2020.09.14

【文献とディスカッション内容の紹介】MOOCsと豊かな学習環境(D1 井坪葉奈子)

こんにちは、D1の井坪です。
今回も、小野寺さん、岩澤さんに引き続き、ゼミで扱っている文献とディスカッション内容について紹介したいと思います。

私が前回担当したのは、International Handbook of the Learning Sciencesの36章: Massive Open Online Courses (MOOCs) and Rich Landscapes of Learningでした。

MOOCsというのは、大規模公開オンライン講座のことで、
・何千、何万、時には何十万人が登録できるようにデザインされている
・インターネット接続があれば誰でも登録が可能
・レクチャー、フォーラム、学習者間の交流、テスト、受講証明書の発行などを含む
といった特徴が挙げられます。

ここ数年で、MOOCsのプラットフォームは増えてきており、東京大学もCourseraedXなどのプラットフォームで、複数のコースを提供しています。
また、日本のプラットフォームのひとつであるgaccoでは、山内先生が講師のお一人となっている「アクティブで深い学びのデザイン」が開講されています。

今回の文献を受けてのディスカッション課題は、「MOOCsのような非同期型オンライン学習、Zoomのような同期型オンライン学習が普及する中で、今後対面学習のあり方はどう変わっていくのか、その価値とともに議論せよ」というものでした。
グループごとに議論した結果、
・休憩時間での会話や、図書館、先生との雑談などから生まれる、偶発的な学習の生起(リソースとの出会い等)はオフラインの方がよいのではないか
・実習やスポーツ、演劇といった身体性を伴う学びの形はオンラインだと難しい
・ビジョンを共有したり、信頼関係を築くといったコミュニティ形成は対面の方がやりやすい
といった意見が出ました。
ディスカッションの中で、対面の方がよい点というのも多く出てきましたが、一方で、マスタリー・ラーニングのように各個人のレベルやペースに合わせた学習はオンラインの方がやりやすい等、オンラインの良さというものについても話し合うことができました。

MOOCsでは、年齢、職業、レベルもバラバラな人々が、それぞれに目的を持って好きなコースを受講することができます。
そこでのほかの学習者との出会いや、学びの自由度は、従来の「学校」における対面での学びとは違った良さがあると感じます。
何事においても対面がいいと思い込むのではなく、オンラインとオフライン、それぞれの良さを理解したうえで、必要に応じてハイブリッド学習の形で組み合わせていくことが、今後重要になってくるのではないでしょうか。

【D1 井坪葉奈子】

2020.08.28

【開催報告】STEAM教育に関する公開研究会「STEAM夜話 Vol.2 韓国と中国のSTEAM教育」

山内研究室では2020年4月より世界140ヶ国以上でSTEAM教育ソリューションを提供する Makeblock Co., Ltd. からご支援いただたき、STEAM教育に関する研究プロジェクトを進めています(プレスリリースはこちら)。


当プロジェクトでは「研究プロジェクトの中間成果をみなさまにお伝えしたい」「このプロジェクトを通してSTEAM教育に関心のある教育関係者のみなさまの輪を広げたい」という思いから「STEAM夜話」という公開研究会を開催しております。「アメリカのSTEAM教育」をテーマにした第1回の資料はこちらからご覧になれます。


このたび「中国と韓国のSTEAM教育」をテーマに「STEAM夜話 Vol.2」(8月26日)を開催しました。アメリカで誕生したSTEAM教育という概念が、韓国や中国の研究者・教育実践者にどのように受容され「ローカライズ」されていったのかを、論文や報告書のレビューをもとに発表しました。


また今回は韓国・晋州教育大学の孔泳泰先生にゲストとして参加いただき、韓国におけるSTEAM教育の現状をうかがいしました。参加者のみなさまとのディスカッション・質疑応答からも孔先生への質問がたくさん飛び交い、大変刺激にあふれる会となりました。参加いただいたみなさまありがとうございました。


当日発表したスライドと質疑応答の内容は下記にて公開しておりますのでご覧ください。


STEAM夜話 Vol.3は「日本のSTEAM教育」をテーマに開催予定です。また告知をいたしますのでご関心のある方はぜひお申し込みください。



スライドはこちらからもご覧いただけます。

2020.08.01

【問題解決と生産的失敗】文献とディスカッション内容の紹介(M1 岩澤直美)

M1の岩澤直美です。
今回はゼミで扱っている文献とディスカッションの内容を紹介したいと思います。
 
毎週ゼミでは文献担当者がInternational Handbook of the Learning Sciencesから1つの章を選び、レジュメを作り、解説を行います。その後、小グループに分かれてのディスカッションを通して理解を深める活動を行なっています。

私がはじめに担当した章は「第21章:Learning Through Problem Solving」でした。伝達モデル(Transmission model)では、学習直後は暗記ができていることを確認できていたとしても、その後、学習内容を実践の場で転用/応用することが難しいと言われています。問題解決型のアプローチでは、既有知識と新規の課題の関連性の発見や、学習内容が広く適応可能であることを理解を促進することが可能です。さらに、①学習者は総合的な概念理解をしながら問題解決能力と自己調整学習能力を磨くことができること、②学習者のモチベーション維持がしやすいこと、などが利点としてあげられます。

以下は、問題解決型のアプローチとして共通点の多い「問題基盤型学習(Problem Based Learning, 以下 PBL)」と「生産的失敗(Productive Failure)」について紹介します。

■「生産的成功」と「生産的失敗」について
「生産的成功(Productive Success)」は、PBLを通して、既有の知識や技術を使いながら問題解決の成功体験を得るためのデザインです。これを行うには適切な足場かけ(認知負担を低減)とファシリテーション(学習プロセスのガイド)が重要です。(Ertmer & Glazewski, in press; Hmelo-Silver & Barrows, 2008) 一方、 「生産的失敗」は、新しい概念を学ぶためのプロセスで、学習者は未習得知識が求められる問題解決に挑みます。当然短期的には失敗しますが、認知的失敗を情報として捉え、長期的には失敗の確率を減らすことが可能になります。このプロセスにおいても、ファシリテーターの継続的な支援が求められます。

■PBLと「生産的失敗」のプロセスと特徴
PBLにおいても、「生産的失敗」においても、学習者は問題解決を行う中で新たな知識を習得します。ここで学習した知識は、類似問題解決を行う際に活用できるようになります。(Transfer-appropriate processing theory) PBLでは、Direct instruction(直接指導)と比べ基本的な知識習得は劣る(Vernon and Blake, 1993)との指摘もありますが、知識応用能力に関しては高い学習効果が認められています。(Gijbels, Dochy, Van den Bossche, & Segers, 2005)

「生産的失敗」の学習プロセスにおいては、①矛盾と以前の知識との違いに気づき、②誤った解決法と正しい解決法の比較・対照を通して新たな学習内容の特徴を学習、がポイントになります。現段階では、中等教育から高等教育レベルの数学や理科を扱う実践研究が多い傾向にあります。新たな問題を出す際、問題に取り組む前に指示(認知的サポート)をもらう生徒よりも、指示を受けずに解を出す生徒の方が、概念理解が促進されたという結果が出ています。(Kapur, 2014; Loibl, Roll, & Rummel, 2016

■PBLと「生産的失敗」のデザイン
PBLも、「生産的失敗」も共同学習から始まりますが、違いは問題解決授業のデザイン及び全体を通した支援方法にあります。PBLは図1のように、①不良定義問題(Ill-structured problem)に取り組む、②小グループで問題について議論し、解を提案する、③指導者はガイドとして探求を支援するための足場かけを提供する、④振り返り&評価を活動の一部として導入しSelf-regulated learning(自己調整学習)を促進する(Savery, 2015)のような構成となっています。ここで重要なのは、複雑で不良定義な問題で、かつ学習者に関連する内容(モチベーションを保つため)に取り組むことと、十分なフィードバックがあることです。

図1 PBLのサイクル(p.212)


「生産的失敗」の構成は図2のように、共同作業などを通して ①既有知識の活性化と差別化をし、関連する既有知識を活用及び外化、②解法を比較して重要な特徴に気づく、③重要な特徴の解説を受け、④問題の特徴をよく考えて知識の定着と構築を行う、というものです。

図2 生産的失敗の構成要素(p.214)


■授業内ディスカッション
本章における議題は「表21.2(本投稿では図2)を参考にして、Productive Failureの事例を考えよ」というものでした。3グループに分かれ、20分程度で検討し、その後10分ほどで全体で共有するという流れです。グループディスカッションではもちろん議題通り事例を検討しますが、その過程で行われる知識構築や軌道修正でPBLと生産的失敗の理論への理解を深めていきます。例えば「地図を見ずに迷ってしまった経験から、地図の読み方を学習し、迷わず歩けるになった」という実体験の事例に対して、これは経験学習に近いものなので、生産的失敗のように「仕掛ける人」がいないと当てはまらないのではないか、との指摘がされました。

その前提を踏まえ、「インドネシアの牛乳に対する安全性・安心感を高める」という課題の事例において、学習者が既有の知識をふまえ「日本と同じように生産者の顔を表示する」を提案したところ、その解法がインドネシアでは望ましくない(失敗だった)ケースが紹介されました。この事例において、ファシリテーターが問題点とインドネシアの状況を指摘及び情報提供を行い、学習者はより適切な解法を提案することができたのだそうです。その他にも、統計を学ぶ授業において、同じデータセットを渡されて各自が相関分析をするという事例も挙げられました。それぞれが既有の知識に基づいて分析を試み、その多様な方法と結果を比較しながら、外れ値の扱いについてなどの違いがあることに気がつくよう、<重要な特徴への教師による注目促進>が行われるものでした。これを踏まえ、再度分析した結果を提出させることで、失敗からの再構築が行われた、という事例です。

「生産的失敗」は比較的新たな試みとして研究が進められていますが、うまく実践ができないと「失敗体験」として学習者のモチベーションや自信の低下などにつながってしまう可能性もあります。今回のディスカッションでは新たな事例の検討よりも、各自が経験してきた事例の分析が中心に行われました。今後様々な学習環境を観察・経験・実践する際、「何がおきているのか」をより深く理解するために、自分の引き出しのなかに理論に関する知識を持っておくことは重要だと感じました。


感染拡大も収まらないまま梅雨があけ、徐々に暑くなってきました。ゼミは夏休み期間中で、各自が論文のレビューや調査を進めています。来学期の授業がどのような形式で実施が可能なのか不明瞭ですが、引き続きブログを更新していきたいと思います。

M1 岩澤直美

2020.07.08

【エッセイ】オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド学習

新型コロナウィルスに関してはまだまだ注意が必要な状況ですが、緊急事態宣言が解除されてから、大学では秋に向けて対面授業の再開方法が話題になっています。
文部科学省の調査によると、5月時点で9割の大学が遠隔で授業を行なっており、今後対面授業を再開するとしても、対面での社会的距離の確保の観点からオンライン学習と対面学習を組み合わせる形態が検討されると思われます。
オンライン学習と対面学習を組み合わせることは、「ブレンド型学習(Blended Learning)」として1990年代から広く行われてきています。当初は対面と電子掲示板を組み合わせる形態が主流でしたが、ここ数年で「反転学習 (Flipped Learning)」という講義を映像化して宿題として見てきてもらい、教室では対面で応用問題を解くスタイルが増えています。

今回のコロナ禍におけるオンラインと対面の併用に関しても、今まで展開されてきたブレンド型学習や反転学習の知見を生かすことができると考えられます。ただし、これらの研究が行われた時期と前提条件が少し異なっていることにも注意が必要です。
1) 対面授業の制約
社会的距離を1mから2mとる場合、教室定員は2分の1から3分の1程度に低下します。教室数は限られているため、対面授業の規模や回数に制約がかかります。
2) 同期型遠隔システムの充実
数年前に比べると、Zoom, Webex, Google Meet, Microsoft Teamsなど、同期型で遠隔授業ができる環境が急速に充実しています。特にZoomはブレイクアウトセッションというグループワークができる機能を備えており、アクティブラーニングもある程度遠隔でできるようになっています。

このような状況の中で、教室での対面学習と非同期・同期型オンライン学習を組み合わせた学習形態について、ここでは「ハイブリッド学習 (Hybrid Learning)」と呼ぶことにします。
そもそもハイブリッド学習を導入する意義はどこにあるのでしょうか。今回のコロナ禍によって大学の9割でオンライン授業が行われたことにより、制約はあるもののオンラインでも授業できることは多くの教員が実感を持って受け止めていると思います。大講義ではむしろチャットで質問がたくさん来るようになったという事例も報告されており、必ずしも対面があらゆる状況で優れているとはいえません。
その一方で、いわゆる「Zoom疲れ」など長時間の遠隔授業での疲労を訴える声や、新入生が人間関係を作りにくいという声が学生から上がっているのも事実です。対面授業の方が「快適に」授業に参加でき、学習者が共同体をつくるのに向いているということも否定できないでしょう。さらに、Zoomによるブレイクアウトセッションは質疑応答程度のアクティブラーニングに対応することはできますが、実験・実習・フィールドワークや創造的なアイデアを出したりするようなインテンシブなセッションになると、対面に比べて十分な環境とはいえません。

私はアクティブラーニングを3つのレベルにわけて考えています。

アクティブラーニングの方法に関する3レベル

この図でいえばレベル1からレベル2の一部(獲得した知識の共有から簡単なグループワークまで)は、オンライン学習でも対応可能であると思います。一方でレベル2からレベル3(ジグソー法などの協調学習・問題基盤型学習・プロジェクト学習については、対面学習の方が、深い学習を実現しやすいでしょう。

これらのことから、いわゆる知識習得型の大講義については、現時点で急いでハイブリッド学習化する必要はないと考えています。非同期型のオンライン学習と同期型のオンライン学習を組み合わせ、例えば授業の1回目はYouTubeで教員の説明映像を見た後LMSで理解度確認テストを行い、2回目に問題演習をSlackとZoomを組み合わせて実施した上で、20名程度のグループごとにTAをつけてわからないことを質問してもらうなどの形式が考えられます。この方式は完全習得型の反転学習に似ていますが、授業内で完結している点が異なっています。現在多くの教員が評価の一環としてレポート課題を出しており、学生からは時間が足りないという意見がでているので、宿題には一定の配慮が必要であると思われます。
ハイブリッド化するメリットがありそうなのは、ゼミなどいわゆる演習形式の授業です。10名から50名程度まで参加者に幅がありますが、アクティブラーニングのレベル2から3を取り扱っているものが多く、深い学習の実現や、学習共同体の構築を考えると、対面とオンラインを組み合わせるコストを払う意味があるでしょう。ここでは私が考えた3つのパターンを紹介します。

1)対面・同期型オンライン併用型
まず、対面とZoomなどの同期型オンライン環境を併用し、シームレスに半数程度の参加者を対面・残り半数をオンライン参加というやり方が考えられます。
学習者が対面・オンライン参加を決められる場合、ハイフレックス(Hybrid-Flex)と呼ばれることもあります。
現在私は研究室ゼミをこのやり方でおこなっています。14名の参加者のうち8名が対面、残り6名がオンラインで参加します。対面参加者は発表者3名とスタッフ5名で、発表する学生が順番に教室に来ることになります。全員がノートPCを持ちZoomセッションに参加していますが、音声は教室中央に置かれたスピーカーマイクのみでやりとりしています。(各自のノートPCのマイクはミュート、音量はゼロにします)グループワークの時には、対面・Zoom混合の2グループに別れて、小グループ用のスピーカーマイク2台を使って議論します。Zoomのみの運用に比べると議論が活性化すると同時に、休憩時間の雑談も活発になるので、学習共同体の構築という観点から一定の効果があると考えています。

2) 非同期型オンライン−対面型
活用すべき知識を習得した上で、思考力などの高度な能力を育成する場合は、高次能力型反転学習に近い形のハイブリッド学習が考えられます。例えば授業の1回目はYouTubeで教員の説明映像を見た後LMSで理解度確認テストを行い、2回目に協調学習や問題基盤学習を対面で行う形式が考えられます。この方法は2014年にMOOCと対面学習を組み合わせて歴史的思考力を向上させる研究プロジェクトにおいて効果が確認されています。

3) 対面−非同期型オンライン−対面型
プロジェクト学習的な内容の場合、基本的な学習活動はオンライン上で行い、最初と最後に対面活動を入れるというやり方も考えられます。プロジェクト学習において一番難しい課題設定の部分を対面で行い、最後の発表会は学習共同体構築の観点から対面で行うという選択です。真ん中の部分はSlackなどで学習の進捗を管理し、コメントによって学習を支援します。このやり方は2012年から2013年に研究として行なった高校生・大学生・社会人をつないだキャリア教育プロジェクト「Socla」で行なって成功しています。

今回はハイブリッド学習について3つの方法をご紹介しましたが、今後バリエーションはもっと増えてくると考えられます。今後ワクチンの開発などでコロナ禍が収束するとしても、ハイブリッド学習は大学の学習基盤として残り続けるのではないでしょうか。個人的には大講義室の利用率が下がり、ラーニングコモンズやアクティブラーニングスタジオへの転換が進むのではないかと予測しています。引き続き、関連する研究活動を進めてまいります。

【山内 祐平】

2020.07.03

【文献内容とグループディスカッション紹介】

 修士課程2年の小野寺萌美です。
 本研究室のゼミの特徴のひとつである「文献発表とグループディスカッション」についてご紹介いたします。

 文献発表とグループディスカッションの概要を簡単にご説明します。文献発表では教育工学や学習科学、その他周辺領域の学問のメインストリームを体系的に理解することを目的としています。毎年2冊の英語文献を輪読しています。週ごとに担当者が担当する章の(1)文献の要約資料を作成、(2)担当章の理解を深める参考文献の紹介をゼミ生に共有することで全員の理解を促進します。その後、ゼミ生を複数のグループに分け、実践的な課題を元にグループディスカッションを行うことで実際の課題としての理解を深めています。

 今学期は”International Handbook of the Learning Sciences”という文献を輪読しています。前年度は”HANDBOOK OF RESEARCH ON LEARNING AND INSTRUCTION”を輪読していました。前年度の情報についてはこちらからご覧ください。
章選択には人がよく表れます。基本のスタンスとしては各ゼミ生の興味・関心に合わせた章を選択・担当し、参考文献と併せて資料を作成します。一方、一見全く関連しないような分野から章選択を行う方もいます。しかしそのような場合でも全く関連しないことはなく、根源のところで学問やテーマというものはつながっていることに気づかされ、驚かされることもしばしばです。

 ここから具体例を挙げます。私は先日の発表で“Simulations, Games, and Modeling Tools for Learning”という章を担当しました。一方、私の研究テーマは「大学生を対象としたフロー体験を促進する支援」ということで、一見シミュレーションやゲームといった分野とは重ならないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、特にゲームとフローの関係は強く、ゲームの楽しさをフロー理論を用いて分析的に評価しようとする論文も多く存在します。
 実際のグループディスカッションの課題としては「本文に記述されているテクノロジーベースのシミュレーションやモデリングツールを教育に取り入れたい立場のそれぞれの理論的前提から、シミュレーション・ゲーム・モデリングにおける学習を成立させる3原則を作成せよ」という課題のもとグループディスカッションを行いました。2グループでディスカッションを行い、そのそれぞれがグループを構成しているメンバーのこれまでの体験やバックグラウンドに基づいた多様なアイデアを出して課題を解決していこうとします。例えば、ファシリテーターとしての私の立場としての予想では、やはり、プログラミングなどといった、情報に関する学習活動においての事例をもとに原則を作るグループが多いと考えていましたが、あるグループでは美術教育や歴史学といった、いわゆる「文系科目」とみなされるような学問分野のバックグラウンドからシミュレーションや認知的葛藤についての考えをまとめており、ファシリテーターの想像を上回る多様な意見が提出されました。このような「予想に対する興味深い裏切り」はファシリテーターを行っているとしばしば起こります。私もこれまで複数回ファシリテーターを行ってきましたが、自分が事前に予想していた答えと同じものになることはまずありえませんでした。これは多様なバックグラウンドを持つ我々の研究室であるからこそなしえる活動なのだなと、そのようなシチュエーションに遭遇するたびに感心します。

 次回からも引き続き我々の学習活動の紹介を行いますのでご興味ある方はチェックしてみてください。

【M2 小野寺萌美】

2020.06.20

【研究計画】デザイン系産学連携プロジェクトにおける学生の経験と学習成果に関する研究

修士2年生の増田です。私は、デザイン科の学生たちと企業との産学連携プロジェクトを研究対象にしています。昨年、入学してきた際は、美術大学で行われている産学連携・域学連携などの学外連携という、かなり広い範囲を対象としようとしていましたが、研究の焦点化のため、「デザインを学ぶ学生」と「企業」との産学連携活動に対象を絞りました。デザイン領域での産学連携プロジェクトでは、学生が制作の主体になり(特許庁 2011)、例えば新商品の開発提案や将来的なサービス提案などの真正性の高い課題に対し、グループや個人で調査・制作していきます。
学生・教員・企業と、産学連携プロジェクトはステークホルダーが多く、また企業の課題に取組むことから、単に教員からの教育的な評価だけで成果を捉えられない部分があります。また、活動が多岐にわたり、可変的で教員が全てをコントロールできないという指摘もあります(奥貫 2015)。こういった「学生と教員」だけでなく、そこに「企業」(または地域など)が入ってくるような活動を、どのように評価したらいいのか?ということに疑問をもち、昨年1年間も評価の観点から研究計画の検討を進めてきたのですが、研究の方法として実際に学生を集めての実践を予定していたことから、この新型コロナウィルスの影響によりそれが難しくなってしまい、根本的に研究の方向性を変えざるを得ない状態で、現在はその立て直しに苦戦しております。昨年までの計画では、活動の「評価」に着目していましたが、現在は「学生の経験と学習成果の関連」に着目して検討をしています。

デザインの産学連携プロジェクトに関する先行研究は、決して多いとはいえません。特に国内では、様々な大学で実施はされてはいるものの、活動自体が研究対象になることはごく稀で、多くが実施報告にとどまっています。
奥貫(2015)は、PBL(project based learning)には2つの成果があると述べています。1つ目が「学生自身の学習意欲の向上、諸能力や成長実感の獲得に関わる学習成果」、2つ目が「プロジェクトとして達成した成果(成果物)」です。ものづくりを中心に据えたデザインや美術の世界では、常にこの成果物が議論の的であり評価の対象とされ、学生がどのような能力の獲得実感を得たのかに関してはあまり議論されてきませんでした。デザインの産学連携でも、例えば、学生の提案した作品が実際に製品化された、ということが大きな成果として報告されることは多いです。デザインの産学連携を取り上げた上野山(2002)の報告では、このように自分たちが作ったものが実際に製品化されたことを実感したことが、学生の専門職としての予期的社会化プロセスの1つとして捉えられています。学生の獲得能力目標について、デザインの産学連携に統一的な目標があるわけではありませんが、多くが「真正性の高い課題を企業の方と関わりながら制作することにより、デザインの実務への理解を深める」というのが共通する産学の教育目的だと言えます。しかし、それは具体的にはどういう能力なのかに関してはまだ議論がされていません。
一方で、産学の活動を通して学生たちがどのような経験をするのかについて、ロンドン芸術大学は企業とのプロジェクトに参加した学生へのインタビューをレポートとしてまとめています(Sabri n.d.)。この調査では、参加者たちは、例えば企業とのやりとりからインスピレーションを受けたり、普段の自分のやり方と違うやり方を試すことができたことが有益だったというポジティブな意見を話す一方で、最終選考に選ばれなかった学生はひどく落ち込んでしまったり、もう一度参加前に戻れるのであれば参加しなかった、など、ネガティブな感想も報告されています。デザイン科の学生たちは多くが卒業後クリエイティブ職に就くことを望んでいるわけで、実社会の課題に企業の人と取り組めるというのはとても意義ある活動であることは間違いないですが、まだ自身の作風を構築途中の学生に企業のニーズに合わせて制作させることにはある種の矛盾があるという指摘もなされています(Sabri n.d.)。このように、教育的に何を目指すのかということと、学生がどのようなことを経験しているのか、またそれらがどうつながっているのかについて応えるような研究を目指しています。
プロジェクトは授業のなかに組み込まれて単位が出るものや、有志を集めてのインフォーマルなものなど幅があり、形式で括ることは難しいですが、それでもいわゆる基礎的な知識や技術を教えるというよりは、それを社会で活かすための応用編が産学連携プロジェクトであり、そこで集まった人や生まれたものを活かして進めていく可変的な動きができることがその醍醐味であるとも言えます。また、これまで教育の観点から話してきましたが、あまりに教育的な目的を追求してしまうと、企業側のメリットとのバランスが崩れてしまいます。学生や大学と企業、双方の目的を達成するため、もしくはより高め合えるようになるには、どのような運営やプログラムの方法が望ましいのか。将来的な実践に寄与するような研究にしていければと思っています。

【増田悠紀子】

[参考文献]
Sabri,D. (n.d.)Students' Engagement in Industry Projects final report [https://www.arts.ac.uk/__data/assets/pdf_file/0028/44785/Students_Engagement_in_Industry_Projects_final_report_PDF_297KB.pdf]
上野山達哉(2002) 産学共同研究が学生の予期的社会化に与える効果−(株)大林組・多摩美術大学による都市風害抑止装置開発プロジェクトの予備的事例研究−. 商学論集, 70(2)
奥貫麻紀(2015) 産学・地域社会連携による課題解決型学習における 学習成果 : 定性的分析による一考察. 関西大学高等教育研究, 6:31-44
特許庁(2011)デザイン産学連携の多様性を踏まえた契約の在り方に関する研究[https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota/daigaku-chizai.html#anchor11design]

2020.06.20

【研究計画】学習者の学習対象の決定を支援する学習環境システムの開発と評価 (M1 猿田尚輝)

こんにちは。山内研M1の猿田尚輝と申します。
3月に筑波大学の情報学群というところを卒業して、今年度から山内研に所属しています。
学部時代は情報技術を学んでいましたが、自分自身の学習や当時の塾講師のアルバイトでの経験から個人の学習や興味を持つようになり、修士からはフィールドを移して山内研究室でお世話になっています。

修士での研究では、個人が学習していく中で、新しく学びたいと思えるような対象の発見を支援できるようなシステムの開発と評価を行いたいと考えています。

このような研究テーマを設定するに至ったきっかけとして、大きく2つあります。
一つは、自分自身の学習の経験によるものです。総合大学に入学した後、最初のうちは初年度の教養科目で専門に限らず各分野の入門的な授業をいくつか受講していました。学年が上がってもその延長で学習を続け、自分の専門の講義以外にも他の学部の授業をいくつか受講していきました。
当時は何か一つのことを学ぶと、新たな学びたいことがまた見つかって、世界が大きく広がっていくような感覚にワクワクしていました。
(さらに振り返ってみれば、このように色んな分野の学問を大学で学びたいと思っていたのは、浪人していた頃に通っていた予備校の先生方からの影響があったからかもしれません。そこでの授業は、どの教科の先生方も予備校としての本分である受験対策を行いながらも、それぞれの教科の大学での学びへのモチベーションを高めてくれるようなものでした。)
このような学習ができたのは色んな学部が一つのキャンパスに集まっている総合大学で、簡単に他の学部の授業でも受けに行けるような環境が大きかったのかもしれません。

2つ目のきっかけは、教える側の立場に立ってみると学習者が学びたいことが自分自身でわからないという状態にあるときにその発見を支援してあげることに難しさを感じたことです。
学部時代にアルバイトとして務めていた個別指導の塾では、高校3年生の生徒を受けもっていたのですが、その子は大学でどの分野に進めばいいかわからない、と進路選択に悩みを抱えていました。
そのような悩みを打ち明けられて話を聞いてみるも、高校時代理系だった私に対してその生徒は文系だったということもあって、全くどのようにアドバイスをしていいのかわかりませんでした。また、仮にその生徒が理系あったとしても志望が情報系などでなければ建設的な助言はできなかったと思います。
このように何を学びたいのかという問題に関しては、関心の近い分野について詳しい人に聞くなどでない限り、助言する側には広範な知識があることが求められることと思います。
さらにその現場が個別指導の塾ではなくて例えば高校のクラス担任のように一人の教師が複数の生徒の相談に乗る必要があるとき、全ての生徒に対して適切に助言することができるでしょうか。

何を学びたいのかということの決定においては、自分自身の興味はなんなのかという問題と向き合うことが求められます。その部分をシステムを用いて支援することができないか、というのが本研究の問題意識です。学部時代に学んだことを武器として生かしてシステムの開発を行い、それを評価するということを修士の2年間で行っていきたいと考えています。

現在は、既存研究のレビューをしながら上述したような学習の仕方はどのようにすれば支援できるか、という調査を進めています。

【猿田尚輝】

2020.05.29

【開催報告】STEAM教育に関する公開研究会「STEAM夜話 Vol.1」

山内研究室では2020年4月より世界140ヶ国以上でSTEAM教育ソリューションを提供する Makeblock Co., Ltd. からご支援いただたき、STEAM教育に関する研究プロジェクトを進めています(プレスリリースはこちら)。


このたび「研究プロジェクトの中間成果をみなさまにお伝えしたい」「このプロジェクトを通してSTEAM教育に関心のある教育関係者のみなさまの輪を広げたい」という思いから「STEAM夜話」という公開研究会を開催することになり、5月28日に第1回を開催いたしました。


会では研究プロジェクトでこれまで進めてきた「アメリカのSTEAM教育」に関するレビュー成果をご紹介したほか、50名を超える参加者のみなさまのグループディスカッションを交えながら質疑応答を行いました。実践方法や評価方法などについて活発な議論が交わされ、大変刺激にあふれる会となりました。参加いただいたみなさまありがとうございました。


当日発表したスライドと質疑応答の内容は下記にて公開しておりますのでご覧ください。


STEAM夜話 Vol.2は「韓国・中国・台湾のSTEAM教育」をテーマに開催予定です。また告知をさせていただきますのでご関心のある方はぜひお申し込みください。



スライドはこちらからもご覧いただけます。

2020.05.27

【研究計画】「一皮むけた経験」を通じた若手人材の学習プロセスに関する研究(M1 倉持裕太)

こんにちは。今年度から山内研に所属しております、M1の倉持裕太と申します。

学部時代は比較教育学をフィールドに、教育政策の国際比較などを中心に研究を行っていましたが、その研究の過程で「反転授業」に出会い、より深く研究したいと思い、山内研にお世話になることになりました。

とは言いつつ、現在は、タイトルにもある通り、社会人を対象とした経験学習について研究をしています。
学部時代の長期インターン経験、大学院入学までの社会人経験の影響もあり、入学までに興味関心が大きく変わってしまい。。。色々とご迷惑をおかけしながら、無理を言って研究テーマを変更させてもらいました。

さて、研究テーマについてですが、今後取り組んでいきたい関心事は
①「若手人材が業務経験からどのようなプロセスを経て学びを得ているのか」
②「学びを得るプロセスの中でどのような支援が必要なのか」
といったことです。

①、②を明らかにしていく上でキーワードとしているのが、「一皮むけた経験(Quantum leap experience)」と呼ばれるものです。具体的には、プロジェクトの参加、異動など、仕事人生における大きなイベントのことを指します。
今後、「一皮むけた経験」をした際に、当事者はその経験をどのように学びに変えて行くのかといったことを解明し、且つそのプロセスの中で、どのような支援が必要なのかを検討していきたいと思っています。

特に今は②に関心があります。①については、先行研究を見ていく中である程度明らかになってきていることがわかった一方で、②については、提言はなされているものの、組織に介入して支援策の実験を行ったりする例というのは、ホワイトカラーを対象にした研究ではあまり見られません。

その支援策について、教育工学の研究方法やアイディアを活用し、これまでとは別の視点から切り込むことで、新規性のある研究をしていけたらいいな〜と考えているところで、今ブログを書いています。
研究を進めていく中でまた変わっていくと思いますが、少しずつ前進していけたらと思います。

上記テーマに取り組む個人的な背景としては、私も人生の中で「一皮むけた経験」に遭遇したことがあるのですが、一皮むけきれなかった過去があります。一皮むけるための方略、または他者からの支援について検討することにより、これから社会に出ていく人の道標になるような研究にしていきたいと思っています。

4月に新しいテーマへ変更し、0からのスタートで読まなきゃいけない文献が山積みですが、テーマ変更を受け入れてくださった研究室のみなさんに感謝しながら、一歩ずつ取り組んでいければと思います。

M1 倉持裕太

2020.05.26

【研究計画】個人特性に着目した社会情動的スキルを育成する学習環境に関する評価(D2中野生子)

皆さん、こんにちは。D2の中野です。
社会人学生も4年目に突入しました。仕事では、2019年末より文部科学省が推し進めるGIGAスクール構想の実現に向けて、教育現場にテクノロジーを広める活動をしつつ、夜と週末は研究者として社会情動的スキルの研究をすすめています。
理解ある職場と、社会人大学院生をあたたかく受け入れてくれる研究室のおかげで、二足のわらじ生活もだんだん板についてきました(笑)博士課程は長期履修(社会人大学院生等向け制度で、博士課程については3年分の学費で最長6年かけて博士号取得を目指すことが可能)を活用し、5年かけて博士号の取得を目指しています。フルタイム学生と比較すると研究のスピード感がどうしても遅くなってしまいますが、仕事をしながら研究できるというのはかなり魅力的な制度です。このような制度があるおかげで、情報学環にも働きながら修士号や博士号取得を目指す社会人大学院生が少なくありません。

さて、私の研究テーマですが、過去に何度かBlogで紹介したように、「社会情動的スキル」を対象としています。日本ではSEL(Social Emotional Learning、社会性と情動の学習)はまだまだ馴染みがない方も多いと思いますが、欧米ではここ30年近く社会情動的スキルやSELに関する研究がなされており、アジアでもシンガポールやオーストラリアは教育省が国の教育政策に取り入れるほど重要なコンピテンシーとして注目されています。

博士課程では、修士課程で行った研究と、博士課程で行う研究の2つを軸にして博士論文を執筆します。
修士課程で行った、UWC ISAK Japanのサマースクールを研究対象とした論文が、先日、日本教育工学会(JSET)に採録されました。13日間の短期宿泊型の学校外学習で社会情動的スキルが変化すること、その変化が個人特性と関係していることを実証的に明らかにした研究です。ありがたいことに、JSET論文誌の2020年4月のアクセスランキングにランクインしたようです。改めて、研究に協力くださったISAKや参加者の皆さま、研究を支えてくださったYlabの皆さまに感謝です。
博士研究では、当初、プログラムの開発研究を実施予定でした。様々な先行研究を読むにつれて、エビデンスベースドのSELの開発ももちろん重要ですが、エビデンスベースドのSELの効果に関するメカニズムまでは明らかになっていない(河本 2017)という課題や、また実践者の違いによって効果が異なる(DURLAK 2016)ため、実践者側の要素も明らかにする必要があるという課題にアプローチすることが、有効なSELを開発・実践する知見になると考え、プログラム(修士研究を軸に肉付け)と教師の支援(博士研究)の軸で、今後のSEL開発の前提となる知見を生み出すための調査研究としてすすめることにしました。加えて、プログラムの経験と成果について,参加者の個人特性の影響を扱った研究が必要である(HURD and DEUTSCH 2017)という指摘から、両研究を「個人特性」という切り口で分析していこうと思っています。

最後に個人の研究とは別に、前回Blogでもご紹介した、MITメディアラボとの共同プロジェクト(Scratchを使ったクリエイティブラーニングの発想を生かした授業のあり方に関する研究)の研究成果を発表しました。クリエイティブラーニングの発想を生かしながら、日本の小学校で実行可能なプログラミングを取り入れた授業のあり方とそのデザイン原則について、こちらで詳細をご紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください!

【中野生子(Seiko NAKANO)】

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