2015.07.24

【最近気になっているキーワード】未来の学びの準備 (Preparation for Future Learning)

皆さま、こんにちは。
M1の原田悠我です。
(ちなみに、今日が誕生日です!!)

昨日は夏学期最後のゼミが無事終わり、夜は納会で焼き肉でした。美味しいお肉を食べつつ研究室の方々とお話をするなかで、研究に対するモチベーションも高まったので夏休みも頑張れそうです。そんなわけで頭の中は完全に夏休みモードなのですが、学生である私には夏休み前最後の壁「試験」があります。大学院生にもなると「持ち込みあり」の試験や「レポート堤出」など試験にも様々なバリエーションがあります。

そこでこの記事では学びの「評価」について、【未来の学びの準備 (Preparation for Future Learning)】をキーワードに考えていきたいと思います。先ほど大学院では様々なバリエーションの試験があると書きましたが、一般に多くの人が想像する試験とは「1人で他の資料などは利用せず問題に向き合い解く」ようなイメージではないでしょうか? 例えば私の友達にアラビア語の授業を受けている人がいるのですが、その人が試験時間中に「インターネットで調べる」ことや「アラビア語を話す留学生を連れてくる」ことはCheating(不正行為)になります(注1)。

■ 隔離された問題解決(Sequestered Problem Solving)
このような新しい問題を解くために他のテキストや友達に助けを求めることができない環境での問題解決は「隔離された問題解決(Sequestered Problem Solving); 以下SPS)」と呼ばれています(Bransford & Schwartz 1999)。SPSはある文脈で学んだことを別の新しい文脈で活かす「転移」の研究で多く利用されてきました(転移について詳しくはBransford et al. 1999,もしくは過去の記事を御覧ください)。このようなSPSのパラダイムでは、以前に学んだことを新しい状況や問題に直接適用できるか(Direct Application; 以下DA)が問われます。

■ 未来の学びの準備 (Preparation for Future Learning)
一方で、SPSやDAとは異なる考え方としてBransford & Schwartz は【未来の学びの準備 (Preparation for Future Learning); 以下PFL)】を提案しています(Bransford & Schwartz 1999)。PFLでは知識が豊かな環境での人々の学びを評価することに焦点が当てられています。例えば新しい社員を雇う場合どんなことを求めるか考えると、会社のことを全て知っていることではなく、リソース(例えば、テキストやコンピュータプログラムや同僚)を利用しながら、学ぶことができることができるかだと思います。つまり、将来の学びに対してより良い準備ができているか(新しい学びのスピードや質)を考えているわけです。

また、Schwartz & Martin はPFLの考えに基づき実践しSPSとPFLの評価の違いを明らかにしました(Schwartz & Martin 2004)。中学3年生の統計の授業で偏差の公式について理解する授業を題材に以下の様な実験を行いました。まず全体を「発見学習(Invent instruction)」をする群と「直接教示(Direct instruction)」をする群に分けます。「発見学習」の群は異なるばらつきが生じる4つのピッチングマシンの結果を元に、ピッチングマシンの信頼性の指標を学習者自身で考案する活動を行いました。さらに各群を、テストに共通するリソースを利用した活動が「ある群(PFL)」と「ない群(SPS)」の2つに分けます。つまり2つの群(発見学習と直接教授)2つの群(共通するリソースあり、なし)の合計4群が作成されました(図1)。

figure1.001.jpgのサムネイル画像

実験の結果は図1のように「発見学習」の後に「(テストに共通する)リソースがある群」が最も転移課題に対する正答率が高かったことがわかります。このことからSchwartz & Martinは「発見学習」が「直接教授」に比べて学ぶ準備ができており、転移課題を解くことができたと考えています(Schwartz & Martin 2004)。また、SPSでは違いが明らかにならなかったことがPFLでは明らかになることも、「(テストに共通する)リソースがある群」と「リソースがない群」を比較することでわかります。(とても綺麗な実験ですね)

このように、DAやSPSを採用した場合には見過ごしがちな転移の根拠をPFLの視点で考えると明らかにすることができます(Schwartz & Martin 2004)。つまり、いままで時間の無駄だと考えられていた活動も、学びの準備だと捉えると効果的な活動なのかも知れません。また、Schwartz & Arenaはより良いPFLのためそして評価のためにGame-based learningが有益な場合があるとしています(Schwartz & Arena 2013)。例えばArena & Schwartz は統計を学ぶためのゲーム「Stats Invaders」を開発しています。Web上で公開されており、ダウンロードして遊ぶことができます(Javaが利用可能なMac or Windowsで動作可能とのこと)。私もやってみたのですがなんとなく懐かしい感じがしました(インベーダーゲームは中学生ぐらいのころ復刻版で遊んだことがあります)。

以上、未来の学びの準備 (Preparation for Future Learning)でした。なんとなく大事だと思っていた学習者主体の活動を上手く評価する方法や教師からの学習資源の提供方法(タイミング)を考えるきっかけになりました。ちなみにですが、なんと驚くべきことに偶然?この記事に何度も登場したSchwartz先生が明日(7月25日)東京大学に来られます。詳しくは【お知らせ】公開研究会「学習テクノロジーの未来」を御覧ください。まぁ実のところ、この記事は公開研究会のための準備(Preparation for Future Meeting)になればいいなと思いながら書きました。公開研究会には私も参加します。当日読者の方とお話できることを楽しみにしています。


次回は佐藤さんの記事です。お楽しみに!!

注1 : 以前で紹介されたNormanもこの問題について言及しています(Norman 2001)。

原田悠我



参考文献
  • Arena, D., and D. L. Schwartz. (2010). Stats Invaders! Learning about Sta- tistics by Playing a Classic Video Game. In Proceedings of the Fifth Inter- national Conference on Foundations of Digital Games, ed. I. Horswill and Y. Pisan, 248-249. New York: ACM.
  • Bransford, J. D., Brown, A. L & Cocking, R. R. (Eds.) (1999). How People Learn: Brain, Mind, Experience, and School. Washington, D.C: National Academy Press(= 森敏昭・秋田喜代美監訳 (2002) 「授業を変える」 北大路書房 ).
  • Bransford, J. D., and D. L. Schwartz. (1999). "Rethinking Transfer: A Simple Proposal with Multiple Implications." Review of Research in Edu- cation 24:61-100.
  • Norman, D. (2001) In Defense of Cheating, Available at http://ubiquity.acm.org/article.cfm?id=1066347
  • Schwartz, D. L., and Arena, D. (2013) Measuring What Matters Most: Choice-Based Assessments for the Digital Age.. The MIT Press.
  • Schwartz, D. L., and T. Martin. 2004. "Inventing to Prepare for Learn- ing: The Hidden Efficiency of Original Student Production in Statistics Instruction." Cognition and Instruction 22:129-184.
  • 山口 悦司 (2008) 学習の転移に関する研究ノート : Bransford & Schwartzの「将来の学習のための準備」について 宮崎大学教育文化学部紀要. 教育科学 19, 1-11
  • 国立教育政策研究所 (2014) 資質や能力の包括的育成に向けた教育課程の基準の原理 Available at http://www.nier.go.jp/05_kenkyu_seika/pdf_seika/h25/2_1_allb.pdf
  • 三宅 芳雄 (2012) 教育心理学特論 (放送大学大学院教材) 放送大学教育振興会

PAGE TOP