2007.02.19

【Book Review】「グループウェアのデザイン」

石井裕著(1994)『グループウェアのデザイン』共立出版

 本書はグループウェアとは何かやグループウェアの設計や具体例について書かれています。

 グループウェアとは「共通の仕事や目的を持って働くユーザーグループを支援し、共同作業環境へのインターフェースを提供するコンピュータベースのシステム」です。グループウェアの対象とするグループとは、一般的に全社的な規模のそれではなく、比較的小規模なタスクフォース的なグループをさしています。。
 グループウェアを従来のシステムと区別する重要な要件としてウィノグラードは、人々の協調構造に基づいて設計されたシステムであることをあげています。すなわち、グループウェア実現に用いるコンピュータシステムの構造ではなく、グループワークそのものの構造に設計の焦点があるということです。
 グループウェアは構造的アプローチと非構造アプローチがあります。
 構造アプローチは、ヒューマンコミュニケーション構造のモデル化です。これらは非同期型のグループウェアで有効になるでしょう。しかし、構造アプローチは例外処理に弱いという欠点があります。
つまり、支援システムに構造を持ち込むことはツールをあるタスクに特化することであり、ユーザーにその構造を制約としてかすことなのです。
 非構造アプローチは、構造アプローチの逆となるものです。映像を生かしたマルチメディアグループウェアなどがあげられます。

 私は学部時代、コンピュータサイエンスを専攻していました。その影響で協調システム等を設計しようとした場合、システムの構造をどうするかのみ考えがちになります。この本はそういった人にもどのようにシステムを考えていけばよいか示唆を与えてくれます。

2007.02.08

【Book Review】「発想する会社!」

トム・ケリー&ジョナサン・リットマン 鈴木主税・秀岡尚子訳(2002)
『発想する会社!-世界最高のデザイン・ファーム・IDEOに学ぶイノベーションの技法』
早川書房

だいぶ前にコピーライターで劇作家の知人の方に紹介していただいた本。

「こんな風にものづくりができたら楽しいだろうなあ」という話が、たくさんのカラフルな写真とエピソードとともに描かれており、とても刺激的な本です。

IDEOは、古くはマッキントッシュの初期のマウスをデザインしたほか、歯磨きのチューブ、ラップトップコンピュータ、医療機器、マウンテンバイク用のウォーターボトル、子ども用歯ブラシ、玩具、鉄道車両など、「機能的で遊び心に満ちた」デザインで名をとどろかせている会社です。クライアントも、アップル、パーム、プラダ、ペプシ、ピクサー、P&Gなど。最近では「なぜIDEOではクリエイティブなデザインが生まれるのか」と、この会社そのものが注目を集めるようになっており、今では“働き方そのもの”をコンサルティングするようなことまでやっているそうです。

難しい理屈ではなく、実例が豊富なのがこの本の良いところです。写真も装丁もきれいで、眺めているだけで楽しい。「コミュニティ・オブ・プラクティス」や「企業内人材育成入門」のようなちょっと硬めの本を読む前に、こういう柔らかい本にざっと目を通しておくと、理解がぐっと深まるのではないでしょうか。

IDEOのメンバーはみんなイタズラ好きで、この本に収められたエピソードひとつひとつから、会社の生き生きとした雰囲気が伝わってきます。多くの日本の企業に勤める人にとって、このような働き方は斬新を通り越して、ほとんど革命的なのではないでしょうか。

もちろん「プロダクト・デザイン」という職種だからこそできることもあるのだと思いますが、ここに描かれている、自分が選んだ仕事・プロジェクトとの向き合い方、その構えのようなものは、どんな仕事をしている人にも(もちろん研究者にも)、適用できるものであるはずです。[平野智紀]

2007.02.01

【Book Review】「素人のように考え、玄人として実行する」

金出武雄(2004)『素人のように考え、玄人として実行する』PHP研究所

「なにか困ったときに、ふと手にとってみると、その答えが書いてある」という体験をさせてくれる本はいくつかありますが、今回紹介する本は、そんな本の1つです。

この本はロボット工学の研究者である著者が、「問題解決の方法」について書いたものです。内容は、著者自身の経験から、考え方のコツや、そのときのメンタル的な部分まで幅広く書かれています。

「考え方」について書かれた本というのは、いくつかあると思いますが、この本の主要なメッセージというのは、シンプルでありつつ、強力です。それはタイトルにまさに集約されているのですが、ポイントは、

・発想は、単純、素直、自由、簡単に(素人のように)
・実行は、知識と習熟した技で(玄人として)

ということです。本の中で紹介されている方法や、考え方は、基本的にこのアイデアが元となっています。

例えば、その中の一つに「キス(KISS)アプローチ」というものがあります。KISSとは、"Keep it simple, stupid"の頭文字です。意味は、「こら、簡単にやれ!バカモノ」ということらしいのですが、もっとストレートにいえば、「ごちゃごちゃ言わずにやれ」ということのようです。

これは、なにかをやり遂げる前に「できないこと」をいろいろ想像して前に進まない学生に対して言うそうです。つまり、やる前に思い悩んでいてもなにも進まないが、それをやってみることで「何が難しいか」がわかることもある。つまり、簡単に一歩目を踏み出すことで、困難な点が明らかになってくるということを示しています。

「素人発想、玄人実行が大切だ!」とわざわざ書いていたり、なるほどと思うのは、人は得てして、その反対の「玄人発想、素人実行」になりがちだからだと思います。

自分自身を振り返ってみても、まさにそうなっている部分というのが多々あります。学部3年のときに買ったこの本を、なぜかいまごろ手を伸ばして読み直しているのも、こうした反省からかもしれません。

「素人のように考え、玄人として実行する」

当たり前のようでいて、難しいこの言葉ですが、自分の考え方、問題解決の仕方がうまくいっているのかを振り返るときに、ひとつのよい指標となるのではないでしょうか。みなさんにおすすめというよりも、自分自身にたいしてのメッセージが強い気もしますが、この本は研究活動をしていく上で、基本になる一冊のように思います。

[舘野泰一]

2007.01.26

【BookReview】「西洋哲学史」

哲学への入門書として定評のある本書は,ヴィトゲンシュタインの後見人としても知られるバートランド・ラッセルによって50年以上前に書かれました.上中下3冊900p超と気軽に読める量ではありませんが,それでも一読の価値はある本かと思います.

推薦理由として3点.

はじめに,なんといっても哲学の世界への良い入り口となってくれる点,哲学とは何か,ではなく,哲学をするとは何かを明瞭に浮かび上がらせてくれる点があげられます.ミームとしての神秘主義(オルフィック教的な主義)がプラトンから連綿とヘーゲルまで伝わっていく様など,僕のこれまでの哲学観を大きくかえてくれました.

次に,入門書と呼ばれる所以でもある,その後の読者の哲学的学びへのよい準備となってくれる点があげられるのではないでしょうか.ひとりひとりの"大"哲学者たちは,長くても50p以内で簡潔にまとめられており,その意味では,本書だけで分かったつもりになるのは危ないのではないかとすら思わせます.しかしながら,たとえばヒュームは,ヒュームだけで語られるのではないのです.ロックから連なる経験論哲学において,バークリーが実体という観念を物理学から追放したことを眺めながら,ヒュームによる心理学からの実体の追放が描き出されていくといったように,随所で歴史と思想が絡み合い,読者の頭の中に哲学史の世界地図を築き上げていくラッセルの手腕は,見事だというほかありません.

最後の点は,上記の点と関係がなくもありませんが,常識的な世界史の知識と哲学史との繋がりが示されることで,単に哲学史を概観するよりも,よりリアルな哲学者像を想像しながら読めること,です.何故,スコラ哲学においてアリストテレスが至上とされたのか,何故,教会と国家の関係が哲学へと影響を与えたのか.これまで僕には想像の世界の中で難解なことばを振りかざすイメージでしかなかった哲学者達が,わたしたちと同じように生活し,いきていたことをリアルに意識させてくれました.この意味において,貴重な書だと考えます.

ただ,実のところ,いとも簡単な言葉で知をあらわすラッセルのことばに酔いしれられること,それが僕の一番大きな推薦理由かもしれません.

2007.01.11

【Book Review】『コンサルタントの秘密』

G.M.ワインバーグ著(1985), 木村泉訳(1990)『コンサルタントの秘密 −技術アドバイスの人間学−』共立出版

本書は理系読み物で,学術書ではありません。しかも「依頼主がどういおうとも,問題は必ずある。」といった法則が,あれこれ紹介されているという風なのです。一時,「マーフィーの法則」ブームで類書が流行りましたから,あるいはそういう類の本と思われるかも知れません。

ただ,著者は『プログラミングの心理学』を始めとした著作でも有名な情報システム技術系のコンサルタント。その内容は氏のコンサルタント業における経験に基づく面白くも示唆に富んだものです。そして,どんな問題も結局は「人」の問題だということを教えてくれます。


どんなにシステムのデザインが万全でも,「人」の気まぐれが様々な問題を呼び込んでしまうことがあります。また,人は理性的な判断が欠如しているかのごとく振る舞い,周囲の人間を振り回してしまうこともあります。まことに,人というのは理不尽な存在といえます。

そんな「人」というものと付き合っていくにあたって,本書の様々な法則が気持ちを楽にしてくれるかも知れません。つまり相手のこと(ひいては自分のこと)が分かっていれば,極端な感情にエネルギーを奪われることも少なくなるはず。あるいは,システムのデザインにもよいヒントが得られるのではないでしょうか。


本書で有名なのは「オレンジジュース・テスト」でしょう。最初にこれを読んだとき,私は大学生だったので,このテストの価値がよく分かりませんでした。けれども,組織の中で仕事を始めてから再度思い出したとき,このテストの深い価値を知ったのです。

そして私が一番気に入っているのは「バッファローのブレーキ」という法則です。「バッファローはどこへだってつれてゆけるさ,やつらが行きたがっているところへならね」と「バッファローをどこかへ行かせないことはできるさ。やつらが行きたいと思っていないところへならね」というもの。


そろそろ中身が気になってきましたか?これらの法則に付随するエピソードを読むことこそ,本書の楽しみだと思います。コンサルタントの秘密をかじって,心に余裕をもってみませんか。

[林 向達]

2006.12.27

【Book Review】『メディチ・インパクト』

ヨハンソン F (2005) メディチ・インパクト. ランダムハウス講談社, 東京.

原題は、"The Medici Effect"という本です。イタリア・ルネッサンスを支えたメディチ家は、哲学者、科学者、建築家など多様な人々をフィレンツェに集め、文化や学問の障壁を取り払うことによって、新しいアイデアに満ちあふれた文化革命を引き起こしました。本書はこのような状況を創り出すために、どのようにして「アイデアの交差点」を創り出すかについて述べている本です。目次を見ると、だいたい言わんとしている内容がわかると思います。

第一部 交差点

1章 イノベーションの生まれる場所
2章 交差点が生まれるとき

第二部 メディチ・エフェクトを生み出す

3章 垣根を取り払う
4章 連想のバリアを壊す
5章 偶発的な概念の組み合わせ
6章 偶発的な組み合わせを見つける
7章 アイデアの爆発に火をつける
8章 爆発をわがものにする

第三部 交差的アイデアを形にする

9章 失敗を乗り越えて実行せよ
10章 決してひるまず、成功へと前進する
11章 既存のネットワークから飛び出す
12章 ネットワークからの脱却
13章 リスクを引き受け、不安に打ち克つ
14章 公平な目でリスクを測る
15章 交差点に踏み込め

研究開発的なケーススタディも多く、おもしろく読めます。少し拡散気味ではありますが、創造を「さまたげない」環境を作るためのポイントは押さえてあると思います。
ワークショップの環境作りや、クリエイティブライティングなど、ヒントになるところがたくさんあると思います。

[山内 祐平]

2006.12.13

【Book Review】『信頼の構造』

山岸俊男 (1998) 信頼の構造:こころと社会の進化ゲーム. 東京大学出版会, 東京.

以前、ここで紹介した『きずなをつなぐメディア』は「社会関係資本 social capital」をテーマとしていました。それに対して、この本は社会関係資本の重要な概念である「信頼」について深く掘り下げた本です。

本書は基本的に実験室実験による実証研究に基づいて執筆されています。しかしながら、「まえがき」に書かれているように「社会科学者が強調する、このような関係資本(引用者 注:社会関係資本 social capital)としての信頼の理解を、個人の認知や行動といった心理学者や社会心理学者が扱う信頼の理解と何とかして結びつけよう」という狙いで研究が進められています。
実験室における現象という狭い範囲にとどまらず、マクロな社会理論へとつなげていこうとする点は、本書の大きな特徴ではないかと思います。

この本の中心的なメッセージは、「集団主義社会は安心を生み出すが信頼を破壊する」というものです。真偽については本書を読んでから考えてみてください。
なお、このテーゼは、同著者の『安心社会から信頼社会へ:日本型システムの行方』(中央公論新社)を合わせて読むと理解が深まるのではないかと思います。

最後に、本書をここで紹介した意図について触れておきます。
『きずなをつなぐメディア』を紹介したときにも書きましたが、信頼や互酬性は、協調学習、学習コミュニティ、CSCLにおいても重要な要素だと考えています。
本書は「信頼」をテーマにしているだけに、信頼概念について入念なレビューがなされています。例えば第2章「信頼概念の整理」を読むだけでも得るものは大きいのではないでしょうか。 [北村 智]

2006.12.07

【Book Review】「企業者ネットワーキングの世界」

金井壽宏(1994)『企業者ネットワーキングの世界』白桃書房

この本は、著者がMITに留学し、提出した博士論文が母体となっています。著者は留学中、MITのあるボストン近郊の企業者ネットワークを参与観察し、一見、創造的な「一匹狼」のように見える企業者達が、実は様々なネットワークの中で生きていることを明らかにしました。

ネットワーキングとは、「連帯しあいながらも個を生かす行為」です。ネットワークには、アイディアや情報の収集、異なる視点の活用、資源の動員といった「用具的(instrumental)」側面以外に、参加者にそこに所属しているという心理的な気持ちをもたらし、このような心理的所属感に基づき自己表明をする場としての「表出的(expressive)」な側面もあると、著者は言います。

著者は、企業者達が参加するMITフォーラム会とSBANEダイアローグ会の参与観察を通じて、「フォーラム型」と「ダイアローグ型」という二つのネットワーキング組織のタクソノミー(体系的類型枠組み)を導き出しました。フォーラム型とは、誰もが参加できるゆるやかなつながりで、参加者達は集まって情報やアイディアを交換する「用具的」なネットワークです。一方、「ダイアローグ型」とは、閉鎖的で限定的なメンバーによる強いつながりで、参加者達は互いに対話(ダイアローグ)を行う「表出的」なネットワークです。独立した企業者達は、これらのネットワーキング組織に参加しながら事業活動を行っていたのです。本書は、それまで理論的にしか語られなかったネットワーキング組織を、緻密なエスノグラフィーによって実証的に明らかにし、その理念的類型を提示しました。

本書の優れた点は、その研究方法にもあります。著者は、フォーラム会とダイアローグ会の参与観察を行った後、その結論を補完するため、それぞれの会の参加者に定量的な調査を行いました。また、本書は先行研究をレビューし、あらかじめ企業者活動やネットワーク、自助(セルフ・ヘルプ)に内在する理論的なパラドクスを提示しています。一匹狼である企業者は誰かに依存しなくては事業経営できない存在でもある、弱連結のネットワークは多様なアイディアや情報が得られる一方、強連結にしかない強みもある、などの理論的パラドクスが、1つ1つ実証的に解かれていきます。理論と実証、質的調査と量的調査、パラドクスの解明など、本書には研究を行っていく上でのヒントがたくさん詰まっています。ネットワークに関心のある人に留まらず、研究を行っていく全ての人が読んでオトクな一冊です。[荒木淳子]

2006.11.23

【Book Review】「新ネットワーク思考」

アルバート=ラズロ・バラバシ 青木薫訳(2002)『新ネットワーク思考-世界の仕組みを読み解く』NHK出版

原題は"Linked - The New Science of Networks"。ものごとをノードとリンクによるネットワークという視点から見ると、あらゆることが理解可能であることを提案します。

これまでのネットワーク論は、ランダム・ネットワークを前提にしたものが主流でした。たとえば、いわゆる「6次の隔たり」という考え方があります。これは、6人の知り合い(リンク)をたどって行けば世界中のあらゆる人とつながり合ってしまうというものです。つまり、安倍総理もブッシュ大統領も、少なくともあなたの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いになっているわけです。

しかし、たとえば今のインターネットにおいて、全てのリンクが等価でランダムにつながり合っているわけではないことは、現状を見ればもはや自明となっています。インターネットはYahoo!やGoogleといった多くのリンクを集める少数の「富豪」とそれ以外の大多数の「貧乏人」から成り立っている自己組織的なスケールフリー・ネットワークであると著者は言います。実はこのスケールフリー・ネットワークが、世界をネットワークとして理解するための鍵になるのです。インターネットの脆弱性、キリスト教の伝道、エイズの急速な広がり、アルカイダの組織のシステムまで、あらゆることがスケールフリー・ネットワークとして説明できます。

これまでの学問は、ものごとを最小単位にまで分解することに躍起になってきました。現在までに、多くのものごとが最小単位にまで分解されましたが、分かったのは、それでも分からないことがたくさんあるということです。ものごとは複雑につながり合っています。この本は、ネットワークという視点からものを見ることで、全く新しい学問のあり方を示しているということができるでしょう。読みやすい流麗な文章で、世界の見方をまるごと変えてくれるエキサイティングな本です。[平野智紀]

2006.11.16

【Book Review】「人はなぜコンピューターを人間として扱うか」

人はなぜコンピューターを人間として扱うか—「メディアの等式」の心理学バイロン・リーブス著 クリフォード・ナス著 細馬 宏通訳 (2001)

今回紹介する本は、学部のころに読んだ本の中で、とても印象に残っている一冊です。

この本の内容は、タイトルの通り、「人はなぜコンピューターを人間として扱うのか」ということについて書かれています。ふーんと思いますが、よく考えてみると変ですよね。

「そもそも、コンピューターを人として扱うなんてことがあるのかな??」

っていうことだと思います。僕もそう思います。しかし、私たちは無意識のうちに、コンピューターなどのメディアに対して、人間同士で行うコミュニケーションに似たふるまいをしているのだということを実験において明らかにしているというのがこの本の内容です。

具体的な例をひとつだしてみましょう。

例えば、人間同士のコミュニケーションを考えてみます。僕が授業などで発表をしたとして、「今日の発表どうだった?」ということを友達に聞けば、「ああ、よかったんじゃない」というような言葉が返ってくるかもしれません。それはある意味礼儀のようなものです。もし、僕じゃない人が聞けば、もう少し低い評価をするかもしれません。

この本が面白いのは、これが人とパソコンとの関係でも成り立つのかということを実験している点です。細かい実験の手順は省きますが、なにか作業を与えられ使用したパソコンの評価を、その同じパソコンを使って評価するときと、別のパソコンを使って評価するというときで、結果に差がでたというのです。

それはつまり、コンピューターに対しても、本人(作業したコンピューター)の前では、礼儀的に、低い評価を出さなかったということなのです。

これはひとつの例ですが、この本の中には、さまざまな実験がのっています。また、その実験の結果から、インタフェースのデザインなどにいくつも面白い指針を示しています。

こうした結果は、教育工学のような分野にとっても、非常に示唆的なものなのではないでしょうか。私たちは、必ずしも、「リアル」で「ハイテク」で、「高機能」なものだけに対して、対話的であるのではなく、もっと素朴ななにかについて、対話的にかかわりあっているということです。

こうしたうまいコミュニケーションができる道具というのを考えてみると、もっともっと使いやすく、面白いものがうまれてくるのではないでしょうか。

[舘野泰一]

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