2010.05.11

【エッセイ】どうしてプレゼンは字だらけになるのか

仕事に欠かせないツールになったPowerpointによるプレゼンテーションについて、Twitterで興味深いニュースが流れてきました。

敵はPowepointだ!
(The New York Times: We Have Met the Enemy and He Is PowerPoint)

刺激的なタイトルのこの記事では、アメリカ軍でPowepointによるプレゼン時間の浪費と「わかったつもりになる症候群」が問題視されていることが報告されています。
マクマスター将軍は、「なぜ危険かと言えば、それが状況を理解してコントロールしているという幻想を生み出すからだ。この世界の問題は全て箇条書きで表せるものではない。(not bullet-izable) 」と述べています。

軍隊だけでなく、一般的な組織でもPowerpointによるプレゼンテーションは問題になっているようです。

どうしてプレゼンテーションスライドは字だらけになるのか?
(cnet news: Why slides are too wordy)

こちらの記事では、箇条書きの危険性を指摘した上で、どうして文字だらけのプレゼンが作られるのかというプロセスを分析しています。
基本的には、発表者がスライドに依存せずにプレゼンできなければならないのに、現実はそうなっていないことから、人の語りなしで成立する「sliduments (スライド書類)」を作ろうとするところに、根本的原因があるという主張です。

この記事をTwitterで紹介したところ、面白いコメントがありました。組織レベルでそういう「スライド書類」を作るように指示しているところがあるようなのです。
こうなると、問題は発表者の力量ではなく、プレゼンテーションによる情報共有という活動が、仕事全体の中でどのような位置づけになっているかというレベルになります。スライド書類文化では、発表を儀式としてとらえていて、発表資料に合意事項がもらさず書いてあるかどうか(つまり、後から聞いていなかったと言われたときに証拠として反論できるようにすること)を重視しているのでしょう。

ただ、もしそうだとすれば、もっと厳密に記述された書面の形で確認した方がよいように思います。アメリカ軍の事例もそうですが、問題はPowerpointというツールそのものよりも、全てを箇条書きで記述し理解しようとする文化にあるように思います。箇条書きは楽ですが、万能ではありません。箇条書きにできない問題に対しては、事例をじっくり検討することや、しっかり構造化されたレポートを議論で改訂すること、インタラクティブにアイデアを出す対話型のセッションを行うことなど、いろいろなアプローチがあります。大事なことは「本当にここはPowerpointを使うべきところなのか」と疑ってみる態度なのかもしれません。

[山内 祐平]

2010.05.08

【今年の研究計画】多文化教育、特に在日ブラジル人児童向けのデジタル教材のデザイン

みなさま、こんにちは。初めまして。
修士課程1年、柴田 アドリアナと申します。よろしくお願いいたします。

【今年の研究計画】シリーズの第6回をお送りします。

私の研究は:

 日系ブラジル人の子供たちを対象としてデジタル教材をデザインすることです。

学校や友達から離れて、家族全員で来日してきた子供たち。
その裏にいろいろな原因があるが、その多くは家族の経済状況に関わります。
日本で働いて、一、二年たってから帰国する予定だった家族は結局長期滞在になってしまいます。

その結果、子供たちの教育にも大きな影響を与えています。

ブラジル人に関する教育の問題や学内でのいじめやけんかからは不就学、少年非行にも繋がるのではないかと思われています。
その学校での不適応の原因の一つは言語の難しさでしょう。
日本語の授業についていけない上、先生や同級生と上手にコミュニケーションできない状態も多いです。

 さて、グラフィックデザイナーの私は何ができるか?

私はこのように考え始めたのは2008年、群馬県にある大泉町に行った時です。
ブラジル人が通う公立学校やブラジル人学校の活動を見ながら、「楽しく学ばせる教材を作ろう」と思いました。
そのためにもっと勉強が必要だと気づきました。

今の問い:
 ブラジル人の子供たちに対して、どんな教材が必要なのか。

その教材をデザインするためにはなにが必要なのか、どのようなコミュニケーションがもっと効果的なのか。そして、各国の文化はそのコミュニケーションにどのような影響を与えているか。

日本の文化+ブラジルの文化=豊かな環境

テレビ、インターネット、様々なメディアを使って簡単に世界中につながる可能性があります。現在使われているメディアを使って、どんな学習や活動をできるのか...
このような様々な疑問がわいてきています。
この点を明らかにするため、グラフィックデザインの知識を深め、関わる分野の勉強もしながら研究を進んでいきたいと思いさす。
そして、対象をより深く理解するために、先行研究を読みながら、ブラジル人のコミュニティーを観察したいと思います。

大きな課題だと思いますが、皆様と一緒に考えて挑戦して行きたいと思います。

これからどんな教材ができるかはまだはっきり分かりません。
分からない点もたくさんありますし、調べたいこともたくさんあります。
これからはたくさんのアイディアを形にして、社会に役立つ研究にしていきたいと思います。

[柴田 アドリアーナ]

2010.04.29

【今年の研究計画】ICTを活用した国際理解学習の支援に関する研究

みなさま、はじめまして。
今年度から山内研で学ばせていただきます、修士課程1年の菊池裕史と申します。

【今年の研究計画】シリーズの第5回を担当させていただきます。

私の研究計画ですが、タイトルにも書きましたように『ICTを活用した国際理解学習の支援に関する研究』です。うーん、分かるようで分からない、と思われる方が多いかと思います。正直に言いますと、私自身もまだ頭の中がまとまっておらず、うまく言語化して説明することができません。しかし、当然のことではありますが、このタイトルは私が関心をもっているキーワードから構成されています。もう1度、今度は区切りをつけながらタイトルを見てみたいと思います。

『ICTを活用した/国際理解学習の/支援に関する研究』

私が現在関心をもっていることは、「ICTを活用して学習支援を行うこと」と「国際理解学習をテーマとして扱うこと」の2点です。今回はこの2点について説明させていただきたいと思います。

■ICTを活用して学習支援を行なうこと
まず、「ICT」という略語がどのような意味をもつのか、ということについて考えてみたいと思います。皆様は日常生活を過ごす中で、「ICT」という言葉を耳にすることがありますでしょうか?「IT」という言葉に比べると、ほとんど耳にする機会がない言葉であると思われますが、この「C」という文字は、情報通信技術を教育に利用することを考える際におきましては、非常に大切な要素を表していると考えられます。IT、ICTは以下の用語の略字です。

IT:Information Technology
ICT:Information and Communication Technology

「C」は上述した通り、Communication(通信)を表しています。現在におきましても、様々な場面で情報「通信」技術を利用した学習が盛んに行なわれています。身近な例を挙げますと、「語学学習」などは、情報通信技術の恩恵を多いに受けることができる分野であると考えられます。従来行なわれてきた「教科書や参考書を読んでCDを聞く」といったような単純な学習方法に比べて、インターネット(通信)を利用した学習は、より高度で複雑な学習を行なうことができます。たとえば、

・新聞社のWebサイトを訪問して最新のニュース記事を読む・聞く
・EメールやSNSを利用して文章を書く・読む
・IP電話を利用して話す

といったような、情報通信技術が発展する以前では考えることもできなかったような学習を行なうことが可能となりました。多様なイノベーションを引き起こす可能性をもつと考えられる「情報通信技術」の進展に注意深く目を向けながら、効果的な学習のために活用できると考えられた際には、積極的にICTを研究に取り入れていこうと考えています。

■国際理解学習をテーマとして扱うこと
情報通信技術の進展と同様に、グローバル化の進展も現代の社会を捉える上での大きな特徴と言えるでしょう。それに伴い、「異文化の理解」や「外国語運用能力の向上」などの大切さが様々な場面で強調されています。文部科学省も2008年に小学校学習指導要領の改訂を告示し、新学習指導要領では、小学校5・6年生に対して週1コマの「外国語活動」の授業を実施することとしました。中学校以降で行なわれる「外国語」科目が既に体系的なカリキュラムを構築しているのに対し、小学校での「外国語活動」科目はゼロからの試みになります。

どのような内容を扱い、どのような活動を行うことが、小学校段階での「外国語活動」科目にふさわしいのでしょうか?

私は、中学校で行なわれている「外国語」科目につながっていくような、その準備の段階となるような、外国語習得のための動機を高める活動がふさわしいと考えています。また、動機づけを行う手段として、国際理解学習を提案したいと考えています。

「学習者がどのような状態になると国際理解が行われたと言えるのか。」「国際理解が行なわれると外国語学習への動機づけが高まるのか。」などといった、検討しなくてはならない課題は山積みですが、これから少しずつ考えていこうと思っています。

まだまだ未熟な研究計画ではありますが、上述した2点を軸として、研究を1歩ずつ進めていきたいと考えています。

2010.04.23

【今年の研究計画】大学の文系学部におけるゼミナールに関する調査


みなさま,こんにちは。
【今年の研究計画】シリーズ,今週はM2の伏木田稚子が担当いたします。


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わたしは,山内研に入った当初,学生同士が対話をする中で理解を深めていくプロセスに興味がありました。
そこで,学生はなぜ授業中に問いを発しないのか?良い問いとはどのようなものか?といったResearch Questionを掲げ,「問い」「理解」「メタ認知」「対話」「議論」といったキーワードを中心に文献を調べていました。
その中で,問いかけが頻繁に起こる場は?と考えたときに,教員と学生が集う「ゼミナール」が思い浮かび,それが本研究に取り組むきっかけとなりました。


●研究のテーマ
大学の文系学部におけるゼミナールに関する調査


●ゼミナールの定義
『広辞苑』によれば,ゼミナールとは,「大学の教育方法のひとつ。教育の指導の下に少数の学生が集まって研究し,発表・討論などを行うもの。演習,ゼミ,セミナー。」とあります。
また,赤堀(1998)は,大学における授業を大きく2つに分類し,情報の伝達が知識である「講義形式」に対して,「ゼミナール形式」は相互の討論を用いるとしています。
学生による発表が授業の評価対象となる点や,理解という目的のために,教員と学生および学生と学生が共同で学習するといった点も,講義とは異なる「ゼミナール」の特徴として挙げられるでしょう(赤堀,1998; 船曳,2005; 中村・内田,2009)。
このような記述を踏まえるならば,ゼミナールは,「発表や討論を中心とする学習者主体の授業形態」と操作的に定義できると考えています。


●研究の目的
①国公立・私立大学の文系学部(法・経済・経営・商・文・教育・家政系)で開かれているゼミナールの形式を明らかにする
-いつ,どこで開かれ,どのような人々が何人ぐらい参加しているのか?
-中心となる活動は何か?発表,討論以外に何が行われているのか?
②参加者である学生の視点からゼミナールにおける学びの在り方を検討する
-ゼミナールの目的やそこでの学びをどのように捉えているのか?
-ゼミナールに対する意欲や所属意識はどれほどあるのか?
-ゼミナールに対する満足度や成長実感はどれほどあるのか?


●研究の背景
ゼミナールは最も大学らしい知の形式であり(船曳,2005),学習の成長の幹である(中村・内田,2009)というように,大学教育におけるゼミナールに対する評価が高まりつつあります。
このような動きは日本に特有のものではないようで,Tsui & Gao(2007)は,アクティブ・ラーニングを取り入れたセミナー科目は,学生の参与および満足度の向上や,認知スキルや持続力の獲得に寄与すると主張しています。
さらに,少人数でのディスカッションを中心としたセミナー科目は,批判的思考の発達を促進するなど,ゼミナールが望ましい学習成果と結びついていることを示す研究も行われています(Tsui & Gao,2007)。
けれども,毛利(2006)が指摘するように,日本ではゼミナールに関する実証的な研究はあまり進んでいないようです。
その理由としては,ゼミナールの形式が多様であること,教員と学生の共同体としてのゼミナールというように密室性が高いことなどが挙げられています(毛利,2006)。


●研究の課題
そこで本研究では,ゼミナールの形式を網羅的に調べ,いくつかのタイプに分類することで,複雑化していると言われるゼミナールの実態を明らかにしたいと考えています。
その際,参加者であり学習者である学生の態度(attitude)や信念(belief),特性としての学習観や学習スタイル等を併せて調べることで,ゼミナールの機能や効用に迫ることができれば・・・と思っています。


●調査の方法
質問紙調査で明らかになった事実を,インタビュー調査で補足するというミックス法を用いたいと考えています。
調査の対象や,調査のスケジュール調整は目下,検討中です。


●引用文献
赤堀侃司(1998) 大学授業改善の特徴と技法の共有化 大学教育学会誌 20, 63-66.
船曳建夫(2005) 大学のエスノグラフィティ 有斐閣
毛利猛(2006) ゼミナールの臨床教育学のために 香川大学教育実践総合研究 12,29-34.
中村博幸・内田和夫(2009) ゼミを中心としたカリキュラムの連続性~学生が育つ授業・学生を育てる授業-教員と学生が授業をつくる~ 嘉悦大学研究論集 51,1-13.
Tsui, L., & Gao, E.(2007). The efficacy of seminar courses. Journal of college student retention:Research, Theory & Practice, 8, 149-170.


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未だに整理がつかず,はっきりとしない部分が多くありますが,焦らず慌てず諦めず,しっかりと地に足がついた研究をしていきたいと思っています。
今年度もどうぞよろしくお願いいたします。


[伏木田稚子]

2010.04.20

【エッセイ】iPadの衝撃

先日、特任研究員の久松さんが並行輸入で購入されたiPadをさわらせてもらいました。
想像以上によくできたインターフェイスで、複数の指で操作する自然さに衝撃を受けました。iPhoneは持っているのですが、指の動かせるエリアが広くなるだけで、経験的にはほとんど別物になります。iPhoneに戻ると、指が押し込められて不快に感じられるほどです。
また、画面が非常に美しく、内蔵スピーカーのクオリティが高いことも特筆すべき点です。映像を見ていると、ポータブルテレビに近い感覚です。ウェブやマルチメディアビューアとしては完成度が高いものだと思います。
画面上のキーボードは慣れが必要ではありますが、長文でなければ入力に困ることはないでしょう。オフィスソフトであるPages,Numbers,Keynoteも販売されますので、今後の教育利用端末の最有力候補のひとつになることは間違いないでしょう。

すでに、教育利用に関係していくつかのニュースが入ってきています。

米国の3大学が『iPad』を無料で配布、1万冊の大学教科書を読めるサービスが開始。
マルチメディア元素ガイド"The Elements"の発売。

今後、様々な領域で教育利用の実験が進むでしょう。基本的には教育や学習の過程を改善する試みは望ましいことだと考えていますが、すぐに多くの大学が配布する状況にはならないと予想しています。

1) iPad本体は安い(約5万円)のですが、管理をするために別途Macが必要になります。セットにして配布すると20万円近くになり、大学側で管理するためには人的コストがかかります。

2) 電子教科書の流通は始まったばかりで、まだどの教科書でも選べるという状況ではありません。(日本では流通の仕組みすらありません。)

3) 教員側の準備が整っていません。学生がPCでノートをとったり、教科書を見るところまでは対応可能だと思いますが、それ以上の付加価値を出そうとすると授業のやり方を変える必要があります。

このような理由から、大学において本格的な利用が始まるにはまだ時間がかかりそうです。今後実験的に導入した大学の利用動向を注目し、ブログでお知らせしていきたいと思います。

[山内祐平]

2010.04.19

【今年の研究計画】第二言語習得を目的とした効果的協調学習の支援法に関する研究

みなさま、こんにちは。

【今年の研究計画】シリーズ、今週はM2の程琳からお送りさせていただきます。どうぞよろしくお願いします。

■研究テーマ
第二言語習得を目的とした効果的協調学習の支援法に関する研究
―日中学習者混在のグループランゲージエクスチェンジ活動としてのマンガストーリーテリングの分析を通して―

■なぜランゲージエクスチェンジか?
異なる母語の人たちがお互いに自分の母語を教えあい、そして、代わりに相手から向こうの母語を教えてもらうことがランゲージエクスチェンジという。簡単に言語交換と理解している人も少なくない。
ランゲージエクスチェンジのよさとして、「ネイティブスピーカーとの練習」、「異文化の発見」、「パートナーとの趣味や興味の共有」、「語学教室では不可能なスラングや口語体の学習」、「語彙や文法に関する質問を母語話者に直接質問」などが利用者に実感されている。

■ランゲージエクスチェンジの現況
実際に、オンライン資源が急激に豊富かつ利用自在になりつつある現在においては、ランゲージエクスチェンジのためのソフトウェアが理論をずっと先を歩んでいるのである。
ランゲージエクスチェンジのためのオンラインコミュニティと言えば、SharedTalkや、InterSpeakers、Livemochaなどがたくさん挙げられる。 それらが愛用されている共通理由として、以下の三点がまとめられる。
1. 自分が習おうとしている目的言語の母語話者と簡単に連絡取れること。(基本は単純文字チャットから、音声チャット、動画チャットまでマルチメディア環境として利用可能。)
2. 無料で誰でも加入できるオープン式。しかも、交流している相手も一人特定と言うわけではなく、一対一から一対多数の形態とグループワークの学習形態が共存している。
3. ある程度の学習資源を共有できること。グループ内での共有作文や共有チャット記録、それから、サーバーが提供してくれるニュースなどが利用できる。

■なぜランゲージエクスチェンジと漫画ストーリーテリングを結びつけるのか?
実際にランゲージエクスチェンジを愛用している学習者層を見れば分かる話だが、ある程度話ができるまでにならないと、目標言語の母語話者とパートナーになっても自由自在な会話どころではなく、意思疎通すら無理なのがネックである。
そして、外国語を学習して、途中で諦めてしまう人の多くは、その初心者から中級者への段階で挫折したわけである。
中級段階へのネックを乗り越えるための支援法として、ただ母語話者と母語資源に恵まれればよいのでは足りないならば、なにか異なる言語の両者ともに理解できるうえでロジックを立てやすくさせられる学習法はないかというところに、ストーリーテリングが紹介された。
また、学術的に、第二言語習得法指導法としては、インプットが十分なアウトプットを支えきれない際に、カードや絵、文章要約フォームなどの情報補助により、学習者のアウトプットとインプットがともに効果的に上達すると分かっている。
しかし、こういうインプット補助としてのカリキュラムは教育側としての先生役が利用する場合が多く、ランゲージエクスチェンジにはまだ導入されていない。加えて、学習者同士によるコミュニケーションとしては、お互いに外国語が難しいこともあるため、有効に利用される支援法が期待されている。

■日中学習者混在のグループランゲージエクスチェンジ活動としてのマンガストーリーテリング
そこで私が目を向けたいのは・・・
おとぎ話や童話、ディズニー物語のような世界中の人に共通認識の持ちやすい絵本をテキストにし、日本人と中国人(個人的に私の母語が中国だから、笑)からなるランゲージエクスチェンジグループで行われるストーリーテリング活動である。
英語学習にストーリープロジェクトが前から活用されてきているが、ランゲージエクスチェンジの支援法として有効に生かせる要因を自分の研究により明らかにしていきたい。

■今後の課題
初級レベルの学習者同士による協調学習の支援法として、この研究の目的を設定しているが、言語学習に生かされているストーリー支援研究を参照しながら、まだまだ活動案を具体化する必要がある。
それから、ストーリーの完成度を評価する方法、分析方法を含めて今度の努力が必要である。
言葉による壁をこの研究を通して、少しでも薄くできたら嬉しい。そのために、一生懸命がんばります!

【程 琳】

2010.04.08

【今年の研究計画】歴史的共感の獲得を支援するデジタルストーリーテリング(DST)に関する研究

みなさまこんにちは。

【今年の研究計画】シリーズ、今週はM2の帯刀菜奈がお送りします。

■テーマ

歴史的共感の獲得を支援するデジタルストーリーテリング(DST)に関する研究

■日本史学習の現在

中学・高等学校の日本史の授業。

いま、暗記重視の「記憶する歴史」から、生徒が自分から問いかけができる「考える歴史」表現する歴史への転換が必要とされています。

■「なぜ?」が生まれる学習で、歴史を「考える」チカラをつける

考えるとは「(歴史上の出来事や人物の行動は)どうしてそういうことになったのか」を追求する作業を通して行われます。このとき「なぜ?」と疑問を持って考えることを「歴史的共感」といいます。

ただ暗記するのではなく「それで、自分はどう考えるのか」と解釈(評価・判断)考察して、自分なりに歴史を物語ることが求められます。

つまり歴史的共感がアップすると、

歴史を見るための視点が養われるので、

歴史を考える力がつくというわけです。

歴史的共感と、考え・表現する授業の実装は密接な関係にあるのです。

■歴史的共感を獲得するために過去の人物になりきってデジタルストーリーテリングする

そこで提案したいのが・・・

特殊な訓練や技能がなくても、そこに何が描かれているかが一応視覚的にわかる絵画史料を素材として、そこに描かれている人物のストーリーをテリング(物語る)する作品作りをしようという体験的学習プログラムです。

DST 化するために生徒は①テーマ②特徴③興味を軸に主人公を設定します。

主人公の時代背景を調べ、一人称かつ現在時制を用いた

「なりきり」脚本を書き、イメージ画像をデジタル作成します。

「なりきる」ためにはその主人公の服装、身分や生活環境など様々な「なぜ?」「どうなの?」を調べなければなりません。ここに歴史的共感がアップするポイントがあるのです。

■デジタルだからできる「なりきりコメント」のつけあい

ストーリーテリングするならアナログでいいじゃないって?

生徒の作ったものがデジタルの作品であれば、これをweb にup することができます。

作品をもとに、他の役になりきった生徒とロールプレイや意見交換をしたら、単なる調べ学習からもう一歩歴史的共感が高まるの活動になるのではないでしょうか。

自分が調べた主人公になりきって、他の生徒にコメントをつけるには相手に対する「なぜ?」「どうなの?」という視点が必要だからです。

■今後の課題

活動を行った後に、ペーパーテストで合理的理解が出来ているかといった歴史的共感獲得に関する評価を行うことを考えていますが、検討中。

活動内容の具体化と、評価方法、実装計画をあわせて練っていきます。

活動してちょっと幸せ

活動したら栄養になる

そんな

おいしい研究 になるように

がんばります。

【帯刀 菜奈】

2010.04.06

【エッセイ】金沢大学ラーニングコモンズと研究の環流

金沢大学ラーニングコモンズが、4月6日にオープンしました。このラーニングコモンズは、既存の図書館を改装し、本をきっかけとした学びを支援することを目指しています。このラーニングコモンズのコンセプトワークやデザインに関して、丸善株式会社と私が代表理事を務めるNPO法人 Educe Technologiesが共同で作業を行いました。金沢大学の山田先生をはじめ、お世話になった図書館の方々にお礼申し上げます。

ここ数年駒場アクティブラーニングスタジオ学環コモンズなど、新しい学習空間に関する研究を行っています。その中で研究的に切り出せる知見は、論文や著書(学びの空間が大学を変える:5月刊行予定)の形で公表していきますが、この種のデザインがともなう実践的研究活動では、研究的に切り出しにくい事例に付随した文脈依存情報がたくさん生み出されます。
今まで、このような情報は活用されず研究室の中に埋もれていました。今回の仕事は、NPO法人のコンサルティングという形で、研究活動の中で生み出された知見を活かして未来の学習環境を作っていく試みのひとつです。
研究活動で生み出される知見を「論文や著書」の形で公表していくことは研究者の当然の仕事ですが、研究の領域によっては、それに加えてワークショップ・カフェ・オープンソースソフトウェア・有料サービス・コンサルティングなど、多様な形に展開することができます。論文や著書を書くことにプラスして大学と社会の間に環流を作っていく、そういう研究者が今後必要になってくるのではないかと考えています。

[山内 祐平]

2010.04.01

【今年の研究計画】学習を目的としたワークショップにおける創発的コラボレーションに関する研究

みなさま、こんにちは。修士2年の安斎勇樹と申します。

今年度も研究室メンバーが毎週ブログを更新していきますので、どうぞよろしくお願いします。

さて、年度始めということで、【今年の研究計画】と題しまして、
それぞれの学生の研究計画をご紹介していくことにします。

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ちょうど1年前に山内研に入り、こんな研究計画を掲げていましたが、
1年間の文献レビューと実践経験の影響で、つい最近テーマがガラリと変わり、
ようやく自分のやりたいコトにスポッとハマった気がしています。(遅い・・?)

さて、早速ご紹介します。


○研究テーマ

『学習を目的としたワークショップにおける創発的コラボレーションに関する研究』


○ワークショップへの注目~コラボレーションによる学びと創造~

現代では、複数の人々が協同して付加価値を生み出す「コラボレーション」が様々な領域で求められています。

コラボレーションの効用として、個人では思いつかない知恵がグループで新たに「創発」することや、そうした創発的なコラボレーションが個々のメンバーに良い学びをもたらす点が挙げられます。

近年、こうしたコラボレーションによる新しい学びと創造のスタイルとして、「ワークショップ」が注目されてきています。


○これまでのワークショップ研究

ワークショップ研究の歴史は浅く、そもそもあまり先行研究がありません。

例えば、山内研出身の森玲奈さんの研究では、ワークショップ実践家のベテランと初心者を比較し、ベテランがワークショップをデザインする際のデザインへの取り組み方の特徴を明らかにしています。

他にも、例えばリフレクションを支援するワークショップデザインに関する研究や、アーティストによる幼稚園でのワークショップにおける作品の制作過程を分析した研究などなど、いくつかの研究があります。


○創発的コラボレーションのカギは「1人の時間」!?

一方・・、これはワークショップの研究ではないのですが、チクセントミハイ&ソーヤー(1995)の研究によると、複数の人々のコラボレーションにおいて創造的な洞察やブレイクスルーを生み出すためには、「1人で活動する時間」を確保し、それを触媒として利用することが重要であることが明らかになっています。

つまり、ただひたすらコラボレーションをさせるだけでなく、「他者とインタラクションを持たない個人の時間」を持たせることが、創発的なコラボレーションにつながる、ということなのです。

しかしながら、これまでのワークショップ研究では、コラボレーションにおける「個人の活動」の重要性に注目したものはありません。


○研究の目的

そこで、本研究では、「個人の活動」に着目しながら、創発的なコラボレーションを促すワークショップのデザイン原則を仮説として提案し、それを検証することを目的とします。

つまり、

「個人の活動」に着目して、こういう風にワークショップをデザインすれば、グループディスカッションがより創発的になる!

ということを結論として言いたいのです。


○研究の方法

研究の方法としては、LEGOを用いた創作活動を課題としたワークショップを、大学生を対象に実践する予定です。

その際に、同じテーマで

 (A)仮説に基づいて「個人の活動」を触媒にしたワークショップデザイン
 (B)「個人の活動」を用意しない通常のワークショップデザイン

の2通りのデザインでそれぞれ実践を行い、グループディスカッションの創発プロセスや、出来上がったアウトプットの創発性を比較・評価します。


○今後の課題

今後の課題としては...

(1)仮説の精緻化:個人の時間どのタイミングで入れ、どんな活動をさせればよいか

創発を生み出すデザイン原則の仮説を提案出来なければ始まりませんので、
この仮説を今後じっくり練り上げていきたいと思っています。
既にいくつか仮案はありますが、実践して色々と試しながら精緻化させていく予定です。


(2)"創発"をどのように評価するか

これが一番の課題になるかもしれません。
創発的コラボレーションを評価するにはどうしたらよいか?
発話データからプロセスを分析をして、話題の展開やアイデアの連鎖を分析するのか?
出来上がったアウトプットの作品としての創造性・創発性を評価するのか?
...これもいくつか仮案や参考に出来そうなモデルはあるのですが、
これから慎重に検討していかなければいけないポイントです。

以上の2つが、大きな課題ですが、急なテーマ転換のため、小さな課題は他にも山積みです。
これから気合いを入れて、詰めていきたいと思います!!


非常にざっくりとした説明になりましたが、以上になります。

1年後に「面白い」修士論文を提出できるよう、頑張って研究を進めていきます!!


[安斎 勇樹]

2010.03.28

【開催報告】学習環境のソーシャルイノベーション

3月27日(土曜日)に2009年度第4回BEAT Seminar「学習環境のソーシャルイノベーション:未来を拓く自律的人材の育成」が開催されました。満席の会場とTwitterが連動して大変盛り上がった会になりました。

まず、併任准教授の山田さん、特任助教の御園さん北村さんから、2年間かけておこなった研究 Conomi+の成果報告がありました。Conomi+は自分が好きな英文ニュースを読む中で英語のリーディングが自然にできるようになることを意図した推薦システムで、2年目の研究では、自分が好きなものだけではなく、好みと連続しながら意外性のある推薦をすることによって、学ぶ単語の幅が広がることが実証的に確認されました。

次に、から、2010年度から3年間「学習環境のソーシャルイノベーション」をテーマにすることと、その具体的なモデルとして高校生ー大学生ー起業家をつなぐ学習ネットワークの構築について説明しました。

その後、慶應義塾大学SFC研究所上席所員の松村太郎さんから、「ソーシャルメディアの発展と社会の変化」というタイトルでお話しをいただきました。エピソード満載のわかりやすいプレゼンで、iPhoneとTwitterによる「iT革命」が"Mobile Social"な社会変革をもたらしつつある現状について報告していただきました。
株式会社RCF 代表取締役社長の藤沢 烈さんからは、「自律的人材像と今後求められる教育」と題して、変わりつつある雇用状況の中で、企業ではなく個人として自律できる人材が重要になっていること、その条件として、社会性(自分以外の存在への意識)、リアルタイム性(所属、実績ではなく今何ができるか)、オープン性(発信しなければ存在していないのと同じ)が必要であることが語られました。
(松村さんと藤沢さんの講演は、Ustreamの録画でご覧になれます。)

休憩をはさんで、BEAT Seminar恒例の参加者によるグループディスカッションが行われ、4人ぐらいのグループで、この後のパネルディスカッションにつながる質問や意見をまとめてもらいました。

最後のパネルディスカッションでは、松村・藤沢・山内各パネラーに対して、今後学習環境のソーシャルイノベーションに必要な本質的な事柄について質疑応答とディスカッションが行われました。同時にTwitterでも議論が進んでいますので、詳しい内容は、Togetterによるまとめをご覧ください。

様々な議論が行われましたが、私が最も気になったのは、ソーシャルメディアを使う人が限られていて、それによる格差が生まれるのではないかという指摘です。これは全くそのとおりで、ソーシャルメディアを使って自分の学びのネットワークを作り上げ、新しい可能性を切り開いていく人と、そうでない人の格差は、今後ますます広がっていくと思います。逆にいえば、だからこそ、できるだけ多くの人を巻き込めるリアル/ソーシャルメディア連携型の学習環境を研究する価値があると思います。

セミナー終了後は、UTCafeで懇親会が開かれました。懇親会に来られていた多くの方が、Twitterでこのイベントを知って来られており、いつもにもまして多様な人たちの集まりになりました。

セミナーも一種の学びの場ですので、セミナーとTwitterの連動が進んでいる現状そのものが、学習環境のソーシャルイノベーションのさきがけと考えることができます。そういう意味でもわくわくしたイベントになりました。

ゲストとして来ていただいた松村さん、藤沢さん、会場やTwitterでディスカッションに参加していただいたみなさんに厚く御礼申し上げます。

[山内 祐平]

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