2009.06.05

【研究室の書棚から】「授業を変える」

みなさま、こんにちは。
今週からは山内研の本棚にある本を紹介する新シリーズ、
【研究室の書棚から】をお送り致します。

第一回は私、修士2年の池尻良平が以下の本を紹介させていただきます。

米国学術研究推進会議[編著] 森敏昭・秋田喜代美[監訳] 2002
『授業を変える-認知心理学のさらなる挑戦』 北大路書房
(原著"How People Learn: Brain, Mind, Experience, and school")

■本の構成
僕はこの本の章立てがとても気に入っていて、

[認知心理や学習科学の研究でわかった理論の紹介]
            ↓
     [教師向けの導入方法]
            ↓
  [学校の教科授業の中での実践報告]

となっていて、
 ・学習理論を学びたい研究生にとっても
 ・学校教育に導入したい研究生にとっても
 ・実際にやってみたい先生にとっても
役に立つ構成になっています。

この本1冊で、学習理論から実践方法、
さらには実際の場面での具体例まで見ることができるのでお得感たっぷりです。

また感情的な提案や主観的な評価ではなく、ほとんどが実験によって
しっかりと分析した知見をもとに話しが進んでいくので、
安心して読み進めることができるのも良い点だと思います。

■内容
理論の部分では、「熟達化」「転移」「認知発達」「神経科学」が、
導入方法では、「共同体中心」「知識中心」「評価中心」の学習環境が、
教科での実践報告では、「歴史科」「数学科」「理科」「情報科」と
非常に幅広い分野が濃く扱われています。

僕は「熟達化」「転移」「歴史科」の章が好きですが、紹介すると長くなるのでやめます。
ただ、この本に共通しているものは単なる知識以上の、
「高度なリテラシー」を学ばせる点に着目している所です。

それは転移の章のように、違う文脈で既存の知識を改変させる力だったり、
それぞれの道の熟達者が持っている、構造的な知識の配置能力だったり、
素早く情報を検索する力だったりします。

教科別では、教師を熟達者と見なして、
歴史だったら、史実を多面的に分析し、解釈する能力だったり、
数学だったら、問題解決に見合った数学的方略を選ぶ能力だったり、
理科だったら、一般的原理や重要な概念を解釈できる能力だったりします。

さらに、このような難しい能力の教育に対する評価方法も、
ポートフォリオという学習途中を可視化する方法や、
内容知識だけでなく、推論や問題解決でひつよな
認知的スキルの面を評価する方法など、面白い研究がいくつも載っています。

知識を身に付けさせる教育も非常に大事ですが、
この本を読んでいると、「知識を運用する」という最近のトレンド、
さらには学校の中でその高度な能力の育成を評価できるようにするという、
次世代の教育形態を感じさせてくれます。

■受験生の方々に
前回までの【今年の研究計画】で紹介してきたように、
山内研ではより高度な学習にチャレンジしている人が多いです。
(かくいう私も、新しい歴史的能力というイバラの道を進んでいます)

この『授業を変える』では、有名な海外の研究や実験なども
豊富に載っていますので、日本語の研究は調べたけれども、
海外の文献はちょっと・・・という方にもオススメですが、
読んでいく中で皆さんそれぞれのフィールドに
こっそり隠れている「高度な能力」に気づくこともできると思います。
新しい学習方法にチャレンジしようと思っている人はぜひ一読してみて下さい。

この本を通して、皆さんの個性がキラリと光る研究が増えることを祈っております。

[池尻 良平]

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