2010.04.23

【今年の研究計画】大学の文系学部におけるゼミナールに関する調査


みなさま,こんにちは。
【今年の研究計画】シリーズ,今週はM2の伏木田稚子が担当いたします。


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わたしは,山内研に入った当初,学生同士が対話をする中で理解を深めていくプロセスに興味がありました。
そこで,学生はなぜ授業中に問いを発しないのか?良い問いとはどのようなものか?といったResearch Questionを掲げ,「問い」「理解」「メタ認知」「対話」「議論」といったキーワードを中心に文献を調べていました。
その中で,問いかけが頻繁に起こる場は?と考えたときに,教員と学生が集う「ゼミナール」が思い浮かび,それが本研究に取り組むきっかけとなりました。


●研究のテーマ
大学の文系学部におけるゼミナールに関する調査


●ゼミナールの定義
『広辞苑』によれば,ゼミナールとは,「大学の教育方法のひとつ。教育の指導の下に少数の学生が集まって研究し,発表・討論などを行うもの。演習,ゼミ,セミナー。」とあります。
また,赤堀(1998)は,大学における授業を大きく2つに分類し,情報の伝達が知識である「講義形式」に対して,「ゼミナール形式」は相互の討論を用いるとしています。
学生による発表が授業の評価対象となる点や,理解という目的のために,教員と学生および学生と学生が共同で学習するといった点も,講義とは異なる「ゼミナール」の特徴として挙げられるでしょう(赤堀,1998; 船曳,2005; 中村・内田,2009)。
このような記述を踏まえるならば,ゼミナールは,「発表や討論を中心とする学習者主体の授業形態」と操作的に定義できると考えています。


●研究の目的
①国公立・私立大学の文系学部(法・経済・経営・商・文・教育・家政系)で開かれているゼミナールの形式を明らかにする
-いつ,どこで開かれ,どのような人々が何人ぐらい参加しているのか?
-中心となる活動は何か?発表,討論以外に何が行われているのか?
②参加者である学生の視点からゼミナールにおける学びの在り方を検討する
-ゼミナールの目的やそこでの学びをどのように捉えているのか?
-ゼミナールに対する意欲や所属意識はどれほどあるのか?
-ゼミナールに対する満足度や成長実感はどれほどあるのか?


●研究の背景
ゼミナールは最も大学らしい知の形式であり(船曳,2005),学習の成長の幹である(中村・内田,2009)というように,大学教育におけるゼミナールに対する評価が高まりつつあります。
このような動きは日本に特有のものではないようで,Tsui & Gao(2007)は,アクティブ・ラーニングを取り入れたセミナー科目は,学生の参与および満足度の向上や,認知スキルや持続力の獲得に寄与すると主張しています。
さらに,少人数でのディスカッションを中心としたセミナー科目は,批判的思考の発達を促進するなど,ゼミナールが望ましい学習成果と結びついていることを示す研究も行われています(Tsui & Gao,2007)。
けれども,毛利(2006)が指摘するように,日本ではゼミナールに関する実証的な研究はあまり進んでいないようです。
その理由としては,ゼミナールの形式が多様であること,教員と学生の共同体としてのゼミナールというように密室性が高いことなどが挙げられています(毛利,2006)。


●研究の課題
そこで本研究では,ゼミナールの形式を網羅的に調べ,いくつかのタイプに分類することで,複雑化していると言われるゼミナールの実態を明らかにしたいと考えています。
その際,参加者であり学習者である学生の態度(attitude)や信念(belief),特性としての学習観や学習スタイル等を併せて調べることで,ゼミナールの機能や効用に迫ることができれば・・・と思っています。


●調査の方法
質問紙調査で明らかになった事実を,インタビュー調査で補足するというミックス法を用いたいと考えています。
調査の対象や,調査のスケジュール調整は目下,検討中です。


●引用文献
赤堀侃司(1998) 大学授業改善の特徴と技法の共有化 大学教育学会誌 20, 63-66.
船曳建夫(2005) 大学のエスノグラフィティ 有斐閣
毛利猛(2006) ゼミナールの臨床教育学のために 香川大学教育実践総合研究 12,29-34.
中村博幸・内田和夫(2009) ゼミを中心としたカリキュラムの連続性~学生が育つ授業・学生を育てる授業-教員と学生が授業をつくる~ 嘉悦大学研究論集 51,1-13.
Tsui, L., & Gao, E.(2007). The efficacy of seminar courses. Journal of college student retention:Research, Theory & Practice, 8, 149-170.


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未だに整理がつかず,はっきりとしない部分が多くありますが,焦らず慌てず諦めず,しっかりと地に足がついた研究をしていきたいと思っています。
今年度もどうぞよろしくお願いいたします。


[伏木田稚子]

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