仕事をちゃんと受け止めて、取り組みたい。あと今不安なのは、これから一人でやっていけるかどうか。もうちょっと社会調査とか勉強しておけばよかったなーというのがあるので、50点です。安斎くんは何点?

安斎:...65点くらいかなぁ。いや、基本的にめちゃくちゃ楽しいですよ。書いた論文や書籍にも満足してるし、最近では企業からも多く仕事を頂けるようになって、やりがいもある。けど、なんだろう、やっぱり大変ですよね。博士2年くらいから仕事が増えすぎてしまって、だんだん論文をじっくり読んだり、集中して研究できる時間が少なくなってきていて、博士課程のうちからこれじゃダメだって思うよね。あと、海外にもちゃんと行きたいですね。


-なぜ大学教員になるのか

伏木田:あ、私もう一つ博士課程に進学した理由があった。一つのところで長く、じっくり、働きたくて。

池尻:僕は真逆だわ。研究者って深い研究アイデアが枯れたら終わりだなと思っているところがあって、できるだけ「研究者」でいたいけど、早ければ10年で終わりだと思っているから。

安斎:映画『風立ちぬ』的な研究者像ですね。もうあと残り5年くらいですね(笑)。

池尻:でも、自分の納得いく研究ができなくなったら、研究者じゃなくて、もともとやりたかった高校教師になるのも良いと思ってますよ。

安斎:そうなんだ!いまはなぜ大学教員として研究するんですか?

池尻:研究の時間を確保できるかどうかだと思う。今は研究に没頭したいから。教師をやりながらはさすがに時間的に難しいし、独立してフリーの研究者になるには生計が成り立たない。バランスを考えたら、大学教員が一番良いんじゃないかな。

安斎:それは僕も思います。僕らは大学教員の仕事である「教育」もフィールドにできるから、生計を立てながら研究がしやすい領域ですよね。

伏木田:私がいいなと思ってるのは、なんか「学者」って響きが好きで。

安斎:え、響き?(笑)

池尻:それ、わかるわ。わかる。わかる。

安斎:めっちゃ共感してる...。

伏木田:それに、ちゃんと頑張って博士研究をして、助教としても研究を続けて、もしいつか大学の教員になれたら、何かテーマを持ってる方々と一緒に新しい研究がやり続けられるかなって。それまでにちゃんと技術を磨いておけばね。

池尻:自分のテーマじゃなくていいの?

伏木田:たぶん私はゼロからアイデアを出すのはあんまり得意じゃないから、そういうことが出来る人と一緒に組んで研究している方が、多分楽しく、気持ちよくできるかなって。

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-面白いアイデアを見つけ、その面白さを伝える工夫をする

池尻:研究者は、本当に自分が好きなことが出来るから良いよね。会社だったら自分のやりたいことを社内で説得できなかったらやれないじゃないですか。研究者は自分の才能一本で勝負が出来るところが、面白い。

安斎:それについては異論がありますね。

伏木田:ふふ(笑)。

安斎:修士研究までは確かに好き勝手に出来るかもしれないけど、大学教員としてやっていくとしたら、大学に就職しなきゃいけないですよね。大学の研究費は年々減らされてるわけですから、資金調達のことも考えれば、それなりに社会に価値を感じてもらえる研究をしていかないといけないじゃないですか。

池尻:え~。いやいやいや、社会って誰?それは現代を生きている人のことでしょ?

安斎:そうですよ。もちろん現場のニーズに迎合する必要はないんだけど、自分の好きなことをやりながらも、現場の人に対してもその面白さをちゃんと伝えられて、資金を調達できるスキルがあったほうが、好きなことが出来るじゃないですか。

池尻:いや、違うね。

伏木田:...ねえ、いっつもお酒飲みながらこんな話してるの?(笑)

安斎:そうだよ、毎回(笑)。

池尻:お酒飲んだらもっとひどいで(笑)。

伏木田:すごーい!(笑)

池尻:...話を戻すけど、そういうアピールをやらなきゃいけないのは、本質的にそもそも選んでる研究テーマがみんなの心に響いてないんですよ。みんなが直観的に「これはすごい」と思える、深くて意味のある研究テーマが設定できていれば、お金はあとからついてくると思う。例えばカントは、本質的にみんなが興味を持つテーマを設定していたから、何百年も参照され続けてますよね。そのくらいを目指して研究テーマを作れば、お金や人はついてくるんじゃないかな。本質的に面白い研究だったら、「営業」にはそんなに力を入れなくても良いと思う。

安斎:それはわかりますよ。僕も周囲の人を惹きつける研究テーマは必要だと思う。つまらない研究をテクニックで演出したって意味がないですよね。けど、池尻さんは今から300年後とかを見据えてるじゃないですか。確かに自分の研究で300年後に価値が残せたら良いなとはもちろん思うけど、僕らはそもそも応用領域の研究者で、現場に関連する研究を求められていますよね。現実的には、現場のステークホルダーを巻き込みながら、実践のリアリティを積極的に理解して、自分の研究の価値をアピールしながら研究テーマを育てていかないと、短・中期的には良い研究ができないんじゃないですか。

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池尻:いや、それはさぁ、ステークホルダーって言い方は非常に現世的な考え方で...。

安斎:「現世」って(笑)。

伏木田:おもしろい、このやり取り(笑)。

池尻:僕は現世のステークホルダーよりも、研究者コミュニティとして、100年前の研究者たちから、100年後の研究者たちにつないでいく研究がしたいんですよ。先人を超えて、次世代に手を伸ばしたいんですよ。

安斎:確かに、そういうカードゲームを作ってましたもんね。僕は、現世の人たちと創発的コラボレーションがしたいのかもしれない(笑)。

伏木田:でも、私は学振に落ちたときに、2つとも大事だと思いましたよ。本質的に面白い研究をしていることと、それがきちんと届く書き方のコツを知っていること。論文を書くときも、科研費をとるときも、常にその2つは走り続けていくことだと思います。池尻さんだって、なんだかんだそういうテクニックも使ってますよね??

池尻:...使ってるね(笑)。でもね、やっぱり、今の自分の研究テーマが実現したら、子どものころに思い描いた「人類を良くする」ことにつながると本気で思ってるんです。たとえ現時点でそれが評価されなくたって、今は気にしない。それで悩んでいても人類は良くならないし、お金が無くたって研究すればいいんだから。もしやっていくうちにみんなに認められて、お金がついてきたらそれはそれで良いんじゃない、っていうくらいの気持ちで研究していますね。

(後編に続く)


[安斎 勇樹]

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