2009.01.08

【クローズアップ教材】海外の博物館とOCW

みなさま、今年もどうぞよろしくお願い致します。
ということで、新年最初の【クローズアップ教材】第4回は、年男の池尻良平が担当させていただきます。

さて個人的な話ですが、私は非常に飛行機が苦手で、あの飛び立つ瞬間の重力のかかり方や、落ちるのではないかという不安感から、いまだ海外に行ったことがありません。そのため、西洋史学科だった学部生の頃は、現地の博物館や図書館に行って直接史料を見るという発想が全くありませんでした。いやー、情けない話ですね。

ところがその分、どうにかして飛行機に乗らずにヨーロッパの史料を見られないかと必死になり、ネットで博物館や図書館の史料を閲覧できる方法をよく探していました。

そこで今回は、単に授業の様子をビデオで流したり、レジュメやメモを添付しているタイプのOCWとは一味違った、海外の博物館や図書館の史料が載っているFathomというOCWについて紹介したいと思います。

Fathomは1999年にコロンビア大学によって作られたウェブサイトで、
American Film Institute
British Library
British Museum(展示物が説明つきで多数紹介されています。オススメです。)
Natural History Museum
Victoria & Albert Museum
Woods Hole Oceanographic Institution
など14の教育機関、文化施設によって高度な教育コンテンツが提供されています。

Fathom自体は残念ながら2003年に活動が終わり、今はコロンビア大学のデジタルメディア活動の機関の一部になっているのですが、当時は全世界52カ国、教授や学生など6万5000人が無料セミナーを受講するくらいの大人気だったそうです。今はその当時のおよそ100のセミナーが無料で見られるようになっています。

では、なぜ私が現在進行形の博物館のサイトや図書館のサイトではなく、このFathomを紹介しているかというと、いまや資料のデータベースや説明つきの展示物の画像データを公開しているサイトはたくさんあっても、それがどういう価値を持つのか、それから何が言えるのかまで踏み込んだものがあまりないからです。

私も学部生の頃、海外のデータベースをたくさん見てまわりましたが、説明があってもそれだけではちんぷんかんぷんなものが多く、正直あまり有効に活用できませんでした。その点、Fathomは資料や展示物を講義形式で紹介してくれるので、その展示物から何が言えるのか、その資料から何がわかるのかが大きな流れで理解しやすく、読んでいてわくわくするのです。

ちょっとコンテンツを覗いてみましょう。
例えば、
Ancient Egyptian Society and Family Lifeでは、古代エジプトの石版や偶像などの貴重な資料を紹介しつつ、子どもや女性の位置づけについて紹介しています。

他にも、
Jaws: The Natural History of Sharksではサメの生態の歴史について、歯の化石や背びれなどの違いがわかる資料を使いながら紹介しています。

後は、
The Theatrical Baroque: European Plays, Painting and Poetry, 1575-1725では、シェークスピアの時代のバロック調の絵画などが多数展示され、近代美術を視覚的にも学べるように作られています。

私が個人的に好きなものは、
Outer Worlds and Inner Worlds: An Introduction to World Mapsで、中世のころに考えられていた地球全体のイメージを、ヨーロッパの地図、中国の地図、アラブの地図の写真を載せながら紹介しながら、当時の人が考えていた内部の世界、外部の世界について講義をしています。たまりません。

他にも教養の教科書のような内容が英文で書かれているので、TOEFLを勉強している人にとってはいい勉強材料になると思います。


このように、単に大学の講義を流すだけでなく、世界中の博物館や図書館に眠っている資料を世界中に向けて紹介する形で博物館などの文化施設にOCWを活用してもらうと、それを見ることがきっかけで新しい知的好奇心が各地で起こり、今までとは違う研究の流れが起こるのではないかと思います。

「眠っている資料や展示物」+「デジタルアーカイブ化」+「ときほぐしながら紹介してくれる人(OCW)」によって、飛行機嫌いな人にやさしい研究環境が訪れることを切に願っております。

それでは、みなさまにとって2009年が躍進の年となりますように...。

[池尻 良平]

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