BLOG & NEWS

2007.09.11

【エッセイ】ロフトとKYATATSU

先週金曜日から、ALT@UT夏合宿で京都を訪問しました。
1日目に、同志社女子大学の上田信行先生がデザインされたワークショップスタジオでPiagetPapertに関する合同セッションをさせていただきました。研究室のみなさん、すばらしい「おもてなし」本当にありがとうございました。
このワークショップスタジオは、2008年3月オープン予定の情報学環・福武ホールにできる福武ラーニングスタジオのモデルのひとつですが、ひとつ大きく違うところがあります。同志社にはロフトがあるのです。

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これによって、俯瞰的に学習の様子をリフレクションできるようになります。

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本当は福武ラーニングスタジオにもこのようなしかけがほしいのですが、ロフトは固定すると動かせないので、今回は見送りました。上田先生には、「だったら脚立がいいよ」といわれています。工事現場にあるような脚立だともうひとつなので、少しかっこいい脚立を作って、「KYATATSU for Learning」として売り出そうかという話をしてもりあがりました。

[山内 祐平]

2007.09.06

【研究に役立つウェブサイト】「最新教育基本用語」小学館 教育技術.com

院試も一段落し,今回から,「受験生にすすめる一冊」に代わって,「研究に役立つウェブサイト」を紹介することとなりました。

今回紹介するのは,小学館から出ている教育用語の辞典とも言える『最新教育基本用語』のweb版です。

http://www.ed.shogakukan.co.jp/yougo
「2003年度版 最新教育基本用語」
(教育技術.com,小学館)

文献検索サイト,OCWのポータルサイトなど色々と悩んだのですが,基礎固めや調べ物に手軽に使えるサイトを選びました。

web版は最新年度ではないのですが,把握すべき基本的な用語はかなりの量がおさめられており,検索機能もついていて,気軽に調べられるので助かっています。
「学力論」「学級経営」といったカテゴリで章立てされ,それぞれ“基礎・基本用語”と”話題の用語”に分類されています。
また,ブックマーク機能がついているので,一度調べた用語を保存ができ,書籍と同じ感覚で利用できます。
もちろん,最新の辞典を買うのがベストなのですが(書籍はA5判で定価も1,980円とお手頃です),ちょこっと調べたくなったときに,お気に入りに入れておくと便利だと思います。

[坂本篤郎]


関連ウェブサイト
「教育技術.com」 小学館
 http://www.ed.shogakukan.co.jp/

『2007年版 最新教育基本用語』 小学館 s-book.com
 http://www.s-book.com/plsql/com2_magcode?sha=1&sho=0300205107&keitai=80

2007.09.04

【エッセイ】Team-Based Learning

最近、医学教育の世界でTeam-Based Learningがはやりはじめているそうです。
一般的な高等教育の文脈ではあまり聞かない言葉なので、調べてみました。

Team-Based Learningは、 当時オクラホマ大学で教鞭をとっていたDr. Larry K. Michaelsenが開発したグループ学習の方法です。もともと経営系の授業で行われていましたが、現在は医学教育において広く活用されています。

個人で学習した後、6-8名の小集団に分かれ、最後にクラスで共有するというスタイルで、大講義室でも行いやすいというメリットがあります。下の映像を見ていただくと、様子がわかると思います。

・医学教育におけるTBL(映像)
http://www.bcm.edu/fac-ed/realvideo_public/TLPromo042302.ram

基本的には、協調学習やアクティブラーニングの一種だと考えることができますが、チームで学習や作業ができること自体を評価に加えるなど、グループでパフォーマンスを発揮すること自体を教育目的に加えているところがユニークな点です。KALSのような協調学習教室を整備する前に、協調的活動の重要性を理解してもらうための方法としても使えるかもしれません。

・Team-Based Learning Collaborative
http://www.tlcollaborative.org/Index.htm

2007.08.30

【受験生に薦める1冊】『カルチュラル・スタディーズ』

吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』、岩波書店、2000年

2007/8/23に,平野さんが文末で薦められていた,吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』をご紹介したいと思います.
2004年,学環の入試要項を手に取った私の目に「カルチュラル・スタディーズ」という言葉が飛び込んできました.その言葉をはじめて見た私は(工学部出身),ズバリ「カルチュラル・スタディーズ」というタイトルのこの本を院試の準備として読んだというわけです.今回は,当時,読みながらとったメモを読み返しながらご紹介したいと思います.

まず,吉見先生は1章の「問題としての文化」で,「文化をすでにそこにあり,固有の内容を含んだものとしてみなすところから出発するのではない.」とし,以下のようなことを仰っています.
- 権力が作動し,経済と結びつき,言説の重層的なせめぎあいの中で絶えず再構成されているものとして問題化していくこと
- カルチュラル・スタディーズは,歴史理解の不可欠の次元として文化に注目するというだけではない.
- 文化という次元自体の存立規制,それが,一定の言説と権力のマテリアルなインフォメーションとして成立し,再生産されていることに瞠目し,問題化する.
つまり,カルチュラル・スタディーズは,単なる学際的なアプローチではなく既知のシステムそのものをを考え直す,ひいては学問をするということ自体をも考え直していくものなのだと仰っています.

本書は,「メディア」「サブカルチャー」「人種・エスニシティ」「ジェンダーとセクシュアリティ」「歴史の政治学」の6つのテーマがどのように研究されてきたのか,またそのテーマを代表する研究者をコンパクトに紹介してくれていることから,私のようにカルチュラル・スタディーズにはじめて触れる方におすすめです.また入学後,ここで紹介された研究者に講義やゼミの中で再会するのではないでしょうか.

[寺脇由紀]

2007.08.28

【エッセイ】Open Educationの行方

8月25日(土)に、BEAT Seminar "「オープンエデュケーションが切り開く未来~ Education 2.0:OCWの次にくるもの」が開催されました。

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パネラーとして、MIT上級副学部長のVijay Kumarさん、カーネギー財団の飯吉透さん (飯吉さんはBEATの客員教授でもいらっしゃいます。)をお迎えし、学習管理システムや教育コンテンツを中心に進んできた教育のオープン化の流れが、今後どのような方向に進んでいくかという情報提供をしてもらいました。ここでは、お二人の話の中で印象に残ったプロジェクトを簡単にご紹介します。

iLab Project (MIT)
http://icampus.mit.edu/ilabs/

iLabは、実験環境をオンラインでコントロールできるようにするための基盤であり、遠隔実験や実験データの共有などが可能になります。ソフトウェアは自由にダウンロードできます。

Connexions (Rice University)
http://cnx.org/

Connexionsは、教員がオープンコンテンツを自由に組み合わせて自分なりの教材を作ることができるサイトです。オンデマンド出版でテキストにすることも可能です。

KEEP Toolkit (Carnegie Foundation)
http://gallery.carnegiefoundation.org/gallery_of_tl/keep_toolkit.html

KEEP Toolkit は、教員が自分の授業を設計したり改良したりするプロセスを共有し、よりよい授業構築のために知識を交換するための仕組みです。

これらの事例から見えてくるのは、教育に関するオープン化が、LMSなどの教育システムや授業映像などのコンテンツから、授業プロセスそのものに達しつつあるという動向です。
まだ日本では類似例はほとんどありませんが、大学の柱である授業プロセスそのものが開かれることになれば、社会的に大きな影響力を持つことになるでしょう。

[山内 祐平]

2007.08.23

【受験生に薦める一冊】『教育(思考のフロンティア)』

広田照幸(2004)『教育(思考のフロンティア)』岩波書店

半年間ブログ上で連載してきた「受験生に薦める一冊」シリーズですが、とうとう昨日、筆記試験が終わりましたね。私たちも、来年度どのような方が入学されるか、楽しみにしているところです。さて今回は、来週の面接試験までに読めるような小さな本、しかし考えさせられる一冊を紹介したいと思います。

僕は学部時代には教育社会学を学んでいたのですが、当時お世話になっていた広田照幸先生の本を紹介します。広田先生は、歴史の中でしつけや教育がどのように語られてきたかを分析しながら現在の教育を論じている歴史社会学者です。著書に『日本人のしつけは衰退したか』(1999)、『教育には何ができないか』(2003)など。2006年からは日本大学文理学部に移られています。

この本では、教育を語る言説を〈社会化〉と〈配分〉という観点から捉えなおし、現在の教育を問題化する語り方をいくつかに分類・整理した上で、「個人化」と「グローバル化(新自由主義)」の時代における、未来のための教育を形作るための一つの提案を行っています。100ページ程度の分量ですが決して教科書的な記述にならず、最新の研究に基づいて、示唆に富む内容をめいっぱい詰め込んだ、意欲的な本です。巻末の参考文献案内も充実しています。

教育工学の分野はおもに「現在行われている教育をテクノロジを用いてどう良くするか」を考えており、教育社会学的な視点からすると、〈配分〉やそれに伴う〈階層化〉(苅谷剛彦先生の専門分野ですね)に関する議論が欠けてしまっていることが多いです。教育工学的な研究でモノを作る際にも、現在の教育があくまで歴史の中の一形態に過ぎないこと、そして、そのような教育はさまざまな権力の網の目の中で行われている営みであることを認識しておかなければならないでしょう。その上で、未来を形作る教育を実現していくべきだと思います。

この『教育』に限らず、「思考のフロンティア」シリーズには、「フロンティア」という名前どおり、その分野の第一人者による意欲的な作品が数多く見られ、その分野を研究するための基本的な視座を手に入れることができます。たとえば、社会の中の営みとしての教育を考えるために、斎藤純一『公共性』、市野川容孝『社会』、それに吉見俊哉『カルチュラル・スタディーズ』などを併せて読んでみてもいいかもしれません。

[平野智紀]

2007.08.21

【エッセイ】Monogatari 博物館デビュー

BEATで開発してきたMonogatariシステムの実験運用が神奈川県立生命の星地球博物館で始まりました。学環研究員の久松さん、BEAT助教の北村さん、大学院生の平野さんと私の4名で動かしているプロジェクトです。

Monogatariは、持ち方によってモノが語りを変えるというシステムです。三葉虫の化石レプリカにRFIDを埋め込み、指輪型アンテナを用いて化石レプリカの持ち方を判定し,持ち方に対応した映像コンテンツを提示します。

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8月16日に、生命の星地球博物館で一般のお客様に使っていただくことができました。待ち行列ができるほど人気があったので、少し安心しました。

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実際のユーザーに触ってもらって改良するというプロセスは、形成的評価 (Formative Evaluation) とよばれ、非常に重要です。この日も人によってセンサーの感度にばらつきがあったり、箱が塗料のにおいでくさい(笑)など、いろいろなフィードバックがありました。

システムを改良して、9月には第2弾の評価を行う予定です。

[山内 祐平]

2007.08.17

【受験生に勧める一冊】「ヴィゴツキー入門」

柴田義松 (2006) 「ヴィゴツキー入門」寺子屋新書


現代において教育/学習を研究しようとするものが,ヴィゴツキーを知らない,という訳にはいかないでしょう.さまざまな研究を行っている山内研究室の中でも,ヴィゴツキーへの言及は多く為されます.ヴィゴツキーを避けてはなかなか通れない.

ただし,ヴィゴツキーの理論はとても美しい一方で,難解な部分もあります.日本語訳が手に入りますが,なかなか原著は手強いです.

そんな時の1冊として,今回はヴィゴツキー研究の第一人者でもある柴田義松先生の「ヴィゴツキー入門」をお勧めしたいと思います.

ヴィゴツキーの生い立ちから始まる本書は,単にヴィコツキー理論の解説に終始するのではなく,時代背景を追いながら,他の理論や研究者との違いを丁寧に示してある点で,とてもわかり易いものとなっています.

例えば,ヴィゴツキー理論の中でも外言と内言の関係や,それに基づいた発達の最近接領域は重要な部分です.これらがピアジェの言葉,ピアジェ理論との違いから説明されることで,とてもわかり易くなっています.

また,現在広く入手可能なヴィゴツキーの日本語訳は,多くが柴田先生によって訳されたものである点も,入門書としての本書の価値を高めるものとなっているでしょう.

事実,僕自身もこの本を読んだ後に「思考と言語」がより良く読めるようになったと感じました.

故波多野誼余夫先生が,これからの学習研究においては,認知メカニズムと,社会/文化的な要因がどうか関わっているのかをより明らかにしていくことが大事だと仰っていました.本書を読む度,私自身もそんな研究が出来ればと思います.そんなことを考えさせてくれたりする,そんな本でもあるのかもしれません.

[三宅 正樹]

2007.08.14

【エッセイ】我が青春のHyperCard

先日飲み会でMacの話をしていたら、ほとんどの人がHyperCardを知らないということに気づいて、少々ショックを受けました。

「HyperCardは、ハイパーテキストを実現した最初の商用ソフトウェア。1987年にアップルコンピュータのビル・アトキンソンが開発した。Macintoshで動作し、ゲームの制作、簡単なプログラムの開発等に利用される。
ハイパーテキストのノードとしてカードを用い、カードとカードをつなぐリンクとしてはボタンを用いる。カードの上にはボタンの他にテキストやグラフィックをおくことができた。プログラムを記述するにはHyperTalkと呼ばれるスクリプト言語を用いる。 ボタンを押すと各ボタンに対応付けられたカードにジャンプするか、HyperTalkで記述されたプログラムを実行する。HyperCardを使えばプログラムを直接記述しなくても簡単なアプリケーションを作ることができたので、マルチメディアオーサリングツールとして使用された。」(Wikipediaより引用)

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今では、リンクをたどりながら情報を探索していくことはウェブの専売特許になっていますが、1987年にはまだウェブは存在していませんでした。(最初のブラウザであるNCSA Mosaicが開発されるのは1992年です。) ウェブが日常化した今では想像もつかないような話ですが、20年前には全く異なった情報環境が存在していました。それがHyperCardです。
HyperCardはカードに埋め込まれたボタンで情報を探していくという意味ではウェブブラウザーに近いのですが、裏側にHyperTalkという言語が組み込まれており、一種の開発環境でもありました。今の感覚だと、ウェブとFlashとカード型データベースをあわせたような感じです。
HyperCardはとっつきやすい開発環境だったので、多くの教員が自分たちで教材を作るようになりました。ネットがなかった時代、彼らはユーザーグループというコミュニティを作り、フロッピーディスクで自作の教材を交換していました。これは一種のオープンソース、クリエイティブコモンズ的な発想といえるでしょう。
しかも、HyperCardは奥が深い開発環境で、外部コマンドを使うことによってハードウェアを制御することもできました。このため、教材開発の専門家もこのツールを愛用していました。
かくいう私も、修士論文で、子どものマルチメディアプレゼンテーションの設計過程を支援する"Presentation Designer"という環境を作りましたが、これはHyperCardをベースにしたものです。
現在30代後半から40代後半の世代で教材開発に関わっている人は、HyperCardに育てられたといっても過言ではないでしょう。
時は過ぎ、HyperCardは忘れ去られ、時代はウェブやFlashに移りました。しかし、HyperCardに熱中した世代は、いまだにデジタルな世界に新しい風を吹かせたいと努力している人が多いように思います。HyperCardは、まだ彼らの心の中に生きているのかもしれません。

[山内 祐平]

2007.08.11

【受験生に薦める一冊】「教授・学習過程論」

大島純・野島久雄・波多野誼余夫(2006)『教授・学習過程論』

前回「学習科学とテクノロジ」について紹介がありましたが、今回はそれと関連して「教授・学習過程論」という本を紹介したいと思います。

本書も、前回同様、「学習科学」に関連するトピックを概観できる教科書的な本といえると思います。目次を見ていただくと、扱うトピックの概観、さらに「学習科学とテクノロジ」では紹介されていないトピックがあることがわかると思います。

1.学習研究と学習科学
2.比較認知科学から見たヒトの学習
3.言語獲得の諸相
4.素朴理論獲得における生得的制約と経験
5.熟達化
6.日常的認知と非公式の教育
7.文化の中の学習
8.帰納推論と学習メカニズム
9.学習の認知神経科学
10.学びにおける協調の意味
11.学習環境のデザインと原則
12.授業研究と教師教育
13.情報テクノロジの教育への導入
14.教育評価-新しい学びの視点-
15.学習科学の展開

「学習科学とテクノロジ」では、実際に行われた様々なプロジェクトを紹介するという形で進められていましたが、本書では、より基礎的な学習プロセスに関して、前半部分で説明しています。

具体的には、2章から9章あたりがそれに当たります。学習を考える上で大切な「熟達化」などといった概念についても、コンパクトながらもその概観をつかめるようになっています。

また、後半部分を見ても、12章に「教師教育」というキーワードがでており、これに関する部分も「学習科学とテクノロジ」よりも詳しく記述されています。

本書と「学習科学とテクノロジ」は重なる部分が多くありながらも、力のいれてある部分が少しずつずれており、両方を読む事で、より学習科学の概観というのをつかむことができると思います。

入門書としておすすめの1冊です。

[舘野泰一]

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