2009.02.12

【私とylab、この一年】自問自答と試行錯誤(坂本)

【クローズアップ教材】が一回りし、このメンバーでblogを更新していく
今年度最後のシリーズとなりました。
そんな今年度最後となるテーマは【私とylab、この一年】と題しまして、
メンバーがそれぞれの目線で4月からの1年間を振り返ります。
特にその中でも、修了を間近に控えた僕らM2の3人は、
修士2年間の出来事を振り返りたいと思います。

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毎度トップバッターの坂本は、
自分が2年間で修論を進めていった過程を振り返りたいと思います。

山内研では、週に1回ゼミが行われ、研究進捗の発表は
一人につきだいたい月に1回のペースで回ってきます。
ゼミと各自の研究相談を通じて、メンバーそれぞれが自分のテーマを決めていきます。
修士2年間の大まかな流れとしては、
M1の1年では研究計画をしっかりと立てることが、
M2の1年ではその研究計画を着実に実行していくことが、
大きな目標として設定されています。

そして、みんなそれぞれの年に苦しい時期があります。
僕の場合は、1年目はテーマの焦点化、2年目は研究の方法論でした。

■修士1年目
研究計画を立てるとき、土台となる問題点が絞られていないと
地に足がつかない研究になってしまいます。
僕の興味・関心は入学当初から漠然としており、
ゼミで発表する度に「何が言いたいのかわからない」
「問題意識は何か」とずっと問われてきました。
協調学習や教師の支援方略に興味があることは自覚していたのですが、
ただ「おもしろい」と思うだけで、そこに「もっとこうしたらいいのに」とか
「こういう場合はどうなるんだろう」といった問題意識が薄かったのだと思います。

そんなM1の時期にまず与えられる課題は、「とにかく文献を読んでくること」です。
僕は少しその期間が長かったように思います。
読んでまとめてきては足りないところを突っ込まれの繰り返しでした。
協調学習の面白さだけに着目していた頃は、
協調学習の問題点には目がいきませんでした。
本来、効果的な協調学習を実現するためには、その問題点を認識しつつ、
それを避けるようにデザインしなければならないのです。
協調学習に限らず、関連する様々な分野で同じことを繰り返していく
というサイクルが続きました。
その間は、ただ文献を読むだけでは時間だけが過ぎていきます。
読むたびに自分の興味・関心と照らし合わせ、
「共感するもの、納得いかないものがあるか」「あるならそれはなぜか」
ということを常に意識していました。

では、いつテーマが決まったのか。
それは本当に何気ない一瞬でした。文献を読んでいるとき、
ある時ふと「ScaffoldingとFading」の関係性にたどり着いたのです。
M1の1月頃だったでしょうか。

山内研では、「研究のヒラメキ」が起こることを、「神がおりてくる」と言います。
そのときの瞬間を僕にとっての「神」と言っていいのかどうかはわかりませんが、
Fadingのプロセスに関する研究は行われていないことに加え、
個人的な興味・関心としても、学習者側の行動である「学び」と
支援者側の行動である「支援」が結びつく、納得のいくテーマでした。
そしてそこに絞った研究計画を書き、
先生の「うん、いいでしょう」という言葉をもらったのでした。

■修士2年目
もちろん、それで万事解決ではありません。
研究計画は「計画」でしかないばかりか、
その計画でさえもロジックや概念の整理には
まだまだ甘いところがたくさんありました。
M2の1年では、それを詰め、実行していくプロセスに入ります。

問題意識がクリアになっても、それを実現するためには
「研究の方法」がしっかりしていなければいけません。
何をするにも初めての出来事。
こればかりは本を読むだけではうまく行きませんでした。

僕の場合、インタビューの質問項目を考えるのが一つ目の大きな壁でした。
示唆に富む「分厚いデータ」を収集することができる質問項目を考えるのには、
何回も試行錯誤を繰り返しました。
実際の教育現場へフィールドワークに行かせていただき、
質問項目を考えては作り直しながらヒヤリングをしました。
インタビューの質問項目がある程度決定したら、
本当にそれで問題ないかプレインタビューをお願いしたりもしました。

質問項目ができあがり、本番のインタビューに入っても、
それを分析するのにまた大きな壁にぶちあたりました。
インタビューで収集した先生方のデータはすごく面白いのですが、
研究結果として手続き的に分析していくのに、ものすごく手間取りました。
分析は、「誰がやっても同じ結果になる」ように、手続きを明確にし、
機械的に進めなければいけません。
でも僕は、どうしても自分の頭の中で解釈してしまい、先に進めませんでした。
最後は結局、山内先生に手取り足取り指導していただきながら分析を進めました。

山内先生は、研究には「新しい学びの形を創りたいという『問題意識』と、
アイデアを実現するための『道具』」が必要であるとおっしゃいますが、
僕は十分な「道具」を持っていなかったのだと痛感しました。

研究方法に関する議論は、突き詰めると本当に複雑で多岐にわたっているので
ここで軽々しく扱えるような内容ではないのですが、
先生に助けてもらいながら分析を進め、なんとか結果を形にすることができました。
先日も現場の先生方の前で研究内容を発表する機会に恵まれ、
発表後、本当に嬉しい言葉をたくさんいただきました。
お世話になった先生方に恩返しがしたいという気持ちでやってきたので、
ここまで頑張ってきてよかったと心から思えました。

■修士研究を終えて
もちろん、修士研究が形になったことで全てが終わったわけではありません。
研究をしていると、知るたびに余計訳がわからなくなることがたくさん出てきます。
その連鎖で、これまでゼミで学んできたことや前に読んだ本の内容、
授業で学んだ内容、飲み会のときに先生や先輩が話していた内容ががリンクし、
「わかってはわからなくなる」を繰り返していくのだと思います。
山内先生は、
「『神』はいつおりてくるかわからないけど、努力しないと絶対おりてこない」
と言います。
その、何かと何かがリンクする瞬間に、「神」が隠れているのかな、なんて思ったりもします。

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秋以降、山内研には、来春から仲間入りする"M0"が出入りするようになり、
いよいよ世代交代の季節が近づいてきた、と感じます。
M0のみなさんは、これから、研究がうまく進まなかったり、
授業との両立が難しくて疲れてしまうことがあるかもしれません。
それでも、同じ学年の仲間とともに力を合わせたり、
同じ経験をしている先輩たちからアドバイスをもらったり、
先生やスタッフのみなさんから、厳しいけど的確で暖かい励ましをもらいながら、
修士研究が完成したときの喜びは何事にもかえられません。
「神」に出会うのに必要な努力を続けるためには、
仲間の存在がとても大きいように思います。

これからも、山内研のみなさんから
興味深い研究がたくさん生み出されることを期待しております。
僕もまた、わかり続けるための連鎖を途切れさせないよう
学び続けていきたいと思います。

2009.02.05

【クローズアップ教材】向後研究室のWeb教材

【クローズアップ教材】も最終回となりました。
今週は博士課程2年の森玲奈が担当いたします。

今回は早稲田大学人間科学部 向後千春研究室 が開発し、実際に大学の授業で使用しているWeb教材をご紹介します。

これらは一般公開されており、個人が自由に活用することができます。

(HP上には、教材を授業や講習会などで利用するときは、同一内容を収めたCD-ROM教材をご注文いただくことをお勧めします、との記述があります)

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具体的には下記のようなものがあります。

ハンバーガーショップで学ぶ楽しい統計学(2004)

平均・分散、信頼区間、χ2乗検定、t検定、分散分析までをカバーします。

アイスクリーム屋さんで学ぶ楽しい統計学(2003)

散布図、相関係数、偏相関、単回帰、重回帰、因子分析までをカバーします。

ネコのぶきっちょと学ぶC言語(2002)

Windowsパソコンを使ってCプログラミングの初歩を学びます。

園長と学ぶHTML・スタイルシート(2001)

基本的なHTMLタグの使い方とスタイルシートを学びます。

アフロ先輩と学ぶ実用文の書き方(2000)

実用文の書き方を、基礎編・実践編に分けて学びます。おまけとして「日記の達人塾」を収録。

つっちーと学ぶ情報処理(2000)

マッキントッシュを使って、ブラウザ、エディタ、クラリスワークスの使い方を学びます。

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興味深いのは、これらの教材に関して「フィードバック」をしてほしいということが書かれていることです。
教材の中に間違いや疑問の点などありましたら、メールでご意見を向後先生までお送りください、とのことです(HPにはメールアドレスが書かれています)。

教材も沢山の方に使われる中で揉まれ、フィードバックを通じてよりよい教材に成長していくのでしょうね。
まさにフォーマティブ、という感じがして、素敵な試みだと感じ応援しています。

【担当:森玲奈】

2009.01.31

【クローズアップ教材】蓄積されていくコンテンツ

第7回の【クローズアップ教材】は、D2の佐藤朝美が担当いたします。
前回までは海外のコンテンツが多かったので、今回は日本に目を向けたく思います。


■School On the Internet(SOI)
http://www.soi.wide.ad.jp/contents.html
 SOIは、「世界中の学ぶ意欲を持つ人々に、デジタルコミュニケーションを基盤とした従来の制限や境界にとらわれない高度な教育と研究機会を提供する」ことを目的に1997年9月より活動を始めました。

 私は2004年5月8日の中原淳先生(当時はまだ東京大学の先生ではなく、MITの研究員として渡米されていた頃)のブログでその存在を知り、ちょくちょくのぞくようになりました。
http://www.nakahara-lab.net/2004diary0501.html

 メールアドレスとWebを見れる環境をお持ちの方ならどなたでも参加出来ます。受講をしないのであれば、登録をせずとも講義ビデオの視聴とその資料も閲覧する事が可能です。

 オンライン講義は多々見かけるようになりましたが、SOIには開講されてから10年以上、弛まず継続されてきたところに、大きな特徴と価値があるといえるのではないでしょうか?過去のコンテンツは、村井純先生の豊富な講義をはじめ、特別講演会なども公開されており、孫正義さん、シスコ取締役松本孝利さん、荒俣宏さんや大前研一さんなどのお話しも聞けます。10年前に各界のトップの方がどのように未来を見通し、どのようにビジョンを語っていたか?を見るのも興味深いモノです。「IT社会のこれから」系のテーマでは、現実となった事、実現されなかった事などがあるわけで、その原因を考えることで、今後を予測する際のヒントになる事もあるのではないかと思います。

 最近は、遠隔の講師が参加してダブルキャストで講義していたりと技術の進化が感じられます。新たな技術も取り入れつつ、でも、細く長く、これからも豊富なコンテンツを提供して欲しいと思います。


■SFC Global Campus
http://gc.sfc.keio.ac.jp/index.cgi
 こちらは慶應義塾湘南藤沢キャンパス(SFC)が、学外に向けてSFCの講義を公開しているものです。学部生が単位をもらえるe-科目制度という仕組みもあるとのことですが、一般公開のコンテンツ視聴は登録の必要がありません。

 2007年より公開されている学習環境デザインワークショップでは、SFCが提案&提供してきた新たな学びを支える学習環境についての紹介を行い、そこから学生達が次世代の大学環境を考えていくという授業を行っています。

 学際情報学府の学生や学環プロジェクト関係者には、SFC出身の方が多いのですが、一見似てると感じるSFCの授業が実際どのような展開をされているか?拝聴できるのは嬉しいです。

情報化でますますコンテンツが豊富になり嬉しい反面、新たな情報をどう把握していくか?と同時に、どのような情報を選択していくかが問われるようになると思います。人が持っている時間が限られていることを残念に思う今日この頃です。


[佐藤朝美]

2009.01.24

【クローズアップ教材】大学とオープンコンテンツ

みなさまこんにちは。
【クローズアップ教材】第6回は、M1の岡本がお届けいたします。
今回取り上げるのは、カーネギーメロン大学から提供されている、Open Learning Initiativeです。

実は私は最近まで、より多くの人がより簡単に大学にある知識にアクセスできるようになる「オープンコンテンツ」の動きがこんなに盛んだということを知りませんでした。
というわけで今回は、オープンコンテンツの例としてOpen Learning Initiativeに触れながら、大学の意義などについて私が感じたことも少し書かせていただきたいと思います。

さっそくOpen Learning Initiativeのトップページ(http://www.cmu.edu/oli/index.shtml)をひらいてみましょう。
そして、左上のタブから「open&free contents」をクリックすると、ウェブ上に無料で公開されている様々な教材のラインナップが見られます。
現在、統計、化学、経済、フランス語、物理などのコンテンツが公開されていることが分かります。
試しに「Engineering Statistics」を覗いて見ると、このOpen Learning Initiativeの特徴が良く分かります。
いちばん上には「このコースの使い方」そして「統計とは」というチュートリアルがついており、初めてここにアクセスし、コンテンツを理解しようとする人にとってはかなり親切な作りになっています。
また、実際の学習内容もかなり分かりやすく整理されています。
まるで予備校のテキストみたい!...すごいですね。
もちろん言語は英語ですが、この内容のまとまり方を考えると、(少しでも知識のある分野であれば)英語学習の教材としても使えそうです。

このOpen Learning Initiativeを提供しているカーネギーメロン大学は、アメリカでも有数の名門大学です。
ちょっと考えると、大学がこのように親切丁寧な教材を無料で公開しているのか不思議ではないでしょうか?
私はこうした現象は、社会における大学の位置づけについて考えるひとつのきっかけになると思います。
大学は知識を生産し、その知識を継承する場であり、こうした活動を担う人間を育成してきました。
その中で、大学が「象牙の塔」であるという批判もありましたが、現在は世界的な「大学の大衆化」が進んでいる状況があります。
これに伴う様々な問題もありますが、これまでに作られた知識の体系にアクセスできる機会が増えるという点では、喜ばしいことではないでしょうか。
もう既に存在する「知識」を広く開放すれば、知識生産に様々な形で関わることのできる人が増え、大学はより新しい知識をよりたくさん生み出すことができます。

大学を愛する者として、やや「大学バンザイ」側に偏った意見かもしれませんが、すばらしくまとまったOpen Learning Initiativeを見て、以上のようなことを考えていました。

[岡本 絵莉]

2009.01.21

【エッセイ】一枚の布

月曜日に開かれたEduce Cafeで、ゲストの榎本寿紀さんにとても楽しいミニワークショップをしていただきました。

・大きな一枚の布をみんなで波打たせて空気を入れます。
IMG_0081.jpg

・内側からすそをしぼると、うみぼうずのできあがり。
IMG_0105.jpg

・中から見るとかまくら風です。

IMG_0100.jpg

・外でもやってみました。モダンアートのようです。
IMG_0130.jpg

榎本さんは小さい頃ふとんのシーツをばたばたさせるのがとても楽しくて、お母さんに怒られていたそうですが、原体験のおもしろさにこだわり続けて、どんな人でも面白いと感じられる活動に昇華させたのはさすがです。個人的な経験をつきつめるところに、アイデアの創造の源があるのかもしれません。

[山内 祐平]

2009.01.16

【クローズアップ教材】the encyclopaedia of informal education

【クローズアップ教材】第5回は、M1大城が担当させていただきます。
今回ご紹介させていただくオープンコンテンツはこちらです。

the encyclopaedia of informal education(「インフォーマル・エデュケーション百科事典」)
http://www.infed.org/encyclopaedia.htm

これは、インフォーマル・エデュケーション、ソーシャル・アクション、
生涯学習の理論と実践について探索できるスペースの提供を目的とした
オープンかつ非営利のサイト"infed.org"(http://www.infed.org/)のコンテンツの1つです。

informal educationに関わる事柄を理論・思想家等の名前から簡単に検索することができます。
たとえば、アルファベット順からドナルド・A・ショーンを探してみると...ありました!

"Donald Schon (Schn): learning, reflection and change"
http://www.infed.org/thinkers/et-schon.htm

ショーンの経歴から始まり、ダブルループ・ラーニング、
省察的実践者の行為の中の省察と行為についての省察などが説明されています。
ショーンの書籍紹介や、関連する参考文献の記載も充実しています。

今、山内研ゼミではショーンの"Educating the Reflective Practitioner"を毎週講読していますが、
ショーンの理論や考え方、あるいは文献の中に出てくる他の理論や思想家の名前など、
ちょっとわからなくなってしまった時に気軽に引くことができます。

あらゆる分野について、そのごくごく大まかな話を知りたい場合、
Wikipediaは気軽に引くことができ、便利です。
しかし、各分野に特化したもの、特に文献を引いて論文形式で書かれている
infed.orgのようなサイトは、そのもっと深い部分を知りたい時には、より重宝すると思います。

informal learningと銘打ってはいますが、informalでなくても、
教育一般でちょっと用語・人名に詰まった時には引いてみる価値は十分あると思います。

皆様も、気になる言葉をぜひ探してみてください。

[大城 明緒]

2009.01.13

【エッセイ】デジタルネイティブ

今年から、学部向けの授業の発表でパワーポイントなどの提示メディアを使う学生の比率が9割以上になっています。ちなみに昨年までは1割以下で、ほとんどレジュメでした。
高等学校で情報科が必修になった学年が大学3年生になったことが最大の要因かと思いますが、それ以外にもネットブックユーザーの増加など、メディア利用動向が変化してきていることが実感できます。
Gartner Researchでは、90年代以降に生まれ、物心ついたころからネットなどのデジタル技術とともに育った世代をデジタルネイティブと呼んで、社会行動の変化を予測しています。学術的に正確に定義された用語ではありませんが、仮説としては面白いと思います。ちなみに、デジタルネイティブの前の世代はデジタル移民と呼ばれています。
変化への適応力があり、変革への強い指向性を持つデジタルネイティブは、あと10年もすれば社会をになう層になります。そのときに何が起きるのか、楽しみです。

[山内 祐平]

2009.01.08

【クローズアップ教材】海外の博物館とOCW

みなさま、今年もどうぞよろしくお願い致します。
ということで、新年最初の【クローズアップ教材】第4回は、年男の池尻良平が担当させていただきます。

さて個人的な話ですが、私は非常に飛行機が苦手で、あの飛び立つ瞬間の重力のかかり方や、落ちるのではないかという不安感から、いまだ海外に行ったことがありません。そのため、西洋史学科だった学部生の頃は、現地の博物館や図書館に行って直接史料を見るという発想が全くありませんでした。いやー、情けない話ですね。

ところがその分、どうにかして飛行機に乗らずにヨーロッパの史料を見られないかと必死になり、ネットで博物館や図書館の史料を閲覧できる方法をよく探していました。

そこで今回は、単に授業の様子をビデオで流したり、レジュメやメモを添付しているタイプのOCWとは一味違った、海外の博物館や図書館の史料が載っているFathomというOCWについて紹介したいと思います。

Fathomは1999年にコロンビア大学によって作られたウェブサイトで、
American Film Institute
British Library
British Museum(展示物が説明つきで多数紹介されています。オススメです。)
Natural History Museum
Victoria & Albert Museum
Woods Hole Oceanographic Institution
など14の教育機関、文化施設によって高度な教育コンテンツが提供されています。

Fathom自体は残念ながら2003年に活動が終わり、今はコロンビア大学のデジタルメディア活動の機関の一部になっているのですが、当時は全世界52カ国、教授や学生など6万5000人が無料セミナーを受講するくらいの大人気だったそうです。今はその当時のおよそ100のセミナーが無料で見られるようになっています。

では、なぜ私が現在進行形の博物館のサイトや図書館のサイトではなく、このFathomを紹介しているかというと、いまや資料のデータベースや説明つきの展示物の画像データを公開しているサイトはたくさんあっても、それがどういう価値を持つのか、それから何が言えるのかまで踏み込んだものがあまりないからです。

私も学部生の頃、海外のデータベースをたくさん見てまわりましたが、説明があってもそれだけではちんぷんかんぷんなものが多く、正直あまり有効に活用できませんでした。その点、Fathomは資料や展示物を講義形式で紹介してくれるので、その展示物から何が言えるのか、その資料から何がわかるのかが大きな流れで理解しやすく、読んでいてわくわくするのです。

ちょっとコンテンツを覗いてみましょう。
例えば、
Ancient Egyptian Society and Family Lifeでは、古代エジプトの石版や偶像などの貴重な資料を紹介しつつ、子どもや女性の位置づけについて紹介しています。

他にも、
Jaws: The Natural History of Sharksではサメの生態の歴史について、歯の化石や背びれなどの違いがわかる資料を使いながら紹介しています。

後は、
The Theatrical Baroque: European Plays, Painting and Poetry, 1575-1725では、シェークスピアの時代のバロック調の絵画などが多数展示され、近代美術を視覚的にも学べるように作られています。

私が個人的に好きなものは、
Outer Worlds and Inner Worlds: An Introduction to World Mapsで、中世のころに考えられていた地球全体のイメージを、ヨーロッパの地図、中国の地図、アラブの地図の写真を載せながら紹介しながら、当時の人が考えていた内部の世界、外部の世界について講義をしています。たまりません。

他にも教養の教科書のような内容が英文で書かれているので、TOEFLを勉強している人にとってはいい勉強材料になると思います。


このように、単に大学の講義を流すだけでなく、世界中の博物館や図書館に眠っている資料を世界中に向けて紹介する形で博物館などの文化施設にOCWを活用してもらうと、それを見ることがきっかけで新しい知的好奇心が各地で起こり、今までとは違う研究の流れが起こるのではないかと思います。

「眠っている資料や展示物」+「デジタルアーカイブ化」+「ときほぐしながら紹介してくれる人(OCW)」によって、飛行機嫌いな人にやさしい研究環境が訪れることを切に願っております。

それでは、みなさまにとって2009年が躍進の年となりますように...。

[池尻 良平]

2009.01.01

【新年のご挨拶】研究の「ちから」

2009年になりました。
めまぐるしい変化の中で未来の方向性を探ることが困難な時代ですが、こういう時だからこそ研究活動の重要性が増しているのではないでしょうか。
領域によって方法の違いはありますが、研究の「ちから」は、本質を見ようとすること・深く考えようとすることという2つのパースペクティブからもたらされるように思います。
この原点に立ち返ることにより、多くの人たちの心を動かせる研究を、研究室のみなさんと生み出していきたいと考えています。今年もよろしくお願いいたします。

[山内 祐平]

2008.12.25

【クローズアップ教材】TED

 山内研メンバーが各自で利用している教材サービスなどをご紹介する【クローズアップ教材】。第3回はわたくし人生も永遠の3番手,林向達がお送りいたします。

 この時期,ベリー・クルシミマスという駄洒落も流行らなくなってきましたが,まさか洒落が洒落にならないホリデーシーズンを迎えるとは思いもしませんでした。

 自分の遅筆はわかっていたつもりでしたが,論文を書いていると,大した分量を書いたわけでもないのに,あっという間に時間が経過しています。かなり焦ります。

 少年の日にはあれほど長かった1日や1年が,大人になるにつれて短く感じられるのは何故でしょうね。そのことに法則名がついていたのを,「なんだっけ?」と悩んでいたのですが,先日ラジオでそれが「ジャネーの法則」であることを教えてもらいました。ああ,気になっていたことが一つ減って良かった...。

 というわけで,この同じ場所で新年のご挨拶をしたかと思ったら,早くも年の瀬ご挨拶の季節となりました。

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 私が勉強や研究に使っている教材をご紹介せよ,ということなのですが,なんか有名で紹介しやすいやつは,書かれちゃってません?ん?

 なんとかペディアの活用術をご紹介するのもよいと思いますが,まだまだ書き手が後ろに控えているので,ここで書きやすそうなネタを消費するのも申し訳ないし...。


 さて,困った,何かないかな。とりあえずYouTubeでも眺めてみるか。なんかこの時期危険な行為だが...。はははは,モンティ・パイソンは40周年なんだよねぇ,何度見てもばかばかしいなぁ。

 いかんいかん。これじゃ論文書けなくなっちゃうじゃないか。えらい落とし穴を掘られたものである。仕方ないので,棚から一掴みでもしましょうか。


 今回ご紹介する教材は,TED (Technology, Entertainment, Design)というカンファレンスから配信されている様々なスピーチ映像です。

TED
http://www.ted.com/

 もともと1984年頃から年1回開かれていたカンファレンスで,名前の通り,テクノロジー,エンタテイメント,デザインに関係した各分野のスピーカーを迎えて,次々に講演してもらう会員内輪のサロン的集まりだったようです。
 それがインターネット上にもスピーチを公開するようになって,私たち外部の人間でもいくつかのスピーチを見ることができるようになったというものです。毎週新しい講演が追加公開されます。


 非常に多彩な講演が並び,興味を持てるもの持てないもの,話が難しくてついていけないもの,話していることはわからなくても見ているだけで面白いもの,いろいろです。私の感想はともかく,こうした知的なリソースが無償で提供されることは,良いことだと思います。

 それにしても多くの講演者が魅力的なスピーチをしています。しかもそれぞれユーモアたっぷりにスピーチをするので,それが楽しい。

 これを書いている時点で最新の講演は,TED自身のカンファレンスではなく,Taste3と呼ばれるワインと食と芸術のカンファレンスの講演ビデオ。
 ニューヨークタイムズ紙の記者であるJennifer 8. Leeさんの「Who was General Tso? and other mysteries of American Chinese food」は,アメリカなどで独自に進化してしまった中華料理の謎についての楽しいお話。フォーチューン・クッキーの意外な始まりを知ったりできます。

 その他,100ドル・パソコン計画のその後の報告を見ることもできますし,いろんな研究をしている研究者の粋なスピーチを聞くことができます。「最後の授業」という故ランディ・パウシュ教授のスピーチが日本でも有名になりましたが,TEDで公開されているスピーチを眺めると,優秀な人々はみんなあれくらいのしゃべりができるのだなと思えます。
 いわゆるプレゼンテーション能力というものが特別なものでなく,当然のものとして共有されているような感じです。


 私は,楽しいスピーチの教科書としてTEDの映像群をたまに覗きにいきます。英語のリスニングの練習にもなるし(これが実力に結びつかないのは,私の努力不足なんだなこれが...)。


 とうとう高等学校の学習指導要領案も公開されて,外国語(英語)は基本的に英語で授業をするように明記されました。小学校での外国語活動も原則は英語の言語活動をしなさいということで「英語が使える日本人」に向けた行動計画が着々と進んでいるわけです。

 それとは関係なく次期大統領オバマ氏の演説CDブックが好調な売れ行きをみせるなど,英語に対する関心も高まり,英語に触れる環境も充実してきたように思います。


 この年末年始は,自分と世界との関わりについて思いを馳せてみてはどうでしょう。世界的な金融危機といった暗いニュースはありますが,もしかしたらそれは同じ問題を共有する世界の中の自分として,世界の人たちとつながり合う良いきっかけなのかもしれません。

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 というわけで,今回ご紹介したのはTEDの講演映像集でした。2008年も残りわずかとなりました。来年は日本教育工学会の大会が東京大学で行なわれるなど,ますます皆様にお世話になる年かとは思いますが,引き続き山内研をよろしくお願いいたします。

 私自身は...,まあ,ご縁があればまたどこかでまたお会いできると思います。それでは,今年一年ありがとうございました。よいお年をお迎えください。

[林向達]

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