2010.05.25

【エッセイ】因果と相関の取り違え

asahi.comに以下のような記事が掲載されました。

農薬摂取で「子の注意欠陥・多動性障害増える」 米研究

この研究は、Timeのサイトでも紹介されていますが、タイトルの差が気になりました。

Study: A Link Between Pesticides and ADHD

朝日新聞の表現「AでBが増える」は因果関係を意味しますが、Timeの"Link Between A and B"は、相関しか指し示していません。

小さいことにこだわっているようですが、この差は研究では重大な意味を持っています。相関(AとBが関係している)は因果(AのせいでBになる)を保証しません。Timeの記事では、メディア接触状況などの環境要因が複合的に関係している可能性も指摘されています。

今回の研究のような疫学的な方法では、直接的な因果関係を立証することはできません。このことは、Timeの記事にも以下のような記述があり、慎重に報道されています。

「論文の著者は、相関を明らかにしただけであり殺虫剤の残留と発達の状況に直接因果関係があることを明らかにしたものではないことを強調している。」

もちろん、今回のような重大な疑義に関しては、追加研究を待つだけではなく、リスクを考慮して農薬の摂取を減らすという行動は選択肢のひとつになりえます。それでも、その選択は正しい情報に基づいてなされるべきです。

この報道に限らず、日本のメディアには、因果と相関を取り違えているものが散見されます。あふれるほどの情報が流通する現代社会では、統計的な考え方を身につけずに批判的に考えることは難しくなっています。高校から大学にかけて、統計に関する教育の充実が必要になっていると思います。

[山内 祐平]

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