2009.06.26

【研究室の書棚から】ワークショップ -新しい学びと創造の場-

山内研の本棚にある本を紹介する新シリーズ、【研究室の書棚から】の第4回は、修士1年の安斎勇樹が担当します。


今回ご紹介するのは、


『ワークショップ -新しい学びと創造の場-』

 中野民夫著 岩波新書(2001年)


です。


山内研の書棚には、ワークショップコーナーがあります。

RIMG0402.JPG

ワークショップを実践&研究している安斎にとって、

この書棚は宝の山です(笑)沢山あるので、まだまだ全部読めていませんが...


そんな中でも代表的なのは、やはりこの中野民夫さんの本でしょう。


ワークショップを実践or研究したい方は、

まずこの本を読むことをオススメします。


■本の概要

第1部:ワークショップとは何か

第2部:ワークショップの実際

第3部:ワークショップの意義

第4部:ワークショップの応用


目次からもわかる通り、ワークショップを全く知らない人でもわかるようワークショップの定義や全体像を説明し、ワークショップがどんなものなのか、事例を交えてわかりやすく解説しています。ワークショップの限界などにも触れられており、客観的にワークショップについて知ることが出来るでしょう。


■ワークショップの全体像を知る

現在、ワークショップの実践は拡がっていますが、その"定義"は実はいまだ明確になされておらず、様々なものが"ワークショップ"として認識されています。この本の価値の1つは、そんな多様なワークショップの全体像を俯瞰出来るよう整理・分類しているところにあるかもしれません。


デューイの教育哲学、フレイレの識字教育までさかのぼり、ワークショップの歴史と背景を参照しつつ、現在実施されているワークショップを以下の7つに分類しています。


(1) アート系 -演劇、ダンス、美術、音楽、工芸、博物館、自己表現など

(2) まちづくり系 -住民参加のまちづくり、コミュニティづくり、政策づくりなど

(3) 社会変革系 -平和教育、人権教育、開発教育、国際理解教育など

(4) 自然・環境系 -環境教育、野外教育、自然体験学習など

(5) 教育・学習系 -学校教育、社会教育、企業研修、国際会議など

(6) 精神世界系 -自己成長・自己変容、こころとからだ、人間関係、心理学、癒しなど

(7) 統合系 -精神世界と社会変革の統合、個人と社会の癒しと変革など


こうして見ると、本当に多様なものがワークショップとして実践されていることがわかりますね。


実際にワークショップがどんなものなのか。興味を持たれた方は、是非まずはこの本を読んでみて下さい。そして何よりも僕がオススメするのは、ワークショップに実際に参加してみることです。ワークショップは"体験型"の学びのスタイルですから、本を読むだけでなく、実際に実践に参加することで、ワークショップの魅力や可能性を肌で感じて頂ければと思います。


[安斎 勇樹]

2009.06.19

【研究室の書棚から】「協同の知を探る 創造的コラボレーションの認知科学」

こんにちは。
山内研の本棚にある本を紹介する新シリーズ、【研究室の書棚から】の第3回は、修士2年の岡本絵莉が担当いたします。
今回ご紹介するのは、

植田一博・岡田猛編著,2000年,
『協同の知を探る 創造的コラボレーションの認知科学』
共立出版

です。
これはズバリ、協同(collaboration)についてまとめられた本です。
協同の定義から始まり、「協同」に関する認知科学の分野の論文が多数掲載されており、中身の濃い一冊となっています。

■□何がおもしろいのか□■
「協同」を切り口に、様々な視点が盛り込まれているところ。

私はこの本を始めて読んだのは、学部4回生の時でした。
その時、「"協同"という概念を使うことで、こんなにいろいろなことが見えてくるのか」と思ったことを覚えています。
実際、本では、社会文化な視点、ヴィゴツキー主義の視点、科学者の仕事を「協同」として考えること、協同について研究する際のポイント、協同が建設的に行われるための前提ほか、多くのことが入っています。
そのため、一貫した主張にもとづいて本が構成されているわけではないので、じっくり本の中身と向き合わないと、ちょっと読みにくいかもしれません。


■□こんな人に良いかもしれません□■
「協同」に関する認知科学分野の研究例もいくつか掲載され、また、内容のすべてに参考文献の索引がつけられています。
「"協同"についてざっくり知りたい」「自分の興味って"協同"と関係あるかも」という人にとって、また、「"協同"をいろいろな視点から考えてみたい」という人にとって、この本は役に立つと思います。


●○個人的な感想○●
意識する、しないに関わらずしていること(この本では"協同")に着目し、それを厳密に把握しようとする、こうした認知科学の本は、山内研究室の本棚の一角を占めています。
いろいろな学問を踏まえた上で、自分のスタンスを決め、研究ができるのが学際情報学府のおもしろさ(大変さでもある)だと思うのですが、それが研究室の本棚には表れていますね。

...書いてみて気付きましたが、学際情報学府に来るまでは、「この学問は、こういう視点で見ているのだな」ということを考える機会があまりなかったように思います。
研究に関係する本を読む時には、「この本で書かれている知見は、どういう視点から、何を意図して行われた研究から出てきたのか」を考えてみるのも良いのではないでしょうか。

[岡本 絵莉]

2009.06.12

【研究室の書棚から】「学習方略の心理学―賢い学習者の育て方―」

山内研の本棚にある本を紹介するシリーズ【研究室の書棚から】、
第2回は修士課程2年の大城が担当させていただきます。

今回ご紹介させていただく本は、こちら!

辰野千壽[著] 1997
『学習方略の心理学―賢い学習者の育て方―』 図書文化

■目次
章見出しだけ抜き出すと、このような内容が並んでいます。

第1章 学習方略の考え方
第2章 学習方略のタイプ
第3章 学習方略の体系化
第4章 学習過程と学習方略
第5章 自己制御学習と学習方略
第6章 学習方略の選択と使用
第7章 学習課題と学習方略
第8章 学習方略のテスト
第9章 学習方略の訓練


■内容
その名の通り、学習方略について書かれている本です。
上に抜き出した目次をご覧いただいてもお分かりのように、

学習方略の定義や類語(勉強方略、認知的方略など)との比較から始まり、
学習方略の個々のタイプの解説(リハーサル、精緻化、体制化...etc)、
学習過程と個々の学習方略の対応関係、
学習者はどのようにして学習方略を選択・使用しているのか、
学習課題(文章のタイプ、外国語学習、問題解決場面)に応じた学習方略の違い、
学習方略の調査方法(調査票の具体例も紹介されています)、
学習方略の訓練方法と実践例、

について、詳細に述べられています。

また、例えば「自己制御学習」に対する、
行動主義的な考え方、社会的認知からの考え方、情報処理的な考え方など、
立場の違いによる、考え方の共通点・相違点についても整理されているため、
「学習方略」に関して気になる用語や概念を勉強したい時に、
それを多面的に把握するのにも役立ちます。

本書で扱われている学習としては、「読み」に焦点を当てた部分が大きい印象を受けますが、
そこで紹介されている理論は、「読み」に限らず、授業を受ける時など、
他の学習場面に当てはめて考えることも、十分に可能な内容だと思います。


■こんな時に参照できる!

研究の対象としたい、「学習者」や「理解」、扱う「学習課題」と言った時に、
それを理論に基づいて正確に説明することは、意外と難しいことだと思います。

ついつい「学習者を支援する」「理解を深める」という
言葉でひっくるめてしまいそうになるのですが、
これはとても危険なことです。(...と、最近、身にしみて感じています。)

どんな学習スタイルの学習者に対して、
どんな学習方略を使って学習課題に取り組んでもらい、
どんなレベルの理解を深めてほしいのか?

それらを具体化し、理論的に説明するのに、本書は役立つと思います。

[大城 明緒]

2009.06.10

【エッセイ】2015年の人材

先週土曜日に、株式会社リクルート ワークス研究所 主任研究員である豊田義博さん、株式会社博報堂 イノベーション・ラボ 上席研究員である田村大さんをお招きして、「2015年の学習環境を考える」というタイトルでBEAT Seminarが開催されました。
学習のことを語るときに、学習者が置かれている社会状況を無視することはできません。今回、豊田さんにご報告いただいた人材マーケットに関する予測は、興味深いものでした。

1 「正社員時代」は、2010年までに終焉する。
2 ますます進むサービスシフト。需給のミスマッチは解消しない。
3 人材流動化は、全年齢にわたって進行する。
4 小売・サービスへの転職が7割を占める。
5 若手正社員は希少価値。優秀な大卒の争奪戦が熾裂化する。
6 フリーターは減少しない。変質しながら増え続ける。
7 「転職35歳限界説」は、瓦解する。
8 「バブル入社世代」「団塊ジュニア」の民族大移動が起こる。
9 Silver Ageは、どの職場、どの職種でも増大し、活躍する。
10 中高年インディペンデント・コントラクターが急増する。

このような変化が起これば、大学の学生に求められる資質も大きく変化することでしょう。また、働くために学び続けるというニーズも飛躍的に拡大すると考えられます。
報告書本体は、こちらからご覧になれます。

[山内 祐平]

2009.06.05

【研究室の書棚から】「授業を変える」

みなさま、こんにちは。
今週からは山内研の本棚にある本を紹介する新シリーズ、
【研究室の書棚から】をお送り致します。

第一回は私、修士2年の池尻良平が以下の本を紹介させていただきます。

米国学術研究推進会議[編著] 森敏昭・秋田喜代美[監訳] 2002
『授業を変える-認知心理学のさらなる挑戦』 北大路書房
(原著"How People Learn: Brain, Mind, Experience, and school")

■本の構成
僕はこの本の章立てがとても気に入っていて、

[認知心理や学習科学の研究でわかった理論の紹介]
            ↓
     [教師向けの導入方法]
            ↓
  [学校の教科授業の中での実践報告]

となっていて、
 ・学習理論を学びたい研究生にとっても
 ・学校教育に導入したい研究生にとっても
 ・実際にやってみたい先生にとっても
役に立つ構成になっています。

この本1冊で、学習理論から実践方法、
さらには実際の場面での具体例まで見ることができるのでお得感たっぷりです。

また感情的な提案や主観的な評価ではなく、ほとんどが実験によって
しっかりと分析した知見をもとに話しが進んでいくので、
安心して読み進めることができるのも良い点だと思います。

■内容
理論の部分では、「熟達化」「転移」「認知発達」「神経科学」が、
導入方法では、「共同体中心」「知識中心」「評価中心」の学習環境が、
教科での実践報告では、「歴史科」「数学科」「理科」「情報科」と
非常に幅広い分野が濃く扱われています。

僕は「熟達化」「転移」「歴史科」の章が好きですが、紹介すると長くなるのでやめます。
ただ、この本に共通しているものは単なる知識以上の、
「高度なリテラシー」を学ばせる点に着目している所です。

それは転移の章のように、違う文脈で既存の知識を改変させる力だったり、
それぞれの道の熟達者が持っている、構造的な知識の配置能力だったり、
素早く情報を検索する力だったりします。

教科別では、教師を熟達者と見なして、
歴史だったら、史実を多面的に分析し、解釈する能力だったり、
数学だったら、問題解決に見合った数学的方略を選ぶ能力だったり、
理科だったら、一般的原理や重要な概念を解釈できる能力だったりします。

さらに、このような難しい能力の教育に対する評価方法も、
ポートフォリオという学習途中を可視化する方法や、
内容知識だけでなく、推論や問題解決でひつよな
認知的スキルの面を評価する方法など、面白い研究がいくつも載っています。

知識を身に付けさせる教育も非常に大事ですが、
この本を読んでいると、「知識を運用する」という最近のトレンド、
さらには学校の中でその高度な能力の育成を評価できるようにするという、
次世代の教育形態を感じさせてくれます。

■受験生の方々に
前回までの【今年の研究計画】で紹介してきたように、
山内研ではより高度な学習にチャレンジしている人が多いです。
(かくいう私も、新しい歴史的能力というイバラの道を進んでいます)

この『授業を変える』では、有名な海外の研究や実験なども
豊富に載っていますので、日本語の研究は調べたけれども、
海外の文献はちょっと・・・という方にもオススメですが、
読んでいく中で皆さんそれぞれのフィールドに
こっそり隠れている「高度な能力」に気づくこともできると思います。
新しい学習方法にチャレンジしようと思っている人はぜひ一読してみて下さい。

この本を通して、皆さんの個性がキラリと光る研究が増えることを祈っております。

[池尻 良平]

2009.06.02

【エッセイ】研究と現場をつなぐもの

先日、千葉県教育センターで、マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門(MEET)で開発されたMEET eJournal PlusとMEET Borderless CANVASを千葉県の小・中・高等学校でパイロットスタディ的に使っていただくための研究プロジェクトの立ち上げ会議がありました。
これらのソフトウェアはもともと大学向けに開発したものであり、初等中等教育での利用については未知数だったのですが、担当していただく先生方から授業につながりそうなアイデアをたくさん出してもらえたので、安心しました。
研究で開発されたソフトウェアが現場で普及するためには、さまざまなハードルがあります。授業のどういうシーンで使えば効果的なのか、インフラの整備は追いついているのか、教員が使いこなせるのかなど、検討すべきことは山のようにあります。
従来、これらの仕事は研究者と現場の熱意にまかされてきましたが、利用を持続的に担保するためには、教育センターなどの行政・NPOなどの民間非営利団体・大学のセンターなどが媒介の役割を果たすための体制を確立することが必要になってきていると感じました。

[山内 祐平]

2009.06.01

【今年の研究計画】ワークショップ実践家の専門性に関する調査

こんにちわ。

自分の研究内容について語るブログ特集も最後の回となりました。
担当させていただきます、森玲奈です。

私は、ワークショップに関する研究を行っている学生です。
おかげさまで、この春、博士3年になりました。

ーー
昨今、ワークショップが様々な領域で注目されています。

しかしながら、その反面で、人材の不足や力量・ノウハウの不足ということが言われています。また、ワークショップを実践できる人材の育成方法を求める声も多く聞かれます。


ここで疑問が湧いてきます。

ワークショップ実践をするとはどういうことなのでしょうか?

そして、ワークショップを実践できる人とは、一体どのような人なのでしょうか?

もしかすると、そういうことが少しでもわかると、今後、人を育てていく時の指針が立てやすいかもしれない・・・

このような想いのもと、私は、これまでワークショップ実践を行っている人達(ワークショップ実践家)の熟達について、特にプログラムのデザインに焦点を当て、実験的方法とインタビュー法を使って2つの実証研究を行ってきました。

ーー

今年度は、全体像を把握するべく、ワークショップ実践家特有の知識、技能や価値観について迫る研究をしてみたいと思っています。

具体的な研究方法としては、インタビューと質問紙を組み合わせて、調査を進めています。


また、昨年度から指導教員である山内先生と一緒に始めた(株)CSKホールディングスとの共同研究も継続して行っています。

こちらでは、ワークショップ実践をしたいと考えている方を対象とした「CAMPファシリテーション研修」と「あちこちCAMP」という取り組みについて、参加者の学習の様子を追っています。

ーー
今年度は、この2つの研究について、アウトプットを出し、実践家の育成方法を議論する際の手がかりに出来ればと思っています。

皆様のおかげでここまで研究を続けてくることができました。
この場をお借りして、お礼を申し上げます。

ありがとうございました。

そして、若輩ものではありますが、皆様今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【森 玲奈】

2009.05.26

【エッセイ】未来への繭

先日、取材で公立はこだて未来大学を訪問しました。はこだて未来大学は2000年に開学した情報系単科大学で、開放的な建築をベースにした学習環境で知られています。

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お世話になった美馬のゆりさんは、「未来の学びをデザインする」(東京大学出版会)の共著者です。4年ぶりの訪問でしたが、教員研究室の前にあるオープンスペースに常駐型の机が置かれるようになり、以前より人が増えたようです。学生がいきいきと活動している姿が印象的でした。

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この学習空間をカリキュラム的にささえているのがプロジェクト学習です。美馬のゆりさんが今年関わっているプロジェクトは、「はこだて国際科学祭」。学生はこの科学祭にかかわる様々なデザイン(ロゴ・ウェブサイト・イベントなど)を担当する中でコミュニケーションデザインに関するスキルを身につけていきます。

夕方に外から見ると、吹き抜けの建物の中で学生が活動している様子が照明の中に浮かび上がります。楽しそうな学生たちを眺めながら、ふと「繭」という言葉が頭に浮かびました。ひとりひとりが、やわらかな空間の中で羽化を待っているようです。そういう居心地の良さが、学習空間の一番基本的な部分なのかもしれません。

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[山内 祐平]

2009.05.25

【今年の研究計画】問いかけ・協同・理解をつなぐ支援とは


みなさまこんにちわ。

【今年の研究計画】シリーズ第7回はM1の伏木田稚子(ふしきだわかこ)がお送りします。
自分に問いかけながら,そこにある壁と超えたい壁という視点でまとめてみました。


◆ 自分への問いと応え

「わからないことがわからない」とはどういうことか。どうすれば,「わからないことがわかる」ようになるのか。
教育を幅広くとらえ,多種多様な視点から学習を考えていきたいという私の気持ちを支えているのが,この2つの問題意識です。
学生としての自分自身の経験だけでなく,予備校バイトや教育実習などを通して感じたのは,どうすれば多くの人がわかる楽しさに気付き,積極的に学びを進めていくことができるのかということでした。
様々な先行研究をじっくりとレビューしながら,この素朴な疑問についてより深くより広く考えていくことが,当面の私の目標であり課題だと考えています。


◆ 向き合う壁

「わかること」「わからないこと」について現時点で把握できているのは,研究をする上で問題の切り取りがとても難しいということです。
そもそも,「わかる」と「理解」は区別が必要だと主張する研究者もいれば,思考の結果全体を理解として捉えた研究も数多くあります。
さらに,理解は手続き理解と意味内容の理解の2つから成るという定義がある一方で,理解は知識の網の目の拡大であるという見解も示されています。
このように理解に関する研究は多岐に渡るため,直接的に「理解」に切り込んでいくのは,容易でないことが予想されます。
そこで,何か別の視点を導入し,理解と背中合わせにある別事象を追究することで,最終的に「理解」へと戻ることができればと考えています。


◆ 乗り越える壁

学習理論をはじめとする認知プロセスから切り込んでいくか,それとも,他者との関わりを軸とする協同ベースの活動に焦点を当てるか。
しばらくは問題の切り取り方を模索する日々が続きますが,私の興味は,理論の発見や検証ではなく,いかに日常生活に適用していくかというところにあることだけはクリアです。
例えば,私が日々大切にしている「問いかけ」をキーワードに,理解を支援しうる活動や学習の環境を提案できればと思っています。


***

これからの2年間,大切にしたいのは,自分の心を占めているキラキラしたものです。
今は...

◇ 人を笑顔にする場と空間のデザイン ◇

どういう瞬間に楽しいと感じ,うれしさ・幸せに満たされるのか。
日々の暮らし,環境,学びなど,広く深く考えていけたら幸せです。
まだまだふわりとしていますが,研究をはじめとする私自身の学びにおいて,大きくモノゴトをとらえていけたらと思っています。

2009.05.17

【今年の研究計画】文化的適応のための異国者同士によるペア協働的語学学習に関する研究

みなさま、こんにちは

四月より修士課程一年生として進学してきた、程琳(テイ・リン)と申します。

【今年の研究計画】シリーズ第6回は、M1の程がお送りいたします。

私のやりたい研究とは、
母語と国籍の異なる人たちがペアを組んで、両言語を用いながら、学習するという場面において、学習意欲や学習効果に影響を及ぼす要因をはっきりさせたい、そして、できれば、それからもう一歩先に考えると、こういう学習をより有効にさせるパターンの提案もしたいです。

一方、活性化を目指す第二言語習得の支援法に関する研究として、1960年代のイマージョン・プログラム(没入法)から、近年CSCL(Computer Supported Collaborative Learning)など、コミュニケーション重視の研究は絶えず注目を浴びています。

ところで、私の研究とはと聞かれるとき、どうも一言で自分のやりたい対象がうまく言えないといつも痛感しながらも、やはり、この対面的な、協働的なペア学習のケースを、自分の研究テーマとして取り上げたいと、そこだけがずっと変わっていません。

さて、どうして、こんなにこだわっているのかといいますと...
私は、大学時代の専攻が日本語でした。日本語専攻といっても、周りにいる仲間は私と同じような「日本語専攻」の中国人にほかならなかったのです。みんなコミュニケーションの力をアップしたくて、クラスの仲間と学習ペアを組んでみたら、そこで、困ったのはいつも二人とも同じ問題に「わからない」と感じたところです。それから、二人の中では、通じているつもりでも、実は日本人には通じないところが多く、実際の運用まで行っていないところがしょっちゅうありました。

当時、担任の先生に言われたアドバイスは、「日本人のように日本語を話せるようになりたい場合は、やはり日本人とコミュニケーションをとる限りだ」この言葉に励まされて、日本人とペアを組んでみました。
うまくやったところもあれば、意外につまずくところもありましたが、相手の顔が見えて、身振り手振りなど、ありうる手法尽くして、やっと伝わったところこそ脳に焼き付けられるのです。
文法の正しさとかの「知識」らしきものは、本に従えば必ず正答が見つかるが、こういう文化的な適応となる学びはやはり身をもって行うべきだと思うようになってきました。

そこで、この対面的な協働ペア学習を支えうるものとして、修士課程の研究をしていきたいと思います。

といったら、またまた問題が山ほど殺到してきます。

?コミュニケーションが取りたいなら、どうして、プログラムよりも対面的でなければならないんですか?
?小学校とかのグループ分けで共同作業をこなすための協調学習とはここでいう協働学習とはなに?どういう意味で協働と言える?
?それは果たしてお互いに教えるのか?または学びあうのか?
???

とにかくハテナにハテナです。

自分の経験から言うと、第二言語習得(つまり、日本語が上手になりたい)がねらいだから、それがこの学習形式が持続できる本音だと思われました。
しかし、確かに、問われたとおり、他の様々な方法でも、言語学習はできるのです。
そこで、このペア学習の経験で一番得したのは何かと再び考え直してみたら、やはり文化的適応にほかなりません。日本語の運用はただ文化的適応の経験につねに伴って行われている交際手法に過ぎないのです。

ということで、あえて仮説として、「文化的適応のために行われる異国者同士のペア協働は第二言語習得のコミュニケーションを活性化できる」と想定し、そこで、特に日常的な文化適応のテーマを取り上げることにより、いかなる学習が行われるかを分析したいです。

まだまだ、ぼんやりしているところが多いと自明していますが、グローバル化のなかを生きる外国人と母国話者同士の交流をたとえささやかやところからでも支えられる研究にできればと思います。


程 琳

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