2007.01.26

【BookReview】「西洋哲学史」

哲学への入門書として定評のある本書は,ヴィトゲンシュタインの後見人としても知られるバートランド・ラッセルによって50年以上前に書かれました.上中下3冊900p超と気軽に読める量ではありませんが,それでも一読の価値はある本かと思います.

推薦理由として3点.

はじめに,なんといっても哲学の世界への良い入り口となってくれる点,哲学とは何か,ではなく,哲学をするとは何かを明瞭に浮かび上がらせてくれる点があげられます.ミームとしての神秘主義(オルフィック教的な主義)がプラトンから連綿とヘーゲルまで伝わっていく様など,僕のこれまでの哲学観を大きくかえてくれました.

次に,入門書と呼ばれる所以でもある,その後の読者の哲学的学びへのよい準備となってくれる点があげられるのではないでしょうか.ひとりひとりの"大"哲学者たちは,長くても50p以内で簡潔にまとめられており,その意味では,本書だけで分かったつもりになるのは危ないのではないかとすら思わせます.しかしながら,たとえばヒュームは,ヒュームだけで語られるのではないのです.ロックから連なる経験論哲学において,バークリーが実体という観念を物理学から追放したことを眺めながら,ヒュームによる心理学からの実体の追放が描き出されていくといったように,随所で歴史と思想が絡み合い,読者の頭の中に哲学史の世界地図を築き上げていくラッセルの手腕は,見事だというほかありません.

最後の点は,上記の点と関係がなくもありませんが,常識的な世界史の知識と哲学史との繋がりが示されることで,単に哲学史を概観するよりも,よりリアルな哲学者像を想像しながら読めること,です.何故,スコラ哲学においてアリストテレスが至上とされたのか,何故,教会と国家の関係が哲学へと影響を与えたのか.これまで僕には想像の世界の中で難解なことばを振りかざすイメージでしかなかった哲学者達が,わたしたちと同じように生活し,いきていたことをリアルに意識させてくれました.この意味において,貴重な書だと考えます.

ただ,実のところ,いとも簡単な言葉で知をあらわすラッセルのことばに酔いしれられること,それが僕の一番大きな推薦理由かもしれません.

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