2011.12.03

【山内研メンバーの一日】博士課程専用ライフスタイル

山内研の大学院生の日々の暮らしを紹介する【山内研メンバーの一日】シリーズ、最終回は博士課程2年目の池尻良平がお送りします。

 時間が大量にある院生にとって、日々の研究のライフスタイルを確立することはとても大事なことです。先にざっくり話してしまうと、僕は大学院に入ってからこのスタイル確立を3つ試してみました。1つ目は「突貫工事スタイル」、2つ目は「研究日確保スタイル」で、どちらも失敗したスタイルです。ただこの失敗自体は良い経験で、試行錯誤の結果4年目にしてようやく最適な「博士課程専用ライフスタイル」が見つかりました。

 ちょっと長いので、時間のない人は(3)博士課程専用ライフスタイル だけ読んでもらえればと思うのですが、院生の人には失敗例もぜひ読んでほしいなと思います。                                                                                                
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(1)修士課程の頃の失敗:突貫工事スタイル
 僕の所属する東京大学大学院学際情報学府は、それはそれはハードな授業が多いところで、例えば僕はM1の頃に週8コマ取ったのですが、発表に向けた文献調査やグループでのミーティング、プロジェクトの準備や実施などが重なってパンクしそうになりました。しかもそれとは別に、自分の研究を進めないといけません。そこでかろうじて編み出したスタイルが「突貫工事スタイル」でした。

 このスタイルはどういうものかというと、山内研では大体1.5ヶ月に1回ゼミでの発表があるのですが、最初の1ヶ月間は授業やプロジェクトの対応をしつつ文献や論文をひたすら収集し、ゼミの2週間前になったら睡眠時間を削ってでも一気に読みまくるというやり方です。元々高校でもこういうスタイルで勉強していたので特に体を壊すこともなく、まあ研究もそれなりに進捗していたので、このモデルを2年間続けていました。

 では、なぜこのスタイルを失敗と判断したのか。それは修論を書き上げた時のことです。僕の代にはとても優秀な同期が2人いて、2人とも尋常じゃないくらいのコツコツタイプだったんです。で、細かく話すと長くなるので結論だけ書くと、同期は修論の最後の「課題と展望」の厚み・深みがすごかった。僕の場合、背景や先行研究のレビューはそこそこ厚かったものの、最後に出した知見をメタな領域に組み込んで考察する「課題と展望」で使える文献が不足気味でした。一応修論自体は優秀賞をもらえたのですが、最後の「課題と展望」で弾切れしたのが悔しくて、何で2人はあんなに底力を持っていたんだろうと考えていました。

 それでわかった原因がライフスタイルの違いでした。限られた時間で一気に読む突貫工事スタイルの場合、時間に余裕がないことが多々あるのでそれに連動して読む文献も関連性の高い文献に偏ってしまい、読んだ文献に「余裕」がなくなってしまうことが多々ありました。一方同期の2人はコツコツ読んでいたので、読んでいる文献にも余裕が生まれたのではないかと考えました。

 この仮説が正しいかどうかはさておき、ちょうど博士課程に上がることが決まった時だったので、このままじゃ近視的でダメな研究者になると思い、突貫工事スタイルを捨てることにしました。


(2)博士課程1年目の頃の失敗:研究日確保スタイル
 博士課程に上がると授業も週1コマになり、ほとんどの時間が自由に使えるようになった一方、自分でライフスタイルを確立しないと本当にグチャグチャになるなとも思っていました。そこで取ったスタイルが「研究日確保スタイル」です。

 よく先輩や先生から「論文を読んだり自分の研究について考える時はまとまった時間が必要だよ。だから、週に2、3日は研究日を作った方が良い」ということを聞いていたので、特定の曜日を3つ選んでその日は一切用事を入れずに研究に充てるというスタイルを試してみました。

 ところが最初の頃はうまく機能していたものの、半年も経つとこのスタイルも失敗だなと判断するようになりました。その理由は簡単で、研究日なんて作れないからです。

 僕の場合、研究の裾野を広げるために勉強会を複数抱えたり、プロジェクトに参加したり、先生方と面会をすることが多かったのですが、大体自分が考えている研究日とバッティングするんです。で、相手が自分より目上の人だったり、多忙でその日しか予定が空いていない人だったりした場合、断れないじゃないですか。その結果、研究日は細かい予定で分断されていき、その合間の時間もメールのやり取りでさらに分断されていくという現象が増えてきて、徐々にまとまった研究時間を確保できなくなりました。

 一応、博士課程1年目の間はこのスタイルを続けてみたのですが、冬頃にはほとんどこのスタイルが機能しなくなり突貫工事スタイルに戻りつつあったので、この研究日確保スタイルも捨てることになりました。


(3)博士課程専用ライフスタイル
 ここまで失敗して気付いたのが、博士課程は普通のライフスタイルじゃダメだということでした。ちょっとここで、院生ならでの問題点と研究を進めるのに必要なことをまとめてみます。

院生ならではの問題点
 ・予定が変動的に入ってくる
 ・その結果、特定の曜日を休みにできない
 ・週末にイベントがあることが多く、疲れを取れる日が減る

研究を進めるのに必要なこと
 ・コツコツ研究できる日を作る
 ・まとまった時間を確保する
 ・疲れた時に休めるようにする

 こんな感じでしょうか。ところが、ちょっと考えてみてほしいのですが、上の問題点を克服しつつ、下の必要なことを達成するのは以外と難しい。そこで自分なりに色々と考えてみた結果、博士課程専用のライフスタイルを作るには「一日の単位を変える」ということと「平日と週末の概念を捨てる」ことが必要だなと感じ、「午前中は研究する日」、「午後は変動的な予定に対応する日」にし、「1週間のうち午前と午後それぞれの好きな2回を週末にできる」というルールを作ってみました。つまり、1週間を倍の日数に見立てて、いつでも週末にできるというスタイルです。

 わかりにくいかもしれませんが、例えばこんな感じの1週間になります。

(日)午前中:平日 午後:週末
(月)午前中:平日 午後:平日
(火)午前中:週末 午後:平日
(水)午前中:平日 午後:平日
(木)午前中:平日 午後:平日
(金)午前中:週末 午後:週末
(土)午前中:平日 午後:平日

 このうち「平日」になっている午前中はほぼ固定で研究をして、午後はほぼ固定で変動的な予定に対応するというスタイルです。

 博士課程2年目になってからこのスタイルを試してみたのですが、今のところ特に問題も起こらず、毎日研究も進捗し、体調も壊さないとかなりうまく機能しています。ということでようやくですが、僕の最近の1日を紹介したいと思います。


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7時〜9時
 起床。この時点でしんどいなと思ったら、その日は週末扱いにして午前中はたっぷり寝ます。それ以外の時は朝ご飯を食べてからメールをチェックし、今日読む文献を持って8時半頃に家を出ます。


9時〜12時
 大学近くのカフェに行ってコーヒーを注文し、大体英語論文3本か本を読みます。研究の時期によっては、教材のデザインやデータ分析をすることもあります。
 写真だとMacを置いていますがこれは記録用で、この時間はアンプラグドにしてTwitterもFacebookも極力見ないように心がけています。この時間は好きなBGMを聞きながら進められるし誰にも干渉されないので、一日で一番好きな時間だったりします。

cafe_ikejiri.png


12時〜19時
 お昼ご飯を食べたら研究室へ。ミーティングなどはほぼ午後に集中させているので、13時から19時まではミーティングをしたり、自分の研究とは直接関係がないけど読まないといけない資料に目を通したり、発表資料を作成したり、メール対応をしたりします。大体土曜日はシンポジウムやイベントに参加しています。
 特に用事がない時はメール対応だけして図書館に行って研究を進めたり、気分が乗らない時は週末扱いにしてフラッと買い物に行ったりします。


19時〜
 夜は基本的に自由時間にし、ストレスを発散させるのに充てています。大体誰かと飲んでいる気がしますが、面白い本と出会えた時は夜にまたカフェに行ったりもします。


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 これで週の研究時間が午前だけで最低15時間、午後の分と合わせると合計25〜30時間くらい確保できて、それとは別に研究会や発表の準備、ゼミ文献を読んだりもできるようになりました。それに加えて、何曜日でも予定を受け入れられるし、研究の邪魔をせずに他のタスク処理も一括して行えるし、土曜日が毎週潰れてもちゃんと休むことができます。

 後、これが大事なんですが、このスタイルはどんな予定が入ってきても柔軟に対応できるし、自分の体調に合わせることもできるので、「しわ寄せ」が減ってストレスがほとんど溜まらなくなりました。おかげで研究する時はいつもポジティブな感情で臨めるので毎朝カフェに行くのも楽しみになり、9ヶ月間このスタイルをほぼ維持して走り続けられています。修論の時の悔しさを繰り返さないよう、良い博論が書けるまでこの調子で走り続けたいなと思っています。


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 ということで長くなりましたが、大学院のライフスタイルが安定しない人やなかなか研究時間を作れない人にとって、ちょっとでも参考になれば幸いです。

おしまい。

[池尻 良平]

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