2021.05.13

【研究テーマ紹介】興味を相互に発展させる対話に関する探索的研究 -読書体験の共有に着目して-(M2 渡辺拓実)

みなさんこんにちは!M2の渡辺です。

M2のお二人に引き続き、自分の研究テーマについて書いていきたいと思います。

ものすごくざっくりいうと、
人が好きなもの、面白いと感じるもの≒興味関心について研究をしています。


ーーー

人が自分の好きなものだったり、面白いと思っているものに関して話をしているのを聞いたり、そういうことについてお話をするのが好きです。

これは自分が元からそういう性格というよりも、ないものねだりみたいなところがあった気がします。

自分はいわゆる「やりたいこと」だったり、「好きなこと」があんまりない人でした。
大学受験の時は、自分のやりたいことが特になくて、いろんな分野を広く学べる学部ばかりを選んでいました。
大学生活の前半くらいまでは特に熱中したこともなかったし、これといって学びたい学問もない。

でも、自分の周りには、これが「好き」だったり、これが「面白い」だったりを共有してくれる人がちらほらいて、

アニメ好きな友人からこのアニメのここがいい!みたいな話を聞いたり、
経営学の研究をしている友人から面白い本を紹介してもらったり、
写真を撮るのが好きな友人と写真を撮りにいきながら話をしたり、
面白かったニュース記事をシェアしあったり、
そういうことの積み重ねで、自分自身の好きなものが少しづつできていったような感覚があります。

ある時期から、意識的に自分の好きなことを少しでも話すようにしようと思って、そこからはコミュニケーションの取り方がちょっと変わった気がします。
一方的に話を聞くだけでなく、自分がちょっとでも興味関心のあるものに対して、積極的に話をするようになってからは、相手の興味関心が自分に移るような、互いに乗り入れるようなそういうことがよく起きている気がしました。

そういうお互いの興味関心が、混じりあう・交じり合うようなコミュニケーションについて研究をしています。

誰かが熱く語る、これがいい!、ここが面白い!みたいな話。
どうして、それに興味を持ったんだろうとか、それの何が好きなの?何が面白いの?
僕はこれに興味関心あるんですけど、実はこれと近いのかもですね!

そういった会話の中で、少しずつお互いの概念にズレや重なりが生まれる。

「興味」という観点でコミュニケーションを捉え直してみると、自分の興味関心について他人に共有することや話すことは、お互いの興味関心を深めることにつながるのでは?
それってどうやったらできるだろうか?、どういう場でできるのだろうか?
みたいな部分を掘っていきながら、自分のリサーチクエスチョンが出来上がっています。

好きなことを好きだと言ったりすることは怖いこともありますし、時には好きが行き過ぎてしまい、「呪い」のようになってしまうこともあるけれど、そういうところも含めて、自分は「好き」ということに興味関心があります。

好きなものは、周りから分けてもらうことができて、周りに分けることもできるんじゃないだろうか?
だとしたら、それはどのようにやるのが良いのだろうか?

手探りをしていきながら、昔の自分が知って喜ぶような、聞いて喜ぶような、そんなことができたらいいなと。

ーーー

こんなとっ散らかった思考をなんとかまとめていって、いろんな所を歩き回って、色々な場所、色々な人を巡りながら、今のテーマに至ります。

沢山の人が歩いてきた道の上で、自分の感じていることや感覚に自分なりのラベルをつけていき、剥がしていき、いろんなところを散歩しながら、ときには100mを全力で駆け抜けたり、一定のペースでマラソンをしたりしながら、ゴールのような場所、(もしかしたら、そこは給水所かもしれないけれど)、にたどり着けたらなと思います。


【渡辺拓実】

2021.05.05

【研究テーマ紹介】異文化間における関係性構築への積極的な態度を形成する学習プログラムの開発(M2 岩澤直美)

M2の岩澤直美です。
入学してあっという間に1年が経ち、いつの間にか修論を執筆する学年になってしまいました。

私の研究テーマは、異文化間における関係性構築への積極的な態度を形成する学習プログラムの開発です。
異文化間接触の摩擦を乗り越えるためには対話や理解を深めようと向き合うこと大事ですが、この態度をどのように高められるのかを考え続けています。

このテーマを研究したいと思った原点は、私自身のルーツにあります。
日本とチェコのハーフとしてチェコで生まれ、生後数ヶ月で来日。大阪、ハンガリー、ドイツを行き来しながら育ちました。
家庭内での両親の文化の違い、転校するたびに変わる学校や地域文化の違いに、時に戸惑い、時に学ばされることが多々ありました。

幼少期。
私はラーメンの食べ方がわかりませんでした。
日本人の父は音を出しながらすすって食べます。母は静かに食べます。
私の目の前で、それぞれが食べ方の文化や、個人的感情について話し合っています。
子どもながらにその対話を聞きながら、「私はどちらの主張がしっくりくるだろう」と考え込んでいたのを覚えています。
 
小学校時代。
私は容姿が異なったために、常に「外国人」扱い。
学校でも、習い事でも、近所の人にも、英語を話すように声をかけられます。
「ああ、私は日本人じゃないんだ」と疎外感を感じるようになりました。
 
また、私はチェコの文化で、生後3日でピアスをあけてもらい、代々受け継がれてきたピアスを常につけていました。
通うことになった大阪の公立小学校では、ピアスをつけてくることを認めた先例はありません。
親が先生と話し合ったことで正式には認められたものの、私はクラスメイトにちゃんと説明することでできなかったため、みんなが「なんであの子だけ」という不満から私に当たってしまったのも無理はないのかもしれません。その後、勇気を出して話しをしてみたら、理解してもらうことができました。初めて、対話の重要性を理解しました。
 
中学時代。
ドイツのインターナショナルスクールに転向しました。
日本では外国人扱いされていたときとは一転して、今度は「日本人扱い」。
「日本人なら、寿司作れるよね、ランチなんで寿司じゃないの?」
「日本人はみんなMath得意だよね。宿題も忘れないし。ナオミ、今度教えてよ」
などと言われるたびに、「私は苦手なんだけどな…」と、当時は後ろめたく感じていました。
どこに行っても偏見はあるんだなあ、と実感すると同時に、このような偏見は無知が原因なのではないかと思うようになりました。

大人になった今でも、不動産屋さんで「外国人用の物件は扱っていません」と断られたり、飲食店で「この時期外国人お断りしています」と言われたりすることはあります。

どんな環境でも、多様な容姿の人や、多様な文化的背景を持つ人がいます。
誰も排除されない、抑圧されない、尊重される社会には、やっぱり違いを尊重することと対話を重ねることが大事なのではないかと感じたのです。

異文化間の摩擦や、それを乗り越えようとする努力を、面倒だと思う気持ちは、きっと自然なものです。
でも、せっかくなら異文化間の接触を楽しみ、交流による新たな視点や創造性を楽しめるといいなあと感じています。

そのような態度や価値観を形成するための教育には、何が必要なんだろう。

このような経緯と問いから、今の研究テーマに至りました。
まだ答えは出ていません。

年明けには、何か示唆を提示できるように、しっかりと研究を進めたいと思います。

M2 岩澤直美

2021.04.30

【研究テーマ紹介】若年労働者のレジリエンス向上の支援に関する研究(M2 倉持裕太)

みなさんこんにちは!山内研M2の倉持裕太と申します。
まずは自己紹介ということで、簡単に経歴をお話したいと思います。
私は生まれも育ちも富山県で、好青年として順調にスクスクと育っていったはずなのですが、どこかで道を外し、尾崎豊的な理由(興味があれば研究室訪問で聞いてください)で高校を中退することになりましたが、高卒認定試験を突破し、大逆転ラッキーパンチで慶應義塾大学の文学部に合格・入学しました。
そして、文学部の教育学専攻を卒業し、1年間のギャップイヤー過ごして、山内研にお世話になりはじめ、とうとう2年目に突入しています(あっという間!!)。

研究テーマについて、M1の頃は正直なところ、紆余曲折がありました(紆余曲折の歴史を知りたい方はコチラをクリック☆)が、現在は「若年労働者のレジリエンス向上の支援に関する研究」というテーマで研究を進めています。
「レジリエンス」という言葉に馴染みのない方もいると思いますが、この研究を一言で言い表すなら、
職場で困難な状況に陥った時、他者からどのタイミングで、どんな支援があれば困難な状況を乗り切り、その後精神的に強くなれるのか
になるかなと思います。

私自身、学部時代から現在まで、企業に属して働くという経験をしながら学生生活を過ごしてきたのですが、重めの仕事と激闘する過程において、「苦しいな〜」と思いながらもどこかで「楽しいな〜」と感じながら取り組み、最終的に、以前よりも一回り成長しているといった経験が多くありました。
そんな経験を研究として深掘っていきたいなと思い、M1の頃は、「経験学習」「一皮むける経験」といったキーワードを中心にレビューしていましたが、それはもう、全然リアリティのある問いを導出できず、どん詰まりしていました。
“これじゃ埒が明かねえ!“ということで、インタビューを行い、現場でゴリゴリに戦う戦士たちに、職場での苦労話とそれをどう乗り越えていったかを聞いてみました。
すると、みんな共通してざっくり以下の2点を話してくれていました。
①苦労する結果、以前よりも精神的に強くなれる
②苦労する過程では、周囲からのコミュニケーションや手助けがあるとより強くなれる

これらの発見をヒントに、
「苦労している過程において、他者からの“どんな支援“が重要なのか?」
「その支援は、苦労している過程の中の“どのタイミング“で与えられるべきなのか?」
なんてことを真剣に考えるようになり、近い領域の先行研究をたくさんレビューし、発表し、フィードバックをもらった結果、この路線を攻めたるぜ〜〜ってことになり、今に至ります。
1年間もがき続け、「どんなタイミングで、どんな支援があれば、精神的に苦しいときも強くなれるのか」というクエスチョンを導き出せたので、
M2の1年間では、しっかりとアンサーを作っていきたいと思っています。

また、私の研究から導かれるアンサーにどれだけの価値を出せるのかはわかりませんが、個人的には、職場で落ち込んでいる若手を見て、
「あの人には今どんな声かけが必要なんだろう。。。?」
と悩む上司(または同僚や部下の)皆さんに対して、有用な知見を作り出せるといいな〜〜なんて考えています!

予想以上に長くなってしまいました!すみません!
修論提出まであと9ヶ月もないと思うとガクガクブルブルですが、後悔のないように、納得のいく研究をしたいと思います!

【倉持裕太】

2021.03.22

【開催報告】STEAM教育シンポジウム「日本の学校でSTEAM教育をどう展開するか」

山内研究室では2020年4月より世界140ヶ国以上でSTEAM教育ソリューションを提供する Makeblock Co., Ltd. からご支援いただたき、STEAM教育に関する研究プロジェクトを進めています(プレスリリースはこちら)。

 

このたび、本プロジェクトの一環として板倉寛様(文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長)、堀田龍也様(東北大学大学院情報科学研究科教授)をお招きし、3月20日に「STEAM教育シンポジウム」を開催しました。

当日は多くの方にご視聴いただき、シンポジウム中にはお答えできないほど多くの質問・論点をいただきました。シンポジウムの内容をふまえ、次年度も引き続きSTEAM教育に関する研究を進めて参ります。あらためまして視聴者のみなさま、板倉様、堀田様、ありがとうございました。

 

杉山が発表しました「STEAM教育とは何か」に関するスライドを下記に掲載しますのでご覧いただければ幸いです。

スライドはこちらからもご覧いただけます。

 


なお、本プロジェクトではこれまでも研究の途中経過をお伝えするイベント「STEAM夜話」を開催しています。STEAM夜話の開催報告は以下よりご覧になれます。

STEAM夜話 Vol.1 アメリカのSTEAM教育

STEAM夜話 Vol.2 韓国と中国のSTEAM教育

STEAM夜話 Vol.3 『未来の教室』事業のSTEAM教育

2020.12.01

【開催報告】STEAM教育に関する公開研究会「STEAM夜話 Vol.3 『未来の教室』事業のSTEAM教育」

山内研究室では2020年4月より世界140ヶ国以上でSTEAM教育ソリューションを提供する Makeblock Co., Ltd. からご支援いただたき、STEAM教育に関する研究プロジェクトを進めています(プレスリリースはこちら)。
 
当プロジェクトでは「研究プロジェクトの中間成果をみなさまにお伝えしたい」「このプロジェクトを通してSTEAM教育に関心のある教育関係者のみなさまの輪を広げたい」という思いから「STEAM夜話」という公開研究会を開催しております。「アメリカのSTEAM教育」をテーマにした第1回の資料はこちらから、「韓国のSTEAM教育」をテーマにした第2回の資料はこちらからご覧になれます。
 
 
このたび「日本のSTEAM教育」シリーズの第1回目として、「『未来の教室』事業のSTEAM教育」をテーマに「STEAM夜話 Vol.3」(11月26日)を開催しました。経済産業省による「未来の教室」事業は、2018年の第一次提言以来「STEAM」に注目しており、2019年の第二次提言では基本的なビジョンとして「学びのSTEAM化」を掲げています。こうした「未来の教室」が掲げるSTEAM教育とはどのようなものか、今後展開していくSTEAMライブラリーとはどのような事業なのかについて、浅野大介様(経済産業省教育産業室 室長)、折茂美保様(株式会社ボストン・コンサルティング・グループ マネージング・ディレクター&パートナー)よりご講演いただきました。
 
参加者のみなさまとのディスカッション・質疑応答では、日本の教育現場での実践方法について意見が飛び交い、活発な会となりました。参加いただいたみなさま、どうもありがとうございました。
 
「未来の教室」事業に関する情報は下記のリンク先からもご覧になれます。
「未来の教室」とEdTech研究会-第2次提言
「STEAMライブラリー」事業について
STEAMライブラリーティザーサイト
特にSTEAMライブラリーティザーサイトでは、現在モニター教師・モニター学校を募集しています。
 
また、質疑応答の内容は下記のスライドからご覧になれます。

 
 
STEAM夜話 Vol.4も引き続き「日本のSTEAM教育」をテーマに開催予定です。また告知をいたしますので、関心のある方はぜひお申し込みください。

2020.10.31

【徒弟的学習】文献とディスカッション内容の紹介(M1 倉持裕太)

M1の倉持です。今回は、大学院生が、ゼミで扱っている英語文献とディスカッション内容を紹介するシリーズということで、私からは、春学期に扱った、International Handbook of the Learning Sciencesの第5章:徒弟的学習について紹介します。

徒弟的学習とは、LaveとWengerが1991年に出版した本である『状況に埋め込まれた学習:正当な周辺参加』にもあるような、実践共同体の中で、上級者から徐々に与えられた慣行を習得し、やがて共同体のメンバーとなっていくそのプロセス中にある学習のことです。
授業や何かしらの決まった講座を受けて得られる学習というよりかは、共同体の中に属し、その場で様々な人と相互作用しながら状況的に学習されていく点に着目をしています。
これまでは、上記にもあるように「実践共同体」をフィールドに研究が行われることが多かったのですが、そこでの研究成果を学校教育に持ち込み、学習者に様々な支援を行うことができるのではいか?という視点から、文献では徒弟的学習の学校への応用について、認知的徒弟制のモデル※1を参考にしながら、学ぶ知識、支援の方法、学習課題の順序付け、社会的文脈の構築などの観点から議論が繰り広げられています。

※1 「認知的徒弟制」とは、徒弟制の中にある学びを以下の4つの段階としてモデル化したもの
・徒弟が親方の作業を見て学ぶモデリング(modeling)
・親方が手取り足取り教えるコーチング(coaching)
・徒弟にできることを確認して自立させるスキャフォルディング(scaffolding)
・親方が手を退いていくフェーディング(fading)

今回のディスカッションテーマは「自然科学・社会科学・芸術領域における認知的徒弟制の事例を考えよ。」ということで、3つのグループに別れて、それぞれのグループのメンバーが様々な事例を持ち寄り、議論を行いました。
自然科学チームでは、大学の研究室などの場所を想定しながら、先輩-後輩間で徒弟的な学習が生じているではないかという議論が行われていました。ただ、自然科学らしい認知的徒弟制という点でオリジナリティを出すのが難しいよね、といった話もありました。
社会科学チームでは、教育実習にて、上記の認知的フレームワークをベースとした学習が行われているのではないかといった議論が行われていました。
芸術領域チームでは、美術領域では、モデリングが十分に行われないまま実践させることや、ダンスなどの領域では、ひたすらモデリングを行うことなどがあるなど、部分的に徒弟的に学習が行われているが、認知的徒弟制の4つの段階で熟達していくかは判断しにくいよね、といった議論が行われました。

このような事例を改めて考えてみると、私達が生きる様々なコミュニティの中にはあらゆる箇所で部分的に徒弟的な学習が行われており、そういった、状況的で、ある意味自然発生的な学習が繰り返されるうちに、いつか教える立場になっている、なんてこともあるんじゃないかと思います。
そうして教える立場になったときに、これまで自分が受けてきた指導の方法を鵜呑みにして行うのではなく、今回議論した認知的徒弟制のモデルという考え方を意識して実践してみると、よりよい教授ができるかもしれないです。

参考:
東京大学大学院情報学環 ベネッセ先端教育技術講座 BEAT, Beating 第16号「5分でわかる学習理論講座」第5回:実践を通した学習のなかで知識を獲得する〜「認知的徒弟制」:
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/archives/beat/beating/016.html

2020.10.23

【ラーニングプログレッションズ】文献とディスカッション内容の紹介(D4 平野)

D4の平野です。大学院生が、ゼミで扱っている英語文献とディスカッション内容を紹介するシリーズです。私からは、International Handbook of the Learning Sciencesの41章:ラーニングプログレッションズについて紹介します。

ラーニングプログレッションズとは、適切な教授が行われた場合に実現する、個々の学習テーマについての比較的長期にわたる概念変化や思考発達をモデル化したもの山口・出口2011, p.338)です。幼稚園児から大学生までのあらゆる学齢におけるスタンダードやカリキュラム、教授と評価のデザインのための仮説モデルであり、とくに数学と科学における学年を超えた学びのつながりを示すことを提案しています。

文献では、ラーニングプログレッションズの研究方法として、①インタビューや筆記テスト等の横断的アセスメントを行い、各段階の学習者の理解を精緻化する研究、②長期的なデザイン研究により学習者の理解の進展を追う研究、があるとされています。ディスカッションのテーマは、これら2つの視点から、大貫(2016)で述べられている「物質の変換」に関するプログレッションの研究の具体例を考えることでした。

↑「物質の変換」に関するプログレッション(大貫2016, p.43)

①横断的アセスメントチームは、水の状態変化(氷→水→水蒸気)について、身近な素材に関する実験を行った上で、学習者にインタビューすることで、概念の理解度を調査するアイデアを出してくれました。②縦断的デザイン研究チームは、状態変化は理解できているが化学変化が理解できていないレベルの学習者について、どのような教授を行えば適切な方向に理解を導けるかを、デザイン研究として行っていく案を考えてくれました。

私は社会人大学院生で、文献報告として本章を選んだのは、本務先で学力テスト等の大規模アセスメントの実務に携わる経験を長くしてきたことが挙げられます。その中で「AはできているがBはできていない」「両方できていない」「そもそもAとBの基準では判断できない」といった生徒の解答に数多く出会ってきました。

ディスカッションのまとめとして出てきたのは、ラーニングプログレッションズとは、ある意味で、学習科学によるカリキュラムへの挑戦だ、という意見です。科学・数学の何をどういう順番で教えるか、実際の子どもの理解の仕方をみて、研究をベースに、教え方やプログレッション自体も組み替えていくのが、ラーニングプログレッションズ研究です。

GIGAスクール構想により、コンピューターベースドテスティングの推進や、教育ビッグデータの活用がにわかに現実味をもって語られるようになってきていますが、ラーニングプログレッションズは、教育にエビデンスベースを導入するひとつの提案と言えるでしょう。

平野智紀/内田洋行教育総合研究所

2020.09.14

【文献とディスカッション内容の紹介】MOOCsと豊かな学習環境(D1 井坪葉奈子)

こんにちは、D1の井坪です。
今回も、小野寺さん、岩澤さんに引き続き、ゼミで扱っている文献とディスカッション内容について紹介したいと思います。

私が前回担当したのは、International Handbook of the Learning Sciencesの36章: Massive Open Online Courses (MOOCs) and Rich Landscapes of Learningでした。

MOOCsというのは、大規模公開オンライン講座のことで、
・何千、何万、時には何十万人が登録できるようにデザインされている
・インターネット接続があれば誰でも登録が可能
・レクチャー、フォーラム、学習者間の交流、テスト、受講証明書の発行などを含む
といった特徴が挙げられます。

ここ数年で、MOOCsのプラットフォームは増えてきており、東京大学もCourseraedXなどのプラットフォームで、複数のコースを提供しています。
また、日本のプラットフォームのひとつであるgaccoでは、山内先生が講師のお一人となっている「アクティブで深い学びのデザイン」が開講されています。

今回の文献を受けてのディスカッション課題は、「MOOCsのような非同期型オンライン学習、Zoomのような同期型オンライン学習が普及する中で、今後対面学習のあり方はどう変わっていくのか、その価値とともに議論せよ」というものでした。
グループごとに議論した結果、
・休憩時間での会話や、図書館、先生との雑談などから生まれる、偶発的な学習の生起(リソースとの出会い等)はオフラインの方がよいのではないか
・実習やスポーツ、演劇といった身体性を伴う学びの形はオンラインだと難しい
・ビジョンを共有したり、信頼関係を築くといったコミュニティ形成は対面の方がやりやすい
といった意見が出ました。
ディスカッションの中で、対面の方がよい点というのも多く出てきましたが、一方で、マスタリー・ラーニングのように各個人のレベルやペースに合わせた学習はオンラインの方がやりやすい等、オンラインの良さというものについても話し合うことができました。

MOOCsでは、年齢、職業、レベルもバラバラな人々が、それぞれに目的を持って好きなコースを受講することができます。
そこでのほかの学習者との出会いや、学びの自由度は、従来の「学校」における対面での学びとは違った良さがあると感じます。
何事においても対面がいいと思い込むのではなく、オンラインとオフライン、それぞれの良さを理解したうえで、必要に応じてハイブリッド学習の形で組み合わせていくことが、今後重要になってくるのではないでしょうか。

【D1 井坪葉奈子】

2020.08.28

【開催報告】STEAM教育に関する公開研究会「STEAM夜話 Vol.2 韓国と中国のSTEAM教育」

山内研究室では2020年4月より世界140ヶ国以上でSTEAM教育ソリューションを提供する Makeblock Co., Ltd. からご支援いただたき、STEAM教育に関する研究プロジェクトを進めています(プレスリリースはこちら)。


当プロジェクトでは「研究プロジェクトの中間成果をみなさまにお伝えしたい」「このプロジェクトを通してSTEAM教育に関心のある教育関係者のみなさまの輪を広げたい」という思いから「STEAM夜話」という公開研究会を開催しております。「アメリカのSTEAM教育」をテーマにした第1回の資料はこちらからご覧になれます。


このたび「中国と韓国のSTEAM教育」をテーマに「STEAM夜話 Vol.2」(8月26日)を開催しました。アメリカで誕生したSTEAM教育という概念が、韓国や中国の研究者・教育実践者にどのように受容され「ローカライズ」されていったのかを、論文や報告書のレビューをもとに発表しました。


また今回は韓国・晋州教育大学の孔泳泰先生にゲストとして参加いただき、韓国におけるSTEAM教育の現状をうかがいしました。参加者のみなさまとのディスカッション・質疑応答からも孔先生への質問がたくさん飛び交い、大変刺激にあふれる会となりました。参加いただいたみなさまありがとうございました。


当日発表したスライドと質疑応答の内容は下記にて公開しておりますのでご覧ください。


STEAM夜話 Vol.3は「日本のSTEAM教育」をテーマに開催予定です。また告知をいたしますのでご関心のある方はぜひお申し込みください。



スライドはこちらからもご覧いただけます。

2020.08.01

【問題解決と生産的失敗】文献とディスカッション内容の紹介(M1 岩澤直美)

M1の岩澤直美です。
今回はゼミで扱っている文献とディスカッションの内容を紹介したいと思います。
 
毎週ゼミでは文献担当者がInternational Handbook of the Learning Sciencesから1つの章を選び、レジュメを作り、解説を行います。その後、小グループに分かれてのディスカッションを通して理解を深める活動を行なっています。

私がはじめに担当した章は「第21章:Learning Through Problem Solving」でした。伝達モデル(Transmission model)では、学習直後は暗記ができていることを確認できていたとしても、その後、学習内容を実践の場で転用/応用することが難しいと言われています。問題解決型のアプローチでは、既有知識と新規の課題の関連性の発見や、学習内容が広く適応可能であることを理解を促進することが可能です。さらに、①学習者は総合的な概念理解をしながら問題解決能力と自己調整学習能力を磨くことができること、②学習者のモチベーション維持がしやすいこと、などが利点としてあげられます。

以下は、問題解決型のアプローチとして共通点の多い「問題基盤型学習(Problem Based Learning, 以下 PBL)」と「生産的失敗(Productive Failure)」について紹介します。

■「生産的成功」と「生産的失敗」について
「生産的成功(Productive Success)」は、PBLを通して、既有の知識や技術を使いながら問題解決の成功体験を得るためのデザインです。これを行うには適切な足場かけ(認知負担を低減)とファシリテーション(学習プロセスのガイド)が重要です。(Ertmer & Glazewski, in press; Hmelo-Silver & Barrows, 2008) 一方、 「生産的失敗」は、新しい概念を学ぶためのプロセスで、学習者は未習得知識が求められる問題解決に挑みます。当然短期的には失敗しますが、認知的失敗を情報として捉え、長期的には失敗の確率を減らすことが可能になります。このプロセスにおいても、ファシリテーターの継続的な支援が求められます。

■PBLと「生産的失敗」のプロセスと特徴
PBLにおいても、「生産的失敗」においても、学習者は問題解決を行う中で新たな知識を習得します。ここで学習した知識は、類似問題解決を行う際に活用できるようになります。(Transfer-appropriate processing theory) PBLでは、Direct instruction(直接指導)と比べ基本的な知識習得は劣る(Vernon and Blake, 1993)との指摘もありますが、知識応用能力に関しては高い学習効果が認められています。(Gijbels, Dochy, Van den Bossche, & Segers, 2005)

「生産的失敗」の学習プロセスにおいては、①矛盾と以前の知識との違いに気づき、②誤った解決法と正しい解決法の比較・対照を通して新たな学習内容の特徴を学習、がポイントになります。現段階では、中等教育から高等教育レベルの数学や理科を扱う実践研究が多い傾向にあります。新たな問題を出す際、問題に取り組む前に指示(認知的サポート)をもらう生徒よりも、指示を受けずに解を出す生徒の方が、概念理解が促進されたという結果が出ています。(Kapur, 2014; Loibl, Roll, & Rummel, 2016

■PBLと「生産的失敗」のデザイン
PBLも、「生産的失敗」も共同学習から始まりますが、違いは問題解決授業のデザイン及び全体を通した支援方法にあります。PBLは図1のように、①不良定義問題(Ill-structured problem)に取り組む、②小グループで問題について議論し、解を提案する、③指導者はガイドとして探求を支援するための足場かけを提供する、④振り返り&評価を活動の一部として導入しSelf-regulated learning(自己調整学習)を促進する(Savery, 2015)のような構成となっています。ここで重要なのは、複雑で不良定義な問題で、かつ学習者に関連する内容(モチベーションを保つため)に取り組むことと、十分なフィードバックがあることです。

図1 PBLのサイクル(p.212)


「生産的失敗」の構成は図2のように、共同作業などを通して ①既有知識の活性化と差別化をし、関連する既有知識を活用及び外化、②解法を比較して重要な特徴に気づく、③重要な特徴の解説を受け、④問題の特徴をよく考えて知識の定着と構築を行う、というものです。

図2 生産的失敗の構成要素(p.214)


■授業内ディスカッション
本章における議題は「表21.2(本投稿では図2)を参考にして、Productive Failureの事例を考えよ」というものでした。3グループに分かれ、20分程度で検討し、その後10分ほどで全体で共有するという流れです。グループディスカッションではもちろん議題通り事例を検討しますが、その過程で行われる知識構築や軌道修正でPBLと生産的失敗の理論への理解を深めていきます。例えば「地図を見ずに迷ってしまった経験から、地図の読み方を学習し、迷わず歩けるになった」という実体験の事例に対して、これは経験学習に近いものなので、生産的失敗のように「仕掛ける人」がいないと当てはまらないのではないか、との指摘がされました。

その前提を踏まえ、「インドネシアの牛乳に対する安全性・安心感を高める」という課題の事例において、学習者が既有の知識をふまえ「日本と同じように生産者の顔を表示する」を提案したところ、その解法がインドネシアでは望ましくない(失敗だった)ケースが紹介されました。この事例において、ファシリテーターが問題点とインドネシアの状況を指摘及び情報提供を行い、学習者はより適切な解法を提案することができたのだそうです。その他にも、統計を学ぶ授業において、同じデータセットを渡されて各自が相関分析をするという事例も挙げられました。それぞれが既有の知識に基づいて分析を試み、その多様な方法と結果を比較しながら、外れ値の扱いについてなどの違いがあることに気がつくよう、<重要な特徴への教師による注目促進>が行われるものでした。これを踏まえ、再度分析した結果を提出させることで、失敗からの再構築が行われた、という事例です。

「生産的失敗」は比較的新たな試みとして研究が進められていますが、うまく実践ができないと「失敗体験」として学習者のモチベーションや自信の低下などにつながってしまう可能性もあります。今回のディスカッションでは新たな事例の検討よりも、各自が経験してきた事例の分析が中心に行われました。今後様々な学習環境を観察・経験・実践する際、「何がおきているのか」をより深く理解するために、自分の引き出しのなかに理論に関する知識を持っておくことは重要だと感じました。


感染拡大も収まらないまま梅雨があけ、徐々に暑くなってきました。ゼミは夏休み期間中で、各自が論文のレビューや調査を進めています。来学期の授業がどのような形式で実施が可能なのか不明瞭ですが、引き続きブログを更新していきたいと思います。

M1 岩澤直美

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