2006.12.07

【Book Review】「企業者ネットワーキングの世界」

金井壽宏(1994)『企業者ネットワーキングの世界』白桃書房

この本は、著者がMITに留学し、提出した博士論文が母体となっています。著者は留学中、MITのあるボストン近郊の企業者ネットワークを参与観察し、一見、創造的な「一匹狼」のように見える企業者達が、実は様々なネットワークの中で生きていることを明らかにしました。

ネットワーキングとは、「連帯しあいながらも個を生かす行為」です。ネットワークには、アイディアや情報の収集、異なる視点の活用、資源の動員といった「用具的(instrumental)」側面以外に、参加者にそこに所属しているという心理的な気持ちをもたらし、このような心理的所属感に基づき自己表明をする場としての「表出的(expressive)」な側面もあると、著者は言います。

著者は、企業者達が参加するMITフォーラム会とSBANEダイアローグ会の参与観察を通じて、「フォーラム型」と「ダイアローグ型」という二つのネットワーキング組織のタクソノミー(体系的類型枠組み)を導き出しました。フォーラム型とは、誰もが参加できるゆるやかなつながりで、参加者達は集まって情報やアイディアを交換する「用具的」なネットワークです。一方、「ダイアローグ型」とは、閉鎖的で限定的なメンバーによる強いつながりで、参加者達は互いに対話(ダイアローグ)を行う「表出的」なネットワークです。独立した企業者達は、これらのネットワーキング組織に参加しながら事業活動を行っていたのです。本書は、それまで理論的にしか語られなかったネットワーキング組織を、緻密なエスノグラフィーによって実証的に明らかにし、その理念的類型を提示しました。

本書の優れた点は、その研究方法にもあります。著者は、フォーラム会とダイアローグ会の参与観察を行った後、その結論を補完するため、それぞれの会の参加者に定量的な調査を行いました。また、本書は先行研究をレビューし、あらかじめ企業者活動やネットワーク、自助(セルフ・ヘルプ)に内在する理論的なパラドクスを提示しています。一匹狼である企業者は誰かに依存しなくては事業経営できない存在でもある、弱連結のネットワークは多様なアイディアや情報が得られる一方、強連結にしかない強みもある、などの理論的パラドクスが、1つ1つ実証的に解かれていきます。理論と実証、質的調査と量的調査、パラドクスの解明など、本書には研究を行っていく上でのヒントがたくさん詰まっています。ネットワークに関心のある人に留まらず、研究を行っていく全ての人が読んでオトクな一冊です。[荒木淳子]

PAGE TOP