2007.01.11
G.M.ワインバーグ著(1985), 木村泉訳(1990)『コンサルタントの秘密 −技術アドバイスの人間学−』共立出版
本書は理系読み物で,学術書ではありません。しかも「依頼主がどういおうとも,問題は必ずある。」といった法則が,あれこれ紹介されているという風なのです。一時,「マーフィーの法則」ブームで類書が流行りましたから,あるいはそういう類の本と思われるかも知れません。
ただ,著者は『プログラミングの心理学』を始めとした著作でも有名な情報システム技術系のコンサルタント。その内容は氏のコンサルタント業における経験に基づく面白くも示唆に富んだものです。そして,どんな問題も結局は「人」の問題だということを教えてくれます。
どんなにシステムのデザインが万全でも,「人」の気まぐれが様々な問題を呼び込んでしまうことがあります。また,人は理性的な判断が欠如しているかのごとく振る舞い,周囲の人間を振り回してしまうこともあります。まことに,人というのは理不尽な存在といえます。
そんな「人」というものと付き合っていくにあたって,本書の様々な法則が気持ちを楽にしてくれるかも知れません。つまり相手のこと(ひいては自分のこと)が分かっていれば,極端な感情にエネルギーを奪われることも少なくなるはず。あるいは,システムのデザインにもよいヒントが得られるのではないでしょうか。
本書で有名なのは「オレンジジュース・テスト」でしょう。最初にこれを読んだとき,私は大学生だったので,このテストの価値がよく分かりませんでした。けれども,組織の中で仕事を始めてから再度思い出したとき,このテストの深い価値を知ったのです。
そして私が一番気に入っているのは「バッファローのブレーキ」という法則です。「バッファローはどこへだってつれてゆけるさ,やつらが行きたがっているところへならね」と「バッファローをどこかへ行かせないことはできるさ。やつらが行きたいと思っていないところへならね」というもの。
そろそろ中身が気になってきましたか?これらの法則に付随するエピソードを読むことこそ,本書の楽しみだと思います。コンサルタントの秘密をかじって,心に余裕をもってみませんか。
[林 向達]