2006.12.13

【Book Review】『信頼の構造』

山岸俊男 (1998) 信頼の構造:こころと社会の進化ゲーム. 東京大学出版会, 東京.

以前、ここで紹介した『きずなをつなぐメディア』は「社会関係資本 social capital」をテーマとしていました。それに対して、この本は社会関係資本の重要な概念である「信頼」について深く掘り下げた本です。

本書は基本的に実験室実験による実証研究に基づいて執筆されています。しかしながら、「まえがき」に書かれているように「社会科学者が強調する、このような関係資本(引用者 注:社会関係資本 social capital)としての信頼の理解を、個人の認知や行動といった心理学者や社会心理学者が扱う信頼の理解と何とかして結びつけよう」という狙いで研究が進められています。
実験室における現象という狭い範囲にとどまらず、マクロな社会理論へとつなげていこうとする点は、本書の大きな特徴ではないかと思います。

この本の中心的なメッセージは、「集団主義社会は安心を生み出すが信頼を破壊する」というものです。真偽については本書を読んでから考えてみてください。
なお、このテーゼは、同著者の『安心社会から信頼社会へ:日本型システムの行方』(中央公論新社)を合わせて読むと理解が深まるのではないかと思います。

最後に、本書をここで紹介した意図について触れておきます。
『きずなをつなぐメディア』を紹介したときにも書きましたが、信頼や互酬性は、協調学習、学習コミュニティ、CSCLにおいても重要な要素だと考えています。
本書は「信頼」をテーマにしているだけに、信頼概念について入念なレビューがなされています。例えば第2章「信頼概念の整理」を読むだけでも得るものは大きいのではないでしょうか。 [北村 智]

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