2020.05.26
皆さん、こんにちは。D2の中野です。
社会人学生も4年目に突入しました。仕事では、2019年末より文部科学省が推し進めるGIGAスクール構想の実現に向けて、教育現場にテクノロジーを広める活動をしつつ、夜と週末は研究者として社会情動的スキルの研究をすすめています。
理解ある職場と、社会人大学院生をあたたかく受け入れてくれる研究室のおかげで、二足のわらじ生活もだんだん板についてきました(笑)博士課程は長期履修(社会人大学院生等向け制度で、博士課程については3年分の学費で最長6年かけて博士号取得を目指すことが可能)を活用し、5年かけて博士号の取得を目指しています。フルタイム学生と比較すると研究のスピード感がどうしても遅くなってしまいますが、仕事をしながら研究できるというのはかなり魅力的な制度です。このような制度があるおかげで、情報学環にも働きながら修士号や博士号取得を目指す社会人大学院生が少なくありません。
さて、私の研究テーマですが、過去に何度かBlogで紹介したように、「社会情動的スキル」を対象としています。日本ではSEL(Social Emotional Learning、社会性と情動の学習)はまだまだ馴染みがない方も多いと思いますが、欧米ではここ30年近く社会情動的スキルやSELに関する研究がなされており、アジアでもシンガポールやオーストラリアは教育省が国の教育政策に取り入れるほど重要なコンピテンシーとして注目されています。
博士課程では、修士課程で行った研究と、博士課程で行う研究の2つを軸にして博士論文を執筆します。
修士課程で行った、UWC ISAK Japanのサマースクールを研究対象とした論文が、先日、日本教育工学会(JSET)に採録されました。13日間の短期宿泊型の学校外学習で社会情動的スキルが変化すること、その変化が個人特性と関係していることを実証的に明らかにした研究です。ありがたいことに、JSET論文誌の2020年4月のアクセスランキングにランクインしたようです。改めて、研究に協力くださったISAKや参加者の皆さま、研究を支えてくださったYlabの皆さまに感謝です。
博士研究では、当初、プログラムの開発研究を実施予定でした。様々な先行研究を読むにつれて、エビデンスベースドのSELの開発ももちろん重要ですが、エビデンスベースドのSELの効果に関するメカニズムまでは明らかになっていない(河本 2017)という課題や、また実践者の違いによって効果が異なる(DURLAK 2016)ため、実践者側の要素も明らかにする必要があるという課題にアプローチすることが、有効なSELを開発・実践する知見になると考え、プログラム(修士研究を軸に肉付け)と教師の支援(博士研究)の軸で、今後のSEL開発の前提となる知見を生み出すための調査研究としてすすめることにしました。加えて、プログラムの経験と成果について,参加者の個人特性の影響を扱った研究が必要である(HURD and DEUTSCH 2017)という指摘から、両研究を「個人特性」という切り口で分析していこうと思っています。
最後に個人の研究とは別に、前回Blogでもご紹介した、MITメディアラボとの共同プロジェクト(Scratchを使ったクリエイティブラーニングの発想を生かした授業のあり方に関する研究)の研究成果を発表しました。クリエイティブラーニングの発想を生かしながら、日本の小学校で実行可能なプログラミングを取り入れた授業のあり方とそのデザイン原則について、こちらで詳細をご紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください!
【中野生子(Seiko NAKANO)】
2020.05.20
こんにちは。この4月に入学いたしました、M1の岩澤直美と申します。私は「児童の異文化間能力を高める教育プログラムの開発」に関する研究を行いたいと考えています。
私自身は日本語とチェコのハーフとして生まれ、日本、ハンガリー、ドイツで育ちました。様々な地域の人々や国際学校でのクラスメイトとの出会いの中で、異文化間の交流が円滑に行われるケースと、そうではないケースを目の当たりにし、「円滑でリスペクトのある異文化間交流はどのようにして実現できるのか」に興味を持つようになりました。
学部の卒論では「児童の異文化感受性レベル ―6枚の写真を使ったインタビュー調査― 」という題で、小学生に対してセミフォーマル・インタビューによる調査を行いました。異文化感受性とは「異文化や、様々な背景を考慮する必要のある状況の捉え方」(Bennett, 1986)で、グローバル化・多様化する社会において重要な要素の1つである言われています。調査の結果は、8割以上の児童は異文化感受性レベルが低く、自文化中心主義であるというものでした。
異文化間の関係性構築を円滑なものにするため、そして偏見や差別を逓減するためには、異文化感受性をはじめとする異文化間能力が必要です。PISAでも「グローバル・コンピテンシー」として調査がされるようになりました。
異文化間能力には様々な要素が必要だと言われていますが、大きく分けて、①態度 ②知識と理解 ③スキル ④価値観、が挙げられます。(OECD, 2016)
修士課程ではこれらの能力がどのように育成できるのかを検討するため、教育プログラムの開発研究を行いたいと考えています。ゼミではおよそ5週間に1回、研究計画について発表を行います。初回発表では、異文化間教育学会においてどのような研究がされてきたのか、異文化間研究とは何か、という枠組みに関してまとめました。これからどのような対象、能力、状況に絞っていくのかを決め、調査を進めていく予定です。そして、「最終的に学習者がどのような状態になっていることが理想なのか」を明確にし、具体的な介入方法を検討していきたいと思います。
M1 岩澤直美
2020.05.16
こんにちは、D1の井坪です。
昨年度、「EFLでの会話を促進する事前学習に関する研究」という題で修士論文を提出し、今年度より博士課程に進学いたしました。今年度は修士論文の成果を投稿できる形にまとめつつ、博士課程受験時に提出した博士論文全体の計画を見直し、進めていこうと思います。
私は、「英語学習者のコミュニケーション能力の育成を促す会話の支援に関する研究」を行いたいと考えています。
グローバル化に伴い、より国際的な社会が築かれようとしている中、外国語でのコミュニケーション能力は一部の業種や職種だけではなく、生涯にわたる様々な場面で必要となることが想定されます(文部科学省 2018)。
その育成方法に関しては、認知的アプローチや社会文化的アプローチを背景とした、会話に参加することでコミュニケーション能力が育まれるという考え方が存在していますが、そこに対する支援はまだ十分とは言えません。例えば、①学習者は会話参加に困難を感じているという問題点や(小林 2006)、②意味交渉に繋がる活動やタスクについての検討を行っている論文は数多く存在しているものの、見解の相違がみられるなど、まだ確立されていない部分も多いという問題点が挙げられます。
学習者のコミュニケーション能力の育成において、学習環境デザインの観点からは、英語学習者がいかにコミュニケーションに参加するのを促すか、そしてその中でいかにコミュニケーション能力の育成につながるやり取りをすることを促すか、という2点が検討されるべきであると考え、修士研究で前者、博士研究で後者を扱いたいと考えています。
先日のゼミでは、コミュニケーション能力の育成というゴールが、2つの研究を包括した大きな目標として適切なのかに関して様々なご意見を頂戴し、現在見直している最中です。ゴール(学習目標)の設定と、そのゴールに応じた評価方法の選択は非常に重要なところだと思いますので、慎重に検討していきたいと思います。
【井坪葉奈子】
2020.04.28
D4の平野智紀です。私は「美術鑑賞における協調学習のデザインに関する研究」というタイトルで博士論文を執筆しています。美術館や学校で、あるいは企業でも、広く行われるようになってきた対話型鑑賞について、アートならではの学習を引き起こす方法論を探究しています。対話型鑑賞では、ナビゲイター(ファシリテーター)が司会進行役として、複数の鑑賞者が話し合いながらアート作品の解釈を深めていきます。
これまで、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)によるACOP:アート・コミュニケーションプロジェクトをフィールドに、2つの実証研究を行ってきました。
1本目の研究「対話型鑑賞における鑑賞者同士の学習支援に関する研究」では、ナビゲイターによる働きかけに加え、鑑賞者が他の鑑賞者の発言を引用して話すことに着目し、4名のナビゲイターによる2回の異なる作品鑑賞における発話を比較する研究を行いました。
対話型鑑賞における鑑賞者同士の学習支援に関する研究
https://doi.org/10.24455/aaej.36.0_365
2本目の研究「対話型鑑賞のファシリテーションにおける情報提供のあり方」では、ナビゲイターが鑑賞中に行う情報提供について、提供された情報の分類とその意図を整理した上で、その情報が鑑賞者の鑑賞の役に立っていたか、という視点で、9名のナビゲイターによる同一作品の複数回の鑑賞における発話を比較する研究を行いました。
対話型鑑賞のファシリテーションにおける情報提供のあり方
https://doi.org/10.15077/jjet.43034
博士論文では、これら2つの実証研究を統合し、美術鑑賞における協調学習のデザインに資する知見を導出することが求められます。とくにゼミで指摘をいただいているのは、アートの領域における学習ならではの知見を導く必要性です。他者の意見を踏まえること(研究1)、必要に応じて情報提供をすること(研究2)、というだけでは、一般的な学習の原則にしかなりません。
絵を見るとはどういうことか。福原義春編『100人で語る美術館の未来』(慶応義塾大学出版会、2011年)に、まさにそうしたタイトルで、佐伯胖先生による基調講演の様子が掲載されています。作品の世界に出たり入ったり、この試行錯誤が、複数人で対話を通して鑑賞するときのおもしろさのひとつだと感じます。
事例報告で紹介されたガードナー美術館の映像では、先生が生徒に「What's going on?」と質問していました。それは「何が起こっている?」というところの世界に自分自身を投入してみる、もっと中に入ることです。それを私は鑑賞(appreciation)と呼びます。そういう、世界の中に入り込んで、そこで生きてみるというとらえ方に対して、その次の段階があります。つまり、意味理解に立ち止まる段階です。さきほど、「統合による分析」の話をしましたが、統合ということは、自分で決めてしまったら、その統合の中で部分を解釈します。ところが部分の座りがよくないときに、もう一回統合のし直しをします。全体とは異なるものの集まりなのではないか、あるいは、ここのまとまりを一つのまとまりと見るとどうだろうか、むしろこういう大きなまとまりの一部だったのかもしれない、というように、まとまりそのもののとらえ直しを瞬間的に行うときに一瞬立ち止まります。省察(reflection)ともいうんですが、「これってどういうことなんだろう」と、もう一度見直す瞬間がある。p.39
コロナ禍により、人が集まって対話をすること自体が難しい世の中になっておりますが、私はまたアートを介した対話を楽しめる日が来ることを信じて、研究を進めたいと思います。
2020.04.15
M2の小野寺萌美です。
最近は世界的な感染症対応に追われ、心穏やかな日々を過ごせているとは言い難い状況が続いておりますが、どうか皆様もお身体や周りの方々を大切に、健康にお過ごしくださいますように。当研究室でも、今年の夏季入試への進学相談について、オンラインでの取り組みをすることになりました。ご関心がある方はぜひご覧になってください。
【お知らせ】夏期入試にむけたZoomによる進学相談
さて、今回は私の研究概要について少々ご説明させていただきたいと思います。
私は読書活動におけるフロー体験の促進と学習効果の関係性についての研究を行っています。
私がこの研究を行うまでのバックグラウンドについては前回の記事に記述しておりますのでそちらも併せてご覧いただければと思います。
フロー理論とは、Csikszentmihalyiが提唱した「全人的に行為に没入している時に人が感ずる包括的感覚」についての理論で、現在フローについては、以下の2つの生起条件と6つの特徴から説明されています。
フローの生起条件
・挑戦と技能のレベルが釣り合っていること
・即時のフィードバックがあること
フローの特徴
・目の前の物事への集中の統制
・行為と意識の融合
・自意識の喪失
・自己を完全に統制できる感覚
・時間感覚の歪み
・活動の内発的な報酬
(Csikszentmihalyi,1990 Nakamura & Csikezentmihalyi, 2013を基に再構成)
このようなフロー体験は読書活動を行っている際にも見られます。例えば、本を読み終わって気が付いたら朝になっていた、物語の登場人物に感情移入して、自分のことのように泣いたり笑ったりする、などといったことがその例です。
このフローを第三者が促進する支援を行うことができると考えていて、どのような方法を用いるのが適切か、ということを考えています。
最後になりますが、現在この研究の調査として読書に関するアンケートを行っております。
数問程度の簡単なものですので、この記事をご覧になった方はぜひともご協力ください。
またこのアンケートは多くのデータを必要としています。
ですので、拡散するお手伝いをしていただければ幸いです。
アンケートはこちら
次回からは他のメンバーの研究計画についての記事が続きます。
当研究室の研究にご関心がある方はぜひ今後ともチェックしてみてください。
【小野寺 萌美】
2019.10.31
こんにちは。修士課程2年の江﨑文武です。
【山内研の日々】というテーマのもと、今回は毎週のゼミで行われるプログラム「文献発表とグループ討論」についてご紹介します。
「文献発表」では教育工学やその周辺領域の潮流を概観することを目的に、毎年1-2冊の英語文献を輪読します。毎週、決められた担当者が担当章の日本語サマリーを作成し、ゼミ生に共有します。
その後、ゼミ生をいくつかのグループに分け、実践的な課題を元に「グループ討論」し見識を深めるのが本プログラムの概要です。
今年度はHANDBOOK OF RESEARCH ON LEARNING AND INSTRUCTIONという文献を輪読しており、基本的にはゼミ生の興味範囲と重なる章を各人が担当し、関連文献も併せてサマリーを作成します。
本日のゼミでは、経営学習論・人的資源開発論がご専門で博士課程に在籍中の田中聡さんが、ご自身の専門とは重なるところの少ない「Learning Histrory」という章を担当され、歴史教育の理論的展開や教育的文脈、歴史学習の限界と制約について昨今の研究を適宜参照しながら概観しました。
自分の専門領域を深めるために担当章を選択する方もいれば、自分の専門領域とは遠い領域の章を”あえて”選ぶ方もいるところが、このプログラムのユニークなところです。一見、自分の専門領域とは重ならない内容のサマリーを作るという行為は信頼性に欠けるように思えますが、多様なバックグラウンドを持ち合わせたメンバーを抱える私たちの研究室では、実は他のメンバーが専門的な知見を持ち合わせていた、という場合も少なくありません。
この日のグループ討論のテーマは「将来の研究課題として取り上げられている小学習者段階の歴史的思考力の育成と国家を超えたグローバルな視点の獲得に関する具体的な授業案についての議論と発表」だったのですが、歴史的な事象には多様な解釈があるということを間違い探しというギミックを用いて理解させる歴史マンガ本のアイデアや、歴史的思考をより身近なものに感じさせるためにファミリーヒストリーを追うといったアイデア、各国の教科書を読み比べるアイデア等々が発表されました。
学際情報学府がそもそも「情報」をめぐる諸領域を流動的に連携させるネットワーク組織として設計されていることを踏まえると、多様な視点から1つのテーマについて議論を深められるのは、私たちの大学院組織の魅力の1つです。YLabゼミでの「文献発表とグループ討論」はそうした魅力をより一層引き立ててくれるプログラムなのかもしれません。
【江﨑文武】
2019.07.08
こんにちは、M2の井坪です。
今回も、前回の谷口さんのブログに引き続き、【山内研の日々】というテーマで山内研の特色やイベント、日常などをご紹介します。
第2回目となる本日は、「夏合宿」についてです。
山内研では、年に2回の合宿が行われます。
3月に行われる春合宿では、修士課程を終えられる先輩方から使用した手法をはじめとした修士研究のことや、修士課程で大変だったことなど、色々とお話を伺います。
9月の夏合宿は、学者レビューと学習プログラムに分かれた2部構成となっていることが多いです。
学者レビューでは、ピアジェ、デューイ、ヴィゴツキーにプラスして数名の古典的学者についてグループごとに調べ、合宿で発表・ディスカッションを行います。
昨年度は毎年レビューしている3名に加え、ブルームとブルーナーについてレビューし、今年度は三宅なほみとパパートについてレビュー予定です。
私は昨年度、博士課程の先輩と2人でデューイを担当したのですが、デューイの生涯、思想、関係している研究者などについて知ることが出来、とても有意義な時間を過ごせました。
また、M1はレビューグループに分かれる際、博士課程の先輩と組ませてもらうことも多いので、調べ方の枠組みなどについても教えてもらうことが出来ます。
前回のファシリテーター制度ではないですが、先輩方から学ぶことは非常に多いなと感じました。
昨年度は、学者レビューの発表後に、レビューした5人の学者と、その学者に関係する学者達を1つの関係図にまとめるなかで、自分の研究の立ち位置なども明らかにしていくというアクティビティを行いました。最終的には、3つのグループそれぞれが、自分も含めた学者の巨大な関係図を作成することが出来ました。
また、昨年度の学習プログラムでは、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の長谷部葉子研究会と合同で、「地域の人との連携方法と巻き込み方」、「目標の設定と共有」、「活動の評価」、「活動の一般化」といったテーマに沿ってディスカッションを行いました。
フィールドに入って積極的に活動する長谷部研の学生の皆さんとディスカッションを行うことで、理論と実践を行き来しながら研究を進めていくことの重要性について、改めて認識することが出来ました。
番外編として、夏合宿の非常に重要な時間だと個人的には思っている、夜の懇親会についても少し触れさせて頂きます。
助教や博士課程の皆さんも合宿にはいらっしゃっているので、普段なかなかじっくり話す時間を取ることが難しいメンバーとも、ゆっくり研究についてお話しすることが出来ます。
また、懇親会で行われるアクティビティを通して、ゼミの時間には知ることが出来ないメンバーの意外な一面なども垣間見え、懇親会はお互いのことを知るいい時間になっています。
今年の夏合宿ではどのような学びを得られるのか、またどのような思い出が出来るのか、今から楽しみです。
次回は江崎さんから「文献発表とグループ討論」についてご紹介いただきます!お楽しみに。
M2 井坪葉奈子
2019.07.01
こんにちは。修士課程2年、社会人学生の谷口恵子です。
今回からは【山内研の日々】と銘打って、山内研の特色やイベント、日常などを紹介していこうと思います。第1回は「ファシリテーター制度」についてご紹介します。
山内研の「ファシリテーター制度」は、おそらく珍しい制度ではないかと思います。同じ東大内でも、他大の院生の方と話しても「そんな制度はない。うらやましい!」とよく言われます。私自身、この制度がなかったら修士1年目を乗り切れなかったかもしれない、と思います。
これは、修士課程と博士課程の院生に、1人ずつ「ファシリテーター」という役割の方がついて、研究の支援をしてくださる制度です。ファシリテーターになるのは、講師や助教の先生方、また博士課程の先輩などです。山内研のOB・OGで、現在は他大で教えていらっしゃる先生がファシリテーターとなっているケースもあります。
新卒で企業に就職すると、OJT期間中、育成係の先輩がついてくださることがよくありますが、これに似た制度かな、と思います。研究生活において、何かわからないことがあったときや、相談したいときに、「この方に相談すればいい」ということが最初から明確になっていることは、とても安心です。もし決まっていなかったら、先輩方や先生方、皆さんお忙しい中で、遠慮して誰にも相談できず、迷走し続けてしまうかもしれません。
山内研では、各院生がゼミで研究発表をする機会が月1回くらいあるのですが、研究発表の前にファシリテーターの方にご相談することで、研究相談と研究発表の両方が、研究を進めるためのマイルストーンになります。そのように、研究発表の合間に1~2回、ファシリテーターに研究相談をしている院生が多いと思います。
私の場合、仕事が忙しくて研究が思うように進められなさそうなときには、あえてファシリテーターとの研究相談の日を決めてしまうことで、その日に向けて少しでも研究を進めよう、というプレッシャーを作り出しています。また、研究相談の時間がとれないときには、メッセンジャーなどでファシリテーターにご相談をすることもあります。研究発表の直前に発表資料のドラフトを見ていただいたりと、無理をお願いしていることも多いのですが、昨年度のファシリテーターの仲谷さんも、今年度のファシリテーターの池尻さんも、お二人とも快く応じてくださり、本当に感謝しております。
1年3ヶ月、山内研で過ごしてきて、学習環境として本当に恵まれている!と思うことがたくさんありましたが、中でも今回ご紹介したファシリテーター制度は特にありがたいものでした。これから本実践、論文執筆と、山場を迎えることになりますが、引き続きファシリテーターにお世話になりながら、研究を進めていきたいと思います。
次回は井坪さんから「夏合宿」についてのご紹介です!お楽しみに。
M2 谷口恵子
2019.06.20
皆さん、こんにちは。D1の中野です。
社会人学生も3年目に突入しました。昨年は転職をし、仕事に大きな変化がありましたが、新たな環境でも引き続き研究者との二足のわらじを履いています。
私の研究テーマは「社会情動的スキル」です。欧米ではここ30年近くSEL(Social Emotional Learning)と呼ばれる社会情動的スキルの学習プログラムが開発されてきています。一方で日本ではまだ社会情動的スキルという概念が一般的ではなく、部活動やボランティア活動等で当該スキルが向上する可能性が示唆されている状況ですが、効果が検証されたSELプログラムもあまり存在しません。
私の修士論文では、UWC ISAK Japanが中学生を対象に実施しているサマースクールを研究対象として、社会情動的スキルに及ぼす影響や、パーソナリティ特性との相関を調査しました。博士研究では、修士論文での知見を踏まえ、社会情動的スキル育成のための学習プログラムの開発を行いたいと考えています。
また、自身の博士研究とは別に、山内研究室で行なっている下記の研究にも参加しています。
ICT統合型プロジェクト学習のあり方に関する研究(Google社助成研究)
一人一台の環境において、葛藤状況から創造的なアイデアを生み出す高度なプロジェクト学習を実現するためのカリキュラムおよびICT利用のあり方について検討します。
クリエイティブラーニングの発想を生かした授業のあり方に関する研究(Google社助成研究・MITメディアラボとの共同プロジェクト)
MITメディアラボの開発したScratchのベースになっているクリエイティブラーニングの発想を生かしながら、日本の小学校で実行可能な授業のあり方とそのデザイン原則について検討します。
今後は、テクノロジーが学習環境の一要因として含まれていく機会が増えていくと考えています。ゆくゆくは社会情動的スキルとテクノロジーに関連する研究も行いたいと思っています。
【中野生子(Seiko NAKANO)】
2019.06.11
D4の田中聡です。私は「新規事業×中堅管理職の学び」をキーワードに研究をしています。
これまで12年間の民間企業での実務経験から「経営環境の変化に対して非連続な組織変革を牽引して経営を舵取りできる経営人材が日本企業には圧倒的に少ない」という問題意識を持つに至り、次世代経営人材である中堅管理職の育成に強い関心を持っています。
新規事業という経験に着目し、新規事業を創る過程で大企業の中堅管理職が誰からどのような支援を受けて何をどのように学んでいるのか、という学びの全体像を明らかにし、経営人材の育成に資する実践的な知見を創出したいと考えています。
現在、山内研究室在籍者の中で「社会人の学び」を研究テーマにしているのは私ただ一人です。
こう聞くと「え?研究は前に進むの?」と疑問に思われるかもしれません。ただ、そのような心配は無用です。むしろ専門領域が異なる(とはいえ「学習研究」という意味では共通項のある)山内研究室のメンバーとディスカッションをする中で発見することはとても多く、私にとってゼミは研究を前に進める上で貴重な学びの場になってます。
例えば、専門領域が近い研究者コミュニティ(例えば、私の場合であれば管理職研究者など)内では改めて問われることのないような質問が、研究室メンバーからはごく自然に投げかけられます。
つい先日のゼミでも、私の研究内容に対してあるメンバーから「経験学習」とはどういう意味で用いているのか?という質問を受けました。それがきっかけとなり、あらためて社会人学習の文脈で経験学習がどのように論じられてきたのかを考えることができました。
こうした「当たり前に問いを立てる機会の多さ」こそが、「学習」という共通の軸を共有しながら多様な研究フィールドを持つ山内研究室ならではの強みであり、コミュニティとしての魅力ではないかと私は思います。
「学習」に関心があるすべての方に開かれている研究室だと思いますので、ぜひ山内研究室に興味をお持ちの方は気軽に見学にお越しください。
【田中聡】