2013.09.27

【突撃OB・OGインタビュー】 柴田アドリアーナさん

みなさま、こんにちは。
M1の中村絵里です。

先週末の連休は、山内研の現役ほぼフルメンバーとOB・OGの諸先輩方が一堂に会する年に一度のビッグイベントがありました。日本教育工学会(JSET)の全国大会です。第29回目の今年は、秋田で開催されました。
秋田の会場では、これまでお名前を伺うだけだった山内研のOB・OGの方々や、本インタビューシリーズで登場した先輩方にもお会いすることができ、まるで、物語の登場人物に現実世界でも出会えたような感動を覚えました。
JSET全国大会では、他大学の著名な先生方の発表を間近で聞くことができたり、また、他大学の研究領域の近い先生および院生と知り合える機会があったりと、大変刺激的で、充実した3日間でした。

さて、今回インタビューさせて頂いた山内研のOGをご紹介します。

柴田アドリアーナさん(2012年3月修士課程修了)です。
柴田さんは、日系ブラジル人(御祖父が日本人)で、2009年~2012年までの約3年間日本に留学され、「在日ブラジル人児童を対象としたデジタル日本語教材の開発」について、研究なさいました。
柴田さんは、昨年ブラジルに帰国されましたので、実際のインタビューではSkypeTMのビデオ通話を利用してお話を伺いました。日本は夜、ブラジルは朝、半日の時差を超え、地球の裏側との会話を楽しみました!

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Q1:まず、日本に留学しようと思った理由を教えてください。

日本には、留学前にも訪れたことがありました。
初めて日本に行ったのは、1999年。ブラジル現地の日本語学校に在籍する生徒を対象としたJICAの研修で、1ヵ月間横浜に滞在し、日本の中学校に体験入学しました。
2度目の訪日は、2008年。日本の外務省による招へいプログラム「21世紀日伯指導者交流計画」Invitation Program for young leaders between Japan-Brazil - Pop Culture (1)に参加しました。2008年は、「日本人ブラジル移住100周年」で、当時グラフィックデザイナーの仕事をしていた私は、100周年の記念切手のデザインをしました。このときの記念切手のデザインの仕事がきっかけとなり、日本語学校の先生からこのプログラムの紹介を受け、参加することになりました。

日本滞在中、日本の音楽、アニメ、料理などのPOPカルチャーを体験しました。また、プログラムの一環で、在日ブラジル人の住人が多い群馬県大泉町を視察し、日本の公立中学校とブラジル人学校の生徒と交流しました。その時、日本に住んでいるブラジル人の子ども達向けの教材に興味を持ちました。当時、グラフィックデザインの仕事に加えて、ブラジル現地の日本語学校で初級日本語を教えていたこともあり、日本語および日本語の指導教材には関心があり、「もっと楽しく、効果的に日本語を教えることができないか」と考え始めました。

ブラジルに戻ってから、日本語学校の先生に相談をしたところ、それなら、日本の大学院に留学して、在日ブラジル人のための日本語教材を開発する研究をしてみたらどうかと勧められました。幸い、二つの大学院に合格内定。一つは九州にある大学院で、主にデザインを学ぶコースでした。もう一方が、東京大学大学院学際情報学府でした。山内研究室では、教育や学習環境について多面的に学べるとわかり、東京大学大学院に進学することを決めました。


Q2:留学中、苦労したことはありますか。

履修した授業は、ほとんどが日本語による講義でした。日常生活の日本語には苦労しませんでしたが、日本語で授業を受けるのはやはり難しかったですね。特に専門用語や学術用語には、初めのころは随分戸惑いました。山内研のゼミでは、教育用語や心理学の用語なども出てきますし。日本語に不安があったので、レポートなどでは山内研の先輩や同期に、日本語の誤りを直して頂き、たくさん助けてもらいました。山内先生をはじめ、ファシリテーター、研究室のメンバーにはいつも懇切丁寧にサポートして頂き本当に感謝しています。
I really appreciate the support I received from professor Yamauchi, my colleagues and Facilitators during all the process. They were all very kind and patient!


Q3:現在の仕事について教えてください。

帰国後の初めの1年は、逆カルチャーショックを受けてしまい、混乱しました。ブラジルに帰国したのが正しい選択だったのかと何度も自問しました。

今は、主に二つのことに取り組んでいます。
一つは、留学前と同じグラフィックデザインの仕事です。在ブラジル日本大使館・領事館やJICAからデザインの仕事を受けたりしています。昨年の6月にリオ・デジャネイロで「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」が開催された時には、JICAブースのポスターを制作しました。郵便局の仕事も受けています。2008年の日本人ブラジル移住100周年に加えて、2012年には、華人ブラジル移住200周年の記念切手、Rio+20の時には「風力発電」をテーマにした記念切手もデザインしました。

もう一つは、公務員試験を受けるための勉強です。ブラジルの中央銀行が運営する組織で、遠隔教育プロジェクトを導入した大学も設置されています。私は、Management and Procedural Analysisの分野を受験しますが、試験科目の中には、一般科目に加えて専門科目があり、組織学習(Organizational Learning and Education)、コミュニケーション理論、ビジネスマネジメント、行政法、民法などが含まれます。実はこの公務員試験に「組織学習」の科目が導入されたのは初めてのことで、その科目に関心が高かったので受験することにしました。組織学習には、教育理論、指導デザイン、知識マネジメントのテーマがあります。今は、山内研の合宿で学んださまざまな理論の復習をしています。ピアジェ、デューイ、ヴィゴツキーなど、、、合宿が懐かしいです。

今後ブラジルでは、遠隔教育に人材が必要になってくるので、人の学び、組織の学びについてさらに知識を深め、この分野で仕事をしていきたいと願っています。合格したら、こちらの企業内大学(Corporate University)で働きたいです。教育分野で仕事ができますし、おそらくデジタル教材関連の仕事にも携われるからです。山内研で学んだことと関連の深い分野ですので、留学時代の学びが今につながっていると感じます。


Q4:日本での留学生活をふりかえって、印象に残っていることは何ですか。

山内研の毎週のゼミと研究室における学習環境です。山内先生のご指導のもと、専門性を持った助教、先輩方と一緒にゼミで討議できたこと、山内先生が創り上げるゼミと研究室の組織構造、それらは特に印象に残っています。

そして、日本の社会構造。留学中の2011年3月に東日本大震災が起こりました。あれほどの大災害があったときでも、落ち着いていられました。シェアドハウスの友人と一緒にいて、励まし合えたからという理由もあったとは思いますが、それ以上に日本の社会が安定していることが心の平穏を保つことができた要因でした。もしブラジルで同じように大きな地震などがあったら、きっと不安が大きかっただろうと思います。自分自身も、そしてブラジル社会全体も。


Q5:最後に、山内研究室の後輩に向けて一言メッセージをお願いします。

豊かな情報があり、助けてくれる人がたくさんいる。研究をするのには素晴らしい環境だと思います。たくさんのアドバイスが先輩や同期からもらえるので、それらを大切にしてください。
Focus! You are surrounded by tons of information and people who are extremely capable to guide you through the process. So, take your time to absorb this information and reflect upon your project.


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柴田さん、この度は、突然のインタビューご依頼にも関わらず、快くお引き受けくださりありがとうございました。
昨年6月に、リオ・デジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議(Rio+20)」の際は、私は仕事として日本の外務省の展示ブースの企画・制作に携わっていたのですが、Rio+20と関わる仕事を柴田さんもされていたとわかり不思議なご縁を感じました。
また、柴田さんが山内研における学びを活かして、今も関心分野を深めるべく次のステージに向けて努力しておられると伺い、人間の学びは、生涯続いていくものだと改めて感じました。柴田さんからアドバイス頂いたとおり、山内研の豊かな学習環境に感謝しながら、一つ一つのゼミや先輩・同期の仲間との関係を大切にして、これからも研究に邁進したいと思います。

※インタビューは日本語で行いましたが、部分的に英語で補足して頂いたところは、そのまま柴田さんの英語を入れています。

【中村絵里】
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(1) 外務省 平成19年度招へいプログラム「21世紀日伯指導者交流計画」http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/latinamerica/kouryu/seinen/brazil07_gh.html

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