2015.07.15

【最近気になっているキーワード】熟達化

こんにちは。M1の杉山です。早いもので、夏学期が残すところわずかとなりました。一学期間、先行研究を調べる作業を続けてきましたが、自分の研究関心が本当のところどこにあるのか迷いが生じてきたり、一方で当初は注目していなかった分野に関心が出てきたりと、多くの変化を経験しました。これもしっかり学習になっていると良いな。

【最近気になっているキーワード】、今回とりあげるのは熟達化(expertise)です。辞書には、熟達とは「熟練して上達すること。なれて、上手になること」だと記されています。熟達化の研究は、「上手になること」とは具体的にどのような知識や能力を獲得することなのかを明らかにしたり、その要因は何かを特定しようとしたりする試みだと言えます。


■ 熟達化の領域
私たちが日常的に行っている行動、転ばずに歩いたり、文字を読んだりするようなことも、熟達の結果として可能になったものです。その意味で、熟達化はあらゆる領域が対象だとも言えますが、研究の多くは熟達者が限られている領域を対象にしています。例えば、チェスや碁などの競技ゲーム、スポーツ、美術や音楽、演劇などの芸術分野が挙げられます。研究では、こうした分野の熟達者(expert)と、初心者(novice)を比較することで、熟達化の特徴を明らかにすることができます。


■ 熟達者の特徴
熟達者の種類には、手際のよい熟達者・定型的熟達者(routine expert)と、適応的熟達者(adaptive expert)があるとされています。前者が、同じ手続きを効率的に行うのに長けているのに対し、後者は課題や状況の変化に柔軟に対応したり、創造性をもたらしたりすることに長けています。熟達化研究は、長らく手際のよい熟達者の効率性(早さや正確さ)に注目してきましたが、現在では適応的熟達者の研究も蓄積されつつあるようです。

岡田(2005)によれば、熟達者がもっている知識には、構造化・体系化された領域知識と、メタ認知能力の二つの側面があります。熟達者は、やみくもに知識が多いのではなく、パターンやまとまりをもった知識をもっています。それゆえ、効率的な記憶ができたり、新たな課題に直面した時に適切な戦略を組み立てたりすることができるのです。同時に、熟達者は、いま自分がどのような能力をもっていたりパフォーマンスをあげたりできているのか、自ら評価することができます。熟達者は、多くの有用な知識をもっているだけでなく、自分ができることと、できないことを客観的に理解できる人だと言えます。


■ 熟達者になるには
一つの領域において熟達者になるには、おおむね1万時間の訓練が必要だと言われ、「10年ルール」という言葉になっています。また、その訓練では、個人のレベルにあっていて適切なフィードバックが与えられるような「よく考えられた練習 deliberate practice」が欠かせないと言われています。ほかにも、作品発表や試合などの重要な状況に直面したり、熟達者と同じ共同体で一緒に活動したりすることが、効果をもたらすとされています。

岡田(2005)は、創造的領域における熟達化において必要なこととして、ある程度の才能、内発的動機づけ、課題にかける時間、よく考えられた練習、知識の構造化のための自己説明、社会的サポート(良い教師やメンターの存在)、社会的な刺激を挙げています。長い時間をかけた活動は、その活動が好きでないと続かないし、周りの人々の応援もないと続けられないでしょう。熟達者(上手な人)は、才能のおかげで熟達者になったとは、一概には言えないのです。


以上、簡単にですが、熟達化の概要をご紹介しました。今回とりあげたのは、熟達化のごく一般的な特徴ですが、各領域によって熟達者の知識は異なってきます。私が関心のある舞台芸術においても、音楽家や俳優、ダンサーの熟達化研究がなされています(例として、安藤 2011)。

熟達化について記事を書いていて感じるのは、「初心者〜中堅くらいの人のことが知りたい」ということです。熟達者のことは分かった、では、そういった人たちに近づいていくための道筋は、私たちに用意されているのだろうか。いまその途上にある人たちはどのような経験をしているのだろうか。あるいは、私は「アマチュア」に関心があるけれども、熟達化においてアマチュアはどう位置づけたら良いのだろうか。このような思いを強めました。山内研のOGである森玲奈さんの研究は、初心者からベテランに至るワークショップデザイナーの熟達過程を明らかにされていて、そのような関心に答えている研究だと感じます。これから修士研究を固めていくなかで、熟達化に対する自分の関心もうまく取り込んでいきたいと思います。

杉山昂平


参考文献
安藤花恵(2011)演劇俳優の熟達化に関する認知心理学的研究. 風間書房.
今井むつみ・岡田浩之・野島久雄(2012)新・人が学ぶということ:認知学習論からの視点. 北樹出版.
森玲奈(2015)ワークショップデザインにおける熟達と実践者の育成. ひつじ書房,
大浦容子(1996)熟達化. 波多野誼余夫(編)認知心理学5 学習と発達, 東京大学出版会, pp.11-36.
岡田猛(2005)心理学が創造的であるために:創造的領域における熟達者の育成. 下山晴彦(編)心理学論の新しいかたち, 誠心書房, pp.235-262.

2015.07.06

【最近気になっているキーワード】アフォーダンスとシグニファイア

みなさま、こんにちは。
M2の松山です。
夏が近づいてきましたね!
研究に集中できるように、今年は夏バテ対策をがんばりたいと思います。

さて、【最近気になっているキーワード】ということで、私が紹介したいワードはこちら!
アフォーダンス」と「シグニファイア」です。
人工物やUIなどに興味がある方は、アフォーダンスという言葉には聞き覚えがあるのではないでしょうか。
イス、ドアノブ、スマートフォン、WEBページ...
私たちの日常的に使っている人工物は、常に誰かの手によってデザインされています。
これらのデザインについて考えるとき、非常に重要になるのがアフォーダンスやシグニファイアといった概念です。
しかし、このふたつの概念は混同されやすく、誤用されることもよくあります。
認知科学者のD.A.ノーマンは、デザインについて考えるとき、ふたつを区別することが重要であると主張しています。
ということで今回は、アフォーダンスとシグニファイアについて説明していきます。

◯アフォーダンス
心理学者のJ.J.ギブソンが「afford(~を与える、~できる)」からつくった造語です。
アフォーダンスは、物理的なモノと主体の関係を指しています。
たとえば、目の前に椅子があるという状況を想像してみてください。
その椅子には、「人」が「座る」というアフォーダンスが存在するはずです。
その他に、「人」が「持ち運ぶ」というアフォーダンスもあるかもしれません。
しかし、もしその椅子が持ち運べないほど重い長椅子だった場合、後者のアフォーダンスは存在しません。
また、もしその椅子がパイプ椅子だったとしても、主体が3歳の女の子だった場合は、やはり後者のアフォーダンスは持たない可能性が高いでしょう。
ここからわかるように、アフォーダンスは性質ではなく関係性なのです。
アフォーダンスは、主体が何かとどうインタラクションできるかの可能性を示します。
ここで重要なのは、アフォーダンスは、それが知覚されていなくとも存在するということです。
椅子の例で言うと、たとえ主体者が「持ち運ぶ」ことを思いつかなくとも、もしくは「持ち運べない」と思っていても、それが主体者に持ち運べる以上、持ち運ぶというアフォーダンスが存在するということになります。

◯シグニファイア

シグニファイアはノーマンが提唱した言葉で、アフォーダンスが存在することを示す特性を指します。
たとえば、目の前に何もついていない真っ平らなドアがある状況を考えてみます。
このドアには「人」が「押す」というアフォーダンスがあるとします。
しかし、人はこのドアの前に立ったとき、「開くのかどうか」、「開くとすれば、自動なのか、手動なのか」はわかりません。
では、このドアの、ちょうど手を伸ばすと触れるあたりの位置に、手のひらより少し大きめの平らな板がついていたらどうでしょうか。
「このドアは押せば良い」ということが瞬時に理解できるはずです。
これがシグニファイアです。
つまりシグニファイアは、「これはこのように使えますよ」と伝えてくれる、知覚可能な手がかりと言うこともできます。
また、シグニファイアは、ドアの例のように意図的なものもあれば、偶発的なものもあります。
たとえば、「雪道につけられた足跡から、歩くことのできる道筋を知ることができる」といった場合の足跡もシグニファイアと言えます。

違いがわかったでしょうか?
ノーマンは、ふたつの概念の役割について、今年出版された『誰のためのデザイン? 増補・改訂版』で以下のようにまとめています。

"アフォーダンスは、どのような行為が可能かを決定する。
シグニファイアは、どこでその行為が行われるべきかを伝える。
我々にはどちらもが必要だ。"(pp.18-19)

ノーマンの本を読んで、「今までアフォーダンスだと思っていたものはシグニファイアだった!」と驚かれた方もいるかもしれませんね。
私も学部生のころ、アフォーダンスという言葉を間違えて認識していました...。

こういったデザインに関する知識は、教育工学の分野でも役立つと思います。
特に私は開発研究をしているので、自分が開発したものをユーザがどう使うように促すべきか考えることはとても重要です。
というわけで、気になっているキーワードとして紹介させていただきました。

次回からはM1のターンです。
引き続きお楽しみに!


【松山彩香】

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参考文献
Norman, D. A. (2010). Living with Complexity, The MIT Press.(=2011, 伊賀総一郎・岡本明・安村通晃訳『複雑さと共に暮らすーデザインの挑戦』, 新曜社)
Norman, D. A. (2013). The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition, Basic Books.(=2015, 岡本明・安村通晃・伊賀総一郎・野島久雄訳『誰のためのデザイン? 増補・改訂版 ー認知科学者のデザイン言論』, 新曜社)

2015.06.28

【最近気になっているキーワード】協同学習(cooperative learning)

こんにちは。世間はすっかり梅雨ですね。
雨が降ると傘をささなくてはいけなくて、私の自由が少し奪われるので、梅雨はあまり好きではありません。
かといって、うだるような暑さが続く夏がきて欲しいかと聞かれれば悩ましいものですね。
そんなことを考えても季節は巡りめぐるものなので、おとなしく時の流れに身を任せたいと思います。

さて、前回にひきつづき、【最近気になっているキーワード】というテーマでお送りしています、今回のブログは協同学習(cooperative learning)です。

21世紀スキルの登場や、2020年度の入試改革に向け、「思考力、判断力、表現力」の重要性がましており、そのような社会の流れをうけ、グループ学習に関連する理論に注目が集まっています。

--協同学習(cooperative learning)--

Johnson & Johnson (1994)は協同学習を以下のように定義しています。
「学習者自身と成員相互の学習を最大化するため共に学習する小集団の教授的活用である。」

協同学習においては、共通の目的達成のために、共に作業し、自分だけでなくグループメンバー全員にとって利益のある結果を追求することを特徴としています。

またジョンソンは、協同学習を成立させる基本的な5つの構成要素を示しています。
⑴肯定的な相互依存関係(仲間が成功しない限り自分も成功しないという構造にあること)
⑵対面での促進的な相互作用
⑶個人の責任(個々人が課題達成に対し努力する必要があることを認識していること)
⑷社会的スキル(対人・集団に必要なコミュニケーション能力の必要)
⑸グループプロセスの振り返り(グループのやり取りの中で、良かったこと改善した方がいいことなどを学習者自身が振り返る機会を与えること)
   
現在までに、膨大な数の協同学習に関する研究の蓄積がありますが、それらの研究の学習効果は主に3つに分類されます。
⑴学業達成
⑵対人関係
⑶個人の心理的適応・社会的スキルの獲得

学業達成の効果には、成績の向上だけでなく、批判的思考やメタ認知的思考などの高次な能力も含まれます。
また、協同学習の特徴として、他者と関わり合いながら学ぶことで、積極的な対人関係が築かれることや、自己肯定感が向上するなど、テストの点数などいわゆる"学習成果"と呼ばれるもの以外にも、重きが置かれていることがあげられます。

似たような用語に協調学習(collaborative learning)があり、両者の違いを説明する議論が展開されています。
協調学習の中心的な考えは社会的構成主義を背景としており、伝統的な学習観では、教師から生徒へ一方的に与えられるものとされていた知識を、学習者の中から創られるものであると捉えていることが特徴です。

Paniz(1996)は、協調は相互作用の哲学であり、また個人の生き方であるとし、協同をグループで共に作業することを通して最終成果物や目標の達成を促進する構造化された相互作用だと区別しています。

また、Kirscher (2001)は、協同学習を、協調学習よりも教師によって統制され、構造化された相互作用過程であると述べている一方で、両者の違いよりも共通項の方が多いことを指摘しています。
・学習は能動的に行われる。
・教師はステージにいる賢者ではなく、ファシリテーターである。
・教えることと学習することは経験を共有すること。
・生徒は、小集団での活動に従事する。
・生徒は学習に責任を追わなければならない。
・仮定や思考過程を振り返るように刺激される。
・社会・集団技能が合意形成のやりとりを通して発達する。

日本においては、cooperative learningとcollaborative learningにあたる訳語は、学問領域や研究者の意図によって異なりますが、学習科学の領域では、cooperative learningを「協同学習」、collaborative learningを協調学習と訳しています。
認知科学の本では、collaborative learningを「協同学習」と訳されているので、とても混乱しやすいですね。

協同学習、協調学習の違いや共通点については、私自身まだまだ整理が必要だと、このブログを書いていながら改めて感じました。

次回は松山さんです。何を取り上げてくれるのか楽しみですね。
それでは、お弁当が腐りやすい季節になっていますので、みなさんお気をつけください。

逆瀬川

【参考文献】
Kirschner, P. A. (2001). Using integrated electronic environments for collaborative teaching/learning. Learning and Instruction, 10,
Kreijns, K., Kirschner, P. A., & Jochems, W. (2003). Identifying the pitfalls for social interaction in computer-supported collaborative learning environments: a review of the research. Computers in human behavior, 19(3)
Panitz, T. (1999). Collaborative versus Cooperative Learning: A Comparison of the Two Concepts Which Will Help Us Understand the Underlying Nature of Interactive Learning.
David W. Johnson, Roger T. Johnson, Edythe J. Holubec. (1994)『The New Circles of Learning : Cooperation in the Classroom and School』ASCD BOOK .

2015.06.21

【最近気になっているキーワード】21世紀型スキル

東京も梅雨入りしましたね。
洗濯物を外に干せなくて悲しい気分が続くM2の青木翔子です。

今回のブログテーマは、最近気になっているキーワード、ということで、私からは、21世紀型スキルを簡単に紹介したいと思います。

「21世紀型スキル」とは、ACT21S「21世紀型スキルのための教育と評価プロジェクト」(assessment & teaching of 21st century skills, ACT21S)にて定義されている言葉です。

21世紀は、グローバル化・高度情報化が進展し、知識・情報・技術が人の活動を動かしていくような知識基盤社会と呼ばれます。
未知の状況や、答えのない課題に向き合うときには、既存の知識や技術だけでは通用しません。適切な問いを立てたり、情報を収集したり、新しい技術や必要な資源を手に入れたりしながら、対処し、新しいものを創造していくことが求められます。さらに、そういった活動では、他者と協力しあうことが必要不可欠になっていくでしょう。
このように、工業中心から知識基盤社会へと転換している現代において、求められる能力像が変わってきているなかで、教育のあり方とその教育をどのように評価していくべきかを考えるプロジェクトが、ACT21Sです。

21世紀型スキルでは(1)思考の方法、(2)働く方法、(3)働くためのツール、(4)世界の中で生きるに分類され、10個のスキルを定義しています。

(1)思考の方法
   創造性とイノベーション
   批判的思考、問題解決、意思決定
   学び方の学習、メタ認知
(2)働く方法
   コミュニケーション
   コラボレーション(チームワーク)
(3)働くためのツール
   情報リテラシー
   ICTリテラシー
(4)世界の中で生きる
   地域とグローバルのよい市民であること
   人生のキャリア発達
   個人の責任と社会的責任

そして、さらに、それらは、知識、技能、態度のカテゴリから整理されます。
知識:10個のスキルそれぞれに要求される特定の知識や理解のために必要な内容
技能:児童生徒の能力・スキル・プロセス
態度・価値・倫理:21世紀型スキルの一つひとつに関係するような児童生徒の行動や適性

また、このACT21Sプロジェクト以外にも、世界中で知識や技能だけでなく、人間の全体的な能力を定義し、教育目標を設計しようとする動きが広がってきています。
新しい能力を捉えようとする言葉には、key、generic, general, 21st centuryとcompetencies、skills, capabilitiesなどを組み合わせたものが多いようです。ここで、国立教育政策研究所(2013)報告書の図を掲載しておきます。
スクリーンショット 2015-06-17 11.26.22.png
このように、世界の動きを概観すると、基礎的なリテラシー、認知スキル、社会スキルの3つが含まれていることがわかると述べられています。(日本の動きも踏まえ、この報告書では「21世紀型能力」の提案もなされています。)


こういったスキルや教育目標などにはいろいろな感想があるかと存じます。しかしながら、時代や技術が劇的に変わっている・そしてこれからも変わっていくのも事実です。そして、どんなに時代が変わっても、変わらず教育が目指していくべきものもあると思います。
今度、教育とはどのような役割を担っていき、どのような形態になっていくのでしょうか。そんなことを考えるひとつの重要な資材が、21世紀型の能力像だと思います。
同時に、ここでは深く触れませんでしたが、評価のあり方については私たちはもっと慎重に考える必要があるとも思います。

まだまだ私も勉強不足ですので、ちゃんと勉強していきたいと思います。
では、このへんで失礼いたします。

青木翔子

---------------
*参考文献
Griffin. P, McGaw. B, Care. E(2012)Assessment and Teaching of 21st century Skills, Springer Netherlands.(=2014,三宅なほみ監訳、益川弘如・望月俊男編訳『21世紀型スキルーー学びと評価の新たなかたち』北大路書房)
国立教育政策研究所(2013年3月)「社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理(教育課程の編成に関する基礎的研究 報告書5)」『平成24年度 プロジェクト研究調査研究報告書』

2015.06.11

【最近気になっているキーワード】フォーマル学習とインフォーマル学習

みなさんこんにちは。
【最近気になっているキーワード】シリーズ第1回目の今日は、私M2の池田がお送りします。
私が昨今気になっているキーワードは、インフォーマル学習です。


普段、日々を過ごしている中で、授業で何かを習ったりしたわけではないけれど、「あー、勉強になったなー」「学んだなー」と感じた経験はありませんか?インフォーマル学習とは、おそらく、そんなときに起きている学びです。
しっかりした定義を持ってくると、インフォーマル学習とは、フォーマル学習(学校での授業など、組織化され、構造化された学習)と違い、「仕事、家庭生活、余暇に関連した日常の活動の結果としての学習(0ECD 2011)」のことです。
例えば、サークル活動の中で人間関係のトラブルがおきて、それに対応して行くなかで、知識やスキルが身に付いた場合、サークル活動の中でインフォーマルな学びが起きていたということができるでしょう。

フォーマル学習と、インフォーマル学習の違いはOECD(2011)により、下図のようにまとめられています。

スクリーンショット(2015-06-11 19.55.29).png

※OECD(2011)を参考に筆者が作成

フォーマル学習とインフォーマル学習の間にはノンフォーマル学習という学習も存在します。ノンフォーマル学習とは「学習(学習目標、学習時間、もしくは学習支援の観点から)としては明確にデザインされていないが、計画された活動に埋め込まれた学習(OECD 2011)」のことで、ワークショップなどが、それにあたります。


このようにフォーマル学習と、インフォーマル学習は学習の提供者等によって分類されています。しかし、これらの学習が全く持って別ものというわけではありません。昨今では、フォーマルな学びとインフォーマルな学びのつながりに着眼した研究も見られます。
例えば、アメリカの研究では、家庭での数学的経験(くだものの数を数えるなど)が、後に数学を学ぶ際の理解を助けることが明らかにされています(Bevan et al. 2013)。また、日本の大学生研究においても、授業外の活動において、授業で学んだ知識を使ったり、活動に参加する中で、もっと学びたいと思った授業を、学生が履修するようになることが明らかにされています(河井 2012)。


MOOC等オンライン学習やワークショップ、企業やNPOが企画する数々の参加型学習などの広まりと共に、フォーマルでない学びの場もたくさん溢れる世の中になりました。山内先生(2013)が言うように、フォーマルな学習と、インフォーマルな学習がシームレスにつながっていく中で、学習者ひとりひとりが持つ可能性が最大限に発揮できる学習環境が構成されていくと良いですね。


参考文献
Bevan, B., Philip, B., Stevens, R., & Razfar, A. (2013). Lost opportunities : learning in out of school time. Springer.

河井亨. (2012). 授業と授業外をつなぐ学生の学習ダイナミクスの研究 : WAVOCプロジェクト参加学生へのインタビュー調査の分析から. 教育方法学研究 : 日本教育方法学会紀要, 37, 1-12.

OECD(2011). 学習成果の認証と評価 : 働くための知識・スキル・能力の可視化. 明石書店.

山内祐平. (2013). 教育工学とインフォーマル学習(<特集>情報化社会におけるインフォーマルラーニング). 日本教育工学会論文誌, 37(3), 187-195.


池田めぐみ

2015.06.04

【今年度の研究計画】三項関係に着目した幼児の物語行為を支援する学習環境デザインに関する研究

みなさまこんにちは!
今週の【今年度の研究計画】、今年から再入学を果たしたD3佐藤(朝)が担当いたします。

4月から再び学生生活がスタートし、新たなゼミメンバーとも少しずつ仲良くなれ、ワクワク楽しい気分もありつつ、あっという間の2か月です。が、本職の大学業務も含め、山積みのタスクに追われ、まさに体力勝負の日々を送ってます(^^;;


■テーマ■
三項関係に着目した幼児の物語行為を支援する学習環境デザインに関する研究

私の研究テーマは、「話す力」に着目するところからはじまりました。
M1当時、小学校入学直後に息子が激突した「言葉の壁」[*]、私自身が10年ぶりに学び直しで修士課程に入って体験した学習観のギャップ[**]等々、親子ともに「話す」ということが課題になっていたからです。

[*]幼稚園での「身近な人との気持ちの共有を大切にするやり取り」から、小学校での「1対多で他者へ考えを伝える」という状況へと変化し、幼小の隔たりは大きいと言われています。

[**]黙って教員の話を聞けば良かった私がこれまで受けてきた教育から一変、語らなければ始まらないという文化に衝撃を受けました・・・


そんなこんなで修士から博士課程にかけて2つの研究を行いました。

■「幼児の物語行為を支援するソフトウェアの開発」
 http://ci.nii.ac.jp/naid/110006792153/

■「幼児のNarrative Skill 習得を促す親の語りの引き出しの向上を支援するシステムの開発.」
 http://ci.nii.ac.jp/naid/110007520570/


今年度は、この2つの論文をまとめ、「博士論文」として仕上げることが目標です。

ゼミでは博士論文を「合体ロボ」のメタファーで説明することがあります。
研究1と2をどのように合体させていくか・・・合体させるために、現在私には2つの課題が立ちはだかっています。

まず1つ目は、博士研究で取り扱う発達支援が、社会・文化・歴史的アプローチの文脈でどのように位置づくのか?もう1つは、親子支援が主に母子支援となっていることについて、ジェンダーの観点からどのように説明がつくのか?についてです。

幼児教育での言葉の取り扱い、さらには言葉の発達に対する親や教員の意識には文化差があります。そこで日本で発達支援を行う私の博士研究が、他国の発達支援研究の中でどのように位置づくのかについて検討しています。

また、先行研究で当然のように扱われていた「親子=母子」を引き継いだ私の研究において、ジェンダーの視点からはどのように認識すべきなのか、その解釈を述べようとしています。

どちらもとても大きな課題で、右往左往、暗中模索、五里霧中な感じで取り組んでいます。
特に研究室の先輩が仰っていたことですが、業務の合間に思考を研究モードに切り替えるのが本当に難しく、いや元来浅はかということもあるのですが、深く考えるためにも山に籠りたい衝動に駆られてます。


「合体ロボ」は、無理やりつなげも動かなければ意味が無いとも言われてます。
けれど、うまく動けば単体より最強ですよね・・・今年度は、指導教官・助教の方々・ゼミメンバーの力を借りて、少しでも強いロボになるよう粛々と取り組んでいきたいと思います。


【佐藤朝美】

2015.05.31

【今年度の研究計画】オンライン上の学習資源を利用した対面での学びを支援するシステムの開発

皆さま、はじめまして。
M1の原田悠我です。
4月から山内研究室でお世話になっています。

山内研究室の学生になって早くも2ヶ月が過ぎようとしています(恐ろしいことに5月も今日で最後ですね)。私は人を賢くする道具を作りたいと思って山内研究室に入ってきました。九州から来た私にとって東京は様々な面白いイベントが多く、また授業やゼミでは同級生と日々議論するなど充実した日々を過ごしています。いろいろなことに目移りしてしまいますが、大事なことを選び突き詰めていきたいと思います。

ブログのテーマが【今年度の研究計画】ということで、
大学院試験の際に堤出したものを紹介します。



■ 題目
オンライン上の学習資源を利用した 対面での学びを支援するシステムの開発
■ 概要
本研究の目的は、オンライン上の学習資源を利用した学びにおいて、学習者同士が知識や技能を高め合う長期的な学びを支援することである。いつどこにいても利用可能な オンライン上の学習資源は有用である。しかし、オンライン上の学習資源は学習者自身の理解・疑問・疑問に対する 仮説を他者から認識可能な形で整理することが容易でないため、オンライン上の学習資源を利用し学習者同士で理解を深め合う活動を行なうことは難しい。そのためオンライン上の学習資源を利用した学びは、学習者個人の短期的かつ効率的な知識獲得の場となりがちである。そこで本研究では、オンライン上の学習資源を利用した、オフラインでの理解を深める対話を支援するシステムの開発を行なう。
■ 補足
大学院試験の段階では、対話によって互いの理解を深める建設的相互作用を促すことを目標に、システムを提案するところまで具体的に書いていました(ちなみに、システムにはTicketNoteと名前をつけていました)。現在は、もう少し幅広く私の注目する対話の意義について焦点を当ててレビューしています。


私自身、授業とは別に興味のあるオンラインの動画を見つけてきて学習をすることが好きです。しかし、どうしても独りで学習することには限界を感じていました。逆にいうと他の人と話した時に理解が深まる印象を受けています。そのような自分の好きな学習資源を利用し、他の人と学ぶことで、自分ひとりでの学びの限界を越えた学習を支援するシステムを開発したいと考えています。

最後になりますが、今日は大学院の入試説明会でした。お越しいただきました皆さま、ありがとうございました。1年前に緊張と不安を感じながら研究室の紹介を聞きに来たことを思い出しました。山内研のメンバーの研究を他の人に紹介することは、私にとって貴重な経験でした。また様々な背景を持つ受験生の方と議論する楽しい時間を過ごすことができました。受験生の方々は研究計画書の作成や受験勉強など、大変かつ不安な日々をおくられていると思います。体に気を付けて頑張ってください。山内研で待っています。

【原田悠我】

2015.05.21

【今年度の研究計画】心の健康問題を抱える児童生徒の学習支援に関する研究

皆さま、はじめまして。
4月から山内研究室でお世話になっております、M1の長野香織と申します。

他大学の出身の私は、入学から1か月以上経った今でも、赤門をくぐる時には少し緊張してしまいます。しかし同時に、優秀で魅力的な方々が集まっているこの環境で研究ができるということを、素直に嬉しく、そして誇らしく思う毎日です。
さて、ブログのテーマが【今年度の研究計画】ということで、簡単ではありますが、入試の時に提出したものをご紹介します。

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◆題目
「心の健康問題を抱える児童生徒への学習支援に関する研究」

◆概要
近年、心の健康問題が日本全体で問題視されており、不登校になる理由としても「不安などの情緒的混乱」や「無気力」といった心理的な要因が約6割を占める。また不登校の状態にある児童生徒を取り巻く環境として、適応指導教室やフリースクールなどの場所が挙げられるが、それらの場所においては「学習」に対する優先順位が低く、その環境が十分に整えられているとは言い難い。これらの背景から、本研究では、不登校の児童生徒を精神面からも学習面からもサポートできるシステムを提案したい。具体的には、いつでもどこでも利用できるユビキタス環境に着目し、コンピュータで利用可能な心理療法を組み合わせたシステムによる学習効果、および心理的効果を検証することで、新たな学習環境を構築するための提案につなげたいと考える。
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私は学部時代に4年間働いていた塾で何名か不登校の児童生徒を担当したことがあります。不登校の原因は病気や人間関係など様々でしたが、彼らの共通の認識として「学校に行っていない」ということに対する劣等感や不安感がありました。彼らと接していく中で、学校に行くことができなくても、質の高い学習は保障されるべきであり、将来の選択は狭まるべきではないと考えるようになり、不登校状態にある児童生徒を支援する方法に関して研究していきたいという思いにつながりました。

現在は、国内外を問わず、「学校外での学習」・「不登校」について幅広く文献のレビューをしています。まだまだ教育に関する知識は不足していますが、優秀な仲間たちに負けないよう、日々努力精進してまいります。どうぞ2年間、よろしくお願いいたします。

【長野香織】

2015.05.18

【今年度の研究計画】舞台でのパフォーマンスと自己変容に関する研究

みなさま、はじめまして。M1の杉山昂平と申します。学際情報学府、山内研の学生になって早ひと月。学部で先行した社会学との違いにとまどいつつも、新しい世界が開けるようで面白く感じています。ブログテーマが「今年度の研究計画」ということで、現時点での構想をご紹介します。

■ テーマ
舞台でのパフォーマンスと自己変容に関する研究

■ 背景
 文化芸術振興基本法の制定をメルクマールとして、一般市民による芸術文化活動の振興が、政策的にも実践的にも関心を集めています。そのような例として、市民参加型舞台やアートプロジェクトなど、市民と芸術の「新しい関わり方」を模索する動向を挙げることができるでしょう(吉本 2010)。「市民に舞台を提供する」新しい活動は興味深いものである反面、それをどう評価していくのかという問題は、これからの課題と言えます。
 考えてみれば、一般市民による芸術文化活動と言ったとき、アマチュアとして音楽やダンス、演劇を楽しむ人々が、すでにこれまで多く存在してきたことは言うまでもありません。習い事をはじめ、市民オーケストラ、合唱団、バンド、ダンスサークル、舞踊団、市民劇団などで、成人であっても、時間をみつけて活動にはげむ人たちがいます(宮入編 2015)。教育と異なり明示的な目標を置いていないアマチュアの芸術活動は、「楽しめればよい」ものであると批判されることもあります(山本 2007)。一方で、誰にでも参加可能性が開かれているアマチュアの活動は、そこからさまざまな経験ができる場であるはずです。こうした既存の活動を評価するという立場から、芸術文化活動の振興することも可能であるように思われます。

■ 視点
 本研究では、発表会や公演、ライブといった「舞台でのパフォーマンス」に焦点をあて、それがどのような経験として自己変容に関係するのかを探求します。「これらの芸術[舞台芸術]は、練習を積んできたりスキルをもったりした人々の身体的な存在を要求する。彼らのスキルの実演がパフォーマンスである」(Carlson 2007[1996])とされるように、パフォーマンスにおいては、観客に対し、自らの活動を呈示するという点が特徴的です。観客の存在が、不安やあがりをもたらすものであることは、「演奏不安」の問題として、これまで心理学において取り扱われてきました(Wilson and Roland 2002)。しかし、ただプレッシャーがかかるだけならば、私たちが人前でパフォーマンスをすることはないでしょう。そこには、何らかの高揚感や印象深い体験があるはずです。それは「フロー体験」と呼ばれているものかもしれませんし、あるいは、もっと別の言い表し方があるかもしれません。例えば、舞台でのパフォーマンスから「ふだんの自分とは別人になったような感覚」「非日常感覚」を得る人がいることが、いくつかの調査で指摘されています(丸林 1999, Pitts 2004)。本研究の目的は、こうした、活動(パフォーマンス/遊び)と不可分に結びついた自己変容=インフォーマル学習が、どのような環境で、誰にとって起きるのかを明らかにすることです。また、それによって、一般市民の芸術文化活動を評価し、内省していくための視点を提供することを目標としています。

現段階では、演劇や音楽、ダンスなどの舞台芸術活動と、それを通じたインフォーマル学習に関してレビューをしつつ、パフォーマンス研究などの知見も学んでいる段階です。舞台でパフォーマンスすることは、自分にとっての強烈な原体験です。また、学部時代に、地域振興と芸術文化の関わりについて地方自治体と連携して考える経験をし、「舞台の面白さ」をできるだけ多くの人にわかってもらうことが、難しくも重要な課題であると認識したことも、この研究の動機づけになっています。ただ、この記事を書いていても、芸術文化に関する自らのさまざまな思惑が渦巻いていて、筋の通った議論をするのに苦労を覚えました。原点の思いを大事にしながらも、明晰な思考を心掛けていきたいと思います。まずは2年間、どうぞよろしくお願いします。

・Carlson, M. (2007[1996]) What is performance?. Henry Bial ed, The Performance Studies Reader Second Edition, 70-75.
・丸林実千代 (1999) 生涯音楽学習入門. 音楽之友社.
・宮入恭平 編著 (2015) 発表会文化論. 青弓社.
・Pitts, S (2004) 'Everybody wants to be Pavarotti': The experience of music for performers and audience at a Gilbert and Sullivan Festival. Journal of the Royal Musical Association, 129(1): 143-160.
・Wilson, Glenn D. and David Roland (2002) Performance anxiety. 尾山智子, 吉江路子訳 (2011) 演奏不安. In Parncutt, R and G. McPherson (2002) The Science and Psychology of Music Performance. 安達真由美, 小川容子監訳 (2011) 演奏を支える心と科学. 誠信書房 pp. 74-96.
・山本珠美 (2007) 市民参加型舞台芸術に関する序論的考察. 香川大学生涯学習教育研究センター研究報告, 12:29- 50.
・吉本光宏 (2010) 再考、文化政策:拡大する役割と求められるパラダイムシフト. ニッセイ基礎研究所報, 51: 37-116.

【杉山昂平】

2015.05.10

【今年度の研究計画】創作活動を通じた変数の学習を支援するツール教材の開発と評価

みなさま、こんにちは。
M2の松山です。
雨がとても苦手なので、梅雨の到来が憂鬱でならない今日このごろです。
しかし外に出るといろいろな発見があり、研究の刺激にもなるので、できるだけ引きこもらないように頑張りたいと思います。

さて、年度始めのブログは恒例の「今年度の研究計画」ですね。
現時点での研究計画を紹介させていただきます。

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■背景
文部科学省(2014)によると、算数から数学へ学習内容が移る際に、数学学習に対する意識がネガティブになりやすい。 特に、変数に対して苦手意識を感じる生徒が多い(太田 2008)。 Papert(1980)も、変数の概念が子どもの生活環境において個人 的に関連のある事柄として受け入れづらいことを指摘している。
Pepert は、人が何かをつくる過程で知識や概念を主体的に学ぶという、 コンストラクショニスム(構築主義)という学習観を提唱した。
近年のものづくり教育(プログラミングやデザイン活動を通した学習) は、アルゴリズム思考や論理的思考を身につけることを目的としたものが多いが、算数・数学学習と統合した場合の学習効果も認められている(Harel 1991 など)。

■先行研究
デザイン活動を通じた算数・数学の学習を支援した研究に、DigiQuit(Lamberty2008)、curlybot(Frei 2000)、LED Display Kit(Chun 2010)などがある。これらは、数学を使ったり数学について考えたりしなくともデザイン活動を行うことができるため、数学を扱うこと、学ぶことの意義を必ずしも感じられるとは言えない。
また、変数・文字式への移行を支援した研究も多くある(太田 2008 など)。それらの研究は理解を重視した授業改善であり、有用感や意識向上の支援はなされていない。

■目的
小学校高学年を対象に、創作活動を通して、変数を扱うこと・学ぶことへの意欲の向上を支援する教材を開発し、実践を通してその効果を評価する。

■研究方法
複数の変数の関係を記述することで、児童が自分なりの成果物をつくることのできるツール教材を開発する。
小学4年〜6年生を対象にワークショップを実施し評価を行う。
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最近は都内の小学校を訪問して授業に参加させていただいたり、人気のおもちゃの面白さについて自分なりに分析したりして、ツールの内容を少しでも良いものにできるよう模索しています。
同時にロジックを組み直したりレビューの足りない部分を補ったりしなければならないので、かなりハードではありますが、ここが頑張りどころだと感じています。
自分のできなさを痛感してつらいこともありますが、負けずにやり抜きたいと思っています。
今年度もよろしくお願いいたします。


【松山彩香】

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