2021.07.05

【研究テーマ紹介】対話型鑑賞において知識構築を促すファシリテーションに関する研究(D5 平野智紀)

D5の平野智紀です。社会人院生として博士課程に入学してから、いつの間にか、院生の中でも古株になってしまいました。私はアート鑑賞の一手法である対話型鑑賞のファシリテーションについて研究しており、今年度は博士論文の審査を受ける予定です。他の院生のみなさんが自身のことを書かれているので、私も、これまで書いていなかった、なぜこの研究をするに至ったかについて紹介したいと思います。

私の修士課程での研究は、対話型鑑賞ではなく、ミュージアムでのインフォーマル学習についてでした。ある会で修士研究について発表させていただいたとき、「そういえば京都におもろいことをやってる福さんという人がいてな。週末に鑑賞会があるんやけど」という情報をいただき、京都造形大(当時)でやっていたACOP:アート・コミュニケーションプロジェクトの秋の鑑賞会に急きょ飛び込んでみたのが、私の対話型鑑賞との出会いです。

ACOP:アート・コミュニケーションプロジェクト(京都芸術大学)

ACOPでは毎年、アートプロデュース学科1回生の必修授業として対話型鑑賞のトレーニングを行っており、その成果発表会が秋の鑑賞会でした。ここでお会いしたのが、MoMAでエデュケーターの経験があり、アメリア・アレナスを紹介して対話型鑑賞を日本に広げた立役者である、福のり子先生でした。巻き込み力の高いパワフルな先生で、鑑賞会の後の打ち上げで「平野くん、せっかくやから、(ACOPの)報告書にレポート書いてくれへん?」と言っていただいたのを皮切りに、数年間でいろいろなプロジェクトをご一緒しました。印象に残っているのは、東京大学CoREFと連携した「ロボットと一緒にアートを見よう」や、関西アートビートの「ミュゼオバトル」など。自身でも、対話型鑑賞ワークショップ「まれ美:まれびと美術館ナイト」を企画するようになりました。

私はその後、機会をいただいて「六本木アートナイト」や「あいちトリエンナーレ」といったアートプロジェクトでボランティア育成を担当するようになりました。これにより、自身でワークショップを企画するだけでなく、対話型鑑賞のナビゲイター(ファシリテーター)育成に関わることが増えました。この頃には、博物館学の教科書で一節設けられて解説されたり、アート思考の本で方法が紹介されたりするぐらいには、一時期からすると対話型鑑賞は広く普及してきて、実践者の数も増えていました。そんな中、私自身が実践者のみなさんにどのように貢献できるかを考えた結果、研究者として対話型鑑賞の研究をするに至っています。

博士論文をまとめるにあたって痛感したことは、研究的には、対話型鑑賞は心理学研究に基づく方法論ですが、その理論的背景が十分に理解されていないこと、実践的には、一口に対話型鑑賞といっても、それが取り入れられる文脈によって、そのねらいも、実践デザインやファシリテーションも異なることです。この課題に自分なりに応えることができているかどうか、まずは博士論文を世に出せるよう、がんばっていきたいと思います。

平野智紀

2021.06.25

【研究テーマ紹介】 「日本国内における演劇ワークショップ・ファシリテーターの効果的な養成方法に関する研究」(M1 菊池 ゆみこ)

みなさまはじめまして。菊池ゆみこと申します。
今年度4月入学の修士1年で、山内研のブログでは初めて筆(?)をとらせていただきます。どうぞよろしくお願いします。

さて早速ですが、私の研究テーマは
「日本国内における演劇ワークショップ・ファシリテーターの効果的な養成方法に関する研究」です。

この研究テーマに至った経緯について、自己紹介とともにお伝えしたいと思います。
しばしお付き合いいだければ幸いです。


私は東京大学の文学部で美術史を学んだのち就職しました。が、割とすぐに「やっぱり演劇をやりたいです!!会社辞めます!!」と、幼い頃からの夢だった舞台の世界に飛び込みました。

そして俳優活動を始める中で出会ったのが「演劇ワークショップ」でした。

まず演技スキル向上を目的としたものやオーディションのためのもの、はたまた上演する作品づくりのために開催される「ワークショップ」にいくつか参加しました。レッスンや本番のための稽古とはまた違う形式の場、ということは理解できましたが、「ワークショップ」とやらに参加すると単にレッスンやオーディションを受けるより楽しいし、知り合いが増えるな、くらいの印象でした。
しかしある時何気なく「普段演劇をやっていない人のためのワークショップ」に参加してみたところ、今まで参加したワークショップとは異なる雰囲気・体験に目から鱗がポロポロと落ちるような感覚があり、いつしかそれは「演劇ワークショップってなんだろう」「演劇ワークショップってどう作られているんだろう」という興味に変わっていきました。
折しも俳優として活動する中で、演劇を使ってもっと社会と繋がれないだろうか、という思いも抱いていたところでしたので、その興味はさらに「自分が演劇ワークショップをやる側になる」という道に続いていきました。

ちょうどその時期(2010年くらい)から、子どもたちのコミュニケーション能力向上が叫ばれ、その手段として演劇が注目されだしました。そして小中学校、高校などに演出家や俳優などの演劇の実践家が派遣され、演劇ワークショップを行う機会が増えていきました。
こうした機縁も重なり、私は今日まで演劇ワークショップをやる側=演劇ワークショップ・ファシリテーターとして10年近く仕事をしております。

そして近年は後進を育てるお仕事もいただくようにもなりました。ですが……これが想像以上に難しく、ファシリテーター育成の場に立つ度、以下のような疑問が湧いてくるのです。

そもそも、演劇ワークショップとは何なのでしょう?良い/悪い演劇ワークショップとは?
優れた演劇ワークショップ・ファシリテーターとはどんな人なのでしょう?
または何ができる人のことを言うのでしょうか?
そして、演劇ワークショップ・ファシリテーターはどうしたら育つのでしょうか??

……これは実践だけでは解き明かせない!!!という思いから、山内研究室のドアをノックし、「日本国内における演劇ワークショップ・ファシリテーターの効果的な養成方法に関する研究」とテーマを立てるに至っています。


現在は先行研究のレビューをしながら、この先何を明らかにしていくべきなのか考えている日々です。
必死で悩ましくもありますが、社会人となってからこうしてまた思い切り学べること、教育にまつわる様々な研究をしている方に囲まれた環境にいられることがとても楽しいです。

今までの実践を背景にしながらも決してそれに引きずられることなく、柔軟に泥臭く研究していきたいと思っています。

最後までお読みいただきありがとうございました!

【菊池ゆみこ】

2021.06.05

【研究テーマ紹介】 俯瞰による知識の相互的理解を目的としたSTEAM教育に関する研究(M1 久保田 愛海)

はじめまして、M1の久保田愛海です。
私は、「俯瞰による知識の相互的理解を目的としたSTEAM教育に関する研究」というテーマで研究を進めています。今回がはじめての投稿ということで、このテーマに至った経緯を自己紹介を交えて書いていきたいと思います。

私は幼い頃から歌ったり踊ったりすることが大好きで、クラシックバレエも習っていました。中学生からは、吹奏楽部でアルトサックスも吹いていて、踊りと音楽(芸術)のことばかり考えているような生活でした。

勉強面では、いわゆる「できる人」ではありませんでした…。しかし、勉強に目覚めたタイミングが2度あり(このお話は機会があればまた書けたらなと思います)、そのおかげで物事を理解する楽しさや友達と教えあう楽しさを知り、「教育」に興味を持つようになりました。

勉強が面白く感じるまでにかなり苦労してしまいましたが、東京理科大学に入学しました。学部では、生物(発生生物学や細胞生物学、遺伝子工学など)を学んでいました。また、教職課程も履修していたのですが、その過程の授業で「教育工学」を知りました。「教育をデザインする」という考え方に魅力を感じ、教育について専門的に考えたいと思うようになりました。

このような背景で教育工学について勉強していたところ、「STEAM(STEM)教育」に出会いました。
”Art”に関しては、「芸術」、「(芸術も含めた)教養」と解釈が分かれていますが、これまでの私の軸であった「芸術」と「勉強」について考えることができることに運命を感じ、現在のテーマに至りました。

現在は、文献レビューを進めながら自身のテーマについて考えています。
運命だと思って進んだこの道で、ワクワクしながら研究できたらなと思っております。
これからよろしくお願いいたします!

【久保田愛海】

2021.05.13

【研究テーマ紹介】興味を相互に発展させる対話に関する探索的研究 -読書体験の共有に着目して-(M2 渡辺拓実)

みなさんこんにちは!M2の渡辺です。

M2のお二人に引き続き、自分の研究テーマについて書いていきたいと思います。

ものすごくざっくりいうと、
人が好きなもの、面白いと感じるもの≒興味関心について研究をしています。


ーーー

人が自分の好きなものだったり、面白いと思っているものに関して話をしているのを聞いたり、そういうことについてお話をするのが好きです。

これは自分が元からそういう性格というよりも、ないものねだりみたいなところがあった気がします。

自分はいわゆる「やりたいこと」だったり、「好きなこと」があんまりない人でした。
大学受験の時は、自分のやりたいことが特になくて、いろんな分野を広く学べる学部ばかりを選んでいました。
大学生活の前半くらいまでは特に熱中したこともなかったし、これといって学びたい学問もない。

でも、自分の周りには、これが「好き」だったり、これが「面白い」だったりを共有してくれる人がちらほらいて、

アニメ好きな友人からこのアニメのここがいい!みたいな話を聞いたり、
経営学の研究をしている友人から面白い本を紹介してもらったり、
写真を撮るのが好きな友人と写真を撮りにいきながら話をしたり、
面白かったニュース記事をシェアしあったり、
そういうことの積み重ねで、自分自身の好きなものが少しづつできていったような感覚があります。

ある時期から、意識的に自分の好きなことを少しでも話すようにしようと思って、そこからはコミュニケーションの取り方がちょっと変わった気がします。
一方的に話を聞くだけでなく、自分がちょっとでも興味関心のあるものに対して、積極的に話をするようになってからは、相手の興味関心が自分に移るような、互いに乗り入れるようなそういうことがよく起きている気がしました。

そういうお互いの興味関心が、混じりあう・交じり合うようなコミュニケーションについて研究をしています。

誰かが熱く語る、これがいい!、ここが面白い!みたいな話。
どうして、それに興味を持ったんだろうとか、それの何が好きなの?何が面白いの?
僕はこれに興味関心あるんですけど、実はこれと近いのかもですね!

そういった会話の中で、少しずつお互いの概念にズレや重なりが生まれる。

「興味」という観点でコミュニケーションを捉え直してみると、自分の興味関心について他人に共有することや話すことは、お互いの興味関心を深めることにつながるのでは?
それってどうやったらできるだろうか?、どういう場でできるのだろうか?
みたいな部分を掘っていきながら、自分のリサーチクエスチョンが出来上がっています。

好きなことを好きだと言ったりすることは怖いこともありますし、時には好きが行き過ぎてしまい、「呪い」のようになってしまうこともあるけれど、そういうところも含めて、自分は「好き」ということに興味関心があります。

好きなものは、周りから分けてもらうことができて、周りに分けることもできるんじゃないだろうか?
だとしたら、それはどのようにやるのが良いのだろうか?

手探りをしていきながら、昔の自分が知って喜ぶような、聞いて喜ぶような、そんなことができたらいいなと。

ーーー

こんなとっ散らかった思考をなんとかまとめていって、いろんな所を歩き回って、色々な場所、色々な人を巡りながら、今のテーマに至ります。

沢山の人が歩いてきた道の上で、自分の感じていることや感覚に自分なりのラベルをつけていき、剥がしていき、いろんなところを散歩しながら、ときには100mを全力で駆け抜けたり、一定のペースでマラソンをしたりしながら、ゴールのような場所、(もしかしたら、そこは給水所かもしれないけれど)、にたどり着けたらなと思います。


【渡辺拓実】

2021.05.05

【研究テーマ紹介】異文化間における関係性構築への積極的な態度を形成する学習プログラムの開発(M2 岩澤直美)

M2の岩澤直美です。
入学してあっという間に1年が経ち、いつの間にか修論を執筆する学年になってしまいました。

私の研究テーマは、異文化間における関係性構築への積極的な態度を形成する学習プログラムの開発です。
異文化間接触の摩擦を乗り越えるためには対話や理解を深めようと向き合うこと大事ですが、この態度をどのように高められるのかを考え続けています。

このテーマを研究したいと思った原点は、私自身のルーツにあります。
日本とチェコのハーフとしてチェコで生まれ、生後数ヶ月で来日。大阪、ハンガリー、ドイツを行き来しながら育ちました。
家庭内での両親の文化の違い、転校するたびに変わる学校や地域文化の違いに、時に戸惑い、時に学ばされることが多々ありました。

幼少期。
私はラーメンの食べ方がわかりませんでした。
日本人の父は音を出しながらすすって食べます。母は静かに食べます。
私の目の前で、それぞれが食べ方の文化や、個人的感情について話し合っています。
子どもながらにその対話を聞きながら、「私はどちらの主張がしっくりくるだろう」と考え込んでいたのを覚えています。
 
小学校時代。
私は容姿が異なったために、常に「外国人」扱い。
学校でも、習い事でも、近所の人にも、英語を話すように声をかけられます。
「ああ、私は日本人じゃないんだ」と疎外感を感じるようになりました。
 
また、私はチェコの文化で、生後3日でピアスをあけてもらい、代々受け継がれてきたピアスを常につけていました。
通うことになった大阪の公立小学校では、ピアスをつけてくることを認めた先例はありません。
親が先生と話し合ったことで正式には認められたものの、私はクラスメイトにちゃんと説明することでできなかったため、みんなが「なんであの子だけ」という不満から私に当たってしまったのも無理はないのかもしれません。その後、勇気を出して話しをしてみたら、理解してもらうことができました。初めて、対話の重要性を理解しました。
 
中学時代。
ドイツのインターナショナルスクールに転向しました。
日本では外国人扱いされていたときとは一転して、今度は「日本人扱い」。
「日本人なら、寿司作れるよね、ランチなんで寿司じゃないの?」
「日本人はみんなMath得意だよね。宿題も忘れないし。ナオミ、今度教えてよ」
などと言われるたびに、「私は苦手なんだけどな…」と、当時は後ろめたく感じていました。
どこに行っても偏見はあるんだなあ、と実感すると同時に、このような偏見は無知が原因なのではないかと思うようになりました。

大人になった今でも、不動産屋さんで「外国人用の物件は扱っていません」と断られたり、飲食店で「この時期外国人お断りしています」と言われたりすることはあります。

どんな環境でも、多様な容姿の人や、多様な文化的背景を持つ人がいます。
誰も排除されない、抑圧されない、尊重される社会には、やっぱり違いを尊重することと対話を重ねることが大事なのではないかと感じたのです。

異文化間の摩擦や、それを乗り越えようとする努力を、面倒だと思う気持ちは、きっと自然なものです。
でも、せっかくなら異文化間の接触を楽しみ、交流による新たな視点や創造性を楽しめるといいなあと感じています。

そのような態度や価値観を形成するための教育には、何が必要なんだろう。

このような経緯と問いから、今の研究テーマに至りました。
まだ答えは出ていません。

年明けには、何か示唆を提示できるように、しっかりと研究を進めたいと思います。

M2 岩澤直美

2021.04.30

【研究テーマ紹介】若年労働者のレジリエンス向上の支援に関する研究(M2 倉持裕太)

みなさんこんにちは!山内研M2の倉持裕太と申します。
まずは自己紹介ということで、簡単に経歴をお話したいと思います。
私は生まれも育ちも富山県で、好青年として順調にスクスクと育っていったはずなのですが、どこかで道を外し、尾崎豊的な理由(興味があれば研究室訪問で聞いてください)で高校を中退することになりましたが、高卒認定試験を突破し、大逆転ラッキーパンチで慶應義塾大学の文学部に合格・入学しました。
そして、文学部の教育学専攻を卒業し、1年間のギャップイヤー過ごして、山内研にお世話になりはじめ、とうとう2年目に突入しています(あっという間!!)。

研究テーマについて、M1の頃は正直なところ、紆余曲折がありました(紆余曲折の歴史を知りたい方はコチラをクリック☆)が、現在は「若年労働者のレジリエンス向上の支援に関する研究」というテーマで研究を進めています。
「レジリエンス」という言葉に馴染みのない方もいると思いますが、この研究を一言で言い表すなら、
職場で困難な状況に陥った時、他者からどのタイミングで、どんな支援があれば困難な状況を乗り切り、その後精神的に強くなれるのか
になるかなと思います。

私自身、学部時代から現在まで、企業に属して働くという経験をしながら学生生活を過ごしてきたのですが、重めの仕事と激闘する過程において、「苦しいな〜」と思いながらもどこかで「楽しいな〜」と感じながら取り組み、最終的に、以前よりも一回り成長しているといった経験が多くありました。
そんな経験を研究として深掘っていきたいなと思い、M1の頃は、「経験学習」「一皮むける経験」といったキーワードを中心にレビューしていましたが、それはもう、全然リアリティのある問いを導出できず、どん詰まりしていました。
“これじゃ埒が明かねえ!“ということで、インタビューを行い、現場でゴリゴリに戦う戦士たちに、職場での苦労話とそれをどう乗り越えていったかを聞いてみました。
すると、みんな共通してざっくり以下の2点を話してくれていました。
①苦労する結果、以前よりも精神的に強くなれる
②苦労する過程では、周囲からのコミュニケーションや手助けがあるとより強くなれる

これらの発見をヒントに、
「苦労している過程において、他者からの“どんな支援“が重要なのか?」
「その支援は、苦労している過程の中の“どのタイミング“で与えられるべきなのか?」
なんてことを真剣に考えるようになり、近い領域の先行研究をたくさんレビューし、発表し、フィードバックをもらった結果、この路線を攻めたるぜ〜〜ってことになり、今に至ります。
1年間もがき続け、「どんなタイミングで、どんな支援があれば、精神的に苦しいときも強くなれるのか」というクエスチョンを導き出せたので、
M2の1年間では、しっかりとアンサーを作っていきたいと思っています。

また、私の研究から導かれるアンサーにどれだけの価値を出せるのかはわかりませんが、個人的には、職場で落ち込んでいる若手を見て、
「あの人には今どんな声かけが必要なんだろう。。。?」
と悩む上司(または同僚や部下の)皆さんに対して、有用な知見を作り出せるといいな〜〜なんて考えています!

予想以上に長くなってしまいました!すみません!
修論提出まであと9ヶ月もないと思うとガクガクブルブルですが、後悔のないように、納得のいく研究をしたいと思います!

【倉持裕太】

2021.03.22

【開催報告】STEAM教育シンポジウム「日本の学校でSTEAM教育をどう展開するか」

山内研究室では2020年4月より世界140ヶ国以上でSTEAM教育ソリューションを提供する Makeblock Co., Ltd. からご支援いただたき、STEAM教育に関する研究プロジェクトを進めています(プレスリリースはこちら)。

 

このたび、本プロジェクトの一環として板倉寛様(文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室長)、堀田龍也様(東北大学大学院情報科学研究科教授)をお招きし、3月20日に「STEAM教育シンポジウム」を開催しました。

当日は多くの方にご視聴いただき、シンポジウム中にはお答えできないほど多くの質問・論点をいただきました。シンポジウムの内容をふまえ、次年度も引き続きSTEAM教育に関する研究を進めて参ります。あらためまして視聴者のみなさま、板倉様、堀田様、ありがとうございました。

 

杉山が発表しました「STEAM教育とは何か」に関するスライドを下記に掲載しますのでご覧いただければ幸いです。

スライドはこちらからもご覧いただけます。

 


なお、本プロジェクトではこれまでも研究の途中経過をお伝えするイベント「STEAM夜話」を開催しています。STEAM夜話の開催報告は以下よりご覧になれます。

STEAM夜話 Vol.1 アメリカのSTEAM教育

STEAM夜話 Vol.2 韓国と中国のSTEAM教育

STEAM夜話 Vol.3 『未来の教室』事業のSTEAM教育

2020.12.01

【開催報告】STEAM教育に関する公開研究会「STEAM夜話 Vol.3 『未来の教室』事業のSTEAM教育」

山内研究室では2020年4月より世界140ヶ国以上でSTEAM教育ソリューションを提供する Makeblock Co., Ltd. からご支援いただたき、STEAM教育に関する研究プロジェクトを進めています(プレスリリースはこちら)。
 
当プロジェクトでは「研究プロジェクトの中間成果をみなさまにお伝えしたい」「このプロジェクトを通してSTEAM教育に関心のある教育関係者のみなさまの輪を広げたい」という思いから「STEAM夜話」という公開研究会を開催しております。「アメリカのSTEAM教育」をテーマにした第1回の資料はこちらから、「韓国のSTEAM教育」をテーマにした第2回の資料はこちらからご覧になれます。
 
 
このたび「日本のSTEAM教育」シリーズの第1回目として、「『未来の教室』事業のSTEAM教育」をテーマに「STEAM夜話 Vol.3」(11月26日)を開催しました。経済産業省による「未来の教室」事業は、2018年の第一次提言以来「STEAM」に注目しており、2019年の第二次提言では基本的なビジョンとして「学びのSTEAM化」を掲げています。こうした「未来の教室」が掲げるSTEAM教育とはどのようなものか、今後展開していくSTEAMライブラリーとはどのような事業なのかについて、浅野大介様(経済産業省教育産業室 室長)、折茂美保様(株式会社ボストン・コンサルティング・グループ マネージング・ディレクター&パートナー)よりご講演いただきました。
 
参加者のみなさまとのディスカッション・質疑応答では、日本の教育現場での実践方法について意見が飛び交い、活発な会となりました。参加いただいたみなさま、どうもありがとうございました。
 
「未来の教室」事業に関する情報は下記のリンク先からもご覧になれます。
「未来の教室」とEdTech研究会-第2次提言
「STEAMライブラリー」事業について
STEAMライブラリーティザーサイト
特にSTEAMライブラリーティザーサイトでは、現在モニター教師・モニター学校を募集しています。
 
また、質疑応答の内容は下記のスライドからご覧になれます。

 
 
STEAM夜話 Vol.4も引き続き「日本のSTEAM教育」をテーマに開催予定です。また告知をいたしますので、関心のある方はぜひお申し込みください。

2020.10.31

【徒弟的学習】文献とディスカッション内容の紹介(M1 倉持裕太)

M1の倉持です。今回は、大学院生が、ゼミで扱っている英語文献とディスカッション内容を紹介するシリーズということで、私からは、春学期に扱った、International Handbook of the Learning Sciencesの第5章:徒弟的学習について紹介します。

徒弟的学習とは、LaveとWengerが1991年に出版した本である『状況に埋め込まれた学習:正当な周辺参加』にもあるような、実践共同体の中で、上級者から徐々に与えられた慣行を習得し、やがて共同体のメンバーとなっていくそのプロセス中にある学習のことです。
授業や何かしらの決まった講座を受けて得られる学習というよりかは、共同体の中に属し、その場で様々な人と相互作用しながら状況的に学習されていく点に着目をしています。
これまでは、上記にもあるように「実践共同体」をフィールドに研究が行われることが多かったのですが、そこでの研究成果を学校教育に持ち込み、学習者に様々な支援を行うことができるのではいか?という視点から、文献では徒弟的学習の学校への応用について、認知的徒弟制のモデル※1を参考にしながら、学ぶ知識、支援の方法、学習課題の順序付け、社会的文脈の構築などの観点から議論が繰り広げられています。

※1 「認知的徒弟制」とは、徒弟制の中にある学びを以下の4つの段階としてモデル化したもの
・徒弟が親方の作業を見て学ぶモデリング(modeling)
・親方が手取り足取り教えるコーチング(coaching)
・徒弟にできることを確認して自立させるスキャフォルディング(scaffolding)
・親方が手を退いていくフェーディング(fading)

今回のディスカッションテーマは「自然科学・社会科学・芸術領域における認知的徒弟制の事例を考えよ。」ということで、3つのグループに別れて、それぞれのグループのメンバーが様々な事例を持ち寄り、議論を行いました。
自然科学チームでは、大学の研究室などの場所を想定しながら、先輩-後輩間で徒弟的な学習が生じているではないかという議論が行われていました。ただ、自然科学らしい認知的徒弟制という点でオリジナリティを出すのが難しいよね、といった話もありました。
社会科学チームでは、教育実習にて、上記の認知的フレームワークをベースとした学習が行われているのではないかといった議論が行われていました。
芸術領域チームでは、美術領域では、モデリングが十分に行われないまま実践させることや、ダンスなどの領域では、ひたすらモデリングを行うことなどがあるなど、部分的に徒弟的に学習が行われているが、認知的徒弟制の4つの段階で熟達していくかは判断しにくいよね、といった議論が行われました。

このような事例を改めて考えてみると、私達が生きる様々なコミュニティの中にはあらゆる箇所で部分的に徒弟的な学習が行われており、そういった、状況的で、ある意味自然発生的な学習が繰り返されるうちに、いつか教える立場になっている、なんてこともあるんじゃないかと思います。
そうして教える立場になったときに、これまで自分が受けてきた指導の方法を鵜呑みにして行うのではなく、今回議論した認知的徒弟制のモデルという考え方を意識して実践してみると、よりよい教授ができるかもしれないです。

参考:
東京大学大学院情報学環 ベネッセ先端教育技術講座 BEAT, Beating 第16号「5分でわかる学習理論講座」第5回:実践を通した学習のなかで知識を獲得する〜「認知的徒弟制」:
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/archives/beat/beating/016.html

2020.10.23

【ラーニングプログレッションズ】文献とディスカッション内容の紹介(D4 平野)

D4の平野です。大学院生が、ゼミで扱っている英語文献とディスカッション内容を紹介するシリーズです。私からは、International Handbook of the Learning Sciencesの41章:ラーニングプログレッションズについて紹介します。

ラーニングプログレッションズとは、適切な教授が行われた場合に実現する、個々の学習テーマについての比較的長期にわたる概念変化や思考発達をモデル化したもの山口・出口2011, p.338)です。幼稚園児から大学生までのあらゆる学齢におけるスタンダードやカリキュラム、教授と評価のデザインのための仮説モデルであり、とくに数学と科学における学年を超えた学びのつながりを示すことを提案しています。

文献では、ラーニングプログレッションズの研究方法として、①インタビューや筆記テスト等の横断的アセスメントを行い、各段階の学習者の理解を精緻化する研究、②長期的なデザイン研究により学習者の理解の進展を追う研究、があるとされています。ディスカッションのテーマは、これら2つの視点から、大貫(2016)で述べられている「物質の変換」に関するプログレッションの研究の具体例を考えることでした。

↑「物質の変換」に関するプログレッション(大貫2016, p.43)

①横断的アセスメントチームは、水の状態変化(氷→水→水蒸気)について、身近な素材に関する実験を行った上で、学習者にインタビューすることで、概念の理解度を調査するアイデアを出してくれました。②縦断的デザイン研究チームは、状態変化は理解できているが化学変化が理解できていないレベルの学習者について、どのような教授を行えば適切な方向に理解を導けるかを、デザイン研究として行っていく案を考えてくれました。

私は社会人大学院生で、文献報告として本章を選んだのは、本務先で学力テスト等の大規模アセスメントの実務に携わる経験を長くしてきたことが挙げられます。その中で「AはできているがBはできていない」「両方できていない」「そもそもAとBの基準では判断できない」といった生徒の解答に数多く出会ってきました。

ディスカッションのまとめとして出てきたのは、ラーニングプログレッションズとは、ある意味で、学習科学によるカリキュラムへの挑戦だ、という意見です。科学・数学の何をどういう順番で教えるか、実際の子どもの理解の仕方をみて、研究をベースに、教え方やプログレッション自体も組み替えていくのが、ラーニングプログレッションズ研究です。

GIGAスクール構想により、コンピューターベースドテスティングの推進や、教育ビッグデータの活用がにわかに現実味をもって語られるようになってきていますが、ラーニングプログレッションズは、教育にエビデンスベースを導入するひとつの提案と言えるでしょう。

平野智紀/内田洋行教育総合研究所

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